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災厄の紅蓮は東方に消え… rZaHwmWD7k


「何やってんのさキンブリー?」

エンヴィーは背を向けているキンブリーに訝しげな視線を向けて尋ねた。
もうそろそろ次の列車が来る頃だと言うのに、目の前の男は自分に周囲を見張るよう伝えて自分は死体に何か細工している様だった。
バチリとキンブリーの掌から幾度目かの瞬きが起きる。

「すみませんね。思ったより時間がかかりましたが、仕事には手を抜かない性分ですから、私」

にこやかなキンブリーを見てはぁ、とため息をこぼす。
この男は切れ者だが、いささか仕事熱心に過ぎる。最早職人気質と形容するべきかもしれない。
そんなエンヴィーの様子を見てもキンブリーは笑みを崩さず、背後の“クロメ”だった者をエンヴィーの前に移動させた。
まるで良く出来た人形細工を誇る芸術家の様に。
だが、その“クロメだった物“を見たエンヴィーの眉間の皺はさらに深まることとなった。

「キンブリー。お前ってネクロフィ…」
「違いますよ。失敬な」

エンヴィーの見たクロメ自体は先ほどとまでと変わってはいない。
しかし、度重なる戦闘でボロボロだった衣服はまるで新品の様だった。
既に死亡している肉人形の鉄砲玉にわざわざ時間を割いて服を整えたキンブリー考える事がエンヴィーには分からない。

「まあ、そんな顔をしないでくださいよ…ホラ」

そう言って、キンブリーはチラリとクロメの服を掴み下腹部の辺りまで上げて見せる。

そこには、おびただしい量の爆弾が巻かれていた。


ひゅーとそれを見たエンヴィーは口笛を鳴らす。

「大したもんだ…でもこれ、戦いになったら逆にこっちが危なくない?」
「ご心配なく。私が錬成エネルギーを彼女に指定して流して初めて爆発する仕組みですから、例えるなら、雷管を抜いている状態ですかね」

それに、失敗してもたかが死ぬだけですよとキンブリーは付け加えた。

「へえ…でもよくこれだけの爆弾錬成できたもんだ、爆弾狂の本領発揮ってトコかな?」
「それは褒め言葉と受け取っておきましょう…彼女はそちらの犬と違って何か特別な力を有している訳でもなさそうなので」

エンヴィーは再びクロメに視線を戻す。
成程、確かに鉄砲玉として見ればゆっくりとは言え消耗つつある様だ。
激しい戦いになればそれだけで使いモノにならなくなってもなんら不思議ではない。
八房の本来のスペックなら消耗も全快させる事もできるのだが、二人には知る由もない。

だが、爆弾として見れば別だ。
高い機動力と、死しているが故の不死性で敵を追い詰め、諸共に爆発する。
脆弱な人間にとってはとてつもない脅威だろう。

そこまで思考して、エンヴィーの脳裏を過ったのは、詳細名簿に記されていた八房を構えるクロメの姿。
だが、その八房は今、キンブリーの手の中にある。
闘いに敗れた彼女は武器を奪われ、命を奪われ、死者の尊厳を奪われた。
だが、こんな武器を持っているのだ、彼女が生前八房を振るった相手にやっていた事もそう変わりは無いだろう。

「ハッ、傑作だね。この女程、因果応報って言葉が似合う奴もそういないや。
 ……しかし、こんな大したものも無い所でよくこれだけ仕込みができたもんだ」
「ええ、これが無ければ、もう少し時間がかかったでしょう」

 そう言って、キンブリーは懐から円状のガラスの様な物体を取り出した。


「何それ?」
「流星の欠片と言うそうです。何でも契約者と呼ばれる者達の能力を極限まで高めるとか。
 ここでは、私が使う錬金術や帝具、また魔術や超能力と呼ばれる未知の力でさえも例外ではない様ですね」

「そんな便利なモノがあるんだったら、なんで大佐と闘った時に使わなかったんだ!」

駅のホームにエンヴィーの怒号が響く。
そこまで強力な支給品があれば、大佐たちも皆殺しにできていただろうに。
だがエンヴィーの怒りもどこ吹く風、と言う様子でキンブリーは微笑みながら反論する。

