魔女は晩餐 ◆00PP7oNMRY
「首輪に、爆弾、か」
闇夜の公園に、女性の声が響く。
高く澄んだ、少女の声。
その声の持ち主は……何というか、非常に目立つ少女だった。
おそらく、道行く人の十人に十人は振り返るだろう、というほどに目立つ少女。
長い、腰まで届く薄緑、という珍しい色の髪に白い肌、薄い金の瞳、髪と同じ色の細い眉、美しく整った目鼻立ち。
恐らくはその容姿だけでも、道行く人々を振り返らせるには十分であっただろう。 ただし、まともな服装ならば、だ。
そう、彼女が非常に目立つのは、容姿とは全く異なる理由によるもの。 彼女の身を包む、あまりにも奇抜過ぎる衣装のせいだ。
最大限好意的に表現するならば、黒いベルトで飾られた、ファスナー式のつなぎ目の無い白のワンピース、とでも言おうか。
飾り気無く、二本のベルトが巻かれた広い襟。
大きく、肘まで除きこめるほど先が広げられた長い袖。
余白など無く、体のラインがそのまま現れる左あわせの裾。
ベルトは何故か腰ではなく腿の部分に巻かれ、胸の部分から足の先まで伸びるファスナーの合わせから、服と同じ色の靴が覗いていた。
それは、世間一般的には、いや、それほど一般的なものではないが、『拘束服』と呼ばれる代物。
自傷癖のある精神病患者や、重犯罪人の動きを奪う為の服装だ。 粗い布地は、頑丈に出来ていて、暴れても破けはしない。
黒いベルトは飾りではなく動きを封じる為のもので、襟や袖の広さは、それぞれ口や両手を同時に封じる為にもうけられている。
そんな、世間的には極めて異常な格好をしていながら、少女はその格好が当たり前とでも言うように、まるで気にしておらず、何事か思案に暮れていた。
やがて、ゆったりとした、ある種の精錬された動きでもって、己の右手を首元に添える。
そうして堂々とされていると、その奇抜な衣装もそれなりに似合うものであるように見えても来る。
長い袖は、どこか優雅さを感じさせる少女の動作と相まって、舞台衣装のようにも感じられるし、歩みと共に揺れる薄緑の髪が白の衣装とコントラストを描き出す。
余分な動作を出来ぬようにキツメに合わされている為か、豊かな胸や尻のラインがくっきりと現され、夜の闇と相まってか背徳的な美しさすら感じさせた。
少女は、袖の内側に手を伸ばし、そこにある何かに触ろうとする。
袖が引かれた事で現れる、きめ細かな鎖骨のラインより少し上、細い首に、光る金属の輪が巻かれていた。
丸く、すべすべとした、金属質に輝く鉄色の首輪。 表面には何の飾り気も無く、ただ文様のようにつなぎ目が存在するのみ。
少女自身には無論見ることは出来ないが、無遠慮に触る少女の繊手がその硬質な感触を告げる。
「死ぬ、か……」
拘束服に、首輪。
ある意味これほど似合う組み合わせもあるまい。
先刻告げられた内容からすれば、内部に爆弾の込められた、首輪。
どのくらいの量が込められているのか知る由も無いが、容易く首を吹き飛ばすのは少女も確認済みだ。
だが、それにかまわず、少女は首輪を無遠慮に摘み、引っ張る。
数秒間触っていたが、やがてため息一つ。
「本当に死ねるのかな、私は」
まるで、自らが死なない、と傲慢にも考えているかのような口振り。
一瞬、試してみようかという思考が浮かぶが、少女は止めておいた。
首を切られるのはあまり嬉しい経験ではない。
これでもし死ねなかったら痛み損だ。
首を斬られるのと吹き飛ばされるのとどっちが痛いか知らないが、別に経験したいとも思わない。
それに、別に今すぐ死なないといけない理由がある訳でもない。
シャルルやルルーシュ、今居る知り合い達の行いが、どんな結末を生み出すのか、見ておきたいくらいの好奇心はある。
そんな事を考え、少女は手を下ろした。
それきりもはや首輪には構わず、少女は背中に背負った、そこだけが非常に不似合いなディパックの口を開く。
「なんだ、ピザは無いか」
文句を言いながら、ディパックを漁る。
