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足立透の憂鬱Ⅱ ◆dKv6nbYMB.
「やっちゃったなぁ...はぁ」
無事にあのクソガキどもから逃げることができた俺、
足立透は後悔と共に深い溜め息を吐いた。
それは、そもそも追われる原因となったまどかちゃんを殺したことへの罪悪感。などでは当然なく...
「これからあのクソガキたちだけじゃなくて、あのクソ女からも逃げ回らなきゃいけないんだよなぁ...メンドクセェ」
そりゃあ、殺人者名簿とかショットガンとか、ようやくマトモな物をゲットできたのは嬉しかったよ。
けど、歩いてるとだんだん気持ちが落ち着いてきて、嫌でもこれからのことを考えようとしてしまう。
放送の時間も近い。まどかちゃんの死は確実に
エスデスたちに知れ渡るだろう。それはいい。問題は承太郎だ。
生きてても厄介だが、仮に承太郎があいつらと合流する前に死んでも厄介だ。
あいつらが死んだことを知れば、エスデス達はこう疑問に思うだろう。
『足立透は何処へ行った?』...ってね。
そりゃそうだ。
魔法少女とかいうゾンビのまどかちゃん、スタンドとかいう便利能力だけでなく無駄に鋭い観察力を持つチート染みた承太郎。
この二人のバケモンが死んで、なんでパンピーの俺が生き残ってるんだって思うのは当然でしょ。
ましてや、アヴドゥルはともかく、ヒースクリフは俺を信用しきってはいないように見えたし、エスデスなんざ、俺がペルソナを隠してたことに薄々勘付いてる気さえしたし。...いや、隠してたわけじゃないんだけどね。
承太郎が生きていればそれはそれで直接事件のことからペルソナのことまで赤裸々に伝えられるだけだ。真実だから弁解の余地もない。
あのコンサートホールが燃え尽きて俺も死んだと思ってくれればラッキーだが、世の中そんなに甘くないだろう。生きてる限り放送で呼ばれないし。
それに、いま思い出したが承太郎の仲間はアヴドゥルだけでなくジョセフとかいう奴もいる。
仮にそいつと接触した奴に『承太郎は悪人だ』って吹きこめば、『そもそもお前が悪人だからそんな目に遭ってるんじゃないのか?』って思われること間違いなしだ。
百歩譲っても、ジョセフと承太郎のことで疑心暗鬼になってくれれば儲けものってのがいいところだ。俺を信用することは期待できないだろう。
それに、『あいつ』と
里中千枝の存在もある。
わざわざテレビの中まで追ってくるような奴らだ。もう俺の悪評を流している可能性は十分に高い。
エスデス、承太郎、ほむら、セリュー。あと元々の知り合いの『あいつ』と里中千枝、更にはこいつらと接触したであろう奴ら。
俺の敵多すぎだろ。しかもどいつもこいつも厄介だし。
「...あれ。おれ、詰んでね?」
...いやいや、俺だってそこらの考えも無しにまどかちゃんを殺したつもりはないよ?