「元々これは彼女の支給品だったんですよ。だから何が入っているかは把握できても、
 それがどんな効果を持つかはここで一時腰を据えるまでは分からなかった…何しろ戦い続けでしたから」

一瞬クロメを見た後、エンヴィーにまた視線を戻す。
それは、暗に奪った支給品の詳細な確認作業を行っていたら、エンヴィーを助けに入るのが間に合わなかったかも知れないと語っていた。

「ッチ、そう言う事ならまぁ…」
「理解して頂けた様で幸いです……おっと、列車が来たようですね」

ガシガシと頭を掻くエンヴィーを尻目にキンブリーは電車の方に視線を移す。

「乗りましょうか」
「東に行くんだね?」

到着し扉を開こうとする電車を尻目にエンヴィーが尋ねる。
キンブリーが頷くとエンヴィーはイギーの屍人形をぬいぐるみの様に持ち上げさっさと入っていってしまった。
場にはキンブリーとクロメだけが遺される。

「皮肉なモノですね、あなたが欲していた物は私に支給され、私が欲する類の物は、アナタに支給されていた」

キンブリーはそう言ってクロメを一瞥するが今までどおり、答える声は無い。
それは、クロメよりキンブリーが世界に選ばれた事の証明だった。
死を築く者は死に追われる。
それは多くの世界が混ざり合うこの戦場でも変わらない。

朝日を浴びながら、死神に魅入られた男は殺した少女を引き連れ電車へと入っていった。


列車と言えば蒸気機関のキンブリーにとって電車内は未知の空間だった。
明らかに無人であるのに、クロメ共に搭乗すると同時に独りでに扉が閉まり、車両が動き出したのも興味深い。
東のエリアに至るまでにこの列車を調べる時間が無いのが残念だ。
そんな一廉の科学者らしい事を思いながらエンヴィーを探し、直に二人用の座席にエンヴィーを発見した。

最も、その姿はキンブリーが見慣れているモノでは無かったが。

「今度はウェイブに変身したのですか?」
「バカの一つ覚えみたいに大佐に執着するより手を変え品を変えの方が『亀裂』は入れやすいだろ?」

まぁ最終的には大佐はこのエンヴィーがトドメを刺してやりたいトコだけどねと言い、手をひらひらと振る。
その手の詳細名簿はウェイブと記された項目が開かれていた。

「焔の錬金術師に変身するのは変更ですか?」
「大佐の奴はほっといても千枝ってお嬢ちゃん達が悪評を流してくれるだろ?ならこのエンヴィーはできるだけいろんな人間を演じてみようと思ってさ」
「焔の錬金術師の悪評を流すのと連動して、その仲間の姿で攪乱することによってさらに焔の錬金術師を追い詰めていくと言う訳ですか」

詳細名簿を受け取り、ふむ、と一考する。

「悪くないかもしれませんね」
「だろ?」

先程の怒りはどこへやらと言った様子で、キンブリーの言葉を聞いて破顔する。
まるでいたずらを褒められた子どもの様な無邪気さがそこにはあった。


「ただ襲うだけじゃない。弱い奴ならそのまま殺して、大佐やウェイブ達みたいに
 “デキる”連中がいたらキンブリー、お前が割って入るんだ」
「また加勢しろと?」
「無実の女の子を焼いた悪魔軍人ロイ・マスタングの仲間の見境なく人を襲う極悪集団イェーガーズは、紅蓮の錬金術師の助けによって追い払われましとさ、めでたしめでたし…」

こんなトコかなと締めくくるエンヴィー。
それを聞いたキンブリーはクツクツと肩を震わせてただ、嗤う。

「三文芝居ですね、まるで」
「あのイシュヴァール殲滅戦も始まりは三文芝居の一発の弾丸だった、それにシナリオが三流でも役者が一流なら化けるもんさ…できないとは言わせないよ、キンブリー」

実際にイェーガーズの構成員であるクロメとウェイブの姿をしたものに襲われれば嫌でもイェーガーズの危険性を実感するだろう。
そして、ウェイブの姿をしたエンヴィーの襲撃をキンブリーが退ければ、他の参加者に恩と大佐たちの悪評を売る事ができる。
その後、ウェイブを追う体でエンヴィーと合流すればいい。
鋼の錬金術師やマスタング一向が接触した参加者には警戒されるかもしれないが、それならば改めて実力行使に出ればいい。