少女には特に目的も無い。 あいにくと生き返らせたい知り合いも特には居ない。 金を貰っても特に使い道も無い。
叶えたい願いは一応存在するが、叶えてもらうのは優勝しなくても可能だろう。
「そうだな、とりあえずルルーシュでも捜すか」
色々と小物を引っかき回して、ようやく
参加者名簿を見つけ、目を通す。 他に興味を引くものは無い。
殆どは知らない名前、何処かの歴史で見たような名前もあった気がするが、特に関心は抱かない。
名簿の中で、見知った名前は2つ。
ルルーシュ・ランペルージュと、
枢木スザクの二人。
その二人の内の片方、ルルーシュ・ランペルージュという少年とは、色々と浅からぬ中でもある。
本人は知らないが、一応生まれる前から知っている相手ではあるし、ある契約を交わした相手なのだから、勝手に死なれても困る。
枢木スザクのほうは、顔見知りと言う程度の相手。
ルルーシュの父親にして倒すべき敵、世界の半分近くを支配する超帝国、神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの騎士の一人。
ルルーシュのかつての親友にして、今は倒すべき相手の一人。
ただ、少女からすればシャルルは多少疑問を抱いてはいるが、別に敵ではない。 シャルルに言わせれば古い同志というところか。
スザクにも、恐らくシャルルから確保の命令が出ているだろうから、拘束はされるだろうが殺されはしないだろう。
だから、特に探す気も無い。出会った時にでも考えればいい。
「しかし主催者というのも気が利かないな、一番肝心のアレが入っていないとは」
小物やら何やら色々入ってはいたものの、少女のお気に入りである、『チーズ君のぬいぐるみ』が無い。
そのことに暢気に文句を言いながら夜の道を暢気に歩き出す。
とことこ、とのんびり歩いて、適当に植林された林の側を通りかかった所で、
突然、少女の姿は掻き消えた。
◇
少女、名を
C.C.
無論本名ではない。
彼女の本名を知る人間は皆、遠い昔に居なくなっている。
彼女は、『死ねない』のだ。
『ギアス』と呼ばれる力がある。
王の力とも称されるそれは、人の精神に干渉する超常の力。
他者の記憶を書き換えたり、特定範囲の他者の精神活動を一時的に停止させる力。
どのような能力が現れるかは個人によって異なるし、素養がなければ何の能力も現れない事もある。
そしてC.C.は、そのギアスを与える力を有している。
それはC.C.の持つもう一つの、いや、現在ではそれしか有していないのだが、『コード』と呼ばれる力。
そのコードの力によって、C.C.は不死の存在となった。
物理的な外傷は短時間で再生するし、餓えはしても死は訪れず、年も取らない。
時間の流れより取り残された、呪われし魔女。
そういう存在に、少女は成った、いや、成らされたと言うべきか。
もう、どれほどの昔かも思い出せない過去。
C.C.は彼女にギアスの力を与えた女性に、コードを押し付けられたのだ。
コードとは、力ではなく、呪い。 あらゆるギアスの能力が無効になる力ともう一つ。
いかなる手段を持ってしても、どのような残酷な手段を用いられようとも、死ぬことの出来ない存在にされる、呪い。
その呪いから逃れる手段は一つ。
他のギアス能力者に、それを押し付ける事。
それも、唯の能力者ではなく、ある程度以上にまで力を発現させた者に限る。
誰かに力を与えて、それでハイさようなら、とはいかない。
C.C.に力を与えた女性も、彼女の力がその域に達するまで、じっと待ち続けていたのだから。 理解者の仮面を被りながら。
人の理より外れ、人を力に誘う魔女。
それが、コードを与えられた者に待つ定め。
人に愛されるという力を持っていた少女は、
聖女のように扱われ、貴族や王族達に宝物のように求められていた少女は、
人々を誑かした魔女へと落とされた。
そうして、彼女は長い年月を生き続けて来た。
