アディオス アミーゴ! ◆aCs8nMeMRg
ヒイロが、亡くなりました。
他の子たちを逃がすために戦って、つい先ほど、私の背後で散りました。
『そうか。……後は任せる』
それが彼の、私に向けた最後の言葉でした。
そして、その言葉に対して。いえ、その言葉に対してだけではなかったかも知れませんが、私はこう応えました。
「任務……了解ですよ。ヒイロ」
申し遅れました。私は
ファサリナといいます。
こんばんは。
時計を見ていませんので、正確な時刻は分かりませんが、
空はもう随分前から黒く染まって、その中で月が輝き、星が瞬いている時間帯ですので、この挨拶でよろしいですよね。
それでヒイロの事ですが、私とヒイロはこの地で出会ってからずっと一緒に行動してきました。
ずっと、と言いましても、時間にすれば丸一日にも満たない間でしたが、その間に彼と私は色々なお話をしました。
ヒイロはまだ若い少年でしたが、きっとこれまでの人生で様々な経験をされてきたのでしょうね。
私には考えが及ばなかった事柄について、アドバイスをいただいたこともありましたし、
同志の死が放送で発表された時などは、取り乱しかけた私を諫めても下さいました。
時には、先頭に立ってリードして下さったことも。
そんな時は、彼の小柄な背中がとても頼もしく見えて、私、何と言いますか、欲しくなってしまいました。
話が逸れましたね。
それで、そんなヒイロと私は話し合った末にある方針を立てました。それが。
『敵の技術を奪取し反撃する』
ということです。
この『敵』というのは、バトルロワイアルの開催者。つまり、帝愛の事ですね。
別の星や世界から参加者を拉致してくるという、魔法の様な力を持つ敵ですが、ヒイロは。
『同じ人間のやる事だ。不可能ではない』
と言い切りました。
加えて、もし優勝して大切な人を蘇生させ、帰還できたとしても、再びさらわれてしまう可能性もある。
だから、帝愛を放置してはいけない。本当に人を蘇生させる力を持っているのなら、それを奪うのだ、と。
私も同志を蘇生させ、その後の安全を確保するためにヒイロの考えに同調し、共に帝愛打倒のために戦う決意をしました。
それが、今の私の生きる意味。
ヒイロが亡くなった今も、それは変わっていません。
同志を失い、他の仲間と連絡も取る事も出来ず、ヒイロと出会わなければ、きっと私は途方に暮れるしか無かったでしょう。
ヒイロの言葉は。行動は。信念は。そんな今の私を動かす原動力となっています。
そう、ヒイロは私の中で生きているのです。
私は、このヒイロを殺させません。私は、私の中に居るヒイロを守ります。
そして、必ず帝愛の技術を奪取して見せます。
守るべき物を持つ者の命は、とても強いのですよ。
「すぅ……ふぅ……」
決意も新たにした私は、一度深く呼吸をしたのですが、やっぱりやめておけばよかったと思いました。
私が今いるデパートの屋上には、先ほどの戦闘と爆発による残骸が煙を出してあちこちに散らばっており、
火薬の少しツンとくる臭いと、金属や樹脂の焼け焦げた臭い、それからコンクリートが砕けた埃っぽい臭いが混じり合って、漂っていましたので。
それでも気持ちは落ち着きましたので、私は周囲の状況を改めて確認しました。
今が夜である事は、先ほどした挨拶の通りです。
そうした時間帯ですが、周りの街並みには電灯が灯されていますので十分に明るく、懐中電灯を使う必要も無いですし、
まして月明かりや星明かりなどに頼らずとも、周囲の状況を把握することは容易です。
戦いなどが無ければ、夜景の楽しめる良い場所だったのかもしれませんが、今のこの場所には、あまり長居をしたいとは思えません。
早々に立ち去りたいところですね。
しかし、そのためにはまず、目の前の障害を何とかしなくてはなりません。
その障害というのが。
「うぜェッ!うぜェッ!うぜェッ!!」
先ほどからそんな事を叫びながら、こちらへ向けて無数の、銀色の球体を飛ばしてきている白髪の子です。
一体どうやっているのか分からないのですが、その銀玉は猛烈なスピードで撃ち出されていて、まともに浴びたら致命傷は避けられないでしょう。
私に向かってくる銀玉は、すべてプラネイトディフェンサーの電磁場が捉えていますので、
今のところ私は無傷で済んでいますが、弾幕が凄まじくてこの場から一歩も動けないでいます。
ともかく、今は救援も望めませんし、このままあの子の攻撃を防ぎ続けて弾切れを待つくらいしか無いでしょうか。
救援といえば、私とヒイロは衛宮くんを助けるためにここまで駆けつけたのでした。
その目的は果たしましたが、代償としてヒイロが亡くなり、私はこのような危機的状況に陥ってしまっています。
こういうのを、何と言うのでしたか。ミイラ取りがミイラになるというのですか?
