砕けた幻想/上条当麻の後悔 ◆IVe4KztJwQ
日本人を殺す。
彼女はかつて人々の平和を願い、神聖ブリタニア帝国エリア11副総督として、
日本人とブリタニア人の間に平等の世界を築くという理想を掲げて必死に奮闘していた。
しかし理想の世界が実現するほんのわずかな手前でその惨劇が起きてしまう。
引き金となったものはギアス。人の意思を捻じ曲げる悪魔の力。
日本人を殺す。
ユーフェミアの意識をここまで繋ぎとめていた
ゼクス・マーキスは既にいなく、
彼女の意思は悪魔の力よって完全に支配されていた。
そして、より多くの日本人を殺すために、海岸線より南に見えるタワーを目指して
彼女が歩こうとしていた矢先に、
ヒイロ・ユイの自爆音とは異なる乾いた音が、
そう遠くはない距離から一発の銃声がユーフェミアの元に響き渡った。
音のした方角を振り返るユーフェミア、その脳裏に浮かんだものは二つの顔。
それは。
血飛沫を上げ無様に死んでいった男、
伊藤開司。
驚愕の表情を浮かべて崩れ落ちた女、
白井黒子。
幾多の日本人の命を奪った。撃った。殺した。虐殺した。でもまだ足りない。
引き金を引く感触を思い出したユーフェミアが
参加者名簿上の赤いマークをなぞり、
日本人の名前を眺めて蕩けたような恍惚の表情を見せる。
「うふふ、今の音は何かしら?もし、近くに日本人がいるとしたら殺さないといけませんわよね」
ほんの少し歩いた所で周囲に漂う血の臭いと大量の血痕を見つけたユーフェミアが嬉しそうにはしゃぎ、
ゆっくりと地面へ屈み込んだユーフェミアが目の前に広がる血溜りの中に人差し指をそっと沈めてみせる。
とたん指先に絡みついてくる特有の感触、ほんの少し粘り気のあるソレは紛れもなく此処で人の命が散った証だった。
ユーフェミアが赤く濡れた指をその舌でちろりと舐める。
「ふふっ、まだ温かい……」
彼女の喉がごくりと鳴って、その唇が半月に歪み、そこには妖艶な笑みが浮かんでいた。
そして、少し離れた位置にある先程より小さく赤黒い血溜りからは、
住宅街の合間へと続いている微かな血の痕が見てとれた。
「そちらへ行けば日本人に会えるのかしら?」
ギアスによって自らの意思を完全に支配されたユーフェミアが、血痕の続く先へと再び歩きだした。
■
E-5エリア、住宅街の合間を吹き抜ける風、大通りよりわずかに外れた空き地、
その場所には口論を繰り広げる
枢木スザクと
上条当麻の姿があった。
まずはE-6エリアで
アーチャーの元を飛び出した上条が信長と戦ったこと、ア-チャーが死んだこと、
その後、
御坂美琴の遺体を取りに来た民家の中で、サーシェスに騙された上条らとスザクが戦闘になったこと、
上条とレイが口論になり、結果として彼が自殺したこと、ひいては彼らが口論になった理由のことを話す。
全てを確認し終えた四人はE-5エリアに広がる住宅街の中を、
まるで人目を避けるように、薄暗い路地裏の道を選びながら西へと歩いていた。
天上の月は暗雲で陰り、眼下を歩く彼らの足どりはとても重たい。
そして、口論の原因となったレイの遺体はスザクが、御坂美琴の遺体は上条が、
今はそれぞれのデイパックに入れてて持ち運んでいたのだが、
実は遺体の扱いについてもひと悶着があった。
上条が御坂の遺体をデイパックに入れることへと猛反発をしたからだ。
「冗談じゃねぇぞ。たとえ死んじまったとしてもこいつは物じゃねぇ。
御坂美琴っていう名前をした一人の人間なんだよッ!!」
レイの遺体をなんの躊躇もなくデイパックに入れたスザクとは違い、
遺体の扱い方に対して上条は怒りを露にして声を荒げていた。
そんな状態の上条をなだめようと、御坂の遺体を見つめたひたぎが話しかける。
「上条君が御坂さんを物のように扱いたくない、
その気持ちはわからないでもないけれど、
あまり女の子の痴態を周囲に晒し続けるのは感心しないわね」
上条が背負う御坂の遺体はレイの銃撃によって頭部が打ち砕かれて、
その隙間からは赤黒い血が流れ、脳漿らしきものが見え隠れしており、
ひたぎが言う通りに、無残な様子を周囲に晒していた。
「そうだな……そっちの方が確かに御坂に悪いよな…。
