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純黒の悪夢/小さなShining Star:◆BEQBTq4Ltk
☆☆★――――――――――――――――
UB001:ねえヒースクリフ。あなたにいいことを教えてあげる。
――◆
視点とは自分の価値観を前提に展開する、謂わば己の押し付け合いである。
何せ相手との意見が違うのだから、勝つか負けるか引くか諦めるかに絞られるのは当然だ。
勿論、勝敗や優劣で物事を語るとは限らないのだが、基本的に衝突は避けられない。
説得ならば、元から相手は自分と異なる価値観を持っているが故に言い争いとなるだろう。
情を含んでも、現実を並べても。相手の心が揺れ動かなければ失敗だ。己の土俵に引き込めないこととなる。
言葉で上手く相手の心へ訴えろ。
己が不利ならばなりふり構わず沈黙を発生させぬために口を動かせ。
嘘を嘘で塗り潰し相手がそれを信じたならば――それは偽り無き真へと昇華する。
◆――
KoB:これは驚いた。期待しても構わんかね?
――◆
『なあ、悠くん。まどかちゃん達を殺したのは僕か、それとも彼女か...どっちだと思う?』
足立透の発言から一室の音は静かに停止しており、心拍が震える鼓動と口から漏れる荒い息だけが響いていた。
鹿目まどかと
暁美ほむらを殺し、彼女達を【いっしょ】にしたのは一体誰なのか。
容疑者候補は今更説明する必要もなく足立透か
島村卯月の二択だ。
彼と彼女の供述から――真実はさておき、島村卯月を犯人と見立てるのが一番筋が通っている。
筋。
糸の帝具クローステールを所有している島村卯月ならば鹿目まどかと暁美ほむらを繋げることが出来る。
簡単だ。じゃあ犯人は彼女じゃないか……と、割り切れるならばこの世に裁判など必要ない。
彼女の言い分では足立透が鹿目まどかと暁美ほむらの殺害犯らしい。そしてこれは【事実】である。
現に島村卯月は暁美ほむら殺害の場を
正義の味方と共に目撃しているのだ。嘘じゃあない。
しかし、それを証明出来そうな参加者は生存者で云えば
本田未央ぐらいだろう。そして彼女は気を失っている。
そのため、島村卯月の潔白及び足立透への不信感を確定させる証拠は第三者から助けを出すことは出来ない。
勿論、足立透も十分怪しいのは重々承知である。
島村卯月の特異性を抜かせば、確実に彼が黒と断定出来る程度には怪しい。
彼と行動を共にした参加者はヒースクリフである。最初の出会い同士であり、思入は――あるのかもしれない。
さて、しかしながらヒースクリフと足立透が別れた後に鹿目まどかが死んでしまった。
コンサートホールに残ったのが鹿目まどか、
空条承太郎、足立透。
散策に足を動かしたのが
エスデス、
モハメド・アヴドゥル、ヒースクリフである。
組み分けはエスデスが行い、彼女なりに配慮した人選だ。少々人間性に問題を感じられた彼女であったが、上官としての才能は光るモノがあった。
精神が不安定な鹿目まどかに対し一番行動期間の長い空条承太郎を傍に置かせた。
そして一般人であり一番感性が近いであろう足立透を残したのも、精神的支えになってもらいたいが故だ。
しかしそれが裏目となり、足立透は覚悟を決め殺し合いの出来事を見渡しても目立つだろう演劇を引き起こした。
その結果、鹿目まどかは死亡。コンサートホールは崩壞。後に空条承太郎も死んでしまった。
エスデスは既に足立透が隠していたナニカ――ペルソナについても勘付いていたようだが、何も悲劇を起こしたかった訳ではない。
残念ながらこの真実を知る人間はもう足立透しか生きていない。
島村卯月と本田未央が知っているのはコンサートホール崩壞後の、暁美ほむらが死亡した出来事からしかその目で見ていない。
いや、目で見ているとは語弊が生まれる。何かしらの情報でソレを知っている。
そして彼女達は言葉を失っている。一人は恐怖、一人は意識を失っている。
鳴上悠に真実を発言する人間は事実上、今の時間じゃ使い物にならない。
さあ、この状況で鳴上悠は何を判断するのか。
まず、島村卯月が殺人を行ったことは彼女の口から聞いている。
その罪を受け入れ、生きて償うことも聞いている。その心を馬鹿になどせず、本気で応援或いは支えようとも思っている。
だが、鹿目まどか殺人とは話が変わってしまう。
美樹さやかと云う共通人物が彼の頭に幻影となり付き纏う。
足立透が黒と発言し、島村卯月を守るか。
判断材料を全て精査するならば、彼の発言にそれらしい嘘は無い。そして、彼女についても同様である。
しかし、糸の存在と以前の島村卯月の行動を結びつけた場合――彼女が犯人と考えるのが普通だ。
「何で黙ってんだよ、何か悩んでるのかい」
誰も言葉を発しない中、足立透だけがこの場でほくそ笑んでいた。
どう転ぼうが、結果がどうであれ彼の勝利は既に確定へ傾いている。
島村卯月と死体のオブジェが揃った時点で、そのインパクトを超える出来事など何もない。
加えて足立透の行いを知っている人間はそう、多くない。
この場に
雪ノ下雪乃はいない。本田未央は意識を失い、島村卯月はあのざまである。
「僕は言ったよね。こんなことをしでかしたのは僕か……それともそこに居る島村卯月か、ってね」
優位に立てる。
嘘を並べても、その偽りを看破出来る人間はこの場にいない。
なあ鳴上悠、お前は何を選ぶ。
島村卯月を庇うか。
だが、罪を認めて、償っても、それで許されるのか。
多くの人間が死んでいる。明日を望んだ。鹿目まどか達もそうだろう。
島村卯月だけを庇い、これまで散った生命を否定するのか、そうなのか。
「なーんで言えないのかな……ぁ?」
足立透が犯人だと言うのなら。
のうのうと生きればいい。償えるものなら償ってみせろ。
けれど、誰もが許すなどあり得ない。それまでに島村卯月は汚れている。
今は関係ない。過去の行いが彼女自身を苦しめているのだから、自暴自棄である。
島村卯月を犯人だと言うのなら。
よくも言えたものだ。仲間を見捨てるのか、と、散々笑ってやればいい。
実際に鹿目まどかと暁美ほむらを殺したのは仇も足立透自身なのだが。
「……それは――」
鳴上悠の口が動く。皆の視線が集まり島村卯月以外は彼を見ている。
ヒースクリフと
エンブリヲ、それに足立透が紡がれる言葉を待つ。何が飛び出すか。
犯人は足立透だ。
犯人は島村卯月だ。
「とんだ茶番だな」
言葉を発した人間は意外にも――エンブリヲだった。
鳴上悠が話すよりも先に声を上げ、彼と足立透の間に割って入る。
――似ているな。
彼らの背後に具現化しているイザナギとマガツイザナギをそれぞれ見つめながら、鳴上悠の方へ振り返る。
「相手のペースに乗せられすぎた」
額に浮かぶ汗。整わない顔色。肩で呼吸する焦り。
