理想の果て(後編)◆W.hp1QcmWc



衛宮士郎。荒療治だが、この場こそお前の力を引き出す好機だ」
「……俺の、力?」
「そうだ。お前の本質は、お前の起源は『剣』。
 己が本質を胸に抱き、己が心象風景をこの世界に刻むがいい」

荒耶は言葉を紡ぐ。
士郎に固有結界を使わせるべく。
衛宮士郎の本質を。
衛宮士郎の在り様を。
衛宮士郎の理想を。
その全てを続けざまに言葉として士郎へと送る。

「? ……!?」

いきなり浴びせかけられた荒耶の言葉の数々に切羽詰ったものを感じつつも、士郎にはそれが理解できずにいた。
要するに、何が言いたいのか。
困惑する士郎の心中に入り込むかのように、荒耶の言葉は続く。

―――悪を殺すのだろう?

そう。衛宮士郎は悪を絶対に許すことはない正義の味方
悪は、殺さなければならない。

―――ならば迷うことはない。その理想を世界に見せつけるがいい。

俺の、理想―――?
正義の味方になるという俺の理想を世界に見せつける―――?

―――そうだ。お前にはその力がある。固有結界という力が。

そんな馬鹿な。
固有結界とは大量の魔力を消費するという、魔術師の神秘中の神秘。
それを投影しか出来ない落ちこぼれの魔術師に使えるはずが―――

―――使える。なぜならば、お前の中にはすでに剣の世界が広がっている。
―――後はその世界を開放するだけだからだ。

剣の、世界?
俺の中の剣の世界―――?

―――そうだ。今こそ世界に侵食させよ。お前の固有結界、「Unlimited Blade Works(無限の剣製)」を―――

Unlimited Blade Works。
俺の固有結界……剣の世界。
本質が『剣』である俺の―――

「―――I am the bone of my sword.(身体は剣で出来ている)」

◇ ◇ ◇

荒耶と士郎が問答を交わしている間、その敵たる式はどうしていたか。
式は完全に待ちの状態に入っていた。
式の立場として最も重要なのはデイパックの回収である。
あの中にある二振りの日本刀のうち、どちらかを握ることさえ出来れば、今度こそこの窮地を脱することが出来るだろう。

だが、肝心のデイパックを取るには機関銃の射線に入らなければならない。
未だ軽機関銃のトリガーに指を掛けている荒耶は問答の間にも、油断なく式の行動に目を光らせている。
うかつに飛び込めば、蜂の巣になる恐れもある。
式の身体自体を欲する荒耶が下手に式を殺すとは思えないが、目的を達成できないとあらば、どんな行動に出るかは未知数。
そんな未知数に頼って死地に赴くほど、今の式は生へのしがらみを捨ててはいない。

故に、待ち。戦略的な待機。
その眼は相手の致命的な隙を探すために絶え間なく動かす。
隙があれば、どう動くか。
その行動パターンを数通り考えついてはいた。
どちらにせよ、今は動けなかったのだが。

そして―――

「―――I am the bone of my sword.(身体は剣で出来ている)」

事態は大きく動き出した。

(ここに来て詠唱? ……嫌な予感がする)

剣士として十分に通用する敵がいきなり魔術師としての詠唱を始めたことに式は警戒。
詠唱を阻止せんと士郎に迫る。
だが、それに追従するモノが1つ。
それは式に追いつき、そして襲いかかる。

「……こいつっ!!」
「衛宮士郎の邪魔はさせぬ」

式に襲いかかったのは、澪の持っていた影絵の魔物。
すなわち、蒼崎橙子の使い魔。
澪にはアンリ・マユに汚染された可能性があると脅して使わせなかったそれだが、荒耶はあっさりと使用。
結局の所、荒耶が澪に語った事柄は全てブラフだった。
影絵の魔物はアンリ・マユを喰らったとて次回にその影響が出るような代物ではない。
全ては澪からこれを奪うために行った演技。

「―――Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で心は硝子)」

大口を開けて迫る魔物の線を切り払う式。
だが、魔物は霧散しても再度集合して式に襲いかかる。
士郎に比べれば、なんてことのない野生の雑な攻撃。
とはいえ、式も日本刀を失い、弱体化した身。
下手を打てば、殺される可能性もある。