すまない御坂、元の世界に帰るまでほんの少しだけ我慢してくれないか」
戦場ヶ原に礼を言いながら上条は御坂の遺体をデイパックに入れる。
そんな二人のやりとりを冷ややかな視線で眺めている者が居た。
スザクだった。スザクは上条からそっと目線を外し、相変わらず偽善者ぶりを
遺憾なく発揮するその様子に不信感と不快感を募らせていく。
「平気か?スザク」
いつの間にか厳しい顔を漏らしていたのだろう。
スザクの顔を真横から覗き込みながらC.C.が声をかける。
「ああ、僕は大丈夫だ。それよりも、君達をビルに残したままにしていたのはすまなかった」
「仕方なかろう。どうしてそうなったのか、おおよその理由は聞いたからな。
まあ、あの坊やとお前では水と油、わたしと戦場ヶ原とは真逆な意味でも
相容れないだろうからな、坊やの毒は強すぎるのさ」
「毒か…、それは彼のアレの事かい?」
C.C.が言った『毒』という言葉を聞いて、スザクが真っ先に思い浮かべたものは、
上条がスザクとぶつかるたびに何度も口にした、あの決め台詞だった。
『その幻想をぶち殺すっ!!』
幾度となく他人の幻想を打ち砕いてきた上条の言葉を英霊アーチャーは毒と称した。
自らを世界を侵す毒と言われた事で激しく反発をする上条当麻。
ほんの半日前だろうか、まだアーチャーが健在だった頃の様子を思い出してC.C.が語る。
「まあ…、それがあの坊やの強みなのだろうが、ああいった類の偽善は、
お前やルルーシュがもっとも嫌う性質のものだろうからな」
「しかしC.C.、僕にはアレが偽善だとさえ思えないんだ」
レイ・ラングレンの死、その最後の心の叫びを聞きながら、レイの全てを否定した上条当麻、
上条当麻がレイ・ラングレンを理解しなかったように、枢木スザクは上条当麻を理解できない。
──いや、許せなかった。
■
どれほど歩いたのだろうか、此処まで移動する前に北の方角から聞こえてきた爆発音も既に止んで久しい。
ある程度は身の安全を確認した四人の足元には、再び静寂が訪れていた。
ほどなくしてその沈黙を破り、スザクがおもむろに口をひらく。
「上条当麻、改めて話がある。違うな、君に確認したい事がある」
「ああ?言っとくが、さっきみたいなあんたの説教なら俺はご免だからな」
合流前のやりとりを思い出した上条がスザクの言葉に思わず身構える。
その様子を見たスザクは、あくまで冷静な口調をとりながら言葉を続けていく。
「君が御坂さんの復讐したいと思わないのも、殺人者を殺さないというのも僕には別に構わない」
「一体、何が言いたいってんだ!?」
「それでも、もしも僕たちがサーシェスのような相手にこの先で遭遇した場合、
僕はその相手を全力で排除しようとします。つまり相手を殺す、ということです」
「なっ…てめぇ…っ!!まだそんな事を言いやがるのかっ!!」
「まずは僕の話を最後まで聞いてください」
先程と違ってこの場にC.C.とひたぎがいる事により、自身にブレーキをかけているのだろう。
吼える上条に対してスザクは冷静な態度を崩さない。
「僕らが移動を開始する前に聞こえてきた戦闘音は、位置から推測しても多分あの信長だと思う」
信長という単語に反応した三人が、それぞれの思考の末に静かに喉を鳴らした。
「神原さんとアーチャーさんの命を奪った戦国武将、
織田信長。
その事実を差し引いたとしても、信長は間違いなく危険な敵だと僕は思う。
たとえ話になってしまうけれど、再び僕らが信長と戦う事になったと仮定しよう。
いや、僕らが生き残る為にはその可能性は高いかもしれない」
よりいっそう神妙な顔つきをしたスザクが一呼吸の間を置く。
「上条当麻、信長はとても説得が通じるとは思えない規格外の存在だ。
あれほどの危険な相手を前にしたとして、サーシェスの時と同様に、
君は相手を死なせず殴るだけで済ます、信長を殺さずに済む方法があると言えるのか?」
そんな事は不可能だと、スザクが心中で告げている事が言葉の節々から伝わってくる。
スザクの言葉を理解した上条の顔が見る間に怒りで染まっていった。
「てめぇっ…!!神原が死んだ…アーチャーが死んだっ…!!