望みは唯一つ、自らの死を迎える事。
長い間一所に留まれぬ身である為に、世界中を流れ暮らした。
折りしも時は魔女狩りの時代。 処刑された事も一度や二度ではない。
望みが無い相手は捨ててきた。 力を与えた相手に裏切られた事もある。
超越者として崇められ、そして後に恐れられた事もある。
その手を汚した回数も覚えていない。
今も少女は一人、彷徨い続ける。
呪われた魔女の刻印と共に。
何時しか、己の望みすらも希薄になりながら。
◇
見えたのは、断片的な記憶。
詰め寄る群集、向けられる刃。 自らの身が焼かれる匂い。
数多の方法で与えられ続ける苦痛と絶望。 そして孤独。
甘美な味わいと共に、不快な感情が流れ込む。
それは何処か懐かしくもあり、それがまた更に不快感を呼び寄せる。
苛立ちを紛らわすように顔を離した事で、女性の口から零れた血が少女の頬に落ち、白い肌に赤い筋を記す。
唾液が交じった事で粘度の上がったそれは、ゆるゆると少女の顔を下り、唇の端に流れ込む。
少女を眺めていた女性が、その様を見て、再び顔を寄せた時、突如、今まで動かなかった少女が動いた。
鋭い動作で左の肘撃ちを放ち、そのまま女性の方を向こうとしたところで、
「…………っ?」
バランスを崩す。
表現するなら、急に地面が無くなった、という感じの動きであろうか、背中から布団に転がるように、後ろ向きに落ちている。
いや、実際に無くなったのだ。
2人が居た場所は、太い木の枝の上。
先ほど、C.C.が急に消えたように見えたのは、木の上にいた女性に引きずり込まれたから。
いきなり首を折れそうな力で鷲づかみにされて、一時的に意識を奪われていた為、自分のいる場所を把握出来ていなかったのだ。
そうして、自然の理に従い落下していくC.C.……と思いきや、それは途中で止まる。
それは状況の把握できていないC.C.によるものではない、そうなると当然、原因は消去法で決まる。
肘撃ちされた筈なのに、まるで効いていないといった風情の女性が、片腕でC.C.の右足を掴んだのだ。
「目が覚めていたのですか」
「…………」
暢気をそうに言い放つ女性を、逆さ吊りの姿勢のまま、C.C.は睨み付ける。
気絶している間に付けられたのだろう、左の肩口に追った傷を手で押さえながら。
とはいえ、そんな姿勢からでは怖くも何ともないが、それでも女性の目……があると思われる場所を睨みつける。
それを、まるで子猫が噛み付いてきたとでもいうような風に受け流しながら、腕を持ち上げて木の上に立ち上がる。
C.C.よりも遥かに長身の女性に吊り下げられているため、女性の腹の辺りにC.C.の顔が来る。 豊かな胸が顔を睨むのに少し邪魔になる。
「頑丈なのですね、貴女は」
「あいにくと、な」
関心したように言う女性に皮肉で返す。
お前に言われたくは無い、と言外に込めながら。
実際、女性の肉体能力は異常な部類だろう。
身長こそC.C.よりも高いが、腕の太さはそれほど変わらないようだ。
太ももから尻に至るラインの豊かさは、C.C.の方が上かもしれない。
もっとも胸の膨らみでは完敗だろう、豊かな双丘が服から零れそうになっている。
「服のサイズを間違えていないか? それではまるで恥女だぞ」
「おや」
その言葉の何かが気に障ったのか、女性は空いてるほうの手でC.C.の首を逆手に掴み、そのまま持ち上げる。
手首の動きで身体が半回転させられ、同時に首に体重が掛かり、首吊りの形にされる。
「貴女に恥女などと言われたくないですね。そんな格好で無防備に歩いているなんて、誘っているようにしか見えませんよ」
「お前、に、服装の事で文句を言われる筋合いは無い、な……」
息も絶え絶えに、C.C.が答える。
C.C.も割と恥じらいとは無縁な女性ではあるが、目の前の女性もそれほど負けてはいないように見える。
C.C.よりも長い、ふくらはぎの辺りまで届く紫の髪。
