過去 から の 刺客 ◆qh.kxdFkfM
「よかった。ナナリーはいないのね」
駅へ向かう道中、放送とあいなった
ユーフェミア・リ・ブリタニアは名簿と地図に筆を入れていた。
幸い知り合いが死者として呼ばれることもなく、禁止エリアも今のところ気にする必要はない。
それでも。
「もうこんなに……」
まだ始まって数時間しか経っていないのに、十四の尊い命が消えてしまった。
それはユーフェミアにとって信じたく、また信じられないことであった。
これは戦争でもなければ弾圧でもないのだ。なのに、もうこんなに減っている。
その矛先がいつ自分やルルーシュ――――スザクに向けられるのかわからない。
(それを止めるためにも)
ユフィは荷物をまとめ、歩を進める。あのゼロの偽物がこの殺し合いを促進させているのは間違いない。
それを止め、皆の誤解を解き、結束して主催者の企みを打ち砕く。それが今の自身がなすべきこと。
(だけど困ったわ)
そのために政庁に向かおうにも、先ほどの放送によると電車はしばらく使えないらしい。
その場合、地図を見た限りでは山を登ってその後橋を渡るか、学校の下に位置する橋を渡って、また橋を渡るしかない。
どちらもかなりの距離を歩くことになる。
「この格好じゃ厳しいわね」
見た目を重視したドレスと靴では、さすがに山道や荒れ地を踏破するのは難しい。
ユフィは悩んだあげく、申し訳ないとは思いながらも人のいないブティックに入ることにした。
駅前だけあって、店はそれなりにあり、品揃えもいい。
本当なら代金やそれ相応の品を置いておくのだが、今の自分にはそんな持ち合わせはなく、仕方がないので拝借した品物と自身のサインを記したメモ用紙をカウンターに残すことにした。
「何だか私じゃないみたい」
クリーム色の上下一体のスーツに身を包んだ自分が鏡の中にいる。
靴はハイヒールではなく、ローヒールであるローファーにした。
腰のあたりのベルトをいじりながら、アンダーウェアを探していたら、だんだん楽しくなってきた。
こんな風に服を選んだり着たりすることなどほとんどない。
お抱えの職人やデザイナーが自分に似合いそうな、あるいは自分の意のままに作ってくれるので、このように既製品を物色することは今まで皆無なのだ。
(みんなこういうこと、友達や恋人とするんだろうな……)
自分――いや、自分を含めた周囲がブリタニアとかエリア11とか関係なところで生きていれば、こうしていたのかもしれない。
ルルーシュをビックリさせよう、とナナリーと一緒に大人っぽい服やアクセサリーを身につけてみたり、みんなには内緒でスザクと二人で食事や美術鑑賞をしたり……。
「スザク……」
手に取っていたタンクトップをキュッと握り締める。彼もまたこの殺し合いに参加させられ、どこかにいる。
あの頑なな彼のことだ。きっと誰かを守りつつ、ここからの脱出の策を練っているだろう。
会いたくて仕方がなかった。いつものように自分の名前を呼んで、傍にいて、支えてほしい。
でなければ、心が押し潰されてしまいそうになる。
(駄目ね。騎士が頑張ってるんだもの。主君がくじけてちゃ)
わずかに滲んだ目をこすり、手早く試着室に残りの衣類を持っていく。
ここにはあのルルーシュもいるのだ。頭は働くが、体力はからっきしの彼が。自分ばかりが非力なわけではないのだ。
それでも。
やはり。
会いたい。
■
他人に合わせる。すなわち、自分に嘘をつく。
自己の目標とは相反するこの行為に、マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは嫌悪こそすれど、否定はしない。
結果的にその行為がなくなればそれでいいのだ。大事の前の小事でしかない。
『――おはようございます』
織田信長にあらかたの入れ知恵をした時、放送が始まった。
すぐに名簿と地図を用意するが、そばにいる戦国武将は腕を組んでいるだけ。何もしない気か。
「よろしいのですか?」
「我にこのようなものは意味を為さぬ。どれだけ愚民が、武人が骸となろうと、戦場が狭まろうと、侵略し、蹂躙す――――事もなし」
「失礼いたしました」
詫びつつも、マリアンヌは内心でため息。
やはり人選ミスだろうか。といっても、選り好みできるほどの余裕はない。
