198
不安の種 ◆dKv6nbYMB.
★
夢を見ていた。
悲しい、悲しい夢だった。
★
★
プロデューサーと呼ばれ慕われていた人が、捨身でエルフ耳の男から皆を庇った。
俺は、護れなかった。
大切な人を。
狡噛さんの決闘の邪魔をし、あまつさえあの人を傷付けた。
支えてくれた人を。
アカメが貫かれ、シンイチもまたブラッドレイに斬り捨てられた。
今度こそ護ると決めた人達を。
なにがアンジュの騎士だ。
俺は無力だ。
俺は、なにも―――
――――。
なんだ...?
―――ク。
誰かの声が聞こえる...
――スク。
スク?ひょっとして、俺の名前を呼んでるのか?
俺の名前を呼ぶきみはいったい...
「う、うわああああぁぁああぁあああ!?」
鼓膜をつんざき頭痛を醸し出すほどの大声に、俺は慌ててとびあがる。
キョロキョロと見渡すと、そこは綺麗な青空が見える原っぱに切り替わっていて。
ああ、天国なんてものがあればこんな感じだろうなとなんとなく思った。
「やっと起きた。このまま起きなかったら耳が千切れるくらい引っ張りながら叫んでやろうかと思ったわ」
聞きなれた声に、思わず振り返る。
立っていたのは、忘れもしない金色の髪が特徴的の愛おしい彼女―――アンジュ。
「あ、アンジュ...?どうしてきみが...」
疑問を口にしつつも、俺はふらふらと目の前のアンジュに手を伸ばす。
嬉しい。
もう二度と会えないと思っていた愛する女性に会えたのだから当然だ。
理由や理屈などどうでもいい。
いまは、ただ彼女の温もりを―――
「こんの...ケダモノがァァァ!!」
返ってきたのは、再会を祝す涙ではなく、全力の怒りの込められたビンタだった。
温もりは求めていたが、これは熱すぎる。
「な、なにを...」
「なにをもクソもないわよ!私がいないのをいいことに年下の女の子の股に顔をツッコんだ挙句、今は呑気にお休みタイム!?随分とまあ満喫してるじゃない!」
『あ、アンタ……何やって……!』
『ッ...!』
股間に顔をツッコんでしまった御坂と雪乃の顔がフラッシュバックされる。
しかしアレは偶然だ。
そう、ただの事故。彼女達にやましい気持ちはこれっぽちもないのだ。
「違うんだ!あれは不可抗力というか、悪魔のイタズラというか...!」
「言い訳無用よこの万年発情期!」
間髪いれずに彼女が仕掛けてくるのはコブラツイスト。
相変わらずパワフルで容赦ない。
さりげなく当たる胸が気持ちいいなんて言ったら、おそらくもっと痛くされるだろう。
「い、イタタタタ!!ギブ、ギブ...あふぅ」
何度目かのタッチでようやく痛みから解放され、身体はドサリと倒れ込む。
アンジュも少し疲れたのか、息を荒げつつちょこんと座り込む。
...こんなバカげたことでさえ、もう味わえなかったはずだと思ったら、やっぱり涙が滲んできた。
そうだ。アンジュはもう...
「...アンジュ」
「...なに?」
「...側にいれなくて、ごめん」
あまりの悔しさに、自然と肉に爪が食い込むほど拳を握りしめられる。
アンジュを護るのは俺のたった一つの使命だった。
なのに、苦しい時に一緒にいてやれなかった。
その果てに何も成し遂げられずにこの様だ。
「俺は誰も助けられなかった。きみも、狡噛さんも、新一も、アカメも、雪乃も...ここまで生き延びておいて、誰も助けられないまま、なにもできないままやられたんだ」
「......」
「なにがアンジュの騎士だ。俺は、俺は...!」
「タスク」
アンジュが、俺の頬に両手を添える。
「私を見なさい。その目で、しっかりと」
そのまま彼女の正面に顔を固定させたかと思えば、俺の双眸をジッと見据えてくる。
「ねえ、タスク。あなたは私のどこに惚れてくれたの?」
「え...?」
「あなたは、私の外面が気に入ったの?それとも、身体が気持ちよかっただけ?」
「そんな訳ないだろ。きみは乱暴で気まぐれだけど、そんなところもひっくるめて、俺はきみの全てが好きだ」
「相変わらず歯が浮くような台詞を恥ずかしげもなく言うわね、あなた...まあ、私が言いたいこともそんな感じだけど」
険しい顔をしていたアンジュの眉間から皺が消え、穏やかな笑みへと変わる。
「私もあなたが好きよ。ドジでスケベだけど、イイところばかりじゃなくてそういうダメなところも全部ひっくるめて好き」
だから、と言葉を切り、彼女は俺の胸を軽く叩いた。
「今さらカッコイイところばかり見せようとしなくていいじゃない。結果が追いつかなかったからなに?だからって諦めきれるほど、あなたは物わかりがよかった?...違うでしょ」
「醜態さらそうが泥にまみれようが、最後まで投げ出さずに抗い抜く。それが私たちでしょ」
「......」
「...なんだか柄にもなく説教臭くなっちゃったわね。要するに、私の言いたかったのは、気がすむまで頑張りなさいってことよ」
「アンジュ...」
「それでも迷うなら...耳を澄ませなさい」
――――!聞こえた。いま、確かに、アカメの声が。
『なあ、此処に運んだってことは手術出来るのか?』
『出来るならとっくにやっているわ……っ』
『だろうな……ぅ、どうする……?』
今度は雪乃と杏子の声だ。
アカメも雪乃も生き延びたのか?けれど、あの状況でどうやって―――
「タスク。あなたが助けようとした子達はまだ頑張ってるけど、どうするの?」
アンジュは意地悪な笑みで俺に問いかける。
答えなんて言うまでもない。
「決まってるだろ。俺は、大切な人達を奪ったあの殺し合いを壊して広川や
エンブリヲも倒す。それまで絶対に諦めてやるもんか!」
そうだ。俺は諦めたくない。
これまで関わった者たちへの弔いを。
狡噛さんに誓った約束を。
俺たちの命を弄んだ奴らに一泡吹かせてやることを。
なにもかもが中途半端で終われるか!
