死ぬほど痛いぞ ◆fQ6k/Rwmu



インデックス! インデックス!!」


 上条当麻は開会式の映像が切れた後、まだ部屋の中でモニターに向けて叫び続けていた。
 画面を叩き、その怒りをぶつける。

「おい遠藤! 帝愛! インデックスに何をしやがった! おい!
 繋げろ! 今すぐ繋げろ!!」


 だがモニターは光を宿さず、ただ沈黙を守るばかりだった。
 上条は悟る。もうこのモニターは繋がらないのだと。


「畜生!!」


 どこにぶつけたらいいかわからない怒りと悔しさを、目の前の壁にぶつけるしかなかった。
 両腕で壁を叩く。
 わずかな痛み。けれど何も起こらない。
 インデックスが帰って来もしない。
 遠藤たちを倒せもしない。
 帰ることもできない。


 上条は顔を下に向けて歯を軋らせた。
 もう怒りと悔しさを発散するにはそれしかなかった。
 ただ、自らの無力を痛感する。


「何が『幻想殺し≪イマジンブレイカー≫』だ。
 神様だって殺せるくせに…………何もできやしないじゃねえか!!」




 上条当麻には能力がある。
 彼の世界では『学園都市』という大都市が存在し、そこでは生徒たちを超常的な能力に目覚めさせそれを開発する授業、カリキュラムが行われている。
 能力の例を上げるなら、電気を自ら発電し操る『電撃使い≪エレクトロマスター≫』、物や人を一瞬で離れた場所に移動させる『空間移動≪テレポート
≫』など。
 能力者はその能力の強さ等で類別され、低能力≪レベル1≫、異能力≪レベル2≫、強能力≪レベル3≫、大能力≪レベル4≫、超能力≪レベル5≫、
と呼ばれる。中でもレベル5は学園都市でも7人しかいない存在で、かなりの実力者 だ。なおこの会場には少なくともレベル4が1人、
レベル5が2人、それも第3位と第1位が存在していることを補足しておこう。

 話を戻そう。
 では上条当麻はどの類別に当たるのか。
 答えはどれでもない。測定により能力が無い、あるいはあまりにも弱いと判断された場合は無能力≪レベル0≫と類別される。上条はまさにこの類別に当たる。

 では上条の能力は存在しない、あるいは弱いのかと言えばとんでもない。
 測定しても能力が判断できなかったのは当たり前だ。なぜなら上条の能力はそう言った『異能』を打ち消してしまうのだから。
右手で触れた『異能』をどんなものでも無効にする。あるいは破壊する。それが上条当麻の能力『幻 想 殺 し』だ。
 『異能』という定義に関しては省略するが、少なくとも学園都市で科学的に開発された『能力』もそれとは関係なく存在する『魔術』も等しく消せることから
『能力』『魔術』の区別は無く、ただ『異能』――普通ではできないこと、とでも言っておこうか――を打ち消せる。
 炎の剣すら打ち消し、レベル5の『超電磁砲』すら無効化し、同じくレベル5の『反射』の壁も突破する。
 『異能』に対しては強力な矛であり強力な盾でもある存在。それが彼の能力だ。



 それなのに。
 そんなものが――役に立たない。


(いや、待てよ)


 上条は気が付く。
 インデックスは明らかに洗脳されていた。
 それが魔術か科学的なものはかわからない。
 だがもし『異能』によるものだとしたら――


(インデックスの所に行けさえすれば!)


 自らの能力で彼女を解放できるかもしれない。
 前に上条自身も洗脳のような魔術に掛かった事があるのだが、その時は頭に触れる事でその洗脳を解除できた。
 つまり可能性はある。


(だが――――どうやって行く?)


 インデックスがどこにいるか。
 遠藤たちと共にどこにいるか、全くわからない。
 そもそも奴らの所に楽に行けるわけがないと上条は考えた。
 殺し合いをさせると言うのだから、自分達がそんな連中が楽に行けるところにいるわけが無い。
 なら行く方法は



 優勝。



「ふざけんじゃねえ!!」



 一瞬脳裏によぎった考えを否定する。
 幻想ですらないカスのような考えだ。


「あいつを助ける為に63人を殺せってのか? 冗談じゃねえぞ遠藤勇次!何が『人質』だ!
 あの女の子は最期まで反対し続けたんだ。家族の為に!誰だかはわからないけど、それでも。
 あの子の気持ちを無駄にして、あの子の思いを土足で踏みつけてインデックスの為に優勝?
 できやしねえよ!
 絶対、絶対何か方法があるはずだ!だから見つけてやる。
 遠藤勇次、帝愛グループ!」


