いやあ……兵藤は強敵でしたね ◆mist32RAEs



湯煙が心地よい。
入浴剤のかぐわしい芳香が心と体をリラックスさせてくれる。
力を抜いてゆっくりと手足を伸ばせば、湯船に浸かった五体の隅々までが溶けていくような心地になる。
静かで他には誰もいない広々とした空間は思考をめぐらせるのに最適といえよう。

「さて……まずはこの<<ゲーム>>の核心部分を把握せねばなるまい」

『ロンだじぇ! 東、白、トイトイホンイツ12000!』

ゲーム。これは命を懸けたゲームだ。
個室で説明役が語っていたルールに則ったゲーム。
何者のためのゲームなのか?
――それはもちろん人間だ。人間以外にゲームを嗜む存在など自分が知る限りではいないはずだ。
どんな人間のための?
――殺し合う当人たちではもちろんありえない。
殺すということは元来、とてもシンプルなものだ。
それは端的な言い方をすれば命の破壊行為である。
命とは何かという哲学的な命題はこの際、横においておく。
とすれば、それは肉体を生命活動が不可能なレベルにまで損傷させるという、たったそれだけの味気ない行為だ。
屠殺場で牛や豚を殺すのと変わりはしない。そんなものに喜悦を感じる人間がいないとは言わないが、普通はごくごく少数だろう。
これも悪趣味極まりないことには変わりないが、とりあえずゲームという名のエンターテインメントが成立するには、それとは別のエッセンスが必要となる。
まず、第一。
死という逃れ得ぬ圧倒的なリアルを前に虚飾を引き剥がされた人間の本質を覗き見る愉悦。
下卑た好奇心と言わざるをえないがそれが人間の本質の一部であることもまた事実。
何より己自身も人間の本質を見極めたいと常々考えている。
そして、第二。
誰が生き残るか、勝ち残るかを予想するギャンブル的な要素。古来より競馬からはたまた戦争まで、ありとあらゆる争いごとで行われてきた行為。
だがそれはつまり観客、つまり第三者がいてこそ成立する要素だ。
スポーツにおいても当事者たちは己が勝つために全力を尽くす。
誰が勝つかなどではなく、己の勝利しか考えない。
この殺し合いとてそうだ。負けることは死を意味する。自分の全てが終わるという時に、スリルも興奮も喜悦もエンターテインメントもない。
これは帝愛グループと名乗り、このイベントを監視するものたちにとっての楽しい<<ゲーム>>なのだ。

「……では彼らは一体、どんなゲームを楽しみたいのだろうか?」

『ツモじゃ。タンピンツモイーペーコードラドラ 3000 6000』

遥かな過去、ローマ帝国という国があった。
そこでは戦争で捕らえて奴隷にした異民族同士で、または獣と戦わせ、そして食い殺される様や、逆に獣を討ち取る番狂わせを眺め楽しんだという。
このゲームもそれと同じ類だろう。人間の本質というものは古来より不変だ。
だがそのような下卑た側面だけでなく、光り輝くような奇跡を起こす力も併せ持つのが人間であることも事実。
それゆえに未だその本質を見極めることが出来ずにいる。果たして下卑た醜さと輝く奇跡の力と、どちらが本当の姿なのか。
ともかくいま見極めるべきは、彼らがどんなゲームをしたくてこのルールを定めたのか、だ。
それを見切ることによって、この眼には写らないものも予測し、手の内にいれることが可能となる。
さて、それは単純に血が見たいという残虐な好奇心か。
ならばそれこそ古代ローマのような闘技場で、怪物のごとき凶暴な獣と戦わせればいい。
彼らがこんな会場を用意し、単純な殺し合いから遠く離れた婉曲なルールを作り上げるのは、それとは別のものを見たい欲求があるからだ。
会場が広ければ、そして人数が多ければその分、行動の選択肢は広がることになる。
戦う、逃げる、罠をはる、協力する、騙す、裏切る……やれることは多い。
支給されるアイテムの多彩さと豊富さも幅広い戦略を考える助けとなるだろう。
そのようなルールを定めた彼らの狙いを推測してみる。

