157
星屑の戦士たち ◆dKv6nbYMB.
エンジン音を響かせながら、ジョセフと杏子を乗せた車は時計塔への進路を進む。
「なあ、杏子」
徐に、ジョセフが隣に座る杏子へと声をかける。
「お前さんと一緒にいた彼...ジャックはどうなったんじゃ?」
「ノーベンバーか...死んだよ。後藤に食われた」
「...そう、か」
ジョセフの表情に陰りが浮かぶ。
彼の生存は絶望的だとは思っていた。
だが、改めて聞かされるとやはりいい気持ちはしないものだ。
「済まなかった。あの時、お前さん達に後藤を押し付けてしまったのは、ワシらのミスだ」
「あんたらのせいじゃねーよ。あたしとあいつが今なら勝てると踏んで、ヘマうっちまっただけだ」
それによ、と一旦言葉を切り、杏子は言葉を新たに言葉を紡ぐ。
「責任があるならあんたらじゃねえ。あたしだ。ノーベンバーも...アヴドゥルも」
呟かれた名前に、ピクリとジョセフの肩が反応を示す。
「あいつらが死んだのはあたしのせいだ。どっちつかずで中途半端で、周りの奴らにくってかかって、挙句の果てに二回も庇われて命を拾った...情けないったらありゃしない」
「杏子...」
「...大丈夫だ。弱音ならエドに充分吐いた。あとはもう、前に進むだけさ」
重苦しい沈黙が車内を支配する。
その空気を破るかのように、今度は杏子が疑問を口にする。
「爺さんよ」
「なんじゃ?」
「今さらだけど、こんな目立つ方法で移動してていいのか?下手すりゃ、DIOの奴から不意打ちとか食らうんじゃねえの?」
杏子の意見は尤もだろう。なんせ、相手はあのDIO。自分一人では手も足も出せなかった相手だ。
いくら二人がかりとはいえ、正攻法では勝ち目の薄いことは充分わかっている。
ならば、わざわざ相手にこちらの存在を知らせるような真似をすることはない。
勿論、ジョセフもそのことはわかっている。しかし、ジョセフとDIOに限ってはその心配は杞憂となる。
「その心配はないぞ。奴の首から下はワシの祖父の身体でな。その身体にはワシの肩に見える星形の痣があり、一族特有の奇妙な波長を送っておる」
「...つまり?」
「奴に近づけば、ワシの首の痣も反応し、近くにいることが漠然とわかる。奴からの奇襲は防ぎやすいということじゃ。...尤も、ワシの方からの奇襲も難しいがのう」
「漠然ってことは、正確にはわからねえのか?」
「うむ。なんとなく近くにいる、というだけで正確にはわからん。おそらく、奴もそうだろう」
『ですが、敵はDIOだけではありませんよ』
サファイアもまた、杏子の意見に賛同するかのように口を開く。
『御坂様だけではありません。あの後藤も潜んでいる可能性があります。やはりここは車を使用するのは控えた方がいいかと』
「しかしじゃな...」
『DIOを相手にするにせよ、この日が昇っている時が私たちに有利にことを運ぶとは限りませんよ』
「というと?」
『佐倉様、DIOは研究所から出た後で杏子さんに肉の芽を埋めたのですよね?』
「ああ。研究所でケリを着けようとしたけど、あの白い鎧を着たと思ったらそのまま北に逃げやがった。日光が苦手だとは聞いてたから、てっきり我慢して強がってるのかと思ってたが...」
『ジョセフ様、あなたの世界での吸血鬼とは日光に当たれば灰になり、それは我慢してどうにかなるものではないのですよね』
「うむ。お前さんも見たと思うが、太陽のエネルギーを生みだす波紋を受けた時、奴の腕が崩れたじゃろう。DIOにとって太陽は決して浴びてはならない劇薬なのじゃ」
『ですが、DIOは白昼堂々と研究所から脱出した...おそらく、佐倉様の言った白い鎧の効果でしょう。佐倉様、その白い鎧についてなにかご存知ですか?』
