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混沌-chaos- ◆dKv6nbYMB.


「待ってくれ」

キリトは教会を出ていく黒とクロエを呼び止めた。

「俺も彼女たちを探しに行く」
「...はぁ?」

その言葉を聞いた瞬間、クロエの表情に陰りがみえた。

「もう俺なんかに信用は置けないのはわかってる。けど、だからってこのまま何もしないわけにはいかない...」
「アンタまだわかってないの?ハッキリ言って邪魔なのよ」
「わかってる。こうなったのは全部俺のせいだ。俺がエンブリヲを信じたから、俺があの子を...殺したから...」
「だったらなんで...」
「だから俺があいつを、エンブリヲを止めなくちゃいけないんだ!それしか、俺には...!」

生きる価値が無い。
拳を握りしめ俯くキリトを見てクロエは複雑な思いを抱く。
わかっている。モモカのことも、イリヤたちのことも全てがキリトの所為ではない。
むしろ、悪いのはモモカを操りキリトを騙したエンブリヲだ。
しかし、その事実だけを素直に受け入れられるほど彼女は冷静ではなく、つい厳しく当たってしまう。

「...とにかく、アタシはもうあんたの顔は見たくない。探すならあんた一人で探してちょうだい」

クロエからしてみれば、キリトの意も汲んだ精一杯の妥協。
キリトは暗い表情で頷き、クロエたちに背を向ける。

「待て」

だが、それを呼び止めるのはクロエの同行者である黒。

「お前は俺たちと共に行動しろ。二手に分かれるよりは奴を捕えやすい」
「な、なに言ってんのよ。二手に分かれた方が効率がいいじゃない」
「奴を見つけたところでまた逃がせば意味はない」

尤もらしい理由を付けて黒に詰め寄るクロエだが、それはあっさりと否定される。

「それに、完全に奴を捕えるにはキリト、お前が必要だ」
「...俺なんかが一緒でも」
「お前にしかできないことだ。俺に考えがある」


後藤という怪物に襲われた時、黒さんは僕を守ってくれた。自分が危ない目に遭っていたのに、それでも逃げろと言ってくれた。それからもずっと支えてくれた。

雪ノ下さんが殺されそうになった時、八幡は雪ノ下さんを守って逝った。

僕は黒さんと離れた途端に捕まった。イリヤちゃんを守るどころか巻き込んでしまった。

黒さんは僕を守ってくれた。

八幡は命を賭けて守った。

僕はなにも出来ていない。男の子の癖に、他の人どころか自分の身すら守れない。

僕は、僕の無力さがどうしようもなく悔しかった。





「興味を惹く物は、帝具と書籍、このカードくらいか」

廃教会を後にしたエンブリヲは、戸塚とイリヤの支給品を確認していた。
帝具パンプキン。戸塚のような戦闘訓練を積んでいないものでもそれなりに使えるものだ。かなりの当たりと思っていいだろう。
各世界についての書籍。全てが書いてあるわけではないが、自分の知らないものを知れる、いわゆる知識欲を刺激されるのは心情的にも悪くない。
そして、イリヤの持っていたカード。一見普通のカードだが、なぜかエンブリヲの心を擽るものがあったために、つい手にとってしまった。

「これはどういうカードなんだい?」
『ぜ、絶対に話しませんよ。この程度のことで口を割る私では...』
「ふむ、すなわちきみが情報を隠すだけの価値はある、と」
『しまったぁ!?...い、いえそれはただの子供向けのおもちゃですハイ』
「まあいいさ。このカード、気に入ったよ。使い方はイリヤを調教してから聞くとしよう」

エンブリヲの言葉に抗議の声を上げるルビーだが、エンブリヲが触れると嬌声をあげ横たわってしまった。

「さて、と」
「はあっ...はぁっ...」
「待ってておくれよ、彩加。必ずきみの穢れを浄化してあげるからね」

デイパックの中で息を荒げる戸塚の頬を愛おしそうに撫でると、今にも絶頂しそうな程の恍惚な表情で戸塚の身体が跳ね上がる。
戸塚が気を失ったのを確認すると、エンブリヲは横たわるルビーを入れてデイパックを閉じた。
戸塚彩加は男である。
だが、それは真実ではない。幾多もの女性を扱ってきたエンブリヲが男に心惹かれることなどあり得ない。
つまり、戸塚は『男』という汚れを付けられているにすぎないというわけだ。
そのためには戸塚の穢れを浄化してやらねばならない。それも早急にだ。
だが、自分が行為に及ぼうとすると決まって邪魔が入る。
4度も邪魔が入れば流石にそれを自覚する。
そのため、今回は浄化をする前に周囲の確認をおこなった。
案の定、背後の建物から影が延びているのが見えていた。

(ふっ、やはりね。まったく、広川は私に嫉妬しているらしい)

この殺し合いの主催者は、この調律者をわざわざ巻き込むような輩だ。
自分の邪魔をしやすいように他の参加者を配置しているに違いない。
まあそれも仕方のないことだろうとエンブリヲは鼻で笑った。

「いま隠れたきみ。安心してくれ。私は殺し合いにのっていないよ」

ならばこそ、それを看破したうえで浄化してやろう。
邪悪な笑みを浮かべたエンブリヲは、来訪者に背をむけたまま声をかけた。


それは突然だった。
連なる建物の内部を探していたタツミとさやか。
なんとなく窓から外の景色を眺めていたさやかが、いきなり地上へと現れた男を発見したのだ。
慌ててタツミを呼ぶさやかだが、一瞬目を離した隙に男は消えていた。

「ほんとだって。あたし、確かにこの目で」
「わかったよ。俺もそういうのには心当たりがある」

タツミの心当たりは、帝具シャンバラ。
対象者を別の場所へと転送できる帝具だ。
それを身を持って知っているため、タツミは瞬間に人が消えるという事実だけは素直に受け止めることができた。

「...とりあえずこの辺りを探してみるぞ」


タツミとさやかは、屋外へと降りて探索することにした。
探索すること10分程だろうか。
タツミは背を向けて屈んでいる男を発見。
さやかを手招きで呼び、さやかも足音を殺しながらタツミのもとへと駆けていく。
物陰から姿を確認するが、男はこちらには気づいていないようだ。
男はキョロキョロと辺りを見回し、やがてこちらへと視線を向け動きを止めた。
気付かれたか、と思いもしたが、男の視線の先が自分より逸れているのが気にかかった。
男の視線の先を確認すると、自分の背後より影が延びていた。

「おい、影...」
「ご、ごめん」

偵察の際に影が見えないようにする。殺し屋ならば当然の心得だ。
しかし、さやかは魔法少女ではあるものの殺し屋ではない。
ましてや、魔女の結界では姿を隠す意味などほとんどない。
そのため、つい己の影への確認を怠ってしまった。

「いま隠れたきみ。安心してくれ。私は殺し合いにのっていないよ」

男が背を向けたまま呼びかけてくる。
やはり気付かれてしまったようだ。

「うっ...ご、ごめんってば」

さやかを責めているつもりはないが、半ば信用していないこともあってつい睨んでしまった。
このまま隠れていても仕方ないだろうと判断し、さやかへと合図を送り、二人は男の前へ姿を現した。


さやかを責めているつもりはないが、半ば信用していないこともあってつい睨んでしまった。
このまま隠れていても仕方ないだろうと判断し、さやかへと合図を送り、二人は男の前へ姿を現した。

「...隠れていて悪かった。俺たちは殺し合いに乗るつもりはない」
「隠れていたのは仕方ないよ、こんな状況だしね。私の名前はエンブリヲ。きみたちは?」
「......」
「...まあ、名乗りたくない事情もあるかもしれないな。とにかく、よろしく頼むよ」