これでは冷静な判断と不可能である。現在の鳴上悠はあまりにも不安定だ。
傍から見れば足立透が調子に乗り、鳴上悠を甚振っているようにしか見えないのが現実である。
「ちょっと……今は悠くんに聞いてるんだけど」
「私は今その『悠くん』に話しかけているんだ、邪魔をするな」
「こいつ……ッ」
「何か言ったか」
「な、何にも……」
足立透の言葉が詰まる。
この男は突然口を挟み、何を邪魔するのかと思えば武器を構えているではないか。
マガツイザナギを発動している今、些細な攻撃を気にする必要は無いが生憎この空間は室内だ。
狭い部屋ではどうしてもペルソナの行動が制限されてしまう。加えて相手は斧だ。
それに今の今まで生きている参加者だ、修羅場を潜り勝ち抜いてきたのだろう。
油断は出来ない。下手に刺激し一斉に攻撃を加えられては一溜りもない。
鳴上悠、エンブリヲ、ヒースクリフ。
流石にこの三人を一度に相手するのは避けたいのが足立透の本音である。
島村卯月や気絶している本田未央、
高坂穂乃果を人質に取れば上手く立ち回れるかもしれないが、今は分の悪い賭けを行う場面ではない。
冷や汗を浮かべつつ、相手の出方を伺う。
「簡単な話だろう。足立透を一方的に喋らせるな。もう一人証言出来る奴がいるだろう」
「それは……卯月に話させるのか……っ」
「埒が明かん。このまま足立透に喋らせれば奴がこの場を――お前を支配するだけだ」
懐に忍ばせた銃をわざと見えるように振る舞いながらエンブリヲは鳴上悠へ忠告を行う。
彼の言っていることは正しく、足立透が言葉を流し、鳴上悠が迷いを抱くならばそれを見抜く証言が必要となる。
その役目を担うのは島村卯月しかいない。簡単な話だ。
「だけど卯月は今……そんな状況じゃない」
「ならばお前が彼女を助けてやれ。
出来ていないから足立透をつけあがらせることに繋がるんだ」
「っ――俺は卯月を信じ――」
「へぇ、庇うんだ。
糸を持っているのはその女の子なのにねえ。誰が見ても黒だと思うけどなあ」
「……っ」
「ま、それが君の選択ならしょうがないよねえ。
あーあ、鹿目まどかと暁美ほむらの知り合いは可哀想だなあ」
「黙っていろ」
割り込む足立透の言葉を一蹴しエンブリヲは島村卯月へ近寄る。
彼女は精神的不安からか震えており、状況は認識しているだろうが発言を拒むだろう。
何せ殺したのは偽りだとしても、魔法少女を繋ぎ合わせたのは紛れも無くシンデレラだ。
自分の口から死体を繋ぎ合わせた。などと発言出来る女子高生がいるだろうか。
現実とは残酷である。
本来の彼女であればこんなことは一切行わない。
行動もしなければ思考もしない。そもそもこんな状況に追い込まれることも無かっただろうに。
殺し合いが産んだ悲劇である。けれど、悲劇の一言で片付けられる程、状況は甘くない。
少なくとも、気絶している高坂穂乃果は島村卯月を許すつもりは無いだろう。
普通の少女が友達を殺されて何も感じない訳が無い。意識を失っているのが不幸中の幸いだろう。
鳴上悠にとって、高坂穂乃果が目覚めればどんな結末になろうと島村卯月が責められる展開になってしまう。
ここまで生き残った参加者同士、いがみ合うのを止めたいのだが正論だけで物事は解決出来ない。
衝突も必要である。しかし、タイミングが悪すぎる。
足立透の作戦――立ち回りは完璧に近い。
何せ鳴上悠がどんな選択をしようが、どうにでもなるのだ。
この集団の崩壞は免れない。逃げることなど造作も無かったのだが、止められてしまった。
「意外だな。助け舟を出すのがまさか……何かあったのか」
「ふん。時間の無駄と判断したまでた……時間の無駄」
エンブリヲが鳴上悠を庇ったのは誰もが驚いていた。
彼のことをあまり把握していない足立透でさえだ。少なくとも第一印象で他者を助けるイメージが沸かない。
確執――争ったこともある謂わば敵関係の彼らであり、特に両者互いに相手のことをよく思ってないのは周知の事実である。
「――そこを退け」
ヒースクリフは島村卯月の前に立ちエンブリヲの正面に立ち塞がっている。
盾と剣を装備し鎧も纏っている。いつでも戦闘が出来る体勢だ。ゆっくりと剣先をエンブリヲへ示す。
「彼女から無理矢理吐かせるのは流石に酷だ」
「だが彼女の証言で全てが決まるかもしれん――私には興味が無いことだが、このままでは釈然としない」
「それはそうだが……彼女のことも考えろ。血も硝煙とも無縁の少女だぞ」
「
渋谷凛と同じように強い女性だと踏んでいる。そうでなければ人の一人や二人殺せんだろうに」
「……エンブリヲ、そこまでにしておけ」
「渋谷凛――しぶり……ん……りんちゃん?」
声だ。
今まで震えていた島村卯月は渋谷凛の名前を聞き、やっと口を開いた。
何も考えていない。ぐちゃぐちゃの思考の中でたった一筋だけ光った煌めきを無意識に呟いただけだ。
だが、そのお陰で少なくとも数秒前よりは会話が出来る状態になった。エンブリヲが返答を行う。
「そうだ。君も彼女の友ならば、怯えていないで教えてくれないか――君がこの会場で何をして来たか」
優しく。傷付いた少女の心へ入り込むように柔らかい声色でエンブリヲは語り掛ける。
触れれば更に効果は高まるのだが、ヒースクリフが間に入るため近寄ると怪しこまれるだろう。
それに鳴上悠がエンブリヲを険しい表情で睨んでいる――そうか、と呟きながらエンブリヲは振り返る。
「渋谷凛を殺したのは私じゃない。少なくとも私が彼女の前から消えた後――
キング・ブラッドレイしか近くにいなかったがな」
「じゃあ彼女を殺したのはキング……ブラッドレイ」
「エンブリヲさんは違う……セリューさんが言ってましたから」
「……そうか。あの男は今も生きている。警戒しなければな」
「凛ちゃんを殺したのはキング・ブラッドレイ……私じゃ勝てない」
「当たり前だ。君は戦う力を持たない少女だからな」
「ましてやキング・ブラッドレイだ、生半可な実力じゃ勝てないだろう」
「卯月が戦う必要は無いんだ。俺が、仲間達が君を守って仇も取る」
(勝手に話を進められてるけど、完全に腰を折られたねこりゃあ)
話を仕切られた段階で主導権を握れなくなった足立透の表情は険しい。鳴上悠に回復の時間を与えるのは好ましくない。
考える時間は変わらない。しかし、心に余裕を持たれては何かしらの手がかりから状況を逆転させられる可能性が生まれる。
足立透は嘘を吐いている。何処かで綻びが見えるのは確実であり、それをどこまで隠せるかが彼の今後を決定付けるのだ。
鳴上悠が気付くか。島村卯月が信じられるか。ヒースクリフとエンブリヲが邪魔をするか。気絶している本田未央と高坂穂乃果が目を覚ますのか。
(まずい……俺の居場所なんて最初から無い。けど、適当な所で逃げるか……?)