「あたしはあれを着てたわけじゃないから詳しくはわからないけど...あれを壊すのは難しい。生半可な攻撃じゃ無理だ。それと、あたしはあれに似た黒い鎧を使ったけど、あれを着てるとなんというか力が漲ってくるんだよ」
「なるほどのう」
ここまで言われれば、無闇に近づくことをサファイアが引き留めようとするのも理解できる。
果たして、DIOが本当に日光を防ぐ方法が無いのか、最初に考えるべきだった。
そもそもだ。DIOがあの
エスデスのものと思われる氷柱を振り回していた時、奴は空―――日光を背に氷柱を振るっていた。
その時点で、如何に日光を防いでいるかを考えるべきだったのだ。
むしろ、下手に日光のもとにさらせば、DIOに切り札ともいえる白の鎧を使わせることとなる。
鎧の能力と吸血鬼の身体能力が噛み合った結果があの巨大な氷柱を振り回したことに繋がっているのなら、正面から挑むのは愚策としかいいようがない。
仮にこの事実を知らずにDIOと戦っていれば、無残に返り討ちに遭っていた可能性は十分に高い。
(イカンな...どうにも焦っちまっておるみたいじゃ)
思えば、エドワードと最初に出会った時以来、ロクに考える時間もとれていない。
如何にあの鎧を掻い潜るか、もしくは鎧を使わせずに倒すか。
DIOの能力はなんなのか。
考えるべきことはいくらでもあるというのに、DIOへの戦いへと臨もうとしてしまった。
若いころでもこんな無茶はしていないだろう。
とりあえず、車を止めようとしたその時だ。
『禁止エリアに侵入しました。制限時間は30秒です。至急、禁止エリアから離れてください』
「むっ?」
突如、二人の首輪からアラームと共に警告が鳴りはじめる。
「そういえばこの道は禁止エリアだったか...うっかりしておったわ」
突然の警告にも一切慌てず、車をバックさせる。
30秒もあれば、その動作で禁止エリアから抜け出すのは容易い。
警告はピタリと止み、ジョセフはふぅ、と息をついた。
「どの道これでは車で先に進むことはできんな。あの森を徒歩で突っ切るしかないじゃろう」
四苦八苦しつつも、どうにかデイパックに車を入れ、一行は森へと足を踏み入れる。
(ここって...)
杏子は、眼前に生い茂る木々に見覚えがある。
最初に
空条承太郎と出会い、不様に敗北した場所だ。
そして、その承太郎はジョセフの親族の間柄である。
「...爺さん、いまの内に言っておくよ」
だから、杏子は正直に話す。
協力者であるジョセフに、後ろめたい気持ちを抱いたままではいられない。
もし、再び承太郎と出会ったときに己の罪を受け入れられるように。
「あたしさ、ここであんたの孫と戦ったんだ。...操られてたとかじゃない。自分の意思でな」
「......」
「別にあいつに恨みがあったわけじゃない。ただ生きるために殺そうとしたんだ」
「...そうか」
それから数瞬の沈黙が二人を包む。
杏子は、ジョセフからの糾弾を待った。
当然だ。自分の孫を襲われれば、誰だって怒りを露わにするに違いない。
「...あいつは強かったか?」
「...ああ。まるで歯が立たなかったよ」
「そうじゃろうなぁ。あいつ、相手がどんなのであれ全く容赦しないからのう」
それから、がさがさと草木を踏みしめて、二人は森の中を進んでいく。
「ま、待てよ。他に言うことはないのかよ?」
「なぜじゃ?」
「いや、ほら...あたしは殺し合いに乗ってた上にあんたの孫を襲ったんだぞ?」
「だが、あいつは大した怪我もしておらんし、お前も誰も殺しておらんのじゃろ。なら、それでこの話は終わりじゃ」
「そりゃそうかもしれねえけどさ...」
「それに、因縁もクソもない敵に狙われるなんざ日常茶飯事じゃ。全部を根に持っていたらキリがないわい」
杏子は首筋に手をやりながら溜め息をつく。
どうしてエドワードといいこいつといいあたしのやったことを責めようとしないんだ。
こんなことなら...