差し出される右手に、思わず手を差しだしそうになるさやかをタツミが手で制す。

「...疑ってかかるみたいで悪いけど、あんたが殺し合いに乗っていないって証拠を見せてくれ」

タツミがエンブリヲを警戒するのは、彼の持つ三つのデイパック。
例え信頼した者といえども、自衛のためのデイパックを手放すとは考えにくい。
と、なれば同行者がいない以上、彼のデイパックは他者から奪った物となる。
ならば疑ってかかるのは当然だ。


「...きみの言いたいことはわかった。ただ、先に言わせてくれ」
「なんだ?」
「このデイパックには人が入っている」

その言葉に、タツミは思わず身構える。

「早まらないでくれ。これは比喩なんかじゃない。本物の、生きた人間が入っているんだ。最も彼は気絶しているがね」
「嘘をつくな。どうやったらそんな鞄の中に人が入るっていうんだ」
「きみ達も知っているとは思うが、このデイパックには有り得ない量の物が入る。だから、私は人が入れるか試してみたんだ。
なるべく人を助けたいと思うのは当然だが、流石に気絶した人を背負ったままでは行動できないからね」
「なら、その場でデイパックを開けてくれ」

タツミの言葉通りに、エンブリヲはデイパックを傾け、中にある物を取り出した。
ズルリ、とウナギのようにデイパックから出てきたのは気絶している全裸の男。
全身が汗まみれでほのかに嫌な臭いを放っていた。

「わわわっ!」

思わず取り乱し両手で己の顔を隠してしまうさやか。
当然だろう。なんせデイパックから取り出されたのは本当に人間でしかも全裸の男。
となれば、もちろん股ぐらに生えている男の象徴も見てしまったわけで。

(ち、ちいさいころに見た恭介のモノとは形が全然違う...毛も生えてるし...)

見てはいけないはずなのに、つい見たくなる衝動に駆られて指の隙間から覗いてしまう。
見ては視線を逸らして、見ては逸らして。
その繰り返しをしている内に、困ったような笑顔を向けてくるエンブリヲと目が合い、恥ずかしさのあまり赤面してしまった。

「彼は、ある男に襲われていたんだ。その名はタスク...奴は悪魔だ!」
「タスク?」
「奴は言葉巧みに私の大切なアンジュを騙し、その純潔を奪った卑劣漢...そして気絶しているこの彼もまた、奴の被害者...!」

エンブリヲは、拳を握りしめ、クッ、と悔しそうに俯きながら話を続ける。

「私が辿りついた時には遅かった...おそらく薬でも投与したのだろう。彼は抵抗もできず衣服をはぎ取られていた」

なんで脱がしたんだろうとなんとなく疑問に思うさやか。
支給品を奪うならまだしも、男が男の服を無理やり脱がす。なんの目的で?
『それは禁断の恋の形ですのよ~!』
なぜか友達の声と共に頭の中に浮かんだバラ色の背景。
それを追い出すかのようにぶんぶんと頭を振った。


「幸い、奴の牙が届く前に止めることはできたが、彼はそのまま気を失って...くっ」
「それじゃ、残りふたつも」
「ああ。あのふたつにも同じように被害者が入っている」
「...他のも見せてくれ」

タツミの警戒心はまだ消えていない。
普通に考えればエンブリヲの言葉通り、他のデイパックにはそれぞれ人が入っているはずだが、倒れている男はフェイクで隙を見せた瞬間に襲ってくるかもしれない。
ならば確認すべきだ。本当に人が入っているのか、エンブリヲは殺し合いに乗っていないのか。
エンブリヲはタツミの言葉通り、他のデイパックの中身を出してみせる。
中から出てきたのは二人の少女。
服こそは着ているものの、一人は気を失っており、もう一人はその目に生気を灯していない。

「だ、大丈夫?」

一番幼い銀髪の少女にさやかが触れると、ビクンと身体が跳ねあがり、喘ぎ声も大きくなる。

(ひでぇ...!)


青年を襲っただけでは飽き足らず、こんなにも幼気な少女にまで手をかけるなど、外道の所業だ。
仮にタスクの目的が殺人でないにしろ、こんな強姦染みたことをする以上、それは悪だ。
握り絞める拳に自然と力が入るのが自分でもわかった。

「奴をこのまま放っておけば、被害は広まるばかりだ。どうか、私に力を貸してくれ」

エンブリヲが殺し合いに乗っていないという確信はまだ持てていない。
しかし、殺し合いに乗っているのなら、こうまで重傷人を連れて行動するメリットはほとんどない。
人質に使うにしても、三人は多すぎるはずだ。
つまり、エンブリヲもまた殺し合いに乗る者ではない可能性は高いとタツミは判断した。
尤も、それはまだ仮定だ。彼の言葉が現実かどうか、冷静に見極めなければならない。
警戒心を隠しつつ、差し延ばされる手に応じて、タツミもまた手を差し出した。


「だ...めっ...にげ、て...!」

いつの間に目を覚ましていたのか、気絶していた少女―――もとい少年、戸塚が、振り絞るように声を発した。
戸塚は、タツミを見ている。即ちそれはタツミに向けられた言葉である。
逃げて。彼女たちは保護されている人間だ。
ならば、誰から?
その意味を理解した時にはもう遅い。
舌うちが聞こえたと思えば、エンブリヲの手は、タツミの腕を掴み


「~~~~~~~~~~~!!」

タツミの全身に、耐えがたい快楽が走り抜けた。



「できれば君たちとは穏便に事を済ませたかったが...彩加、きみは意外にも強い子なんだね」
「くぅっ...」
「彩加、きみが悪いんだよ。きみが大人しくしていれば彼らとは何事もなく済んだんだ」
「ど、どういうことなの?」

この場でただ一人、さやかは未だに状況を理解できていなかった。
エンブリヲがタツミの腕を掴んだ瞬間、タツミが声にならない嬌声を上げてうずくまってしまったのだ。

「に、げろ、さや、か」

快楽に支配される身体に鞭を打ち、タツミがゆらりと立ち上がる。
タツミは腐っても男であり殺し屋だ。
未知なる感覚に全身を包まれようとも、それに耐えるだけの精神力は持ち合わせている。

「悪いがきみには用はないんでね」

だが悲しいかな。心まで堕とされることはなくとも、身体は正直な反応を見せてしまう。
強靭な精神とは裏腹に、エンブリヲがタツミの肩に手を置くだけで、タツミの腰は砕けてしまった。

「さて、さやかと言ったかな。次はきみの番だが...今まで出会ってきた女性に比べれば、少々見劣りするかな」
「なっ!?」
「だが安心したまえ。きみにはきみの魅力がある。例えばそう...その身体などね」

エンブリヲの目が細くなりさやかの身体を睨むと、さやかの服がはじけ飛んだ。

「や、やだっ!」

なにが起こったのか分からなかったが、さやかは反射的に右手で胸を、左手で秘部を隠す。
エンブリヲは笑みを浮かべつつその様を愉しそうに見つめていた。

「先程の悠への反応を見ていて思ったが、やはり穢れを知らない女性はいいものだ」
「ゃ...こないで!」
「大丈夫。きみに苦痛は与えないさ。私はタスクのような屑とは違う。ちゃんときみを愛し、快楽の内に堕としてあげるよ」