「少しはイイ顔になったじゃない。これなら安心して見てられそうだわ」
アンジュが右手を挙げたのを見て、俺も合わせて右手を挙げる。
パァン、と甲高い音で交わすハイタッチは、とても心地よく思えてしまった。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
そんな、本来なら毎日交わしていたであろう挨拶を背に、俺はあの戦場へと走りだした。
俺が見たのは、そんな自己満足の悲しい夢だった。
けれど。
もしも本当に彼女が見守ってくれているなら―――俺は、もうなにがあっても挫けない。
☆
杏子を待つ雪乃の心情は、微塵も穏やかではなかった。
アカメの安否
タスクの容態。
杏子が間に合うか。
待つことしかできないもどかしさ。
それらの要因が積み重なり、苛立ちや焦りは募るばかりだ。
そういった想いは、柄にもなく親指を噛んだり、貧乏ゆすりなどをしてしまうなど行動に出てしまう。
元来の彼女を知る者なら、その様子を異常に思っても仕方のないほどにだ。
そんな雪乃を見るに堪えかねたかのか。
微かな呻き声と共に、タスクの目蓋がゆっくりと開く。
「タスクさん!」
雪乃は彼の無事に心から安堵し涙ぐむが、しかし努めて冷静に意思疎通を図る。
意識ははっきりしているか、目は見えているか、気分が悪くはないか。
最低限のことを聞き終え、最後に杏子の助言通りに血液型を質問し聞き出す。
それと合致した輸血パックを取り出し、輸血の手順に従い血液を注ぎ込む。
「...よく、無事だったね」
タスクは己が気を失う前のことを顧みて口にする。
あの状況は絶望的以外のなにものでもなかった。
ブラッドレイにアカメが、新一が斬られ、最後の最後にタスクも瀕死にされた。
あの状況で雪乃が生き残る像は想像できなかった。
「...みんなが、助けてくれたのよ」
雪乃は語った。
タスクとブラッドレイが戦っている間に、新一とミギーがアカメの命を救ったこと。
そのアカメはアヌビスと共に雪乃たちをその身を張って逃がしてくれたこと。
佐倉杏子が、タスクの治療に協力してくれたこと。
皆の助力があって、こうして無事でいられたことを。
「...そうか。なら、俺もやれることをやらなくちゃな」
「無理しては駄目よ。...いまのあなたでは、正直に言って...」
「わかってる。こんな身体でアカメの役に立てるとは思えない。だから」
タスクは、震える手で傍らのデイバックを探る。
取り出すのは、この殺し合いの破壊のカギを握るであろう首輪。
「俺は、俺のやり方で戦わなくちゃ」
☆
『あっ...おい、止まれ』
杏子に持ち運ばれていたアヌビス神が、静止の声を呼びかける。
それに従い、杏子は足を止めキョロキョロと周囲を見渡す。
「なんだよ。なにかあったのか?」
『確かこの辺りに新一の奴が転がってんだ。探してくれねえか?』
新一。その名は、
田村玲子や雪ノ下から聞いている。
雪ノ下からは既に死んでしまったと聞かされていたが、そうか、この辺りがそうなのか。
純粋に埋葬してやりたいという思いもあるが、首輪のこともある。
死者とはいえ、雪乃たちの仲間から回収するのは気が引けるが、だからといって放置しておくことはできない。
アヌビスの頼みに従い、杏子は周囲を探すことにした。
意外にも、新一は程なくして見つかった。
(...こいつが、そうなのか)
右腕が無く、それなりに整った顔立ちの青年。
血だまりに沈む彼は、もう動くことは無い。
(...マミさん。あんたの護った奴は、こうなるまであんたの意思を継いでくれたみたいだよ)
新一の遺体を背負い、杏子は病院へと再び歩みを進める。
「...なあ、シンイチ。あんた、マミさんに助けられたんだよな」
呼びかけるが、返事はない。当然だ。彼は死んでいるのだから。
「あんたから見てさ、あいつはどうだったよ?変にカッコつけようとしてなかったか?」
やはり、返事は無い。繰り返すが、彼は死んでいる。返事など悪魔に魂を売らなければ聞ける筈もない。
けれどありありと思い浮かぶ。
内心怯えながらもキレイな魔法少女として戦い続けた、馬鹿で優しいあの人の姿が。
『オイ、杏子?』
「いや、あたしは大丈夫だよ。現実逃避しているわけじゃない」
言葉の通り、杏子は決して現実から逃げているわけではない。
泉新一が既に死んでいるのは認識しているし、彼の死に涙を流せるほど深い繋がりがあるわけでもない。
「ただの独り言さ」
ただ―――尊敬する師が救った命から、彼女の勇姿を聞けなかったことが心残りだっただけだ。
"あいつはカッコよかったか?""当然だろ"。そんな答えが欲しかった―――ただ、それだけだ。
やがて、杏子の視界に病院の影が映り込む。
タスクが唐突に完全に回復でもしない限り、雪乃たちが離れることは無いだろう。
アカメのことはどう伝えるべきか。
伝えなければならない現実に足が重くなり、杏子は溜め息と共に病院へと足を踏み入れた。
☆
首輪を一なぞりしてみる。
やはり、継ぎ目などはなく、完全な円形だ。
中には何かが詰まっているのか―――うっかり爆発させないように軽く叩いてみる。
