涙――tears――  ◆DXXMkAYDjo



「……ふぅ……やっと着いた」

ふうと少し疲れた様に少女――福路美穂子――が息を吐いた。
額に浮かぶ汗を拭いながら目の前の目的地を眺める。
それは美穂子が予想したよりも簡素な建物だった。
線路とホーム、それと入り口と売店ぐらいしかない一階建ての建物、駅だった。
掲げられた看板には小さくF-5と書かれている。

「電車はまだ着てない……みたいね」

線路には電車は無くホームもどうやら無人のようだった。
美穂子は駅周辺の安全を確認して、一息を着く。
金のショートボブを整えながら、駅の周りを見始めた。
美穂子がざっと見た所、外見は何処にでもある地方の小さな駅と変わりはしない。
周辺の発展具合から比べると、若干不釣合いな気がする程度だった。
美穂子自身、もう少し大きな路線が幾つかあるような駅を想像していたのだがそれは見当違いだったようだ。
別にそれぐらいの考えはいいかと思いながら、人が誰も居なかった事に少し残念な気分になってしまう。

積極的に誰かに会いたかったと言う訳でもない。
勿論会えればいいなとは思っていたが、それが殺し合いを肯定した者だと困ってしまう。
美穂子自身は先ほどの少女のように戦える術など持っていないのだから。
美穂子が願うのは殺し合いに乗らない自分のような者との接触で、殺し合いを打破するには協力者が必要なのだから。
その為にも頼りになる人が欲しい。

(無いものねだり……かな)

無いものをねだっているのかなと美穂子はつい苦笑いを浮かべてしまう。
先ほど痛感した事、それは自身が戦闘では無力な人間でしかない事。
例え、機転を尽かし、その場の流れを見る事が出来ても襲い掛かられて身を護る術はない。
あの時、少女が退かず襲う事を続けていたのならば勝ち目は無かっただろう。
殺されていたかもしれない。
そう思うと、ぞっとしてしまった。
もしまたそうなった時、護ってくれる人がいたらなぁと思ってしまう。
そんな都合のいい事、ありはしないとは思いながらも。

「でも……だからこそ」

そっと担いでいるものと佩びているものを見る。
担いでるのは一丁のリボルバー。
佩びてるのは小さめの対になっている2本の忍者刀。
リボルバーを入れるバックは最初から一緒についていて、刀を差すベルトは展示場内から拝借した。
この二つは身を護る道具、そして人を殺す道具にもなる。
その二つの武器をみて苦笑いを浮かべながら美穂子はこう呟く。

「……重いなぁ」

それは勿論、単純な重みでは無くて。
武器を持つという意味の重さだった。
無論、美穂子は刀を剣術者の様に扱えるわけが無く、銃も上手く撃てるわけではないだろう。

だが、刀を喉に突き刺せば人は死ぬ。
だが、銃弾が頭に当たれば人は死ぬ。

そう、人を殺せる。

なんて、それは重いんだろう。

そんなものを美穂子は持っている。
人を殺せる道具をだ。
これではまるで殺し合いを美穂子自身が受け入れている様に思ってしまう。


「……だけど、違う」

だけど、違う。
美穂子はそんなものを受け入れていない。
この2つの武器は人を殺す道具だろう。
その事実を捉えて重いと思う。
でも、だからこそ。

「私は殺さない」

だからこそ、美穂子は殺さない。
そう言い切ってみせる。
人を殺せる道具を持つ重みを感じて。
その重みを感じてるからこそ、人を殺さない。
命を奪う重みを感じるからこそ、人を殺さない。

その重みを感じて、美穂子は生きる。

重みを知る人間なら、殺さないことが出来る。
そう美穂子は思ったから。
命を奪う道具の重みを知るからこそ、殺すという選択肢を選ぶ事をしないだろうと思えるから。

だから、美穂子はあえてこの道具を持つ。

人の命を奪えるという重みを感じながら、それでも殺さないと言い続けられるように。

「誰が」

美穂子は思う。
こんな作られた殺し合いに。
こんな凄惨な命の奪いあいに。

「乗ってやるもんか。乗ってやるもんですか」

誰が乗ってやるものか。
誰が言われた通りに殺してやるものか。
意地でも乗らない、乗ってやらない。

皆、皆で脱出してみせる。
そう、強く言えるように。

あの、少女に出会って美穂子は思った。
自分にはきっと殺し合いなんて無理だと。
人を傷つける行為がどんなにも冷たく怖いものだと知ったから。
それを誰かに行う事はどんな残酷な事だろう。
また、自身がそれを行う事なんて、とても怖いものだろう。
そんな冷たい事をする勇気など、美穂子には持てなかった。