ゆっくりと歩み寄るエンブリヲ。じりじりと後退するさやか。
こんな変態、今すぐにでも斬り捨ててやりたいとさやかは思う。
しかし、いまはソウルジェムはタツミが持っており、魔法少女へと変身することができない。
魂を抜かれただけの少女にできることは、涙で瞳を潤ませ拒絶の意を示すことだけだ。
さやかのその反応が、エンブリヲの局部を刺激し、ズボンの上からでもわかるほど怒張していた。

「さあ、私を受け入れるんださや「伏せろ!」

エンブリヲの言葉に被さるように発せられた怒声。
何事かとエンブリヲが振り向けば、目に映るのは斧を振りかぶっているタツミ。

「ラァッ!...くああっ」

斧を投擲するとともに、タツミの全身に快感が走り、膝から崩れ落ちてしまう。
全身が性感帯となった身でも尚投げることができたのは称賛すべきだろう。
エンブリヲは投げられた斧を首を傾けるだけで躱し、タツミへと向き合う。
斧は、空を切りしゃがんださやかの頭上を飛び越していった。

「やれやれ。どうやらきみは、完全に動けなくしておいた方がいいかもしれないな」

エンブリヲが懐から取り出したものを見て、タツミは目を見張った。

(あれはマインのパンプキン...!あいつも帝具を盗られてるのか!)
「サヨナラだ」

エンブリヲが照準を定め、引き金に手をかけた瞬間

ドッ

「なっ...?」

突如、エンブリヲの背に激痛が走る。
己の背中を確認すれば、そこに刺さっているのは、先程タツミが投擲した斧。
なぜ、と言葉を漏らすこともなく、エンブリヲは前のめりに倒れた。

「た、タツ...」
「来るな!」

突然の制止に、さやかは思わず言葉を呑んで立ち止まる。
いまは成り行きで行動を共にしているものの、一度は本気で殺しあった仲だ。
ロクに動けないいまのタツミでは、もしさやかが再び命を狙ってきた時に抵抗ができない。
どうにか今の症状が治まるまでは、さやかに隙を見せたくはない。
そんな意味を込めて制止をかけたのだが...

(ま、マズイ...これは非常にマズイ...!)

タツミは殺し屋と言えども思春期の少年である。
巨乳のおねーさんや美人な女将軍に口付けなどされれば顔も赤くなるし、覗きにも興味が無いと言えば嘘になる。
同性愛の気は無いし、彼女ができれば素直に嬉しいと思える程度には異性に対する興味を持っている。
そんな全身性感帯と化している健全な思春期の少年の前に、それなりに発育した身体つきの少女が全裸で立っていればどうなるかは語るまでもあるまい。
とにかくいまのさやかはタツミにとっては刺激が強すぎるのだ。
もちろん、さやかがタツミに襲い掛かれば(性的な意味ではない)タツミも殺し屋としてのスイッチが入り、普段と同じように行動できるだろう。
しかし、それを差し引いても『全身が快楽を感じすぎて動けない』などという情けないにもほどがある状況、知られたくないのは男子の面子を考えれば当然である。

「そ、その...なんつーか、目のやり場に困るっていうか...」
「へ?...あっ」

自分が全裸であることを思い出して、さやかは慌てて両腕で身体を隠そうとする。

「ど、どうしよう。あたし、代わりの服なんて持ってないよ!」
「...と、とりあえず、適当にカーテンでも取ってこいよ。服は後で探そう」

赤面しながらタツミの言葉に頷き、近くの建物へと入ろうとするさやか。
が、しかし、何者かに右足を掴まれ止められる。

「へっ?」

驚くのも束の間。一瞬にして、さやかの全身を快感が突き抜けた。

「あひいいいいぃぃぃ!?」
「やれやれ、この私が一杯食わされるとはね」

さやかの足を掴んだのはエンブリヲ。口の端から血を流しつつもゆらりと立ち上がると、背中のベルヴァークを抜き取り、己のデイパックに入れた。
普通の人間ならば死んでいるはずの一撃。
タツミの誤算はふたつ。ひとつは、感度が暴走しているために斧に十分な威力を持たせられなかったこと。
もうひとつはエンブリヲが人間でなかったことだ。

「エンブリヲ...!」
「悪いが、きみごときに捧げるほど私の命は軽くない。...とはいえ、いまのは少々頭に来たかな。アンジュ以外の人間、ましてや男に攻撃されて悦ぶ趣味はないんでね」
「はあっ...ぁうっ!」
「きみはただでは殺さないよ。まずはきみの大切な者から奪ってみせよう」

エンブリヲはさやかの耳元へと顔を近づけ、ふぅっと優しく息を吹きかける。
瞬間、さやかの背筋にゾクゾクと甘い電流が走り、嬌声が漏れだした。

「ひゃあああっ!?」
「いい反応だ。...どうした、きみはそこで見ているだけなのかい?」

エンブリヲは、『お前の女は、直に私のものになるぞ』とでもいうかのように嫌らしい笑顔を貼り付け、さやかの火照りきった顔をタツミに見せつける。

「こ、このやろう...!」

タツミからしてみれば、エンブリヲの言っていることは的外れにも程がある。
さやかは決して大切な者などではない。
開幕早々殺し合いに乗ることを決めた女だ。ジョセフと初春がいなければこの手で既に殺害していた。
タツミは未だにさやかを信用はしていないし、彼女も彼女で未だにこちらの命を狙っている可能性は充分にあり得る。
タツミの立場を考えれば、身体を張って守ることもない存在だ。恋愛感情どころか、友情や信頼感情も抱いていない相手だ。
聖人君子でないタツミに、彼女を救う義務などない。

「...きょう、すけぇ...」

だが、それでも。

「ほう?きみには想い人がいたのか。それでいて純潔を保っているとはね。なら、その純潔は私が散らしてあげよう。純潔を奪われたきみを見た時の反応が楽しみだ。そう思わないかい?」

『悪』が弱者を蹂躙するのなら。

「ゃ...めて」

『弱者』の声がタツミに届いたなら。

「やめ...て...」

『弱者』が涙を流したのなら。

「そいつを離しやがれぇぇぇ!」

タツミが動かない理由など、ない!



快楽で痺れる身体に鞭を打ち、タツミはエンブリヲへと一直線に駆けだす。
一か八かの賭けだった。だが、ベルヴァークも回収されたいま、もうこれしか方法はなかった。
タツミの右拳がエンブリヲの顔へと迫る。
が、しかしエンブリヲは消えた。文字通り、音すらなく消えたのだ。
タツミの拳は空を切り、その勢いのままに前のめりになる。
その先に待つのは転倒、ではなく。

「えっ」
「あっ」

タツミが倒れ込む先。それは、同じく感度を限界にまで高められた全裸のさやか。
突然のことに、二人は踏みとどまることもできず、身体が重なり合い


「「~~~~~~~~~~~~~!!」」

二つの嬌声が、重なりあった。


「不様だね」

快楽に悶えて転がるタツミを見下ろすエンブリヲ。
息を荒げながらも睨みつけるタツミの頬を、腹を、つま先で小突きその反応を見ながら悦に浸っている。

「きみは悠とは違って特殊な力もなさそうだね。ならば、きみを殺しても私に損はないようだ」

エンブリヲは、側に転がっているさやかの脚に触れ、秘部を見せつけるように開かせる。

「精々死ぬ前に私を愉しませてくれ。大切な者を守れなかった絶望の悲鳴をあげてね」

自身のいきり立った局部を曝け出し、タツミを嘲笑うエンブリヲ。
絶頂に近い感覚を常に味わわせられたうえで行動したため、タツミの体力は大幅に削られている。
最早抵抗する力も残されていないタツミには、もはや打つ手はない。

