042
純白のスーツは、少女の決意と黒猫に染まる… ◆w9XRhrM3HU
「やあ、猫(ねこ)ちゃん」
「げっ!」
殺し合いの場であるとは思えぬほど、軽々しい声でその男は話掛けてきた。
白いスーツを優雅に着こなし、飄々とした白人男性。
杏子は警戒よりも先に呆気に取られてしまう。
対しては猫(マオ)は思わず嫌そうな声をあげてしまった。
「始めましてキョウコ。私はジャック・サイモン、ジャックとお呼びください」
名簿にそのような名前はない。
清清しいまでの偽名。
少し頭が回れば、名前が記載された名簿がある以上、その名簿内から名前を使うという考えに至るはず。
そこまで考えられない馬鹿なのか、単に馬鹿にされているのか? 杏子は舌打ちをし、槍を精製し構えた。
「悪いけど、私はこの殺し合いを勝ち抜く。
だから、あんたはここで殺す」
「おやおや、それは怖い。
ですが貴方と事を起こす気は私にはない。ここは見逃してもらえませんか?
君のような、悪ぶったお子様にそんな物騒な物は似合いませんよ」
「あ?」
あえて敬語を使い、余裕ぶる。
人を逆撫でさせるような話し方だ。
しかも、人をお子様扱いというオマケ付き。
こっちは、お前の倍以上は犯罪も犯してる。殺人染みたこともだ。
それを知らずに、のうのうとよく言えたものだと杏子は思う。
ジャックの挑発するような態度はナリを潜めない。
杏子の苛立ちが増す。あの男はこの槍が見えていないのかと。
一見、無防備なあの様子で何が出来るというのか。あるいは、武器など必要ない魔法少女や契約者の類か?
「おい、杏子。あいつは―――」
「らぁっ!」
猫の忠告も聞かず、槍を携え駆け出す。
一度の踏み込みで距離を詰め、一気に肉薄する。
ジャックは何も動じない。ただ笑みを浮かべたままだ。
「うぜえ……」
胴へ向かい槍の刃を薙ぎ払う。
あの高そうな純白のスーツは一気に真紅へと染まる。
ジャックの苦痛と後悔の入れ混じった悲鳴と共に。
だというのに、やはりジャックは余裕を崩さない。
死ぬ間際まで、こちらをおちょくるつもりか。
「なっ!?」
槍に手応えを感じた。
だが、それは獲物を切り裂いた鈍い感触ではない。
その逆。獲物を仕留め損ね、攻撃を防がれた硬い感触。
甲高い金属音が杏子の耳を刺激する。
「良いだろうこれ? インクルシオと言うらしい。
流石、日本のコスプレ文化だ。世界の最先端を行ってる」
鎧だ。
杏子の槍が届くより速く、ジャックの全身が白い鎧に包まれていた。
まさか、これがジャックの能力なのか? だから、あんな余裕を保っていられたのか?
杏子は冷静に思考し追撃を避ける。
相手が未知の能力である以上、一旦距離を起き様子を見るべきだ。
「? こいつは……!?」
距離を取るべく、足に力を入れ、動かない。
正確には膝までは動く、だが足首より先が冷たさと同時に地面に張り付いたかのように動けない。
杏子は咄嗟に足元を見た。
「凍ってやがる?」
鎧を解いたジャックが、空になったペットボトルを見せ付けるように弄ぶ。
「ちゃんと、猫ちゃんの忠告を聞いておくべきだったな」
杏子はジャックを睨み付ける。
足さえ動けば、今にもあのムカつく顔に顔面に一発叩き込んでやりたいぐらいだ。
槍を叩きつけ、氷を削る。
それを見たジャックが軽く口笛を吹いた。
初めて笑みが消えたが、杏子は全く嬉しくない。
「見た目より、ワイルドだな君は。
頑張りたまえよ。ただ、先に言っておくと君の足は表面しか凍らせていないとはいえ、無理に割ったりすると足ごと粉々になりかねない。
落ち着いて慎重にすることだ」
そう言うと、ジャックは手に黒い謎の物体を掴み上げた。
いや、あれは謎の物体なんかじゃない。
生きてジタバタして耳が二つ生えているあれは。
「ま、猫!」
「助けてくれー!」
「これは戦利品として貰って行こう」
「返せ! 私の支給品だ!」
「正確には君に支給された、だ。支給品を奪ってはいけないとは誰も言っていない」
「ふざけんな!」
「そうそう、それからもう一つ。いい子はもうおねんねの時間だ。
悪戯も大概にしといた方がいい。手痛いお灸を添えられる前にね」
「て、っめえええ!!」
苦し紛れに槍を投擲するがあっさりかわされる。
ジャックは呆れた顔を浮かべながら口を開いた。
「経緯や本質は違えど、君も契約を結んだ者だろう? なら、もう少し合理的に考えたまえ」
「何!?」
「この殺し合いに乗ってしまったことだよ。あの男の言葉を鵜呑みなど良く出来たものだ」
「はっ、合理的に考えれば、殺し合いに乗るしかないだろ!
