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僕らは今のなかで ◆ENH3iGRX0Y



(間に合ってくれ、頼む)

インクルシオの助力を得ながら、ウェイブは走り続ける。
どうやら、東側もまたかなりの激戦区らしい。現に学院の方角では、幾度となく雷光が轟く様子が遠目で確認できた。
その戦闘に、穂乃果やエドワードが巻き込まれていないとは限らない。
焦りが募り、足は更に速まっていく。いっそ飛翔しようかと考えるが、理性で抑え込んだ、
雷光を操れるような使い手だ。下手に飛べば地上から狙い撃ちされる可能性もあり、ウェイブはインクルシオの飛行にはまだ慣れていない。
奥の手は勿論、自在に空を飛ぶのも難しいだろう。

(出来れば、戦闘も避けてぇ……クソッ、あの電撃が味方だったら楽なのによ)

インクルシオ抜きではウェイブの戦力など知れている。
だが、インクルシオの反動は先の後藤戦で嫌と言う程、思い知らされた。
最善は二人を連れたまま、戦線を即座に離脱することだ。しかし、そう上手くことが運ぶとは限らない。

(最悪の場合はインクルシオ抜きの戦闘も……)

インクルシオ以外のウェイブの武器といえるものは、この場での相棒とも言えるエリュシデータ。
そしてもう一つは、後藤との戦闘の余波で後藤のバックから零れ落ち、ウェイブが回収した帝具、一斬必殺村雨。
アカメの切り札であり、彼女が持つ本来の刀だ。
その性質上、たったの一撃それこそ掠り傷でも、これで負わせれば相手を確実に葬り去ることが出来る。
インクルシオがなくとも僅かな戦闘で済むかもしれない。

(って、都合よくもいかねえけどな)

強力な帝具ではあるが、ウェイブに対してはあまりにも相性が悪すぎた。
帝具の相性は緩和されたこの場においても、村雨の禍々しさは健在であり、ウェイブはそれを受け入れられない。
アカメを憎むわけではない。それでもこの刀は何人もの血を吸い、刃を研ぎ澄ませている。
人を守るのではなく、殺す為だけの妖刀。ウェイブの精神とは有り様が違いすぎる。
試しに柄を手にしたが、数秒持たず刀に拒絶され手放してしまった。
とても戦闘に使える代物ではない。

「……グダグダ言ってても、しょうがねえだろ……。
 ああ、そうだ。俺がやんなきゃなんないのは、一秒でも早く辿り着くことだ」

思考が偏りかけるのを意識し、喝を入れるように声をあげる。
いつだってそうだ。何か、障害があれば何処かで諦めたように弱い考えが浮かんでしまう。

「駄目なんだよ。そんなもんで、足を止めるわけにはいかねえんだ」

普段ならば、それで良いかも知れない。クロメがいれば笑い話にもなっただろう。
だがもうクロメはいない。
たった一人で、歩まなければならないのだ。例え仲間がいようとも、クロメに変わる存在などない。
ウェイブはクロメを救えなかったという事実は覆らない。

「だから、もう誰もそんな目に合わせねぇ……イェーガーズだとか軍人だとか、そんなのは関係ないんだ」

様々な因縁の始まりであり、終わりを迎えたイェーガーズ本部をウェイブは越えて行く。
そして島の中央を繋ぐ、橋へと足を踏み入れた。
図書館の前を突っ切るという案もあったが、彼が敢えて橋を渡ったのは猫がそこを通ったからだった。
参加者とみなされなかったのかもしれないが、ああも五体満足で橋が渡れたのだから、参加者はその付近にはいないのだろうとウェイブは推測した。
仮に何処からか狙撃されたとしても、地上ならばインクルシオでも何とか対応しきれる。
実際、ウェイブは図書館を避けることで足立との遭遇を避けた。これは幸運と見るべき偶然だ。
もしも、足立と遭遇すれば戦闘は必須。負けないにしても、その後の戦闘に支障を来たし、エドワードや穂乃果どころではなくなる。
結果を見れば、彼の推測自体は強ち、間違ってはいなかったといえるだろう。



「…………穂乃果、か? 穂乃果なのか!?」

そう、橋を渡ることを選んだ結果、探し人である穂乃果にウェイブは出会えたのだから。
穂乃果は訝しげにウェイブを見る。当然、いきなり鎧を着込んだ男に話し掛けられれば、誰でも内心穏やかではいられない。
余計な圧力を与えてしまったと反省し、ウェイブはインクルシオを解除し、鍵剣を杖代わりに寄りかかりながら穂乃果に笑顔を向けた。

「悪い、怖がらせちまったか? そういう帝具なんだ」
「ウェイブさん……」
「その、なんつうか久しぶりだな」

いざ会ってみると呂律が回らず、適当な言葉を口にしてしまう。
穂乃果と最後に分かれたのはセリュー絡みで、その後の全てをウェイブは黒子に任せてしまっていた。
向こうからすれば、ウェイブの印象は決して高くはない。
気まずさからウェイブは口を閉じかけたが、だがここで最後まで言葉を紡がねば何のケジメもつかない。

「すまない……謝って許してもらえることじゃない。だけど、俺はお前達のこと、何も……――!?」

ふと気が付く。
穂乃果の横に黒子がいないことに。
別行動を取っただけか、だが戦う力のない穂乃果を黒子が放っておくか?
ならば、そうせざるを得ないほど切羽詰った状況に陥ったしまったのか。
ウェイブは焦りから、穂乃果の肩を掴む。それから、脅すような形で黒子の場所を問いだした。

「おい、黒子は……お前どうして一人で……!」

鈍い音が炸裂し、ウェイブの鼓膜が麻痺する。
超至近距離で何かが暴発し、その音が鋭く鼓膜を打ち鳴らしたのだろう。
と、同時に体から力が抜けていった。あまりにも驚いた為か、いい歳をして腰を抜かしたのだろうか。
それは腹部を走る鈍痛と、赤く染まった手が答えを物語っていた。

「穂乃、果……? お、m―――」

聴力が戻り、意識が鮮明になった時、全ての事態を理解しウェイブは崩れ落ちた。

撃たれたのだ。

他の誰でもない。穂乃果に。
理由が思い浮かばないわけじゃない。セリューの仲間だというだけで、穂乃果からすれば敵も同然だ。

それでも、こんな躊躇いもなく人を撃てるような人間ではなかったはずだ。

「なん、でだ……なんで……」

「みんな死んじゃったんですよ」

「……?」

「白井さんも島村卯月もみんな」

島村卯月の名にウェイブは反応した。
以前、田村からの話では彼女は穂乃果の仲間である真姫を殺害してしまったことを。

「お前、卯月を……?」

「やっぱり何も知らないんだ」

「分からねえよ……どうしてなんだよ、どうして―――」

「どうして? それは私の台詞だよ。
 どうして、みんな勝手にいなくなるの?
 ことりちゃんも海未ちゃんも花陽ちゃんも白井さんも、島村卯月だって!」

穂乃果の手が震えだすのをウェイブは見逃さなかった。
銃口はこちらに向けられているが、あれならば一撃目のように命中する可能性は低いだろう。
インクルシオの鍵剣を支えにウェイブは飛びあがり、穂乃果に躍り掛かる。
銃身を手で押さえつけ、体重を傾けながら穂乃果ごと倒れこむ。