「...ねえ」

両目を右腕で隠し、息を荒げながらさやかが尋ねる。

「あんたは、こうやって何人女の人を傷付けてきたの?」
「傷付ける?私は愛しているのだが...まあ、美しい者が絶望する瞬間の顔はいつみてもたまらないものだがね」

さやかは最早抵抗する力も無いようだと認識すると、エンブリヲは局部をさやかに近づけていく。

「あんたにとって、女の人はみんな道具なの?愛するっていうならその人の気持ちを考えてあげないの?」
「おかしなことを言うね。調律者たる私に愛されるんだ。ましてや初めての相手がこの私なら、これ以上ない幸運じゃないか」

エンブリヲはさやかを見ていない。
エンブリヲにとっては、ここにあるのは今まで溜め込んできた欲望を思いのままに発散できるモノにすぎない。

「そう...なら、もういいよ」

さやかが抱き着くような仕草でエンブリヲの首に両腕を回す。
どうやらその気になったようだと思い、エンブリヲは身体をさやかに近づける。
そして、局部が秘部に触れんとしたとき、さやかは耳元で囁いた。


「―――死んで」




何かが弾けるような音がする。と、同時に

ゾ ブ リ

入った。
熱い感覚がエンブリヲの局部を貫く。
これでいい。ようやく成功した。
どこか達成感すら覚えるエンブリヲの局部を包む激痛。

「...?」

エンブリヲは感じた痛みを疑問に思う。
なぜ挿入した自分が痛みを感じる?感度50倍のことを除けば痛みを感じるのはさやかのはずだ。
なのになぜ?
エンブリヲは思わず己の局部に視線を移す。
見えたのは、血に濡れる局部。
さやかの"初めて"を奪った際のものにしては出血量が尋常ではない。
ならば、なぜ?
その答えを知った瞬間、エンブリヲは目を見開いた。
血を流していたのはエンブリヲの局部。
突き刺さっているのは、小さな短剣。

―――エンブリヲは、本日二度目となる局部破壊を味わった。

「ぐあああああああ!」

激痛に苦しむエンブリヲの股間に膝蹴りをいれ、さやかが立ち上がる。


――― 一か八かの賭けだった。だが、ベルヴァークも回収されたいま、もうこれしか方法はなかった。
できればこの手は使いたくなかったとタツミは思う。
タツミは、さやかと衝突した際、エンブリヲにバレないようにさやかのソウルジェムを渡していた。
それが何を意味するのかわからないタツミではない。
しかし、あのままではタツミは殺され、他の者も奴の手にかかっていただろう。
だから賭けるしかなかった。魔法少女となったさやかなら、この場を切り抜けられる可能性がある。
...尤も、そのさやかがこちらに牙を剥けば一巻の終わりだが。


「あはは...なんでもやってみるもんだねぇ」

魔法少女の武器はなにも手から出るだけではない。
地面から生やすこともできれば、衣服の中から出すことだって出来る。
だが、さやかはまだそれを行ったことがない。
しかしそれでもさやかは試した。
普段の剣よりも小さな、当たり所によっては殺傷力を持つ程度の短剣を、エンブリヲの局部の下から生やそうとした。
結果、それは成功し、エンブリヲを撃退する成果を出すことができた。

「ふ、ふふ...とんだじゃじゃ馬だったね。だが、いつまでその余裕が持つかな?」

激痛に顔を歪めながらも、エンブリヲは斬られた局部を押さえながら立ち上がる。

「もう一度味わわせてあげるよ。脳髄が蕩けるほどの快感をね」


エンブリヲの姿が消え、一瞬でさやかの背後に回る。
なぜ先程まで効いていた感度50倍が解かれているのか。
そのタネは、いつの間にか着ている服に関係しているのだろう。
恐らく、金髪の小さな少年のように、何かしらの道具を使って中和させたはずだ。
だが、その後も感度を増幅され続ければどうなるか。
決まっている。再び快楽の虜になるだけだ。
金髪の小さな少年を相手にする時も、身動きさえ封じれば悠と同じ状態に成り果てるだろう。
その確信を持っていたからこそ、エンブリヲはさやかの腕を掴んだ。
再び喘ぎ悶え、跪くさやかの姿を観るはずだった。


「―――これがなによ」

観る、はずだった。

薄ら笑いを浮かべるさやかの拳が、エンブリヲの顔面を捉える。
その細身のどこからそんな力が溢れるのか、エンブリヲは空を舞い、幾度か地面をバウンドしながら吹き飛ばされた。



エンブリヲの誤算はひとつ。
さやかはエドワードと違い、人体について詳しい知識があるわけではない。
故に、自分の感覚を操作して通常の状態に戻すだとか、理論的な方法を行使できるはずもなかった。
さやかが行ったことは単純。全ての感覚を『遮断』すること。
ゼロになったものを50倍にしてもゼロにしかならない。
錬金術と違い、あまりに理不尽で非論理的な方法。
しかし、それができるのが魔法少女、魂を抜かれた抜け殻の身体を持つ少女なのだ。

「ちぃっ...」

流れる鼻血を拭きながら立ち上がる。
屈辱だ。一度ならず二度までも局部を破壊され、更には自身の力までもが完全に破られたのだ。

「残念だよ、さやか。きみには私を理解することができないらしい」
「そんなの、こっちから願い下げだよ」
「ふっ、強情なのは嫌いではないが...オイタが過ぎたね」

エンブリヲは、先程デイパックに回収したベルヴァークを取り出す。
さやかは魔法で作った剣を作り構える。

「あんたは殺す。あたしが、この手で...!」

突撃するさやか。
それを迎え撃つするエンブリヲ。
二つの刃が交差する。


―――その瞬間だった。

黒い影が二人の間に割り込む。
影は、ベルヴァークを一振りの刀剣で防ぎ、さやかの剣は腕を掴み阻止する。
驚き動きを止めてしまう二人に、柄での打撃と蹴撃を浴びせ、互いに距離をとらせる。


「もう、こんなことやめてくれ」


割り込んだ影、キリトは懇願するようにつぶやいた。



「...なによあんた。邪魔しないでくれる」

突然の来訪者に、殊更に嫌悪の表情をだすさやか。
そんなさやかには応えず、キリトはエンブリヲへと向き合う。

「エンブリヲ、もうこんなことは止めろ。こんなに人を傷付けまわってどうなるっていうんだ」
「傷付ける...?ふふっ、きみがそれを言うかい、人殺しのキリトくん」

『人殺し』。
その単語に、キリトは思わずたじろいでしまう。

「私はモモカを操った。けど、手を下したのはきみだ。助ける方法なんていくらでもあったはずなのにねぇ」
「......」
「モモカは苦しかっただろうね。もっと生きたかっただろうね。きみが今さら偽善者ぶっても、許すことはないだろうね」

キリトは生身の肉体であれば血が出るほどに唇を噛みしめ、拳を震わせている。
それは、エンブリヲに対する怒り。...ではなく。

「...確かに、俺は最低なことをした。誰かが許してくれるわけもないし、モモカさんはきっと俺を殺したいほど恨んでるだろう」

キリトが抱いている感情は後悔。今までの行い、そして自分が元凶となった事件の数々。

「けど、だからってなにもしないでいていいわけがない」

現実を認めたキリトは、震える声で、いまにも泣き出しそうな顔で、それでも決意する。

「俺はもう、誰にも死んでほしくない。この命に代えても殺し合いを止めたいんだ」

それは決意というには脆いものかもしれない。
だが、確かにキリトは決めたのだ。
誰にも許されなくてもいい。
それでも、殺し合いを止めることがモモカへの償いになるのなら、それを達成した後で死んでもいい。
そんな自棄な決意を、確かにキリトは固めていた。


