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To the other side ◆fuYuujilTw


先ほどまで親友が死んだということを消化できないでいた彼女も、西木野真姫の慰めと時間によって少しばかりは癒されたようであった。
……2人の目は先ほどとは少々異なっていた。私が言うのもなんであるが、2人とも重い悲しみを背負うには少々若すぎるのではないかと思っていた。
人間という生物はやはり私が考える以上に面白い。特にその関係は。西木野真姫と初春飾利は同じ少女だというのもあるのだろう。
しかし私は声をかけられずにいた。単純に、迂闊な言葉は彼女を傷つけるのではないかと考えたからだ。西木野真姫は声をかけた。
西木野真姫と初めて会った時のことを思い出す。確かにこのような場に放り込まれて、初対面の参加者に対して落ち着けという方が無理なのは分かる。
ただ、彼女はそうでなくともどちらかというと人見知りをする方であると思っていた。だからこそ、彼女の行動は少々意外であった。
純粋な合理性などからは推し量ることの難しい人間の行動。人間というのはその揺らぎがあるからこそ、愚かであるように見えると共に面白いのではないか。

私たちは情報室にいた。
”田宮良子”であったころ、特に担任などを受け持っていた訳ではなかった。そのため、こうやって学校の中で中高生と向き合うのはどこか懐かしくもありながら新鮮であった。

「初春さん、あなたが思うにこの殺し合い全体を管轄するコンピュータが存在すると言う訳ね」

「そうですね……」

話を聞くところによると、彼女の住む学園都市の技術は我々の知るそれを凌駕しているらしい。誰でもその世界の常識に依拠して考えるのは至極自然なことであろう。
私や西木野真姫の常識の範疇にあれば、どれほど優れたコンピュータであったとしてもそこまで万能であることはないだろうと考えるものだ。
だから私たちよりも優れた技術を知っている彼女の言っていることは理解できる。

「それで初春さん、先ほどここで色々試してもらったみたいだけれども、どうだったのかしら」

「とりあえず分かったこととして、会場全体の色々な場所へネットワークが敷かれているようです。インターネットの接続なんかは遮断されているので、ネットワーク自体は外部から隔絶されています。
ただメインコンピュータが会場のどこに設置されているかは私でも分からないんです……」

初春飾利のような情報分野に明るい人間をも参加させているのだからわざわざ殺し合いを易々と止められるような真似はしないだろう。

「ネットワーク上に何かファイルやアプリケーションはあるの?」

「ええ。でもやはりパスワードがかかっているんです。ごめんなさい……私もハッキングには自信があるんですが、パスワードって単純だけど強力なセキュリティなんです……何か手がかりがなければ……」

持ち物も確認してみたが、流石にパスワードを記した紙などはなかった。
パスワードを間違えた瞬間に首輪を爆発させられるかもしれない。わざわざそのようなリスクを冒すこともない。

「それとさっき見つけたスピーカーですけど、各場所に設置されているコンピュータで制御されているみたいです」

放送があったときにその放送源を探したところ、様々な場所に小さなスピーカーが設置されているのが分かった。
超常的な力をうたう割には意外と理解しやすい方法に頼るものだ。
コンピュータにせよ、このスピーカーにせよ、壊されてしまったら進行に支障が出るのは間違いがない。
つまり、主催者側とて万能ではない。何らかの技術体系に頼らざるを得ない存在。
技術というのは案外脆いものだ。
だからそこを突けばあるいは――。


先ほどの放送があったときに、少々気になる部分があった。

ーーー身体の構造上、首輪を外せる術を持っていると思い込んでいる者がいるようだが、当然ながらそれにも対策を講じてある。
試すのは勝手だが、そのことを頭の片隅に置いておいてほしいとだけ言っておこう。