しばらくはこの男を頼りにするほかない。
C.C.とは音信不通で、この自称『魔王』とよく似ている夫ともコンタクトは取れないのだから。
『それでは続きまして、名簿未掲載の人物の名前を読み上げます』
まず最初に自分――正確には宿主の名前が呼ばれた。これは予想通り。むしろ呼ばれない方がおかしいレベル。
しかし最後に呼ばれた名前がマリアンヌに動揺を与えた。
『【ユーフェミア・リ・ブリタニア】』
(えっ……)
聞き間違いと思ったが、再度その名は呼ばれた。ユーフェミア・リ・ブリタニア。
息子と娘が小さい頃からなかよくしていた女の子。
純真無垢な優しい少女だったが、ルルーシュのギアスによって自分の意志とは関係なくその手を血に染め、死後『虐殺皇女』の汚名を着せられた。
そう、死んだはずなのだ。遺体も存在するし、自分のような特殊能力もない。確実に完全に死んだ少女。
(やはり主催者は死者蘇生が可能なのね)
そう考えるのが妥当だ。主催者がこの殺し合いを人間の愛憎劇として楽しむというなら、『同姓同名の別人でした』なんてシナリオは用意しないはず。
また、参加者に《魔法》を示すには、格好のデモンストレーションに違いない。
しかしこれは予想外であった。ルルーシュとスザクの対応も考え直さなければならない。
まあ、これは放送が終わった後でも十分。マリアンヌは再び放送に耳を傾けた。
『今回の閉鎖エリアは【A-7】【B-7】【F-4】の三カ所です』
しかし――。
禁止エリアに指定されたエリアにバツをつけつつ、改めて地図を見渡すと、どうも腑に落ちない。
『政庁』や『薬局』、『城』はまだ分かるにしても、『象の像』、『神様に祈る場所』、『死者の眠る場所』、『廃ビル』などは殺し合いの舞台としてどうだろうか。
自分が主催者ならば、『KMF格納庫』や『軍事基地』などを置くだろう。その方が参加者の闘争本能を刺激し、殺し合いをもっと円滑に進められるはずだ。
そうでないにしても、わざわざこんなものを地図に載せたりはしない。
(いえ、その考え方そのものが間違っているのかもしれないわね)
逆に、『載せる必要があった』と考えればどうだろうか。そう、たとえばそれそのものに意味はなくても、連動させることによって何らかの……。
――まさか。
思い当たるものはある。しかしそれが殺し合いに何の関係があるのだろうか。それが成功すれば、争いなど無意味になるのに。
(違うわ。利用したのは基盤だけ。土台にしたに過ぎないんだわ。だって『ラグナレクの接続』は)
『そして、最後になりましたが、《バトルロワイアル》開始から現在まで、今回の放送帯での死亡者を発表させて頂きます』
マリアンヌはすぐに思考を切り替え、名簿に目を落とす。
呼ばれた人間の横にバツをつけていくが、幸運なことに知っている者が呼ばれることはない。
ルルーシュもスザクもユーフェミアも生きているようだ。無事とは限らないが。
「『竜の右目』が逝ったか」
信長がぽつりともらしたが、それだけだった。憤慨も歓喜もない。
あるとすれば、微量な失望といったところか。
やがて放送が終わり、マリアンヌは痛む頭を無視しつつ信長に進言する。
「『廃ビル』に向かうのがよろしいかと愚考します」
「ほぅ。なにゆえそう考える。申してみよ」
おもちゃの兵隊に弾丸を込めつつ、『魔王』は顎をマリアンヌに向ける。
彼女は一度頷き、地図を信長の前に広げる。
「ご覧ください。この島の至る所に用途・趣旨不明な建築物があり、それが地図に記されています。これには主催者の何らかの意図があるかと」
「ふむ。しかし単に目印として用意したとも考えられるのではないか」
「はい。ですがそれならもっと適当なものを用意するかと愚考いたします。廃墟は場合によっては目印となりえませんので」
「『象の像』とやらもそれに含まれるが……、あれが近くにいるか」
「はい。いくら信長公といえど、再び相見えるのは時期尚早かと。今は兵と武器を集め、その後臨むのが上策」
『象の像』へ行くことはマリアンヌも考えたが、まずはあの化け物と距離をとることを優先した。
あの不死の秘密を解き明かさなければ、殺すことは不可能なのだ。消耗戦になれば勝てる見込みはまずないだろう。
死んでしまっては意味がない。