思い返せば数分前のことだが我ながら調子に乗っていたと振り返ってしまう。
鳴上悠と対面し、島村卯月の業が重なった先に窮地の状況に対する活路を見出したものの、話を適当に切り上げるべきだった。
彼ら二人に強気に出れたとしても、ヒースクリフとエンブリヲに同じ手は通じず、言葉で上手く捲し立てるのは不可能に近い。
精神が不安定になっていても怪しいだろう。彼らは大人として一定の経験や修羅場を潜っている。
ヒースクリフに学があることは知っている。エンブリヲもここまで生き残っているのだから頭が回るなり武力なり……何かを持っているのだろう。
さて、自信に満ち溢れていたが、撤退時を考えるべきだ。
逃走――出来るのだろうか。ペルソナは既に発動しており警戒されているのは確実である。
隠し通せていれば切り札になっていた。何せ正体を知っているのはヒースクリフだけだった。
「私が最初に会ったのはセリューさんでした……足立さんもよく知っている」
「あ?」
島村卯月の言葉に反射的ではあるが足立透の声が響いていた。
どうやら彼女はこれまでの軌跡――会場での出来事を供述するらしい。
最初に飛び出した名前はあの正義狂、
セリュー・ユビキタスだ。思い出したくもないと、不快感が汗となって頬から落ちる。
「いたね、俺の頭には強烈に残ってるよ。あれ、やばかったね。
放送で名前を呼ばれたのは残念だったね。でも、死ぬのはしょうがないと思うよ」
心の篭っていない言葉だ。
あまりにも薄っぺらく、自分で笑いを堪えるのがやっとである。
気付けば一人称が俺になっている……焦っているのかもしれない。
さて――島村卯月の供述と足立透の嘘。
鳴上悠は何を信じ、判断し、貫き、その道を進むのか。
◆――
UB001:そうだね。じゃあ最初は――真実を教えてあげる。
――◆
意外でした。
まさかエンブリヲさんが私と鳴上さんを助けてくれるなんて。
セリューさんの仲間だった
サリアさんが尊敬している人だから、不思議じゃない。
でも、ちょっと意外でした。
少し冷たい感じがして、何処か近寄りがたい雰囲気があったから。
あの人が足立さんの言葉を遮ってくれたお陰で少しだけ考える時間が生まれました。
そのきっかけが凛ちゃんだった……ありがとう、凛ちゃん。
キング・ブラッドレイが凛ちゃんを殺した……やっぱり。でも、私じゃ勝てない。
何で戦えると思っていたのか。図書館で襲った自分が本当に怖くなる。まるで、私じゃないみたい。
でも――それは紛れも無く島村卯月だった。
「卯月、無理はしなくていい。後は俺達に任せるんだ」
鳴上君が私を心配してくれている。
その気持ちはとても嬉しくて、不安定だった私の心に入り込むお日様みたい。
さっきまで何一つ考えることの出来なかった頭が、少しずつ回復しているのが解ります。
画用紙にボールペンでグリグリ書いていたような脳内から、真っ白に――なるまで。
「私が言わないと……まどかちゃんとほむらちゃんのこと」
逃げちゃだめ。
死んだ人は逃げることも出来ない。だけど、私は逃げることが出来る。
でも――それじゃだめなんだ。
「これから私が話すことは全部真実です――彼女達を繋ぎ合わせたことも」
逃げちゃだめなんだ。
穂乃果ちゃんが起きている時に話したかった。
ごめんね。
先に――少しだけ先にいるから。
◆――
KoB:真実か。可能ならそのまま先の放送についても聞きたいのだが、どうだろうか。
――◆
「まどかちゃんを殺したのはそこの――足立さんです。
それはほむらちゃんが言っていたのを私とセリューさんが聞いたから。それに空条さんも現場を見ていました」
「……さっきの俺の話聞いてたかなあ、まどかちゃん?
まどかちゃんは錯乱してて、花京院っていう承太郎君の友達を殺しちゃったんだよ。
それに激昂した承太郎君はそのまままどかちゃんを殺した……俺の力が及ばなくて彼女を助けることが出来なかった」
島村卯月が語るコンサートホール後の展開と足立透が紡ぐ数分前の真実は齟齬が生まれていた。
彼が語る真実は【鹿目まどかが
花京院典明を殺害した】ことまでしかあっていないのだが。
しかし、現場にいた人間は全て死んでいる。
足立透が鹿目まどかに毒を飲ませたのも。暁美ほむらがマスティマを発動し彼を殺そうとしたのも。
限界を超越しマガツイザナギを発動したことも。空条承太郎に深い傷を負わせたことも。彼が止まらなかったことも。
(助けることが出来なかった――殺したのは俺なんだけど)
真実は闇の中である。
確かめる術は死者に聞くしか無いのが正しい。出来るものならやってみろと謂わんばかりの心持ちで足立透は島村卯月を見つめる。
空条承太郎がどれだけの情報を残したかは不明である。残念なことに大方は暁美ほむらから聞いているらしいが。
「あの場所で――私とセリューさんとほむらちゃんは仲間だった。それを引き裂いたのが貴方です」
「だから知らないって……セリューさんって誰かな?
暁美ほむらだって空条承太郎が殺したって言ったばかりでしょ」
「嘘……証拠もないのに」
「証拠……あぁ、証拠ね。
ごめんねまどかちゃん。本当にごめんまどかちゃん……俺は君を助けることも出来なかったのに、本当にごめん」
「な、なんで謝るんですか」
「証拠――そこで繋がってるまどかちゃんとほむらちゃん。
俺が殺すなら無理っしょ。だってそんな糸は持っていないよ、けどさあ。君は持っているよね」
一同の視線が鹿目まどかと暁美ほむらだった存在に注がれる。
哀れなものだ。永遠に離れられないように繋がれた人形は感覚も、心も持ち合わせていない。
死んでいる。生きていることさえ感じることの出来ない――無機物だ。
彼女達を。
彼女達を。
彼女達を。
「俺が殺したとしてもそんな真似は出来ないよ……どうして嘘を」
「彼女達を繋げた、の、は、、、……、、、、……わ、…っ……、、…――私、です」
ニヤリ、と上がりかけた口角を手で覆い隠す足立透の心は勝利に包まれた。
◆――
UB001:そうだね。じゃあ何が聞きたい?
KoB:答えてくれるのか。では彼は本当に願いを叶える力を持っているのか。それも蘇生人数を増やすことも含めて。
UB001:可能だよ。人数は問題じゃないの。なんだろうね、奇跡とか魔法とか。そんな次元の話を信じてくれるかな?
――◆
言った。
まどかちゃんとほむらちゃんを繋げたのは私だって。
「卯月……」
「ごめんなさい鳴上君。
信じてくれてありがとう……でも、嘘は憑いちゃいけないから」
そうですよね、セリューさん。
正義の味方は、いつだって正しい。なら、私が嘘なんて絶対にだめですよね。
私が真実を話すことによって鳴上君が救われるなら、構いません。
どれだけ周りの視線が厳しくなっても、辛い目に遭ってももう逃げません。
未央ちゃんは私のことを信じてくれた。
あんなに酷いことをしたのに、こんな私を受け入れてくれた。
まだ、私を信じてくれる人がいるんだから――もう、逃げない。
「糸……クローステールの練習のために彼女達の死体を繋げ合わせました」
あの時は気が狂っていた。なんて言い訳はしない。
手を動かしたのは島村卯月。絶対に変わらない事実だから。
「っぉ……ね、悠くん? もう分かったでしょ、その女のヤバさが」
「だけど殺したのは私じゃありません」
だめだ。
足立透に鳴上君を責めさせる時間を作っちゃだめ。
私が守るんだ――必ず鳴上君は足立透の嘘を暴いてくれる。
それまでの時間を稼がなきゃ……ううん。私は真実を話しているだけ。
気負う必要も無いかもしれない。
ただ、真実を話すだけ。
「まどかちゃんは足立さんが殺したと聞いています。ほむらちゃんを殺したのも貴方。
私は彼女達の死体を繋ぎ合わせただけです。
だけ――軽い言葉で片付けたくはありません。でも、真実です」
辛い。
真実を話すことがこんなに辛いだなんて。
きっとニュージェネレーションの最初のライブでの
プロデューサーも一緒だったんだろう。
未央ちゃんに真実を言うことが辛くて、それでも私達のために本当のことを言ってくれた。
今なら解ります。
プロデューサーさんが本当に私達のために頑張ってくれたことを。
「お願いです……信じてください」
「頭下げれば信じてもらえるならさあ……はぁ、世の中に警察なんて要らないよ?」
その通りだと思います。
頭を下げるだけで信じてくれるなんて思わない。
けど、少しでも思いが届くならなんだって、私はなんだって――え?
「顔を上げなさい。君は頑張ったよ、無論全てが許される訳ではない。
だが私は君を信じる――残念だよ足立透。少しは一緒に行動した仲だったがね」
頭の上に乗せられたヒースクリフさんの手がとても大きく感じまず。
そのまま通り過ぎ去り、教室から出て行くのか扉の前まで移動していました。
「何処に行くんだよ、それに残念って何さ」
「君は鹿目まどかと暁美ほむらを殺したのは島村卯月だと言ったね」
「うん、まぁ、そうだよ」
「私がその前より……君と再会した時には『承太郎がまどかを』『エスデスがほむらを』殺したと言ったはずだが」
「――ッ!?
って、ま、まあそうだけど?