そりゃぁ俺だって悔しいし悲しいさ、でも、だからってなぁ!!
相手を憎んで復讐して、そんな事を繰り返して、
一体その先に何があるってんだ!!
なあ、戦場ヶ原、C.C.、お前らだってそう思うだろ!?」
拳を握り締めて両手を振り上げながら上条が叫ぶ。
「ふん、どちらが正しいかなど、わたしは知らないし興味もないさ」
C.C.は答えない。上条当麻はアーチャーの為にC.C.が涙を流した事を知らない。
その胸の内を知らない。しかし、ひたぎの前でひとしずくの涙を流した時のように、
C.C.が自ら他人にそれらを語ることはもうないのだろう。
「私が神原を殺した信長を許すと思うのかしら?
上条君のそういった所は嫌いではないけれど。
そうね、もしも私の最愛の阿良々木君が誰かに殺されたとしたら、
私はどんな手段を使ったとしても、その相手を必ず殺すわよ」
ひたぎが答える。それは
阿良々木暦との一方的な約束にすぎない。
それでも、だとしても、ひたぎを殺人者にしない為に、
阿良々木暦は何があっても絶対に生き延びようとするだろう。
それがひたぎの愛を受け止めた阿良々木暦の選択なのだから。
それが二年もの地獄からひたぎを救い出してくれた暦への愛の約束だった。
C.C.とひたぎの本心は決して、おいそれと他人に語るものではないのだろう。
ぶっきらぼうに、不器用に、二人が思い思いの言葉を口にした。
しかし、ひたぎの言葉を聞いた上条が彼女に対して怒りの声をあげる。
「戦場ヶ原…お前まで何言ってんだよ!!
違うだろ…そうじゃねぇだろ…ッ!?」
「ごめんなさい、私は別に上条君の想いを否定はしない。
けれど私の阿良々木君への想いも誰にも否定なんてさせないわ」
両手を振りあげ必死に叫ぶ上条の姿、できることならその肩を持ってあげたいと思う。
それでも最愛の人に誓った自分の本心に、たとえ表面上の言葉だったとしても、
ひたぎという女は決して嘘の言葉を吐く事が出来なかった。
■
上条当麻はただ許せなかった。
基本的な身体能力や学校の成績はあくまで普通の高校生であり、
奇跡の右腕以外には、なんの特別な力を持たない少年。
しかし彼は今一人ではなかった。自分よりも遥かに強いだろうスザク、
ここまで行動を共にしてきたひたぎとC.C.の三人が一緒だった。
主催に反抗する意思を持った人間がこうして四人も集まっているというのに、
なぜ誰も彼もが殺し合いを否定する事を、殺し合わないという事を、
こうも簡単に諦めてしまうのか。
上条当麻はただそれが許せなかった。
「そうかよ…、戦場ヶ原…ッ、…お前までそんな事を言うのかよ!
俺は殺し合いなんて絶対に認めねえ、今までだってそうしてきた。
だからッ、スザク、戦場ヶ原、お前らがどうしてもその考えを
捨てれねぇって言うんなら、俺は何度だって言ってやるッ!!」
上条の言葉(毒)を遮る者(レイ)はもう居なかった、彼は死んだのだから。
「────俺がそのふざけた幻想をぶち壊すっ……ッ!!」
啖呵を切った上条がその右腕を真っ直ぐに突き出した。
その瞳にはひとかけらの曇りもなく、それは見るものによっては偽善であり、
偽善というよりは、とても狭い正義に違いなかった。
しかし上条の迷いのないその言葉は、スザクに深い失望を与えるだけだった。
レイ・ラングレンは己の命を賭してまで、他人の幻想(ユメ)を打ち砕くという行為の罪深さを伝えようとした。
その想いは上条当麻に何一つとして届かずに、あっさりと踏みにじられて地へと投げ捨てられたからだ。
スザクの胸で一度は抑えた上条への悪感情が再燃、静かに爆発する。
一瞬の沈黙を置いて冷たい眼をしたスザクが言った。
「そうか。それならば君とはここまでだ」
■
言葉が終わると同時に、スザクは素早くベレッタを引き抜くと、その銃口をピタリと上条へ向ける。
「てめぇッ!!」
「「スザク!!」」
その光景にスザク以外の三人が同時に叫ぶ。
「C.C.、それに戦場ヶ原さん、僕の話を聞いてください。上条当麻、君もだ」
「てめぇ、枢木スザクッ!!人に銃を突きつけながらなに言ってやがるんだっ!」
あくまで冷静な装いを崩さないスザクに上条が勢いよく噛み付いていく。
「君と一緒に行動していたら、僕はC.C.や戦場ヶ原さんを守れない。
いいや、正確に言うならば君の存在が彼女らを守る為に邪魔になる。
そう言ったほうが正しいな、ここまでの経緯を聞いてそう確信したよ」
「何を…勝手に決めてんじゃねえぞ、枢木スザク!!
