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Crazy my Beat ◆dKv6nbYMB.



エドワードの壁の錬成により、ジョセフは彼を見失ってしまった。
始めは、アヴドゥルとコンサートホールにいる者たちと合流してからエドワードを探そうと思った。
しかし、ジョセフには不安要素があった。
後藤、御坂美琴―――そして、DIO。
まず、御坂が周囲に響くほどの雷を放たなければならないのは誰か。
自分が遭遇した中で当てはまるのは、後藤とDIO。
両者とも、御坂とは敵対している間柄であり、協力関係を結ぶ可能性も低いだろう。
しかし、敵の敵は味方...という言葉もある。
もしも、エドワードが一人で奴らと遭遇すれば、切り抜けるのは難しいだろう。
特に後藤やDIOは話が通じない相手だ。説得すら不可能。
対して、アヴドゥルの向かうコンサートホールは、承太郎、まどか、ついでに足立という刑事がいる。
何事もなければアヴドゥルは三人と合流でき、花京院について伝え、何事も無く済む。
仮に花京院がコンサートホールを攻めたとしても、承太郎が負けるとは考えにくい。
まどか―――何故だか魔法少女になっているらしいが、平行世界の関係だろう―――の行動によって結果は変わってしまうだろうが、それまでにアヴドゥルが辿りつくことを信じたい。
どちらに向かうのもリスクを伴っている。しかし、どちらがリスクの低い選択肢かといえば...

(...頼んだぞ、アヴドゥル)

彼が選択したのは、エドワードの後を追う事。
ジョセフは知っている。
アヴドゥルは頼れる男だ。時折、熱くなって周りが見えなくなることはあるが、冷静な時の彼は何よりも頼りになる。
それはスタンドの強さだけではない。
彼は、エジプトへ向かう旅の前にDIOに遭遇し、その恐怖を直に体験した。
それでも彼は自らの正義に従い共に戦ってくれた。
それほどにタフな精神を持つのが、モハメド・アヴドゥルという男だ。
彼ならば、コンサートホールで起こるかもしれない悲劇を回避できるはずだ。
ならば、自分はエドワードのもとへ向かうべきだ。
そんな、信頼とリスクの釣りあいを考え、ジョセフは選択した。

...そして、彼はこの選択を後悔することになる。



(クソッ、エドワードはどこへ行ったのだ!?)

探し回ること幾何か。
どこにもエドワードの姿はない。
そして、雷光も全く響かないためどこで戦闘が起きているかどうかもわからない。

(まさか、あの一撃で全てが決まってしまったのか?)

あれ以降雷光が響かないのは、結果はどうあれ決着が着いている可能性が高い。
例えば、御坂が後藤と遭遇していたとする。
あの雷撃はかなりの威力だ。いくら後藤といえどもまともに食らえば命の保証はない。
しかし、あれほどの力を出すということは。おそらく連続して発動するのは不可能。
一撃目さえやりすごしてしまえば、後藤なら隙をついて御坂を殺すことも可能だ。
そして、それはDIOにも同じことが言える。あの一瞬にして消える謎の移動方法があれば御坂を殺すことは充分にできる。
どちらにせよ早くエドワードと合流しなければ...

そんな時だった。

「なっ...!?」

突如、南西の方角から雷光が迸る。

(馬鹿な!?なぜ御坂があそこにいる!?)

エドワードが北へと向かったのは、あの雷光を見たからだ。
即ち、御坂は北部にいる―――はずだった。

(まさかすれ違ったというのか!?くっ、なんて悪いタイミングで...!)

だが、南に御坂がいるということは、北部へ向かったエドワードは無事でいるはず。
ならば、一刻も早く合流し、御坂を追わねばならない。

(まて...あの方角は―――)

なにがあったか。
わかっているはずなのに、脳内が考えることを拒否しようとする。
だが、嫌な予感がするのは確かだ。
あそこにはなにがある、なにが―――

『コンサートホール、です』

サファイアの下した答えに、ジョセフは慌てて踵をかえす。

『ジョセフ様!』
「止めてくれるなよ、サファイア!」
『いいえ、止めません。すぐに向かいましょう!』

コンサートホールにはアヴドゥルや承太郎たちがいる。
花京院はコンサートホールへ向かったのか。
アヴドゥルは間に合ったのか。
承太郎たちは無事なのか。
あの雷光はなにをもたらしたのか。