(“コード”とは違うようだけど)
どちらにしろ、あれはまだ着手すべきではない。それを信長も察したのか、顎をさすり、その後馬に跨る。
「よかろう。彼の地へ向かおうぞ」
「ありがとうございます」
謝意などまったく含んでいない礼をした後、マリアンヌは荷物をまとめ、歩きだした軍馬に続く。
『皆殺し』しか考えてないような奴だ。明確な行き先を理由とともに示せば、従ってくれるだろう。そんな思いつきが功を奏した。
(これが『ラグナレクの接続』を模したものなら……)
施設内、あるいは地下にそれを実行させるための装置――思考エレベーターがあるはずだ。
それが『制限』と『首輪』を管理しているのではないか。マリアンヌはそう推察した。
『ラグナレクの接続』とは、夫であるシャルルと、その兄V.V.が幼少時より悲願としてきた、「嘘のない世界」を創生する計画だ。
これが成功すれば、全人類が他人に思考をさらけ出す状態となり、さらには過去に死んだ人間の記憶や思念までもが感知できるようになるとされていた。
これならば思考は単一化され、争う意味はなくなる。バラバラだったみんながまたひとつになるのだ。なんてすばらしい。
『ラグナレクの接続』には世界中に点在するギアス関連の遺跡と連動させる必要がある。今回はその縮小版と捉えるのが妥当だろう。
しかしこればかりは実際に行って調べてみないとわからない。
(もう一つの可能性としては……)
息子であるルルーシュが用いた、ゲフィオンディスターバーを搭載させた電車。
これの場合は『首輪』に関してしか立証できないが、《魔法》で『制限』も可能にしていると仮定するならば、十分その可能性はある。
しかし放送によれば現在は運行休止状態。これをどう判断するかが問題なのだ。
各駅に車両を停車させているかもしれないし、効果範囲が広いのかもしれない。
実際に首輪で実験したいところだが、これにはサンプルが必要だ。自分で試すのはリスクがあまりに大きすぎる。
(『廃ビル』を調べた後、電車の方も調べてみようかしら。あ、それと船があれば『遺跡』も)
そんなことを考えていると、目の前に影が差した。どうやら信長が馬を止めたらしい。
「信長公、何か」
「あれは貴様の家の者か」
前に出て、見れば、そこにいるのは確かに同じ出身の者だった。もっとも、血縁関係はないが。
おそらく髪の色が似ているからそう思ったのだろう。それがすぐに斬り捨てなかった理由か。
(ユーフェミア……)
件の少女ともう出会うとは。しかし彼女そのものにあまり価値はない。
ルルーシュとスザクの餌にはなるが、それまで生き残れるかどうか。おそらく連れていても足手まといになる。どうしたものか。
「はい。彼女は優秀な頭脳を持っています。従えるには適当かと」
「それは余が決めることよ。愚昧であればその場で屍に変えてくれる」
「お望みのままに」
その応対に信長は口角を吊り上げる。実際、マリアンヌは情報と状態如何では、ユフィを排除しても仕方がないと考えていた。
たとえこの場で『魔王』が斬り捨てようとも、それを口実にあの二人に信長を敵視させればいいだけのこと。
そのとき自分は彼女を守れなかった、と息子たちの前で悔恨の涙を流せばいい。
あの二人のことだ、不満は口にしても殺しはしないだろう。悪評ならいくらでも構わない。どうせすぐに無に帰するのだから。
「すみませーん!」
こちらに気付いたユフィが手を振りながらやってきた。なぜかスーツ姿であったが、それは気にするところではない。
問題は彼女がどこまで知っているか、だ。
「あら、その制服はナイトオブラウンズの」
「
アーニャ・アールストレイムと申します。ユーフェミア様」
ユフィのそばまで近づく。そして跪き、頭を垂れる。本来、ナイトオブラウンズは皇帝直属の騎士なので、こういうことはしないのだが、状況が状況だ、あまり無礼が過ぎると何をされるかわからない。ここは一応の敬意を示して様子をうかがう。
「ではあなたは『日本人』ではないのですね」
どこか嬉しそうな声。肯定の返事を返すと、今度は信長の方を向いた。
「あなたは『日本人』ですか?」
――――ズキッ
(!? 何この痛み)
突然、胸の奥――心臓のあたりが激痛を訴えた。なぜ。今までの頭痛がギアスによる制限であったのではないのか?
