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その血の記憶 ◆dKv6nbYMB.


―――血は生命(いのち)なり。



「ガァッ...グオオ...ッ!!」

DIOの館。
その内部で、後藤はひたすらに破壊行為を繰り返していた。


ドアを蹴破り。
本棚を荒らし。
カーテンを引きちぎり。
ガラスを叩き割り。
設置されていた家庭用ゲーム機を握り潰し。
床を殴りつけ。
壁を破壊して。


これは、両手足の寄生生物を失った時に行っていた身体の試運転などではなく、ただの破壊衝動だ。
こうなった元凶である館の主に八つ当たりでもするかのように。
抑えきれない力を発散するかのように。

―――まるで、先程取込んだ力の主の生前のように。

後藤は、ひたすらに館の内部を荒らしまわっている。


やがて、破壊行為では飽き足りなくなり、今度はある欲求が生じ始めた。

―――血だ。血をヨコセ

後藤はDIOの館を無我夢中で飛び出した。



道中、なにやら大規模な爆発が起きた気もするが、いまはこの身体の疼きを治めるのが先だ。




どれほど走っただろうか。
やがて、後藤は横たわる人影を発見。
それが何者か。後藤は知る由もない。
なぜなら。

血、血ぃ、ちぃ――――!!

後藤の目は血走り、ただ己の欲を発散するためだけにそれに跳びかかり、食らいついてしまったからだ。
それが生きているのか死んでいるのか。それすらも彼にはわかっていない。
ただ、いまは己の衝動を抑えられればそれでいい。

バクン。ゴリッ、ゴリッ。

「はぁっ、はあっ...」

らしくなく、息を切らしながら食事を終える後藤。
食事ついでに首輪が手に入ったがそんなことはどうでもいい。
なんだこれは。なんだというのだ。
DIOは人間を超越した存在だとか言っていたが、これが喰らった代償だというのか?
...だが、まあいい。これで、ようやくおさま



―――ドクン

いや、まだだ。まだ終わらない。
新たに血を取り込んだことで、再び収まりかけた疼きが強くなってくる。


「グ...GUOOOOOO!!」



雄叫びと共に、後藤は側にある施設―――発電所へと駆けて行った。




どれほど時間が経過しただろうか。
発電所の内部を荒らしまわった結果、後藤の身体の疼きはようやくおさまりつつあった。

「...なんだというのだ」

身体に異常はない。
逆に言えば、新たに得た力もない。精々、筋力が多少なりあがった気がする程度だ。
苦しむだけ苦しんでこれしかないというのか。
もしも、この現象の根幹となったDIOがこの立場になっていたら、烈火の如く怒り狂っていたことだろう。
だが、後藤は寄生生物。合理的に考え、後まで引きずることはない。その程度のことでは寄生生物は揺らがない。


のだが...

「......?」

設置されていた鏡を見て、後藤の頭に疑問符が浮かぶ。
映された顔は、確かに怒りの表情を模っていた。
それも、口の端をつり上げ、眉間に皺をよせ、こめかみに血管まで浮き出している。
勿論、後藤の思考は冷静であり、落胆の意はあれど決して怒ってなどはいない。

「...わけがわからんぞ」

表情を無理やり手で戻しながらポツリとぼやく。

「...ふーっ」

らしくなく、くたびれた親父のように息をつく。
思えば、この会場に来てからは常に動き続けてきた。
更に、泉新一のように身体が生身になったことに加えて先程の現象だ。
どうやら相当に身体にガタがきているらしい。

「少し休憩をとるか...」

そもそも、元の寄生生物を頭部も含めて5体を身体に宿していた時でも、睡眠をとることはしていた。
いまは、なぜだか眠気がほとんどないため睡眠はとらないが、身体を休ませておく必要はある。
荒らしまわっていた際に見つけた宿直室のベッドで横になり、後藤はしばしの休息をとることにした。





―――血は記憶なり。





さて。DIOという吸血鬼を喰らった後藤だが、この成果は、彼を悪戯に苦しめただけだろうか。
答えは否。
その影響は、確実に彼の身体に現れ始めている。

そもそも吸血鬼とはどのような生物か。

伝承によっては様々な差異が見受けられるが、ディオ・ブランドーがなった吸血鬼とは以下のものだ。

ひとつ。石仮面により使用者の脳を刺激し、秘められた力を引きだした者である。
ひとつ。その力は、驚異的な筋力や特殊な能力、再生能力を発揮することができる。
ひとつ。食糧は他者の生命(いのち)となる血に変わり、取込むことによって己の力とする。
ひとつ。その代償に、日光を浴びると灰になるというリスクを負うことになる。

