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掴みかけた糸口 ◆BEQBTq4Ltk


お前も私達と同類なのか。
 DIOとの戦闘を終え、嵐が過ぎ去った後の中で田村怜子が発する言葉にマオは顔を歪めた。
 喋る黒猫である彼は契約者だ。対価と引き換えに能力を使役する合理的な人間もとい猫である。

「冗談じゃない」

 短く返答すると、石を避けるために小刻みに跳躍をくり返す。
 動きだけを見ていると完全に猫であるが、人語を理解し、人間とのコミュニケーションを取れる猫は猫じゃない。

「俺は契約者だ。お前らのような化物と一緒にしないでくれ」

「契約者……何だそれは」

「そうだな、例えば炎を使うために水を飲む。特別な力を使役する代償に対価を支払う奴らのことさ」

「この会場にも契約者はいるのか」

「目の前にいるぞ。それに黒もいる。ま、俺の仕事仲間みたいな奴だな」

 などと会話をしつつ彼女達は市役所へ向かう前に、近くにある紋様を調べることにしていた。
 その中で当然のように会話が発生し、初対面である彼女達は腹の探り合いをする。
 と、云っても敵としての認識は無いため物騒では無く、情報交換に近い。

 マオは御坂美琴と面識があり、田村怜子は初春飾利との面識があった。
 情報が交わされる中、どうやら御坂美琴が殺し合いに乗っていることはそれなりに広まっているらしい。
 事実を知った黒猫は瞳を少し伏せ、面倒なことになったと愚痴を零す。
 仮に彼女が改心し元の少女に戻った所で、わだかまりがあれば息苦しいだけだ。
 エドワードでは無いが、マオも御坂美琴に対しては少なからず面識があり、放っては置けない立場にある。

 淡い希望を抱いてはいるが、戻った先に闇の種が蒔かれていては心がいずれ壊れてしまう。
 彼女達の略歴は知らないがどうしてこんな少女達が――契約者も変わらないか、と一人で納得する。
 人間一人一人に物語があり、誰もが踏み入って欲しくない心の聖域が存在するのだ、無理に首を突っ込むのは無礼だ。
 出来るなら救いたい。その程度に留めて置かなければ、自分が死んでしまう。

(全く……こんな殺し合いを開いた馬鹿の顔が見てみたいぜ)

 謎に包まれた主催者の影。
 広川一人で此処まで運営出来るとは思っておらず、協力者や何らかの組織が関わっていると簡単に予測できる。
 契約者に恨みを持つ人間もいるだろうが、関係の無い参加者が多過ぎる。
 裏の真相――彼らの思惑は未だに掴めないままだ。



「これは見覚えが無い」


 人間感覚で換算した数歩先で田村怜子が何やら不思議なモノを見て呟いた。
 マオはそれを確認するべく彼女に近寄った所で似たようなリアクションを取った。


「なんだこれは……随分とオカルトみたいだな」


 大地に描かれていた模様はまるで少々頭の狂った学者が好むような、フィクションで見かける魔法陣のようだった。
 例えば悪魔を召喚するための。
 例えばUFOを呼びこむための。
 例えば世界を灰に包むような禁忌を引き起こすための。

 何にせよ一目見ただけで関わりたく無いと思わせる赤い文様が描かれている。

「時代遅れの悪趣味って感じだが、正体は見当も……ん」

 言葉の途中で何かに気付いたのか、マオは口を塞ぎ頭を掻く。
 チリンと鈴の音が響く中で田村怜子は続きを問う。そして返答が行われる。


「いや一人だけ知ってるかもしれない奴がいるんだが……」

「この会場にいるなら名前を教えろ」

「…………袋の中にいるんだなこれが」


 頭部を動かし魔法陣とやらを知っている人間の在り処を示すマオ。その先は田村怜子が所有しているバッグだ。
 この中に収納されている参加者は三人であり、エドワード・エルリックウェイブ佐倉杏子の三人である。


「エドワード……金髪のチビなんだが……ま、あいつなら目も覚ますだろ」

「そう……なら出しても問題は無いわね」


 呟いた後に田村怜子は少々乱暴気味にバッグを振るい始めた。
 すると中から運が良いのか悪いのかお目当てのエドワード・エルリックを一発で引き当てた。



「い……痛ってええええええええええ!?」


 ドサッと音を立てて大地に落下したエドワードは悲鳴と共にその意識を覚醒させる。
 戦闘の影響もあり、大きな動きは出来ないが状況を確認するべく視界を動かそうとした所で。
 目の前に見知った顔があった。


「元気みたいだね」

「そう思うか、マオ?」


 何が起きているか理解していないエドワードだが、マオが近くにいることで一先ず安心する。
 敵が近くにいない。これだけ解れば充分であるが、そもそも何故自分は此処に居るのか。