そのまま蹲るような体勢でいると、背後から『魔王』の声が聞こえた。
「いかにも。余は日の本を闇に――」
空気の漏れるような音。よく知っているものだ。これは消音器をつけた銃によるもの。
そして遅れて聞こえたドサッ、と何かが落ちる音。おそらく馬上の男が転落したのだろう。
――――ズキッ
「かっ……はっ」
たまらず倒れ、仰向けになる。その時マリアンヌは見た。
深紅の点滅する瞳を。
振動しながら構えられた拳銃を。
笑顔のまま涙を流し、震える少女を。
(まさか、これはギアスの……)
どうして考えなかったのだろう。『ギアス能力者の制限』の他に、『ギアス自身の制限』があることを。
例えばルルーシュのように人を従えるギアスは簡単に徒党を組ませる。そうなれば主催者の望むような『ゲーム』にはならない。
ただの群像劇――いや、勧善懲悪か――になってしまう。
しかし、下手にギアスそのものを封じてしまえば、ルルーシュの特色を殺してしまい、やはり殺し合いとして成立しない。
だから二段構えの制限を設けた。おそらく複数のギアスが接近すると、相殺されるか、弱体化されるのだろう。
(このままじゃ私、消えちゃう……)
一度アーニャに体を返して、機会を……。
もう、予定、メチャクチャね……。
■
「え……どうして……」
ユフィは目の前の状況が理解できなかった。なぜか目の前で鎧を着た男の人が倒れているのだ。
自分はただ目的地へ向かって歩いていたはずなのに。
「あれ……?」
ぼんやり、そう本当にぼんやりだが、何かしたような気がする。
そう、男の人が何か言って、それで自分は……。
「これで私、撃ったの……?」
いつの間にか握られていた拳銃を怯えた目で見つめる彼女。
銃はそれを肯定するように、硝煙をうっすら吐いていた。
「小娘ぇ、それでこの
征天魔王の不意をついたつもりか」
「え……?」
信長は死んではいなかった。とっさに左腕の篭手で銃弾を防いでいたのだ。
それは当然一時的に握力を失うことになり、おかげで持っていたおもちゃの兵隊を手放してしまっていた。
「私は……」
「この辱め、ただ殺すだけでは償いきれぬわ。四肢を削ぎ、腸を引き摺りだし、獄門に懸けてくれる」
「いや、いや……」
詰め寄る武将と後ずさる皇女。長い刀が眼前の女の血を啜らんと、切っ先を天に向ける。
ユーフェミアはじりじりと離れていたが、不慣れな靴のせいか、尻餅をついてしまい、逃げられない。
足がすくんで動かないのだ。それもそのはず今まで命の危険は幾度もあったが、ここまで絶望的なものは初めてだ。
護衛はおらず、援軍も望めない。どう考えても八方塞がり。
いやだ、死にたくない。帰るんだ、ナナリーや姉であるコーネリアのもとへ。
そう、ルルーシュとスザクと一緒に。優しい世界が待っている。自分が作り上げた『日本』が。
そこでまた、昔のように、ルルーシュとナナリーと……。スザクだって……。
スザク……スザク……スザク……。
助けて――助けて――助けて――。
「まずは右脚――」
「スザクゥゥゥウ――――――――!」
■
『征天魔王』 織田信長は学校に向かって歩いていた。マリアンヌが逃げ出す時に使った馬を奪還することも考えたが、今は休養を優先した方がいいと判断した。
もちろん、憤懣やるかたないのは言うまでもない。しかし、そうした感情による消耗が死に繋がることをこの戦国武将はよく知っている。
将が死ねばそれで戦は、その国は終わってしまうのだ。時には引くことも覚えなければならない。
