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Innocent Days  ◆SDn0xX3QT2



雲に覆われつつある空は重い黒。
路地を照らす街灯の光は冷たい白。

彼女が流した血は濁った赤。
彼女の瞳で輝くのは鮮やかな朱。


夜の住宅街で、彼女は独りだった。


今なお続いている戦闘によって生じた音は、彼女のいる場所までしっかりと届いている。
そして、この住宅街の一角にはもうひとつ、音がある。
爆発音ではない。建物が壊れる音でもない――


 「日本人は殺さなきゃ」


――声、という音が。


 「日本人は殺さなきゃ」


繰り返す。
足元がおぼつかず、なかなか前へと進めない自分を叱咤するように。

天の鎖で貫かれた肩の傷は、命に関わるような深手ではないものの、その失血は彼女から容赦なく体力を奪っていた。
加えて彼女は『お姫様』だ。
怪我への耐性は皆無。夜道の一人歩きも経験が無い。
この状況で路地を歩くことなど、普段の彼女ならば絶対にしなかっただろう。
しかし彼女は今、歩き続けていた。


 「日本人は殺さなきゃ」


時折よろめきながら、それでもひたすらに足を動かす。
だが、体力は限界に近い。
街灯の真下で、膝から崩れ落ちるように転んでしまう。
そのはずみで手からデイパックが離れ、口がきちんと閉められていなかったのか中身の一部が道に散乱する。

この島に来た時に着ていたドレス。
脇差。
ブルマ。
キーボード。
ピザに特上寿司。
参加者名簿。
シャトー・シュヴァル・ブランのボトルは鈍い音をたてて割れ、紅い液体がコンクリートに染みを作る。

自分が転んだということさえ把握できていない様子でしばらくその場に座り込んでいた彼女は、
四つん這いの状態でのろのろと手を伸ばし、名簿を自分の方へと引き寄せた。

名簿には、三種類の印が付けられている。

青い印は、この島にいる大切な人。
黒い印は、この島で死んでしまった人。
ヴァンに訊かれた時にはわからなかった赤い印の意味も、今ならばわかる。

 「まだ、こんなに……」


赤い印が付いていて、それでいて黒い印は付いていない名前を、ゆっくりと指で辿る。
まだ生きている日本人の名前を、殺さなければならない相手の名前を、ひとつずつ確かめる。


 「……殺さなきゃ」


そう呟いた彼女の指が、ある一点で止まった。
白く細い指の先にある名は、『枢木スザク』。


 「私はスザクを……殺す、の……?」


日本人は殺さなきゃと繰り返し続けていた口から漏れたのは、自分自身への問いかけ。
彼女には今、ルルーシュにかけられたギアスが作用している。
だが、思考の全てがギアスに支配されているわけではない。


 「……ダメ……殺すなんて、そんなの…絶対にダメ……
  スザクは、日本人だから……殺さないと………違う、こんなこと、考えちゃ…いけない……」


自分を抱きしめるようにして蹲る。
左目に朱い鳥の紋章を浮かべたルルーシュに、日本人を殺せとギアスをかけられた、あの時と同じように。

日本人は殺さなければならない――これは本来、彼女の中には存在しない考えだ。
しかし彼女に、外部からの力でそう思わされている、という感覚は無い。

日本人は殺す。人を殺したくなんてない。
どちらも己の意思。
人を殺したくないと思う彼女が抗う相手は、超常の力ではなく、自分自身。


 「殺すなんて……ダメ……誰かが死ぬなんて…そんなの……私はっ………!」


誰も死んでほしくない。悲しんでほしくない。大切な人たちの笑顔を守りたい――

――そう思う彼女は知らない。
自分が既に殺人者となっていることを。
己の手が赤く汚れ、己の瞳が朱く穢れていることを。

知らないからこそ、願う。願える。どこまでも純粋に、願おうとする。

 「……スザク」


彼女が呼ぶのは、南方を守護する神獣である朱い鳥と同じ名を持つ青年。
彼女のいない未来で、白き死神と呼ばれ、黒の仮面を被り続けることを誓った、彼女の騎士。


 「スザク…… スザク…… スザク!」


大好きになりますと約束した。

同じ未来を夢見た。
共に歩けると思った。

家族以外で唯一『ユフィ』と呼んでくれた、とてもとても大切で、すごくすごく大好きな人。

その名を彼女は呼び続ける。


 「スザクに……会いたい………」


言葉に込められた、その想いは、儚い。

瞳から朱い光が消えれば、それと同時に彼女はスザクに会いたいと願ったことを忘れてしまう。
ギアスが発動していない時にスザクに会いたいと願えば、その想いが彼女の瞳に朱い光を灯してしまう。