この首輪には爆弾が埋め込まれているらしい。
そもそも首輪の役割自体はなんだろうか。すぐに思いつくのは参加者を意のままに操る手段。
命を握っていると脅されれば、殺し合いに乗る参加者もいるのではないか。
また参加者の捕捉。首輪を通じて参加者の会話などを盗聴している可能性も大いにある。
GPSのようにどの参加者がどこにいるかを把握する役割も果たしているだろう。
加えて各参加者の生存状況の確認。装着者の生命活動が停止した場合自動的に首輪の機能を停止するようにしておけば都合が良い。
最初の広川の説明によれば、首輪が爆発する条件は禁止エリアへの侵入、会場の外に出る、首輪の破損、そして主催者側への反抗。
放送内容から推し量るに、広義の意味で主催者側への反抗に含めるのならばともかくとして、首輪の解除自体は死に直結しない可能性がある。
放送の前にはそのようなことは告げられていなかった。
殺し合いを円滑に勧めたいのならば、無理に外そうとすれば首輪が爆発して死亡すると説明しておけばいいだけの話だ。
これが人間ばかりであるのならば、首輪を外すことができない以上そんなことは説明するまでもない。
しかしこの場には後藤のような異形の生物も参加している。
首輪を外せるような身体の構造を持っている参加者は後藤ぐらいしか私は知らないが、
わざわざそんな警告を発するということはその他にも首輪を外しうる参加者がいるのかもしれない。
主催者側からすれば特定の参加者がルール上有利になるという事態は避けたいはずだ。
だから、首輪の解除自体は何らかの手段で可能かもしれないが、そのことは主催者も想定済みなのではないだろうか。
そうなると先ほど考えたコンピュータやスピーカーの破壊も同様である可能性はある。
先ほど危険を承知で一つのスピーカーを破壊してみたが、特に何も起こることはなかった。
やはりコンピュータやスピーカーが破壊されたとしても別の代替手段を用意していると思われる。
首輪の解除と一緒でコンピュータやスピーカーは私のような対主催派にあえてアクセスを可能にして有利になるようにと考えてかもしれない。
どのようなことがあったとしてもゲームの破壊はありえないと考えているのか、それとも希望を見せてもがく様が見たいのか。


この首輪は私の知る技術を凌駕している。
肉体の変化を完全に止めるなどという技術は確立されていない。言ってしまえば生理現象や成長、老化を止めているということに近い。

「初春さん、あなたの知る範囲で、肉体の変化や生理現象、成長を止めたりする技術はなにかあるかしら」

「いいえ、流石にちょっと……でも……学園都市ならそういうものもあるのかも……」

そこで今まで黙っていた西木野真姫が重い口を開いた。

「……こんなことは……言いたくないんです……。でも、やっぱり……、その……いつか首輪を回収する必要はあるんじゃないかと思って……」

西木野真姫にとって非常に辛い決断であったはずだ。
それは彼女の友人やその知人の遺体を激しく傷つけるということを意味する。
これが寄生生物であれば、死体はただの物体であると考えこのような逡巡に至ることもない。
しかし人間はそうではない。

「…………本当にそれでいいの?」

「……決して私たちが勝手に決めていいことじゃないって分かってる……。
死を無駄にしたくないなんて言葉、白々しいと思う……。でも……。本当に、ごめんなさい」

それは私たちに向けた言葉ではなかったのだろう。

私は3人の遺体が安置されている教室に来た。どの遺体もひどく損傷している。
頭部を変形させ、なるべく切り口がきれいになるよう首を切る。床が血で染まる。
そして園田海未の首輪を取り外した。私は3人の手をそれぞれの胸の前で合わせた。
トイレの水道で血を洗い落としじっくり見てみるが、やはり何の変哲もない金属製の首輪のように思える。
そして情報室に戻った。