「そこで足止めされ続けていろ、両儀式
「……まずはこいつから片付ける必要がありそうだな」

一旦、詠唱の阻止を意識の外に置き、魔物を操る荒耶を狙う。
式はそう考え、魔物へと向き直る。

「―――I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)
   Unaware of loss.(ただ一度の敗走もなく)
   Nor aware of gain.(ただ一度の勝利もなし)」

当初は機関銃を警戒していたが、どうやらすでに弾は尽きていたらしい。
荒耶も最早機関銃をブラフに使う気はなく、魔物の操作に集中していた。
その様子を眺めつつ、徐々に荒耶への距離を縮める式。
あくまで時間稼ぎに終始する荒耶の戦法にあえて乗りつつ、着実に目的を達成する。

そんな式の堅実さが実を結んだか。
突如、影絵の魔物はその姿を消す。

「―――む」
「なんだか分からないが、この機に仕留める!!」

あるいはこれ自体が罠かもしれぬとも思うが、今はそれに構ってはいられない。
魔物が消えた次の瞬間には式は荒耶目掛けて疾駆していた。

「―――With stood pain to create weapons.(担い手はここに独り)
   waiting for one's arrival(剣の丘で鉄を鍛つ)」

影絵の魔物が消えた理由は唯一つ。
その稼働時間を超過したためだ。
先に澪が美穂子を奇襲にて殺し、士郎に襲いかかった時間。
そして今回、荒耶が式を足止めするために使った時間。
それを加算すると、ちょうど先程で10分経過する頃合いだった。

「その首、貰い受ける!」
「不具、金剛、蛇蝎、」

襲いかかる式に対し、荒耶は六道結界を張る。
九字兼定無き今、結界で式を足止めが可能。

「それでオレを食い止められるか?」

式は迷わずルールブレイカーを結界に突き刺す。
その瞬間、結界が消えていく。

「なんだと……?」
「この短刀、魔術効果のキャンセルができるんだとさ。
 お前の結界も”殺せる”みたいだな」

ルールブレイカーは単に契約を破棄するだけの代物ではない。
その実はあらゆる魔術効果のキャンセル。
奇跡すら起こし得る令呪による契約を破棄できるほどの代物であるが故、荒耶の結界をかき消せない道理はなかった。

「よもやそのようなものを持っていようとは……」

二枚目、三枚目と結界をあっさり破壊していく式の様子を見ながら、荒耶は独りごちる。

「――I have no regrets. This is the only path.(ならば、我が生涯に意味は不要ず)」

さらに詰め寄る式に対し、荒耶は手に持つオレンジのトランクケースを投げつつ後退。
式はそれを殺して、さらに前進。

「―――ふ」

そこで突如笑みを浮かべた荒耶。

「……何がおかしい」
「両儀式。お前はよく私をここまで追い詰めたと思うが、遅かったようだな」
「なんだって?」
「衛宮士郎の詠唱はまもなく終わる。そして、私の悲願は達成される」

その言葉を聞くが早いか、式は反転して士郎目掛けて走り始める。
無駄なことをと言わん限りの視線を荒耶から浴びつつ。

「さあ、衛宮士郎。今こそ心象世界を体現させ、根源への道を開く時だ……」

それは祈るがごとき言葉。
荒耶は己に出来る事全てを行い、達成した。
あとは士郎の成功を待つのみ。

一方、荒耶の前から離れて士郎目掛けて走る式。
嫌な予感を孕みつつも、士郎の詠唱を阻止すべく疾駆する。
―――だが、それは決定的に間に合わなかった。

「―――My whole life was “unlimited blade works”(この体は、無限の剣で出来ていた)」

ここに衛宮士郎の詠唱は完了した。
こうして衛宮士郎の固有結界は世界に侵食する―――

…………………………

………………

……

「……?」

―――何も、起こらない。
詠唱を終えても、何も起こらない。

(何か間違っ……?)