「彼らは力ではなく機転や知恵の類を求めている……知略を練り、選択を過たず、そして僅かな天運の細い綱を渡った先に、力の差を埋める逆転の道が用意されているはずだ」

『カン!』

そうでなければ、哀れにも見せしめの役割にされたあの娘のようなプレイヤーは、勝ち残る可能性などゼロに等しくなってしまう。
少なくとも自分が肉体を駆使した真っ向からの勝負で彼女に負けることは考えられない。
ならばそれを覆しうる要素がなければゲームとは呼べまい。それは身体能力の強弱に関わりなく平等なファクター、すなわち頭脳だ。
多少は確率に差があるにせよ、どんな結果でも起こりうるからこそゲームなのだ。
そしてそれに気付かぬ愚者を観察者の立場から嘲笑い、気付いたものを生存する価値のある賢者とするルール。
意地の悪い課題を突きつけ、気付かぬものが馬鹿なのだと、それを知る自分達こそは賢者であり強者であるといわんばかりの傲慢さ。
まさにあの遠藤と名乗る男のイメージとも一致する。
生贄となった少女の首を爆破したとき、あの男は笑っていた。支配の力に酔っていた。
カネで魔法を買ったと、カネは万能だと嘯いた。

「もしそれが真実ならば私はこの世には必要ない。あの遠藤という男も、あらゆる人間は生きている価値がないことになる。
 人はカネなどには支配されてはならないと私は思う。そのような世界は余りに悲しすぎる」

『カン! もいっこカン!』

結果として自分がこの『バトルロワイアル』を勝ち抜き、生き残ったとしても、それを肯定することになるならば意味があるとは思えない。
トレーズ・クシュリナーダはこのゲームの根幹を否定する。人がカネの奴隷となる結果は受け入れることはできない。
だがこのゲームのルールは、己が忌避するカネと力の奴隷にこそ有利になるよう仕組まれている。

「無為な殺人を忌避する者はこの状況に戸惑い、その隙にそれを肯定する者たちの食い物にされるだろう。
 カネの奴隷となることを善しとせぬ誇り高き者は、進んで奴隷となった者たちにつけこまれ、追い詰められるだろう。
 このゲームはそのような仕組みで出来ている。高潔な意志は踏みにじられ、友愛は裏切られるだろう……私はそれを良しとしない」

『ツモ! リンシャンサンカンツ三色同刻ドラ7、12000オール!』

ではどうするか。
まず、このゲームにおいて陥りやすい罠がある。それを防ぐことだろう。
罠……それは殺し殺され合った結果、憎しみを殺人者に向けてしまうことだ。
この状況に陥れた真犯人――つまり主催の帝愛グループを憎むことを忘れ、自分たちと同じく陥れられた者達にそれを向けてしまうこと。
それはとても容易いことだ。まず最初にこの名簿を見ても誰が積極的な殺人者かはわからない。
つまり自分以外のあらゆる誰かが脅威となる。
自身にとってのゼクスなどの親しい知り合いを除けば常に他人を疑いの目で見つめざるを得ない。
これでは協力や対話など望むべくもない。
先刻出会った刹那という男は、対話によって解決すると嘯いていたが、それは現実問題として難しいだろう。

「私にも理想はある。だが全体において、個人の理想とはイコールちっぽけな妄想でしかない。
 刹那・F・セイエイよ。君は君の理想を、この下卑た遊戯盤の上で何処まで貫くことができる……ツモ、700 1300の一本場」

『終了だじぇ!』『お疲れ!』『おめでとうございます、三連勝でボーナスプレゼントです!』

短い出会いの中で語り合い、決別した男のことを思う。
もし彼がリリーナ・ドーリアンと会う事があれば、それは互いにとって良き出会いとなるだろう。
そしてそれは個人よりも大きな力を持ち、やがてこの遊戯盤をひっくり返す鍵となるかもしれない。
だがその確率はとてつもなく低いだろう。そして帝愛もそれを黙って看過するとは思えない。
例え我が永遠の友、ゼクス・マーキスことミリアルド・ピースクラフトの力が加わっても難しい。
まずこの名簿に記載されていないものたちが問題だ。現在正体不明。
主催が積極的に殺して回ることを命じて、この戦場に放った刺客であることは充分考えられる。
さらに次の放送で死者の名前が呼ばれるという。これが厄介なのだ。
誰かが死んだということは、それらの人間を誰かが殺したということ。

つまり殺人者が自分たちのいるこの場所に存在することが確定事項になるのだ。そしてそれが誰なのかは殺人者本人にしか分からない。
見えないということ、知らないということ、わからないということは恐怖を何倍にも増幅させる。
暗闇の中では単なる物音も怪異として受け止め怯えるのが人間だ。
自分以外は全て殺人者かもしれない、だから殺される前に殺す……充分にありえるケース。
その狙いをもって帝愛が刺客を密かに送り込んでいたとしたら。