あそこで殺さなきゃ、エスデスたちが帰ってきた時に厄介な連中が六人に増えちゃうからタイミングは悪くなかった。
あの六人相手だとペルソナを使えても勝てる気がしない。
それに、あの状況ならまどかちゃんが死んだのは花京院の最後のイタチっ屁って考えるのが普通でしょ。
あわよくば、怒った承太郎がなんらかの方法でまどかちゃんを殺したと思い込んだほむらが承太郎と同士討ちなんて期待できるじゃん。
どっちか片方でも消えてくれれば万々歳、せめて両方とも重傷を負ってくれればそれで充分だったんだよ。
まあ、それは悉く見破られちまった挙句、こんな目に遭ってるんだけど...ほんと、これだからクソガキってウゼェわ。
(まあ、なっちゃったもんは仕方ないか。幸い、ペルソナは使えるようになったし、殺人者名簿なんてものも手に入ったし)
現状は確かに悪い。だが、手段が全く無くなったわけじゃない。
正義ヅラした連中に潜り込むことができなければ、殺し合いに乗った参加者の懐に入り込む選択肢もある。
いまのところ他の参加者から警戒されている・殺し合いに乗っていると判明しているのは、後藤、DIO、
魏志軍。
後藤はモンスターらしいから論外。誰がそんな奴と組めるかよ。
DIOは吸血鬼らしいけど、人間を部下にしたりしてるぶん、後藤よりは話も通じやすいはず。上手くやればエスデスや承太郎とぶつけて潰しあわせれるかもしれない。...餌と見られたら終わりだけど。
魏志軍。まあ、いまのところ一番組みやすそうなのはこいつかな...魔法少女とスタンド使いを圧倒できるほど強くはなく、ピンチになったら逃げるくらいの判断はできる奴だ。隙さえ見せなければ従えることもできそうだし。
(そんな綱渡りな方法、できればとりたくないけどね)
いまのところの選択肢は図書館か駅だ。
地理的には図書館の方が近い。
それに、図書館は多くの一般人が知っている施設だ。わかりやすい合流場所としてここを選ぶ可能性もあるだろう。
ただ、問題はやっぱり承太郎たちだ。
承太郎、ほむら、セリュー。かなりの強さで、マガツイザナギが使えても追い詰められてしまった。
例え、図書館の一般人を味方につけても、そいつらがこいつらに敵う姿が全く想像がつかない。
仮に一般人を人質にするとしてもだ。奴ら、特にほむらには通用する気がしない。絶対あいつ人質なんざ無視して俺を殺しにくるって。
だったら素直に逃げた方がいい。あいつらもあいつらで五体満足じゃないしね。
余計な体力を使わなくても済むし、運が良ければあのクソガキ共とは関わらずに済むかもしれない。
そうやって、面倒なことは避けて生きるもんなのよ、大人って。
そういうわけで、俺は進路を駅へと決定、つまり承太郎やエスデスたちのいない南側へ向かうことにした。
☆
駅に辿りついた俺は、とりあえず周辺とホームを調べてみることにした。
(ごめんくださぁ~い、誰かいませんかぁ?)
勿論、声には出さない。そんなことして不意打ちかまされて死亡、なんて展開は間抜けすぎる。
ゆっくりと、警戒しながら建物を物色していく。
いまのところ、なにも見つからないし誰にも会わない。
「おっ...とと」
突如、眩暈に襲われる。頭もクラクラするし、なんだか身体もダルく重たくなってきた。
コンサートホールでの承太郎の一撃に、ほむらの羽根、加えてあいつらから受けたマガツイザナギを介してのダメージが今さら響いてきたのだろう。
むしろよくここまでもったものだ。
(疲れてんのかな、俺。...喉も結構渇いてきたし)
とりあえず水分補給をして喉と頭を潤そう。
俺はデイパックからペットボトルを取り出し、キャップを空け―――
「...いやいや、流石にこれはない」
ペットボトルに蓋をする。
コイツには毒が入っている。うっかり口を付ければまどかちゃんと同じように悶え死ぬこと間違いなしだ。
足立透、自ら仕込んだ毒入りの間接キスでうっかり死亡。この会場の中で最も間抜けな死に方になるだろう。
(よく考えたら、このままだと水が飲めないんだよな)
いま持っているペットボトルは一本だけ。
洗って使おうにも、ペットボトルに付着した青酸カリが落ちるかどうかなんてわからない。
そんなもの誰が好き好んで使うものか。
トボトボと歩く俺の目に止まるのは、駅員室の表札。
(はぁ...捜索は後回しにしよ。一旦休憩した方がいいわ)
そうして俺は、安息と新しいペットボトルを求めて駅員室に入るのだった。
☆
洗面所にテーブルにテレビに冷蔵庫。
畳みのしかれた駅員室に置いてあるのは最低限生活に必要なものだけだった。
洗面所の蛇口の栓を捻ると、水が出ることが確認できた。
俺はとりあえずそれで喉を潤し、部屋の中を物色する。
結論だけ言おう。なにもなかった。
冷蔵庫に中にはペットボトルも食糧もなかった。
