第五回定時放送 ~黒衣の男~ ◆MQZCGutBfo



宮永咲にネット麻雀の教示を行った後、最後のサーヴァントを回収にきた黒衣の男。

物言わぬ骸と成り果てた英霊の姿を見下ろす。


だが、黒衣の男の目に映っているものはこの英霊ではなく

―――飛空船から出る際に死を伝え聞いた、一人の少年である。


この英霊が誰の行く末なのかは既に知識として得ている。
だが、この英霊と成るはずだった少年も、既にこの地には存在しない。


「ふむ……些か期待しすぎたか……」


黒き神父は我知らず嘆息する。


荒耶宗蓮が付いていれば或いは……と思ったのだがな」


―――衛宮士郎
無様にも己の固有結界を発動させることなく、無為に死んでいった男。


言峰綺礼の天敵であった、衛宮切嗣。

その切嗣の養子となった、衛宮士郎。


―――知らず、鼓動のない左胸を掴む。

拭いきれぬ澱を残していった我が宿敵。
そして、再び我が前に立ち塞がる可能性のあった男の死。

「…………つまらぬ感傷だな」


静かに首を振り、アーチャーの遺体を抱え上げる。

すると、小型のインカムから焦った声の通信が入った。


『言峰様!言峰様!応答願います!!』


片手でインカムの通信をONに切り替える。


『……なんだ』
『はっ、御報告致します!
 ディートハルト・リートインデックス、宮永咲。以上三名が離反!!
 リボンズ様を殺害し逃走中です!!』
『ほう……』


愉快そうに目を細める言峰綺礼。


『イリヤスフィール様は既に神殿から動けず、忍野様もお戻りになられておりません。
 リボンズ様が亡くなってしまったことにより、【妹達】も機能停止しています』

『……ふむ、ディートハルト・リートがな……これは面白い』
『は?』
『いや……分かった。すぐに戻るとしよう』


遺体を抱え直し、落ちつき払った様子で歩き始める。



言峰綺礼が飛空船に帰還し、指令室に入っていくと、明らかにホッとした顔を黒服達が見せる。


「さて……状況はどうなっているかね?」


黒服達のリーダー格の男に話しかける。


「はっ、各所に配置していた『妹達』が機動停止しているため関連ネットワークも寸断。
 現在補助防備システムに移行中です。

 逃走した三名の内、ディートハルト・リート、インデックスに関しては依然として行方を掴めておりません。
 監視カメラの位置はディートハルトによる差配で設置されておりましたので、恐らく死角を縫って移動しているものと思われます。

