薔薇アッー! 俺がガンダムなのか!? ◆8d93ztlX9Q



太陽光発電所。そこはその言葉で表すには余りにも大規模だった。
ソーラーパネルが数百基犇めく屋根。MSの製造工場と言っても通じるだろう敷地。
G-1及びG-2エリアの陸地の90%以上を占めるその威容は、刹那・F・セイエイを引き寄せた。

「ここならばモビルスーツがあるかもしれない……」

刹那はぼそりと呟くと、見張りが居ないことを確認して発電所に侵入する。
入り組んだ通路を歩きながら、今回の一件について考えをめぐらせる。

(殺し合いか……イノベイターとの最終決戦を前に厄介な事になったな)

既に名簿の確認は終了済み。顔見知りはアリー・アル・サーシェスグラハム・エーカー
どちらも危険な存在……世界の歪みだ。少なくとも自分の味方ではない。
奇妙に冷静な思考を巡らせながら、刹那が通路の角を曲がる。
人類初の純粋イノベイターとして覚醒しつつある刹那は、この状況でもなんら普段と変わらぬペースで体を動かせた。

(名簿に乗っていない12人の参加者……普通に考えるならば帝愛の回し者だろうが、こちらをかく乱するための
 罠とも考えられる。ロックオンやティエリア、それにこの状況を考えればスメラギ・李・ノリエガがいてくれればいいが)

自分が所属する組織、ソレスタルビーイングの優秀な戦術予報士に考えが至ったところで、刹那は足を止めた。
ゴウン、ゴウン……聞き覚えのある起動音が、目の前のドアの向こう側からしている。
ドアを開けると、そこには――――。

「エクシアの太陽炉……!」

自分のかっての愛機、エクシアに搭載され、今はダブルオーガンダムに移植されたはずの太陽炉が稼動していた。
地下まで空いた空洞から伸びる柱を見回す、円周状の部屋。柱の頂点、刹那の視線の先に掲げられた太陽炉。
複数のパイプに繋がれ、どこかにエネルギーを供給しているように見える。

「何故ここに……」

初めて狼狽したような様子を見せ、空洞を見回しながら部屋を回る。
人力では取り外せそうもないし、そもそも道がないので近づけない。
刹那は名残惜しそうに太陽炉を眺めていたが、入ってきたドアの丁度向かい側の位置まで来て、
初めて太陽炉から目を離した。そこにもドアがあったからだ。敷地面積と自分が歩いてきた距離を考えると、
まだ八割ほどのスペースが残っているはず。まさか、この向こうにも幾つかの太陽炉があるのだろうか。
あるいは、太陽炉を失ったエクシアかダブルオーが……!?

「今行くぞ! ガンダム!」

ドアを開け放ち、駆け込んだ刹那の目に映ったのは……。

「これは……」

『男湯』 『女湯』






                        『  G  N  ス  パ  』










看板に書かれた説明書きを見る限り、この巨大な施設の面積の約八割が入浴施設らしい。
入る者の愉しみと健康保持を熟慮した、数多の風呂。露天風呂はさすがにないようだが。

「何故発電所に入浴施設が……?」

一瞬困惑する刹那だったが、考えても仕方ない。実際に目の前にあるのだから……。
すぐに落ち着きを取り戻し、支給されたバッグから、車のハンドルほどの機械を取り出す。
それは、首輪探知機だった。周囲1kmの首輪の反応を拾い、表示する。

「本当ならエリアの中心で使いたかったが……ここから先がしばらく風呂場なら、機械を持ち込むのは危険だ」

起動スイッチを押し、ディスプレイを確認する。この機械はどうも欠陥品らしく、常時エネルギーを蓄えているが、
一時間チャージしても一分弱ほどしか起動できないと付属された取説に記載されていた。
周辺のかなり詳しい地形、そして首輪の現在地が表示される。自分の反応は除いて、映った反応はひとつ。

「女湯には……誰も居ないようだ。男湯に一人。この状況で風呂に入るとは、まともな人間ではなさそうだな」

男湯の暖簾を潜り、脱衣所に入って服を全て脱ぐ(全裸)。
腰に置いてあったタオルを巻きつけ、堂々と風呂内部に侵入した。

「電気風呂、ジャグジー風呂、麻婆豆腐風呂、麻雀風呂……なるほど、スパというだけはあるな」

入り口からすぐの掲示板に様々な風呂の案内と見取り図が書かれていたが、それらを物色するほど暇ではない。
刹那は先ほど探知した位置、個室風呂に歩を進める。
十数分後、刹那はその部屋の前にたどり着いた。耳を澄ませば、チャプチャプと水音が聞こえる。
まだ入っているらしい。刹那はノックも遠慮もなく、ドアを開け放って湯気に目をしかめる。
遅れて薔薇の香り。中に入っていた男は慌てることもなく、刹那を見て微笑む。