それらを知るために、ジョセフは駆ける。


だが、『時』は彼を待ってはくれない。


―――ザザッ

ほどなくしてノイズと共に語られるのは、知りたくもない知らなければならない現実。



『では禁止エリアの発表を行う。 この放送後に順次に侵入不可になるエリアは【C-6】【E-1】【G-1】だ』

放送が流れても、ジョセフの足は止まらない。
与えられる情報を無駄にしないよう、しっかりと脳内に刻み込んでいく。

『次に死者の名前を読み上げる』

広川は外で立ち止まることはお勧めしないなどとほざいていた。
しかし、立ち止まる暇などない。
こうしている間にも仲間たちが危機に陥っているかもしれないのだから。

『―――花京院典明

「―――!」

呼ばれる名に、心臓が締め付けられるような感覚を覚える。
しかし、ジョセフは立ち止まらない。
既に、火の手が上がるコンサートホールが見えていたのだから。

『―――鹿目まどか

「ッ...!」

呼ばれてはいけない名前が、また呼ばれた。
それでもまだ彼の足は止まらない。
コンサートホールに残る彼の仲間は、まだ彼の到着を待っているのだから。

そして、コンサートホールに辿りついたとき、彼は見つけた。

見つけて、しまった。


「―――ぉ」


地面に落ちている二つの手。
褐色肌の、逞しい両腕。



『―――モハメド・アヴドゥル』

「――――おおおおおォォォォォ!!」


戦友、モハメド・アヴドゥルの両腕を。




ガッ ガッ

地面を殴りつける音が木霊する。
その音の主はジョセフ・ジョースター。
膝を着き、頭を垂れ、己の拳から血が出るほど殴りつけている。

ただ、悔しさに。悲しみに。怒りに身を任せて。
みくを失ったエドワードと同じように、彼はただ地面を殴りつけている。


(なぜ)

花京院典明。
此処に連れてこられる前からの大切な仲間だった。
彼がいなければ皆が死んでいたことも多くあった。
誠実で、勇気ある立派な少年だった。

(なぜだ)

鹿目まどか。
美樹さやかの友達で、とても優しい子だと聞いていた。
さやかと共に帰ろうと約束したのが、遠い過去のように思えてくる。



(なぜ彼らが死なねばならんのだ!)

モハメド・アヴドゥル。
エジプトで知り合った大切な仲間。
誰よりも、そして彼自身のスタンド以上に熱き魂を持っていた。
真っ直ぐで正義感溢れる男だった。




皆、未来ある若者たちだ。こんな場所で死んでいい者たちではなかった者たちだ。


「う...おおおおおおぉぉぉぉぉ!」

ガツン

一際大きな音を立て、ジョセフの拳はようやく止まった。


『ジョセフ、様』
「...大丈夫。ワシは大丈夫じゃ」

ジョセフは息を荒げながら立ち上がる。

「...お前さんも、呼ばれたんじゃろう」
『...はい』

サファイアの知る名前。今は亡き己の本来のマスター、美遊・エーデルフェルトの友達であり、イリヤの家族でもあるクロエ・フォン・アインツベルンも放送で呼ばれていた。

『...ジョセフ様。私はこれほど自分が無力だと思い知らされたことはありません』

ここに来てから自分はなにが出来た。
自分がついていながら、キング・ブラッドレイに美遊を殺された。
自分がついていたから、美遊の護った園田海未巴マミと共に死んでしまった。
自分がついていながら、御坂にみくを殺す隙を与えてしまった。
自分は生きていながら、イリヤにもクロエにも会うことはできず、結局クロエは死んでしまった。
もう、美遊に顔向けもできやしない、と自らの存在を恥じる。

「ワシもじゃよ。だが、それでも進まねばな」

アヴドゥルの両腕を拾い、燃えさかるコンサートホールへと近づけていく。

火葬。

死者を弔う方法の一つだ。

「すまなかった、アヴドゥル...いままで、ありがとう」


炎の弱い場所を進み、アヴドゥルの両腕を床に横たえる。
本来なら炎の中に投げ入れてしまえばすむことなのだが、アヴドゥルは長年来の親友だ。
そんな友の遺体をぞんざいに扱うことなど、ジョセフにはできなかった。

「...行くか」

踵を返し、コンサートホールを後にする。
その足が向かう先は、エドワードがいると思われる北部―――ではない。

『ジョセフ様、そちらは』
「わかっておる。だがな、彼女が向かう可能性が高いのは南じゃ」

御坂は、能力研究所へ向かう前、図書館で戦力を募ると言っていた。
おそらく戦力にあてがあったのだろう。
それも、御坂と同じく殺し合いに乗った強力な戦力が。
ならば、止めなければならない。
御坂に隙を作り、殺し合いに乗らせてしまった責任をとらなければならないのだ。

『御坂様と出会ったらどうするつもりですか?』

サファイアの問いにジョセフは答えなかった。
否、言葉に出さずともその目を見ればわかる。
そして、こうなってしまった以上サファイアも彼の決意に反対はしない。
むしろ自分も同じ気持ちだ。
ならばこれ以上の言葉は不要。
ジョセフはサファイアと共に、南へとその歩みを進めようとした。


その時だ。





「!?」


突如、轟音が鳴り響く。
何事かと目を向ければ、そこに広がるのは信じられない光景。
スタンドも月までブッ飛ぶような衝撃を憶えた。

目算50m以上の氷柱が隆起し、建物を破壊している。
それだけではない。
なんとその氷柱がへし折れたかと思えば、宙へと持ち上がり、まるで棍棒のように振り回されているではないか!