では、この吸血鬼という存在は遺伝するのか。
答えは否。
石仮面で作られた吸血鬼とは後天的なものであり、それが遺伝子にまで影響を及ぼすことはまずありえない。
吸血鬼が吸血鬼を生むには、対象に直接吸血を行い、血管に増殖用のエキスを流す必要がある。
現に、元の世界のDIOの館には、吸血されてそのまま死んだものもいれば、吸血鬼となっている者もいる。
つまり、宿主の吸血鬼の意思が無ければ吸血鬼が増殖することはない。
故に、DIOが死んだいま、後藤が吸血鬼に影響されることはありえないはずだった。


しかし、今回に限っては事情が違う。
後藤は、DIOの頭部という吸血鬼の根幹を為す部位を身体に取り込んでしまった。
吸血鬼を最も吸血鬼たらしめる部位をだ。
吸血鬼―――特にDIOは、首だけになってもそれのみで行動し、長時間生存するという離れ業をやってのけた。
それほどまでに、吸血鬼の細胞とは生存力が強いのだ。

そして、吸血鬼が吸血鬼を生む際に送られるエキス。
これを分泌するのは脳であり、後藤はそれすらも取込んでしまった。
そして、本来なら首輪で制限されているはずのその能力も、喰らった際に首輪が外れてしまったことで制限はなくなり、吸血鬼化の影響を受けることになってしまったのだ。

とはいえ、仮にもDIOの頭部を介してという形でそのエキスを取込んだうえに、後藤自身の首輪の効果もある。
苦しみと破壊衝動との闘いの末、現在の吸血鬼化における影響はごく微量という形に落ち着いた。
筋力に関する影響力は、寄生生物を身体に混ぜることに比べれば極僅かでしかないが、反面、日光で消滅してしまうほどの力も引きだせていないため、本来の吸血鬼とは違い、堂々と陽が昇る太陽のもとを歩くことが出来る。
本来ならば、たったこれだけの成果である。



「...?」
ベッドに寝転がりながら、後藤は己の右掌をかざしてみる。



だが、ここでイレギュラーが発生する。
後藤が取り込んだもの。
それは、吸血鬼となったDIOに馴染みつつあったある『血統』の血。

その『血統』の血は、実に奇妙なものだった。
DIOの首より下の肉体となっていた男―――ジョナサン・ジョースター。
彼の身体が『スタンド』を発現したことをきっかけに全ては始まってしまった。
DIOは直接認識のなかった者―――ジョセフ・ジョースター空条承太郎、ホリィもまた、ジョナサンの肉体に呼応して『スタンド』を発現してしまったのだ。
それだけではない。
正史では存在し得た、ジョセフのもう一人の子供やDIOの息子にまで『スタンド』が発現しているのだ。
たった一人の男の肉体から、家系に纏わる全ての者たちにまで影響を及ぼさせるこの呪い染みた『血統』。
DIOはこの殺し合いが始まってから二度、その『血統』の血を吸うことにより更なる高みへと上り詰めた。
その『血統』はもはやDIOのひとつと化していたのだ。
そして、その呪い染みた奇妙な『血統』の血もまた、後藤の身体に影響を及ぼしていた。


(...これは、確かに見たことがある)
己の掌から浮かび上がる像。
それとは一度交戦している。
なぜこれがここに。
理由を考えるも、納得のいく答えは得られない。



『スタンド』とは生命エネルギーより生まれし、パワーを持つ像。
後藤が喰らったのが、DIOの身体ではなく頭部であったこと。
DIOが後藤に食われる前に一人の『ジョースター』の血を二度も吸収していたということ。
この二つの偶然が重なって。
元来のDIOの持つ『スタンド』と共鳴するかのごとく、『彼』の血に込められた生命エネルギーは色濃く表出していた。

全ての始まりの『スタンド』の像。

まさしく、それは―――





「茨...?」



【B-8/発電所・宿直室/一日目/夜中】

佐天涙子の死体が後藤に捕食されました。

【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合、疲労(大)、スタンド能力『隠者の紫』発現
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)、アンジュの首輪、佐天涙子の首輪、DIOの首輪、不明支給品0~1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0~1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:少し休憩をとる。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込む。
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。
9:足立とは後でリベンジしたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※吸血鬼を食ったことで徐々に吸血鬼の力を手に入れつつあります。が、後藤自身に首輪がついている以上そこまで能力は変わりません。指からの吸血は不可能です。
※運動能力が若干向上しました。以前の状態が75%程度であれば、現在は80%程度です。
※『隠者の紫』の像が出現しました。現在保有している能力はなにもありません。
※傷の再生は、掠り傷程度ならすぐに再生できますが、それ以上の傷の再生はかなりの時間と血液を必要とします。
※気化冷凍法、空裂眼刺驚、肉の芽、吸血鬼・ゾンビエキス注入は使用できません。


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174:絶望を斬る 後藤 185:踏切坂
最終更新:2016年04月28日 02:38