「『いっそ責めてもらった方が楽なのに』か?」
ジョセフの言葉に、ハッと顔をあげる。
「そんな顔を見てれば誰だってわかるわい。じゃが、お前さんがあの子から聞いた通りの子で少し安心したぞ」
「へ?」
「
美樹さやか。お前さんも知っておるじゃろう」
「!あいつと会ったのか...」
美樹さやか。魔法少女の新入りで、
巴マミの代わりに見滝原を守ろうとした少女。
純粋に正義を信じようとしたこいつを見ていると、昔の自分を見ているようで苛立った。
だから、つい喧嘩を売るような真似ばかりしてしまった。
そんな関係だ。どうせ、ロクな評価を吹き込んではいないだろう。
「彼女は言っておったよ。いけ好かないけど、たぶん心底悪い奴ではないとな」
だが、返ってきた返答はあまりにも予想外で。思わず杏子は目を丸くしてしまった。
「どうした?」
「いや、てっきり目の敵にされてるかと思ってたからさ...気にしないでくれ」
「...?」
(悪い奴じゃない、ね。ったく、どの口が言うんだか)
魔法少女の本性を知ったとき。
自分でもなにを思ったかわからなかったが、わざわざさやかの家まで出向いて要らぬお世話をやいてしまった。
結局、さやかは杏子の言葉を拒否し、理解しあうことなどこれっぽちもできなかった。
そのことに苛立ちもしたが、どこか嬉しく思う気持ちもないとは言えなかった。...向こうがどうかは知らないが。
(あいつもまだ生きてるってことは、まどかのことでだいぶ参ってるだろうからな...会えたらいっちょ発破でもかけてやるか)
複雑な表情を浮かべて、考え込む杏子を見つつ、ジョセフは思う。
(...さやかは大丈夫だろうか)
殺し合いに乗った彼女が殺しを思いとどまったのは友人の
鹿目まどかの存在が大きい。
その彼女がいなくなったのだ。...再び殺し合いに乗ってしまう可能性は高い。
おそらく
タツミが付いているとはいえ、どうなるかはわからない。
もしも、彼でも手に負えなければ、さやかを止められる可能性があるのは...
「...なあ、杏子。さやかのことなんじゃが」
そして、ジョセフは杏子に語る。
さやかが、当初は己の身体を取り戻すために殺し合いに乗っていたことを。
そして、鹿目まどかや巴マミのことで思いとどまらせたものの、その二人は既にいないため、いまはどうなっているかはわからないことを。
「なにやってんだよ、あのバカ...!あたしに啖呵きったこと、忘れちまったのかよ...!」
「...それでじゃな。もしさやかが再び殺し合いに乗ってしまった時は、お前さんに説得を頼みたい。同じ魔法少女で、一度は乗っていたお前なら適任じゃろう」
「わかったよ。...結局、あいつもあたしと同じなのかよ、クソッ」
悪態をつきつつ、杏子は闘志の炎を滾らせる。
(おまえ言ったよな。自分のやり方で戦い続ける、邪魔になるならまた殺しにこいって。だったらよ、もし殺し合いに乗ったなら―――あたしがあんたにケリをつける)
さやかは、正義の魔法少女であり続けると杏子に啖呵をきった。
別に、それを強制し続けるつもりはないし、現実を認めたフリをして杏子のように妥協した人生を歩んでも構わない。
そもそも、最初に殺し合いに乗っていた自分が偉そうなことを言える立場じゃないのもわかっている。
ならば、なぜさやかが身体を取り戻すために殺し合いに乗ったことにこうも苛立っているのか―――杏子自身もわからない。
ただ言えることはひとつ。杏子は、さやかの他人への祈りを後悔しないと言った姿勢に己の姿を重ね合わせているからこそ苛立っているのだ。
『―――佐倉様。あなたはDIOと一対一で話した、と仰いましたね。なにか気付いたことはありませんか?』
そんな杏子の様子を察してか、サファイアが質問によって話題を変える。
「いや、さっき言った通り、あたしの知り合い―――ほむらっていうんだけどな。そいつが似たような力を使えるかもって言った途端、顔色が変わったくらいだ」
「ほむら...花京院が一緒にいたと思しき子じゃな。その子の能力についてなにかわからんのか?」
「いや...あいつもDIOも、自分の能力については一切喋らなかったからな」
「と、なると、ワシらが体験したことから推測するしかないようじゃな」
『そうですね』
そして、ジョセフ、杏子、サファイアは森林を進む足を一旦止め、それぞれの体験のもとDIOの能力について推測をすることにした。
「...ありのまま起こったことを話すぜ。『後藤が奴の前で階段を昇っていたと思ったらいつの間にか降りていた』」
「ワシも似たようなもんじゃ。『気が付いたら、ワシの分身が頭を砕かれるのと同時に投げられた棒で刺されていた』」