嫌だなあ引っ掛けようとしてる? たしかに俺はそう言ってた。でもエスデスは仮定さ仮定。
あんな繋ぎ合わされた彼女達を見れば誰だって考えるのはわかるよね? あれを見た後だと島村卯月が犯人だと思うでしょ」
「その前は鳴上君に『足立透と島村卯月のどちらかが彼女達を殺した』と言っていたが――『達』か。
直前には『承太郎がまどかを殺した』と言っていたな。言い間違いかもしれないが言葉が雑になっている。
どちらを信用するかなんて――おっと、勝手に結論を決めては君に失礼だね。少しの間席を外させてもらうよ。なに、トイレさ」
『なあ、悠くん。まどかちゃん達を殺したのは僕か、それとも彼女か...どっちだと思う?』
ことの始まりはたしかにこんなことを足立透が言っていた。
◆――
……騒がしいわね。
――◆
ヒースクリフの奴が残した言葉は最悪だ。
んだよあいつまじはーまじ……まじかよ。置き土産ってレベルを越してるね。
言葉の綾だぞ、そんなの。単なる言い間違えで済ませばいいじゃん。
それをネチネチネチネチ……そこまでして俺を悪者にしたいか? ま、嘘は憑いてるんだけど。
でもさあ、普通はスルーするだろ。
マスコミと一緒だよ。重要じゃなくてどうでもいいことを揚げ足取ってさ。
そもそもあのエルフ耳がいけないんだよ。あいつが言ったんだからな、もうあいつを呼べ。
だいたい嘘じゃ限界があるのは当然だよなあ!? ……はぁ、なにしてんだろうな俺。
「まさかとは思うけどさ。
今のアレを嘘とカウントしてさ、もう俺のこと信じられない感じになってる?」
だけどこのまま黙ってたら『はいそうです。僕がまどかちゃんとほむらちゃんを殺しました』って肯定することになる。
ふざけんな。そんなの俺が負けるじゃん。やってらんねえ。負けたくねえ、死にたくねえ。
もう少しで鳴上悠を追い詰めれたのに……クソ。
エンブリヲとかいう奴が割ってこなければ確実に追い込めた。
「当然だ。それにお前は『セリューを知らない』と言ったが、その前には『セリューを正義狂』と言っていたな」
……そうだっけか。
あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
どいつもこいつも邪魔ばっかしやがって!
俺が何をしたんだ、なお、おい!! 巻き込まれて、死にたくないだけで……クソ!
島村卯月がいなけりゃ、エンブリヲがいなけりゃ、ヒースクリフが余計なことを言わなければ……っと、まずい。
「……悪い。俺も追い詰められて可怪しいことを言っていたかも」
押して駄目なら引いてみな。って訳でもないけど、これは苦しい言い訳だ。
俺が相手の立場だとしても信じられないからね。ここは素直に認めるしか無い。
それでも俺が有利には立てないなあ……逃げるか?
警戒するのは鳴上悠のペルソナだけでいいだろう。島村卯月の糸も怖いけど。
エンブリヲは銃と斧を持っている。まあこいつはペルソナで焦がせばいい。
スタングレネードを投げて逃げるか?
ヒースクリフが居ない今がある意味チャンスかもね。
それに倒れてる女達を人質に取れば充分生き残れる確率は上がるさ。
そんなことをすればもう信用もクソも無いけどね。エルフ耳に文句言って何とかしてもらうしかない。
……そう言えばあいつ、なんか広川の放送案に乗ったとか言ったような……結局、俺は袋小路じゃん。
「足立さんもきっと心が不安定になっていたんだ」
どうした鳴上少年、君の声を久々に聞いたような気がするけど初手煽りとかナメた真似してくれるね。
お前の方が不安定でガタガタで全然喋れて無かっただろ。
でも……話を逸らしてくれるのは有り難い。ナイスだ。
「悠君……信じてくれるのかい?」
「足立さんに一つ聞きたいことがあります」
「……え?」
前言撤回。お前も裁判か。そうだよな、チャンスだもんな、攻めるよな。クソ。
「足立さんはペルソナが使えたんですね」
こいつ。
とんでもねえ発言しやがって。
◆――
私に出来ることはなにがあるんでしょう――セリューさん。
――◆
手詰まりだ。
ディスプレイを見つめキーボードに手を置くエンブリヲ――分身は何も情報を掴めなかった。
幾ら情報を探ろうと
初春飾利が解析した段階までの欠片しか
電子の海には浮かんでいない。
苛立ちすら生まれてくる。時間の無駄だと鳴上悠を庇う形で足立透へ八つ当たりする程度には。
つまり、死んだ参加者の情報しか手に入っていない。
放送の後に
白井黒子、泉新一、後藤、
田村玲子、
アカメの五名が死亡したことを確認出来たのは大きい情報だろう。
逆に言えばその程度でもある。時間が経過すればいずれは解る情報だ。
広川が提案した人数まで残り半分の五名――そこまでして願いを叶えたい参加者がいるのか。
「空条承太郎……スタンド能力か」
本体は現在、島村卯月の供述が行われている真っ最中である。
足立透と彼女の意見が食い違う要因の一つが空条承太郎であり、自然とマウスのカーソルは彼のフォルダを開いていた。
スタープラチナと呼ばれるスタンドを操り、どうやらかなりの実力者らしいが……興味は無い。
結局の所、主催者の情報や殺し合いの真実は何一つ見えて来なかった。
わざわざパソコンを置いてあるのだから、何かしらの手掛かりが掴めると踏んでいた。
実際に初春飾利がある程度まで解析出来たように。しかし成果は零であった。
彼女の能力は本物だったかもしれない。
エンヴィーの襲撃により生命を落としていなければ更に謎を解明出来ていたかもしれない。
このまま時間を浪費するぐらいなら探索をするべきか。
ディスプレイの前に座り込みどれぐらいの時間が経過しただろうか。
そろそろ動く時かもしれない。そう思い席を立った所でエンブリヲの背中から心臓へ刃が刺さり込む。
「ヒ、ヒースクリフ……ぅ!?」
痛みが後から追い掛ける如くの一撃に対し、エンブリヲは為す術もなく相手の名前を呟いた。
首を動かすと瞳には見下すような視線を浴びさせるヒースクリフの姿があった。
「まさかそんな能力まであるとは……な」
言葉の終わりと同時に剣を引き抜くとエンブリヲの穴から鮮血が吹き出す。
心臓にまで届いた刃だ。人間の身体に風穴を空けるなど造作も無いだろう。
「裏で嗅ぎまわっているようだが……私に変わってもらおうか」
峰でエンブリヲだった存在を吹き飛ばすと、椅子に座り込みディスプレイを見つめる。
意外と簡単に殺せたものだとも思う。分身能力とはまた厄介だとも思ってしまう。
油断していたのかどうか不明であるが、奇襲は成功だ。そして――。
【UB001:ねえヒースクリフ。あなたにいいことを教えてあげる。】
こちらも成功したようだ。
◆――
KoB:奇跡に魔法か。信じるしかないようだな。
UB001:賢明。それと足立透の発言は嘘が含まれてるのは知ってるよね。
KoB:勿論。と言っても興味は薄れているがね。
――◆
「それは――空条承太郎と暁美ほむらのいざこざに巻き込まれた時に覚醒したんだ」
このタイミングでペルソナのことを聞くなんてこいつは馬鹿か?
考えて発言しているなら相当な鬼畜だ。これじゃあこの場を切り抜けても例の殺人犯は俺だと宣言するようなもんじゃないか。
勿論、嘘を憑くけどね。正直に言ってしまえば鳴上悠は――って、こいつはどこまで知ってるんだろうな。
「どうして話してくれなかったんですか。そうすればまだ、足立さんのことを信用出来たのに」
「必要は無いと思ったんだよ悠君。実際周りもスルー気味だったしね」
「――もう一つ、聞いていいですか」
答えねえ。もう面倒になってきたよ。手頃な所で逃げるしかないねこりゃあ。
ヒースクリフの一言で最悪だ。もう誰も俺のことを信用しないな。孤独よ孤独。
この場を切り抜けてもマジで孤立してんな……エルフ耳ぐらいか? でもあいつのせいで俺は今追い込まれてんだよな。
エンブリヲって奴も邪魔だった。
こいつが最初に割り込まなければ鳴上悠と島村卯月を追い詰めれたのに。
クソ、どいつもこいつも邪魔ばっかしやがって。
そのくせ、エンブリヲは勝手に苛立っているじゃないか。何があったんだか。
ブツブツと呟いてるけど……ヒースクリフ? 分身? なんであいつの名前が出てくるんだか。
そういや鳴上悠が質問するって言ってたな。早くしろよ。
「足立さんは嘘を――俺は、信じたい」
本当におめでたい奴だなあ。
この状況なら絶対に俺が嘘を憑いてるって解ってるだろ。
確信犯かな――いや、違うな。本当にお人好しだ。
今でさえ俺を見捨てないで、救ってやろうと腕を伸ばしてきやがる。
嫌いだね。
俺の手からスタングレネードが零れ落ちた。
◆――
KoB:まさかそれを伝えるためにわざわざ接触を?