「初春さん、どうかしら」

「ちょっと私にも……」

「西木野さん、ちょっと私の首輪から何か音がするかみてくれる?」

「えっと……耳を当ててみたんですが、特に何も……」

西木野真姫はμ'sで作曲を担当しているという。聴覚に関しては普通以上だ。
おそらくは防音設計、あるいは最初から音などしない設計であろう。

「少し見苦しいけど我慢してね」

頭部を変形させ、首輪に通す。

「ひっ……!」

初春飾利が声をあげる。
西木野真姫は手で目隠しをしてあげた。

首輪に接触している部分の肉体は変形することができない。
この首輪は機能を停止していない。
そうすると先ほどの仮定が崩れる。
首輪を通じて参加者の生死を判断するという仮定だ。
つまり、参加者の生死は首輪以外の方法で判断される。
例えば心拍音、脳波、その他諸々。
脳や心臓に機械が埋め込まれているなどとはあまり考えたくはないが、有り得ない話ではない。
あるいはそんな必要などないのかもしれない。
例えば脳波自体を信号として飛ばすのだ。
寄生生物同士は信号を発することでお互いの存在を感知することができる。
私にとってはそちらの方が考えやすい。
あくまでも仮定にすぎないが、考慮に入れる必要はある。
また、会場に設置された複数のコンピュータからして、殺し合い全体を統轄するコンピュータの存在はほぼ確実だといってよいだろう

「西木野さん、デイパックを貸してもらえるかしら」

「はい」

「ちょっと離れててね」

デイパックの中から金属バットを取り出して振りかぶり、首輪に思い切り打ち付ける。
大きな金属音が響いた。

「傷一つついてないわね……」

逆にバットの方が少しばかり凹んだほどだ。
衝撃にはかなり強い構造をしているらしい。

(今分かることはこのぐらいか……)



先ほど初春飾利から魔法の話がでてきた。
初春飾利の言う優れた技術分野の話であれば私たちにもまだ想像はつくかもしれない。
彼女の超能力にしても、技術的に開発された側面がある。しかし、魔法などというものは私たちの理解を遥かに超えている。
それはDIOやジョセフのスタンドなる存在も同様だ。魔法少女、スタンド使い。最初の広川の言葉には錬金術といった言葉もでてきた。
私たちの世界の理とは別の理で動いている者がこの会場に存在している。
加えて、参加者間の事実関係の齟齬。
やはり私の世界とは別の世界から参加者が集められているなどとは考えるべきではないか。
それは先ほどの、参加者が異なる時間軸から連れてこられた可能性があるという話とも関係がある。
つまり広川の言う死者の復活とは、単純に死人を蘇らせるのではなく生存している時間軸から連れてくるという可能性だ。
私であれば銃撃を受け意識を失い生命活動を停止させるその瞬間。
主催者側は時間を遡行したりする力を持っている、その方がまだ楽なのではないか。
仮に本当に死者を復活させることができると考えてみる。
それならば最初に上条当麻を見せしめとして殺したときに蘇らせる方が良いのではないか。
主催者側としても、ゲームの開始以前に参加者が減ることは本来望ましいことではないであろう。
加えて自分の言う死者の復活を見せつけることにより、自らの強大さを更に誇示し得るし、殺し合いに乗る参加者を増やすこともできるかもしれない。
あえてそうしないのは、単純な死者の復活はできないかリスクが伴う、あるいは参加者に死んだら終わりだと思わせておきたい。
こういった理由ではないか。


この殺し合いの理由について、私は最初に考えてみた。
例えば広川は自身の目的たる人間の数を減らすため。そしてその見返りとして協力者は己の楽しみのためにこの殺し合いを開かせている。
別にこの例に限らずとも広川と協力者の目的の合致という推測が妥当だろう。
しかし、広川はただの人間に過ぎない。超常的な能力や優れた技術を持っているのは協力者の側と考えるべきであろう。
それならば広川がいなくともこの殺し合いを進行させることは可能だ。
しかしあえて広川を主催者側の代表として選んだことには何か理由があるはずである。
広川の優れた部分は、人間でありながら寄生生物をまとめあげる統率力、一都市の市長選程度とはいえ勝ち抜く求心力、そして自らの主張をどんな手段を用いてでも貫き通す野心である。
例えば常識が異なる存在同士をまとめあげることなどに関してはこれ以上ない適任であろう。
また協力者は何らかの理由で表に姿を見せたくない、あるいは見せられない存在であるのではないか。
姿を見せることで一部の参加者が団結するなどして対処されてしまう。
そのため広川が目隠しとして表に出ているのではないか。
ただの人間である広川がどのような存在であるかを知ったとしても大した得にはならないからだ。