まさにそんな状況です。
「うぜェンだよ! 無意味に粘りやがってよォ!」
いえ、ですから弾切れを待っているのですよ。
「チッ、いいぜェ。分かった、分かった、分かりましたよ! なら、直接ぶっ殺してやンよ!」
そう言って、白髪の子は銀玉の攻撃をやめました。
まあ、本当に弾切れするよりも前に、他の手を打ってくるのは当然でしょうね。
何か他の攻撃手段へ移行するつもりなのでしょうが、せっかく銀色の弾幕がやみましたので、この機に私も反撃に出ます。
そうですね。
槍の間合いには少し遠いですので、私はあまり得意ではないのですが、ここは銃――イングラムM10を使うことにしました。
白髪の子は、まだ次の動作に入っていませんでしたので、私は今の内にと、
プラネイトディフェンサーの電磁場から飛び出し、銃口をその子に向け、引き金を引きました。
ぱららら。
一種のタイプライターのような音、という表現が適切なのですか?
そんな音と共に、数発の銃弾が白髪の子へと飛来します。
これで仕留める事が出来れば良いのですが。
!?
私は、とっさにプラネイトディフェンサーの電磁場の中へと戻りました。
私が撃ったはずの銃弾が、撥ね返って来たのです。
その銃弾は、いくつかが一瞬前まで私のいた場所を通り抜け、いくつかはプラネイトディフェンサーの電磁場に阻まれて、結局誰にも命中することはありませんでした。
いえ、命中したかどうかを言えば白髪の子に、確かに命中したはずなのでが。
「はァい、残念でした」
その白髪の子は傷を負った様子も無く、悠然とこちらへ向かって歩いてきます。
どうやったのか方法は分かりませんが、どうやら私の放った銃弾は、あの子が意図的に撥ね返したようですね。
なるほど。
あの子は、なかなか私を殺せないことに苛立ってこそいますが、ご自分の身を心配しているような様子は感じられませんでした。
狩人が獲物を仕留められずに苛立っているような、そんな雰囲気。
それは、自分が傷付く事は無いという自信と余裕から来る態度だったのですね。
また同じように正面から銃弾を浴びせても、先ほどと同じく撥ね返されてしまうでしょう。
では、槍ならばどうでしょうか?