「是非も無し、か。フン」
疲労が限界まできている。平素はこの程度でへばることはないのだが、やはり『制限』のせいだろうか。
あのうつけどもめ、小賢しいことを。
学校――字で察すれば塾のような教育施設だろうか。これも不要な建築物のひとつ。視察する必要があろう。
早々にこの呪縛をなんとかせねば、天下布武など夢のまた夢。
信長はそう考えるが、マリアンヌはルルーシュのような学生がいるため、学校の必要性は少しはあると判断し、進言しなかった。
もっとも、今となっては彼の第六天魔王が知る由もないのだが。
(愚民の戯言に耳を貸すなど、どうかしておったわ)
信長の中に、もはや人への信頼、許容など皆無に等しかった。誰も彼もが己が首を狙って画策する。
明智光秀がいい例だ。結局信じられるのは自分だけ。他人など己の欲を満たすだけの道具にすぎない。
弱肉強食、古今東西永久不変の真理。
「往くは覇道。修羅の道よ」
そのためにもまずは、体を休めねば。
【E-2/校門前/一日目/朝】
【織田信長@戦国BASARA】
[状態]:疲労(極大) 全身に裂傷
[服装]:ほぼ全損の鎧
[装備]:物干し竿@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、予備マガジン91本(合計100本×各30発)
[思考]
基本:皆殺し。ただし使えそうな者は奴隷。拒めば殺す。
1:ひとまず『学校』で休息と同時に視察。
2:目につく人間を殺す。
3:信長に弓を引いた光秀も殺す。
4:もっと強い武器を集める。
[備考]
※光秀が本能寺で謀反を起こしたor起こそうとしていることを知っている時期からの参戦。
※マントは千切れてもう使い物になりません。
※ルルーシュやスザク、C.C.の容姿と能力をマリアンヌから聞きました。どこまで聞いたかは不明です。
■
「スザクゥゥゥウ――――――――!」
その声で、アーニャ・アールストレイムは覚醒に至った。なぜ自分はこんなところで寝ているのだろう。そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
(嘘、ユーフェミア様……)
目の前に、死んだはずの第三皇女がいる。その事実は強烈だったが、それ以上に、その彼女が斬り殺されそうになっていたのがアーニャを驚愕させた。
体は無意識に動いた。呼吸と同じ、まるで自然の動作のように、銃を構え、撃っていた。
ラウンズに上り詰めるだけの、血の滲むような訓練の賜物。
「ぬぅ!?」
着弾する寸前、刀で弾かれた。それでいい。
これは殺すための戦いではない。守るためのもの。
「死なせない」
AK-47を連射しながら、立ち上がり、ユーフェミアの前に躍り出る。
いつの間にこんなものを持っていたんだろう、という新たな疑問も、薬室から吐き出される空薬莢と同時に捨てた。
鎧姿の男はたまらず銃弾をマントと刀を駆使して後退していく。しかし、7.62mm弾は容赦なくマントを食い破り、鎧を打ち砕く。
刀が折れなかったのは男の技量か、名刀故か。
「その制服、まさかラウンズの」
その後ろ姿を見た皇女は驚いたように口を開く。アーニャはそれに応えず、傍観を決め込んでいる軍馬を片手で指差した。
「乗ってください。ここから離脱し、安全なところまでお連れします」
足もとに落ちていた銃を足に引っ掛け、カラシニコフ(AK47)の弾切れと同時に持ちかえる。
その時、奇妙な既視感をアーニャは覚えた。
(リリーナを撃った銃……?)
