でもそれって根本的な解決にはなりませんよね? ◆mist32RAEs
一方通行と呼ばれる彼にも、かつてはれっきとした日本人らしい名前があった。
苗字は二文字で、下は三文字だった。どこにでもある、いたって普通の名前だったように思う。
それを失くしたのは彼がこの世に生を受けてから十年を過ぎたあたりか。
彼は最初から最強だったわけではないが、それでも周りと比べて図抜けていたのは確かだ。
突っかかってきた同年代の子供たちは触れただけで骨を折った。
さらにそれを止めようとした大人たちも同様だった。
取り囲んで一斉に飛び掛かり、捕まえようとしたが結果は同じ。
彼とその周囲の人間にとって不幸だったのは、この時点で彼を宥めることが誰もできなかったことだった。
それどころかほかの人間たちは皆、彼の強大な力に怯え、恐れおののいた。
しまいには警察、軍隊に等しい武装集団まで駆り出されての大捕り物となったらしい。
だが誰より怯えていたのは彼――当時は小学生にすぎない未熟に過ぎる精神の持ち主に他ならない。
彼はとにかく怖かった。
彼は拳を振り上げられるのが怖くて抵抗しただけだ。
大人たちに大勢で取り囲まれ、さらには彼らが恐ろしい形相で飛び掛ってきたので必死で腕を振っただけだ。
小さな子供にとっては当然の反応といえる。
だがそんな純粋な防衛本能を、その特異な力が災害クラスの破壊力に変えてしまった。
ヘリが、戦車が、武装した大勢の武装勢力が、怯えに任せて力を振るう少年を取り囲むという、一見して奇妙な構図。
そのときの彼はまるでテレビに出てくる醜い怪獣のようだった。
誰もが恐れ、怯え、必死の形相で睨んでくる。
彼がほんのわずかな力を行使するだけで、大勢の人間が傷ついていく。
少年だった彼には、そのとき世界はどう見えたことだろう。
まるで自分が世界の全てから『お前は悪だ』と告げられたような、そんな気持ちではなかったか。
その後の彼は、まるで自ら望んで悪になろうとするようだった。
誰にも望まれず、誰にも関ろうとされず、だがそれでも誰かに認められたいというように。
それが例え万人に忌み嫌われる道であっても、それでも絶対の力を持つ悪としてならば、皆は自分を認めてくれるのではないかというように。
そんな彼にある少年による一つの敗北と、ある少女の一つの理解と、一つの救いを求める心が芽生えるまでは。
◇ ◇ ◇
地が無い。
天が無い。
光が無い。
闇だけが在る。
そして目の前には一人の少女。
「超電磁砲<<レールガン>>……!?」
栗色のショートヘアに整った顔立ち。
白のブラウス、サマーセーター、プリーツスカート。
年相応に学生らしい制服姿の少女――学園都市第三位のレベル5。
超電磁砲の
御坂美琴が闇の中に立っていた。
立っていた、というのはふさわしい表現ではないかもしれない。
ここでは地面すらあやふやで、もしかしたら浮いているのかもしれないし、沈んでいるのかもしれない。
だがそんなことはどうでもいいことだ。
「なンでてめェがいやがる……」
死んだはずだ。
あの放送が本当ならばもう12時間以上も前に。
「別にいいじゃない。さ、早く願いを言いなさい。それがあんたの力の容(カタチ)になるわ」
「何?」
「守りたいんでしょう?」
「……てめェは誰だ。クローンどもか?」
こいつが打ち止めの一件を知っているはずはない。
いやもしそれを知っているからといって、この少女に自分の胸の内まで吐露した覚えはないのだ。
一万人を殺して、殺して、殺して、その果てに待ち受けた敗北を経て、そして初めて己が所業の罪を思い知った。
そしてそこでようやく己の本当の願いと、そして成すべきことを悟った。
それを知るものはほんの一握り。少なくともこの少女でないことは明らかだ。
そもそもこの状況は一体なんだ。
これは現実なのか。
「仕方ないなぁ。まあ確かに私は超電磁砲じゃないし、アンタが殺しまくったクローンのシスターズでもない。
私はアンタの心が映し出した罪業のシンボルってとこかしらね」
「…………ぁ?」
「よーするにアンタが今までで一番悪いことしたなって思ってることに関連付けて私の姿は形作られてるわけよ。
あんだけ派手にブチ殺しまくっておいて実は罪の意識がありましたー、なんてどんだけよって思うけどね」
「……」
正確ではない。