戦場ヶ原の事も、あいつの恋人も、俺が守ってやるって約束したんだッ!!」
「偽善者の御託はもういらない。これ以上君と話していても堂々巡りを繰り返すだけだ。
君が現実を見ずに、そうやって理想を並べ立てている間に、一体何人の人間が死んだと思っているんだ。
君の身勝手な理想に付き合っていたら」
スザクの視線が殊更強く上条を射抜く。
「いずれ、僕たちは全滅する」
「……んなッ!!」
スザクが発した思いもよらぬ言葉に上条は絶句する。
「だから、君とはここまでだ」
言葉を終えたスザクは踵を返して背中を見せる。その後姿に上条が吼えた。
「理想を掲げて…、何が悪いッ!!」
スザクが立ち止まった。微かな溜息が聞こえてきたのは気のせいではないだろう。
「君が元いた世界は、よほど君にとって優しい世界だったんだろうな。
でもここは違う。君の理想は誰にも届かないし響かない。だからレイさんは、自ら死を選んだんだ」
「なんでだよッ!!なんでッ、誰もが幸せになれる未来を、ハッピーエンドを諦めちまうんだよ!!」
「じゃあ君は、最後まで命をかけて戦場ヶ原さんを守った神原さんの事を否定するのか?」
「誰もそんな事は言ってねえ!!それでも、あの時だって他に何かやりようがあったかもしれないだろッ!!」
「そうやって人の言葉を頭ごなしに否定して、耳を貸さなかった事で戦局を混乱させた、
その結果、君がサーシェスを死地に追いやった事をもう忘れたのか?」
「…あれは、あの状況でどっちが敵か味方かなんてわからねえよッ!!」
「それだけじゃない、なぜ僕が全滅すると言ったのか、C.C.に聞いて解ったんだ。
君はアーチャーさん対して俺一人の力が足りないのならお前の力を貸せ、そう言ったそうだな」
「ああ、確かに言ったさ。俺だけの力が足りないってんならC.C.や戦場ヶ原だっている。
あんただって俺より強い力を持っているんじゃねえかッ!!」
「その僕らを遥かに超えた力を持ったアーチャーさんは死んだ。それは何故だ?」
「それは、アーチャーは信長の奴にッ…」
スザクがちらりと後ろを振り返り、上条の姿を捉えて言った。
「それが違う。上条当麻、君がアーチャーさんを殺したんだ」
「なっ…、なにを言ってやがるッ!?」
「信長を振り切った僕らとアーチャーさんは合流した後ですぐに象の像へと向かう予定だっだ。
それなのに黙って勝手に飛び出した君を助けるために、アーチャーさんは信長と戦って死んだ。
ひいては君の行動の結果が、僕らが未だにE-5エリアに留まる事になった原因を作っている。
それが戦場ヶ原さんの恋人との合流の可能性を遅らせているのかもしれない。
他人の考えを全て否定する自分勝手な君は、そんな事を考えたことさえないんだろうな」
声の温度を下げながら、スザクが上条の全てを否定する。
「んなッ…」
「アーチャーさんを殺したのは君だ」
その言葉に愕然とした上条が崩れ落ちるように地に膝を付ける。
思い出したのは信長を倒すと言ったアーチャーの最後の背中だった。
「そんな訳があるかよ……アーチャーが死んだのが……俺のせいだってのかよ!!」
もう一度だけスザクは上条を真正面から見つめると、これが最後だと言わんばかりの決定的な決別の言葉を発した。
「訂正しよう、君の言葉は偽善者ですらない。ソレは悪意の扇動者が口にする言葉だ」
■
「いい加減にしないかお前たち、一体いつまで言い合っているつもりなんだ」
終わらない二人のやりとりに業を煮やしたC.C.が彼らの間に割って入る。
「…すまないC.C.、だけど僕は彼とは一緒に行動できない」
スザクが自らの判断をハッキリとC.C.に告げる。
「わたしは別段それでも構わないさ。
元々その坊やとわたしは何の関係もないからな。
しかし戦場ヶ原、お前はどうなんだ?」
C.C.に言葉を投げかけられたひたぎ、彼女は無言のまま地に伏せている上条の元へと移動する。
「立ちなさい上条君」
そう声をかけたひたぎはゆっくりと身を屈ませて、上条の顔と同じ高さまで自分の頭を下げる。
上条の眼はまるで泥のように暗く濁っていた。それを見たひたぎが彼女にしてはとても珍しく、優しい声で彼へと右手を差し出した。