「ぐっ、グァ!」

しかし、咄嗟に引き金が引かれたのだろう。
ウェイブの太股を銃弾は掠り、押さえつけていた穂乃果の拘束が緩む。



「ハァハァ……やっぱり、ウェイブさんもセリューと卯月と同じなんだ」

「待って、くれ……セリューは……アイツは確かに許されないことをした。
 でも本当は―――」

再び銃声が響き渡る。
今度は反対側の横腹が破裂し、鮮血を撒き散らす。

「知らないよ、そんなの。あんな奴、ただの人殺しだよ」
「違う、セリューは……アイツはなァ!」
「五月蝿い!!」

ウェイブの脳天目掛け、穂乃果はヘルメットを振り下ろした。
いくらひ弱な女性の腕力とはいえ、何の抵抗も出来ず受け止めれば命に関わる。
ウェイブの脳天を強い鈍痛が襲う。
衝撃で歯が掛け、舌を噛み抜き口内に血が充満する。
視界が発光したかのように閃きを感じたかと思えば、ぼやけ目の前の穂乃果すら禄に見えない。
咄嗟に穂乃果から逃げようとするが、体がいうことを聞かず立ち上がろうにも足が絡まり無様に倒れ付してしまう。

「あんな人たちばかり……卯月もセリューも勝手な事ばかりして、それで勝手に死んで……。
 誰も私に謝りもしなかった……。
 なんであんな奴らを許さなきゃいけないの。どうして? ウェイブさん答えてよ!!」

鋭い頭痛と吐き気がウェイブを襲い、体が自由に動けたのなら彼は今頃死に物狂いでもがいていた事だろう。
穂乃果が馬乗りになり、ウェイブの顔面にヘルメットを振り落とす。
鼻が潰れ、ぐしゃりという音がはっきりと聞こえた。
それから更に顔面を穂乃果はヘルメットで打ち砕いていく。
前頭骨は折れ、頬骨が砕け散る。
歯も衝撃で吹き飛んでいき、口内の血が更に重厚に深まっていく。
一撃一撃ごとに痛みは増し、頭痛はウェイブの脳を食い破るようにより深く蝕んでいく。
吐き気が許容量を超え、堪らず胃の内容物が逆流する。
鼻が折れ、呼吸困難だったところへ喉すらも逆流物が塞いだことで、酸素が取り込まれず、脳が酸欠を訴えだす。
赤く染まる顔面に反し、腫れた瞼から見える双眸の篝火は消えかけていた。

(これが……贖罪なのか……アイツらの……)

軍人としての訓練の為か、痛みのなかでもウェイブは冷静でもあった。
これは穂乃果が素人であったお陰だろう。エスデスのように生かしながら苦しめる拷問ではなく、単純に殴るという行為は耐えようと思えば耐えられるのだ。

(セリューも卯月も俺は止められなかった)

卯月に関してはまだウェイブの過失は言い切れないかもしれない。
だが、セリューに限っては違う。
彼女はまだ止められたし、止めなければならなかったのだ。
セリューの正義そのものが、純粋なもので偽りでないことを信じる仲間であったのならなおさら。
しかし放送で名を呼ばれた時、ウェイブはその名を聞き逃した。いや、本当にそうだったのだろうか。
聞けなかったのではなく、聞かなかったのではないか。



(俺は……俺は逃げてたのか……)

あの場で、少なくともブラッドレイとの戦闘を終えた後、引き返すべきだったのではないだろうか。
結果論で言えばその後、後藤やエスデスの襲撃があった為、同行したのは間違いじゃないのかもしれない。
だが、ウェイブがセリューを放置してしまったことで、ウェイブの手の届かない場所で卯月が暴走してしまったのだとしたら。
責任の一端は自分にあるのではないか。

(俺が決心を鈍らせたから……卯月も穂乃果も……由比ヶ浜だって、もしかしたらああなる前に……)

何より元を正すのなら、先ずセリューとの初遭遇の時点で彼女を咎めるべきだった。
どう見ても彼女は常軌を逸していた。
いずれセリューの存在は必ず、何処かで摩擦を起こすだろうことが分からないほどウェイブも馬鹿じゃない。

(でも俺は……何も出来なかった……流されてばっかで……。
 何処かで、怖かったんだ。セリューと敵対するのも、穂乃果達に怪しまれるのも……。
 俺はきっと、仲間を守りたかったんじゃない。仲間に依存したかった……だから……)

徐々に痛みが麻痺し、体の感覚が消えてきた。
死が迫っている。
抵抗する気は起きない。ここで死んで、穂乃果が全てを清算できるのならそれでも良いだろう。

(ごめん、クロメ……お前の仇も討てなくて)











何回殴ったのだろう。
血が飛んで、唾液が飛んで、逆流物が服を汚しても。
穂乃果は構わず殴り続けた。
息も上がり、振るい続ける腕も疲れ痛みすら感じても。
やはり休む事無く、機械の様に殴り続けた。

汗や相手の体液が纏わりつき、ヘルメットが手から滑る。

ヘルメットに手を伸ばす事無く、手の丸め振りかざした。
己の拳で今度は殴りつけていく。異物を介した感触と違い、頬にめり込み血と飛ばす不快感が手を包む。
何より、殴るたびに手が痛み続ける。

「私って、こんなこと出来る人間なんだね……」

暴力なんてものに身を任せても、気が晴れるわけもない。
かといってイリヤの為に誰かを救う為の行いですらない。
ただ純粋な破壊だけであり、そこには何の生産性はない。
けれども振り上げた拳は行き場を求め、目の前のウェイブに吸い込まれていく。

手が粉々になりそうなほどの激痛を訴えようとも、ウェイブの息が掠れ今にも止まりそうになろうとも。
涙で視界がぼやけ、まともにウェイブを見れなくなろうとも。

『穂乃果』

海未の声が聞こえ、ふと手が止まる。
血に染まり、腫れ上がった拳に海未は手を伸ばし、そしてすり抜けた。
海未だけじゃない。黒子もアンジュもヒルダも、穂乃果を思ってくれた皆が手を伸ばして、それは決して触れることはなかった。

「ハッ……ハハハ……。
 やっぱり、勝手だね私。どこかで誰かが止めてくれるって思ってたんだきっと……本田未央の時だって、本当は……。
 もうみんないないって、分かってたのに……。でも、もう背負いきれないよ」

「気は済んだのかね」

野太い男の声が響いた。
知っている声だ。まだ殺し合いが始まって、そう経たない内に出会った。

「ブラッドレイさん」
「随分と様変わりしたようだ。
 見違えたよ」

それが賞賛でないことは穂乃果にはよく分かった。
皮肉であり、そこには失望の意が込められていることも。

「人を殺めた感想はどうかね? 案外、簡単だったかな」
「なに、しにきたんですか」
「通りすがりだよ。学院に行ってみれば、既にもぬけの殻。
 適当に回っていたら君達を見つけたのでね」