UB001:ううん。貴方にお願いがあったの。
KoB:私で解決出来れば聞くが……タダとは言わんが。
UB001:それは理解しているよ。お願いは――黒を助けてほしいの。
KoB:個人的な頼みか?
UB001:そう。贔屓に近いけど、主催者が似たようなことをしたからね。
贔屓とは違うけど、参加者と接触したの。
KoB:まずはその参加者と黒幕を教えてもらおうか。
UB001:参加者はキング・ブラッドレイ。黒幕は彼らホムンクルスの親玉って言えばいいかな。
接触したのは条件提示。二人殺せば真実を教える――ってね。
KoB:キング・ブラッドレイ……なるほどな。全く油断為らない老人だ。
UB001:本当にそう思うよね。それで私の頼みを聞いてくれる?
KoB:構わんが助けたとして私に何の得がある。
UB001:貴方の首輪を外してあげる。
KoB:仮に私が辿り着く前に黒君が死んだらどうする。
UB001:その時も貴方の首輪を外してあげる――どう、悪くないよね。
KoB:手を打とう。
――◆
足立透に誰もが集中していた。
彼の小さな動きすら凝視しており、警戒態勢の中に放たれたスタングレネードに対しても全員が行動をしていた。
鳴上悠は気絶している高坂穂乃果を庇うべく彼女の上に覆い重なった。
エンブリヲは閃光から倒れている本田未央を庇うために上着を彼女の頭部へ被せる。
そして島村卯月はただ一人、足立透へ反逆を行う。
「だめ……だめッ!」
腕を払いクローステールを飛ばすとスタングレネードを粉々に斬り刻んだ。
説明するだけならば簡単ではあるが、不意打ちに対し完全に対処したのは流石と云うべきか。
本来ならば殺し合いとは無縁の彼女が何故ここまで帝具を扱えるのか。
奇跡の物語であるがその影には実験台となった彼女達の存在がある。
今もなお永遠に繋がれた魔法少女は部屋の片隅で全てを見守っていた。
「足立さんッ!!」
教室を飛び出した足立透を追うべく立ち上がった鳴上悠も走りだす。
その後に続くように島村卯月が教室を飛び出し残るエンブリヲもまた、ゆっくりと移動し始める。
誰よりも先に飛び出した足立透は既にペルソナを解除している状態であり、全速力で廊下を走っていた。
灯りが消えた学院であるが窓から差し込む月灯りがあるため、真夜中の学校という言葉の響きから連想する印象よりも視界は良好である。
鳴上悠も教室を飛び出した際にペルソナを解除しており、純粋な逃走劇となっている。
狭い廊下での展開。他の参加者。足立透の出方。全ての要素が重なり迂闊な行動が出来ない。
学院を飛び出すのが彼の目的である。しかし外に出てしまえば、それが戦闘の合図となるだろう。
「ク……ソ、こんな所で詰んでたまるかよッ!」
階段に差し掛かった足立透は片足で力強く床を蹴り上げると、跳躍で一気に下の踊り場へ落下。
着地の硬直により身体に痺れが走るも、この程度の痛みは我慢しなければ逃走は無理だ。
己の身体へ鞭を打ち込み、更に廊下を走り込む。
「っと……げっ、まだ追って来るかよ」
躓き転倒しそうになるも壁に腕を張り伸ばし体勢を整え、足を止めずに前へ進み続ける。
後ろを振り返ると鳴上悠が階段を降りていた。しつこい奴だ、と足立透の舌打ちが廊下に響いた。
「ふざけんな……俺は、俺は……死んでたまるか……ッ!!」
走り抜ける際に踵でゴミ箱を蹴り飛ばし廊下に中身をぶち撒けることにより追手を妨害。
空き缶も捨てられていたため、確実に鳴上悠の足止めは成功しただろう。
「おまけだァ!」
振り向き様にテニスラケットを投擲し鳴上悠の頭を狙う。
「ペルソナ!」
しかしその一撃はイザナギによって阻まれるも、それは足立透の作戦である。
少しでも時間を稼げればいい。足を止めれればいい。逃げるだけだ、と再度正面を見つめ直し駆け出した。
「――止めてください!!」
追い付いた島村卯月の声が響く。
『とめてください』――誰に対して言った言葉なのだろうか。
興味を示さない足立透であったが、何やら先が輝いていることに気付く。
どうやら他の参加者らしい。光はライトだった。
子供だ。中学生程度と思われる少女がバチバチと雷光を走らせながら立っていた。
「止めるか――終わらせてあげる」
足立透はこの感覚を前にも味わった。
あれはコンサートホールでの出来事だ。鹿目まどかを殺した直後の記憶が蘇る。
空条承太郎に看破され、暁美ほむらに追い込まれたあの時だ。
まるで時が止まったようだった。
気付けば目の前には大量の羽が自分に襲い掛かる直前。理解が追い付かない。
そして今も――目の前で輝く雷光の存在を信じることなど、認めたくなかった。
その遠くで鳴上悠は足立透が足を止めたことに違和感を感じていた。
捕まってしまう――そう考えていると予想出来るが動きを止めることに、疑問を抱く。
それもその筈だ。
足立透の姿と重なり鳴上悠に
御坂美琴は見えていない。
「ペ――ペルソナアアアアアアアアアアアアアアア!!」
死ぬ。
悟った足立透は何も考えずに直感でマガツイザナギを展開させた。
◆――
広川が提示した人数まで残り――五人
――◆
あれだけ騒がしければ誰だって近付くだろう。
銃声その他諸々の音を聴きつけた御坂美琴は音ノ木坂学院へ立ち寄っていた。
音の数や特徴からして複数の参加者が滞在しているのは明らかである。
願いのためにも止まれない。そうでなければ此処まで来た意味が無い――殺せ。
「上から随分と……馬鹿みたい」
生存人数が大幅に減っている中でよくも自分達の居場所を報せられるのだ、と関心すら彼女はしていた。
当然、学院内で修羅場を繰り広げている彼らはそんなことを気にしてはいなのだが。
そこまでして死にたいのなら殺してあげる。死ねばいい。楽にしてやろうか。
最早、御坂美琴を止めることなど誰にも出来ない。
最後の砦であった白井黒子は――死んでしまったのだから。
「距離はそう遠くない。上から降りて来た……男が二人か」
逃走劇真っ最中の足立透と鳴上悠が現れたのは御坂美琴が学院に訪れてからそれ程時間が経過していなかった。
最初に出てきたスーツの男――足立透はゴミ箱を転がしたりテニスラケットを投げたりと必死に逃げている。
しかし、見た限りでは彼が正義とは判断出来ない。むしろ追い掛けている少年――と云っても御坂美琴よりは年上の鳴上悠の方が正義に見えていた。
さて、どうするべきかと雷光を腕に纏った時に見慣れた姿が廊下の奥へ現れた。
あれはたしか――図書館だ。と誰にも拾えない声を零す。
キング・ブラッドレイと共に行動をしていた時に襲って来た糸の少女が息を切らしながらスーツの男を追っているようだ。
また会うとは思いもしなかった。そして生きているとも想定していなかった。
出会わなければもう少しは長生き出来ただろうに。
「――止めてください!!」
「とめてってあたしに言ってるの?」
一度は殺そうと襲い掛かった相手にそんなことを頼むとはどうかしている。
気持ちは分かるが理解が追い付かない御坂美琴は若干怠そうに腕を突き出す。
わざわざ超電磁砲を使う必要も無い。生身の人間ならば電流を走らせるだけで十分である。
前川みくや美樹さやかを殺害した時と同じように。
「止めるか。まぁ、いいよ――終わらせてあげる」
これで参加者がまた一人減った。そう確信していた所にペルソナが現れれば流石の超能力者も面を喰らい固まってしまう。
咄嗟の対応として彼女は物陰に身を隠す。反撃を受けてはひとたまりもない。
DIOが使役するような人間体よりも大きい存在は手に取った刀のようなものに雷撃を帯びさせると、それを振るい御坂美琴の電流を相殺させた。
狭い廊下内に風が吹き荒れ、足立透以外の人間が足を止め、彼はその隙を見逃さずに外へ飛び出した。
後を追い掛けるように鳴上悠も外へ身を放り投げた。
不幸か幸運か。
鳴上悠から見ると、御坂美琴の姿は足立透とマガツイザナギに重なっており見えていなかった。
彼の視点からすれば足立透がマガツイザナギを展開しマハジオダインのような技を振る舞ったようにしか見えていない。
それよりも遠く離れていた島村卯月には御坂美琴の姿が認識できたが、足立透に接近していた鳴上悠には雷光の少女を認識する術は無かったのだ。
残された二人の少女は何も語らない。
御坂美琴が着実に一歩ずつ距離を詰めるだけである。