「あなたも私たちと一緒に来るのよ。上条君は私の事を守ってくれるのでしょう?」
「くッ………うるせェ………うるせぇよ…ッ。
戦場ヶ原ッ…お前だってスザクと同じ考えなんだろッ!?
だったら、俺の事は放っといてアイツらと何処へなりとも行っちまぇばいいじゃねェか!!」
ひたぎの右手を邪険に振り払た上条が、何かに堪えるように唇を噛み締めながら地を殴る。
「クソッたれがッ…一体…俺にどうしろってんだよ!!」
「……上条君」
上条に振り払われたひたぎの掌が微かに赤く腫れていた。
拒絶された右手を擦り、ひたぎがほんの一瞬だけ辛そうな表情をする。
しかし、必死に地面へと拳を振りかぶっていた上条はソレに気が付かない。
「まったく見ていられないな、この我侭坊やの事はもう放っておけ。
阿良々木暦を探すのだろう、行くぞ戦場ヶ原」
ふぅと短く溜息をついたC.C.がひたぎの元へ駆け寄り、赤く腫れていない左手をぐいっと掴む。
ひたぎは右手と左手を、上条とC.C.を見て逡巡する。その瞳が悲しみを秘めていた。
「たとえお前の無茶な行動でアーチャーが死んだとしても
わたしは決してお前を責めたりはしないさ。
だけどな、女に手を上げて当たり散らすような男には正直失望したよ」
「………ッ!!」
「それに、どうやらお前の右手は幻想を砕くのではなく、女の右手を叩く為にあったようだしな」
容赦なく侮蔑の言葉を投げかけるC.C.。
上条は苦虫を噛み潰した表情で押し黙る事しかできずにいた。
そんな様子の上条に、C.C.に手をひかれながらも感情を押し殺した声でひたぎが言う。
「上条君、ほんの少し先に行っているけれど、あなたも必ず後から追い駆けてくるのよ」
ひたぎの声を聞いても上条は動かない。
「そこで腐っているのはお前の自由だろうさ。それでも今の戦場ヶ原の言葉を決して忘れるな」
C.C.の言葉を最後に、スザクの元へと駆け寄った二人は西へと向かって共に歩きだした。
自らの偽善を打ち砕かれた上条当麻の眼には、もはや彼らの後姿さえ入ってはいなかった。
■
「戦場ヶ原さん、ここまで彼と行動を共にしてきたあなたには申し訳なく思います。
それに彼に対して神原さんの事をあげてしまったのもすみませんでした」
神原が死んだのは元を辿ればスザクらの力が足りなかったからだと、
その想いを込めて、スザクは後ろを歩くひたぎに再度頭を下げる。
「いいのよ、きっとあの子も、満足して死んでいったはずだから。
いいえ、これはきっと、生きている者が自分を慰める為の言い訳ね」
どこか哀しげな色を浮かべたひたぎの瞳が揺れる。
「坊やの事は本当にあれでよかったのか?」
「上条君自身が私を拒んだのだから、仕方がないでしょう」
「…そうか」
「ええ、今は早く阿良々木君を探しましょう」
気持ちを切り替えたかのように質問に答えたひたぎが殊更明るく振る舞った。
C.C.はひたぎのその姿に多少の違和感を感じながらも、ソレに気付かぬ振りをした。
「しかしスザク。お前はあの時に本当は坊やを撃つ気がなかったようだが。
もしもそのまま、坊やと一緒に行動することになっていたら。その時は一体どうしていたんだ?」
「それは僕にも正直わからない。本当に撃つ事になっていたのか。それとも」
これでよかったのだ、自らの判断は決して間違っていない。
そう思いながらも、別れた際の上条当麻を思い出したスザクはほんの少しだけ顔を歪めてしまう。
「今はともかく西へ向かいましょう。象の像への集合時間にはだいぶ遅れてしまったけれど、
この方角に進めば誰かしらとは合流できるでしょうから」
上条当麻をE-5に残した三人はD-5エリアに差し掛かかる。
この別れは果たして双方にどういった結果をもたらすのか。
待ち受けるは新たな出会いか再会なのか。
夜空に浮かぶ月にはいまだに暗雲が立ち込めていた。
【D-5 南西/一日目/真夜中】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、左腕骨折(処置済み)、脇腹に銃創、「生きろ」ギアス継続中