当然ながら、なにかが入っているようで、場所によっては返ってくる音が違う。
それほど複雑な構造なのだろうか。
「どうかしら?」
雪乃の問いに、タスクは首を横に振る。
現状では、いくら外観から覗こうがこれ以上の成果は望めそうにない。
やはり、解体してみないことにはわからない。
彼の返答に雪乃は目を伏せるが、しかしそれでタスクを責める気持ちは微塵も無い。
なにせ、この首輪は未知なる技術の結晶だ。
そう易々と解る筈もない。
だが、首輪の解析が進まなければ、脱出への道は閉ざされたままだ。
二人の面持ちは自然と暗くなる。
そんな空気に耐えかね、再びタスクが首輪を調べようとした時だ。
コンコン。
扉をノックする音に、タスクは咄嗟にナイフを、雪乃は慌てて鉄の棒を構える。
ショットガンが破損しているため、これが唯一の武器なのは心細いが、もしも来訪者が敵ならばこれで戦うしかない。
「無事だったか、あんたら」
来訪者は杏子だった。
両者とも面識があり、敵対もしていないことから胸を撫で下ろす。
「雪ノ下...だったよな。コイツはあんたに渡しておくよ」
「え...これって」
『...よう』
手渡されたのは、一振りの刀剣―――アヌビス神。
その持ち主は、未だ姿を見せない。
「アカメさんは...」
雪乃の鼓動が早くなる。
この時点で、既に答えは察している。
けれど、認めたくない。
『...死んじまったよ、あのジジイを道連れにな』
「....!」
言い放たれた事実に、また身体が拒絶反応を起こしてしまう。
―――また会いましょう。
約束、したのに。
―――当然だ。
約束、してくれたのに。
結局、彼女とはあれが最期の会話になってしまうのか。
「アカメさん...」
今度は、頭が真っ白になることはなかった。
けれど。
「アカメ...さん...!」
零れる涙は、どうしても止まってはくれなかった。
その涙を止めることは、誰にもできなかった。
☆
雪乃がアカメの死を知った数分後。
病み上がりのタスクを除いた二人の姿は、病院の外にあった。
膝を抱え座る雪乃の隣に杏子も座り込む。
雪乃へとかけられる言葉などない。
下手な慰めが逆効果であることは身を持って知っているし、なにより納得させられる言葉が思いつかない。
"お前のせいじゃない"
"お前は頑張った"
"あいつもお前が無事で喜んでいる"
全て戯言だ。
相手をなだめるための甘言だ。
そんなもので割り切れれば人間はこうも厄介な生き物ではない。
実際に自分もそうだったのだから。
「...やっぱり、私は無力なのね」
学校一の秀才美少女。
そんな肩書きは最早路傍の石だ。
奪われるしかない現実を突き付けられて、改めて思い知らされる。
お前に護れるものなどなにもない、と。
「...そーかもな」
杏子には、そんな彼女を否定できなかった。
自分も人のことは言えない。
自分は魔法少女だ。なのに、なにも出来ていない。
どころか、周りの奴らはみんなおっ死んだ。
護れたものなど、なにもなかった。
「...けどさ。このまま不貞腐れてても仕方ないじゃん」
―――たとえ過程の段階で何も掴めなくても、最後に何かもぎ取って、自分の足で立って笑ってる奴がいたとしたら、そりゃそいつの勝ちだろ
半日ほど前にエドワードから向けられた言葉を思い出す。
いまの雪ノ下は自分と同じだ。
大切な者がいるのに、誰も、何も救えなくて。
自分はどうしようもない奴だと自責して。
...それで、立ち上がるキッカケを無くしている。
「そうやって自分を責めてれば楽だよな。なんでもかんでも自分のせいにしちゃえば、誰とも関わらなくて済む。あたしもそうだった」
かつて、
巴マミと袂を別った時。
家族が死んだ責任は自分にある、自分の為に生きると言い張り、彼女を突き放してしまった。
もう一度失うのが怖かったから。もう一度失敗するのを見られるのが怖かったから。
その結果が、彼女の死だった。
「でもさ。そういうのってやっぱり後悔しちゃうんだよ。どうしてあの場にいてやれなかった。どうして関わることができなかった...ってさ」
例え自分が害にしかならないと思っていようとも、やはり関われずに失ってしまえば、悲しみ以上に後悔が押し寄せてくる。
だったら、例え無力感に苛まれても関わればいい。
やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がまだマシだ。
尤も、それが出来なかったからこそ、いまの杏子の現状がある訳だが勿論それは自覚している。
「...なんて、あたしも偉そうなことは言えないんだけどな。ただ、あんたにはあたしみたいになってほしくなくてさ」
そこで一旦言葉を切り、雪乃の反応を窺う。
彼女は、未だに俯いたままで反応を示さない。
自分の言いたいことは伝わっただろうか。いや、そもそも自分は彼女にどうしてほしいのか。
やがて、雪乃は立ち上がり杏子を見下ろすように視線を向ける。
「...佐倉さん」
こんな自分の言葉でもなにか見つけることができたのだろうか。
だったらなによりだが。
「少し、付き合って貰えるかしら」