「隙だらけだ」

静止した空間を真っ先に動き出した式。
詠唱を終えて呆然としている士郎の死の線を一気に引く。

「がっ……!!」

まともに死の線を切られた士郎はその場に崩れ落ちる。
これで士郎の生命は終わり―――

「ぐっ……!!」

いや、斬られる瞬間、咄嗟に下がったことによって傷は僅かに浅かった。
これにより、なんとか即死することは免れた。

「荒耶、逃げたのか……?」

士郎を一刀の下に斬り伏せた式は、油断なく荒耶の動向を探る。
だが、肝心の荒耶は既に闇の向こうへとその姿を隠していた。
何が目的だったのかは知らないが、敗走した以上は奴の目的を封じる事ができたのだろう。
ようやく式はひと息つく。
そして―――

「ぐっ、お、俺は……?」
「……お前、人間に戻ったのか?」

◇ ◇ ◇

プシュー。

空気を押し出すような音が辺りに響き、景色は動き出す。

駆けに駆けた荒耶の向かった先。
それは先程までいた戦闘場所と同じエリアにある駅。
すなわち、F-3駅。
戦闘場所からわずか500メートルも離れていないこの駅まで数分で走破し、その勢いで東に向かって運行している電車に飛び乗っていた。

そして、電車は動き出す。
荒耶は席に座って先程までの動きを回想する。

衛宮士郎の固有結界で根源に至る計画。
先程を見ての通り、見事なまでの失敗に終わった。

それは何故か。
抑止力と簡単に切り捨ててしまうことも可能といえば可能だろう。
だが、それを防ぐために荒耶は出来る事はすべてやった。
衛宮士郎の魔力補完、両儀式との対決のお膳立て。固有結界詠唱までの道筋。
要所要所に想定外があったものの、荒耶の手腕は見事そのものだった。
これ以上は望むべくもないプロデュース。

それを以てしても計画は失敗した。
荒耶はその理由を薄々感づいていた。

「衛宮士郎に固有結界を発動させるには早すぎた、か」

そう。あの時あの場面。
衛宮士郎が固有結界を発動できるという確固たる理由があったか?

―――否。

あの衛宮士郎は自らの理想の末路と対峙しておらず、その経験すら引き出すこともなく、あまつさえ白井黒子福路美穂子と触れ合って人間性を取り戻しかけていた。
そんな人間が自分の理想の果てである固有結界を発動できるかといえば、どうあっても難しい。
起源の覚醒を促して、固有結界の発動条件の足しにしようと目論んだが、それも全くの徒労に終わった。
結局、あの場面ではどうあっても固有結界を発動させることは出来なかった。
やるのであれば、士郎をまだまだ導く必要があっただろう。

しかし、それでも荒耶にはあの場面でしか士郎の固有結界を促す機会はなかった。

元々、荒耶は士郎をもっと長いスパンで導く予定だった。
ルルーシュ組とその他対主催組の反目を利用し、長期的に士郎を教育し、ゆくゆくは式を巻き込んで固有結界を使わせる腹積もりだった。
それが何故、このような拙速の行動をさせるに至ったか。

その理由の中核を成すのは東で起きた一方通行の5人殺害である。
薬局で起きた殺戮劇により、この場での対主催とマーダーのバランスに大きな変動が起こった。
織田信長や一方通行といったマーダーの強者は未だ健在。
それらに比べて対主催の戦力は圧倒的に低い。
ともすれば、あっさりと優勝者が出るような状態になってしまっていた。
そんな状況下で不確定な固有結界を利用するため、悠長に衛宮士郎や福路美穂子を連れて歩いていられるか?
答えは否。

ギャンブル船に向かう途中で薬局の惨事を探知した荒耶は焦らざるを得なかった。
それに続くようにして、ギャンブル船に襲いかかる大型機械。
そして、こちらへ向かう両儀式。

いくつかの事象が重なって荒耶はここで士郎を使い潰す決心をした。
それで根源に至れるのならば、よし。
人事を尽くしても至れぬのであれば、単独で退いて再度策を練り直す。
退くのであれば駅へ―――

それが、今回の顛末である。

「衛宮士郎を使い潰してしまったのはもったいなかったが、致し方あるまい」

次はどうするか。
そこが荒耶の思案のしどころであった。
何をするにせよ、後は単独で根源に至る道を探るほかない。
その為には自らの身体を万全に整える必要がある。
展示場の地下から工房へ向かうのがベスト。
駅へ来たのはそういった理由によるものだ。