[服装]:ナイトオブゼロの服(マント無し)
[装備]:ベレッタM1
934(5/8)、GN拳銃(エネルギー残量:中) 、鉈@現実
[道具]:基本支給品一式×2、デイパック(サーシェスの死体入り)、ノートパソコン@現地調達、オレンジハロ@機動戦士ガンダムOO、9mmショート弾(14発)
救急救命セット@現実、柳刃包丁@現実、工具一式@現実、雑誌@現実×多数、
真田幸村の首輪、 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
タバコとライター@現実、ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、ドラグノフ@現実(10/10)、
GN首輪探知機@オリジナル、平バール@現実、麻雀牌@咲×31個、ユンケルスター@現実×8、パチンコ玉@現実×大量、
コンビニの商品多数(内容は後の書き手さんにお任せします)
[思考]
基本:この『ゲーム』を破壊し、ゼロレクイエムを完遂する。
0:ルルーシュと合流する。
1:ひとまず象の像か西にいるであろう対主催と合流する。
2:首輪を外せる技術者を探したい。
3:ルルーシュに危険が及ぶ可能性のある要素は排除する。
4:
明智光秀、織田信長、平沢憂、
バーサーカー、
ライダー、黒服の女(藤乃)に用心する。
5:確実に生きて帰る為の方法を探す。
6:上条当麻に強い不信感。
[備考]
※ラウンズ撃破以降~最終決戦前の時期から参戦。
※主催が不思議な力を持っていることは認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※もしかしたら『敵のアジト』が『黒の騎士団のアジト』ではないかと少し疑っています。
※三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランを政宗と神原から聞きました。
※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。また、ビデオメールの送信元と受信時間を確認しました。
※政宗、神原、レイ、アーチャー、
一方通行と情報を交換しました。
※飛行船についての仮説、ライダーの石化能力と藤乃の念動力についての分析を一方通行から聞きました。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】
[状態]:ポニーテール、戦う覚悟完了
[服装]:直江津高校女子制服
[装備]:文房具一式を隠し持っている、ヘアゴム
スフィンクス@とある魔術の禁書目録、あずにゃん2号@けいおん!
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(1~3、確認済)、バールのようなもの@現地調達
[思考]
基本:阿良々木暦と合流。二人で無事に生還する。主催者の甘言は信用しない。
0:スザク、C.C.らと象の像を目指しながら阿良々木暦を探す。
1:ギャンブル船にはとりあえず行かない。未確認の近くにある施設から回ることにする。
2:正直、C.C.とは相性が悪いと思う。
3:…上条君。
[備考]
※登場時期はアニメ12話の後。
※安藤から帝愛の情報を聞き、完全に主催者の事を信用しない事にしました。
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、腹部に刺傷(応急手当済み、ほぼ治癒済み)、戦う覚悟完了
[服装]:血まみれの拘束服
[装備]:アーサー@コードギアス 反逆のルルーシュR2、赤ハロ@機動戦記ガンダム00
[道具]:基本支給品一式 阿良々木暦のマジックテープ式の財布(小銭残り34枚)@化物語
ピザ(残り54枚)@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:ルルーシュと共に、この世界から脱出。
不老不死のコードを譲渡することで自身の存在を永遠に終わらせる――?