サイズの合わない黒のボディコンスーツとでも言おうか、肩から胸のラインまでが丸見えで、丈も下着が見えそうなほど短い衣服。
衣服と同色の長手袋と、ロングブーツと、とても扇情的な衣装であるが、極めつけはその目。
正確にいえば、目を覆う眼帯であろう。
黒紫の皮で作られたと思しき眼帯をつけていて、瞳どころか睫毛の色すら見られぬのに、何故か正確にC.C.の位置を捕捉しているようだ。
C.C.の苦悶を目にして、僅かに嗜虐的な表情を浮かべている。 その微笑みは、何故かC.C.に蛇を連想させた。
そうして女性は微笑を浮かべたまま、再びC.C.の身体を乱暴に組み伏せる。
まるで膝の上に抱っこをするかのような姿勢にC.C.を固定し、両腕を握り拘束する。
どうにか抵抗しようとするが、力任せに握られた腕は逆にミシミシと折れそうな感触を伝えるのみ。
そうして、女性は器用に顔だけでC.C.の拘束服の襟を肌蹴ける。
飾り気の無い白の下着に包まれたふくよかな乳房が零れる。男ならば確実に獣欲を誘われているだろう。
だが、女性が求めるのは、その少し上。
銀の首をより少し下の位置にある、真新しい傷口。
白い肌に赤く刻まれた痛々しい傷跡。 流れ出した血液が鎖骨の窪みに僅かに溜まっている様に、女性はチロリと舌を舐める。
鋭い上下の犬歯が僅かに唾液の糸を引き、それが重力に従いC.C.の肌に垂れるのと同時に、その傷口に歯を立てた。
「……っ……やっ……あ」
痛みで敏感になった肉を再び抉られる痛みに、C.C.が苦悶の声を上げる。
傷跡は、先ほど同じ凶器、女性の犬歯によって付けられたもの。
だが、女性の目的は傷を付けることでは無い。
「く…………ぅ、どんな、つもりだ」
女性は、C.C.の血を吸っているのだ。
傷口を深く抉り、新鮮な血を求めて吸う。
勢いから外れ、肌の上を溢れる血に舌を這わせる。
肉を抉られる痛みと、肌を這う舌のくすぐったさに、C.C.の顔が朱に染まる。
同時に味合わされるのは未知である感覚に、C.C.の全身が弛緩し、女性に身体を預ける形になる。
「く、っ…………ぁぁああぁぁっ!!」
「ふふ……」
C.C.の悲鳴を心地良さそうに聞きながら、ある程度満足したのか女性は口を話した。
唇に付いた血を舐めとりながら、満足そうにC.C.を見下ろす。
普段と違う場所に口をつけたせいで、口の中に溢れた血が少し零れてしまった。
溢れた唾液と混ざって乳房のほうに流れ、飾り気の無い下着に染みを付ける。
「いくつか、聞きたい事があります」
「……っ、ふ、私が、ぁ、答えると思うのか?」
「おや、それではもう少し深く頂くとしましょうか」
「……あっ……ぁうぅぅっっ!!」
歯の立ててある傷口に、強引に舌を刺しこみ広げる。
中々芳醇な部類の味わだろう。流石に未経験の味には及ばないが、それでも悪くは無い。
本当なら首筋に口をつけて、直接動脈からすすりたいのけれど、首輪が邪魔。
首輪を吹き飛ばしてその生首から零れる血を飲み干すのはあまり嬉しくは無い。
動悸の上昇によるものだろうか、仄かに滲み出した汗の匂いが食欲をそそる。
血液の現象によるものか、はたまた体内に異物を挿入されている為か、息が荒く、頬が染まっている。
まるで欲情しているようだが、それでも涙を浮かべる瞼の奥、未だに鋭い眼光が、そうではないと主張する
この状況で、なお睨みつけてくるその強気な表情が、さらに嗜虐心を刺激する。
「魔女、ですか」
「な……に?」
「貴女は、魔女だそうですね」
「……っ」
断片的な記憶。
古びた映写機に映る風景のように、断続的に見えたもの。
女性の持つ能力の1つではあるが、今はそれは用いていない。
「……ああ、私は魔女だ」
「何が悪いわけでもない、それでも、貴女は魔女と呼ばれ、迫害され」
「…………」
「そうして、長い年月を彷徨い続けた」
だから、それが見えた原因は他に存在している。
C.C.の持つコードの力の内の幾つか。
相手の脳に直接ヴィジョンを叩き込むものが、命の危機に瀕して発動したのだろう。