そう言う傍らでアヌビス神を握る雪乃。
「は?」
そんな彼女を見て、杏子は思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。
☆
雪乃と杏子が去った後の病室。タスクは一人首輪について調べていた。
アカメがブラッドレイを道連れに死んだ。
その事実はやはり重い。
無力さや苦痛が絶え間なくタスクの心臓を抉ってくる。
(それでも、絶対に諦めない...俺は、そう約束したんだ)
それでも彼が前を向けるのは、最愛の婚約者と仲間たちとの誓いのおかげだ。
その誓いへの執念は、もはや何者にも止めることは不可能だろう。
タスクは、首輪についての己の考察を一枚の紙に書き連ねる。
まずは首輪の機能についてだ。
①この首輪は、爆発すれば如何なる者でも死に至らしめる。
この首輪は参加者の証明であると同時に枷だ。
広川の意のままに起爆させられ、爆発すれば自分のような人間は勿論、限りなく不死に近いホムンクルスという怪物でも死に至らしめる。
故に、これがある限り参加者はゲームから逃れることはできない。
②爆発する条件
この首輪の主な爆発条件は、禁止エリアへの侵入・首輪をつけたままの会場からの脱出・首輪の破損・広川の自在な起爆だ。
どうやって爆発させるか。
おそらくは、禁止エリアに侵入した時はそうなるように電気信号でも送っているのだろう。
③この首輪には、異能力の無効化及び弱体化機能がついている。
信じがたいことに、このちっぽけな首輪は異能力に対しての絶対的な盾になるらしい。
実際に、タスク自身も偶然にもブラッドレイのカゲミツG4の刀身を消したのを確認している。
また、雪乃の証言では後藤という怪物はこの首輪で
サリアの使用した雷の帝具から逃れたという。
...なぜ、そこまで異能力に対して強固にしたのかはいまは置いておく。
そして、参加者の多くが各々の異能力を使用できていることから、首輪の外面は異能の無効化、首への接合部は弱体化といった様に分けられている筈だ。
④盗聴機能"のみ"が備わっている
これはこれで奇妙だ。
カメラの一つや二つを仕込めばいいものを、監視機能は盗聴機能のみ。
これだけ超常的な首輪でありながらなんとも不自然だ。
大まかな機能はこれくらいか。
改めて見ても非常に奇妙な首輪だ。
特に『何者も死に至る爆発』と『異能力の無効化』だ。
(...どんな奴でも絶対に死ぬ爆弾。そんなものはありえるのか?)
マスタングから伝えられた情報の中に出た
エンヴィーというホムンクルス。
彼は、あの焔の錬金術を幾度受けても尚生存していたらしい。
そんな不死身ともいえる怪物が死ぬ爆弾だ。こんな小型の首輪にそんな威力のものを仕込めるのだろうか。
(...多分無理だな)
マナの力を応用してもそんなことは不可能だろう。
では、多少の爆弾でも死ぬよう首輪で弱体化させているのか?
(だったら、マスタングさんの攻撃でとっくに死んでるよな)
ジョセフは自分の『スタンド』という能力に制限が掛けられていると言っていた。
そのことから、多少なりとも異能力と見なされるものには弱体化の制限が掛けられているのだろう。
しかし、ホムンクルスですら爆弾で死ぬほどに弱体化させたなら、焔の錬金術に耐えられる道理はない。
そのまま焼き殺されているのがオチだろう。
(と、なると、やっぱり爆発の威力が強い方が可能性は高いか)
だが、それではどうやって仕込むかが壁になる。
(クソッ、これじゃあずっと堂々巡りだ)
タスクはもう一度首輪を眺めながら焦りで頭を掻き毟る。
(せめて爆発物の種類だけでもわかればどうにかなるかもしれないのに...!)
首輪の解除の一番の障害は、この爆発だ。
この爆発さえどうにか抑えてしまえば解除できる可能性は高くなる。
だが、種類が解らなければ対策のうちようがない。
(そもそも、どんな生き物でも絶対に死ぬなんて有り得ない)
首輪を装着した参加者が、それも身体の構造まで違う者たちが等しく死に至る超小型兵器など都合がよすぎる。
それこそ現代兵器ではなく超常染みたものだろう。
例えば、斬れば絶対に死ぬ剣だとか、魂を破壊する攻撃だとか、そんな空想の世界にしか存在しないものだろう。
(...待てよ)
空想の世界。
思えば、この殺し合いには、怪物を除いてもそんな能力を持つ者たちが大勢いる。
殺傷能力を兼ね備えた電気体質を持つ超能力者。精神を具現化させた『スタンド』という能力。
原理はわからないが、両掌を合わせることによって任意のものを生み出せるマスタングのような錬金術。
帝具という構造がわからない兵器。
サファイアのような、魔法少女に変身することが出来るステッキ。
どれも空想の世界でしか存在しえないものだ。
そう考えれば、威力そのものこそはないが、タスクの世界のマナもその類だろう。
(視点を変えれば、いくらでも可能性は広がる...か)
この首輪は、どう見ても金属であり超能力染みたものではない。
ならば爆発物の方はどうだ。
もしも、これが科学的な爆発物でなければ、だ。
(この首輪は、『誰でも死ぬ爆発』の異能力を持った首輪...なのか?)