「……どうやら私がやるべきことは見えてきたようだ。戦い、敗れることを望む私にはお似合いといえる」

『賞品は一億ペリカの引換券です。 バトルロワイアル優勝時に使用することができますので大事に保管してください。
 本日はGNスパ内、麻雀風呂をご利用いただきありがとうございました。また、私たちと打ってくださいね』

それは選定だ。
金と暴威が支配する世界においても、その世界の法則に立ち向かう強き意志を持った者たちを見極めること。
そしてそのもう一方で、この世界の奴隷となり、殺戮と背徳に興じる者を排除すること。
トレーズ・クシュリナーダは長い思案の末、ついに結論を得た。

「この麻雀風呂とやらも殺しあうことを促進させるための施設だったというわけか……。
 おそらくは優勝賞金の何割かと引き換えに強力な武装を支給するという施設などもあるだろうな。私でもそのくらいは考え付く」

このようなチケットをもらっても、まずは優勝しなければ話にならない。
そこでそのための力を得るための方法があるはずだ。非力な参加者はそうでもしなければ生き残れないからだ。
その交換条件でまず予測できるのは優勝時の賞金だ。その際に一億無ければ帰還できない、命に直結するカネ。
リスキーではあるが、まずは生き残らねば話にならない。そんな参加者に出会ったとき、このチケットはとびっきりの交渉材料となる。

「さて、あとしばらくすれば最初の放送か。どれほどの犠牲が出るのか、そしてそれを受けて殺戮世界の現実を受け止められる者がどれほどいるか……。
 ゼクス、願わくばまだ死んでいてはくれるなよ。友としての切なる願いだ……そしてリリーナ嬢にガンダムのパイロットたちよ」

ざばりと水音を立てて、トレーズ・クシュリナーダは湯気を立てる裸身を晒し、そのまま浴場を後にする。
背後には麻雀風呂。そこには大きなスクリーンがあり、コンピューターゲームで麻雀が打てるつくりになっている。
画面には幼い顔立ちのバニーガール少女、メガネをかけたソバージュのフレンチメイド、おとなしそうな顔立ちのネコミミを付けた少女が映っていた。

「君たちは勝利を目指し、私はその勝利を飾るための敗北を目指そう。
 誰からも忌み嫌われ、立ち向かうためには手を取り合うことが必要不可欠と誰もが思うような殺戮者に……む?」

ぴんぽーん♪ と軽快な音が鳴る。
麻雀風呂のスクリーンにスコアが映し出されている。


東家 トレーズ・クシュリナーダ40700
南家 染谷まこ(CPU)12000
西家 片岡優希(CPU)11700
北家 宮永咲(CPU)35600


だがそれが突如切り替わり、スクリーンは赤く毒々しい刺激色に染められた。
去ろうとしたトレーズは振り返り、何事かと眉をひそめる。
デスゲーム――そこには大きくそう書かれていた。
続いてルールが表示される。現在の時刻は午前4:00。


  • 幾つかかの施設にこのようなギャンブルゲームの機械がおいてあります。マルチプレイ対応。
  • だれかがハコになった時点で終了。ハコになればどれだけペリカがあっても首輪は爆破されます
  • 運営の用意した人物にはハンドルネームが設定されていますが、参加者は場所名しか出ません
  • ゲームの途中で退席は出来ません。もし行おうとした場合は首輪が爆破されます。
  • また周囲からの指示を聞いて打つという行為も禁止されます。その場合も首輪が爆破されます。
  • 点数の清算は100点=10万ペリカとなります。またペリカを払わず血液での支払いも可能でその場合は100点につき10ccとなります。
  • 半荘戦ですが、清算は東場終了時の点数でも行われます。
  • 午前一時から三時間ごとに一回ゲームが開始されます。二時間半たっても決着がついていない場合はその時行っている回の終了をもって清算に入ります。
  • ゲーム開始時刻までにエントリーがそろわなければ主催者の用意した代理が入ります。








  • 選択種目は吸血麻雀です。現在、一人の参加者がエントリー中です。エントリーしますか? yes/no


   ◇   ◇   ◇


一方、そのころA-5。敵のアジトと地図に書かれた施設の一室。

「こ……これは……!? ワシ以外の参加者がエントリーだとっ……! つまりは参加者……! 
 おそらくはワシと同じ暴力に秀でていないがゆえに引きこもった類の……つまりは肉体的弱者ッ……!」

吸血麻雀のデスゲームが行われる端末機器の目の前に座る男。
採血のための器具と拘束具に絡め取られた老人が一人。
血色はよくない。だがその眼だけがギラギラと濁った光に満ちていく。