バトルロワイアルが始まったばかりの頃は、こんなことはなかった。
スザクに会いたいと思っても、彼女にかけられたギアスはそれだけでは発動しなかった。
だが、今は違う。
理由はわからない。
主催が用意した制限。結界の崩壊。量子化によるワープ――考えられる理由は幾つかあるが、定かではない。

確かのは、今の彼女には、スザクに会いたいと願うこともままならないということ。
その存在を心の支えにすることは叶わないということ。

彼女の中には、枢木スザクのことを想ったという事実さえ、残らない。


 「……スザクに会って、私は…スザクを…殺さ、なきゃ……………違う!!」


彼女は手を伸ばす。
金の目釘と常磐色の組糸による柄巻、漆黒の鞘。落としたままだった脇差を拾いあげる。


 「殺したく、ない…………
  スザクを……日本人を、殺してしまうくらいなら………それならば私は……私が…………」


右手で柄を握り、左手で鞘を抜き取る。
鞘を置き、左手を右手に添える。

脂で曇った刃は刃毀れが激しい。
それでも街灯の光を反射して微かに煌めく刃を、彼女は自分の心臓へと向けた。




そこで、彼女の動きが止まる。



 「……私……私は…………」


脇差を持つ手が震える。
声が掠れる。
瞳を縁取る、朱が輝く。


蝕まれる。

穢される。


侵されて、犯される。



赤く、朱く、塗り潰される。





 「私は……………日本人を、殺さなきゃ」





――――彼女の抵抗は、終わった。

願いは歪められ、想いの全ては消えていく――それさえも、瞳が朱く光る、この瞬間だけのことかもしれないが。





彼女には、何も、残らない。






 「日本人を殺さ――」


もう一度繰り返した言葉は、爆発音に掻き消された。
それは、ヒイロ・ユイがその命の最期に生んだ音。

彼女は慌てて名簿をデイパックへ入れ、鞘に戻した脇差と一緒に抱えて歩き出す。
本当は走りたいが、それだけの体力はもはや無い。
重い身体を、必死に前へと動かす。


しばらく進んだ先で、彼女の視界は唐突に開けた。

目の前に広がるのは一面の水。
その先に島が見える。

いつの間にか戦闘の音が聞こえなくなっていることに、彼女はようやく気づく。
辺りを見回し人影が無いことを確認して、僅かに周囲への警戒を緩めると、彼女は抱えていたデイパックからデバイスを取り出した。
表示されている文字は【E-5】。
もう何度も見た地図を頭の中に思い浮かべ、正面に見える島が宇宙開発局であると判断する。


 「タワーに行けば、あのゼロが偽者だってみんなに伝えられるかしら?
  ああ、でもその前に、怪我の治療をしなくっちゃ。それに少し休まないと。
  日本人はたくさんいるから、皆殺しにするには体力がいるもの」


まるで休日の予定を話しているかのように、楽しそうに言葉を紡ぐ。


 「ふふふ。いいこと思いついちゃった。
  タワーに放送や通信の機材があれば、それを使って日本人のみなさんに一ヶ所に集まってもらえばいいんだわ。
  あ、でもそれだと、今持ってる以外の武器が必要ね。お金、足りるかしら」


日本人を殺す為の計画とその準備。
彼女はそれを笑顔で奏でる。


その姿はまさしく、虐殺皇女。



枢木スザクが『呪い』と呼んだ力によって
自分が何を奪われ、何を失くしたのかを未だ知らない彼女は、名を、ユーフェミア・リ・ブリタニアという。







【E-5/川の東側・宇宙開発局が見える海沿いの道/一日目/夜中】

【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:全身打身、肩口に刺傷(中)、疲労(大)、ギアス発動中
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品×4、アゾット剣@Fate/stay night、ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、
 特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、ピザ×8@現実、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
 ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、レイのレシーバー@ガン×ソード、
 即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)、シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする。
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する。
 1:この島にいる日本人は皆殺し
 2:安全な場所で怪我の手当てをする。
 3:体力の回復、武器の調達を行い、日本人を皆殺しにする為の準備を整える。
 4:タワーへ向かう。放送、もしくは通信の機材があれば偽ゼロの情報を伝え、同時に日本人を一ヶ所に集める。
 5:スザクに会ったら……
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
 会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間は不明。
 ロワ開始時点やアーニャと行動を共にしていた時とは、ギアスの発動条件や効果等に変化が起こっています。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ギアス発動時の記憶の欠落を認識しました。発動時の記憶、ギアスそのものには気付いていません。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。


 ユーフェミアのドレス@コードギアス、神原のブルマ@化物語、紬のキーボード@けいおん!、
 特上寿司×3@現実、ピザ×2@現実、ボトルが割れて中身が零れたシャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×1@現実 が
 E-5住宅街の一角に散乱しています。


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243:開け、細き一条の血路(後編) ユーフェミア・リ・ブリタニア 261:砕けた幻想/上条当麻の後悔


最終更新:2010年05月26日 00:28