「久し振り」
一歩。
「生きていたんだね、あんた」
ゴミを蹴り飛ばしながら。
「ありがとうございました」
「何がよ」
「止めようとしてくれて」
「そんなんじゃないわよ。あたしはただ、あんた達を殺そうとしただけ」
お礼を言われると予想していなかったためか、御坂美琴の声は少々荒げていた。
この状況でよくそんな言葉が飛び出るものだと感心すらしてしまう。
「……あんた、ちょっと顔が変わったね。うん……良い事でもあったの」
自分は何を聞いているのか。
そんなことを把握したところでこの女を殺すと云うのに。
「そうですか……? そうですね――鳴上悠君が最後まで私を信じてくれたから、かな」
これから死ぬ運命である島村卯月の顔に絶望の雲は掛かっていない。
不思議だ。御坂美琴は目の前にシンデレラに対し純粋な疑問を抱いていた。
死ぬのが怖くないのか。たしかに自分とキング・ブラッドレイに襲い掛かる命知らずの少女だ。
だが、誰だって死に対する恐怖はあるはず。御坂美琴とて、いざその時に直面すればどうなるかは解らない。
「鳴上悠って――あぁ、今行った奴のことね」
スーツの男を追い掛けた青年がその鳴上悠なのだろう。
此方の存在に気づいていなかったことから、きっと見えていなかったのだろうと御坂美琴は一人納得していた。
巡るめく動き続ける戦場だ。相手の姿を見失うこともあれば、伏兵に気付かない時だってある。
DIOとの戦闘では多くの参加者が入り乱れていた。寄生生物の襲来も唐突だった。何が起きるかは解らない。
「それでさ。これからあんたはあたしに殺されるってのは解ってる?」
言う必要も無い言葉が廊下に流れる。
御坂美琴は優勝を狙っている。目の前には自分よりも弱い島村卯月がいた。
ならばやることは一つで最初から決まっており、彼女達の運命も変動のしようがない。
わざとバチバチと雷音を鳴らし、人が悪いように威嚇を行ってみる。何をやっているんだかと御坂美琴の口から溜息が溢れた。
パフォーマンスに近い。自分の趣味はこんなに悪かったのかと頭痛がしてくる。
掌を額に運んだ所で、急に意識が遠のくような感覚に襲われる。一度睡眠を挟んだとは云え体力は確実に削られている。
白井黒子との別れが体力的にも、精神的にも響いているのは間違いない。
参加者も残り少ないこの状況で、おそらくだが生き残りの参加者は殆どが実力者だろう。
守られている弱者もいるだろうが、全員が生き残れる程、殺し合いは甘くない。
この手で殺した前川みくのように――無害な人間だって死んでしまうのだから。
「……何も言い返さないのね」
休みたい本音とノルマを稼ぐ建前があるため、出来ることならば速く終わらせたい。
なのに目の前に立つ島村卯月はこれから死ぬと云うのに――全く怯えていない。
あのアイドルのように、意識が確率していない状態で殺すのとは訳が違う。
倒れ果て奇跡を乗り越えた青髪の少女を殺すのとも、訳が違う。
「怖くないとか言う?」
震えていない。
涙を流さない。
命乞いもしない。
なんだ、この女は何者なんだ。
「怖い……です。死ぬのは怖いです」
信じられない。
弱々しい言葉に対し御坂美琴は共感を抱けなかった。
ならば何故そんなにも真っ直ぐな瞳でいられるのだろうか。
「私じゃ貴方に勝つのは不可能だって……図書館の時に気付きました」
「だろうね。それが当然よ……それで、諦めて、黙って殺されるのねあんたは」
そうだろうか。
自分で言った言葉だが、言い切れない。
本当に島村卯月は生きることを諦めているのか。
「正義の味方にはなれませんでした。元々、私が戦うなんて無理があったんです」
島村卯月憧れていた場所をただ、遠くから見ていただけだった。
それがいつの間にか自分も同じ場所に立っていると、勘違いをしていた。
「あたしとキング・ブラッドレイに挑んどいてよくそんなことが言えるわね。
自分で言うと気持ち悪いけど、あたし達は生き残りの中でもかなり強いわよ?
そんな連中に喧嘩を売ったあんたがそんな弱気なんて信じられないけど――魔法でも解けたのかしら」
一種の興奮状態にでも陥っていたのだろうか。
人間は極限まで追い込まれれば、時に信じられない力を発揮する。
所謂火事場のクソ力や覚醒と云ったご都合主義に分類されるような奇跡だ。
「魔法ですか……セリューさんが私にくれた勇気を使い切ってしまいました」
そうか。そのセリューに出会ったから島村卯月は此処まで生き残れたのだろうと思い込む。
遭遇したことは無いが、放送で名前を呼ばれていたことは把握している。死して尚、証を残したのか。
物語ならばどれだけ美しい友情だろうか。
だが、殺し合いには必要がない。
友情。魂。絆。
そんな綺麗事は焼却炉に放り込め。
泥を被る気の無い人間が、生命の奪い合いに介入などするな。
綺麗な意思で全てが解決するなら――多くの人間が死なずに済んだだろうに。
「じゃあそのまま……さようなら」
御坂美琴が伸ばした腕は島村卯月の頭を掴んだ。
力は篭っていない。優しく包み込むように掌が置かれている。
「最後に一つだけいいですか」
「……なによ」
この期に及んで命乞いをするとは思えない。
自らの死を悟っている島村卯月が何を言うか、全く想像出来ず、予測不能である。
「穂乃果ちゃんと未央ちゃんにありがとう、それとごめんなさいって伝えて下さい」
――自分の口で言いなさいよ。大切な人なら尚更、自分の言葉で伝えなさい。
その表情は輝いていた。
どんな絶望も明るく照らす希望の太陽のように。
流れる涙が反射して、幾多にも煌めきが夜空を彩っているようだった。
どうしてそんな顔が出来るのだろうか。
どうしてそんなに強いのか。
ただの、普通の少女にしか見えない彼女がどうして此処まで覚悟を固めているのか。
分からない。
解らない。
最後に願うは他者への感謝と謝罪だ。
役者が語る台本によって創られた言葉ではなく、本心から紡がれる真実。
理解が出来ない。
解るとすれば――雷光が島村卯月の頭から全身を駆け巡り、その生命を散らしたことだけである。
◆――
UB001:ありがとう。それにもう一つだけ。
KoB:言ってくれ。
UB001:学院にキング・ブラッドレイが接近してるから逃げることを勧めるわ。
KoB:これはいいことを聞いた。今の状況で彼と一戦交えるのは避けたいな。
――◆
「はぁ……はぁ、くっそ……!」
どれだけ走っただろうか。
学院を飛び出し西へ足を動かし続けた足立透の体力は大きく疲弊していた。
肩で呼吸を行い、今にも転倒しそうな足取りだ。気力だけで、止まらないように前へ進んでいる。
止まれば自分が追い込まれるのは解っている。
既に絶体絶命だが相手は鳴上悠、ヒースクリフ、エンブリヲの三人だ。
負けるビジョンなど見たくは無い。流石に三人相手では分が悪いことも解っている。
イレギュラーである電撃少女と島村卯月も敵になる可能性がある。学院に留まれば負けは確実だ。
此処で動きを止め、学院に戻されるなり全員に追い付かれでもすれば、それこそ生き残る道は無い。
鳴上悠以外は――足立透を殺すことに、覚悟を持って取り組むだろう。
「っ……ちっ、何時まで追い掛けりゃ気が済むんだよ……ぉ!」
膝に手を着き大きく呼吸を行った足立透はそのまま視線を背後へ移す。
そこにはただ一人として自分を追い掛ける鳴上悠の姿だ。
足立透にとって気に食わない煌めきを灯した瞳を相変わらず――憎い奴だ、と唾と言葉を吐き捨てる。
もう走るのは止めだ。
マガツイザナギを展開した足立透はペルソナを鳴上悠の方向へ向かわせる。
握られた獲物が彼の生命を潰さんと振るわれるも――当然のように防がれることになる。
「――イザナギ!」
空間に出現したペルソナ同士の獲物が打つかると、互いに何度も振るい剣戟が行われる。
「お前らはいっつもそうやって邪魔しやがって……エンブリヲとヒースクリフがいなけりゃ今頃はァ!!」
マガツイザナギが振るうスイングを防いだことによってイザナギの体勢が揺らぐ。
その隙を狙うべく足立透は攻撃を加速させ連撃を叩き込む。
対するイザナギは直撃しないように、防ぎ、回避し、捌き続ける。
「俺が何をしたって言うんだよ!? こんなクソみたいな殺し合いに巻き込まれりゃあ誰だって保身に走るだろ!!