「ツイとる……! ツイておるぞっ……! こやつは王のための生贄……!
 このタイミングで……絶好の据え膳っ……食わずにおくべきかっ……!」

参加者――つまりは人間のプレイヤー同士の対戦。
人の上に立つのが王ならば、機械はともかく只人に負ける道理はない。
多少は腕に覚えがあったとしても、そんな程度の連中は数え切れぬほど屠ってきた。
ゆえにこの老人、兵藤和尊はこの機を僥倖ととらえる。

  • プレイヤー同士の対戦では参加者以外の点数は考慮されません。当人同士の順位でそのまま勝敗が決まります。
  • ウマはワンスリー。一位+30 二位+10 三位-10 四位-30となります。

追加ルールが表示された。
いつ誰に襲われるかわからない危険を考えても、あまり長く時間をかけるのは得策でない。
ゆえにこれは好都合……!
まちがいなく半荘一回で勝負が決まるっ……!
ウマによってつく順位点差は最低で20……つまり二万点差……! そして常人の出血による致死量は2000cc……!
死ぬっ……! 万が一死なずとも行動はまず不可能……! 
たやすく殺される……この殺し合いでは脱落したも同然……!

「はじめよう……! ギャンブルッ……! 命をゴミのように弄ぶ……ギャンブルをっ……!」


   ◇   ◇   ◇


ここでは参加者の姿は向こうに映らない。
コンピューターグラフィックによるアイコンが仮の姿となる。
むこうのそれは、ふてぶてしい面構えをした黒シャツの少年だった。


東一局
東家 のどっち :25000(親)
南家 ハギヨシ :25000
西家 太陽光発電所:25000
北家 敵のアジト:25000



『太陽光発電所』か……なるほど、地図を見ればたしかに篭るには適しておる……!
知恵はそこそこ回るようだが……度胸がなくてはギャンブルの闇が覗く、険しく暗い断崖を乗りこえることは出来んぞ……!
ククク……さあどうでる?

『ロン、1300だ』

……。
……。
……は?
なんですか……?
東一局からいきなりノミ手……!
話にならないクズか……!
切るのはほぼノータイム……。
まさにのどっちとやらと同じく機械のようだが……例え性能は秀でていたとしても大局を見極められぬクズ……!
人を統べる王に勝てる道理なしッ……!
話にならない……!


   ◇   ◇   ◇


東四局
東家 のどっち :31900
南家 ハギヨシ :19800
西家 太陽発電所:24300
北家 敵のアジト:25000(親)


東場オーラス……!
ククク……ワシの親ッ……!
ここまでちょこまかと動いた割に、振らずアガらずのワシよりも下とはな……!
動いて余計なツキを落としおって……でんと構えたワシとは対極よ……!
見よ……!
親になってチャンス手ッ……!
これが王だ……やはりワシは王なのだッ……!

『ポン』

む……?

『ポン』

対面の『ハギヨシ』とやらが仕掛けてきたか。
そして鳴かせたのは『発電所』。
相手の手はみえみえのホンイツ気配……多少の心得があるなら、そのあたりの牌はおさえておくべき……!
やはりクズッ……! 
心得もないくせにこのゲームに飛び込んできた愚図ッ……!
冷静な判断力を失うなど愚かの極みよッ……!
む……?
うぐっ……!
さっきの鳴きでツモがずれたか……!
ツモれんッ……!
このクズッ……貴様のせいでッ……!
王の御前なるぞ……邪魔をするなど万死に値する……!
ぐっ……引いて来た……!
危険牌……!
それがどうしたっ……当たる筈が……ないっ……!
通すっ……!
通すっ……!
通すっ……!

通すっ……!


通すっ……!



通すっ……!




『……』


通したっ……!
どうだ……!

ワシは王の力に守られておるのだ……!
こんな――、


『――ツモ。東、北、ホンイツトイトイドラ2 4000 8000』


あ……?
あぁ……?
あ……!!
ワシが親……!
8000点の支払い……馬鹿なっ……!
お……親っかぶりだとッ……!
貴様ッ……貴様ッ……!
これは……このままでは……!


『―――支払いがないので、血液による採取を実行します』


   ◇   ◇   ◇


南四局オーラス
東家 のどっち :35800
南家 ハギヨシ :28000
西家 太陽発電所:30200
北家 敵のアジト:6000(親)


馬鹿なっ……! こんな……!
こんなことがっ……! 卑怯っ……! こいつの戦略は……勝負ではないっ……!
ワシが親のときに他家の必要牌を鳴かせっ……親っかぶりで彼我の点差を広げる……!
そして軽いが速い……どいつもこいつもチマチマとっ……! ゴミ手の連打……!
まずい……判断を誤った……!
東場終了後に血液を抜かれ、-800cc……!
前回の勝負と合わせると合計で-1500cc……!
大量出血ッ……!
意識がっ……!
……集中できぬッ……!
止められぬ…………崩壊ッ……!
死ぬ……死ぬっ…………死ぬっ………………死ッ……………………!
だが、まだだっ……まだっ…………一発で……ひっくり返せる……オヤッパネ18000……!
起死回生逆転の、一手ッ……!