向こうからこちらへ近付いて来てくれていますので、そろそろ槍の間合いですし、試してみます。
「はっ!」
私は前面に展開していたプラネイトディフェンサーを退かすと、一気に踏み込んで赤槍――ゲイボルグを真っ直ぐ、最短距離で突き出しました。
ですが、あの子は平然と私を見据え、余裕の表情でその場から動きません。
何か、嫌な予感がしました。
「くっ!?」
その嫌な予感は的中し、私は小さく悲鳴を上げました。
私の突き出した槍はその白髪の子に触れた瞬間、先ほどの銃弾と同じように、突き出したのとは真逆の方向へと撥ね返されたのです。
私はとっさに槍を持つ手の握力を抜き、槍の柄を手の平の中で滑らせると、槍の穂先近くを掴み直し、
腕全体を身体の後方へと投げ出しながら、最後には全身を後退させて槍の勢いを殺しつつ、距離をとりました。
「ひゃはァ! へえ、面白ェ。俺に同じような事を仕掛けた奴は、大抵自分の腕を折っちまってたンだけどなァ!」
私がとっさの判断で行った槍捌きを、白髪の子はそう評しました。
一応、褒めていただいたのでしょうか。
「けどよ。いくら頑張っても、どんなに努力しても、俺にてめえの攻撃は通じねェ!」
それはどうやら、この子の言う通りみたいですね。
銀玉の飛ばし方と同じく方法は分かりませんが、この子は銃弾だろうと槍だろうと、撥ね返してしまうようです。
「そんな事おっしゃらないで、私を受け入れてはいただけませんか?」
そう言って、私はもう一度白髪の子へ向かって踏み込みました。
今度は突きではなく、胴を狙った横薙ぎの一閃。
に、見せかけて槍の柄を持ち替え、回り込みながら槍を半回転させて、石突き側でその子の後頭部を打ちすえました。
目の動きを見ていれば分かりますが、この子は私の動きに反応できていません。
しかし。
「うっ」
小さな悲鳴を上げたのは、やはり私の方でした。
私の攻撃は、今度も呆気なく撥ね返されてしまったのです。
私も予想はしていましたので、撥ね返った方向へ槍を回転させながら後退することで、腕を痛めたり槍を落としたりすることを防ぐことは出来ましたが。
しかし、困りました。
あの子は今、私のフェイントを見切る事が出来ていなかったはずなのです。
それでも撥ね返されてしまったとなると、少々攻撃の部位やタイミングを外す程度では、あの力を掻い潜ることは出来ないという事になります。
フェイントなどには、反応する必要も無いという事のようですね。
「何だァ? 俺の能力を試してやがるのか?」
「あら。これはあなた自身の能力だったのですね?」
ふぅ。私があの子の力を探っている事がバレてしまいました。
まあでも、当然のことですよね。
何らかの力によって、こちらの攻撃が無効化されているのでしたら、まずはその力について知らなければなりませんので。
「チッ。試されンのは、好きじゃねェンだよ!!」
そう叫びながら白髪の子が足を踏み鳴らしますと、デパート屋上の床に使われているコンクリートが砕けて巻き上がり、
瓦礫の散弾となって、私を襲いました。
これも、あの子の能力なのでしょう。
「お互いを知り、理解するのは素晴らしい事ですよ。さあ、もっと私にあなたの事を教えてください」
そう言いながら、私はすぐにその場を飛び退いて大きな瓦礫をかわし、残りの細かい瓦礫は風車のように回転させた槍の盾で弾きました。
「もっと…私に、あなたを、刻んでください」
「うるせえンだよ! 黙って死にやがれェ!!」
あら、どうやら余計に怒らせてしまったようです。
何がいけなかったのでしょうか?
白髪の子は、先ほど瓦礫の散弾を作った時にご自分で空けた床の穴を飛び越えると、もう一度床を踏み鳴らしました。
すると今度は先ほどよりも多くの瓦礫が、それはもうお互いの姿が見えなくなるほどに多くの瓦礫が舞い上がり、
壁となって私の方へ迫って来ました。
「…まあ」
これは先ほどの様に防ぐ事は出来そうにありませんでしたので、私は槍を棒高跳びのポールの様に使って跳び上がり、
迫ってくる瓦礫の壁の上を飛び越えました。
そうして、舞い上がった土埃を突っ切ると、あの白髪の子の頭上へと飛び出すことに成功です。
あの子の視線は、まだ、先ほどまで私がいた所へ向いていますので、こちらの動きに気付かなかったようですね。
瓦礫や土埃が視界を遮っていたせいでしょう。
ぱらららら。
私は槍を左手で握ったまま、すかさず右手でイングラムM10を取り出し、弾倉に残った弾をすべて吐き出させました。
不自然な体勢の上、元々銃は得意ではありませんので、半分くらいは外してしまいましたが、逆にいえば数発は確実に命中させることが出来たと思います。
これは位置やタイミングを外すだけでなく、認識すらできていない攻撃のはず。防げますか?