 上条は顔を上げる。
 その顔に新たに宿るは、決意。
 怒りも悔しさも仕舞いこむ。


「もしてめえらが『人質』とか言って、俺に殺し合いをさせようとか

 ここにいる連中に殺し合いをさせようとか

 あの子の家族をこれ以上苦しめようとか

 インデックスにその片棒を担がせるとか


 そんな幻想を俺達に押し付けてくるってんなら!」


 そして彼は見据える。
 目の前のモニターを。
 奴の面影が僅かにも残るモニターを。




「まずはその




『その部屋は5分後に『爆破』される』





「え?」



 ******


『その部屋は5分後に『爆破』される。
 何しろそこには『モニター』という私達に繋がりかねない手がかりがあるからね。
 僅かな手がかりだが、消しておくに越した事はない。
 君以外の部屋も当然モニターを処理する処置はある。ただし他は爆破ではなく、もっと音の立たない穏便なやり方だがね。

 ではなぜそこだけ『爆破』なのか?
 答えは簡単……!
 『刺激』……!スパイスとでもいうべきか……!
 その『爆破』によってきみたちがどう動くか……それを見たい!


 ああ、あと弁解はしておくが決してこれは君を狙ったわけじゃない。
 どの部屋にするかは厳正な抽選を行った。
 その結果『君』に当たってしまったのだよ。
 よりにもよって……!『飛ばせない』君に!
 他の参加者なら……いざしらず! 『飛んだ』後に爆破するから問題ないのに!


 まあ流石にそれは可哀相だということで、猶予を与える事にした。
 5分。5分以内にその部屋を出るんだ。
 そうすれば爆破は1時間後まで延期する。ああ、言っておくがその間にモニターを調査するとかは考えない方がいい。1回出た後は入れない。詳しくは隠すがそう いう処置をしておくからね。
 1時間の間にできるだけ離れれば爆破から逃れられるだろう。爆破でやってくる奴らと遭う可能性も低くなる。

 5分以内に出なかった場合は、30秒。30秒後に爆破する。
 そうなれば君は危険だ。
 爆破の音と炎は他の参加者を呼ぶ餌だ!しかも『場所』が『場所』なだけに厄介!
 まあそれはありえないと思っているがね。
 これを見て5分以内にここを出る。あまりに簡単だ。
 それこそ『モニターが消えてからこれが表示されている間に目線を外してしまい』、『その間考え事でもしすぎたり』しなければ!
 そんなよほどの『不幸』が無い限りは。
 では、遭えたらまた会おう』



 *****



「…………あ、アホか……!」


 モニターのメッセージを見終えた上条の素直な呟きはこれだった。


「爆破? この部屋爆破? ふ、ふざけんなよ……」


 『飛ばせない』という意味はわかる。
 上条の『幻想殺し』に志向性はない。つまり上条の意志でなく強制的に働いてしまう。
 そのせいで彼は『瞬間移動』で危険地帯から脱出するのを断った事がある。なにしろ『瞬間移動』だって右腕は範囲に入るのだ。おそらく打ち消してしまうだろうと上条
は思った。彼らの『飛ばす』が魔術にしてもそれと同じだとしたら、『飛ばせない』というのは納得が行く。


 だからといって


「抽選ってなんだよ抽選って! 何で変なところアバウトなんだこいつ!」



 よりにもよってそれが自分に当たってしまう。まあそれについては『心当たり』があるのだが。


「って! 突っ込んでる場合じゃねえだろ!?
 早く出なきゃ上条さん木っ端微塵ですよ!?


 ま、まあ。でもあれだ。いくら考え事してたっつっても、5分は経ってないだろ5分は。
 それに扉なんてあんなに近いんだ。5秒、いや3秒あれば出られる。
 なぁんだ。別に焦ることないじゃないか。1時間あれば遠くにだっていけるんだし。
 じゃあまずはここを急いで出て――」



 上条はデイパックを担ぎ、モニターを見る。




 その右上に、なんか数字があった。



 なんか、時間っぽかった。



 ってか、時間だった。




『部屋退出時間まで残り1秒』
 一瞬頭が真っ白になった上条の脳裏に『死ぬほど痛いぞ』と言うランニングを着た少年の声が幻聴として聞こえたと同時に、『ピーーーーーーーーーーー』という音が鳴り
響いた。




 ******





 ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!