「――! 御坂とブラッドレイは……ん、あんたはたしか」

「田村怜子」

「あぁ……ついさっきはありがとな」


 動乱がエドワードの脳内で繰り返される。
 DIO、イリヤ、御坂美琴、キング・ブラッドレイ、そして後藤。
 多くの参加者が入り乱れた嵐は彼の記憶に小縁憑いている。


「この状況じゃ俺を運んでくれたみたいだな、それで他の奴らは?」

「お前と同じでバッグの中で眠ってるだろうさ」

「俺はバッグから出て来たのか……なんでもありだな」


 自分が飛び出しただろうバッグを見つめながら疲労を浮かべるエドワード。
 腕で汗を拭うと、己の近くにある文様を見つめ――驚きの表情を浮かべた。


「これは錬成陣……と、見たことのない文字が刻まれてる」


 どうやらエドワードを呼び起こして正解だったようだ。


 錬成陣を見つめる鋼の錬金術師は己の脳をフル活用し、何かを導き出そうとしていた。

(人体錬成の陣もあれば国土……いや、似ているけど違う。なら、ここを中心とした――どうだろうな)

 バッグから地図を取り出し、その場に広げると自分の居場所を確認し指で辿る。

「マオ、今俺達が居るのは何処だ」

「C-4だな……ほれ」

 マオが地図の上に乗り前足で居場所を示した。
 解った、と呟いたエドワードは邪魔になるマオをどかすと再度、思考の海へ考えを潜らせる。


(居場所を中心にしたとして――点になるのは地図上に記載されている建物、それを結ぶと……駄目だ、不規則な形だ)


 アメストリスに存在した各研究所を経由した錬成陣を連想し、地図を確認する。
 しかし点と線を結んだ所でなにも形は浮かび上がらず、特別なことは何一つ無い。


(鍵は読み取れない文字……初めて見るな。マオと田村も知らないようだし、くそ、これが解ればな。
 錬成陣も途中で途切れてらあ。何かが足りてないのか……何にしても解ったことは――)


「血――人間を媒体に何かを発動する錬成陣だな」


 肝心なことは解らないが、現状で把握できた結果を述べる錬金術師。
 それを聞いたマオと田村怜子は腑に落ちない、と言うよりもそれが解ったとしてどうすればいいのか。
 彼女達にとって錬金術は馴染みのあるものでは無く、エドワードが居なければ錬成陣そのものをスルーしていた。


「俺達に出来ることはあるのか?」

「この見たことのない文字が読めりゃあなんとか解るかも知れない、読めるか?」

「……なんだこれは。少なくとも地球の言語じゃないな」

「地球の言語で無ければ私には未知なる世界の話になる」

「……気になってたんだけどお前達はあのー、同類みたいなもんなのか?」

「おいおい小僧、お前もそれを言うのか。俺は契約者でこいつは」

「寄生生物。人間に宿った寄生生物だ」


「…………なら、DIOを喰ったあの男もか」


「あいつは後藤……私と同じ、人間の言葉で表すなら同類だ」

「寄生生物ね……人間の見た目で人間じゃないか。
 だったら俺からも一つだ。この会場にはホムンクルスが紛れ込んでんだ。
 エンヴィーとセリム、それにキング・ブラッドレイだ……セリムの奴は死んじまったがな」


 セリム・ブラッドレイ。創造主の命令を守り人柱なる――エドワード・エルリックを守り死んだホムンクルス。
 守ったと云う表現が正しいかは彼のみぞ知る所だが、少なくともプライドが生き残る道はあった。
 最期に彼が呟いていたのはホムンクルス・プライドではなくセリム・ブラッドレイとしての言葉だった。それは刻んである。



 ホムンクルスの話を振った所で、エドワードはもう一つ情報をマオ達に与える。
 それはこの錬成陣を作ったとみられる――


「前から気になってはいたけど確信した。この殺し合いにはお父様が絡んでいる可能性が高い」


 黒幕についてだ。


「お父様? お前の親が殺し合いを開いたってのか?」

「身内のお前が一番理解しているだろう。心当たりは無いのか?」


「……俺の言い方が悪かったよ。ホムンクルスの創造主だよお父様ってのは。
 連中がそう呼んでるから俺達も呼んでいただけで、名前何てしらねえ」


 エドワードは語る。
 そもそも人間を殺し合わせる状況にホムンクルスが居ることが疑問だった。
 まるで血を流すために、殺し合いを加速させるために投入された可能性があったこと。

 寄生生物や契約者、魔法少女などの規格外が参加している時点で根拠は薄くなっていた。
 しかしセリムが死に際に放った人柱を守る旨の発現を受け止め、お父様が潜んでいる可能性が上昇したこと。