「で、ほむらについてなんだが『あたしがさやかを攻撃しようとしたら、いつの間にかさやかが後ろに動かされていた』『音も無く背後に現れた』『走るトラックに追いついてソウルジェムを回収した』...こんなところか」
「本当にDIOの能力と似ておるのう」
『催眠術だとか超スピードの類ではなさそうですね。もっと恐ろしいものの片鱗を感じています』
「超スピードではなく、瞬間移動...なんてのはどうかのう。
アンジュが、
エンブリヲという男が使えると言っておったが」
「瞬間移動か...それなら、ほむらが誰にも気づかれずに現れるのも納得はいくな」
『ですが、それではジョセフ様の現象が成立しません。投げられた棒を瞬間移動させて刺したとしても、投げるまでの動作は確認できませんでした』
「瞬間移動が使えるなら、トラックを追いかけなくてもソウルジェムだけ回収して戻ってくればいいだけだしな」
「そうじゃよなぁ...」
「DIOのスタンドは、承太郎のスタンドと似たタイプだと思ったんだけど、なにかわからねえのか?」
「うぅむ。確かにあいつのスタープラチナは強力だし、かなりの力強さとスピードは兼ね備えているが、それでDIOのようなことが出来るかといえば、不可能じゃ」
あーでもないこーでもないと推測を重ねていくが、どれもピンとこない。
『やはり一番不可解なのは、攻撃する動作無しに攻撃を行うという点ですね』
「...どうじゃ。一度、超能力から離れてみんか?」
『え?』
「行動における動作を省くという枠に捉われず、じゃ。例えば...」
突如、ジョセフが杏子の目に掌を被せる。
「うわっ!?な、なんだ!?」
「杏子、いまワシはお前さんの目を左手で隠しておるが、右手はなにをしておるかわかるか?」
「...?」
「いま、ワシは右腕からスタンドを出しておる。なぜお前がわからなかったか、わかるか?」
「見えないからに決まってんだろ」
「そうじゃな。見えないからワシの動きもわからなかった。これで、DIOの『攻撃動作の省略』はクリアじゃな」
『なるほど。DIOは攻撃動作自体は行っている、その動作を私たちに認識させていない、という考えですね』
「けど、後藤とあたしとノーベンバーと猫とみく。全員の目とかを全部塞いで後藤を階段から下ろすなんてどうやってやるんだ?」
「そこなんじゃよなぁ...」
DIOが何かしらの動作をするとき、その場にいる全員の意識を遮り、DIOを認識できなくする。そんなことが可能なのだろうか。
それに、そんなことが出来るのなら、ジョセフのアサシンのカードでの分身も見切られているはず。
『つまり、DIOはジョセフ様が分身を使っていたことを認識する暇がないほどの瞬間的な時間、私たちの認識能力及び五感を瞬間的に支配し攻撃できるということになりますね』
「...おい、頭がこんがらがってきたぞ」
「ワシらの認識能力を瞬間的に支配できるという可能性が高いのがわかっただけでも収穫じゃないか」
「じゃあどうやって防ぐんだよ」
『それは...』
ジョセフも杏子もサファイアも、一同に口を紡ぐ。
たしかに、なんとなくDIOの能力について漠然とは形が掴めた。
しかし、それでは核心へ近づけたとは到底いえない。
なにかいい手がかりはないものか...
(『他者の認識を瞬間的に支配する』『同時に攻撃を叩き込む』...これを時間をかけずに全てを行う...時間を...かけずに...?)
サファイアの脳裏で、なにかが引っかかる。
(時間...?)
「マズイのう...陽が沈みきる時間も近づいておる」
ジョセフがタブレットを見ながら時間を確認する。
(時間が近づく...時間がかかるのは、時間が流れているから...)
「どーする?DIOも御坂も、他の奴らだってそう都合よくは待ってくれねえと思うぞ」
「うむ...タツミやさやかとも合流はしたいが、彼らも彼らで闘技場で会えるかどうか...」
(そう。DIOも合流すべき他の参加者も、都合よくは待ってはくれない...時間は流れているから)
そう、時間が流れている以上、物事は都合よくは運ばない。
だが、彼らがやっていたことは全てそれだ。
後藤を誰にも認識させずに階段から下ろすことも。
ジョセフに動作を認識させずに同時に攻撃を叩き込むことも。
歴戦の杏子に気付かれずに、物音も無く標的を移動させることも。
まさにDIOやほむらにとって『時間の縛りに囚われない都合がいい』ことだ。
時間が流れている以上、ありえない『都合がいい』この行為。ならば、それを成立させるためには...