訪れる静寂。
やがて、口を開いたのはエンブリヲ。

「...わかった。この場でこれ以上争うのは私も望まないところだしね」
「エンブリヲ」
「だからここはお暇させてもらうよ」

そういうなり、エンブリヲは後方へと駆けだした。
向かう先には、気絶している戸塚とイリヤ、鳴上。

(本来の力があれば敵ではないが...仕方ない)

エンブリヲの取った手段は逃走。
身体能力に優れ、妙な剣を使い、変わった身体を持つキリト。
キリト程ではないが身体能力に優れ、感覚操作が効かない美樹さやか
この二人を同時に相手取るのはいくらエンブリヲといえど骨が折れる。
加えて、エンブリヲもここに至るまでに、体力を消耗する瞬間移動を何度も使っており、タスク、エドワード、キング・ブラッドレイら強者たちと交戦を続けている。
決して万全とはいえない状態
だから退く。
ただ退くわけではなく、手ごまはしっかりと回収した上でだ。

(ここを切り抜ければ、調教をする時間などでもいくらでもある。その時は...フフッ)

チラリと後ろのキリトたちを見やると、やはり追ってきているのが確認できる。
だが、この距離ならばキリトたちに捕まる前に戸塚たちを連れて瞬間移動することはわけないだろう。
それに、万が一捕まりそうになっても、数回瞬間移動をする程度の体力はまだ残っている。
戸塚とイリヤをどう調教してやろうかと邪悪な笑みを浮かべながら、イリヤたちのもとへと迫る。



「―――ほんと、どうしようもない男ね、あんた」


そんな声がエンブリヲの耳に届くと同時に、彼の足に何かが絡みつく。
なんだこれは。
それを発する間もなく、エンブリヲの全身に痺れるような激痛が走り、彼の意識はそこで途絶えた。



「まさか、あんな手にひっかかるとはね」

倒れるエンブリヲを見ながら、クロエは呆れたように溜め息をついた。
黒の作戦は想像以上に単純だった。
3人の中で一番身体能力が優れるキリトがエンブリヲの注意を引き、黒とクロエはその隙をついて罠を張るといったものだ。
勿論、これはキリトの身体能力と武器についてエンブリヲが身を持って知っているからこそできたことである。


「奴は後先をロクに考えない男のようだったからな」

黒がエンブリヲという男をそう判断したのは、教会の一件から。
エンブリヲは、キリトに他の者への対処を任せ、イリヤたちに事を起こそうとしていた。
いくらキリトがエンブリヲを信頼していても、決して『信奉者』ではなく、『エンブリヲに会えばわかる』と判断できる程度には彼は自分の意思を持っていた。
わざわざ教会で事を為す合理性はなく、イリヤたちを動けなくしてから場所を移すのが定石だ。
それをしなければ、邪魔が入ることくらい容易に察せる。
だというのにそれをしなかったのは、キリトを想像以上に甘くみていたのか、後先を考えず欲望のままに動くタイプだからだろうと黒は判断した。
それに、エンブリヲは瞬間移動を持っていたとはいえ、追いつくことは不可能ではないと考えていた。
なんの前触れもない瞬間移動。その技ひとつで殺し合いが破綻してしまうほど強力なものだ。
異能を制御できる主催がこれを放置しておくはずがない。
使えば疲労がたまるか移動距離を制限されているか。若しくはその両方が課せられているだろう。
黒は『エンブリヲは連続して瞬間移動を使えない』こと確信し、逃走経路にワイヤーを張っておいたのだ。

「で、殺しちゃったの?」
「いや、こいつには聞かなくてはならないことがある」

黒が求めるのは銀(イン)の居場所。
放送では銀の名前は呼ばれなかった。つまり、生きているということだ。
クロエが里中千枝という少女から聞いた情報では、僅かの時間だがエンブリヲが操ったモモカという少女が銀と会っているらしい。
こんな殺し合いの場においても強姦をしようとする男だ。
銀のことを知り、見つければ殺さずにどこかに確保している可能性は高い。
ならば、それを聞きだす必要がある。

「...でも、もしこいつがその銀って人を見つけてたら、その...」
「それがどうした。あいつがどんな目に遭っていようが、あいつを助けない理由にはならない。俺は必ず銀を助ける」

言いにくいように言葉を澱めるクロエだが、それを理解した上で黒は言い切った。
クロエは、いつでも冷静なように見えた彼の本当の人間性を垣間見たような気がした。



ふらふらとおぼつかない足取りのさやかを、キリトは支えようとする。

「...大丈夫。ちょっと疲れただけだから」

キリトの助けを断るさやかだが、やがて魔法少女の衣服が解け、再び全裸になってしまう。
驚きの声を上げるキリトに見られてしまうが、いまのさやかには身体を隠す余裕もない。
感覚の遮断は、決して無敵ではない。
使えば使うだけ魔力は消費され、疲労も溜まりやすくなる。
感度の暴走でより消耗させられた体力のツケが、ここにきて周ってきたのだ。

(とりあえず...服がほしいな)

そんなことを漠然と考えながら、美樹さやかは意識を手放した。


「え、えっと...」
「あんた、ちょっといいか?」

突如全裸になって倒れたさやかに戸惑っていたキリトに、タツミが呼びかける。

「その、悪いけどさ、俺たちをあの黒コートの人たちのところまで連れてってくれないか?」

いまのタツミには身体をロクに動かす力も残っていない。
未だに残っている感度の暴走は、動くだけで体力を削られてしまう。もちろん、運ばれる際に触れられるだけでもだ。
しかし、それは黒の近くで横たわる三人も同じ。
特に鳴上は、これ以上体力を消耗すれば本当に死んでしまう可能性もある。
あの三人を放置して黒たちだけを呼ぶこともできないため、タツミが限界まで我慢するしかない。

「運ぶって...動けないんだな。わかった」
「うああっ!」
「えっ?」
「だ、大丈夫だ。気にしないでくれ」


感度が暴走しているとはいえ、男に抱かれて感じてしまう。今までにはなかったことだ。
『大丈夫だ、すぐに良くなる』
『これだけ女が揃っている中で誰にも興味を示さない。つまり隠された選択肢が出てくるというわけだな!?』
『俺もさ、始めは興味なかったんだけど、従軍中に色々あってさ』
何故か、頬を染めながらそんなことを話しかけてくるブラートの顔がよぎるが、いまは置いておく。

「こっちの子は、俺のコートを着せておくよ」
「助かる。今の俺には刺激が...いや、なんでもない」

とにかく、いまは情報交換だ。
いまだ身体に鞭打つ快楽に耐えながら、タツミはさやかと共にキリトに抱きかかえられた。

『はうっ!あ、あの変態は...?』
「黒が気絶させたわ」
『そーですか。いやー、ありがとうございます。これで一件落着ってやつですかねぇ?』
「大丈夫か、戸塚」
「は、はい、なんとか...僕よりも、イリヤちゃんを」
「大丈夫、イリヤ?」
「クロ...私...っ!?」

クロエの姿を見て瞳に生気を取り戻しかけたイリヤだが、黒の姿を見た途端、全身を震え上がらせた。

「イヤぁ!来ないで!」
「大丈夫よ、イリヤ。あの人は味方だから」
『あの人はなにもしませんよ、落ち着いてイリヤさん』
「嫌だよ、あのひとは...あのひとは!」


どうにか落ち着かせようとするクロエとルビーだが、イリヤは完全に錯乱していて話をすることすらままならない。

「...クロエ。今は俺がいない方がいいようだ。戸塚たちの介抱とあいつらとの接触は任せた」
「...気が進まないけど、しょうがないわね。で、そいつはどうするのよ」
「イリヤから離れるついでに情報を聞き出してくる。...それと、そこの全裸の男から介抱してやってくれ。そのままだと本当に持ちそうにない」