しかし、次の瞬間。私が放ったはずの銃弾の内の一発が、私の身体すれすれを掠めて飛んで行きました。
ああ。また撥ね返されてしまいましたか。
身を捩って、他に撥ね返ってきた銃弾を避けながら、私は着地するまでの間に改めて対抗策を練り直すことにします。
しかしこれは、弱りましたね。
銃も槍も駄目。
フェイントで攻撃するタイミングや位置をずらしても駄目。
それどころか、ご自身が認識していないはずの攻撃も撥ね返してくる。
あの子の口振りからすると、これは何らかの能力みたいですから、他に考えられる手段となりますと、
臨戦態勢に入っていない時に、不意打ちをするくらいでしょうか?
どちらにせよ、今は打つ手なしですね。
「チョロチョロと、動き回りやがって!」
あの子は、いよいよ私を仕留められないことにご立腹のご様子。
ああ、本当に少し見ただけで分かるほど隙だらけなのですが、きっとこちらの攻撃は効かないのでしょう。
あのような力を持っているので、隙を消す必要も無いというわけなのですね。
「おォ?」
「は?」
私が着地して体勢を整えようとしたその時、白髪の子がにわかに表情を変えました。
苛立ったような表情から、こう、何とも言えない爬虫類的な笑みに。
「女が…ちょこまかと」
それがなぜなのか、私は頭で考える前に、身体の方が理解できていたかもしれません。
半分以上勘でしたが、その声が聞こえた瞬間には、私はその場で倒れこむようにして上体を反らせました。
その声は、あの白髪の子の声ではありません。
もっと低く、身体の芯に響くような声でした。
「うるさいわ!」
間髪入れずにひと振りの剣が私の目の前、少し顔を上げればキスが出来そうな所を、ブンッという風切音と共に通り過ぎて行きました。
その音と、後から来た風圧だけで分かります。
あと少しで、私の身体は胴から二つに分かれてしまうところでした。
倒れ込みながらその剣を避けた私は、地面に槍を立てると、そこを支点にくるりと回転して、その剣の今の持ち主に向き直りました。
「今のをかわすか。だが!!」
向き直った瞬間に、息つく間もなく二撃目が飛んできました。
いけません。一撃目を避けた後に、間合いを離し切れませんでした。
近すぎです。槍の間合いではありません。
「ああっ!」
仕方なく、二撃目は槍を盾にして受け止めましたが、その力は凄まじいものでした
これは受け止めきれないと悟った私は、その力に逆らわず、そのまま吹き飛ばされました。
「ほう」
どうやら、私がわざと吹き飛ばされて衝撃を和らげながら間合いを離した事は、あちらも分かったようですね。
槍の穂先をそちら側へ向けて牽制しながら、私は今度こそ体勢を立て直して、顔を上げました。
「あなたは……」
その方は、すぐに追撃はしてきませんでしたので、私はとりあえず弾倉の中の弾が尽きた銃をしまい、
白兵戦の最中には退けていたプラネイトディフェンサーを戻しながら、相手の姿を確認します。
そう、織田信長と呼ばれていた方でしたね。
どうやら、ヒイロの自爆でも、この方は倒し切れなかったようです。
しかし、その自爆を受けたからでしょう。さすがにその身はボロボロで、どこか負傷をされているみたいでした。
今、吹き飛ばされた私が追撃されなかったのは、そのためかも知れません。
だとしたら、それはヒイロのおかげですね。
「まあ、どうしましょう」
動き回って気を引いてしまったせい、なのでしょうか?
最初に白髪の子ではなく私を狙ってくれたのは光栄ですが、白髪の子ひとりでも苦戦していましたのに、二人のお相手をしなければならないのは、やはり大変ですね。
私の身が持ちません。
「お二人から同時に責められるなんて、私、少し困ってしまいますぅ」
「ふん! すぐに終わるわ」
「あら、お早いのですか?」
「笑止!」
何にしても、ヒイロの仇が目の前に。
あら? おかしいですね。
ヒイロは私の中で生きているのですから、生きている人の仇など討てません。
それよりも私は、私の中のヒイロを守るために、まずは自分の身を守らなくてはならないのでは?
グラハムさん達と情報交換はしましたが、それでも、この地でのヒイロの足跡を詳しく知っているのは、
行動を共にしてきた私だけですので、今ここで私が死んでしまうと、この地で私の希望だったヒイロも、
同時に死んでしまう事になります。
私は何故、仇などと考えてしまったのでしょう?
