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奈落の一方通行 ◆BEQBTq4Ltk


骸が黙って風を受ける。
彼女らの視線の先には民宿があり、現在探索を行っている主人を待つ。

一人と一匹は声を発することもなく、微動だにしない。

天輝く太陽の日差しを浴びながらも、生命の息吹を何一つ感じさせない。
八房に生涯を絶たれた敗者に明日を夢見る資格など無い。

生前にどんな活躍をしようが、どんな未来を描こうが、死んでしまえば過去の存在となる。


「本当に気色悪い人形達だね、これ」


民宿から出て来たエンヴィーが言葉を飾らないで骸に吐き捨てる。
人造人間に不快を与えるほどに、生を彷徨う敗者は何も、しない、出来ない。

「それでも侵入者の監視は出来る……と言っても進展は何一つありませんでしたがね」

ホムンクルスの後に登場したキンブリーの口ぶりから民宿には何も無かったようだ。
帽子をかぶり直すと、骸の横を通る。
主が移動したことを確認すると、死体達はまた黙ってその後を追う。

「感情も持ち合わせない指示待ちじゃ人間なんて呼べないねぇ……生き恥を晒しているだけじゃん」

電車に乗り込んだ生者二人と敗者達。
広川の放送に耳を傾けるため、適当に座席へ腰掛ける。

流れる放送で特筆すべき点は首輪交換制度になる。
停車中の電車内で耳を傾けていたキンブリーとエンヴィーの表情は固くも緩くもない。
彼らにとっての大切な存在が会場に招かれている訳でもなく、誰が死のうが感情が揺らぐことなどない。

「鋼のオチビさんは呼ばれてないのか」

気になる点と云えばアメストリスで散々交戦を重ねてきた錬金術師ぐらいだろう。
知り合いの名前も半数がホムンクルス側の人間であり、例え彼らが死んでもどうでもいい。

「きっと彼の信念を守り抜いて行動していることでしょう。
 常識も倫理も価値観も通じないバトル・ロワイアルでどこまで貫けるか見ものですね」

エンヴィーの声に対しキンブリーは微かに嗤いを含んだ声を飛ばす。
敵であれどエドワード・エルリックの持つ信念と貫き通す意思は美しい。
人間の枠に収まる彼が殺し合いを打破するべく、通常に機能しているならさぞ潰しがいがあるだろう。
電車の中には彼らの声が響く。少女と犬の骸は何も話さない故に。

「それにマスタング大佐とウェイブも……高坂穂乃果に花陽って呼ばれてた女と………………」

「瞬間移動を操る少女……黒子と呼ばれていたことから白井黒子
 まさか誰も死んでないとは……運が良いのやら悪いのやら解りませんね」

「せっかくマスタングの奴に罪を擦り付ける形で一人殺したのにつまらないなぁ」

「今更たった一人の人間を殺したぐらいで揺らぐ存在でも無い話ですね。
 イシュヴァールを生き抜いた彼なら尚更だ。一緒に居たウェイブも白井黒子も本質は知りませんが状況をちゃんと理解していた」

鋼の錬金術師ともう一人招かれている敵が焔の錬金術師――ロイ・マスタングである。
一度、エンヴィーは二度であるが交戦を重ねており、その一団は誰一人として死んでいないようである。
あの場では氷を操る鳥と奇妙な触手を操る男も襲来していたが、随分と運の良いことだ。

「つまらないなぁ……人間ならそのうざったい感情に駆られて憎しみで殺せばいいのに」

「生と死に隣り合わせで立っていない高坂穂乃果と小泉花陽の二人しか取り乱すことは無いでしょう。
 一緒に行動しなくても彼女達をフォローするか、マスタング大佐と引き離せば表面上は回復の兆しを見せますからね」

参加者も絞りを掛けられてくる半日が経過している中、交戦した集団から死者が出ていないのは少々驚きとエンヴィー。
しかしキンブリーは想定通り……かどうかは不明だが、何も感情を示さない。

(このまま生きていくのもまた彼らの人生……散るまで精々足掻いてもらいましょうか)
「さて、このまま電車に乗れば首輪交換制度の場所である闘技場まで行けますね」

話題を変え主催から提案された首輪交換制度。

「首輪を持っているのはお前だろキンブリー、試すのかい?」


「それなんですが……エンヴィー、貴方は一人で闘技場に向かってもらいたい」


予期せぬ提案に固まるエンヴィーは黙って話の終わりを待つ。





「このまま二人仲良く電車に乗っていても面白みも何も無い。
 手を組んでいるならば別れて行動するのも悪く無い……天城雪子の首輪は貴方に渡します。
 少々惜しいですが私には八房で得た二体の骸がある……つまり首輪を二つ所有していることと同義」

「別に構わないけどお前はこれから何処に行くんだよ」

「民宿で若干時間を潰した後、北上しようかと」

キンブリーの提案に特段反対する意見は無い。
どう行動しようが勝手であり、共に動いていたのも同胞の好に近い。

興味も何も無く、どうでもいいと云った表情を浮べながらエンヴィーはキンブリーから天城雪子の首輪を受け取る。

「大佐に焼き殺された次は武器と交換か……全く同情するよお前には」

皮肉の一つを零しつつ天に居るであろう彼女に嗤う。

「首輪交換制度ですが主催と接触出来るなら情報を聞き出して置いてください」

「それぐらい解ってるさ。それで、次の合流はどうする」

「私も北上のついでに武器庫に趣き首輪交換制度を試すつもりでいます。
 両者の中間地点から考えるに……次の放送を終えた四回目の放送時に図書館で待ち合わせといきましょう」