「……聞きたいのはそれだけか」
「…………」
「おい」
聞いたきり、何事か考えている女性に、C.C.が苛立ち紛れの声を上げる。
隠し通したい事柄ではないが、積極的に知られて嬉しいものでは勿論無い。
痛みも多少薄れ、血も少し戻り始めてきた為、C.C.の全身に力が戻り始めている。
だが、それでも万力のような力で握られている両腕は動かせそうに無い。
どうせ呆けるなら力も抜けば良いものを、と表情の見えぬ女性に心の中で文句を言う。
と、そこで再び女性が動く。
三度、C.C.の首筋に噛み付き、再び血をすすり始める。
「ぐ……ぅぁぁぁぁぁあっっっっっ!!!」
既に乾き始めた所に再び口を付け、舌で舐め、吸い、強引に潤いを取り戻させる。
今までの舐めるような勢いとは違い、まるで全身の血を吸い尽くすかのような勢い。
C.C.が甲高い悲鳴を上げ、首を降り、のけぞる。
それにより傷口が広がり、また吸血される量が増えるという循環が生まれ、しばらくC.C.の喘鳴が辺りに響いたが、やがてそれは小さくなっていった。
悲鳴が蚊の鳴くようなものになってもなお、しばらく吸血を続けていたが、やがて口を放す。
C.C.は最早動きはなく、たまに不随意的に反応をするだけだが、それでもその口からは微かな呼吸音が発せられていた。
その様子を見て、女性はC.C.の両腕を離し、自分の膝の上に横たえる。
「貴女の、名前は?」
「…………ぅ」
答える気がないのか、気力がないのか、C.C.は返事をしない。
だが、再び動こうとする女性を見て、何とか声を出す。
全身から血を抜かれる拷問にかけられた経験もあるが、それでも慣れるものではない。
「……っぁ……C.C.……とでも、呼べ」
「それは、本名では無いでしょう?」
「そんなものは、忘れ、た……ぁぅ……本当、だ……、名簿にも、そう書いてある!」
「ふむ、そうですか」
常人なら致死量にあたる量を奪ったが、どうやら本当にこの程度では死なないようだ。
もっとも、血を奪われては身体は上手く動かない。C.C.はぐったりとしてされるがままになっている。
両手の袖を取り、自らの身体を抱くように背中に回す。 そして、袖のベルトで両手を固定する。
僅かな抵抗をも奪った後で、足も同じように揃えて固定する。
これで自力では這う事しか出来ない。
襟の部分はそのままにしておく、後でまた血を吸いやすいように。
「気が変わりました」
「…………?」
最初は、殺すつもりだった。
女性に迷いは存在しない。
彼女は彼女の真のマスターの為に戦う存在であり、その為に他者を殺す事等など何とも思ってもいない。
肉体の動きが鈍いことは最初に理解出来た。
全身の魔力の低下も、見過ごす事は出来ない。
名簿から、
セイバー、
アーチャー、キャスター、そして
バーサーカーなど、手強い敵の存在を知った。
何故ランサーとアサシンの名が無いのか多少疑問を抱きはしたが、それは直に忘れる事にした。 どうでもいいことだから。
だから、餌を求めた。
彼女らはサーヴァント。 それは魂喰らい。
人の魔力を、魂を喰らう事で己の力へと帰る存在。
血を吸う事で魔力を奪い、同時に優勝に近づく。
そういう一石二鳥の行動であったのだが、取りやめる。
「どういう、つもりだ」
「いえ、死にづらいというなら、精々役に立ってもらおうと思っただけですよ」
流石に本当に死なない、という事はこの場では無いのだろう。
それでも、再生するというならば、魔力の補給源としては最適。
持ち運ぶのにも不自由しない大きさであるし、丁度いい服装でもある。
だが、それだけ理由というわけでもない。
大きく、2つ。
二つの理由が無ければ、女性はC.C.を殺して放り出していただろう。
その事に言及するでもなく、女性はC.C.を肩に担ぐ。
「待て、そういえばお前の名前は何と言うのだ」
これからどうされるのか判らないが、それでも何処かに運ばれると理解してC.C.は声を上げる。