 爆音と爆炎。どちらが先だったかはわからない。
 市街地内にある空き地。そこにポツンとおかれたプレハブ小屋。
 それが内部からの爆発で完全に破壊された。

 壁は膨れ上がるように吹き飛び、屋根は天空へと舞い上がった。
 ガラスが周辺に飛び散り、モニターを構成していた部品は判別不可能なまでに焼け焦げ融解している。
 もしあそこで上条が気絶でもしたままだったなら、史実で始めての爆死者と同じ末路を辿っていただろう。



 まあそんな光景を上条が確認している余裕は無かったのだが。


「ちくしょう、ちくしょーーーーーー!
 ふざけんなよあいつ! やっぱり俺を確実に殺そうとしてる! 間違いなくそうだ!そうに決まってるーーー!」


 すぐさま脱出して猛ダッシュ、なんとか空き地近くのブロック塀に隠れて爆破から逃れた上条は休む間もなく走り出した。
 あんな爆発があっては『おいでませ皆さん』と言っているようなものだ。
 もし危険人物いたらもう論外。たとえ敵意が無くても、爆発した建物に佇む男が果たして信用されるだろうか。
 つまりどっちにしろここは離れるのが正解。だが上条には更に急ぐ理由があった。


「『場所』が『場所』ってこういうことかよ!」

 その理由は彼の手元のデバイスにあった。
 そこに表示された現在位置は【G-7】。島の最も東南にあたるエリアだ。

 そう最も東南。しかもそこの地形は細く突き出てしまっている。
 もっと内陸だったならよかった。なにしろ上条には9方向の逃げ道がある。
 だが、ここは海に阻まれて3方向しか逃げ場がない。しかも西方向は少しで海なので、もう2方向しか残らない。
 そこに他の参加者がいる可能性がどれだけ高いか。爆破によって来る参加者と鉢合わせする可能性がどれだけ高いか。


 ここまで来ると誰もが思うだろう。
 『たまたま考えにふけり過ぎてメッセージを見逃す』。
 『抽選でたまたま『爆破』が当たる』。
 『場所がたまたま端っこで逃げ場が少ない』。
 あまりに『不幸』が過ぎると。


 そう、上条当麻は『不幸』なのだ。
 そしてその原因は他ならぬ『幻想殺し』。


 これはインデックスの説になるが、『幸運』とは神の加護であると言う。神が危険からそれとなく守ってくれるというところか。
 ところが幻想殺しはそれすらも無慈悲に打ち消してしまう。結果、危険への抵抗力が無くなり彼は『不幸』となる。不幸に見舞われトラブルに巻き込まれやすくなる。


 ここでもそれは働いてしまうようで。


「くっそーー! 例えどこかで同じセリフを誰か叫んでいようが、知ってる奴がそれっぽい目に遭ってようが、ああそうだよ結局そうですよ!
 これは上条さんが本家本元ですよ!てか俺何喋ってるかもうわかんねええええええ!」

 インデックスの安否とか、インデックスを助ける方法とか、他の参加者とか、支給品とか、ペリカとか、もう全ては後回し。
 今はここから離れる事に全力を注がなければならない。



 それでも、男には叫ばずにいられない時がある。





「不幸だーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」








【G-7/市街地/1日目/深夜】


【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:学校の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(1~3)
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。
1:爆破地から北or北西方向に離れる。
2:インデックスの所へ行く方法を考える。
3:壇上の子の『家族』を助けたい 。
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。
※名簿及び支給品は確認していません。

※出発部屋に関しては1度出た部屋には入れない措置あり。具体的な方法は不明。
 モニターには処分がなされますが、具体的な方法は任せます。
 ただしG-7プレハブ出発部屋以外の部屋が会場内にあるかどうかは確実ではありません。
 完全なブラフで上条出発地のみ会場に存在、もしくは他に数部屋程度しか会場内にはない、という可能性もあります。


※深夜、G-7市街地、空き地にてプレハブ出発部屋が爆破されました。
 G-7及び周辺3エリア(F-6、F-7、G-6)に爆音が響きました。爆炎の確認はG-7エリア内のみ可能とする。


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000:オープニング――《開会式》 上条当麻 053:ひたぎブレイク


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最終更新:2009年11月05日 00:32