『感情に従って行動するのは正しい』
そう言っていたヒイロの言葉を、思い出したからかもしれませんね。
確かに私の中では、織田信長を倒したいという感情がわき上がってきています。
それでは、私はこの感情に従って戦いを挑むべきでしょうか?
『だが、動揺に駆られた短絡的行動は必ず取り返しの付かない失敗に繋がる、冷静になれ…ファサリナ』
ああ、そう言われた事もありました。
そうですね。今の私は冷静ではないかもしれません。戦っていると、どうしても興奮してしまいますし。
冷静に考えれば、ヒイロと二人掛かりで全く歯が立たなかった相手。
いくら負傷しているといっても、一人で挑むのは無謀ですよね。
それに『後は任せる』といったヒイロの言葉は、この方々を倒すのを任せるのではなく、帝愛を倒すのを任せるという意味でしょうから。
「おいおいおい! 俺を無視すンじゃねーよ! 信長さんよォ!!」
加えて、今はあの白髪の子もいますので、私が織田信長をどうこうできる状況ではありません。
それにしても、これでは、私の勝利は絶望的ですね。もう、どこかで隙を見て逃げるしかないでしょうか。
しかし、それも簡単に逃がしてくれるかどうか。
そんな事を考えている内に、白髪の子が私と織田信長の二人へ向けて、また無数の銀玉を猛スピードで飛ばしてきました。
私でしたら、この銀色の嵐はプラネイトディフェンサーで防ぐことができますので、
この攻撃は私の動きを止めながら、織田信長を本命に狙ったものの様ですね。
見れば、織田信長は私やヒイロの放った銃弾をことごとく防いでいたあのマントを失っているご様子。
「小童が!!」
どうするのかと思いましたが、織田信長がその手に持っていた、黒く変色した剣を床に叩きつけると、
そこから、黒い霧のようにも炎のようにも見える何かが立ちのぼり、銀色の弾丸はその黒い何かに飲み込まれてしまいました。
あれも、一体どうやっているのでしょうね。
ここでの戦いは、私にとって本当に分からない事だらけです。
「チッ。ああ、面倒くせェ、面倒くせェ! いいからてめえら、死ねよ!!」
先ほどから、なかなかご自分の思うようにならないのが腹立たしいのでしょうか。
白髪の子はそんな風に叫ぶと、今度はその手に、ちょうど手の平サイズの缶のような物を片手に二つずつ、合計四つ取り出しました。
そして、それを床に落としたのです。
当たり前ですが、その缶はカランカランという音を立てて、床を転がりました。
?
一体、何でしょうか?
「あァ?」
白髪の子も、その音につられた様に、視線を床へと向けました。
その動作があまりにも無造作でしたので、私も一瞬躊躇しそうになりましたが、逃げるとしたら、今、ですよね。
私はそう決断すると、敵に背を向けて駆けだしました。
後ろから、何か声が聞こえましたが、振り返るつもりはありません。
背中の守りをプラネイトディフェンサーに任せ、私は今いるデパート屋上の端へと走ると、
そのまま減速せずに、デパートの外へと身を躍らせました。
なにも私は、このまま下まで飛び降りようとしたのではないですよ。
さすがに、この高さからでは自殺行為です。
私が目指したのは先の戦闘でヒイロが突っ込んだ、隣のビルの窓のガラスが割れている一室でした。
ヒイロがその部屋へ飛び込んだ瞬間を見ていたのは、この中では私だけのはずですし、とっさに逃げ込むには良い場所だと思ったのです。
ふぅ。
大雑把な目測で跳んだ割には、うまく狙った部屋の中に着地することが出来ました。
割れたガラスだらけの床の上に、ヒイロの物でしょう、血痕が残っているのが目に入って、
少し悲しい気持ちになりましたが、ここで気を抜いている訳には参りません。
私はすぐに部屋の中を見回し、扉を見つけるとそこへ駆け寄って扉を開けました。
幸いその扉は、カギなどかかっていませんでしたし、思った通り廊下へと出る扉でした。
良かったです。
これが物置の扉などでしたら、困ってしまうところでした。
あ、それから念のためにと、デイパックの中からヒイロとはんぶんこした手榴弾を取り出して、この部屋の床にばら撒いたところで、
私の入ってきた所と同じ窓から、黒い人影がこの部屋の中へと飛び込んできました。