 宮永咲に関しては確保しましたが、左腕が無い状態で現在治療タンクにて安置中。
 ただし、誰が治療タンクに入れたのかは判明しておりません。」

「……ほう?」

「その……いつの間にか治療タンクの中に居たそうです。
 また、残り二名に関してはオートマトンを投入すれば、確保は難しくても始末はできると思いますが……」

「放っておけ」
「はっ?」

あっさり言い捨てる言峰に対し、唖然と黒服リーダーが反応する。

「構わんと言ったのだよ。放っておけばいい」
「し、しかし……」
「……まずはシステムの掌握と体制の立て直しが急務ではないのかね?」
「は、はっ!」


黒服リーダーが引きさがり、そのまま各担当者へ指示を出し始める。
そして入れ替わるようにして放送担当の黒服が言峰に問いかける。


「そろそろ放送の時間ですが、インデックスが離反してしまった為、
 この台本通りに進めなくなってしまいましたが……」
「ふむ……」


―――しばし言峰は考え。


「……原村和を連れてくるといい」



黒服に連れられてきた原村和は、目の焦点が合わないまま歩き、

「さきさん……さきさん……」

と呟きながら、大事そうに『左腕』を抱えていた。


「……ほう、これは」

愉快そうに原村和を見つめ、次いで連れてきた黒服に目を向ける。

「部屋に入ると、既にこの状態でした」

黒服は何が何やらと首を振る。
ふむ、と頷き原村に向かって問いかける。


「原村和よ」

反応はなく、変わらずに左腕を必死に抱きかかえている。

「……宮永咲を助けたいかね」


ビクンと、弾かれたように言峰に目を向ける。
もう一度、噛んで含めるように言い聞かせる。


「宮永咲を、助けたくはないかね」
「咲……さん。助けたい……助けたいです!」


原村和の回答に満足そうに頷き。


「ならば、私に協力してくれるかね?」
「はい……咲さんを助けられるのなら、何でも……」
「よろしい」

愉悦の表情を見せ、満足そうに頷く神父。
放送担当の黒服を呼び、準備を進めさせる。



「……こ、この島での放送も丸一日が経ちました。

これより、第五回定時放送を開始します。
今回からパーソナリティが変更となり、私、原村和が連絡事項をお伝えいたします。

連絡事項は一度限りの通達となりますので、ご注意ください。


………………


…………


……


よ、よろしいでしょうか?連絡事項をお伝えします。


まずは電車の運行についてお知らせします。

【D-6】駅の復旧作業が完了しました。
しかし、現在【F-3】駅周辺が倒壊しております。
これに伴い、現在全線運休とさせて頂きます。なお、復旧の目途は現在立っておりません。
詳細につきましては駅内電光掲示板を御覧ください。


続いて、禁止エリアの発表です。

この放送より3時間後、午前9時より立ち入り禁止エリアが3つ増加します。
今回の禁止エリアは【A-6】【F-1】【G-4】の3箇所です。
行動の際は時間と場所にお気をつけください。


また、この放送後、各地の施設に商品が追加されます。


最後に、前回の放送から今回の放送までの6時間で死亡した参加者の名前を読み上げます。
今回もこちらで死亡を確認した順番となります。



以上、10名です。残り参加者は12名となります。

これをもちまして、私からの連絡事項の通達を終了します。
最後に、遠藤より代わりました担当者より、皆様にメッセージがございます」




「さて…………

 遠藤の声を心待ちにしていた者には申し訳ないが。

 今回より私、言峰綺礼が担当することとなった。
 以後、よろしく願いたい。


 この放送期間で10名も死者が出たことは喜ばしいことだ。

 死んだ者が多いのが喜ばしいのではない。
 その『死』によって起こる波紋が多いこと、それが喜ばしいのだ。

 『死』ひとつひとつが、お前達の心にどう影響を与えたのか。
 一人一人に是非聞いてみたいものだ。


 殺人を犯すということを、その身に深く刻みつけてほしい。

 何故己は他者を殺さねばならなかったのか。
 何故あの大切な人間が殺されねばならなかったのか。

 『死』そのものではなく、その『死』による影響をこそ、ヒトは糧とすることができる。


 また、生死事大、無常迅速という。

 長生きすることが幸せなのか。
 短命で死ぬのが不幸なのか。

 『死ぬまでにどう生きるか』が重要だとは思わないかね?


 この島における『生』と『死』の縮図から、お前達は何を失い、また何を得るのか。
 是非最後の一人となって、私に教えて貰いたい。


 楽しみに、その刻を待つこととしよう。


 以上だ」




「あ、あの……途中詰まってしまって……」
宮永咲の腕を抱きしめ、怯えながら黒衣の男を見上げる。

「何、構わん。練習なしでは上出来の部類であろうよ」
言峰の発言にホッと安堵する原村和。

「それで私はこれからどうすれば……」
「色々と協力して貰うことになるかもしれんが……まずは今まで通りの作業で良い。何かあればまた連絡をする」
「は、はい、わかりました。…………それで、あの、咲さんは………」