(オー、ノォー!!ワシはスーパーマンでも見ておるのか!?)

アメリカンコミックさながらの光景を見つつ、ジョセフはその心当たりを考える。
あの巨大な氷柱。ジョセフの心当たりはエスデスとジャック・サイモン。
後者は本名がわからないため、生死不明となっているが、あんなふざけた量の氷を操ることはできないはずだ。
だとすれば、あそこで戦っているのはエスデスに違いない。
そして、怪力を備え、雷光を伴わず、エスデスですらあれほどの力を出さざるを得ない強者といえば...

(間違いない、あそこにいるのはDIOじゃ!)

DIOとエスデス。
両者が強いことは身を持って思い知っているが、それでも彼らの戦いがあれほどのものとは思ってもいなかった。
そして、あれほど派手に暴れれば、間違いなくエドワードはあれのもとへと赴くはず。

そう確信した瞬間、巨大な氷柱が巨大な轟音と共に砕け散り、氷の破片が、水が、冷気を伴った暴風がコンサートホールへと降り注ぎ、その火の勢いを瞬く間に弱めていく。

(冗談じゃない、あんなのに巻き込まれれば一溜りもありゃせんぞ!)

南へと進めていた進路を急きょ変更。
ジョセフは北部へと向かって走りだした。


北部へと走りながらジョセフは思う。

(少々オイタが過ぎたのぉ、お嬢ちゃん)


アヴドゥルの腕の切断面には、焼き焦げた跡がついていた。
そんな跡ができるのは、炎や雷など熱を発するものでしかありえない。
加えて、先に発見した雷光だ。
アヴドゥルが自殺でもしない限りは、下手人は御坂美琴で間違いないだろう。
彼女は、完全にゲームに乗ったと考えるべきだ。
そして、アヴドゥルと御坂にはなんの関連性も無かったはずだ。
なんの躊躇いも無く、目につく者全てを消し去ろうとするのなら。
その対象が、かつての友であろうとも関係ないのなら。
彼女はもう打ち倒すべき敵だ。

(すまんのお、初春...お前さんとの約束は果たせんかもしれん)

ジョセフがエドワードとの合流を後回しにしようとしたのは理由がある。
ジョセフは御坂を止めるつもりでいる。それはエドワードと同じであり、本来ならば彼と合流した方が心強い。
だがしかし、彼と決定的に異なる覚悟がある。
それは、エドワードは決して『殺さない覚悟』を持っており、ジョセフには場合によっては『殺す覚悟』を持っていることである。
おそらく、エドワードと共に御坂に立ち向かい、彼女を押さえることができたとしても、エドワードは決して御坂を殺さないだろう。
だがしかし、その隙を突かれてエドワードと自分が殺される可能性も充分にある。。
御坂が殺しに乗ってしまった責任は自分にある。
だからこそ、この手で止めねばならないのだ。


相手は子供とはいえ、最強ランクの強者。

百年前からの因縁を抱えた吸血鬼にも。

冷静と激昂の怪焔王にも。

古代から来た風纏う天才戦士にも。

全ての生物の頂点を追い求めた石仮面の創造者にも。

今までの『最強』たちにもひけをとらない強敵だ。

(だが―――いつものことだ)

彼の戦いはいつもそうだった。
一見無謀とも思える戦いの連続だった。
しかし、策をろうじて切り抜け、理不尽ともいえる不利を覆し、勝利を掴みとってきたのがジョセフ・ジョースターという男だ。

(久しぶりじゃな...メラメラと湧き上ってくる、この気持ちは...『仁』という気持ちは)

花京院典明。モハメド・アヴドゥル。
戦友二人の死を経て、彼の精神テンションはいま、全盛期のあの頃へと戻っていた。

幾多の『最強』と戦ってきた、血気盛んな戦士だったあの頃へと。


【D-2/一日目/日中】

※コンサートホールの屋根はあまり残っていませんが、炎はだいぶ収まりました。



【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、ダメージ(中) 仲間たちを失った悲しみ アヴドゥルを殺された怒り
[装備]:いつもの旅服。
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-(電池切れ) 食蜂操祈の首輪
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0;衝撃の会った場所(D-1)へと向かい、エドワードの安全を確保してから南へ向かう。単身で向かうか、チームで動くかは保留。
1:御坂を止める。最悪、殺すことも辞さない。
2:仲間たちと合流する。
3:DIOを倒す。
4:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
5:さやかが気になる。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。



[サファイアの思考・行動]
1:ジョセフに同行し、イリヤとの合流を目指す。
2:魔法少女の新規契約は封印する。


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最終更新:2016年01月12日 23:40