エンブリヲを担ぎ、背を向ける黒。
わざわざ離れて情報を聞き出すということは、イリヤや他の者には見せられないことであると察し、引き留めることはしなかった。
黒がある程度離れたのを見計らい、クロエはイリヤの肩に手をおいた。

「いい?落ち着いてきいて。あの人はね...」

クロエの眼を見つめると、ようやくイリヤの震えは治まった。


【F-7/一日目/午前】

【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを拷問して銀のことを聞き出す。 知らなければ殺す。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤの変化に疑問。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。


【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大) 気絶
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る! 浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!
各世界の書籍×5、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
0:イリヤと戸塚を浄化する。戸塚は女にする。
1:悠のペルソナを詳しく調べ、手駒にする。
2:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
3:タスク、ブラッドレイを殺す。
4:サリアと合流し、戦力を整える。
5:タスクの悪評をたっぷり流す。
6:クロエもいずれ手に入れる。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます


【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割 、自信喪失
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0~2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:もう誰も死なせたくない。命を投げ打ってでも殺し合いを止める
1:タツミたちをクロエのもとに運び、情報交換をする。

[備考]
※名簿を見ていません
※登場時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
※ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。
※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。



【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(極大)、感度50倍
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:キリトに運んでもらい、情報交換をする。
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺す。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(絶大)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定 、全裸、気絶
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2 ソウルジェム(穢:大)
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:服が欲しい。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
5:エンブリヲは殺す
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。


クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2 基本支給品×2 不明支給品1~3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:イリヤを落ち着かせ、倒れた者たちの介抱及びタツミたちとの情報交換をする。
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
3;キリトには……。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。


イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)  『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、感度50倍
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(感度50倍)
DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1、不明支給品0~1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
1:音ノ木坂学園に向かう。
2:田村、真姫を探し同行させてもらう。
3:花京院、、新一、サリアを探して協力する。
4:黒に猜疑心。もう会いたくない。
5:美遊……。

【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 5/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』
※常時発動型 3/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』


[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。



【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(極大)、黒への信頼 、八幡を失った悲しみ、感度50倍
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。
1:八幡達を探しながら地獄門へ向かう。
2:雪乃達と会いたい。
3:八幡の変わりに雪乃と結衣を死なせない。
4:イリヤちゃん一体どうして……
5:黒さん……



【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(限界寸前)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。





『そこの全裸の男から介抱してやってくれ。そのままだと本当に持ちそうにない』






殺さなきゃ


―――どうやって?


殺さなきゃ


―――どうやって?


殺さなきゃ


―――どうやって?




...殺さ、なきゃ




『イリヤさん!?』

突然のことだった。
イリヤは、なんの前触れもなく無言でルビーを掴み、転身を行う。
なにを、とクロエが問いかける間もなく、彼女を突き飛ばした。
ステッキを向けた先には、大量の汗をかき気絶している鳴上悠

『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』

邪魔となるクロエを除外し、鳴上へと狙いを定める。
ここまでは問題ない。だが、ここで誤算が生じる。
かねてよりの転身での消耗に加えて、エンブリヲに体力をすり減らされていたため、彼女の疲労はかなりのものとなっていた。
ぐらりと身体が傾きかけるが、どうにか持ち直す。
異変に気づき、エンブリヲを捨てた黒がワイヤーの有効範囲まで駆け出す。
タツミたちを抱えたままキリトが駆け出す。
突き飛ばされたクロエもまた、これから起こるであろう最悪のケースを直感して弓矢を投影する。

だが、それでも。
エンブリヲを担ぎ、背を向けていた黒も。
タツミたちを抱えていたキリトも。
突き飛ばされたクロエも。
それを止めるには、誰の反応も遅すぎた。

突きつけたステッキから放たれた光弾は、渇いたコンクリートに鮮血を撒き散らした。




なにも考えられなかった。
これから何が起こるのかも想像がつかなかった。
ただ、このままではいけないと身体が勝手に動いていた。
気が付けば、僕は全裸の人とイリヤちゃんの間に立っていた。
駄目だ、と声をあげることすらできず、立ち上がるのが精いっぱいだった。
これ以上は動けない。なにもできない。すぐにでも倒れてしまいそうだ。
そう認識するより早く、僕の身体はごっそりと削られた。

脳裏によぎるのは、あのとき僕を守ってくれた黒さんの背中。そして、雪ノ下さんを守った八幡の姿。


「ぅぁ...」

戸塚の身体を経由し僅かに軌道が逸れた魔力の弾丸は、鳴上に当たることなく地面を穿った。
戸塚は、削られた胴体を押さえることすらできず、苦悶の声を上げて血だまりに沈む。

「え...なんで、私...」

イリヤは、ステッキを握る己の手と戸塚とを交互に見比べる。
自分が何をしたのか理解が追いつかない。
気が付けば転身していた。
気が付けば戸塚の身体を貫いていた。

わからない。

「い...や...」

わからない。

「あ...あぁ...」

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからなわからないわからないわからないわからな―――――

「ああああああああああぁぁぁぁあああぁああぁああ!!」



絶叫をあげるイリヤ。
彼女へと黒のワイヤーが投擲される。

「死ね...!」

ワイヤーの持ち主は、エンブリヲを投げ捨てた黒。
黒の眼に宿るのは、怒り。そして殺意。
ここまで共に行動し、それなりに信頼を築いてきた同行者に手をかけられたのだ。
理由がなんであれ、許せるはずもない。
イリヤの状態異常のことも忘れ去るほどに、黒は感情的に行動した。

「だ、ダメッ!」

ワイヤーはイリヤを庇ったクロエの腕に絡みつく。
『イリヤが戸塚を撃った』という事実を理解するのに数瞬の遅れが生じ、このままでは黒がイリヤを殺すと確信したからこその行動だ。

「お願い、話しを」

言い終わる前に電流を流され、クロエは悲鳴を上げて気絶する。
あくまでも気絶。
黒は、クロエをイリヤ諸共殺害するほどには冷静さを失ってはいなかった。

「ひっ」

だが、それだけでもいまのイリヤには刺激が強かった。
倒れるクロエを見て、自分も殺されると思い込み、植え付けられた黒への猜疑心は瞬く間に恐怖へと変貌し、家族を気遣う心すらも塗りつぶした。

「いやだああああああああああ!」

イリヤは逃げ出した。
大切な者を救うことからも。
『黒』という殺人鬼からも。
自分が戸塚を刺した現実からも。
なにもかもから目を背けて、イリヤは背を向け逃亡した。

(殺す...!)