「―――ァイア。おい、サファイア?」
呼ばれる名前に、ハッと我にかえる。
『申し訳ありません...なんでしょうか』
「あんたの契約って奴をちょっと試したいんだ。いざって時に使えないようじゃ困るしね」
『......』
杏子の申し出に、サファイアは戸惑いの感情を抱く。
杏子は、自分の身体は頑丈だから心配するなと言い張った。
しかし、この会場に来てからサファイアを使用した者はすぐに死んでいった。
美遊も、海未も。
ならば、杏子も例外では―――。
「...あのな、サファイア。お前まだグズってんのか?」
『......』
サファイアの脳裏に浮かぶ、二つの背中。
―――イリヤだったら、こんな時でも、絶対に諦めたりはしない…。だから―――
ここに連れてこられる前からの主であり、決してその膝を折らず最期まで戦い続けた美遊・エーデルフェルト。
―――……生きて、真姫。私たちのμ'sを、どうか――
一般人でありながら、守りたいもののために自らを犠牲にして力尽きた
園田海未。
死んだ。二人とも、自分が関わったせいで死んだ。
「お前を使った奴らが死んだのはお前のせいじゃないだろ。そいつらは、護るために力を使ったのを、お前のせいにするような奴らなのか?他の奴らなんざ放っておけばよかったって思う奴らなのか?」
『...そんなはずがないでしょう...彼女は、彼女達は...!』
「そこまでわかってんならいいだろ。...羨ましいじゃんか。そいつらは、自分の意志で、自分の為に戦って、ちゃんと守り通したんだからよ」
杏子の脳裏をよぎる、三つの背中。
魔法少女の師であり、最期まで誰かを守るために戦い続けてきた巴マミ。
―――何、一度死んだ身だ。仲間からも組織からも、生への執着からすらも開放された身としてはこういうのもいいんじゃないかなってね
常に飄々として、掴みどころが無く、死すらも恐れず受け入れた契約者、ノーベンバー11。
――それでも、人は生き残るぞ。広川
この世から消え去るその瞬間まで恨み言ひとつ零さず、それどころか広川への予言すら残してみせた魔術師、
モハメド・アヴドゥル。
みな、自分とは違う。最期まで己を貫き通し、最期まで後悔を口にしなかった。
「あたしは何にもできなかったよ。力を持ってる癖してさ、何にもできなかった。何にも守れなかった。ここに来る前からずっとだ。自分の命も、家族も、プライドも、なんにもだ」
『杏子様...』
「あんたはあたしとは違う。あんたは他の奴らの力になれる。それで、その力は使う奴次第でなんにでもなる」
―――この力は、使い方次第でいくらでも素晴らしいものになるはずだから。
ふと、そんな美樹さやかの啖呵を思い出す。
「だから...力を貸してくれ。これ以上、あたしが負け犬にならないためにさ」
サファイアは、俯きながら思う。
(私は、力になれる...)
サファイアからは、契約した二人が死んだ恐怖はまだ消えていない。
しかし、そのまま動かなければ同じことだ。戦わなければ負け犬にすらなれない。
杏子とジョセフの力にならなければ、それだけでも二人の危険は高まる。
それに、力になることを既に約束しているのだ。
その約束の主が求めるのなら...