『――ロンだ。そいつはとおらねえな』




ぐにゃぁ……!
な……んだと……! 
今、何と言った……!
嘘だッ……! 嘘だッ……! 嘘だッ……! 嘘だッ……!
こんなのは幻聴だっ……!




『タンヤオドラ2、3900』




この黒シャツ……!
『太陽光発電所』とやらのアバター……!
ふざけおって……!
ワシは王……!
王なのだ……!

ワシは……!


『終了です―――支払いがないので、血液による採取を実行します』


王、だっ………………!




負け……る……はず…………!




『俺の勝ちだな。玄人(バイニン)がトーシロと打(ぶ)って負けるわけにはいかねえのさ』




【兵藤和尊@カイジ 死亡】
【残り55人】



   ◇   ◇   ◇


「…………勝ったか」

そして場面はスパの中へと切り替わる。
湯船の中から飛び出してきてトレーズを絡めとった拘束具と採血器は、役目を終えると再び湯の中へと姿を消した。
大きく溜息をつく。
彼がラス親であったことを利用し、親っかぶりを狙い、そして直後の東場終了採血で揺さぶりをかける。
血を抜かれ、死を実感させることで動揺を狙うというこの戦術は、ことのほか巧くいったようだ。
その後の南場での彼――『敵のアジト』は、死への怯えがミスを誘発したのか、あっという間に崩れていった。
画面の向こうで彼が絶命したことを告げるメッセージがスクリーンに流れている。
勝利ボーナスは先程と同じ一億ペリカ。そして敵が持っていた支給品の譲渡。
遠く離れた場所からいきなり転移してきて、今はトレーズのそばのタイル張りの床に置かれてある。
おそらく最初にここに『飛ばした』のと同じ技術――遠藤の言葉を借りれば、魔法の一種だろう。

「一人救いたければ、一人殺せ。蘇らせたければ四人殺せということか。なるほど、殺し合いを促進させるには効率的だな」

新たに手に入れた支給品を手に取り、トレーズは今度こそ湯煙立つ浴場を後にする。
手に入れた武器はサブマシンガン。だが求める力はこんなものではない。
もっとだ。もっと殺せる力が、忌み嫌われる力が必要だ。


「私が手にかけた名も知らぬプレイヤーよ、私は君を忘れない。
 私は死者に対し、哀悼の意を表することしか出来ない。だが、君もこれだけは知っていてほしい。君は決して無駄死になどしていない。
 この後の放送で死者として君が呼ばれるのであれば、他に犠牲となったすべての者達の名とともにその存在を刻もう。
 その記憶は私の力となる。私が失わせた命の重みが、私から迷いを消し去ってくれる。
 迷いを消した戦士の力――エピオンのような、戦神にも等しい力を私に与えてくれたまえ。
 そしてその力をも倒す者達がきっとその無念を晴らすだろう」


滔々と謡うようなその声。
そしてドアが開き、閉まる音を最後に広大な浴場は無人となった。




【G-2/太陽光発電所内部・GNスパ男湯麻雀風呂/一日目/早朝】

【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康、ほっかほか
[服装]:全裸
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品1~2(確認済)、サブマシンガン、薔薇の入浴剤@現実 一億ペリカの引換券@オリジナル×2
[思考]
基本:全ての参加者から忌み嫌われ、恐れられる殺戮者となり、敗者となる。
1:この争いに参加する。生き残るのに相応しい参加者を選定し、それ以外は排除。
[備考]
※参戦時期はサンクキングダム崩壊以降です。


【一億ペリカの引換券@オリジナル】
ギャンブル勝負で入手できる、防水ラミネート加工されたチケット。
優勝時に一億ペリカのボーナスがつく。


※A-5に兵藤の死体が放置されています。荷物はトレーズの下へ送られました。

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022:薔薇アッー! 俺がガンダムなのか!? トレーズ・クシュリナーダ 075:混迷への出撃
055:どうしようもないわしに光の天使が降りてきたからもう賭博なんてしない 兵藤和尊 GAME OVER


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最終更新:2009年11月23日 23:03