やはり、備えはしておくものですね。
「余を前にして逃げるつもりか?」
「あら、あなたが来てくれたのですね」
私は、どちらかといえば白髪の子の方が追って来るのではないかと思っていました。
どんな攻撃でも撥ね返すその能力で、途中にもう片方からの横槍が入っても、それを撥ね返しながら追って来るのではないかと。
しかし、実際に私の事を追って来られたのはこの方。
「うふふ、嬉しいです」
この方に対しては、やはりヒイロの仇という感情が私の中のどこかにあるのですね。
それを討つチャンスかと思うと、少し嬉しくなってしまいました。
いけません、いけません。今は自分の身を守ることが優先です。
「それでは、失礼しますね。織田信長さん」
私はそう言うと、手榴弾のピンを外して部屋の中へ投げ込み、パタンと扉を閉めました。
「貴様!!」
扉の向こうから怒号が聞こえてきましたが、私はそれに構わず廊下を走ります。
一瞬遅れて、背後から爆発音が立て続けに聞こえてきました。
ああ、うまく誘爆したようですね。
私は振り返らず、その事は耳だけで確かめるにとどめて、廊下を走りました。
あの方は、あれだけでは倒せていなくても不思議ではありませんし、白髪の子が別方向から追ってきているかもしれませんので、安心はできません。
そうして私はこのビルの中の、デパートとは反対側にある部屋へと入り、その部屋の窓からさらに隣のビルへと飛び移りました。
そして、そのビルから、また隣接した別のビルへと乗り移り、さらにそのビルの中を走りぬけて隣のビルへと飛び移る。
そのような事を何度も繰り返します。
そうして、先ほどまでいたデパートからは随分離れた所に建つビルにたどり着いたところで、さすがに妙だなと思いました。
私は、手榴弾の爆発だけで織田信長を倒せたとは思っていませんし、
白髪の子も当然私のことを追いかけてくると思っていたのですが、ここまでどちらの追撃も受けませんでした。
注意深く辺りを見渡しても、あのお二人が私を追って来る様子はありません。
あの方たちは、わざと私を殺さずに泳がせるような事をするとは思えませんし、
もしかして、逃げ切る事が出来たと思って良いのでしょうか?
私などわざわざ追いかける必要も無いとお考えになったのかも知れませんね。それも少し寂しいですけれど。
それとも、お二人で潰し合ってくれたのでしょうか。
希望的観測ですが現に今、私はこうして無事なのですから、あながちあり得ない事ではないのかも。
まだまだ油断はできないとは思いますが、そうだとしたら助かりました。
ヒイロの自爆でも倒し切れなかった織田信長と、得体の知れない力を持った白髪の子。
私は、このお二人から狙われて、逃げ切る自信などありませんでしたので。
「ヒイロ……」
私はヒイロの名を呟き、ほんの少しだけ周囲への警戒を解いて、これからどうするべきかを考えました。
『するべきことはまだ多くある……頼むぞ』
そうですね。
帝愛の技術を奪うといいましても、容易な事ではないでしょう。
織田信長や、あの白髪の子にも歯が立たない私一人では、到底無理というものです。
せめてダリアがあればと思うのですが、呼び出すために必要な三節根が取り上げられていますし、無い物ねだりをしても仕方がないですね。
やはり、一緒に戦ってくれる仲間が必要です。
今生き残っている方で最初に思いつくのは、私やヒイロとギャンブル船で情報交換をし、橋で戦闘になるまで一緒に居たグラハムさん。
あの方とは、協力できると思います。
それから、ヒイロは『いずれ俺の障害になる』とおっしゃっていましたが、先程はヒイロと共闘されていたらしいゼクスさん。
この方はどうしましょう。一度お話しをするべきでしょうか。
衛宮士郎くんという少年とは橋で一緒に戦いましたし、無事に合流することが出来れば協力もできるでしょうね。
ヒイロが自身の命を使って逃がした方ですし、無事でいてくれると良いのですが。
それと、私とは面識がありませんが、ヒイロの以前からのお知り合いらしいデュオという方。
この方にも、出来ればお会いしてみたいですね。
さて、彼等とはどこへ行けば合流できるのでしょう。
グラハムさんは、怪我人を引き受けておられましたから、薬局でしょうか?