こんな爆弾まで首に嵌められてんだぞ!」
「やれやれ、お子様は短絡的だから困る。それは合理的とは言わない。諦めと言うものだキョウコ」
ジャックは「困った子だな」と言いたげなジェスチャーをすると、そのまま杏子の前から姿を消した。
「くっそ、あの伊達男、次は絶対殺す!
……猫も待ってろ」
苛立ちが募る。
良い様にあしらわれ、支給品まで奪われた。
情けないことこの上ない。
しかも、その支給品はこの場で出来た唯一の相棒とすらいえる存在だ。
やはり奪われる前に、奪うしかない。この殺し合いも同じだ。
猫どころか、今度は命まで奪われてもおかしくない。
ジャックは何故か止めを刺さなかった。こちらを舐め腐ってるのか、合理的に考えて脅威にならないと決め付けたのか。
何にしろ、止めを刺していかなかった事を必ず後悔させてやる。
「やってやるさ……。あいつ、ジャックとか言ったよな。
何が合理的だ。殺し合いに乗る事が、私のほうが正しいって事を証明してやる……」
強く杏子は決意し、氷を削る作業に戻る。
後は、ガツガツと空しく槍と氷がぶつかり合う音だけが響いた。
□
「さて、猫ちゃん。
二人っきりになったね」
「その言い方は止めろ、気色悪い」
ジャックに摘まれたままの猫は溜息を吐く。
よりにもよって、何故この男と遭遇してしまったのか。
ジャック・サイモン。
この殺し合いの名簿において、
ノーベンバー11として名が記された契約者。
MI6最高のエージェント、だった男だ。
彼は死んだ。
自らの上司の思惑。契約者を全て消すという計画に気付き命を狙われ、その上司を道連れに死亡した。
最後の対価を払わぬまま……。
それがノーベンバー11の最後の記憶だ。
「と、つまりそういうことでね。
私は生き返ったのか、ここはあの世なのか。君に聞きたかったんだよ猫ちゃん」
「安心しろ。前者だ。
そんなこと杏子に聞けばてっとり早いだろうに」
「いやいや、まだ聞きたいことがある。それも君にしか聞けないことだ。
私の死後。何故、ジュライと行動を共にしていたのか教えて貰おうか」
「なんでそれを……」
「私が何故、キョウコの名前を知っていたと思う? 君達をつけ、話を盗み聞きしたからさ。
何度か見失いかけたがね」
ノーベンバー11と遭遇するもっと前。
猫は杏子と共に
参加者名簿を確認していた。
その際、猫は黒と銀の他に共に旅を続けた
蘇芳・パブリチェンコ、ジュライの名を口にしている。
それを聞かれてしまったのだろう。
元々はジュライはノーベンバー11のチームに居た。
それを知れば、ノーベンバー11が興味を持つのは当然と言える。
「私が死んだ後、何があったか? 蘇芳・パブリチェンコとは何者か?
何より……」
声が強張る。
杏子に対して見せた余裕と飄々さは消え、そこには強い怒気が込められていた。
「エイプリルはどうした?」
エイプリル。
ジュライと同じく、ノーベンバー11のチームだった女性だ。
ノーベンバー11の死後も彼女はジュライと行動を共にするだろうことは予測できる。
だが、猫はエイプリルに関してはノータッチだった。
「それは……」
猫はノーベンバー11の死後二年後の出来事を全て話し出した。
同じチームに居た銀がイザナミへと覚醒したこと。
その事件が絡んだ依頼で、ロシアにおいて黒がエイプリルを殺害したこと。
その後、黒、蘇芳、猫、ジュライが行動を共にし旅を始めたこと。
全ての出来事を猫は正直に話した。
余談として、モモンガの姿をしていたのに、この場でまた黒猫の姿に戻ったこともついでに。
もちろん、嘘を話すという選択肢も浮かんだ。
しかし、ノーベンバー11は死んだと言っていたが、生きて何処かで猫達の情報を知っていたという可能性もある。
というよりそう考えるのが自然だ。
ならば、嘘を吐いて見破られるより正直に話すべきだろうと、猫は合理的に判断した。
「そうか……。彼女は」
タバコを咥え、火を着ける。
煙がノーベンバー11の口から吐き出された。
ノーベンバー11の対価である喫煙だ。
嫌々ながらに吸うその姿は全く様にならない。
「これが俺の知る全てだ。といっても、お前も幾つか知ってるんだろう?」
「いや、私は本当に死んだんだよ。生きて身を隠していたと思うかい?
信じられないかもしれないが、死んで生き返ったのが事実だ」
「そんな馬鹿な……」
「本当の事だ。
この場に来て、私が最初にしたのは何だと思う?