決まりだね、言葉を返したエンヴィーは座席に座り込み足を組む。
外を見つめると北から煙が上がっており、何処も争い事に欠けないようだ。

扉に手を翳し外へ出ようとするキンブリーは一瞬止まると、

「私の錬成で直ぐにこの電車を動かしましょう。
 それでは――何に祈るかは解りませんがまた会う日まで」

それだけ言い残し、彼を追うように骸が付いて行く。








「これで電車は動き出す」

錬成エネルギーを流し込まれた電車は間を置かずに東へ走り出した。
見送るキンブリーが目指す場所は近場にある民宿。主に散策をメインとする短い滞在になりそうだ。

北から上がっている煙を見れば流石はバトル・ロワイアルと言うべきか、どこもかしこも騒乱に満ちている。
電車に乗っているだけでは興が削がれてしまう……と、此処で一つ想定外の出来事が発生する。

「おやおや別の車両に誰か乗っていましたか……これは彼に悪いことをしてしまった」

走り去る窓に一人の男性が映る。
今となってはどうでもいいことだが、悪いことをしてしまったと感情の篭ってない謝罪が風に消える。

ホムンクルスと同じ電車に乗っている……一般人ならば考えるだけでも恐ろしい。

「人が簡単に消えて行く会場で貴方達はどうしますかね」

お父様の元に強力するホムンクルスを相手に戦ってきた二人の国家錬金術師。
色や性質は違えど両者共に、芯を持っている強い人間だ。

「私達も知り得ない規格外の人外が蔓延る中で何処まで人間は抗えるのか」

前を歩くキンブリーの背後には二体の骸が黙って付き添う。
言葉も感情も持たないが、強さは一級であり、死体の面から見ても最悪の兵器と云えよう。

「その信念を何処まで貫けるか……樂しみにさせてもらいます」

民宿の扉を開けても、数分前と同じように人の気配は感じない。
潜んでいる可能性もあるが、危険が無い場所などあり得ない。



「それはそうと……貴方も私達と同じ立場の参加者ですからね。
 自分だけ賢者の石で回復――とは卑怯だと思いませんかね、ホムンクルス」



キンブリーの声が風と共に東へ流れる。
その先は電車、彼が錬成エネルギーを流し込んだ電車。

総ては平等に――少しの遊び心で時限爆弾に錬成し直した電車。


「別に此処まで来て貴方達と協力する義もありません」


言葉を聞くは脱落した敗者達のみ。



【東に向かう電車内/1日目/日中】


※キンブリーによって電車が爆弾と化しました。
※爆発時間はおよそ二時間後。
※但し、衝撃等外部からの干渉で爆発する可能性あり。
※もしかしたら速度が速くなったり遅くなったりしているかもしれません。後の書き手さんにお任せします。


【エンヴィー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ニューナンブ@PERSONA4 the Animation、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[道具]:ディパック、基本支給品×2、詳細名簿、天城雪子の首輪
[思考]
基本:好き勝手に楽しむ。
0:闘技場で首輪交換制度を試す。
1:色々な参加者の姿になって攪乱する、さしあたってはウェイブ。
2:エドワードには……?
3:ラース、プライドと戦うつもりはない、ラースに会ったらダークリパルサーを渡してやってもいい。
4:強い参加者はキンブリーに大佐たちの悪評を流させて潰しあわせる。
5:キンブリーとは四回放送時に図書館で合流。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※電車の爆弾化には気付いていません。


【D-7・民宿入り口/1日目/日中】


【ゾルフ・J・キンブリー@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(小)、高揚感
[装備]:承太郎が旅の道中に捨てたシケモク@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダーズ
[道具]:ディパック×2 基本支給品×2
    躯爆弾・クロメ@アカメが斬る! 帝具・死者行軍八房@アカメが斬る!、躯人形・イギー@現地調達 流星の欠片@DARKER THAN BLACK 黒の契約者
[思考]
基本:美学に従い皆殺し。
1:民宿で休憩後、北上する。
2:ウェイブと大佐と黒子は次に出会ったら殺す。
3:少女(婚合光子)を探し出し殺す
4:首輪の解析も進めておきたい。
5:首輪の予備サンプルも探す。
6:余裕があれば研究所と地獄門を目指す。
7:武器庫で首輪交換制度を試す。
[備考]
※参戦時期は死後。
※死者行軍八房の使い手になりました。
※躯人形・クロメが八房を装備しています。彼女が斬り殺した存在は、躯人形にはできません。
※躯人形・クロメの損壊程度は弱。セーラー服はボロボロで、キンブリーのコートを羽織っています。
※躯人形・クロメの死の直前に残った強い念は「姉(アカメ)と一緒にいたい」です。
※死者行軍八房の制限は以下。
『操れる死者は2人まで』
『呪いを解いて地下に戻し、損壊を全修復させることができない』
『死者は帝具の主から200m離れると一時活動不能になる』
『即席の躯人形が生み出せない』
※躯人形・イギーは自由にスタンドを使えます。
※千枝、ヒルダと情報交換しました。


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103:災厄の紅蓮は東方に消え… エンヴィー 144:見えない悪意
ゾルフ・J・キンブリー 136:正義の味方
最終更新:2015年12月11日 02:34