それとも、象の像かギャンブル船へお戻りになったかも知れませんね。
まずは、そちらへ向かう事にします。
そのように考え、私は方角や
現在位置を確認するために、デイパックからデバイスと地図を取り出しました。
「あら?」
その時、私はデイパックの中にあったある物に気が付いて、それも一緒に取りだしました。
それはヒイロとはんぶんこした手榴弾です。それも二つ。
さっき全部使ったと思っていましたが、まだ残っていたのですね。
「……ヒイロ、私を見守っていて下さいね」
私は手榴弾に向かってそうつぶやいた後、改めて方角や現在位置を確認すると、気を引き締め直して夜の街を進むのでした。
【D-5西側/一日目/夜中】
【ファサリナ@ガン×ソード】
[状態]:健康
[服装]:自前の服
[装備]:プラネイトディフェンサー@新機動戦記ガンダムW、ゲイボルグ@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、軽音部のラジカセ@けいおん、シャベル@現実、M67破片手榴弾×2@現実、
イングラムM10(9mmパラベラム弾32/32)イングラムの予備マガジン(9mmパラベラム弾32/32)×4、
お宝ディスク、Blu-ray Discドライブ搭載ノートパソコン、水着セット@現実、
サンドイッチ@現実×10、ピザ@現実×10、ミネラルウォーター@現実×20
[思考] 基本:主催を倒し、可能なら
カギ爪の男やヒイロを蘇生させる。
0:グラハム達と合流(薬局、象の像、ギャンブル船のいずれかへ向かう)。
1:自分の中で生きているヒイロを守る。
2:なるべく単独行動は避けたい
3:ゼロなどの明確な危険人物の排除。戦力にならない人間の間引き。無理はしない。
4:首輪が解除でき、三節根が手に入ったらダリアを呼んでみる?
5:お友達……。
6:オリジナルヨロイが奪われてはいないでしょうか……
[備考]
※ゼクスを危険人物として、デュオを協力が可能かもしれぬ人物として認識しています 。
※ヒイロを他の惑星から来た人物と考えており、主催者はそれが可能な程の技術を持つと警戒(恐怖)しています。
※同志の死に疑念を抱いていますが、ほとんど死んだものとして行動しています 。
※「ふわふわ時間」を歌っている人や演奏している人に興味を持っています 。
※ラジカセの中にはテープが入っています(A面は『ふわふわ時間』B面は不明) 。
※結界によってこの島の周囲が閉ざされていることを知りました。また、結界の破壊により脱出できる可能性に気が付きました。
※グラハム・衣と情報交換し、今まで判明した情報を『エスポワール・ノート』で整理しました。
※エスポワール船底に『ジングウ』が存在していることを知りました。
※ギャンブル船にて機動兵器が売られていることを知りました。
□
あちこちのコンクリートがめくれ上がり、瓦礫が散乱するデパートの屋上。
つい数分前まで激しい戦いの舞台であったこの場所に、織田信長の姿はあった。
あのビルの一室で、ファサリナの投じた手榴弾が爆発したあの瞬間、信長はとっさに窓から飛び出し、このデパート屋上へと戻ったのだ。
「虫ケラが…小賢しい」
デパート屋上へと戻った信長は、もはやそのビルの一室から立ちのぼる煙や炎には目もくれず、
素早く周囲に視線を走らせ、
一方通行の姿を捜した。
信長が戻った時には、既に一方通行の姿はこのデパートの屋上には無かったが、
一方通行の力を考えれば、どこか信長の視界の外から何らかの方法で攻撃を仕掛けて来る事も、十分にありえる。
「ぬぅ…?」
しかし、いくら周囲を警戒しても、一方通行の方から信長へ何かを仕掛けてきそうな気配は無かった。
先ほど一方通行が落した四つの缶コーヒーも、この屋上の出入り口付近に落ちているだけで、何かの罠といった事も無さそうだ。
あれだけの力を持っておきながら、逃げるとは信長には到底思えなかったが、これ以上待っても無駄と、信長はいったん構えを解く。
「童が、どこへ行きおった…む?」
そこで、戦の高揚感が多少冷めてきた信長は、自らの足元にポタポタと血が滴っている事に気付いた。
「…我の血か」
それは、返り血などではなく、信長自身の血液だった。
ヒイロの自爆によるものか、一方通行のパチンコ玉による攻撃を防ぎ切れていなかったのか、