黒は確信した。
イリヤは危険な存在だ。
このまま放っておけば、必ず災いを呼び起こすタネになる。
その標的になる確率が高いのは、自分とその関係者である銀。
そして、その確信以上に殺意を滾らせたのは、彼女を気遣っていた戸塚を裏切ったという事実。
黒は、イリヤを殺すべく駆け出した。


「だめ...だよ、へい、さん」


その足を止めさせたのは、ひとつの声。



八幡が殺されたと聞かされたとき、とても悲しかった。
今すぐにでも泣き喚いて、現実逃避ができればどれほど楽だったかと思う。
でも、八幡はきっと雪ノ下さんや由比ヶ浜さんを守りたかった。
自分を犠牲にしてでも守りたいと思っていたはずなんだ。
だから、僕も守りたいと思ったんだ。
雪ノ下さんを、由比ヶ浜さんを、イリヤちゃんを、黒さんを。
そして、八幡の意思を。
...けど、やっぱり駄目だった。
イリヤちゃんは更に怯えてしまった。
黒さんはイリヤちゃんを殺そうとしてしまった。
雪ノ下さんにも由比ヶ浜さんにも一度だって会うことすらなかった。
僕に誰かを守ることなんてできなかった。
僕は役立たずだ。

「へい、さん、おねが、い」

だから、僕のことなんて気にしなくていい。
悲しんでくれなくてもいい。

「みんなを、いりやちゃん、を」

言いかけたところで、咳き込んでしまう。
口から血がいっぱい込み上げてくる。
これ以上、ことばも出せそうにない。

「...わかった。お前の仲間も、イリヤも『助ける』」

よかった、伝わったみたいだ。
...でも、やっぱり悔しいや。
男の子の癖に、こうやって、最期まで黒さんに頼ることしかできないんだ。

「そんな顔をするな。お前は立派な男だ」

そんな僕の思いを察してくれたのか、黒さんは最初にあった時と同じようなことを言ってくれた。
最初に言われたときは嬉しかったけど、お世辞にしか聞こえなかった。
けど、なぜか今回はお世辞には聞こえなくて。
それが、泣きたいほどにうれしかった。

(...ありがとう、黒さん)



「......」

戸塚の最期を看取った黒は、辺りを見まわして状況を確認する。
横たわるエンブリヲ。
自分が気絶させたクロエ。
戸塚が守った気絶している全裸の男。
キリトに抱きかかえられている少年と黒のコートを羽織い気絶している青髪の少女。
イリヤはもうこの場にはいない。
いまこの現状で動けるのは自分とキリトだけだ。

「そんな...俺は、また...」

...いや、違う。キリトはもう動けない。
今回は彼に責任などない。何故なら、全く関与していないからだ。
...そう、彼は何もできなかったのだ。
ようやく僅かでも前へ進める道を見つけたというのに、彼は何もできなかった。
そのショックから立ち直るには、時間を要することは想像に難くない。
現状、動けるのは自分だけだ。

「キリト。お前はここにいる奴らを看ていろ。イリヤは俺が連れ戻す」
「......」

キリトは生気の抜けたような顔で俯いているだけで黒の言葉に答えない。
だが、返答を待っている時間も惜しい。
黒はイリヤの去った方角を見て

瞬間

―――ピュンッ


黒の頬を光線が掠め、地面に着弾した。

「貴様...!」
「ふふっ、驚いているようだね」

光線を放ったのは、パンプキンを操るエンブリヲ。
何故か、先程まで負っていたダメージはほとんど見受けられず、ニヤついた表情で立っていた。

「なぜ私がピンピンしているかって?簡単さ、きみ達が捕まえたこれは私の分身。つまり本体はこちらというわけさ」
「分身だと...!?」
「尤も、分身とはいえタダじゃあないんだが...今回はこの帝具二つに免じて勘弁してあげよう」

エンブリヲは重傷を負っている自身をデイパックに入れ、ついでと言わんばかりに瞬間移動で倒れたクロエのもとへと現れる。
黒がワイヤーを投擲するが、しかしそれは瞬間移動であっさりと躱されてしまう。
黒は、イリヤが走り去っていった方角にクロエをデイパックに詰めこみこの場から走り去るエンブリヲの姿を確認した。

「追うぞ、キリト。エンブリヲは俺が追う。お前はイリヤを追え」
「でも、おれ、おれ...」

僅かにでも決意を固めていた先程とは違い、道に迷ってしまった幼児のように戸惑うキリト。
普段の彼ならば、にべも言わずに黒に合意しただろう。
だが、度重なる不祥事をしでかし、目の前でも命を奪われた彼は違う。
最早、彼には自信など微塵もない。
そして、自信が無ければ行動などできるはずもない。

「行ってくれ」

とまどうキリトの背中を後押しするのは、瀕死同然のタツミ。

「こいつらの介護は俺がする。だから、あんたはあの子とエンブリヲを止めてくれ」
「...俺に」
「できるかどうかどうかなどは関係ない。いまは、お前の力が必要だ」

タツミと黒の言葉を受け、キリトは思い悩む。



俺があの子を止める。

―――できるのか?

今までなにもできなかった俺に

―――できるのか?


俺はモモカを殺してしまった時、逃げた。
現実からも、罪からも、何もかもから目を背けて逃げ出した。
いま思い返しても、死にたくなるほど後悔している。
じゃあ、あの子は?
...ああ、あの子も俺と同じだ。
自分がしたことを認められなくて逃げ出したんだ。
だったら、もう答えは出ている。
もう、俺のような馬鹿は増やしたくない。
その気持ちだけは本当だ。
だから...

「...わかった。俺、あの子を説得してみる」

例え、説得自体が失敗に終ろうとも、これ以上悲しみを増やしてはいけない。
自信などない。
しかし、いまは自分が動かなければならないのだ。


「いくぞ」

黒とキリト。
黒の死神は、交わした約束を守るため。
黒の剣士は、悲しみの連鎖を断ち切るため。
二人の男は、護るべきもののために駆けだした。




【F-7/一日目/午前】


【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷
[装備]:黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×3
[道具]:基本支給品、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:エンブリヲを追い、仕留める。イリヤはキリトに任せる。
1:銀や戸塚の知り合いを探しながら地獄門へ向かう。銀優先。
2:後藤、槙島を警戒。
3:魏志軍を殺す。
4:イリヤに対して...
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリトとは情報交換済みです。



【キリト@ソードアート・オンライン】
[状態]:HP残り5割程度、魔力残り4割 、自信喪失
[装備]:一斬必殺村雨@アカメが斬る!
[道具]:デイパック 基本支給品、未確認支給品0~2(刀剣類ではない)
[思考]
基本:もう誰も死なせたくない。命を投げ打ってでも殺し合いを止める
1:イリヤを説得する。
[備考]
※名簿を見ていません
※参戦時期はキャリバー編直前。アバターはALOのスプリガンの物。
※ステータスはリセット前でスキルはSAOの物も使用可能(二刀流など)
生身の肉体は主催が管理しており、HPゼロになったら殺される状態です。
四肢欠損などのダメージは数分で回復しますが、HPは一定時間の睡眠か回復アイテム以外では回復しません。
GGOのスキル(銃弾に対する予測線など)はありません。
※村雨の適合者ではないため、人を斬ってその効果を発揮していくたびに大きく消耗していきます。
魔力から優先して消耗し、もし魔力が尽きればHPを消耗していくでしょう。



「...すまねえ」

一人残されたタツミが行ったのは、戸塚への謝罪。
自分は動けなかった。彼は動いていた。
自分が動けない間にも、彼は最後の力を振り絞って鳴上を守ってみせた。
目の前でみていたというのに、自分はなにもできなかったのだ。

「...すまねえ」

もう一度だけ、彼に謝り、タツミは決意する。
彼が守った命を守ろうと。彼の死を無駄にはしないと。

(そのためには...)