変わった様になったウェイブを見つめブラッドレイは溜息を吐いた。



「殺し合いに乗ったんですか」

僅かな静寂を先に破り、穂乃果が声をあげる。

「分かるかね」
「何となく、ですけど……。
 だって、その傷や返り血は人を殺したものですよね。それに……目で分かります」
「ほう、良く見ているものだ。
 いや同類になってしまったからこそ、分かったのか」

同類という言葉に嫌悪感が沸く。
ブラッドレイは穂乃果を人殺しと遠巻きに呼んでいる。
ウェイブだけでなく、未央の殺害も既に見抜いているだろう。
先ほどの、見違えたという言葉もそういった意味を含めているはずだ。
けれども、穂乃果に言い返せる言葉は何もない。全ては事実であり、間違いは一つとしてない。

「歩みを止めた者は皆、君のような顔をする」
「それはいけないことなんですか」
「……」
「もう進みたくなんかない。
 止まることが、そんなにいけないことなの?」

ピクリとブラッドレイの手が動くのが穂乃果には見えた。
恐らく一瞬意識は剣に向かい、脳裏では穂乃果を斬り捨てる光景を思い描いていたことだろう。
それを理性で以って制したのだ。
以前の穂乃果ならば、その姿を見て威圧されただろう。だが、今の穂乃果からすれば逆だった。
何も感じない。むしろ、ここで終わらせてくれるのならという期待すらある。

「期待はずれだよ。
 ……いや、これもまた人の一面、か」
「勝手に期待なんてしないで。
 私は……強くなんてない。
 もう、疲れたよ。
 ……終わらせて、ブラッドレイさんなら簡単でしょ?」

ブラッドレイの顔に笑みはなかった。
首輪をただ同然で二つ入手し、支給品も奪える。
殺し合いに乗ったのなら、喜びこそすれ憤りなどあるはずもない。
しかし、その表情に刻まれたのは憤怒そのものだった。



「弱者に用はない」

冷徹な一言を浴びせ、ブラッドレイの一閃が振り下ろされた。


「ほう」


ブラッドレイの剣が巨大な槍に阻まれる。
マントを靡かせ、龍の化身がブラッドレイを押し返す。
ブラッドレイは体の軸をずらし力を受け流しながら、独楽のように回転しつつ槍を捌き距離を取る。

「ハァ……グッ……」

インクルシオを纏ったウェイブが駆け出そうとし、全身を襲う鈍痛が膝を折り曲げた。
槍を杖代わりに倒れるのを押さえ込むが、最早ウェイブの体は限界を迎えつつある。
先ほどの顔面の殴打に加え、二発の銃弾に後藤との死闘。むしろまだ壊れない方がおかしいのだ。

「迷いは吹っ切れたのかねウェイブ君」

「……る、せェよ……てめえと話してる暇はねェんだ」

言葉の通り、会話すらウェイブにとっては負担に感じるのだろう。
声は掠れ、血の混じった咳がウェイブの口周りを赤く染めていく。
それでもウェイブは今にも手放しそうな意識を繋ぎとめ、背中を向けたまま穂乃果へと語りかけた。

「俺はきっと、逃げてた」

無駄口ですら寿命を縮めるのは分かっていた。
それでも、傷付け続けてしまった少女に。守るはずの民に伝えなければならないことがある。

「戦おうとして、戦ってれば何かした気になってたのかもしれない。
 迷ってた自分を誤魔化して、俺は嫌なモノを見ようともしなかった」

セリューと会ってから、ウェイブは無意識の内にイェーガーズと距離を置いていた。

「すげえよ、穂乃果は……お前は自分の中の自分と向き合えたんだろ?
 こうなっちまってもさ、それでもやっぱりお前が強かったんだと思う。
 だから、俺ももう逃げない。必ず、目の前のアイツをぶっ倒して、もう一度お前の前に立つ」

全てがウェイブの責任ではない。むしろ、ウェイブも被害者の一人なのかもしれない。
だとしても、それらの悲劇は事前に防げたことだ。
ウェイブがイェーガーズの闇と向き合い、それらと戦う決意があれば。
民を守るとは、軍人であることではなく。真に戦うべきモノを見定めることであったはずだ。
それを見失っていた。狡噛に諭され、アカメの生き様から学び、ようやくウェイブにも理解できた。



「ウェイブさん……」
「その時に……ちゃんと俺達の事に決着を着けよう。
 俺も……それまで絶対に死なねえから、だからお前も逃げずに見ていてくれ!」

それでもやはり、遅すぎた。
民も、守るべき者(クロメ)も仲間も全てを失ってから、何の取りしの付かないままウェイブは全てを思い知らされたのだ。

「私以上に、満身創痍だな。
 勝てるのかね? 君が私に」

「勝つさ……誰かの意志じゃない。
 俺の……ウェイブって男の信念に従って!」

威勢を張り強がりを吐く。
たったそれだけで頭痛が増し、腹部の銃創がより広がり激痛を誘発する。
鎧の下から隠されている為、外見からは分からないが、明らかにウェイブは限界だ。
手足は震え、声も呂律が回っているとは到底言い難い。
ブラッドレイはおろか、穂乃果から見てもウェイブに勝ち目などない。否、あったとしてもその先に待つのは破滅だけだ。

「愚かだな。
 何の為に戦う? 意地か矜持か、責務か約束か。
 それら全てをその体で背負おうとは、下らん。とんだ強欲さよ」

大地を踏みしめ、一瞬で肉薄する。
ブラッドレイはウェイブの懐へ潜りカゲミツを一閃。
随分と剣が重く感じた。物質を持たぬゆえ重みなど内に等しい刃だが、疲労の度合いから剣裁きが衰えている。
しかし、ウェイブはその剣筋すら捉えきれなかった。
白の胴当てに赤い筋が刻まれ、血が噴出する。
だがその目だけは、鎧の隙間から漏れる目の輝きだけは違っていた。
何者にも犯されず、澄んだ炎のような強く輝いた眼光はブラッドレイだけを見続けている。
羨ましいとブラッドレイは感じた。
戦いしか残されなかった老いぼれと、己が信念(みち)を見つけた若者。
どちらが強く力に溢れているかは明白ではないか。
あるいは、この男ならば逆境すらも退け、この身に鉄槌を振り下すのではないか。



「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」

咆哮と共に振るわれたノインテーター。
空間を靡かせ、大地を轟かす竜の槍が光の刃と鬩ぎ合う。
轟音と共にブラッドレイを押し潰す竜の圧力、ウェイブは後の反動すら物ともせず全身全霊を込めて槍を握り締める。
剣を掲げたままブラッドレイは体を屈め、槍の下に剣を滑らせるように駆け出した。
脳天から槍を叩き込まんとするウェイブだが、単なる力押しがブラッドレイに通用するはずがない。
槍に込めた力が行き場をなくし、振るった腕そのものが空ぶる。
前のめりに倒れこみ、胸を穿たれながらウェイブは理解する。
槍の柄を神速でブラッドレイは切断し、返す手でウェイブの胸を穿いたのだと。