0:スザク、ひたぎと西へ向かう。
1:戦場ヶ原ひたぎと行動を共にし、彼女の背中を守ってやる。
2:スザクに放送の内容と特に織田信長の生存を伝える。
3:いずれルルーシュとは合流する。利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない
4:阿良々木暦に興味。会ったらひたぎの暴力や暴言を責める。
5:正直、ひたぎとは相性が悪いと思う。
[備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『
過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。
※赤ハロとオレンジハロ間で通信が出来るようになりました。
通信とは言えハロを通しているため、声色などはハロそのものにしかなりません。
◆◇◆◇◆◇◆
「ちくしょう……わかんねえよ……!!」
薄暗い路地裏にたった一人取り残された上条当麻。
否、戦場ヶ原ひたぎの差し伸べた手を、自ら振り払った彼は未だ地に伏せていた。
何が間違いで何が正しいのか。どれだけ考えても答えは出ない。
違う、そうじゃない。自分が間違っているなんて、一度たりとも考えた事がない。
スザクの言った通りだった。上条は一体何を根拠にして、あれほど強気で傲慢な言葉を繰り返してきたのだろう。
『君が元いた世界は、よほど君にとって優しい世界だったんだろうな』
今までが上手く行き過ぎていたという事なのか。不幸の裏返し、偶然という名の幸運の数々。
『君の理想は誰にも響かない』
スザクの幻が叫ぶ。生きている者、死んでいる者、上条の中で多くの言葉が呪いのように浮かんでは消えていった。
『お前の言葉は、毒だ。確かに一見すると正しいだがそれは単なる理想でしかない』
『誰かの幻想(ユメ)を殺すということの罪深さを、お前はまったく理解していない』
『誰かの気持ちを理解しようとすることを、なぜ諦められるんだ』
『君は相手の事なんか最初から考えちゃいない』
『だが、その甘さに潜む毒は、いずれその全てを屍に変える事になる』
『上条当麻、君がアーチャーさんを殺したんだ』
お前は偽善者だ。事実その通りなのだろう。
これまでも幾度となく数え切れない人間にそう罵られてきた。
自らの偽善を自覚しながら上条当麻は変わらない。
それは過去の記憶、禁書目録との出会いでその一切を失くした自分。
たとえ誰になんと言われようとも、上条当麻は己の内から沸いてくる
たった一つの感情を決して変える事など出来ないからだ。
その上条当麻をして、有無を言わせぬ説得力を持った背中を思い出す。
「アーチャー…あんたは…この偽善の先に何があるのかを知っていたのか?」
上条の呟きが、誰もいない路地裏に空しく吸い込まれていった。死者は何も語らない。
「殺し合いなんて…そのふざけた幻想をぶち壊す…。
そう言って俺は誰かを救えたのかよ…、誰も救えてないじゃねえか…」
地面を殴り過ぎたのだろう。いつの間にか右拳の皮が擦り剥けて赤い血が流れていた。
『君の言葉は偽善者ですらない。ソレは悪意の扇動者が口にする言葉だ』
再度スザクの幻が叫ぶ。幻をかき消そうと必死に前へと出した両手があっさりと空を切る。
何故か瞳からは涙が溢れてきた。
「ちくしょう…」
どれほどそうしていたのかわからない。
ほんの一瞬のような気もすれば、長い時間が経っているような気もする。
ほんのわずかな刻で答えを出そうとした、その事がすでに間違いなのかもしれない。結局なんの答えも出なかった。
だから、偽善と呼ばれた過去の自分に必死に縋り付くことでしか、上条は自分を保つことが出来なかった。
「くっ……ふざけんじゃねぇ!!お前らの言ってることが俺にはわからねぇんだよ!」
俺は絶対諦めねぇ…たった一人でだって何度でも言ってやるッ!