☆
―――キィン
金属同士が打ち合わせられる音が響く。
雪乃の持つアヌビス神が、杏子の槍と打ち合う音だ。
鍔迫り合いの中、杏子が軽く一押しすると雪乃は呆気なく倒されてしまう。
「もういいか?」
「...もう少し」
雪乃は立ち上がり、再び杏子へとアヌビス神を振るう。
杏子はそれを受け止め、なんとなく在りし日の師との日々を思い出しつつも、常に後藤や御坂のような危険人物の気配が無いかを警戒を怠らない。
なぜ彼女たちがこんなことをしているか―――全ては、雪乃の『立ち合いをしたい』という言葉から始まった。
雪乃は無力だ。だが、ショットガンも失ってしまったいま、杏子やタスクに頼り切りというわけにはいかない。
足手まといにならない、などということは不可能だが、いざという時に自衛もできないでは話にならない。
せっかくアヌビス神という心強い味方がいるのだ。せめて、剣の振り方くらいは覚えておかなければならない。
(...そんなもの、言い訳ね)
こんなものは、ただのアカメとミギーの物まねだ。
本当に"アヌビス神"ではなく、"
雪ノ下雪乃"が少しでも戦力の足しになるなどとは思っていない。
それでも。
何もせずにいるよりはマシだと言い聞かせては、剣を振るい続ける。
まるで、彼女の喪失を埋めるように、ただただ剣を振るい続ける。
―――奉仕部、といったかな。君は友人たちの死を受け入れ、立ち直ろうとしている。それは、悲しみへの対処をストレスケアに依存したシビュラの下では、決してありえないことだ
依存。
口では拒絶しつつも、どこか姉の跡を追っていた自分。
いま思い返してみれば、自分にはどこか依存癖があったかもしれない。
友人たちの死を受け入れ立ち直ろうとしているという槙島の言葉が本当ならば、雪乃は少しは変わったのだろう。
けれど、根本に根付くものはそうそう変わらないみたいで。
その結果がこれだ。
(...泉くん、アカメさん)
逆に言えば。少しでも変わったのなら、それは前に進むことが出来る証拠だ。
もう充分に彼らに頼ってきた。
だから、言わなければならない。
彼らとの別れを認めるあの言葉を。
アヌビス神に想いを乗せて、口にする。
「今まで、ありがとう――――さようなら」
キィン、と一際甲高い音が鳴り、アヌビス神が宙を舞う。
その衝撃で、雪乃は数歩下がるが、今度は倒れない。
落ちてくるアヌビス神の柄を杏子が掴む。
「...もう、いいみたいだな」
「ええ。手間をかけさせたわね」
顔をあげる雪乃。
その目には、疲労は在れど、もう迷いはなかった。
☆
(―――やっぱりだめだ)
首輪の爆発が異能だと断定しても、だ。
そうなると、首輪の異能の無効化が枷になる。
これがあるせいで、その異能もまた消されてしまうだろう。
結局行き詰まりだ。
確信の無い机上の理論だけが紙を埋めていく。
(そもそも、なんで首輪に異能の無効化なんて付けたんだ?)
もしも、これが参加者に平等に優勝を勝ち取らせることができる措置だとしたら。
それこそ首輪にランクを振り分けたり参加者の異能の弱体化などというまどろっこしい要素ではなく、全面的に異能力を使用できない措置を取る筈だ。
つまり、主催は参加者間の平等な殺し合いなど求めてはいないといことだ。
この首輪を道具として使用したとして、敵を殺すことが出来るか。
出来る、かもしれない。
しかし、それを行使すれば、まず間違いなく使用者も死ぬだろう。
よくて道ずれにしか使えないようなもの、ましてや優勝を目指さない者専用ともいえるような武器を配るだろうか?
では、防具に使えるかというとそうでもない。
タスクがブラッドレイのカゲミツを防げたのは、あれがあくまでも剣であったため、攻撃範囲が狭かったからだ。
だが、異能力者の多くはもっと大規模なものだ。
御坂美琴の電撃や
ロイ・マスタングの錬金術がいい例だ。
あれらを首輪で防げるのは、不死の身体を持つホムンクルスや、身体の構造を変えることが出来る後藤くらいで、多くの参加者には恩恵などない。
よってこれも違う。
もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
何から手をつければいいかすら分からなくなってしまう。
コンコン
そんなタスクの苦悩を察したかのようにノックが鳴り、杏子と雪乃が部屋に足を踏み入れる。
「タスク。これからのことを話しあいたいんだが...って、どうしたそんな顔して」
「い、いや...なんでもない」
「...?まあいいや」
「...二人共、これは俺なりに首輪について考えたことだけど」
タスクは、首輪についてのメモ用紙を二人に見せ、考えを募る。
そのメモを眺める二人は、顎に手をやりながら考え込む。
「『絶対に死ぬ爆発』ね。馬鹿げてる。馬鹿げてるが...そんなもの今さらだな」
「...悪いけど、私も思いつくことはないわ。ごめんなさい」
三人寄れば文殊の知恵、という諺があるが、現実はそう易々と先に進むはずもない。
あれこれと話し合ったが、依然進展はない。
(こんなところで躓いてたまるか...なにか、なにか手がかりは...!)
もう一度情報を探るため、タスクは首輪を弄りだす。
外面をなぞり、叩き、内面をなぞり、叩き―――
『これ以上の過度な干渉を続けた場合、三十秒後に首輪を爆破します』
「ッ!?」
突然の首輪からの警告に、タスクは慌てて首輪を手放し床に落としてしまう。
警告。
即ち、もう一度行えば爆発するという宣告だ。
なんてこった、と内心苦い思いで項垂れる。
現在手持ちにある首輪のサンプルは、三つ。
狡噛、みく、そしてまだ回収していない新一のぶんだ。
その内の一つを失ってしまった。
落ち込まない方がどうかしているだろう。
「...ま、まあ、あまり気を落とすなよ」
慰めるように、杏子がタスクの肩に手を置き、雪乃もまた頷く。
だが、やはり貴重なサンプルを一つ失ってしまったショックは大きい。
未だ項垂れるタスクだが、一つの疑問を抱く。
(...なんで急に警告が?)
先刻までは確かになにも鳴らなかった。
だが、大して変わったことをしていないにも関わらず、首輪は警告を告げた。
警告する、ということは、知らず知らずの内になにかキッカケを掴んでしまったのだろうか。
それこそ、首輪を解除できてしまうような、重大なタネが。
(落ち着いて考えろ。俺は、さっきなにをした...?)