『左腕』の指一本一本を自身の指に絡ませ、ぎゅっと胸に抱きしめ、怯えを表情に表わしながら相手を窺う。
すると、安心させるように神父は原村の肩に手を置いた。

「案ずることはない……宮永咲は生きている。
 …………『無為に』殺すようなことはない」

「は、はい!……ありがとうございます」

黒服に促され、自室へ連れられて行く原村和。
その姿を見送った後、リボンズが指揮をしていたソファに腰掛ける。


「…………逝ったか。魔術師、荒耶宗蓮」

白井黒子の死亡と共に、参加者ではない別の女の死亡も映像で確認できたという。
伝え聞いた容姿から、荒耶宗蓮であろうと確信する。


「おまえの見せる『救済』とやらにも興味があったのだがな…………残念だ」

残念そうにも見えぬ表情で、黒服が持ってきたグラスを掲げる。

「眠るがいい、荒耶宗蓮」


紅き液体を飲み干し、思案を纏める。


―――リボンズ・アルマークは生きていると見ていい。

黒服達とは別系統で宮永咲を捕え、かつ腕を原村和に渡すなどという行為は、
あのアインツベルンの人形による指示ではあるまい。

ならば―――他にそのようなことができる者は、リボンズを置いて他にはいない。


「どういうつもりかは知らぬが……こちらも勝手に楽しませて頂こう」


宮永咲の腕と一緒に入っていたという、天使の絵が描かれたカードを眺める。


『20.審判』――ジャッジメント――

正位置ならば、再生。復元。復縁。復活。再婚。再開。再会。改善。覚醒。仲直り。最終的な決断。
逆位置ならば、離婚。執着。挫折。離別。沈滞。固執。悲観的。粘着気質。再起不能。悲しい別れ。


「……下らぬな」


そのタロットカードを放り投げると、カードは宙を舞った後、逆さまの位置で指揮卓上に落ちた。


「…………私は、他人の不幸にこそ至福を感じる。だからこそ、この計画に乗ったのだ」


―――アインツベルンの悲願などには元より興味はなく。
その過程におけるヒトの憎しみ、悲しみにこそ興味があった。


そして―――



「何もかも無くし、何もかも壊したあと、ただ一人残ったモノが、果たして自身を許せるのか。


 ―――私はそれこそが知りたい」



優勝者が出れば、そのモノとの問答を楽しめるだろう。


だが、リボンズ・アルマークが望むように、徒党を組み主催者へ挑むなどという下らぬ結果となるのなら―――


リボンズ・アルマークが表へ出てこないのならば重畳だ。
既に『アレ』には五つの英霊の魂が入り、最低限の機能は行えるようになっている。


―――その時は、そちらを優先させるのみだ。

【???/飛行船・指令室/二日目/早朝】

【言峰綺礼@Fate stay/night】
[状態]:健康
[服装]:神父服、外套
[装備]:???
[道具]:???、麻婆豆腐の詰まったタッパー
[思考]
基本:???
1:ただ一人残ったモノへの問答。
2:参加者が主催者へ戦いを挑んだ場合、『アレ』を優先させる。
3:この立場でバトルロワイアルを楽しむ。
4:ディートハルト・リートとインデックスの離反を楽しむ。
5:原村和、宮永咲の使い方を考える。


【???/飛行船・原村和の部屋/二日目/早朝】

【原村和@咲-Saki-】
[状態]:健康、恐慌状態、言峰綺礼への精神的従属
[服装]:私服
[装備]:エトペン@現実
[道具]:デスクトップPC×数台、会場監視モニタ×数台、質問対応マニュアル(電子ファイル)、宮永咲の左腕
[思考]
 基本:帝愛に従い、咲さんを救う
 1:咲さんが心配。早く直接会って救い出したい。
 2:咲さんを救うために、言峰綺礼に従属する。
 3:役割(麻雀・サポート窓口)をこなす。
 4:どうせ打つなら守る為の麻雀を打ちたい。
 5:忍野メメを警戒。従ってはいるものの、帝愛は許せない。
 6:【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】が帝愛にとっての最重要施設?
 7:私には、帝愛に与えられた役割を果たすことしかできないんでしょうか……?
 8:東横さん、天江さん……。
[備考]
※登場時期は最終回の合宿終了後です。
※基本的に自分の部屋から離れられません。
※監視されていること、異世界から集められていることを知っています。
※【櫓】が鬼門封じの重要施設。【円形闘技場】、【象の像】、【遺跡】のどれか、もしくは全てがこの島の最重要施設だと考察しています。
※以下の事柄はSOA!と思っています。
 ・死者が蘇る。

時系列順で読む


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281:おわりのはじまりⅤ「最後の挨拶」 言峰綺礼 293:ラストプロローグ『生地巡礼/死地観覧』
290:許せないのどっち(後編) 原村和 294:プロローグ/モノローグ


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最終更新:2011年09月02日 01:00