「どうした? 勝つのだろう? 
 ならば、貴様の前に立ち塞がる障害を打ち負かせて見せろ!!!」

幸い急所は外している為に死にはしないが、より多い出血はウェイブの体に致命的なダメージを蓄積させていた。
インクルシオの反動、戦闘のダメージ、穂乃果から受けた脳のダメージ。
全てが統合され、ウェイブの命を蝕み、体は悲鳴をあげていく。
手足が動かない。
視界もぼやけ、耳もろくに言葉を聞き取れない。
だが、ウェイブはただひたすらに全身に命令を送り続ける。
動けと、生きろと、死ぬなと、必ず勝てと。

「グゥオオォ!!」

ウェイブの精神が肉体に打ち勝ったのか、あるいはインクルシオが力を借したのか。
我武者羅にに動かした左拳が、ブラッドレイの肩を捉えた。
右腕、利き腕の肩を壊しさせすれば戦力は大幅に減少する。
だが寸前で回避される。白のワイシャツが破け、浅黒い肩が露になった。
振りかざした拳を方向転換し、左ストレートを叩き込む。
自身の頬に剣を翳し、ブラッドレイはより深く踏み込む。
そのまま、インクルシオに刻んだ亀裂にストマックブローを叩き込んだ。
拳は亀裂を破り、ウェイブの内部へとダメージを刻む。
ストレートを放った拳は止まり、ブラッドレイは剣で弾きながら更に後ろ蹴りを顎に炸裂させた。
直接的なダメージは鎧が防ぐ、だがその衝撃まではインクルシオでも殺しきれない。
もっとも、本来ならばその衝撃すらも微々たる物だが、脳に負担を負ったばかりのウェイブには十分すぎる凶器となり得る。
脳が歪むのではないかと思えるほどの頭痛が襲い、悲鳴すら上げられない。
頭を押さえ、膝を折るウェイブにブラッドレイは二撃、三撃と斬撃を刻み込む。
インクルシオが赤く染まり、ブラッドレイの顔もまた赤く濡れていく。
噴出す血は止まることを知らず、ウェイブの体を蝕んでいった。



「まだ、だ……まだ……インクルシオォォォオオオオオオォ!!!」

ウェイブの咆哮と共にインクルシオが光り輝く。
紫電を纏い、青き甲冑と共に光を破りインクルシオが疾走した。
その速度はまさしく雷の如く。
ブラッドレイの刀身が強い衝撃を受けた。
その余波だけで堪らず、足は地から離れブラッドレイは遥か後方へ弾き飛んでいく。
ブラッドレイは数秒後に訪れるであろう落下に備え、受身を構え着地点を見定めようとした刹那、背後に気配を感じ全身を雷撃が貫いた。
背骨が砕け散るほど雷の拳は、ブラッドレイを虫けらのように殴り飛ばしていく。声にならぬ悲鳴と共にブラッドレイは地面に体を打付け、顔面を強打する。
口内の歯がへし折れ、頬骨が没落し鼻も些か捻じ曲がる。

突如として、インクルシオが見せた疾走。それはアドラメレクの雷をブースとした高速移動であった。
インクルシオは生きた鎧、如何なる環境にも適合し、驚異的な速度で進化する。謂わば完成された個である。
ウェイブが後藤戦で引き起こした奇跡、アドラメレクとの同時使用の際、インクルシオがその電撃に対し進化していたのだとしたら?
電撃に耐えうるだけではない。ウェイブが力を渇望し、それに応えるようにインクルシオは自身に発電器官を生み出したのだとしたら?

(捉え切れん、あれはあの速さは……)

拳が触れる直前、ブラッドレイは剣とティバックを割り込ませ直撃と感電を避けた。
よって即死は避けた。
だが、それもあの雷鬼の前では賢しい小細工に違いない。
最早、あの速さは光すらも超越している。移動という過程すら省いた次元跳躍。
しかし、次元すら飛躍する能力はインクルシオにもアドラメレクにもない。
あのズタズタな体の果たして何処から、それだけのエネルギーを搾り出しているのか。

この場にもしタスクかアンジュがいれば、今のインクルシオをラグナメイルと見間違えているかもしれない。
それほどまでに今のインクルシオの姿は似ているのだ。サリアが覚醒させたラグナメイル、クレオパトラに
アドラメレクに、この場で最も影響を与えた使い手はサリアだ。
確かに彼女はブドーほどの適合者ではない。しかし、帝具に影響を与えるという点ではどうか。
帝具は時として、人の思いに応える力がある。正しい未来では、圧倒的に実力で下回るマインはその精神で最強の砲撃を放ち、ブドーを下した。
勿論、マインの使うパンプキンは逆境でこそ真価を発揮する。その能力のブーストが掛かったのも事実だが、そこにマインのタツミを思う気持ちが働いていない筈がない。
ならば例え適合性は下でも、帝具に与える影響という点ではサリアはブドーを上回る可能性があったのかもしれない。
そのサリアの性質をアドラメレクが受け継ぎ、インクルシオが取り込んだのだとすれば、インクルシオは電撃と共にクレオパトラと同質の力を得たということになるだろう。
今のインクルシオを名づけるならば、雷鬼纏身インクルシオ アリエル・モードと言ったところだろうか。

何にせよ。どんな事実や仮定があろうとウェイブには関係ない。
背負ったモノがあるから負けられない。背負ったモノが自分を強くする。
これまで取りこぼしてきたからこそ、残されたモノだけは何が何でも貫き通す。
全ての決着を着ける為に、その障害となり得るのなら何者をも粉砕するだけだ。



「温い、全く以って温いぞウェイブ!!!」

次元を越え、物質世界に許された速度を凌駕しブラッドレイへと肉薄する。
雷を纏った拳を怨敵に向け叩き込む。
瞬間、ブラッドレイの体が逸れ拳が空を切った。
電撃をブーストにそのままアッパーを掛けるが、ブラッドレイは既に屈んで射程上から退避している。
そのままブラッドレイは雷ごと鎧を切り裂き、鮮血と共にウェイブが吹き飛んでいく。
眼帯を外し、開眼したのはブラッドレイが保有する最強の眼。
ダメージから回復し、今や完全に視界は以前と変わらぬ様を見せ付けていた。
ウェイブが背後に回りこんだのと同時に剣が振るわれ、ウェイブは両腕をクロスし胸への直撃を防ぐ。
そのまま足をバネに高速でブラッドレイに突っ込むが、最小限の動きを以って紙一重でブラッドレイは避けた。

「貴様の背負うモノはこんなものか!!」

幾度となく交差し光剣が雷拳が鬩ぎあう。
速度では間違いなく勝っている。身体能力、火力も全てがウェイブが遥かに格上だ。
しかし、それでも傷を負い、切り刻まれ追い込まれるのはウェイブだ。
如何に速度を上げようとも速いのはブラッドレイだ。

「視えているのだよ、ウェイブ!!」

全ての移動が見切られている。
ブラッドレイはウェイブの癖、視線の移動といった、行動に移る前のあらゆる兆候をその眼で視る事により、劣った身体能力でも間に合うよう常に先手を打ち続けているのだ。
死角に現れたウェイブの眼球目掛け剣を突き刺し、片目が潰れたウェイブは激痛に耐えながら腕を振りかざす。
剣を抜き、後方に傾けながら虚空へと刃を振り下ろす。瞬間、血を流したウェイブが膝に地を付けて現れた。