様は、参加者の間に楔を埋められればそれでいいのだ。
本当に自分達に齎された情報は正しいのか、隣に居る人間は信頼できるのか。
隣に居る人間はエンヴィーでは無いのか。

人は個人ではわかりあえても、集団と言う枠組みに一度嵌められてしまえば、煽るのは容易い。

「仕事と言うのならばお受けしましょう。しかし、鋼の錬金術師やイェーガーズの首領…エスデスと言う方に遭遇した時は?」

鋼の錬金術師
その名を聞いた瞬間、エンヴィーの様子が僅かな間変わる。
先程の様に、怒るでもなく、嗤うでもなく、ただ醒めたモノへと。


「…エスデスって女と会った時はまた大佐辺りに変身して攪乱すればいい、問題はオチビさんだ」
「ええ、鋼の錬金術師殿は、焔の錬金術師と違い、本質を見抜く;眼;を持っています。下手に嵌めようとすれば、こちらが出し抜かれるでしょう」
「なるべく会うのは避けるか、協力するポーズを出したほうがいいかもね。『生き残るためには悪魔に魂を売っても良い』って公言するオチビさんの事だ、
多分乗って来るだろ。その後後ろから撃ってやりゃいい」

「それを彼が言ったのですか?本当に?」

珍しく意外そうな顔でキンブリーはエンヴィーに尋ねた。
肩を竦めながら、エンヴィーは一言で返す。

「一瞬だけらしいけどね」
「ああ、それならばむしろ彼らしい」

納得いったと言う様子で、男は何度も頷く。

「では、この列車を降りたら急ぐとしましょうか、焔の錬金術師がこのエリアに至る前に」

情報戦とは陣取り合戦の様なモノであり、早く動けば動くだけ場を掌握できる。
若干出遅れている感は否めないが、大佐たちの動向次第でいかようにも巻き返せるだろう。
できれば悪評を広める過程で首輪をもう一つ入手しておきたいところだ。

「降りたらどこへ行く?」
「さしあたっては北上、学園を経由してこの流星の欠片の原産地である地獄門という場に足を延ばしますか、首輪を解析できそうな研究施設も丁度近くにありますし」
「ふーん、ま、行先についてはまかせるよ」

一呼吸おいて楽しくなって来たねぇとエンヴィーは呟いた。
あの千枝という少女が復讐の刃を向けてきたらあの大佐はどうするだろうか?
おとなしく断罪を受け入れるのか、それとも逆に焼き殺すのか。

キンブリーもまた、列車を降りた先で待ち受ける事態に期待を寄せる。
願わくば、あのイシュヴァールの様な心躍る仕事ができるように。
懐の流星の欠片の力を存分に震える様な戦いができるように。

―――ほんの数刹那、流星の欠片がランセルノプト放射光により妖しく煌めいた…。

【東に向かう電車内/1日目/午前】

【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
1:色々な参加者の姿になって攪乱する、さしあたってはウェイブ。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
4:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
5:キンブリーと一緒に行動し他の参加者を殺す。
[備考]
※参戦時期は死亡後。




【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、高揚感
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2 雪子の首輪
躯爆弾・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!、躯人形・イギー@現地調達 流星の欠片@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:エンヴィーと共に行動する。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:首輪の予備サンプルも探す。
6:音ノ木坂学園を経由して北上、研究所と地獄門を目指す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
『操れる死者は2人まで』
『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
『即席の躯人形が生み出せない』
※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。
※千枝、ヒルダと情報交換しました。

【流星の欠片】
地獄門内物質。汲んでも汲み尽くせぬ灰色の科学の玉手箱。
契約者の能力を極限まで高める作用があり、かつて多くの契約者が流星の欠片を巡った争いで命を落とした。
破壊されても、地獄門内部にいけば再生可能。
当企画で発揮される効果は契約能力に限定されず、「魔法」「魔術」「超能力」「錬金術」「スタンド」「ペルソナ」「帝具」など、純正機械や体術以外の道具・能力にも適用される。
増幅能力は賢者の石と同程度の効果。


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086:亀裂 エンヴィー 131:奈落の一方通行
ゾルフ・J・キンブリー
最終更新:2015年11月22日 22:19