「私の名はトレーズ・クシュリナーダ。ご覧の通りの男だよ」

「俺は刹那・F・セイエイ。……ここは個室風呂。特徴のない普通の湯のはずだが、何故薔薇が?」

「入浴剤(エッセンス)だ」

男……トレーズが入浴っている浴槽には、薔薇が浮いていた。
薔薇風呂といったところか……刹那は浴槽の隣の、プラスチック製の椅子に腰を下ろし、トレーズに語りかける。

「……何故スパに?」

「私は心の弱い男でね。自分の心が最も落ち着く行動を選択したに過ぎない」

「そうか。トレーズ・クシュリナーダ……お前は、この殺し合いをどう思う?」

刹那が、率直に探りを入れる。
トレーズが、即刻に答えを返す。

「礼節があるとはお世辞にも言えないな。なにせ、非戦闘員さえも巻き込んでいるのだから。
 戦争としては、これほど悲しいものはないだろう」

「同感だ」

「だが……これは、戦争ではないのだよ」

「……」




トレーズの言葉の意図を読めず、刹那が沈黙する。
押し黙る刹那に、トレーズが畳み掛けた。

「戦争に礼節が必要なのは、戦争が世界を変える為の物だからだ。強者には弱者を正しく支配する義務がある。
 礼節なき殺戮によってもたらされた変革は、世界を、人を変えはしない。支配者が変わるだけに過ぎないのだよ。
 一方、この殺し合いはどうだろうね? 勢力も地位も関係ない、純粋な個々人の争い。私は嫌いでは、ない」

「お前は人を殺すというのか。非戦闘員でも?」

「それがこの戦いのルールならば、そうしよう。私は……人間の本質を知りたい」

「……お前は歪んでいる。争いを望む者は、どんな理由があれ間違っている。変革は争いからは生まれない。
 対話こそが、変革を誘発するんだ。思い直せ、トレーズ・クシュリナーダ。お前は戦闘狂には見えない。
 自分の理想だけが正しいと思うな。自分の理想の為なら何をしてもいいと思うな。お前は正しい事をできるはずだ」

トレーズが、一呼吸置く。
まるで驚いたように。
淡々と会話を交わす二人の動きが止まり、数分が過ぎた。
そして、何事もなかったかのように会話が再会される。

「君は、勝者だな。私とは違うようだ」

「何が違う?」

「君は結果を見ていて、私は過程を見ているということだよ。ああ、君は正しい。
 私の理想など、一人の人間の妄想に過ぎない。君の進む道の先には、きっと正しい未来が待ち受けている」

「……だが、お前はその道を歩くつもりはない、そういうことか」
                  . .
「ああ。私は……道を、踏み正せない。世界は戦い続けてきた。それが間違いだったと君は言う。
 それでも私は、私だけは、最後の最後まで戦い続けたい。間違ってきた人間の最後の一花として散りたい。
 戦うことに疲れた人類の最後のあがきとして、力に置去りにされた心の清算のために、私には戦う義務があるのだ」

「…………」


「私は……敗者になりたい」


刹那が、立ち上がる。
個室のドアの前まで歩き、トレーズに背を向けたまま問い掛ける。

「次に会ったとき、お前の考えが変わっていなければ……俺は、お前を殺す」

「ああ……私と君は、友にはなれない」

刹那は、個室風呂を後にした。
あの場でトレーズを殺さなかったのは、武器がないからでも、肉体の強度で劣るからでもない。
刹那の脳量子波は、トレーズの粛々たる言葉の底に、一縷の迷いを感じていたからだ。
脱衣所で服を着直し、トレーズの荷物らしきものを物色。流石に武器の類は何処かに隠しているようだ。
探せば見つかるかもしれないが……自分にも、一丁の銃が支給されている。

「トレーズ・クシュリナーダ……悲しい男だ」

初めて出会うタイプの男に簡潔に評価を付け、刹那は太陽光発電所を後にした。

【G-2/太陽光発電所前/1日目/深夜】

【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00】
[状態]:健康、ほっかほか、イノベイターとして半覚醒
[服装]:私服
[装備]:ワルサーP5(装弾数9、予備弾丸45発)@機動戦士ガンダム00
[道具]:基本支給品一式、GN首輪探知機(一時間使用不能)@オリジナル、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考]
基本:世界の歪みを断ち切る。
1:島から脱出する。
2:専守防衛。知り合いがもし居たら合流。
3:サーシェス、グラハム、トレーズに警戒。
[備考]
※参戦時期はセカンドシーズン第23話「命の華」から。

【G-2/太陽光発電所内部・GNスパ男湯個室風呂】

【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康、ほっかほか
[服装]:全裸
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2(確認済)、薔薇の入浴剤@現実
[思考]
基本:人の本質を知りたい。
1:この争いに参加する。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。


『支給品解説』

【ワルサーP5@機動戦士ガンダム00】

本編にてアレハンドロ・コーナーが使用していた小型自動拳銃。
何かを主張するかのような金メッキ、エングレービング仕様が施されている。

【GN首輪探知機@オリジナル】

超小型化された擬似太陽炉を搭載した首輪探知機。不可視の改良擬似GN粒子を放出することで、
自分の現在地から周囲1km(エリア1マス分)の首輪の位置をかなり詳しい地形マップ付きで表示する。
擬似太陽炉の無理な小型化により、GN粒子を蓄えるペースが遅く、一時間溜めても一分弱しか稼動できない。
また、常時 擬似GN粒子がダダ漏れであり、何らかの細胞障害事故を引き起こす可能性もある欠陥品。

【薔薇の入浴剤@現実】

薔薇の花びらと香りが濃縮された風呂用薬剤。
一人用の浴槽であれば18~19回分の使用に耐える量が、プラスチックの器に入っている。
食べ物ではありません。


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刹那・F・セイエイ 038;機動戦士ホンダム00~ツインドライヴ~
トレーズ・クシュリナーダ 061:いやあ……兵藤は強敵でしたね



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最終更新:2009年11月13日 20:36