「―――!?」

狙うは首。
剣を横薙ぎに払い、吸い込まれるように光はウェイブへと触れた。
瞬間、反射的にウェイブは後方へと飛び退いていく。
いわば電撃を応用したレーダーだ。御坂のように反射的に動けるよう、インクルシオが進化し付け加えた機能だろう。

「遅い」


それでも間に合わない。
首元が避け、滝のように血が流れ出す。

「ウェイブ、さん……ウェイブさん!!」

穂乃果の叫びだけが木霊し、ウェイブは血溜りに倒れた。

「次は君だな」

淡々と、つまらなそうにブラッドレイは呟く。
ウェイブが完全な再起不能であることは明白だ。
元々、戦闘をこなせるようなコンディションではなかったのだ。果たせるはずもない約束を掲げ、無様に挑み朽ち果てる男の末路が血の海に浮かぶただの肉塊。
実につまらない終わりだろう。
泉新一は命を賭してアカメを生かし、雪乃下雪乃は勝ち目のない相手にすら一歩も怯まず、タスクは最後までその闘志を捨てず、
そしてアカメはその全てを背負うように、全霊で挑み見事このキング・ブラッドレイに一斬を刻み込んだ。
思い通りにならない。実に腹が立つ。強い人間達であった。
だが眼前の彼らはなんだ? 弱い弱すぎる。
高坂穂乃果は以前見られた強さは何も垣間見えず、ウェイブもただ何も為せず死んでゆくだけだ。
彼らにもあるいは期待の念があったのだろう。だがその実、彼らは愚かで何も学ばぬ愚者達にすぎない。



「足掻こうという気はないのかね」

踵を返し、穂乃果にカゲミツを向ける。
握っていた銃は既に手放しており、地面で無機質な黒い光を反射し続けていた。
抵抗は無駄と判断したのだろう。事実、穂乃果はブラッドレイに勝ち得る戦力を持たない。

「……」

カゲミツをゆっくりと振るい上げ、首元を狙い、振り下ろす。
先ほどの戦闘に比べ、実に目に写る光景が緩やかに進む。つまらない小説を読んでいる時など、こんな感覚を味わうものだ。
ブラッドレイも以前の胸の高鳴りが収まり、冷ややかに物事を見つめているという自覚がある。
所詮、自身の抱いていたものは理想だったのだろう。
人は愚かで何も学ばず堕落する。そんな人間をブラッドレイは大勢見てきたし、何よりそういう人間達だったからこそ、ブラッドレイやお父様の計画の進行は妨げられなかったのだから。
それでも強き者達はいた。渋谷凜もアカメも気高く強い人間だ。しかし、彼らでもこの身に鉄槌を下せない。

(本来の未来では打ち倒されるはずが、この世界では打ち倒す側に回るとは奇妙なものよ)

神も人もブラッドレイの最期ではなかった。
ならば、この身はいつ朽ち果てるのだろうか。
この場の全てを殺し尽くし、本来の世界に帰還しそこで最期を迎えるか。
あるいは、その未来すら捻じ伏せ勝利するのか。

何にせよ、歯応えがない。

ああ、そうだ。退屈だ。
使命もしがらみも全てを拭い捨てても、ブラッドレイの剣に相対する人間は最早いない。

(ようやく、辿り着いたと思えたのだがな)

今亡き強敵どもに胸を馳せる。
しかしその全ては死に絶え、残されたものは弱者のみ。
つまらない。これが人間か。未来において自らを下し、お父様と人造人間を撃破し、真理すら打ち負かした人間達なのか。
武器を手に取れ、足掻いて見せろ。立ち上がり、抗って見せろ。
そうして未来を勝ち取り続けたのが、お前達人間ではないのか。
ブラッドレイの憤怒がより募り、その炎は己すら燃やし尽くしかねない。

「……そうか」

その死の瞬間まで高坂穂乃果は微動だにしない。
死に救いを求め、逃れたがっている人間の姿だ。
戦場で幾つも目にし、奪い続けたきた有象無象となんら変わらない。

「――――な、」

刹那、ブラッドレイの左腕が宙を舞う。
激痛に耐えながらブラッドレイは即座に距離を取る。
左肩の先から湧き上がる激痛に歯を噛み締めながら、ブラッドレイはその正体を目にする。



「ウェ……イ、ブ……!」

血に濡れた拳を突き出し、今にも崩れそうなフォームでウェイブはブラッドレイに向き直っていた。
首から流れている血を止血し、何らかの方法で再生させたのか。
いや、それはありえない。インクルシオはウェイブの血で今も滲み続けている。傷の再生自体は行われていないと見るべきだろう。
それよりも分からないのが、不意打ちとはいえブラッドレイが反応できなかったウェイブの動きである。
気配すらなく、あったのは腕を失った感触のみだ。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!」

それは人の声ですらなかった。
竜の咆哮でもない。
まさしく、怨霊の悲鳴とでもいうべきか。
冥府の底から響くような呪いの怨念がブラッドレイへと向けられ、ウェイブは疾走する。
大地が割れ、大気が軋み、光すら捻じ曲げる。

「ッッ!!」

ウェイブの拳がブラッドレイの腹を貫通する。
またしても視えなかった。
今度は正面からの見据えても尚、最強の眼ですら視ることすら叶わない最速の拳。
喉を逆流する血を吐きながら、しかしブラッドレイは手放しかけた剣を握りなおしウェイブの心臓を穿つ。

「ま、さか……貴様……!」

流れた血は薄黒く濁り、血べたに落ちていく。
人間であるならば、その瞬間に全ての生命維持は停止し絶命しているだろう。
だが、ウェイブは止まらない。その拳をブラッドレイの頬へと振るい上げる。

―――いつも、俺は亡くしちまってから気付くんだ。

剣が腕を貫き、眼前に向かう拳を打ち止めた。

―――ボルスさんも、ここに呼ばれてからはマスタングもセリューも田村も……そしてクロメ……数えだしたらキリがねぇ。
   俺は何も守れなかった。情けねえよ、こんなに戦ったって俺は何一つ、掴めも救えもしなかったんだ

拳は止まらない。腕を引き裂かれ、肉を骨を曝け出しながらも怯みすらしない。

―――こんな俺に、お前は愛想を尽かしてるかも知れねえ、だけど1つお願いがあるんだ。

ブラッドレイの左顔面を拳は抉っていく。
最強の眼は潰れ、耳は引き千切れ、口は裂け肉片がミンチとなり弾け飛ぶ。

―――クロメの力を……八房の力を俺に貸してくれ!!