思案を終えた荒耶は瞑目して次の駅を待つ。
次こそは根源へ。
それのみを存在意義として、荒耶は進み続ける。

【F-3~F-5間/電車内/二日目/黎明】

荒耶宗蓮@空の境界】
[状態]:身体適合率(大)、身体損傷(中)、格闘戦闘力多少低下、蒼崎橙子に転身
[服装]:白のワイシャツに黒いズボン(ボロボロで埃まみれ)
[装備]:オレンジ色のコート
[道具]:凛のペンダント(魔力残量:極小)@Fate/stay night
[思考]
基本:式を手に入れ根源へ到る。
0:展示場の地下から工房に入り、身体の調子を整える。
1:体を完全に適合させる事に専念する。
2:信長を利用し、参加者の始末をしてもらう。
3:必要最小限の範囲で障害を排除する。
4:利用できそうなものは利用する。
[備考]
※B-3の安土城跡にある「荒耶宗蓮の工房」に続く道がなくなりました。扉だけが残っており先には進めません。
※D-5の政庁に「荒耶宗蓮の工房」へと続く隠し扉がありますが崩壊と共に使用不可能になりました。
※エリア間の瞬間移動も不可能となりました。
※時間の経過でも少しは力が戻ります。
※今現在、体は蒼崎橙子そのものですが、完全適合した場合に外見が元に戻るかは後の書き手にお任せします。
海原光貴(エツァリ)と情報を交換しました。
※A-7の櫓に、何かしらの異常が起きた事を察知しました。
バーサーカーを倒したのは、ルルーシュであると確信をしています。
※何か強力な武器が手に入ったら、信長に渡す約束をしています。
※一方通行の異常に気付きました。
※イリヤが黒幕である事を知っています。

[備考]
※E-3/東部にて大規模な爆発が起きました(エリアを超える程ではありません)。
 どの程度まで爆音が響いたかは、後の書き手にお任せします。
※濃姫のバンカーバスター@戦国BASARAは破壊されました。
 E-3/東部の爆心地に残骸があるかもしれません
※影絵の魔物@空の境界は両儀式により両断されました。

◇ ◇ ◇

「……お前、人間に戻ったのか?」

怪物から人間へ。
士郎は人間へと立ち戻っていた。
その理由はやはりルールブレイカーにある。
ルールブレイカーによりアンリ・マユとのパスを切断された士郎は次第に落ち着きを取り戻していく。
汚染された精神までは戻らないが、元々鉄の意志を持つ士郎なので、新たに汚染されない限り、なんとか耐えることが出来ていた。
……しかし。

「はは、せっかく戻っても、これじゃあ、な……」

士郎の傷は致命的であった。
ルールブレイカーによってアンリ・マユから解放されたとはいえ、直死の魔眼による傷は癒すことも出来ない。
こうしている間にも士郎の命は刻一刻とすり減っていく。

「悪いが、謝らないぜ。殺しに来るなら殺し返されても文句は言えないんだからな」
「ああ。俺は俺の信念に反した行動を取ってしまった。
 なら、これは俺に取っての罰なんだよ」
「……」
「……」

沈黙。
元々、二人とも話すのが得意なタイプとは言えない。
ましてや殺しあった間柄で何を話そうというのか。

「……なあ」
「なんだよ」

それでも士郎にはその相手に話すべきことが残っていた。
今から死に逝く自分が最期に出来ることを、自分の証を残すために。

「2つ、頼みたいことがあるんだ」
「2つもか。欲張りな奴だな」

欲張りと言いつつも、式は口を結んで士郎の言葉を持つ。
この少女でも自分を殺してしまった事に負い目を感じているのか。
そう思うと、士郎は少しだけおかしくなった。

「なんだよ」
「いや、すまない。1つ目だけど、秋山に『守れなくてすまなかった』と伝えて欲しい」
「……まあ、無事会えたら伝えてやるよ」

それで2つ目は?と問う式。
士郎はしばし眼を閉じて感慨に耽る。
式はその様子を何一つ言わずに見守り続ける。
そして、士郎は再び眼を開ける。

「2つ目。白井黒子という少女を守って欲しい。
 ……あいつには、死んで欲しくないんだ」

敵に頼むのもおかしな話だが、士郎にはこの少女が不器用ながらも一本筋が通った人間であることが分かっていた。
この少女になら心残りを託せる、そんな気持ちを覚えていた。

「守って欲しい、か……前に秋山がそう言ったときは刀をくれたんだけどな」
「へえ。なら、俺もそうしようかな」

守って欲しいならお前の力で刀を作れよと言うようなニュアンスで式がそんな事を言い出したので、士郎は折ってしまった九字兼定を持ってくるように伝える。
式は九字兼定を持ってきて士郎に持たせる。