もちろんそんな場面に出くわした覚えはないし、リリーナの死を彼女は知らない。
しかし、ぼんやりと、そう、霧のような、ノイズのようなものが混じったビジョンが『視えた』のだ。
いくら精神そのものが別個であろうと、記憶に使われる脳はひとつ。
ギアスの弱体化がその境界を曖昧にし、記憶が同期しかけているのだ。
それでもアーニャに立ち止って考える暇はない。驚くほど反動のないアサルトライフルを撃ち続けながら、乗馬を果たしたユーフェミアと合流する。
「マリアンヌゥゥゥゥゥウ! 我を謀ったかああぁぁぁああっ!」
「言ってる意味、不明」
アーニャが乗ったことを確認し、ユーフェミアは馬を走らせる。
乗り手が変わったというのに、馬は意外にも従順だった。
「追っ手は私が引き受けます。ユーフェミア様は進路を」
「は、はい!」
ユーフェミアは手綱をぎゅっと握り締める。動揺している時は、かえって何かをやらせる方がいい。気が紛れるから。
「よくも、よくもこの第六天魔王をぉぉをををぉぉおぉおお!」
「だから意味不明」
なおもユーフェミアを襲わんとする信長に、ナイトオブシックスは振り向きベレッタを発砲。
さすがに連射性能が劣るため、刀と鎧に弾かれる。
「しつこい男」
しかし速力を奪うことはできる。足もと、次に男がいるであろう場所への予測射撃。
やがて鎧武者は足を取られ、盛大な土煙を上げて転倒した。馬はすでに加速を終え、追っ手がもう追いつくことはできない。
アーニャは銃のリロードをすませ、そこでやっと前を見る。
いやな汗が流れた。
「ユーフェミア様、どこへ」
「荷物をすべてバッグへ入れてください――早く!」
どうやらヘンなスイッチが入ってしまったらしい。もう止まらないだろう。
速度を考えても、曲ることも止めることももう不可能だ。たしかにそこならばもう追いかけてくることはないだろう。
しかし、そこへ逃げるのは予想外であった。というか、それを予想できる人間がいたら自分の前に連れてきてほしい。精神鑑定を受けさせたいから。
軍馬が向かう先には何もなかった。いや、正確には青い空と白い雲があった。それと荒涼とした大地。
すなわち、崖。
「飛びます!」
否定も悲鳴も口から出なかった。ただ口を「あ」の形にして呆然としていた。
大地と別れる瞬間、なぜか同僚の顔が脳裏をよぎった。アーニャは目に涙を湛えたまま、引き攣った笑みを浮かべる。
――――スザク、あなた女の趣味、悪すぎ――――
巨大な水柱の中心に、二人と一頭はいた。衝撃やらなんやらはすべて馬が受け止め、その余波で二人はまるで水責めにあったかのようである。
「ゲホッ、ガハッ」
なんとか浅瀬には着いたらしい。足がつく。
バッグに銃器や携帯は入れたので、大丈夫だとは思うが、もし防水加工がなされてなければ……いや、そもそもこんなことする自体が――。
「むちゃくちゃ」
「よく言われます」
笑顔でそういう第三皇女殿下を殴りたいと思ってしまう自分は不敬だろうか。不敬なんだろうな、やっぱり。
ユーフェミアはアーニャがそんなことを考えていることなど知るわけもなく、のんきに空を見上げて――――、
「あ、見えました」
指差す方を見て、アーニャはとりあえず携帯電話を出すことにした。どうやら問題なく作動するようだ。
「……記録」
『綺麗な虹』
二人同時に感嘆し、それが何だか可笑しくて、二人は笑った。
デバイスを地図と照合すると、どうやらここは『遺跡』らしい。
「さっきからそう言ってるじゃない」
ユフィ曰く、それを見越しての暴挙らしいが、一言くらい相談してほしかった。
いや、あの状況では難しかったろうが、それでもどこか釈然としない。
「ユーフェミア様は」
「ユフィ」
「……?」
「皇位継承権は返上しました。あなたを騎士にすることは万に一つもありません」
特別扱いはするな、ということだろうか。たしかに指揮系統は異なるから従う理由はないが、それでも皇族。
貴族とはやはり身分が違う。いや、そういうことを好まないということなのだろう、彼女は。
スザクもそんなことを言っていたような気がする。
「わかった、ユフィ」
「よろしくね、アーニャ」
「イエス・ユア――――ごめん」
どうも慣れない。しかし彼女はそれが面白いようで、人差し指を口に当てて笑っている。なんだかな。
この孤島を調べてみると、どうやら神根島に似ているらしい。
自分はデータでしか知らないが、ユフィは実際に見たことがあるそうだ。人の気配はなく、恐らく誰もいない。
それを知ると、彼女はすぐさま自身の服を掴んだ。
「え? だっていつまでも着ていると風邪をひくわ」
ほら、アーニャも――抵抗するべきかどうか迷っているうちに、裸に剥かれてしまった。
羞恥心がないといえば嘘になるが、まあ、同性間だし……。濡れた服は岩場で干し、馬に食料を与えた。
ユフィの無茶でボロボロで、生きているのが不思議なくらいの軍馬は、おいしそうにパンを口に運んだ。よっぽど空腹だったらしい。
「ふぅ。疲れた」
「うん」