なにか代わりに使えるものを求めて、俺はデイパックの中を探した。
見落としているだけでなにかあるかもしれない。そんな淡い期待を込めて手にしたのは、空の水鉄砲。
「...この際、欲張ってられないか」
水鉄砲に水を入れ、ペットボトルの代わりにする。
ゴミ同然だと思っていた水鉄砲にこんな使い道があったのはよかったが、ペットボトルよりも入れられる量はかなり少ない。
頼りないにもほどがある。
俺は何度目か分からない溜め息をつきつつ、畳にゴロリと寝そべった。
「...ほんと、メンドクセェな」
何度目になるかわからないこの呟きと共に、殺し合いについて思いを馳せる。
そもそもだ。俺は優勝を目指しているとはいえ、別に殺しに興味があるわけじゃない。
警察になったのは合法的に拳銃を持てるから。山野や小西をテレビに入れたのはムカついたから。
けど、それだけだ。結局、拳銃で殺したことなんてないし、山野のときは死ぬとは思ってなかった。小西の時だって、カッとなって入れちまっただけだ。
殺しについては特になんの感情も抱いてない。『ムカツく奴がイタイ目に遭ってるのがスカッとする』。そんな、誰でも持ってる当たり前の願望を叶えただけさ。
そんな俺を殺し合いになんか巻き込んで、広川のやつはなにがやりたいんだか。しかも、乗り気になったらなったでペルソナを封じるわ支給品はカスみたいなもんだわ。
洒落にならねえよマジで。
そういうのはエスデスみたいなキチガイにやらせておけばいいんだ。
俺はもうあのテレビの中に帰って人類がシャドウになるのを待たせてもらいたいよ。
そう、此処に連れてこられる前に、あのガキ共に追い詰められたときみたいにさぁ。
こうやって、テレビの中に入って...
「...な~んちゃって。ペルソナを封印できるような奴だ、この力も封印されてんだろ」
俺は冗談半分でテレビへと手を伸ばした。
やっぱ入れないよチクショウ。こういう時はむしろ入れてあれっ?ってなるはずだろ。
偶然にも俺の一挙一動を見ることができて推理できた承太郎とは違い、俺に偶然はないらしい。
広川のやつ、俺のこと露骨に嫌いすぎだろ。せめて他の参加者と同等に扱えや。
「...いまごろ、『あいつ』はどうしてんのかなぁ」
他の参加者について触れるにあたって、ふと、なによりも気にくわない『あいつ』のことが気になった。
俺と同じく連れてこられた『あいつ』。何も無い俺とは違って、なにもかもを持っていた『あいつ』。
ここに連れてこられる前と同じように、人助けと称した自己満足をしているのだろうか。
俺とは正反対な奴だ。ひょっとしたら、支給品から同行者までクソな状況だった俺とは違い、何から何まで恵まれているのかもしれない。
逆に言えば、だ。じわじわと運が向いてきている(気がする)俺に反比例して、『あいつ』は運が無くなってきているかもしれない。
まさかとは思うが、まどかちゃんみたいにパニくって人を殺しちまったのだろうか。
そうだったらお笑いだ。...まあ、ないだろうけどさ。
(...ま、少なくとも放送で死んだかどうかはわかるんだ。今さら気に掛けることでもないか)
いまの調子で戦いになれば正直厳しい。またあのバケモン共のような奴らに囲まれれば今度こそ殺されるかもしれない。
二回目の放送の時間も近い。行動するのはそれからでもいいだろう。
重たくなる目蓋にどうにか耐えつつ、俺はあのクソ主催の言葉を待つことにした。
【D-6/一日目/駅員室/昼】
【足立透@PERSONA4】
[状態]:
鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ、右頬骨折 精神的疲労(中)、疲労(大)
[装備]:MPS AA‐12(残弾6/8、予備弾層 5/5)@寄生獣 セイの格率、フォトンソード@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:対主催に紛れ込んで承太郎と
暁美ほむらの悪評を流す。無理ならゲーム肯定派と手を組む(有力候補は魏志軍)。
1:ゲームに参加している鳴上悠・里中千枝の殺害。
2:自分が悪とバレた時は相手を殺す。
3:隙あらば、同行者を殺害して所持品を奪う。
4:エスデスとは会いたくない。
5:DIO...できれば会いたくないし気が進まないけど、ねぇ。
6:放送を聞くまで積極的な行動は避ける。
7:殺人者名簿を上手く使う。
8:承太郎死ね!広川死ね!
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です
※
DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
最終更新:2015年11月02日 10:55