あの少女はきっとこんな美穂子を笑うだろう。

だけど、それでいい。
これがいい。

そう、美穂子は強く思ったから。

美穂子は笑い、気合を入れる為に軽く頬を叩く。
その痛みが、何処か温かくてまた笑ってしまう。

「……とはいえ、やっぱり使いたくないものは使いたくないな」

美穂子はそっと刀をもう一度確認する。
見ると、その刀の鍔と鞘が紐で結ばれて抜けなくなっている。
それは美穂子が施したもの。
使いたくないものは使いたくない。
その意志を確固たるものにする為に戒めをした。
自身が危険になるが、それでもだ。
いざとなったら鞘で殴ればいい。
そんな物騒な事を考えつつ後ろのリボルバーの事も考える。

「……弾一つだったなぁ」

そのリボルバーは不思議な事に弾が一つしか入っていなくて。
予備になる弾無く不思議だった。
それでも使いたくなかったからそれでいいと思う。

だけど、美穂子はもしと思う。
もし、この唯一の弾を使うとなったらそれはいつなんだろうと。

それは大切な後輩、池田華菜を護る時?
それとも、自身の身を護る時?

答えは出ず、困ってしまう。
それに、自分には悔しいけど誰かを護る力なんて無い。
そんな自分が池田を護れるといえるのだろうか?

答えは出なかった。

(ひょっとして……)

護る力がほしいのかなと美穂子は思う。
でも、それは同時に殺す力にもなりえて。
自分で考えて、考えた事に後悔しそうになってしまった。
でも、護りたいのは確かなのだ。

じゃあどうすればいい。

そう思って、迷い、そして美穂子は頭を振る。

「……考えても仕方ない」

考えても仕方ない。
そう、美穂子は思って前にある駅に入っていこうとする。
そういえば、無賃乗車なのかなと思いながらホームに向かおうとした時だった。

「まったっ! 其処の奥方!」

振り返る美穂子。
美穂子を止めた声の持ち主。
それは特攻服を着たオールバックの男の人。
見た瞬間、美穂子が思った事は

「……えっと、御免なさい」
「……はっ?」

明らかに危ない職業だと。
そう思った瞬間、何故か謝らずに居られなかった。
その男は呆気に取られ、美穂子を見つめていた。



それが、美穂子と『竜の右目』片倉小十郎との出会いだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「福路殿、驚かして済まなかった」
「いえいえ、気にしないでください」

駅のホームのベンチ座る、男女二人。
男は竜の右目、片倉小十郎。
女は風越キャプテン、福路美穂子だった。
美穂子の誤解も解け、今は二人仲良くベンチに座っている。
簡単な自己紹介を済ませ美穂子は小十郎が自分を見つけた経緯を聞きはじめた。

「まさか政宗様が……」

それによると小十郎はサーシェスと呼ばれる人物と一戦交えた後、名簿を確認したらしい。
書かれていた名前に小十郎は驚愕した。
伊達政宗。
伊達軍君主、そして己が主人であった名前だった。
その名前を見たが小十郎の行動は早い。
小十郎の目的に政宗との合流が加わったのだ。

頼りになる反面、しかしやはり心配な所がある。
政宗が簡単に討ち取られるとは小十郎は思ってもいないがここは戦場である。
何時、如何な時に不意打ちされるかわからない。
もし、政宗を失ってしまえば伊達軍は崩壊である。
だからこそ、小十郎は思う。

「何としてでも、守り通さねばっ……!!」

守り通さなければならないと。
それが竜の右目である小十郎の使命でもあるのだから。
志を新たに掲げ、小十郎は燃えていた。

(政宗……まさか)

その脇で美穂子はただ驚いていた。
小十郎が伊達政宗の部下を名乗った時、驚いたがどうやらそれは本当らしい。
彼の言葉、反応を見るとそれが嘘のようにも見えないのだ。
しかも、現代的なものに何か驚いていた。
他にも織田信長、明智光秀と見知った名前も名簿にある。

(……本当の……武将?)

そして、思ってしまう。
本当の歴史上の人物かと。
小十郎にいたっても気になるのは服装だけだ。
彼の考え、話を聞くとものすごく現実味があるのだ。
だから、惑い戸惑ってしまう。


(だけど……)