冗談じゃない……正義の味方だとか、友情ごっこだとかさぁ!! それが当然って顔を平気でしてるお前らが俺は信じられないんだよ!!」
鍔迫り合いにより金属音に似た音が響き、衝撃が大地を揺らす。
舞い散る火花はまるで衝突する彼らの意思と言葉を表現しているようにも見える。
「足立さん――どうして貴方は!」
「知るか……俺はただ死にたくないんだよォ!!」
イザナギが強く押し込みマガツイザナギを後方へ下がらせるも、返しの力がソレを上回る。
「俺は信じていた……足立さんが例え嘘を憑いていても何か事情があって――ッ」
「お人好しが……偽善者ぶってんじゃねえよ!! イライラするなあ……ガキが」
ペルソナ同士が飛び退き――再び近接戦闘の応酬が繰り広げられる。
「綺麗事だけを並べる奴が嫌いだ。お前らは人生に困ったことが無いんだろ、満たされて来たんだろ。
頭が可怪しいよな。こんな状況でも他人のために動ける? 冗談じゃない、本当に信じられないんだよ」
「諦めない――俺達は絶対に諦めない。これまで救えない生命もあった……だけど、生きているなら諦めちゃ駄目なんだ」
「うぜえ……うぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえ!!
そんなに現実が見れないなら此処でぶっ殺してやる、どうせ遅かれ早かれ死ぬんだからな。殺してやるよ――鳴上悠ゥゥ!!」
「まだ足立さんは生きている――貴方は生きて罪を償うことがまだ残っている。
これ以上、誰も殺させない。悲しませない。そのために足立さん――貴方を此処で俺が止めます!!」
己の心に仮面を装着し生きてきた男。
他者との絆を信じ生きてきた男。
互いの信念が――暗闇の中で火花を散らす。
【F-5/二日目/黎明】
【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)
爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする) 皆殺し。
0:鳴上悠を殺す。
1:鳴上悠を殺す。
2:鳴上悠を殺す。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※
DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。
【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、ダメージ(大)、胸に切り傷(治療済み)、イリヤに負けた事・さやか達を救えなかった事への後悔、困惑
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:足立透を止める。
1:その後に学院へ戻り仲間との合流。
2:死者の分も生き残り殺し合いを止める。
3:エンブリヲへはまだ警戒を続ける。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
※スラオシャを会得しました。一度の使用で6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。
しまった。
御坂美琴は己の行動に後悔を抱いており、身動きが取れないでいた。
倒れた島村卯月の死体を見つめている最中、廊下の奥から歩いてくる参加者に警戒していた所に――別の参加者に背後を取られてしまった。
「まさか瞬間移動の能力者が混じっているとはね」
「ふん――さぁ、殺される前に知っている情報を全て吐き出してもらおうか」
エンブリヲが一階へ駆け付けた時には既に島村卯月が死んでいた。
悲しみを抱いた訳では無いのだが、足立透に対し最後まで信念を貫き通し鳴上悠を守った姿は印象に残る。
エンブリヲを世界の定義で表すならば【悪】の存在である。
自分を中心に全てを考え、世界の神を気取るその姿は屑と云っても過言ではない。
けれど、彼にも感情はある。揺れ動く時も存在しているのだ。
少なくとも御坂美琴の後頭部に突き付けた拳銃の覚悟は本物である。
「手短に頼む。この場所にはキング・ブラッドレイが接近しているらしいからな」
「――なんだって、ヒースクリフ」
「キング・ブラッドレイ――それは本当なの?」
ヒースクリフの口から飛び出した人物の名前には心当たりがあった。
エンブリヲからすれば憎い存在であり、この手で殺したい人物である。
御坂美琴からすれば、一度は別れた利害の一致――だが、今遭遇すればどうなるかは解らない。
「ヒースクリフ……お前は何処でその情報を手に入れた?