復讐なんて認めねえ!たとえ誰かに殺されそうになったって、相手を殺していい理由にはならねえ!!」
地に伏せていた上条は、赤くなった眼を擦りながら、己の信念を再確認しようと勢いよく立ち上がる。
ぐだぐだと考えるのは性に合わない。そう言わんばかりに思いっきり地を踏みしめた。
幻想殺しの右手を握り締め、必死に縋り付いた想いを、その言葉へと変えてゆく。
「俺が…このフザけた殺し合いなんていう……その幻想を必ずブチ壊すッ……!!」
それは嘘の決意を秘めた必死の叫びだった。
だとしても、上条当麻の声が所せましと彼の立つ路地裏を駆け抜けていく。
■
──ガシャン。
不意に響き渡る音。
音のした方向を見やる上条。
その瞳に一人の女性の姿が映る。
「おいあんた…!!」
「あの、すみません。人の声がしたものですから、どなたかいらっしゃるのかと思い」
上条の張り上げた声にびっくりしたのだろう。
路地裏から少しだけ離れた住宅街の合間からは暗闇の中にありながらも、
とても際立つ鮮やか桃色の髪とそれを包み込む可愛らしい小顔が覗いていた。
「申し送れました。わたくしはユーフェミア・リ・ブリタニアと言います」
「あっ、ああ。俺の名前は上条当麻だ」
ユーフェミアに名乗り返した上条が近づいてきた彼女を顔を見る。
その微笑がどこか人形じみた表情に見えるのは気のせいだろうか。
いや、違う。彼女は肩に深い傷を負っていた。
上条に会った事で緊張の糸が解けたようにその場で蹲るユーフェミア。
「おい、あんた!!大丈夫なのか、しっかりしろ!!」
咄嗟にユーフェミアへと駆け寄った上条が肩を掴んで体を支えてやると、
その綺麗な額にうっすらと浮かぶ汗や唇から漏れる荒い息遣いに気付く。
「すいません…わたくしは…大丈夫ですから」
その言葉と態度は半分が嘘で半分は本当だった。
『うふふ、今度日本人に会った時は確実に殺すために慎重に行動しましょう』
いかに日本人を殺すのか。ユーフェミアはここまでの道筋でその事ばかりを考えていた。
しかしその様子は一見すると怪我を負いながらも必死に痛みに耐えているようにしか見えない。
だから上条はユーフェミアの本当の思惑に気が付かない。
「大丈夫って、んな訳ないだろ。酷い傷じゃないか。
待ってろ、何処か休める場所をすぐに探してやるからな!!」
今にも地面に崩れ落ちそうなユーフェミアに上条が肩を貸して住宅街へと歩こうとした。
その時。
「ありがとうございます。ところで、上条さんに少しお聞きしたい事があるのですけれど」
「ああ、こんな時になんだッ!?」
上条はすぐ隣にあったユーフェミアの顔を覗き込み、ユーフェミアは簡単な事だと話す。
「あなたは日本人ですか?」
上条を見つめるその瞳が朱色の燐光を帯びていた。
【E-5 住宅街と路地裏の間/一日目/真夜中】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)精神的疲労(中)右拳に擦り傷、
[服装]:学校の制服
[装備]:なし、
[道具]:基本支給品一式、御坂美琴の遺体、
[思考]
基本:
インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
0:目の前の女(ユーフェミア)を今は助ける。
1:一方通行を探し出す。
2:戦場ヶ原ひたぎを追い駆ける?阿良々木暦を探す?戦場ヶ原ひたぎと3匹の猫の安全を確保する?
3:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
4:壇上の子の『家族』を助けたい。
5:俺の行動は間違っていたのか…。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:全身打身、肩口に刺傷(中)、疲労(大)、ギアス発動中
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:脇差@現実
[道具]:基本支給品×4、アゾット剣@Fate/stay night、ティーセット@けいおん!、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、
特上寿司×17@現実、空のワインボトル×4@現実、ピザ×8@現実、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×25@現実、
ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、レイのレシーバー@ガン×ソード、
即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)、シグザウアーP226の予備弾倉×3@現実
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする。
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する。
0:あなたは日本人ですか?
1:この島にいる日本人は皆殺し。
2:安全な場所で怪我の手当てをする。
3:体力の回復、武器の調達を行い、日本人を皆殺しにする為の準備を整える。
4:タワーへ向かう。放送、もしくは通信の機材があれば偽ゼロの情報を伝え、同時に日本人を一ヶ所に集める。
5:スザクに会ったら……。
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間は不明。
ロワ開始時点やアーニャと行動を共にしていた時とは、ギアスの発動条件や効果等に変化が起こっています。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ギアス発動時の記憶の欠落を認識しました。発動時の記憶、ギアスそのものには気付いていません。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。
「状況追記」
上条当麻がひたぎの元へ置いていったデイパックを今回の合流で回収しました。
中には基本支給品一式と御坂の遺体が入っています。
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最終更新:2010年07月26日 01:10