それは偶然。
イリヤが所持していた死者行軍八房が鳴上悠との戦闘の余波で吹き飛び、偶々ウェイブ達の近くに落下し、そしてウェイブが倒れ、死の狭間に立ったその瞬間、目の前にあったのだ。

死ぬ瞬間、ウェイブは自らの命を八房で絶った。
躯人形として蘇ることで再び戦場に立つ為に。

もっとも八房は、使い手自身に使用することは出来ない。
使い手が死ねば、それを操る使用者が存在しなくなってしまう。躯とそれを操る使用者の存在があって、初めて八房は真価を発揮する。
だが、ここで一つの例外がある。インクルシオは鎧として加工されても尚、その筋肉は生きて進化を続ける強靭な生命力を持つ。
この戦闘の前に猫が見た通り、インクルシオは成長しウェイブは侵食されていた。
それは人としての姿を捨て、理性のない怪物へと変貌する予兆であったが、インクルシオに侵食された竜の生命力により首から上だけを使用者として“生かす”ことで八房を使用し自らの肉体を躯人形として操ったのだ。

顔面の半分を潰されながらも、ブラッドレイはウェイブを蹴り飛ばし腹部の拳を引き抜きながら下がっていく。
血を吐き、悲鳴を上げる口が半分になっても、残ったもう半分の口でブラッドレイは笑って見せた。

片腕はない、腹を破られ、顔も磨耗し、最強たる眼も失った。

だが命はまだある。肉体も残されている。剣もある。
まだ、戦えるのだ。闘争に望めるのだ。
全身を蝕む苦痛を歓喜が越える。

「……最後に、この首を取らんとするのが亡霊と来たか」

可笑しいものだ。
神も人も切り捨て、最後に相対するのが死者であるとは。
こればかりは、予想できなかった。仮に死ぬとしても、それは人かお父様(かみ)の手によるものだとばかり考えていた。

「良いだろう」

血が喉に絡み、息を吸うのも億劫になる。
出血が多く、視界もろくに捉えない。
全身がだるく、痛みは生きてきたなかで最も激しいピークを迎えている。
だがそれら全ての生命への危機が、警鐘を鳴らす肉体が生きていることを実感させていた。

「……元より、この名も力も全てが与えられた。私は私が何者であるかすらも、分かりはしない。いわば生きた亡霊よ。
 ―――ならば亡霊同士、殺し合うのも面白かろう」

駆ける。駆ける。
生命すら超えた速度でウェイブが疾走する。
遥かに劣った速度で、またブラッドレイも迎え撃つ。



最強の眼であろうとも、それは眼でしかない。所詮、光を頼りに視覚情報を伝達する器官なのだ。
ウェイブの動きを避けたのも、その前兆を視ていたからに過ぎない。
ならば、それらの前兆すらも光の速度で行えば。
人間は自壊を防ぐ為、本来の力を常にセーブし続けている。
それらのリミッターを完全に外し、インクルシオの力を完全解放し、肉体そのもの許容量を越え、限界へと引き上げてしまえば―――。
しかし生物である以上、限界へ達したその時待ち受けるのは破滅だけだ。勝ち負け以前に、その肉体は自滅してしまう。
だが人間でないのなら―――肉体そのものが既に死んでいるのなら話は別だ。
四肢を?ごうが臓器を抉ろうが、躯人形は死なない。肉体の限界を超えようとも、いくら破損しようとも文字通り朽ち果てるまで躯人形は戦い続けられる。
寄り添うように、今にも崩れそうなウェイブをクロメが支えるかのように、二人(ふたつ)の力が一つになった時、死すらも凌駕する。

秒も置かず、ウェイブの拳はブラッドレイへと届く。しかし、そこへ光の刀身が翳された。
拳と剣の鬩ぎ合い。この闘争に於いて幾度となく、行われた光景が再び繰り広げられる。
最強の眼もないブラッドレイが、如何にして限界を突破したウェイブを視たのか。

拳をブラッドレイはいなし、剣を脳へと突き上げる。
肉体そのものが屍であろうと、それを操る頭さえ潰せば確実に動きは止まると見越した動きだ。
ウェイブは後天しながら突きを割け、そのまま手をバネにドロップキックを放つ。
その速度も尋常ではない。肉体のリミッターが完全に外れたウェイブは、自身の力とインクルシオの力を思う存分に振るうことが出来る。
まさしく砲弾の如く迫る蹴り、最強の眼すら打ち負かした速さは、いとも容易く避けられた。
すれ違い様、顔を覆う兜に罅が入りウェイブの右目が露になる。
勢いに乗った全身にブレーキを掛け、タックルの体勢で駆け抜けていく。
だがまたしてもブラッドレイは避けていた。
ウェイブの右目が切り裂かれ、側頭骨に亀裂が走る。頭から上は屍ではなく竜により生かされた人間、その痛みは想像を絶する。
喉の奥底で悲鳴を押さえ、砕け散らんばかりに歯を噛み締め、ウェイブは更に加速した。

より速く、より鋭く。より強く。

最後に残された約束を守る為に、全てのケジメを着ける為に。ただひたすらに力を願い、走り続ける。
だが当たらない。全ての攻撃をギリギリまで引き付け、ブラッドレイは紙一重で避け続けた。
数cm、いや数mmも二者の間に距離はないだろう。それだけ接近しても、ウェイブはブラッドレイに触れることすら叶わない。
躯の肉体の為、その限界は既に突破している。だが、その現象はインクルシオと八房の同時使用によるもの。
そのどちらが欠けても、ウェイブに残されたものは死であり、その負担は凄まじい。ゆえに技術的な動きを取り入れる余裕がないのだ。
そうなれば、現在の動きは直線的にならざるを得ない。直線的であるのなら、いかに速かろうとブラッドレイが動きを予測するのも難しくはない。

「足りん、足りんぞ!!」

光すら止まって見える拳の乱舞を、ブラッドレイは舞うかのように避避け続ける。
一つでも貰えばその瞬間、己が敗北が決定する。その危機的状況にブラッドレイは嬉しさを感じていた。
あの時の高揚感、エスデスとの戦闘で目覚めた闘争の喜び、アカメと雌雄を決した剣戟。
その全てに勝るとも劣らないウェイブの乱撃。



「命を賭してこれか! 
 力も決意も、その信念も全てが甘い!!」

同時に燃え上がる憤怒の炎。
まだだ。まだこの程度ではないはずだ。
もっと、もっと、もっと。あの男はより強く高見へと上り、この首を討ち取るだろう。
その確信が強まると共に怒りも込み上げ、ブラッドレイは高らかに叫ぶ。
煌めく一閃がウェイブの首を奔った。
大動脈は切れ、人間の体であれば致命傷だったろう。
躯の人間でなければ死んでいた。いや、躯であってもあと数センチ踏み込みが深ければ、いとも容易く頭と体が両断されていたはずだ。
死に掛けたという事実がより一層、ウェイブの危機感を煽り足は後退を選ぶ。それを読んでいたかのようにブラッドレイは飛び込み、剣を突き出す。

「だから全てを失くす! 最後に得た答えにすら届かん!」

兜を破り、頭蓋を刺す。
光の刃が脳を焼き尽くす寸前、ウェイブは刃を掴み取る。 
捻じ込もうとするブラッドレイに押し返すウェイブ。
残された力を振り絞り、ウェイブは拳を握り締める。
だが間に合わない。退いたことで勢いが落ち、その瞬間のみブラッドレイが速さで勝ったが為だ。

(クロメの力を借りたんだ。ここで、終われるかよ……!!)