まさか今まで黙っていた訳では無いだろう。私の分身を殺した後に何をした」
(瞬間移動の他に分身も……こいつ、気を付けないと)
エンブリヲの分身がヒースクリフに消されたことは当然のように知っている。
パソコンから情報を探っていた――その後にあの部屋で何かがあったのだろう。
少なくともエンブリヲは相手がこのタイミングで嘘を憑かない人間だと思っている。おそらく高い確率で情報は本物だろう。
しかし電子の海から何を引き上げたのか。
エンブリヲが時間を費やしてもお宝どころかガラクタも掴むことが出来なかった。
ヒースクリフが優秀な学者であることは認識していたのだが、どうやら彼はまだ利用価値があるらしい。
キング・ブラッドレイの襲来。
此処で迎え撃つことも可能だが――出来るならば万全を期したいところである。
一度の敗北を経験した相手だ。もう失態を晒すことはしない。
けれど、彼が強者なのも事実である。あの障害を排除するには――全てを利用する。
(電撃の女とヒースクリフ……それに私の三人なら……そう上手くいく訳が無いな)
数の理で攻めれば幾らあのキング・ブラッドレイと云えど苦戦は免れないだろう。
しかし電撃の女――御坂美琴が協力する前提である。交渉すらしていない。
背後を取っている中、彼女は一切取り乱さず安定状態である。相当な自信があるのだろう。
一時的な戦力の確保が出来ればいいのだが、さて。
黒の救出を依頼されたヒースクリフ。
優勝のために全てを殺害する覚悟を決めた御坂美琴。
そして力を取り戻し
アンジュの蘇生を願うエンブリヲ。
三者の思惑が交差する月灯り差し込む廊下の中で。
彼らの選択がこの一瞬の宴を――大きく左右する。
【G-6/音ノ木阪学院/二日目/黎明】
【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中:瞬間移動の分)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望 、穂乃果への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ
各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0~2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:キング・ブラッドレイに対し戦闘を選択するか、それともこの場から離れるか。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特に
タスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:一般人たち(未央、穂乃果)の利用価値を見極める。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
7:ヒースクリフを警戒、情報を引き出したい。
8:
魏志軍に黒の始末を任せる。
9:鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。
※モールス信号を首輪に盗聴させました。
※足立の語った情報はほとんど信用していません
【
ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP45%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限切れ)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、イリヤの首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:キング・ブラッドレイとの戦闘は避ける。
1:黒救出のためにカジノへ向かう。
2:黒に魏からの伝言『地獄門にて貴様を待つ』を伝える。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子とは接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7: 鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味
8:キリトの首輪も後で調べる。
9:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。
10:鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。
※足立から聞かされたコンサートホールでの顛末はほとんど信用していません。
【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)全身に刺し傷、右耳欠損、深い悲しみ 、人殺しと進み続ける決意 力への渇望
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×1、回復結晶@ソードアート・オンライン、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、黒子の首輪、
ヒルダの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:黒子も上条も、皆を取り戻す為に優勝する。
0:へぇ、キング・ブラッドレイが来るんだ。
1:次の放送までに十人殺しを達成し、死者を五人生き返らせる権利を取り付ける。
2:可能な限り、徹底的に殺す。
3:ブラッドレイとは会ってから休戦の皆を確認次第、殺すかどうか判断。
4:首輪も少し調べてみる。
5:万が一優勝しても願いが叶えられない場合に備え、異世界の技術も調べたい。
6:全てを取り戻す為に、より強い力を手に入れる。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました
◆――
島村卯月が反省していることはわかっている。
でも、そんな簡単に割り切ることなんて出来る訳が無いよ。
あの人がいなければことりちゃんは生きていたかもしれない。
真姫ちゃんも殺されることは無かった。
許さない。許せない。許すつもりもない。
今まで出会って来たみんなは強い人達ばっかりだった。
最初に会ったワンちゃんは私を救ってくれた。
ウェイブさんは大切な人が死んでも戦い続けた。
マスタングさんだって罪を償いながらも戦っていた。白井さんも花陽ちゃんも頑張っていた。
私は――どうだろう。
何をしたかと聞かれたら……何も答えれない。
偉そうなことを言える立場じゃないのは解っている。でも、私はやっぱり島村卯月だけは許せない。
強くないから。大切な人が殺されて立ち直れる程……私は強くないから。
生きることに諦めた訳じゃない。ことりちゃん、凛ちゃん、海未ちゃん、真姫ちゃん、花陽ちゃんの分も生きる。
屈しない。このままで終わりたくない。みんなとの思い出を終わらせたくない。
でも。
もうみんなとは会えない。
全部の責任が島村卯月にある訳じゃない。
それでも真姫ちゃんを殺したのはあの人だ。あの人が私の前で真姫ちゃんを殺した。
反省していることも、後悔していることも解っている。
それが嘘じゃなくて、本心であることも伝わってくる。
償う覚悟も感じ取れて、島村卯月は罪を乗り越えて前へ進もうとしている。
それは尊敬出来ることだと思う。
とても眩しくて、折れない姿には憧れを抱くことももしかしたらあったかも。
それはもしもの話で、IFのお話。
今の私は島村卯月を信じられない。憎んでいる。
でも……私だって前へ進まなくちゃいけないのは解っている。
納得するまで、私は彼女と話したい。
――◆
◆――
しまむーは頑張っている。
それは私が一番解っているし、私が一番しまむーのことを理解している。
だから私が守らないといけない。
それはニュージェネレーションのリーダーだからとかじゃなくて、友達として。
友達が傷付いている姿を見過ごす訳にはいかない。しまむーのために出来ることがあるならなんだってする。
しまむーは人を殺した。死体で人形も作った。
それは変えられない事実で、私もしまむーも受け入れなくちゃならない現実。
責められるのは当然。
可怪しくなっていたとか、狂っていたとか、精神が不安定だったとか。
言い訳は幾らでもある。でも、信じることは簡単に出来ない。
そんなことで終わったら世の中に争い何て起きないし、穂乃果ちゃんだって納得している。
しまむーは罪を犯した。
私は守る、何があっても私だけはしまむーの味方であり続ける。
しまむーが罪を償うために前へ進むなら、私はその背中を最後まで押してあげる。
それが友達だから。
道を踏み外したら全力で止めるし、辛い時に頑張るならその力になってあげる。
私達のために亡くなった人もいる。
セリューさん、承太郎さん、マスタングさん。私達に共通している出会った人達。
私個人で言えば狡噛さんもだ。他にも多くの人と出会って、別れて、遠くへ行ってしまった。
でも私は――此処にいる。
生きているから、前を向けるし明日へ辿り着くことが出来る。
しぶりんもプロデューサーもみくにゃんも感じることが出来ない未来へ腕を伸ばすことが出来る。
死ねない。
私もしまむーも、最後まで生き残ってみんなのために帰らないといけない。
もう誰も死んでほしくない。
だから私はしまむーが責められるなら守ってみせる。
支えるのは――私の役目だから。
――――――――――――――――★★☆
信じられない。
まるでこの世の終わりを体験しているかのような表情を浮かべるシンデレラ。
教室で意識を取り戻した本田未央と高坂穂乃果は他の参加者がいないことに気付く。
廊下へ飛び出し、会話の声を頼りに一階へ降りた先に居たのはヒースクリフ、エンブリヲ、そして見慣れない少女が一人。
鳴上悠と足立透、それに島村卯月がいないことに対して即座に気付くものの、床に転がる一人の少女に視線が集まった。
見間違うこともあるまい。島村卯月本人が此方に背を向ける形で転がっていた。
「し、しまむー……?」
本田未央は今すぐにでも走り出したい衝動に駆られている。
けれどそれを抑制するような――先に居合わせた三人の瞳は何処か悲しみのブルーを帯びていた。
嫌だ。
心臓が跳ね上がると同時に、そんな感情が胸の中で台風を形成したように暴れ狂う。
信じたくない。
ヒースクリフは顔を落とした。
御坂美琴は何一つ灯りを帯びない瞳で本田未央達を見つめている。
その背後にいるエンブリヲの表情もまた、何かを諦めているかのように無機質なものだった。
「嘘……う、そだよね……?」
誰もその問に答えない。
無言は肯定と同意義であるが、本田未央はそれを否定し続ける。
彼女の後ろに立つ高坂穂乃果は口元を手で抑えている。彼女もまた現実を受け入れられていない。
「しまむー……こっちを向いてよ」
「いつものように笑顔で頑張りますって言ってさ……ねえ、しまむー?」
「頑張るって……罪を償うって、生きるって……何か答えてよ……っ」
「お願いだからしまむー……また、笑ってよぉ………………」
二人の少女が流した涙。
本田未央と高坂穂乃果、その涙の意味はそれぞれ違うだろう。
だが一つだけ共通していることがある。
流れる涙は島村卯月に捧げられたものだ。
シンデレラの幕が降りる。
今宵の宴は終演。カーテンコールも無く、アンコールの拍手にも応えられない。
正義を信じた一人の少女は――遥か高き天へと続く階段を駆け上がってしまった。
【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ 死亡】
【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、悲しみ(極大)、卯月に対する憎しみ(絶大)、嘔吐感
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(2/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:練習着、カマクラ@俺ガイル
[思考・行動]
基本方針:どうすればいいか、もうわからない(優勝は目指さない)
0:………………………え?
1:ウェイブさんが気がかり
2:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
3:花陽ちゃん...みんな...
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。
※花陽と情報交換しました。
※足立から聞かされた情報は半信半疑です。
【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、セリューに対する複雑な思い、喉頭外傷及び右耳欠損(治癒済み)、精神的疲労(極大)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:しまむー……?
1:どうしたの……?
2:嘘だよね、そうだよね……?
3:みんなで私のことを騙そうとしているんだよね……?
4:しぶりんもみくにゃんもプロデューサーもしまむーも……?
5:――――――――――――――――――――――――――――私だけ残して、みんな行っちゃった。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。
最終更新:2016年10月04日 10:12