自分の心の根底に気づいたのが全て終わった後であったというのが本当のところだ。
が、だからといって殺されたシスターズ一万余りと、生き残った一万弱に向かってそれを言ってどうなるというのか。
一方通行によって殺されたという事実は何も変わることはないのだ。
押し黙るしかない。何も言えなかった。
それを知ってか知らずか、眼前の少女はひらひらと手を振りながら軽い口調で語りかける。
「まあいいわ。本題に戻るけど、どうするの? 望むならアンタに力を授けてやれる。ほら、あれ――」
「……! なンだ、ありゃァ……!」
息を呑む。
少女が指差した先には黒い太陽が在った。
いや――あれは孔だ。
底抜けに深い闇を湛えた巨大な孔がぽっかりと頭上に開いている。
見ているだけでわけのわからない怖気が走る。
あそこから声が聞こえてくる。
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね
超質量の瘴気。
怨念の海。
正確にはどう言い表して良いのかわからない。
だがアレがどういうものかは本能的に理解した。
織田信長が纏っていたものと同種の、いわゆる良くないモノ、悪と呼ばれるべきモノ。
「アレが力だってのかよ……」
「そう」
「ふざけんじゃねェ!! あんなんで俺の望みが叶うわけねェだろうがァ!!」
力いっぱいの拒絶の叫びだった。
あんなものが自分が望む救いであるはずがない。
あんなものを手に入れたところでそれが自分と、自分を唯一理解してくれたあまりにもか弱く純粋な彼女に救いをもたらすなどと――、
「何言ってんのよ?」
そこで少女は心底不思議そうに小首を傾げてみせた。
その質問があまりに意外だったというように。
「そんなことは……ねえ、アンタなら誰よりもよくわかってるんじゃないの?」
「……あァ?」
「ここで嘘は通じないわ。だってここはアンタの心の中だもの。私もアンタの心が写し出した超電磁砲のイメージ。
ここの全てはアンタの心の内そのものであって、私が嘘をつくってことは自分で自分に嘘をつくことになるの。
そんなのできるわけないでしょう?」
「心の、内……?」
何がどうなったのかわからない。まるで夢を見ているようだ。
いや、本当に夢なのだろうか。自分のことだというのにまるでそういった感覚がない。
自動的に流れていくテレビの映像のように進行していく会話を、もう一人の自分が脇で見ているような感じだった。
超電磁砲の少女と会話を交わしているのは確かに自分だ。
だがそこに関与して物事の流れを変えることができない――と、いうより思考できない。
不自然なポイントはそれこそ数え切れないほどあるというのに、だ。
少女の言葉はさらに続いていく。
「これがアンタのやり方に一番合ってると思うけど? そしてアンタの心の内の一欠けらである私がそう思うってことは、自分でも認めてるってことよ。
アンタ自身の意識として気づいてないってだけでね」
「うるせェ! だったら教えやがれ!! あんなモンでどうやったら――どうやったら守れるってんだよ! どうやったら救いを得られるのか答えてみやがれ、あァ!?」
つかみ掛からんとするほどの勢いで少女に詰め寄る。
するとどこか噛み合わない問答にいい加減に嫌気がさしたのか、少女は大きなため息をついてこういった。
「仕方ないわね……じゃあ実際にやってみればわかって貰えるかな?」
少女のしなやかな指先が眼前に突きつけられて――世界はそこで暗転した。
◇ ◇ ◇
大洋に二隻の船。
片方には200人、もう片方には300人の乗客と一方通行。
さて一方通行に問題だ。
嵐に遭遇して両方の船が沈みそうになった。
お前の力は触れたものしかベクトル操作できないので、つまり片方しか助けられない。
その間にもう片方は沈没するだろう。
さて、どっちを救う?
「……300人の船だ」
すると選ばれなかった200人の船の連中がお前を取り囲んでこう言い出した。
『こちらの船を先に救え』と。さあ、どうする?
「それは――」
一方通行の能力が炸裂した。
200人が乗った船が胴体の真ん中から真っ二つになり、壁も窓ガラスも打ち砕かれた。
乗客はその崩壊に巻き込まれ、ゴミのように海中へと沈んでいく。
正解――。
「な……」
次の問題だ。
生き残った300人はまたしても危機に襲われる。
50人を見捨てれば残りの250人は助かる。
ならばどうする?