ほんの僅かな怯み、それがこれほど致命的な失態へと傾いてしまう。
そう、実力こそ完成されようとも、その精神が未熟であれば意味はない。
心身ともに釣り合いの取れた実力こそが本当の力なのだ。
ブラッドレイの言うとおり甘すぎる。だから、最後の最後で必ずしくじるのだ。
そうやってクロメが死に、セリューが死に、田村が死に数え切れない屍の上で悔し涙を流すしかない。



「クソ……クソォォォオオオ!!!」

滑るように手の中を剣が突進み、ウェイブの命を狩る。

「うわあああああああああ!!」

「グ、フッ……!?」

その瞬間、ブラッドレイの頬を銃弾が貫いた。
我武者羅に発砲した弾丸は、その大半が出鱈目な方向へ散らばっていくが数弾がブラッドレイに着弾し、剣を握る手を緩ませる。
ウェイブというよりも、それはインクルシオの生存本能だろう。
ブラッドレイを渾身の限り蹴り飛ばし、剣を頭から引き抜きウェイブは地べたを転がっていく。

「ハァハァ……なんで、かな……」

どうして穂乃果がこの瞬間、引き金を引いてしまったのかは分からない。
未だにイェーガーズは憎い、その仲間のウェイブだって許せない。
どうしたって許せるはずがない。なのにウェイブを助けてしまった。

「ほ……の、か……?」

自身を救ってくれた少女に一瞥をくれ、ウェイブは剣を抜く。
ここまで共に戦い抜いた相棒である黒剣エリュシデータ。
インクルシオの怪力に乗せ、剣を振り下ろす。

「ぬゥォォ!!」

横薙ぎに振るわれたブラットレイの剣がエリュシデータを両断する。
黒の刀身が砕け、二つに分かれた刃が虚空を舞う。
ブラッドレイは立ち上がり、怯みかけたウェイブの懐へと飛び込む。
これまで絶対の信頼を置いていた剣が、無残にも一撃で両断される。それは精神的にも大きな隙を生み出すだろう。
ウェイブならば怯み、そこから再度後退しブラッドレイに追撃のチャンスを与えてしまったはずだ。



「退くかよォォォ!!」

だが、今ウェイブはその精神の軟弱さを克服し、ブラッドレイよりも先に踏み出した。
振るわれるブラッドレイの光剣を冷たい鋼で反射し、ウェイブの手にある八房がブラッドレイの右肩を切断した。

「ッ、グァアアアアアアアア……」

ほぼ同時にインクルシオが自壊を始めていった。
時間切れだ。ウェイブは確かに高い適合性を誇っていたが、タツミやブラートといった正規適合者に比べれば遥かに彼らを下回る。
持続可能な時間は決して永くはない。
より侵食され、生命力が高まった頭を除きインクルシオは解けていき、生身の肉体が露になった。

「ッッォォオオオオ!!!」

その絶好の好機をブラッドレイは見逃さない。
両腕をなくしバランスの取れない体を器用に足で支え、宙を舞うエリュシデータの刃目掛け口を開く。
刃を噛み締めた瞬間、前のめりに駆け出し、ウェイブの頭部を狙う。
迎え撃つ打とうと八房を振り上げるが、刀身をブラッドレイが踏み抜き刀は地面深くにのめり込む。
刃がウェイブに触れる寸前、胸部の裂傷から血が噴出し、吐血する。

「……ガッ」

穂乃果もブラッドレイが止まった間に引き金を引き、銃弾は見事ブラッドレイを貫いた。
だが、止まらない。八房を踏む足は更に強まり、よろめきかけた体はまた前のめりへと突進する。
いくら血反吐を捲こうが、その歯に挟んだ刃だけは放さない。
勝利への執念を抱き、残った全てをただこの瞬間にのみ賭ける。

「ブラッドレエエエエエェェェイ!!!」

ウェイブもまた第三の刀を抜く。
片手の八房に導かれるように、呼応するように妖刀・一斬必殺村雨が今牙を向く。
村雨にとっての弱点であり、天敵たる八房との同時使用。
ウェイブに村雨を扱える適性はない。だが、躯の肉体ならば如何な呪いで拒絶しようとも、何ら害はないがない。
アカメとクロメとの戦闘に於いても、アカメの攻撃は躯人形に対し効果を発揮していなかった。

「―――!!」

刃を砕き、皮を裂き、肉を斬り、骨を絶つ。
村雨より流れ込む必殺の呪毒。アカメに刻まれた裂傷と合わさり、まるで十字を描くかのような斬撃はブラッドレイの体内を流れ、いずれ心臓へと行き着くだろう。



「……フッ、アカメ……よもや冥府から……迷い出おったか」

あの裂傷、最後にアカメから受けたあの傷さえなければ、確実にウェイブは仕留め切れていた。
まさに執念というほかない。死してなお、あの世から一太刀浴びせに化けて出たのだろうか。

「この、刀は……アカメの刀だ……」
「そうか、道理で……主の仇を討ったという訳、か……」

もう残された時間は何秒ほどだろうか。
体内を流れた毒は解除の方もなければ、動けるほどの体力もない。
まるで一気に老け込んだかのように、全身が心地のよい気だるさに包まれる。

(どうやら、未来(せかい)に選ばれたのは君らしいな、鋼の錬金術師)

一つ思い出したかのように最後の枷を思い浮かべ、純粋な賞賛を送る。

「久しぶりだな。こんなに眠いのは……ああ、疲れた」

「……なあ、教えてくれよ。
 アンタ程の力があれば、こんな道を選ばずにすんだろ。アンタなら、どんな道だって……」

「―――人造人間(わたし)にも、人造人間の矜持がある。
 最後の方は、少し……自分で敷いたレールを歩いてもみたがね……」

ブラッドレイの瞼が閉ざされる。

「まあ、お前達人間のお陰で、多少……やりごたえのある、良い人生であったよ―――」

しずかに安らかに、そのまま息を引き取った。
とても呪毒で死んだとは思えない、満足した顔で。



「終わったのか……いやここから、だよな」

帝具の同時使用、それも二度も連続で引き起こしたウェイブの体はボロボロだった。
いや八房の影響で、既に半分は死んでいると言ってもいい。
だが穂乃果と交わした最後の約束だけは、必ず果たさねばならない。
穂乃果もまたゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
ウェイブの約束を信じ、ずっと待っていてくれた。最後のほうには援護までして。
良い仲間を持ったと思う。そしてこれからも、仲間でいられれば良かったとも思う。

「やっぱりな……そうなるよな」

穂乃果は銃を手放さなかった。
深い憎しみだ、それを諭すのは恐らく不可能だろう。

「はっきり言う……。きっと、嘘を言ってもお前には分かっちまう。
 俺は、セリューが全て間違ってるとは思わない」

本当なら全てを偽り、穂乃果に望む言葉を掛けるべきなのかもしれない。
だがそれは逃げだ。
由比ヶ浜の死を隠したことで、雪乃を傷付けた。あれは、自分達の失態を知られたくないという自分の臆病さが招いたこと。
もう真実から目を背けない。背けてはいけない。
本当のケジメをここで付ける為に。