最初に調べた時は、慎重に慎重を重ねて、最新の注意を払っていた。
だが、さっきはどうだった。
焦りと若干の苛立ちを交えて首輪を調べていた。
それこそ、強めの力で叩いたり。
それに反応したというのなら、なんと内側が脆い構造であろうか。
「しっかしわかんないもんだな、コレ。頑丈なのか脆いのか...」
「ちょっと、そんなに雑に触ったら...」
無遠慮に首輪を拾い上げる杏子に、雪乃は思わず止めかける。
既に警告されているのだから当然だ。
しかし、杏子は事も無しといった表情で首輪の外面を軽く小突く。
「こんくらい大丈夫だろ。だってさ、アヌビスの奴なんかずっと炎に炙られてたんだぞ?なのに爆発なんてしてないじゃん」
『や、ヤメロ!思い出したくないからあの時の話をするな!』
「つまり、外側からなら大抵のことは大丈夫な仕組みなんだろ」
(あれ...?)
タスクの中で、杏子の言葉が引っかかる。
「そんなに頑丈に作れるなら内側ももっとしっかり作ればいいのによ」
「なにかできなかった理由でもあるんじゃないかしら」
できなかったではない。する必要がないのだ。
首輪が爆発すれば、如何に強靭な身体を持っていたとしても死に至る。
ということは、一般人では勝ち目のない者達、ホムンクルスのような者達を殺害する手段に成り得る。
そうでなくても首輪の破壊は有効な殺害手段だ。
事故に見せかけて、一発逆転を狙って、確実に殺すため...理由はそれぞれだが、それを奪う理由はどこにもない。
首輪をここまで頑丈にする理由など一切ないのだ。
(ゲームに賛同し得る者への優遇か?でも...)
如何に超常的な肉体を持つ者といえども、彼らが必ずしもゲームに賛同するとは限らない。
例えばエンブリヲなどはそうだ。確かに彼は自分を含めた多くの参加者にとっては危険人物だが、主催の言いなりになってそれでよしと済ませられる男ではない。
何れは必ず主催へと歯向かうタイプだ。主催からしてみれば、道中で死んでくれた方が助かると思える男だろう。
また、セリムにしてもそうだ。彼は図書館では参加者たちを襲ったそうだが、武器庫の戦いでは杏子たちの味方をしていた。
つまり、主催者へ反抗する可能性も孕んでいたということだ。
そう考えると、彼らへの有効打である首輪の破壊による爆発を選択肢から除外する理由はないと言える。
(じゃあ、なんでだ?なんで―――)
「...タスクさん。首輪のことはまた後で考えて、ひとまずロックを外しに向かいましょう」
「ロック...?」
聞きなれない単語に杏子が首輪傾げる。
「そういえばあなたにはまだ話してなかったわね」
雪乃は、ヒースクリフが語った『三つのロック』の存在を杏子にも伝えた。
「なるほど。それで、あんたらはこの変な形をしてるところが妖しいと睨んだわけか」
「そうよ」
「わかった。まあ、外しても気にすることはないからさ、気楽にいきなよ。とりあえずあたしは
ウェイブと田村にもこのことを伝えとく」
「助かるわ」
杏子としては、一般人である雪乃と怪我人のタスクを置いて行きたくはないと思う。
しかし、自分の我儘でウェイブと田村には気を遣わせてしまったのだ。
少なくとも、彼らにはちゃんと連絡するべきだろう。
そのため、杏子は再び別行動をとることにしたのだ。
「気をつけろよ。ヤバそうだったら、あたし達が来るまでここで待機しててもいいんだからな」
「お気遣いありがとう。でも、私はただジッとしていられる性分じゃないの」
「ハッ、そうかい。んで、タスク。あんたも向かうのか?」
「ああ。この通り、どうにか身体も動くしね」
「ならいいや、頑張れよ。...んじゃ、また後でな」
杏子は、部屋を出る間際にライトのスイッチを切り替えて灯りを消した。
「わっ!」
「な、なんだ?」
「い、いや、ゴメン。急に暗くなったから驚いたんだ」
「なんだよ、大げさな...」
「佐倉さん。なぜ電気を?」
「使った跡は残さないようにって癖が...いや、なんでもないぞ、うん」
「...?まあ、いいわ。もう少し整理してからここを起ちたいからライトを点けてもらえるかしら」
「ん、わかった」
雪乃の頼み通り、再びスイッチを切り替え灯りをつける杏子。
(あれ...?)
スイッチを押して、電気を点ける。
その行程が引き金となり、幾つもの疑問を押し流す河がタスクの脳裏を流れ出す。
(まさか...いや、そんな...)