タツミは、眠るさやかを横目でみる。
さやかは、自分と戦った時、あと一歩というところで目を瞑っていた。きっと殺しに慣れていないせいだろう。

『あんたは殺す。あたしが、この手で...!』

あの時の言葉は、正義感から出た言葉か。それとも、相手がエンブリヲだから慣れるために殺しても構わないと思って出た言葉か。
どちらにしても、一度優勝すると決めた彼女にはロクな結果が待ち受けていないだろう。

美樹さやかは危険だ。文字通り爆弾のような女だ。しかし

(こいつはまだ...殺せない)

自分一人であれば、早々に彼女から離れるなり殺すなりできる。
しかし、この場には守るべき男がいる。
帝具を失い未だに感度が暴走している自分一人では、もしも強襲があった場合に抵抗できない。
だが、それは美樹さやかが敵に周れば同じことでもある。
一応、ソウルジェムは回収しておくが、それでも綱渡りな選択になることには変わりない。
この選択が吉と出るか凶と出るか。
それを知る者は、誰もいない。



【F-7/一日目/午前】

【タツミ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、感度50倍
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、テニスラケット×2、ソウルジェム(穢:大)
[思考・行動]
基本:悪を殺して帰還する。
0:鳴上悠の看病をしつつ、キリトと黒の帰りを待つ。
1:さやかと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:さやかを監視する。さやかに不穏な気配を感じたら即座に殺すが、現状は保留。
3:アカメと合流。
4:もしもDIOに遭遇しても無闇に戦いを仕掛けない。
[備考]
※参戦時期は少なくともイェーガーズの面々と顔を合わせたあと。
※ジョセフと初春とさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
※首輪を解除できる人間を探しています。
※魔法@魔法少女まどか☆マギカでは首輪を外せないと知りました。
※さやかに対する不信感。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(絶大)、ソウルジェムの物理ダメージ(小)、精神不安定 、全裸、気絶
[装備]:基本支給品一式、テニスラケット×2、グリーフシード×1、ほぼ濁りかけのグリーフシード×2
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:やっぱりどうにかして身体を元に戻したい。そのために人生をやり直したい。
0:服が欲しい。
1:タツミと共に西へと向かい、第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でジョセフたちと合流する。
2:いまはゲームに乗らない。でも、優勝しか願いを叶える方法がなければ...
3:まどかは殺したくない。たぶん脱出を考えているから、できれば協力したいけど...
4:杏子とほむらは会った時に対応を考える。
5:エンブリヲは殺す
[備考]
※参戦時期は魔女化前。
※初春とタツミとジョセフの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物と認識しました。
※ゲームに乗るかどうか迷っている状態です。
※広川が奇跡の力を使えると思い始めました。
※魔法で首輪は外せませんでした。




【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:失神、全裸、疲労(限界寸前)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仲間と合流して殺し合いをやめさせる。
0:…………
1:エンブリヲから逃げる。
[備考]
※登場時期は17話後。現在使用可能と判明しているペルソナはイザナギ、ジャックランタン。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。

※戸塚の支給品(基本支給品、不明支給品0~1)が近くに落ちています。


エンブリヲは、黒たちに嘘をついた。
局部を破壊され、電撃を流されたのは間違いなく本物のエンブリヲ。
即ち、いまデイパックに入っているのが本物であり、黒たちから逃走しているのが分身である。
逃走している方が本物だと思い込めば、狙われるのは必然的に分身側になる。
分身が殺されるまでは、本体である自分の安全は確保されるということだ。

(彩加を失ってしまったのは残念だったが、まあ仕方ないだろう。それよりも、イリヤを確保しておきたい)

エンブリヲが目を覚ましたのは、イリヤの絶叫のおかげだ。
黒に投げ捨てられ、頭を地面に打ちつつも見た光景は、血だまりに沈む戸塚と狂ったように逃げ出すイリヤの背中。
詳しい事情はわからないが、なんとなくわかったのは『イリヤが戸塚を殺して逃げ出した』ということだ。
おそらく不慮の事故というやつだろう。
イリヤの精神はすり減っているに違いない。

(だからこそ、御しやすいのだがね)


幼く未熟で、且つ強力な力を持っている。
これほど使いやすい駒はそういないだろう。
調教すれば、立派な僕になるはずだ。
加えて、クロエはイリヤの仲間だ。イリヤが従えばそれに続いて従順になるだろう。
さて、どのように手籠めにしてやろうかと、デイパックの中のエンブリヲは邪悪な笑みを浮かべた。


【F-7/一日目/午前】

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(極大)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(大)
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台 / パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5
[思考]
基本方針:アンジュを手に入れる。
0:イリヤに追いつき、クロエ共々調教する。ついでに黒、キリトから逃げる。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:タスク、ブラッドレイを殺す。
3:サリアと合流し、戦力を整える。
4:タスクの悪評をたっぷり流す。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※能力で洗脳可能なのはモモカのみです。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます
※いま逃げているのは分身です。本体はデイパックの中にいます




【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:気絶、全身に電撃のダメージ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2 不明支給品1~3 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:イリヤを守る。
1:......
2:魔力の補給についてどうにかしたい。
3;キリトには……。
[備考]
※参戦時期は2wei!終了以降。
※ヒルダの知り合いの情報を得ました。
※クロスアンジュ世界の情報を得ました。
※平行世界の存在をほぼ確信しました。
※クロエのデイパックに詰められています。



『止まってくださいイリヤさん!』

ルビーの呼びかけにも答えず、イリヤは己の状態を顧みることもなくがむしゃらに走り続ける。
いまの彼女には何者の声も届かない。

―――殺した。

(ちがう!)

―――わたしは、この手で殺した

(ちがう!)

―――あんなにも心配してくれた戸塚さんを殺した。

(ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!)

彼女が選んだのは逃避。
本来の彼女なら有り得ない選択肢だ。だが、エンブリヲと『心裡掌握』がもたらした結果により、彼女の精神はこれ以上なくかき乱されていた。
『心裡掌握』が解けたとき、彼女は戸塚彩加を殺したという現実と向き合うことはできるのだろうか。



【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(極大)、『心裡掌握』下 、美遊が死んだ悲しみ、黒に猜疑心、精神不安定
[装備]:カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:ディパック×1 DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ DIOのサークレット 基本支給品×1 
不明支給品0~1 美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本:クロと合流しゲームを脱出する。
0:もうなにもわからない
1:音ノ木坂学園に向かう?
2:田村、真姫を探し同行させてもらう?
3:花京院、、新一、サリアを探して協力する?
4:黒に恐怖心。もう会いたくない。


【心裡掌握による洗脳】
※トリガー型 4/8時間経過
『アヴドゥル・ジョセフ・承太郎を名乗る者に遭遇した瞬間、DIOの記憶を喪失する』 
『イリヤ自身が「放置すれば死に至る」と認識する傷を負った者を見つけた場合、最善の殺傷手段で攻撃する』
※常時発動型 2/6時間経過
『ルビーの制止・忠告を当たり障りのない言葉に誤認し、それを他者に指摘された時相手に対し強い猜疑心を持つ』

[備考]
※参戦時期は2wei!の調理実習終了後。
※『カレイドルビー』の制限は、自立行動禁止、引き出せる魔力の絶対量低下。
※『カレイドルビー』には、誰でも使える改造が施されており、さらに吸血鬼の血を吸った事で何がしかの不具合が起きているようです。
※アカメ達と参加者の情報を交換しました。
※黒達と情報交換しました。
※イリヤがどこへ逃げたかは次の方にお任せします。



【戸塚彩加@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 死亡】


時系列順で読む
Back:災厄の紅蓮は東方に消え… Next:死への旅路


094:黒色の悲喜劇 エンブリヲ 119:調律者は人の夢を見ない…
鳴上悠 116:ダイアモンドの犬たち
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 120:さまよう刃
戸塚彩加 GAME OVER
クロエ・フォン・アインツベルン 119:調律者は人の夢を見ない…
キリト 120:さまよう刃
079:黄は止まり青は進む タツミ 116:ダイアモンドの犬たち
美樹さやか
最終更新:2015年11月22日 22:22