『...わかりました。このサファイア、改めて全身全霊で力となることを約束します』
仲間として、死力を尽くすのみだ。
そのサファイアの返答を得て、杏子はニッと笑みを浮かべ、ジョセフもまた微笑みと共に頷いた。
「で、契約ってのはどうすればいいんだ?」
『まずは少々採血をさせていただきます。僅かに指を切る程度で構いませんよ』
言われた通りに、杏子は己の親指に槍で僅かに切り傷をつくり、滲み出た血をサファイアに拭い取らせる。
『次に、私を握っていただいて...名称登録をさせていただきます。お名前をどうぞ』
「
佐倉杏子」
『登録完了。それでは転身いたします』
(キュゥべえもそうだけど、魔法少女の契約って結構あっさりしてるもんなんだな)
『コンパクトフルオープン!境界回路最大展開!』
その言葉とほぼ同時に、杏子の身体が光に包まれ、奇妙でありながらも嫌悪を抱かない妙な感覚が身体を流れる。
杏子の着ていたパーカーが消失し、新たに衣装が身体に纏わりつく。
光が収まると、杏子の身は新たな衣装に包まれていた。
体を覆う布は競泳水着のようにぴっちりとしており脇は露出し、腹部は開いている。
腰には申し訳程度の長さのスカートが巻かれているだけで、腕や足先は覆われているものの、太ももの辺りは野ざらしに近い。
一度は園田海未にも着せ、美遊も使っていた衣装となんら遜色のないものだ。
『いかがですか?』
「...うん。まあ、悪くはないかな」
この年頃の一般的な少女なら、露出の多いこの服装に顔を赤らめ恥じらいの一つも見せただろうが、そこは起源は違うとはいえベテラン魔法少女の杏子。
もとからそれなりに露出の多い服装であることも働いてか、この衣装に嫌悪感を抱くことはなかった。
「もう終わったかね」
帽子を目深に被り、視線を遮っていたジョセフが尋ねる。
もう少し成熟した身体つきならともかく、まだ成人もしていない少女に興奮するもなにもないが、裸を見られてはいい気分になるまい。
そんなわけで、ジョセフは自発的に杏子の転身を見ないようにしていた。
「ああ。...ってか、一瞬で終わったからそんなに気を遣わなくてよかったぞ」
「ま、一応じゃよ。さて、契約の確認もできたことだし、先へ進もう...」
帽子をあげたジョセフの視線が静止する。かと思えば、今度はプルプルと全身を震わせ始めた。
杏子が疑問に思い、彼の視線を辿ると、その先にあるのは自分の身体。新たな衣装に包まれた己の身体だ。
「な、なんだよ」
そんなジョセフの様子をみて、杏子が抱いた疑問を口に出す。
当然だろう。
自分の身体を見て、口元を引きつらせながら身体を震わせるその姿は、まるで―――
「ギャーハハハハ!!なんじゃあ、その姿は!?」
「なっ!?」
決して周囲に響くほどの大声ではないが、ジョセフは腹を押さえながら笑い転げる。
「に、似合ってるじゃあないか...ぷくくっ」
「てめ、笑うんじゃねえジジイ!」
頬を赤く染めながら、杏子はジョセフの胸倉を掴む。
ここで、杏子はいまの己の姿が客観的に見てどれほど恥ずかしいものなのかをようやく理解できた。
「くそっ...おい、サファイア。どうしてもこれを着なくちゃいけねえのか?」
『いえ。佐倉様と私共の魔法少女は随分違うようなので、慣れてもらうためにもこちらの形から入っていただきました。お望みでしたら佐倉様の元の恰好のままでも力は発揮できますが』
「最初からそうしろよ!」
顔を真赤にしてサファイアにツッコむ杏子。
そんな彼女を見ながら、ジョセフは思う。
(ワシが契約していたらあれを着ることになっていたのか...さすがにアレはチトキツイな)
女装くらいならお手の物だという自負はあるが、ああまで露出が多いと流石に躊躇われる。
ピチピチの布を身に纏い、やたらと肌を露出させて戦う筋骨隆々のジジイなど、誰かに、ましてや知人―――特にポルナレフに知られようものならおおいにからかわれることうけあいだ。
己の宿敵が既にサファイアの姉妹を使い、ジョセフの危惧するような醜態を晒していたことは、いまの彼には知る由もなかった。
☆
「...で、どうなんだ」
「うーむ。とりあえず、この森にはいないことは確かじゃな」
ジョセフの痣の反応に警戒しつつ、二人は森を歩く。
「なあ、DIOはあたしがまだ操られてると思ってると思うんだけど、それって使えないかな」
「ワシといるところが見られればそれだけでも警戒しそうじゃが」
「いや、DIOはあたしに『承太郎とジョセフ、それに花京院とイリヤとお前の知り合いは戦わず誘導してくれればいい』って命令したんだ。だから、一緒にいてもそこまで不審には思われないはずだ」
「うーむ...しかし、あいつは己の副官にまで肉の芽を埋めつけるような奴じゃ。一応、後藤を勧誘するあたりなんともいえんが...時と場合による、といったところか」
「そうか。...それで、あいつをブッ倒す算段はついたのか?」
「まだ考えておる途中じゃ」
ただ、とジョセフは言葉を付け加える。
「思ったよりも奴の能力が厄介であり、肝心の日光も決定打には成り得んかもしれないことはわかった。奴に限っては石橋を叩きすぎるということはない...深追いは禁物じゃ。一番マズイのは、ワシらがこのまま二人揃って殺され、誰もDIOの能力に見当すらつかなくなることじゃからな」