1回の殺し合いで減らせる人間の数などたかが知れている
広川の主たる目的はこの地球上の人間の更に上に天敵を作ることだ。
そのための方法として殺し合いはそぐわない。
例えばなんらかの手段で広川が別の世界の存在と接触したとしよう。
その世界に、我々の世界の人間に対し天敵となりうるような存在がいたとしよう。
その場合広川はこの殺し合いの進行役と引き換えにその存在を我々の世界に連れてくるだろう。
完全な推測でしか考えることはできないが、協力者についても少し考えてみたい。
協力者はおそらく時間を遡行する能力を持っている。様々な世界間を移動しうる能力を持っている。学園都市の技術力にも匹敵しうる高度な技術を持っている。
魔法のような、科学の枠に囚われない力を持っている。協力者がこの全てを有するならば恐るべき力を持っている存在だといえるだろう。
しかし、仮に広川をまとめ役として置いているのならば、協力者は1人ではなく複数人いると考えるべきだ。
つまり、様々な世界から協力者と参加者を集めている。
その場合、協力者毎の目的は様々であろう。
やはり最初に考えたように、複数利害の一致が最も考えやすい。そのとりまとめ役が広川ということだ。
それにしても殺し合いだけが目的ならば、後藤のような戦闘狂ばかり用意させればよいだけの話だ。
つまり、単純な殺し合いをみたいというだけではないのではないか。
そこには共通する何らかの主たる目的が存在するのかもしれない。
その目的は複数の世界にまたがった殺し合いの必要がある何かである。
もっとも広川は単なるお飾りに過ぎず、もっと話は単純なのかもしれないが。


(さて……どうするか……)

先ほど電撃を浴びた時こそ西木野真姫を守ることはできた。
しかし、初春飾利と西木野真姫の2人を守れるかどうかは不安が残る。それこそ後藤のような強大な力をもつ参加者に遭遇したときにどう対処するべきであろうか。
彼女たちを戦いに巻き込むわけにはいかない。そして私の敗北は彼女たちの死をも意味する。
そうなるとやはり戦力となる参加者がいると心強い。初春飾利は2回目の放送の後、別の参加者と合う予定らしい。
彼女の話では、それなりに戦うことはできるそうだ。
先ほど、泉新一は図書館に向かうと言った。あのときに無理にでも同行していれば良かったのかもしれないが、西木野真姫や初春飾利の状態を考えるとやはりそう急ぐことはできなかった。

「初春さんは2回目の放送の後、闘技場へと向かうのよね」

「ええ。そこでタツミさんたちと」

「西木野さんはどうしたいの?」

「私は……ここで待っていてもいいんですけど、待ってても会えるかどうかも分からないし……。一緒に闘技場に行こうと思います」

「そう。じゃああと少しここにいましょう」



しかし彼女たちは知らない。大きな脅威がすぐそこまで迫っているということを。

【G-6/音ノ木坂学院内/午前】

【西木野真姫@ラブライブ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@とある科学の超電磁砲
[道具]:デイパック、基本支給品、マカロン@アイドルマスター シンデレラガールズ、ジッポライター@現実
[思考]
基本:誰も殺したくない。ゲームからの脱出。決意。
1:田村玲子、初春飾利と協力する。
2:穂乃果、花陽を探す。
3:ゲームに乗っていない人を探す。
[備考]
※アニメ第二期終了後から参戦。
※泉新一と後藤が田村玲子の知り合いであり、後藤が危険であると認識しました。

【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品 、首輪、 巴マミの不明支給品1~3
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
1:脱出の道を探る。
2:西木野真姫、初春飾利を観察する。
3:人間とパラサイトとの関係をより深く探る。
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1~3、テニスラケット×2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する。
1:田村玲子、西木野真姫としばらく共に行動する。第二回放送後に闘技場へと戻る。闘技場が禁止エリアになった場合はカジノ、それもダメなら音ノ木坂学院でタツミたちと合流する。
2:黒子と合流する。
3:御坂さんが……
[備考]
※参戦時期は不明です。
※殺し合い全体を管制するコンピューターシステムが存在すると考えています。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※ジョセフとタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※DIOは危険人物だと認識しました。
御坂美琴が殺し合いに乗っているらしいということを知りました。


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初春飾利
最終更新:2015年10月06日 18:44