ファサリナの手榴弾によるものか、原因は断定できないが、いずれかにより傷を負ったのだろう。
「おのれェ」
いかに第六天魔王といえど、まずはこの出血を止めなければ、今後の行動に差し障る。
信長は忌々しげに顔をしかめながらも、傷の手当てのためにデパートの中へと入って行った。
【D-5 南のデパート最上階/一日目/夜中】
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、出血中
[服装]:ギルガメッシュの鎧
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]
基本:皆殺し。
0:どこか落ち着ける場所で傷の手当てをした後、一方通行とファサリナを捜す。
1:荒耶の言葉通り、西に向かい参加者を皆殺しにする。
2:荒耶は可能な限り利用しつくしてから殺す。
3:首輪を外す。
4:もっと強い武器を集める。その為に他の者達の首をかっきり、ペリカを入手する事も考慮。
5:高速の移動手段として馬を探す。
6:余程の事が無ければ臣下を作る気は無い。
[備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。
※ルルーシュやスザク、
C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。
※視聴覚室の遮光カーテンをマント代わりにしました。
※トランザムバーストの影響を受けていません。
※思考エレベータの封印が解除されましたが、GN粒子が近場に満ちたためです。粒子が拡散しきれば再び封印されます。
※瘴気によって首輪への爆破信号を完全に無効化しました。
※首輪の魔術的機構は《幻想殺し》によって破壊されました。
※具体的にどこへ向かうかは、次の書き手にお任せします。
※荒耶との間に、強力な武具があれば譲り受けるという約束を結びました。
□
白髪の子こと一方通行は、デパートの階段を駆け下りていた。
「やべェ、やべェ、やべェ」
負ける気はしなかった。
信長を含めて、全員瞬殺できると思った。
しかし、信長は負っていたはずの怪我が何故か治っており、強力な剣も手に入れていていて一方通行の攻撃を弾いた。
さらに、名も知らぬ女が奇妙な円盤でパチンコ玉による弾幕を防いだのも計算外だった。
そうして手間取っている内に、この島に来てから己の能力<一方通行>に強いられている制限時間が来てしまい、彼は撤退を余儀なくされたのだ。
能力の使えない一方通行など、戦いになれば雑兵以下の存在。
その事を、一方通行自身も正しく把握している。
だから今、彼は身を隠すしか無かった。
再び能力が使用できるようになる、その時まで。
【D-5 南のデパート1階/一日目/夜中】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(完成)、能力使用不可(使用可能まで約一時間)
[服装]:私服
[装備]:パチンコ玉@現実×少量
[道具]:基本支給品一式、缶コーヒー×8、ランダム支給品×1(確認済み)
缶コーヒー各種@現実×多数、首輪(
アーチャー)
[思考]
基本:どいつもこいつもブチ殺して打ち止めを守る。
0:能力が使えるようになるまで身を隠す。
1:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)。
2:このゲームをぶっ壊す!
3:首輪を解析する。首輪を解除出来たらあの女(荒耶)をブチ殺す。
4:
上条当麻は絶対に絶対に絶対に絶対にブチ殺す。
[備考]
※飛行船で首輪・制限の制御を行っている・主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、
プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※
ライダーの石化能力と藤乃の念動力の制限を分析しました。
※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。
※織田信長の瘴気の影響で精神に異常が出ました。
※橙子(荒耶)の名前は知りません。
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最終更新:2010年05月18日 23:59