 この大地に刻まれていた錬成陣が基本は人体錬成と何かを発動させる錬成陣が描かれていたこと。
 これは理由にならないが、参加している錬金術師は自分を含めて三人だ。
 鋼の錬金術師、焔の錬金術師、そして紅蓮の錬金術師である。

 この中で唯一真理の扉に触れた自分に読み解けない錬成陣を後者二人が描くとは思えない。
 手の内が読めない錬成術――つまり、思い当たる人物はただ一人、お父様しかいない。

 エドワードの脳裏にとある男――ホーエンハイムが一瞬浮かぶも、マオ達には説明しなかった。


「広川一人では企画出来ないと踏んでいたが、そうか。黒幕はそのお父様とやらか」

「確信は無いけど充分に可能性はあると思う――それで」


 場を切り替えるように一息ついたエドワードが新しい話題を切り出した。


「御坂とブラッドレイは何処に向かったか解るか?」




 エドワード・エルリックと別れた田村怜子は予定通り、市役所へ向かっている。
 彼に御坂達の居場所を尋ねられた時、正直な所、知っている訳が無かった。



 代わりに自分の仮設をエドワードに説明することで、一つの道筋を示すことになった。

 まず、DIOとの戦闘が終わった後に自分達が北上したことを考えれば彼女達は此方に来ていない。
 足を運んでいれば遅かれ早かれ戦闘になっていただろう。潜んでいる可能性もあるが、戦闘に特化した組だ。
 本気を出せば此方が劣勢になるのは明白である。

 ならば東か南しか無いだろう。

 それを聞いたエドワードは己の身体に鞭を打って走りだしていた。


『俺はあいつを止めるって決めたからな』


 たった一言、それだけ呟いて消えてしまった。
 人間とは時折、理解出来ない言動や行動を取る。

 己の生命を危険に晒してまで何を求めるというのか。


 何にせよ、田村怜子が所有しているバッグには未だ、佐倉杏子とウェイブが眠っている。
 市役所で休ませた後に情報交換をするのが今後の方針となるだろう。

 エドワードの仮説によって黒幕の正体が若干ではあるが、見えている。

 生き残った人間が最期に見るのは――光か闇か、希望か絶望か。





【B-3/一日目/夜中】




田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイバック、基本支給品 、錬成した剣、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、園田海未の首輪、食蜂操祈の首輪、ジョセフ・ジョースターの首輪、ウェイブ、佐倉杏子(デイバッグ内)
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
0:市庁舎へ向かう。
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。マスタング達が説得に成功したら……?
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:エンヴィーには要警戒。もしも出会ったら……
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。
※剣の他にも、何かマスタングから錬成された武器を渡されたかもしれません。
※エドワードの仮説を聞きました。


【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(超絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、グリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0~3(セリューが確認済み)、南ことりの首輪、浦上の首輪
タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:セリューと合流し、一緒に今までの行いの償いをする。
6:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(超極大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、気絶、流血(大)、骨が数本折れている、顔面打撲
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×4@魔法少女まどか☆マギカ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:仲間を集める。
1:イリヤは――
2:御坂美琴は―――
4:ジョセフ……。
5:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する。最悪、ケリはこの手でつける。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
狡噛慎也タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。



「南に行かない理由はあるのかエド」

「DIOの館にあの後向かう奴の精神が信じられねえ」

「……根拠は残念だが納得だな」

 田村怜子と別れた一人と一匹は東へ向かう。
 目的はただ一つ。変わらずに御坂美琴を止めること。

 もう、誰も悲しませないために。
 前川みくのような犠牲者を出さないためにも、救える生命はこの手で助ける。


 参加者も既に先の放送で半数になったと聞いている。
 時間は無い。走れ、足が動く限り、前へと進め。


「もうお前の好きなように、させねえからな」


【D-4/一日目/夜中】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0~2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:イリヤを止めて、御坂と大総統をを止めるために東へ。
1:大佐を元の世界に連れ戻して中尉にブン殴らせる。
2:大佐やアンジュ、前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、御坂、エスデス、槙島聖護、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。


【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:帰る。
0:エドワードと共に行動する。


【エドワード・エルリックの仮説】
1:殺し合いの黒幕にお父様が潜む可能性。
2:C-4に刻まれている錬成陣は人体(血)を媒体に何かを引き起こすもの。
3:上記錬成陣にはエドワードには読めない文字が使われている。
4:その文字はアメストリス及び地球基準における言語では無いこと。


時系列順で読む
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投下順で読む
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174:絶望を斬る エドワード・エルリック 182:魂の拠り所(前編)
174:絶望を斬る 佐倉杏子 187:Anima mala
174:絶望を斬る ウェイブ 187:Anima mala
174:絶望を斬る 田村玲子 187:Anima mala
最終更新:2016年06月07日 11:10