「セリューのやり方は極端かもしれない。
 だけど、ことりって娘が殺し合いに乗ったのは事実だろうし……きっと俺がセリューの立場でも殺したかもしれない」

殺し合いに乗った不穏分子を放っておけるかといわれれば否だ。
ウェイブも説得を試みるかもしれないが、万が一の場合は容赦なく殺してしまう。

「だからって、アイツが全部正しいわけじゃねえよ。
 お前の前で友達を食わせたりしたのは、アイツの間違いだ……。アイツもその報いを受けて、きっと死んだんだ」

「……本田未央を殺しました」

「……」

「島村卯月が許せなかった。
 一人で満足して死んで……私は代わりに、本田未央を殺したんです……」

穂乃果も語る。
学院での全てを、彼女がどうして本田未央を殺してしまったのか。
全ての一線を越えた過程を。
ウェイブは黙って話を聞き続けた。



「俺なんかが言える資格はない……けど、それは間違ってる。
 穂乃果、その罪は償わなきゃいけない」

「だけど……私は……」

「未央は、友達を守りたかっただけなんだ……アイツが死んでいい理由なんて何もない。
 お前は……卯月と同じ事をやっちまったんだ」

本田未央の動機は、全てが純粋だったはずだ。
友達を守って一緒に生きて帰りたい。ただそれだけの、ありきたりで優しい理由だったのだろう。

「償おう。
 学院に戻って、それで謝ろう」
「嫌だ……謝りたくない!」

「穂乃果! お前はさ……救われて良いいんだよ。
 あの時、俺を助けてくれた。お前は優しい奴なんだ。後藤の時も生きてるか分からない友達の為に必死になって、マスタングに怒ったのも雪子の為だろ。
 本当は、後悔してるはずだ、未央を殺したことを……。だから、償って―――」

「私は……救われる自分だって許せない……。だから、もう……これしか……」

「穂乃果……!」

「救われたって私はどうせ人殺しなんです……セリューと卯月だって許せない……。
 だから、もう地獄に落ちたって良い……。ウェイブさん、私は貴方を殺します」

きっともう穂乃果も分かっている筈だ。
セリューも卯月も、穂乃果が思うような悪人でないことも。だが、それでも許せない納得できない。
一人で抱え込むにはあまりにも大きい憎しみが、穂乃果を暴走させてしまっている。
例え救われようとも、自分自身を許すことができないほどに。

(俺の、言葉じゃ届かないのか……)

もしも白井黒子がいれば、彼女はこの場で多くの時を穂乃果と過ごしていた。
彼女なら穂乃果の憎しみを止められたかもしれない。
もしも小泉花陽がいれば、仲間の声ならばきっと穂乃果に届いていたことだろう。
だが、彼女らは既に死んでしまった。残されたのはウェイブだけだ。

「……俺を殺せば、全て収まるのか」

「……」

その憎しみがウェイブという穂乃果にとっての、イェーガーズの象徴を殺せば消え去るのだろうか。
そうであるならば、ウェイブは喜んでその凶弾を受けるだろう。
穂乃果が先に進み、救われる為ならばその命を落とすことも厭わない。
イェーガーズとしての最後の責任を負い、死ぬ覚悟は既に出来ている。

「さよなら……ウェイブさん、これで――」



ああ、だがそれは逃げだ。
死ぬことが責任を取る場合もある。それをウェイブは否定はしない。
けれど、ここでそれを選ぶことは逃げだ。
もしも、穂乃果がウェイブを殺して、それでどうなる? それだけで憎しみが晴れるのか? 否だ。
その程度で消えるのなら、未央を殺した時点で彼女は満足しているだろう。穂乃果の憎しみは最早消えない。
それをぶつける対象が、この世の何処にもいないのだ。ウェイブも所詮、その代わりに過ぎない。
行き場をなくした憎しみは周囲を巻き込み、穂乃果を自滅へと誘うだろう。

「穂乃果……!!」

「―――!」

そう何の関係のない者達まで、穂乃果は傷つけてしまうかもしれない。
それはエドワードであり、杏子であり、雪乃であり、まだ見ない殺し合いに抗う人達かもしれない。
もう二度と誰も傷付けさせるわけにはいかない。だから、ここで全てを終わらせる。

決着は一瞬だった。
銃声が響いたと同時、ウェイブの剣が穂乃果を切り裂く。

「…………ごめんね……みんなのこと……裏切っちゃって」

死に際に関わった人たちの顔が浮かんだ。
命を賭してサリアに挑んだ海未のことも、ずっと守り続けてくれた黒子のことも。彼女達の行いを全て台無しにして、無意味にしてしまった。
だからこれはお似合いの最期だ。悪として、正義の剣に裁かれたことは。

血が流れていく。
その度に体から温かさが抜け、全身が冷えていく。
手を伸ばしてみる。全部投げ出したその手はとても軽くて、虚空を何も掴めずもがいていた。
本田未央もこんな死を味わったのだろう。

(……死にたく、ないなぁ……)

涙が一筋頬を伝った。
それから程なくして、穂乃果は動かなくなる。
ウェイブは膝を折り、冷たくなった穂乃果の瞼を優しく閉ざす。



「ごめん、な……。お前のこと、救えなかった……」

ウェイブが斬ったのは罪人であり、そして仲間でもあった少女だ。
こんな事になる前に彼女を救い出す手立てはあったはず。
だが、ウェイブは全てに間に合わなかった。仲間達の死に間に合わず全て死なせてしまったのだ。
繰り返さないと誓いながら、その誓いすら生温い。
ブラッドレイの言っていた通り、甘いのだろう。だから全てを失くして、こうして朽ち果てるしかできない。

「そろそろ、かな」

顔を覆うインクルシオの兜が消滅していく。
首から上を生かすという荒業、そう長く続くはずもない。
せめて、穂乃果と全ての決着を付けてからと維持してきたが、それももう必要ない。
そして手の八房も、罅割れ始めた。強引な二度の同時使用は、帝具そのものにも負担を強いらせていた。
八房が手から離れ、砕け散っていく。同じく、村雨も八房も覆うように落ちると、自壊し消滅した。
まるで妹を思う姉が後を追うように―――

(最期までありがとな、アカメ、クロメ。……あの世じゃ、仲良くな……もう殺し合う必要もないんだ)

八房が消滅し、ただの屍となった体が崩れ去る。

(エド、杏子、雪乃……後は任せるよ……お前達は絶対にこっちに来るんじゃねえぞ……)

インクルシオが解除され、その生命が完全に潰える。
あとに残されたのは、墓標のように地に突き立てられたインクルシオの鍵剣だけだった。





【D-4/二日目/早朝】

※三人の遺体の前にインクルシオが突き刺さっています。
※三人の支給品が落ちています。



【エリュシデータ@ソードアート・オンライン 破壊】
【一斬必殺村雨@アカメが斬る! 消滅】
【死者行軍八房@アカメが斬る! 消滅】


【ウェイブ@アカメが斬る! 死亡】
【高坂穂乃果@ラブライブ! 死亡】
【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST 死亡】

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200:コバルトブルー ウェイブ GAME OVER
199:暗闇でラブソングを歌う 高坂穂乃果 GAME OVER
193:アカメが斬る(前編) キング・ブラッドレイ GAME OVER

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最終更新:2016年11月04日 16:28