死ぬ間際に払い損ねた対価を払うことさ。
最後まで、律儀に払うこともないと思っていたんだがね」
苦笑しながらノーベンバー11はタバコを落とすと踏みつけ火を消す。
そして、ディバックから一本の缶ビールを取り出す。
蓋を開ける勢い良く炭酸が抜ける音がノーベンバー11の耳を撫でる。
ノーベンバー11は缶ビールに口を付けるでもなく地面に置いた。
「これは、エイプリルの対価だ。何の因果か私の支給品だった」
「供え物って訳じゃないだろうな」
「さあ? ……彼女は私と違い、好きなものが対価になった契約者だった。
羨ましいよ、全く」
そう言うと、ノーベンバー11は猫を掴んだままディバックへと放り込む。
話をすればお役ごめんだと思った猫は反応が遅れた。
「何の真似だ一体?」
ディバックの中でもがきながら何とかよじ登り、顔だけ外に出した猫はノーベンバー11に問いかける。
「何、 トゥーゼロワンBK。いや君達のコードネームでは黒だったかな?
彼と出会った時、君が居た方が話が早いと思ってね。
それに、ジュライが懐いたという蘇芳という娘にも興味が沸いてしまった。
付き合ってくれるかな猫ちゃん?」
「なんで黒と……。
まさか、エイプリルとかいう奴の仇討ちのつもりか? 契約者の癖に」
「面白い冗談だ。私はただ合理的に行動しているだけだよ猫ちゃん。
それに、キョウコが追いかけてきた時、君は良い人質ならぬ猫質になる。
かなり仲が良さそうだったからね」
猫は溜息を吐いた。
しばらく、殺される心配はないとは言え、やはり落ち着くものではない。
黒か銀か蘇芳か杏子。誰でもいいから早く自分を取り戻しに来て欲しい。
(何より、杏子は良い足首だったんだがな……)
彼女の生き方も見ていて面白かったが足首も良かった。
足首だけで女性を判別できる猫からすれば、杏子は非常に良い足首をしていたのだ。
別れるのは惜しかったが、いずれこちらを追いかけてくることもあるだろう。
今はじっとして待っていよう。
(ドールの進化、イザナミか……。
私の死んだ後も、かなり賑やかにやっていたようだ)
知るべき事はまだまだ多い。
猫からだけではなく、もっと多くの参加者と接触し情報も得るべきだろう。
特に黒、銀、蘇芳の三人は優先して接触したい。
(君とは、切っても切れない縁のようだな。トゥーゼロワンBK……)
【Cー2 北部/黎明】
【
佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ノーベンバー11に対する苛立ちと怒り、殺し合いに乗る強い決意、足が氷漬け
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実 大量のりんご@現実 不明支給品0~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを勝ち残る
1:まずは北方司令部に行き、その後地獄の門に向かう
2:どこかの施設に籠城することも考える
3:承太郎に警戒。もう油断はしない
4:
巴マミには……?
5:ジャック(ノーベンバー11)は絶対殺す。猫も取り返す。
6:ジャックに殺し合いに乗る自分が正しいと証明してみせる。
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました
※後数分、氷を槍で削れば動けるようになります。
【ノーベンバー11@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:インクルシオを装備した事による疲労(中)、黒にエイプリルを殺された怒り?
[装備]:悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、猫@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[道具]:基本支給品一式(飲料水一本消費済み)、狡噛のタバコ&ライター@PSYCHO PASS-サイコパス-
[思考・行動]
基本方針:契約者として合理的に判断し行動する。今の時点で殺し合いに乗る気はない。
1:参加者と接触し情報を集める。(特に黒、銀、蘇芳)
2:黒と出会った場合は……。
3:蘇芳に興味。
4:杏子が追いかけてきた場合は猫を猫質にする。
※死亡後からの参戦です。
※黒の契約者第23話から流星の双子までの知識を猫視点で把握しました。
※杏子と猫の情報交換をある程度盗み聞きしています。
※悪鬼纏身インクルシオはノーベンバー11が本来の所有者ではなく鍛錬も積んでいないのに加え
相性もそんなに良くはないので、長時間の使用は不可です。
ノインテーターと奥の手(透明化)も使用できません。
※猫は黒猫の姿ですが、流星の双子での知識もあります。
※Cー2に蓋の開いた缶ビールが放置されています。
【悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!】
主人公
タツミが所有する鎧の帝具。
凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られた帝具で、素材となった竜の強靭な生命力により装着者に合わせて進化する。
身体能力を向上させ、更に副武装として「ノインテーター」と呼ばれる槍、奥の手として「透明化」などがある。
だが、本来の所有者のタツミですら「ノインテーター」と「透明化」はおろか長時間の装備に耐えうるまで、相当な鍛錬を必要とした。
その為、使用者の相性にもよるが精々短時間装備するまでが限度。
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最終更新:2015年07月01日 06:40