「おい……」
一方通行は50人を助け、250人を見捨てた。
見捨てられた人間たちはこちらを救えと、力ずくでも言うことを聞かせようとしたが、全て殲滅完了。
正解――。
「はァ!? おい、ちょっと待てよ! さっきは人数多いほう助けといて、何ッだァそりゃァ!?」
いいや、まちがってはいない。
君は絶対にこの選択肢を選ぶ。
では次の問題だ――。
◇ ◇ ◇
一方通行がいくらわめいても問題はお構いなしで進行していく。
50人は30人に、30人は10人に、10人は4人に。
殺した。殺した。殺して。殺した。
裂いて。割って。潰して。曲げて。
斬って。砕いて。刺して。刻んで。
剥いて。破って。壊して。貫いて。
回して。彫って。抉って。捌いて。
屠って。弄って。葬って。除いて。
刈って。塞いで。掃って。薙いで。
晒して。消して。畳んで。捩って。
巻いて。注いで。繋いで。研いで。
殺して。殺して。殺して。死んだ。
そのうちにわかってきた。
一方通行がなぜこの選択肢を選ぶのか。
その理由は彼が救うと選択した集団に必ず一人の少女が混ざっていたから。
水色の古ぼけた毛布に身を包んでちぢこまっている少女。
彼女こそが、初めて一方通行という存在を理解してくれた唯一無二の聖域だった。
血塗られたこの手でも、傷つけ破壊することしか知らない自分に対して、そうではない――と言ってくれた。
彼女の笑顔を、同じ目線で接して自分を認めてくれたことを失いたくないと思った。
そしてそう思えた自分自身もまた、失いたくないと願った。
例えどんなことをしてでも――、
「……そういうことかよ」
残るは四人。
その全てが自身にとってかけがえのない存在だった。
だがそれでも二人と二人のうちどちらかを選べと言われた。
本名を捨ててから記憶の隅に追いやっていた両親が、ベクトル操作の威力で木っ端微塵に砕け散った。
「結局……壊すことしか、殺すことしかできねェってことかよ」
残るは二人。
その中からたった一人の打ち止めを救うために、一方通行は残りの一人を殺す。
壊すことしかできずとも、殺すことしかできずとも、それでもそれが彼女を助ける方法になるのなら――、
「上等だァ……例えこの世全ての悪になろうが知ったことかァ!! こっちの一方的な都合で消えてもらおうかァ!!!!」
立ちはだかる人影があった。
その最後の一人に向かって哄笑をぶつけた。
己が悪であると誇示する、絶対強者の凶暴性を示す威勢。
「いいぜ……てめえがそんな方法でしか大事なものを守れないと思ってるなら……!」
それに対して一歩も引かず。
幻想殺しの
上条当麻。
一方通行をまっすぐに見据えるその眼。
己が正しいと信じて疑わない。
おそらくこいつは愛されている。
それに何の疑問もなく、己が正しいと。
そしてそれを確信としてわかっている。
欲しくて欲しくて欲しくて、でもどうにもならなくて、決して手に入らないと悟って――、
とっくの昔に諦めて、冷たい心の底に封じ込めておくしかなかったもの全てを、こいつは当たり前のように持っている。
ちくしょう。
ちくしょう。
ちくしょう。
「まずは、その幻想を――!!」
――愉快に、素敵に、ビビらせて、
――ブ ッ 殺 し て や る 。
◇ ◇ ◇
これは夢だ。
放送前にわずかな睡眠をとった時間で見た、起きてから本人が覚えているかどうかすら怪しい、うたかたの夢。
だが、そこに写っていた一方通行と呼ばれる彼の心は真実だ。
彼の心がその結果として具体的にどのように狂ったのか、そしてそれが今後の行動にどのような影響を与えるかはまだわからない。
一つ言えるのは、今の彼は殺意に満ち溢れているということだ。
彼の目的は打ち止めの救出、そして自分を拉致拘束した帝愛の打倒だ。
しかしそのために合理的な判断ができるのか。それもいまだ不明。
彼はかつて、自分がどんなにクソッタレでもそれで誰かが死んでいい理由にはならない、と言った。
だが今の彼ならばこう言うのだろう。
「どいつもこいつもよォォ!! ウゼェ奴や邪魔クセェ奴がいたら、殺さなくていい理由なんてねェよなァ!!
――ヒャッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
【E-7/学校/一日目/夜】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、缶コーヒー×12、ランダム支給品×1(確認済み)、パチンコ玉@現実×多量、缶コーヒー各種@現実×多数
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
0:どいつもこいつもブチ殺す。上条当麻は絶対にブチ殺す。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)
2:このゲームをぶっ壊す!
[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、
プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※
ライダーの石化能力と藤乃の念動力の制限を分析しました。
※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。
※織田信長の瘴気の影響で精神に異常が出ました。
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最終更新:2010年05月10日 07:22