「―――トレース・オン(同調開始)」

その言葉と共に士郎の魔力が九字兼定を駆け巡る。
これより始まるは剣に特化した魔術師の真骨頂。
そして、その最期の魔術。

「これが俺の最期の魔術だ。とっておきのを作ってみせる。
 はぁぁ―――トレース・オン(投影開始)!!」

士郎が最期の魔力を振り絞り、魔術を行使する。
そして出来上がったもの。
それはオリジナルと寸分違わぬ出来の九字兼定と言えた。

「どうだ、出来は?」
「凄いもんだな……本物と全く変わらないように見える」

投影された九字兼定を持つ式は感心したようにして、刀を振る。
切れ味どころか、年月を経なければ手に入れられない能力までも再現されているように見えた。

「それで、俺の頼みは……」
「分かったよ。これほどまでの物を貰ったんじゃあ、聞かないわけにはいかない」
「そうか。ああ――安心した」

魔力の全てを使い果たした士郎はその言葉を聞くと、心底安堵したような声を出す。
そして始まる沈黙。

「逝った、か」

そのまま眠るようにして士郎は息を引き取った。
剣の魔術師の、これが最期の戦場だった。

「……これからどうするかな」

現状、式が取れる行動は2つある。
ホバーベースへ向かったであろう澪を追うか。
それとも、未だに謀事を企んでいる荒耶を追うか。

荒耶の行く先は不明だが、放置しておくには危険過ぎる存在であるのは確か。
ただ、荒耶を遮二無二に追っていると、澪らの危機に駆けつけられない恐れもある。
荒耶が澪を殺さなかったのは、そうして追撃の手を緩めさせる目的もあったのだろう。

「白井黒子って奴も見つけなくちゃならないな」

士郎からの最期の頼み。白井黒子を守るという約束。
刀を受け取った以上、それを無視するわけにはいけない。

「さてさて、どうしたものか」

殺人鬼は暫しこの地にて行く先を考える。
その手には想いの込められた九字兼定が握られたまま……。

【F-3/ギャンブル船前/二日目/黎明】

【両儀式@空の境界】
[状態]:疲労(小)・ダメージ(小)・切り傷多数
[服装]:白い和服(原作第五章・荒耶との戦いで着たもの)
[装備]:九字兼定(投影)@空の境界
[道具]:基本支給品一式(水1本消費)、首輪、ランダム支給品0~1 、ルールブレイカー@Fate/stay night 、武田軍の馬@戦国BASARA
    陸奥守吉行@現実、鬼神丸国重@現実
[思考]
基本:私は死ねない。
0:さて、これからどうするかな……。
1:当面はこのグループと行動。でもルルーシュは気にくわない。
2:澪との約束は守る。殺そうとしてくるヤツを……殺す?
3:士郎との約束に基づき、白井黒子を守る。
4:荒耶は確実に殺す。
5:刀を誰かに渡すんだっけ?もったいないな……。
6:浅上藤乃……殺し合いに乗ったのか。
7:荒耶がこの殺し合いに関わっているかもしれないとほぼ確信。荒耶が施したと思われる会場の結界を壊す。
8:首輪は出来るなら外したい。
[補足]
※A-5の敵のアジトが小川マンションであると分かりました
※以下の仮説を立てています。
 ・荒耶が殺し合いの根幹に関わっていて、会場にあらゆる魔術を施している。
 ・施設に点在している魔法陣が殺し合いの舞台になんらかの作用がある。
 ・上の二つがあまりに自分に気付かせんとされていたこと自体に対しても疑念を抱いている。
 ・首輪にはなんらかの視覚を始めとした五感に対する細工が施されてある。または魔眼の効果を弱める細工がある。
※ルルーシュと情報交換をしました。阿良々木暦が殺し合いに乗っていると吹き込まれました。
平沢唯から聞いた信頼できる人間に刀を渡すというプランを憶えています(引き継ぐかは不明)
※荒耶が生きていることを知りました。

【備考】
※F-3/ギャンブル船前にミニミ軽機関銃(0/200)@現実と澪のサザーランドが放置されています。
※士郎のデイパックは士郎の遺体が背負っています。
※今の九字兼定は投影品です。耐久力や存在していられる期間などは後の書き手にお任せします。

◇ ◇ ◇

ああ、俺は今まで何をしていたのだろう。
着物の少女に斬られた瞬間、突如思考がクリアになった。
あれほど聞こえてきた呪詛も今はもう聞こえない。
今なら、衛宮士郎本来の姿に戻れる。