「...ああ。わかってる」
DIOに屈辱を晴らすことも大切だが、それ以上に誰もあの男を止められる者がいなくなることが一番マズイ。
それくらいは杏子にもわかっている。
「...なあ、爺さん。ひとつ、約束してくれ」
だから、杏子はひとつの約束を押し付ける。
「ノーベンバーはあたしを庇って死んだ。アヴドゥルも、操られていたあたしに気を遣いすぎて御坂に殺された」
ノーベンバー11は、杏子の背後に迫る刃から庇って死んだ。そのまま杏子を放っておけば、自分は助かることはできたはずなのに。
モハメド・アヴドゥルは、杏子を殺すまいと必死になって持久戦に持ち込み、その隙を突かれて死んだ。もしそのまま杏子を殺していれば、御坂に勝てる、とは言わずとも不意の一撃で消え去ることはなかっただろう。
あいつらは馬鹿だ。どうしようもないくらい甘ちゃんでお人好しの馬鹿野郎共だ。
自分の所為で彼らのような馬鹿野郎共が死ぬことにはもう耐えられない。だから
「頼むから、あんたはそんな真似をしないでくれよ」
杏子の頼みに、ジョセフはニヤリと笑みを浮かべて答える。
「年寄りは忘れっぽいからのう。その保証はできんなぁ」
その言葉に杏子がなにやら反論しようとするが、ジョセフは「だが」と付け加えて杏子の言葉を遮る。
「ワシが常に考えておるのは、『誰が犠牲になって生き残るか』ではなく、『どうやって皆が生き残るか』じゃよ。...これで満足かな?」
「...言ってろ、バーカ」
ジョセフと杏子―――波紋戦士と魔法少女。
二人の戦士は、笑みを交わし合い共に行く。
その果てになにがあるのか―――それは誰にもわからない。
【B-1/森林/一日目/夕方】
【
ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中) 、ダメージ(中)、仲間たちを失った悲しみ、アヴドゥルを殺された怒り
[装備]:いつもの旅服
[道具]:支給品一式、三万円はするポラロイドカメラ(破壊済み)@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、市販のシャボン玉セット(残り50%)@現実、テニスラケット×2、
ドミネーター@PSYCHO PASS-サイコパス-(電池切れ)
食蜂操祈の首輪、アストンマーチン・ヴァンキッシュ@やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
[思考・行動]
基本方針:仲間と共にゲームからの脱出。広川に一泡吹かせる。
0:時計塔→武器庫→市庁舎の順に可能な限り車で周り、日が落ちる前に
DIOを見つけ出して倒し、エドワードと合流する。ただし、DIOは深追いはしない。
1:御坂を止める。最悪、殺すことも辞さない。
2:DIO打倒、脱出の協力者や武器が欲しい。
3:さやかが気になる。 もし殺し合いに乗っていれば説得する。
4:DIO打倒のヒントを得るため、ほむらと会えれば会いたい。
[備考]
※参戦時期は、カイロでDIOの館を探しているときです。
※『隠者の紫』には制限がかかっており、カメラなどを経由しての念写は地図上の己の周囲8マス、地面の砂などを使っての念写範囲は自分がいるマスの中だけです。波紋法に制限はありません。
※一族同士の波長が繋がるのは、地図上での同じ範囲内のみです。
※殺し合いの中での言語は各々の参加者の母語で認識されると考えています。
※初春とタツミとさやかの知り合いを認識しました。
※魔法少女について大まかなことは知りました。
※時間軸のズレについてを認識、花京院が肉の芽を植え付けられている時の状態である可能性を考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※
狡噛慎也、
タスクと軽く情報交換しました。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、
カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:DIOをぶん殴る。
1:
御坂美琴は―――
2:巴マミを殺した
サリアとかいうのは許さない。
3:エドワード、ジョセフと組む。
4:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
5:DIO打倒のヒントを得るため、ほむらと会えれば会いたい。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※サファイアと契約を結びました。
【カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤの思考・行動】
1:ジョセフ、杏子に同行し、イリヤとの合流を目指す。
※DIOとほむらの能力について『時間』がなにか引っかかっているようです。
最終更新:2016年01月16日 22:07