馬鹿げている。
辿りついた結論はそう揶揄してもいいだろう。
しかし、これなら一応の理屈は通る。
(そういうことなのか?だとしたら―――)
「待ってくれ」
部屋を後にしようとする杏子を呼び止め、タスクは紙を取り出し書き綴る。
(最後に必要なのは実験だ。それさえ成功すれば―――)
『首輪の全貌がわかるかもしれない』
☆
病院の一室。その窓際。
顔を覗かせれば、深淵の奈落が見える。
窓際の床に置かれる首輪、その直線状に立つのは杏子ら三人。
乱雑に置かれていた医療器具は、人一人分の隙間を残して並べられ、壁のようにそびえ立っていた。
「通路はこれで確保した」
「ありがとう...じゃあ、始めよう」
タスクと雪乃は、最悪の場合―――首輪の爆発による被害に備えて、杏子のデイバックの中に身を潜める。
これで準備は完了だ。
万が一首輪が爆発しても、杏子の防御結界や医療器具が多少のバリケードの役目を果たしてくれる筈だ。
もしそうなった場合は、杏子の判断が運命を握るだろう。
杏子の槍の先端に雪乃の持つ壊れたショットガンを、更にこれにアカメが足立から奪った鉄の棒をカーテンで括りつけ、少しでもリーチを長くする。
杏子の槍は異能として弾かれてしまうが、これならば距離を置きつつ首輪に触れることが出来る。
「...いくぞ」
杏子の後ろにいるタスクと雪乃が頷き、杏子は握る槍に力を込める。
首輪の内面に狙いを定め、ゆっくりと槍を引き、そして強めの力で突く。
突き出された槍は首輪を突き、壁にぶつけ激しい衝撃を与える。
その余波で首輪は宙に浮くが、杏子が槍を消すのに僅かに遅れて床に落ちる。
一呼吸置き、静寂に包まれる。
数秒後。
杏子は窓際まで駆けだし、首輪を拾い上げて耳を当てる。
『十五...十四...』
カウントダウン。
警告を無視し、禁忌を犯した者へ与えられる罰だ。
爆発を受ければ死に至るモノに対しても、しかし彼女は一切慌てない。
手にした首輪を奈落へと向けて放り投げる。
数秒後。
地図の位置にしてC-1の端の端。
病院には被害が被らない奈落の上で、首輪は爆発した。
杏子は、デイバックから二人を引きずり出し、見たままの結果を話した。
「...これで決まりだ」
『この首輪は、すぐに爆発させることが出来ない仕組みになっている』
☆
『...こんなもんがあたしたちを縛ってたモノの正体だっていうのか?』
杏子は信じがたいような、呆れたような複雑な表情を浮かべる。
当然だ。
いま現在己の命を握っているこの首輪だ。どれほど大層なモノかと思えば、こんなわかりやすい弱点があったのだから。
『...俺が気になったのは、この首輪の頑丈さだった』
先述した通り、首輪の爆発は、如何なる参加者でも全ての参加者の殺害が可能な手段だ。
一般人が殺し合いに乗ったとして、支給品を除けば超能力者やホムンクルス達を殺害できる唯一の手段と言ってもいいだろう。
そんな手段をなぜ奪うのか。
それは、首輪の弱点を隠すためだった。
この首輪の弱点。
それは、即座に爆発することが出来ないことだ。
なぜ爆発できないか。
おそらく、それはこの『如何なる生物でも死に至る爆発』という異能が原因だろう。
例えば、ロイ・マスタングの錬金術。
彼の錬金術は、両手を合わせる、錬成陣の書かれた手袋を使うなど、焔を放つ時は必ずワンアクションを置いていた。
御坂美琴の電撃もそうだ。
彼女は、電撃を放つ際、必ず己の身体に電気を流す一動作を入れてから能力を発動していた。
また、杏子の槍にしてもそうだ。
彼女の槍は何の代償も無しに出てくるものではなく、魔力を消費することで槍を構築している。
このことから、大多数の異能力は発動する際に必ず一つの動作を入れるという誓約があるのだろうとタスクは考えた。
と、なればだ。
如何なる者をも殺す爆発。その異能を発動させるには、かなりの時間を要する必要があってもおかしくない。
『じゃあ、いますぐあたしたちの首輪もぶった切れば』
『いや、それは不可能だ。首輪の固さはもちろん、自分の首を斬らずに脆い内側へと干渉する手立てがない。糸の一本も通らないくらいピタリと首についているからね』
『爆発までの時間を補うための首輪の異常な強度、という訳ね。なにかの衝撃で首輪が外れてしまうのを防ぐ役割も兼ねているといったことかしら』
『そうだ。けど、このまま爆発させても異能を無効化・弱体化する能力があるせいで、爆発の効果が薄まってしまう』
万が一にも効果の薄くなった爆発で生き延びれば主催側としては厄介なことになる。
そのため、爆発の際には異能無効化を取り除かなければならない。
そこで、その役割を為すのがスイッチだ。
首輪に仕込まれている異能を無効化する装置に直接衝撃を与えられた時。
おそらくこの時に特定の信号パターンを主催側に送ることで、警告が鳴るように首輪に仕込まれている。禁止エリアに侵入した時も同様の信号パターンを送るのだろう。
そして、二度目の装置への干渉を持って、警告は処罰へと変わり、主催側から送られる信号をもって異能の無効化機能はスイッチを切り替えられる。
その時間がおよそ三十秒。そして、爆発の異能が発動するのも三十秒程度ということだろう。
『でも、最初の上条って奴の首輪はすぐに爆発してなかったか?』
『おそらく、彼だけは違う首輪を付けられていたんだと思う』
上条当麻。
最初に見せしめとして首輪の爆発で殺された少年は、
参加者名簿に載っておらず、身体も拘束されていなかった。
このことから、上条当麻はあらかじめ見せしめとして殺されるだけに呼ばれた存在であることがわかる。
首輪も他の参加者のものと形だけ揃えて、致死量の爆薬が仕込まれただけの首輪を付けておけばいいだけだ。
『けれど、こんな仕掛けだと、ゲームを進める内にすぐにバレてしまうんじゃないかしら』
『それはない。自分の命が懸っている状況で、これから爆発しますって爆弾に導火線を点ける奴はいないだろう?』
一度警告音を鳴らされてしまえば、それだけで警戒心を抱き極力首輪に触れないのが普通の心理だ。
如何に自分の身体に自信があれど、無計画に警告を無視して外そうとする者はいないだろう。
タスクのように解析をしている最中に鳴った場合もそうだ。
警告音を出されれば、同じ失敗を重ねてサンプルを失わないように同じ行動はなるべく避けるはずだ。
それを無視して解析を易々と進められる参加者はまずいない。
一人で解析を進めるのは無理に等しくなる心理のトリックだ。
これらのことから結論を述べると。
『この首輪は電波のみで全てを操られている首輪ということさ』
『...ということは、その電波を妨害するなにかがあれば』
『解除も難しくないだろう』
「じゃあ、いまできることはなにもなくないか?」
「それは否定できない。ロックを解除した時になにか起こればいいんだけど...」
ガクリ、と杏子は肩を落とす。
完全にこの場で解除ができる雰囲気だったというのに、結局は電波とやらを防ぐ手段がなければどうにもならない。
これには落胆するしかなかった。