「はは、せっかく戻っても、これじゃあ、な……」

傷を見やると、それはもう深手に違いない。
あの少女の能力は刀剣類にとどまらず、やはり人体にも作用するものだったのだろう。
即死を避けても、迫る死に抗うほどの事は出来なかった。

「悪いが、謝らないぜ」

そう、謝らなくていい。
決定的に、根本的に間違ってしまったのは俺自身なのだから。
秋山だってこの地獄さえ見なければ、あそこまで変容することはなかった。
……守ってやるべきだったんだ。

「2つ、頼みたいことがあるんだ」

そして、俺は切り出す。
もう何も出来ない自分に変わって、目の前の少女に全てを託すために。
本来ならば、先程まで戦っていた相手に何かを託すなんておかしな話だが、この少女は信頼できる。
なんとなく、そんな気がした。

「2つもか。欲張りな奴だな」

欲張りと言いながら、その表情は冗談を言ってるわけでもなく、至極真剣なものだ。
彼女とて怪物はともかく、人間を殺したくはなかったのだろう。
そのような負い目が、せめて願いぐらい聞いてやろうと思ったのか。
じっと言葉を待つ彼女に感謝しなきゃならないな。

「1つ目だけど、秋山に『守れなくてすまなかった』と伝えて欲しい」

心残りだった。
ギャンブル船で別れてから色々なことがあっただろう秋山。
せめてもっと早く駆けつけてやれれば、まだ救えるはずだった。
だって、あいつは……決定的なまでにこの場所に向いていない人間なんだから。

「……まあ、無事会えたら伝えてやるよ。それで、2つ目は?」

2つ目、か。
言う願いは決まっている。
あいつと共にいた記憶が頭を駆け巡る。
ある時は俺を止め、ある時は俺を諭し、ある時は共に歩んでくれたあいつ。

黒子……。

「2つ目。白井黒子という少女を守って欲しい。
 ……あいつには、死んで欲しくないんだ」

黒子。あいつにだけは死んで欲しくない。
俺が死んだら、あいつは悲しむだろう。
また縋るものがなくなって悲嘆にくれるかもしれない。
だが、それでもあいつはまだ生きている。
そして、俺はあいつに生きていてもらいたい。
……俺の分まで、生きて。

「守って欲しい、か……前に秋山がそう言ったときは刀をくれたんだけどな」

刀、か……。
さっきまでの俺を見て言ってるのか。
なら、残り少ない魔力が尽きようとも、衛宮士郎として最期の魔術を、最期の投影を以て、彼女との誓いを立てよう。

「―――トレース・オン(同調開始)」

九字兼定か……この戦場にはこんな名刀がいくつもあるんだな。
不思議とこの刀は目の前の少女に似合う気がした。

「これが俺の最期の魔術だ。とっておきのを作ってみせる。
 はぁぁ―――トレース・オン(投影開始)!!」

魔術回路が全て焼き切れてもいい。
今はこいつを、万全以上の九字兼定を作り上げることに集中する。
そして、九字兼定が出来上がった。

「どうだ、出来は?」
「凄いもんだな……本物と全く変わらないように見える」

随分嬉しそうに刀を振る少女だ。
よほどその刀に思い入れがあったのか。
オリジナルを壊してしまって、悪いことをしただろうか。

まあ、そんな事はどうでもいい。
今、俺が聞きたいことはそんな事じゃない。
魔力も使いきって、最期は近い。

「それで、俺の頼みは……」
「分かったよ。これほどまでの物を貰ったんじゃあ、聞かないわけにはいかない」

少女は断言するように言った。
この刀を以て契約を受け入れると。
力強いその言葉を聞けば、黒子の事を迷うことなく託せるだろう。

「そうか。ああ――安心した」

いつしか、どこかで聞いたような言葉を俺は発していた。
どこかで―――そう、この言葉は爺さんが放ったものだ。
爺さん、あんたが逝く時もこんな想いを抱いていたのだろうか。
俺に全てを託し、安心して逝ったのだろうか。

だとしたら、爺さんには悪いことをしたな。

―――爺さん、俺も正義の味方にはなれなかったよ。




【衛宮士郎@Fate/stay night   死亡】


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284:理想の果て(前編) 衛宮士郎 GAME OVER
284:理想の果て(前編) 荒耶宗蓮 289:絆キズナ語ガタリ 半端者・阿良々木暦
284:理想の果て(前編) 両儀式 285:正義の味方


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最終更新:2010年10月14日 01:14