「ああ、そういえば自己紹介していませんでしたね。
私は、
ライダーとでも呼んで下さい。 一応、貴女と同じく名簿にはそう書かれていますよ」
◇
女性、サーヴァント・ライダー
聖杯戦争という魔術儀式に、騎兵のクラスとして呼び出された存在、故にライダー。
その本名は、ギリシャ神話において名を知られる、怪物、反英霊メデューサ。
人を石に変えるゴルゴン三姉妹の末である。
だが、怪物とは何か?
それは、人にあらざる存在。
人に崇められる存在は神とされ、人に恐れられる存在は怪物とされる。
かつて、ゴルゴン三姉妹とは、大地の神性であった。
だが、その美しさ故に他の神々の嫉妬を受け、追放された存在。
かつては美しい女神であった彼女は、その身に人々の憎しみを受けるようになった。
始めは、身を守るためであった。
己を狙い襲い来る人間達を、倒し、屠った。
そうしなければ、自分が死んでいたのだから。
だが、それがいつからだろうか。
或いは殺した相手の生き血を啜るようになった頃からか、彼女は、自ら人々に害を成す怪物へと成り下がっていた。
始めは、被害者だった筈なのに。
何の罪を犯したわけでも無いのに。
何時しか彼女は、嬉々として加害者になっていた。
その後の彼女がどうなったのかなど、誰でも知っている。
英雄ペルセウスの物語。
怪物は、怪物らしく、英雄の名声の糧となった。
◇
そんなものが、理由であったかもしれない。
背負う荷物に理解されたいとも思わないし、教える気も無い。
ただ、何となく気が進まなかっただけ。
「貧血気味だ、ピザでも寄越せ」
「生憎ですが、食料に食事を要求する権利はありません」
「ケチめ」
宝具は未だ試していないが、用いるとなるとやはり大量の魔力が必要だろう。
そうなると、何処か人の集まりやすい場所に向かうべきかもしれない。
何時の間に元気を取り戻している少女、C.C.の声を聞き流しながら、ライダーは夜闇に消えた。
◇
【E-6/公園/一日目/深夜】
【ライダー@Fate/stay night】
【状態】:健康、魔力充実、お肌つやつや
【服装】:自分の服、眼帯
【装備】:無し
【道具】:基本支給品一式、C.C.、ランダム支給品0~3個(本人確認済み、直接打撃系武器無し)
【思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。 仮に桜が居た場合は桜を優勝させる。
1:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
2:出来るだけ人の集まりそうな街中に向かう。
3:C.C.は負担にならない限りは持ち歩く。
【備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
※C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
【状態】:体力枯渇、貧血気味、左の肩口に噛み傷(全て徐々に再生中)
【服装】:一部血のついた拘束服(拘束中)
【装備】:無し
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~3個(本人確認済み、チーズ君人形以外の何か。 あまり異常なものはない)
【思考]
基本:ルルーシュを探す。
0:満足に動けない。
1:出来ればこの状態から脱したい。
【備考]
※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『
過去 から の 刺客』の間。
※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。
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最終更新:2009年11月06日 22:24