「...でも、首輪についてわかったことがあるだけマシか」
とはいえ、この枷を外す手がかりが掴めただけでもよしとしておくべきだろう。
ゴールがあるのとないのとではまるで違うのだから。
気をとりなおし、杏子は己のデイバックを肩にかけ直す。
「んじゃ、この紙は貰ってくよ」
「ああ。他の参加者にも伝えておいてくれ」
そうして、部屋を後にする杏子を見送り、タスクと雪乃も病院を後にする準備にとりかかる。
『けどよぉ、なんか釈然としねえなぁ』
突如、アヌビス神が一人ごちる。
「どういうことかしら」
『確かにお前達の考えは間違ってねえんだろうけどよ、ちょっと都合よすぎやしねえか?』
アヌビス神の言葉に、雪乃の腕がピタリと止まる。
「雪乃?」
「いえ、アヌビス神が...ごめんなさい、続けてくれるかしら」
『いや、大したことじゃあないんだがよ。首輪の仕組みなんざ、こんな不安定なものにしなくてももう少し他にやりようはあったんじゃねえかって思っただけだ』
「...だそうよ」
雪乃はアヌビス神の言葉をほとんどそのままタスクに伝えた。
「......」
タスクは、顎に手をやり改めて考え直す。
確かにそうだ。
どうにも、この首輪の仕組みは参加者にとって都合がよすぎる。
そもそもだ。
『対象が必ず死ぬ異能』など、ホムンクルスのような身体を持たない者には必要ない。
首を吹き飛ばされれば人間は死ぬのだ。特に一般人相手では少量の爆薬でも事足りるだろう。
故に、参加者全員の首輪に同様の機能を仕込む必要性は無い。
だが、首輪はどれも同様の機能を有している。
参加者個別の首輪を作る暇がなかったとしてもだ。
死亡者の首輪の機能を停止してしまえば、タスクたちは手がかりすら見つけることはできなかった。
それでも、解析できるように首輪の機能を停止させなかった理由は限られてくる。
(俺たちに首輪を外させるためなのか...?)
そんな筈はない。
主催側の人間が枷である首輪を外させる理由は無い。
仮に主催陣の中で対立が起きているとしてもだ。
参加者の枷を外してしまえばその牙は主催陣全てに向くことは容易に考えられるからだ。
(それとも、首輪を外させることでなにかを狙っているのか...?)
参加者の首輪の解除の成否は問わず、その過程に求めるなにかがあるとしたら。
だとしたら、これまでの分析はなにもかもが"誰か"の掌の上での茶番だったということになる。
(...考えすぎだ。狡噛さんも言ってただろ。どんな犯罪者でも、ちょっとしたことで計画が崩れてしまうことはよくあるって)
ただ偶然に偶然が重なった結果が今回の分析に繋がったのかもしれない。
しかし。
もしも、誰かが自分達を誘導しているのなら―――
そんな得体のしれない不安を胸に抱きながら、タスクは雪乃と共に病室を後にした。
【C-1/病院付近/二日目/黎明】
※前川みくの首輪は爆発して奈落に落ちました。
※タスク、雪乃、杏子、アヌビス神の首輪についての共通認識
①首輪の爆発は異能力の類だと思っています。
②首輪の爆発条件は、全て電波で判断しており、その操作でのみ爆発すると考えています。
③爆発までには必ずタイムラグがあると考えています。
④A-1に地獄門のロックを解除する手がかりがあると思っています。
【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態] アカメ・新一・タスク・雪乃への好意(?)
[思考・行動]
基本方針:がんばってできるかぎり生き残る。
0:しばらくは雪乃たちのもとにいる。
1;DIO様が死んだってマジかよ。
※キング・ブラッドレイとの戦いで覚えた強さはリセットされています。
※杏子と情報交換をしました。
【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小)
[装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率、アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0~1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣
ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:A-1へ向かう。
2:もう、立ち止まらない。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※
第四回放送をほとんど聞けていませんでしたが、杏子から大雑把に聞きました。
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※首輪の大まかな構造について理解しました。
【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大) 、アンジュと狡噛の死のショック(中)、狡噛の死に対する自責の念(中)、不安
[装備]:刃の予備@マスタング製×1
[道具]:基本支給品、狡噛の首輪、新一の死体
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:本当にこれでよかったのか...?
1:A-1へ向かう。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:御坂美琴、
DIOを警戒。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていませんでしたが、杏子から大雑把に聞きました。
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※魔法治療により、傷口だけは塞がりました。
※変わり身の術は連続しては使えません。また、体力を大幅に消耗します。
※首輪の大まかな構造について理解しました。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、顔面打撲 、精神不安定(中)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~1 、タスクの首輪の考察が書かれた紙
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:市庁舎でウェイブと田村と合流する。
1:その後はまた話し合って考える。
2:さやかも死んじまったか……。
3:御坂美琴はまだ――生きているのか。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※
狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。
※アヌビス神と情報交換をしました。
※首輪の大まかな構造について聞きました。
最終更新:2016年10月11日 10:46