だが、それだけの違いでしかない。
普通の人なのだ。
だから、美穂子は普通に話していけると思った。
そう思って、気になる事を聞く。

「やはり、伊達という人が気になりますか?」
「ええ。大切な御方なもので……」
「……そうですか」
「福路殿にもそのような御方が?」
「ええ……大切な後輩が」

美穂子は思う。
彼もそう、守り通したい人が居る。
誰にだってそんな人が。
護りたいと思う気持ちはきっと当然なのだろう。

「片倉さんは強いんですね……そんな危険なサーシェスという人と戦い渡るなんて」
「いえ……お恥ずかしい事に取り逃してしまいした」

面目なさそうに頭に手を当てて呟く小十郎。
でも、美穂子はそんな小十郎を見て真剣に言う。

「いえ、凄いです。戦えるなんて」
「そんな事は……」
「凄いです……私は大切な人を護る事すらできない……」

そう、美穂子は思ってしまう。
自分に力が無い事を。
大切なものを護る力すら無い。
それが、段々悔しくなってたまらなくなって。

悔しくて、悔しくて。

「私は……無力です……華菜を……護る事すら出来ない」

涙が溢れてくる。

今、この時だって華菜は襲われているかも知れない。
なのに自分は小十郎のように戦う力もない。
護りたいという意志はあってもそれを行動に移す力がない。

それが悔しくて。
それが悲しくて。

溢れる涙が止まらなかった。


「護りたい……でも、護れない……」

声が震えて。

実感していく。
自分の弱さを。

こんなにも簡単に涙が出てきて。
こんなのじゃ駄目なのに。
そう思っているのに。

涙が止まらなかった。



「泣かねぇでください」

その時だった。
優しい男の声が響いたのは。
美穂子が振り向くと小十郎の優しい顔。

「……この、伊達小十郎、何なら福路殿と福路殿の大切な者も護りましょう」

また、そう告げた。
外見に似合わない優しい言葉を。
美穂子にかけている。
美穂子は驚き戸惑いながらも言葉を発する。

「い、いえ……片倉さんにも護らないといけない人がいるでしょう? 私なんかにかまけてる暇は……」
「確かに政宗様は大切な御方です……ですが」
「……ですが?」
「流石に泣いている奥方を無視できるほど俺はなっちゃいません」
「……で、でも」

美穂子が戸惑い迷いながらも言葉を捜そうとする。
小十郎の手を煩わせてはいけない。
そう、思いながら言葉を捜そうとしたとき小十郎は告げる。

「それに、力無き者達を護るのも俺達の役目です。福路殿。ですから、安心なさってください」

護ると。
それが自分の役目。
武将である片倉小十郎の使命でもあったのだから。

美穂子はその言葉を告げられて。
ボロッと大きな涙の粒を流して。
そして小十郎の手を取って。

「お願いします……華菜を護る手助けをしてくださいっ……護る為の力を……貸してくださいっ!」

小十郎にお願いをする。
それは本心からの願いで。
小十郎は真面目に、心を籠めて言葉を返す。

「承知しました」
「……ありがとうございます……ありがとうございますっ……!」


そして、また、美穂子は泣き出して。

ぼろぼろに涙を沢山流して。

そして

彼女は護る力を手に入れたのだった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「片倉さんお茶です」
「かたじけない」

美穂子達はあの後、今後の方針を決めた。
とりあえずは当初の予定通り工業地帯に行く事にした。
今は駅に居るがダイヤを確認して、そして徒歩と電車どちらで向かうか判断するかを決めるつもりである。

だが、今は少し休憩を。
売店からペットボトルお茶を持ってきて飲む事にした。
美穂子は売り物を取る事に少し罪悪感を感じたがこの際仕方ないと思い蓋を開け飲み始める。

「……福路殿」
「はい?」

目の前にはペットボトルを持って真剣に悩む小十郎。
何を悩んでいるのだろうと思ったときに告げられる事実。
それは

「……どうやって飲むのだろうか……?」

飲み方がさっぱり解らないという事。

「……ああ」

そういえば、戦国時代の人だなぁと思い出して。
くすっと美穂子は笑って。

「これはですね……」

何か後輩に物事を教えるようだなぁと思って。

かすかに微笑んだのだった。



【F-5/駅ホーム/1日目/黎明】

【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:健康、冷静
[服装]:学校の制服
[装備]:風魔小太郎の忍者刀@戦国BASARA、ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード、ペットボトルお茶
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~1)(確認済み)
[思考]
基本:池田華菜を探して保護。人は殺さない
1:ダイヤを確認して、電車か徒歩で小十郎と共に工場地帯に向かう。
2:小十郎と行動。
3:上埜さん(竹井久)を探す。みんなが無事に帰れる方法は無いか考える
4:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※忍者刀には紐で鞘と鍔が結ばれて抜けません


【片倉小十郎@戦国BASARA】
[状態]:頭部と腹部に打撲の痣。
[服装]:戦支度
[装備]:六爪@戦国BASARA、ペットボトルのお茶
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2個(未確認)
[思考]
1:美穂子と行動、美穂子を護る
2:政宗と合流する。
3:アリー・アル・サーシェスを必ず倒す
4:殺し合いを開いている帝愛とやらをぶっ潰す
5:帝愛打倒の為の仲間を探す。

[補足]
※名簿を確認して、真田幸村、織田信長、明智光秀、本田忠勝に気付いているか不明です。
※第11話、明智光秀との一騎打ちに臨んだ直後からの参戦です。

【風魔小太郎の忍者刀】
小太郎が使っていた対になっている2本の忍者刀。白と黒で対になっている。

【ウェンディのリボルバー@ガン×ソード】
ウェンディが持っているリボルバー。残弾が一つしかない。
もとは兄のミハエルの所有物。
リボルバーを入れる袋とセットになっていた。



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013:流れ星-fool's mate- 福路美穂子 074:やれることを全てやって
005:血風大伽藍!小十郎vsサーシェス 片倉小十郎 074:やれることを全てやって