ふと隣を見れば、たくましい――そう、たくましい二つのものが。それに比べて自分は……なさけない。
成長すればこうなるのだろうか。いや、彼女が特別なのかもしれない。
「うらやましい」
むんず、と掴んでみる。このボリューム、一体何を食べればこんな風になるのだろうか。恐るべし、ブリタニアの遺伝子。
「へ? んっ、ア、アーニャ!? やっ……ぁはぁん。やだっ……だめぇ」
「スザクはよくて私は駄目なの?」
顔を埋めてみると、ふっくらとして柔らかい。どこか懐かしい感覚。スザクもこれにやられたのだろうか。
「スザクはこんなことしません! やあんっ、吸っちゃだめぇ……」
まあ、主従の関係は抜きしても、彼女を護ろう。スザクも生きていると知れば喜ぶはずだ。しかしこれはなかなかどうして……癖になりそう。
「……記憶」
さて、どうしたものかしら。この状況で交代して、力が足りなくて消滅というのは避けたい。
おそらく時間経過で回復すると思うのだが、それにどれほどの時間が必要なのだろう。
まあ、ユーフェミアのギアスは日本人が近くにいないと発動しないから、しばらくは大丈夫なんだけど。
マリアンヌは考察する。図らずも自分は今神根島を模した場所にいる。ここも可能であれば調べたいと思っていた場所。
思考エレベーターが使えるなら、一度アクセスしてみたい。そこに『制限』と『首輪』に関するものがなくても、『ラグナレクの接続』が可能ならば実行するだけだ。
それに、あそこには夫がいるはずだから、何らかの形で援軍を送ってくれるよう頼める。
そうなれば、こちらの勝ちだ。
【F-2/孤島/一日目/朝】
【アーニャ・アールストレイム@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:疲労(小)、ずぶ濡れ
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ベレッタの予備マガジン(4/4)、AK-47の予備マガジン×2(7.62mm弾)、麻雀牌×3、
ベレッタM92(7/15)、AK-47(30/30)、おもちゃの兵隊(0/30)@とある禁書の魔術目録、アーニャの携帯@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[思考]
基本:主催者に反抗する。
1:まずは一休み。
2:ユフィを護衛し、スザクと合流する。
3:リリーナ……?
[備考]
※リリーナの死をぼんやり認識しています(アーニャ)。
※不??完全ながら交代直前のマリアンヌの記憶と同期しました。
?マリアンヌの思考
基本:C.C.と合流したい
1:ギアスの回復を待つ
2:『遺跡』を調べたい。
[備考]
※少なくとも21話より以前からの参戦です。
※マリアンヌはCの世界を通じての交信はできません。
また、マリアンヌの意識が表層に出ている間中、軽い頭痛が発生しているようです。
※意識の上位はマリアンヌであり、マリアンヌはいつでもアーニャと交代することができます(その度に頭痛の頻度・強さは増す)。
※『ギアス能力者の制限』と『ギアス自身の制限』が存在し、ギアスによる存在であるマリアンヌは『ギアス能力者の制限』として頭痛、
『ギアス自身の制限』として発動しているギアスに接近すると激痛を感じ、時間が経てば経つほど弱体化し、最悪消滅します。
スザク、私はあなたに会いたい。ユーフェミア・リ・ブリタニアとしてでなく、ただのユフィとして。
そして優しい世界を一緒に作りたい。私にとって、それが本当の本当に大切なものだから。
だから死なないで、スザク。
私も『生きる』から。
だから――――。
【ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:中程度の疲労、決意、ずぶ濡れ
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、H&K MP5K(SMG/40/40発/予備40x3発)@現実、アゾット剣@Fate/stay night、H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数2/12発/予備12x2発)@現実、豪華なドレス
[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する
0:ア、アーニャそこはだめぇ……
1:服が乾くまで休憩
2:偽ゼロの存在を全参加者に知らせる
3:政庁で放送施設や通信施設を探し、全参加者に呼びかける
4:殺し合いには絶対に乗らない
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
現在は弱体化しているため、ある程度の意識レベルで抵抗すれば解除可能。
今後も発動中に他の発動しているギアスと接近すれば弱体化、あるいは相殺されます。時間経過により回復。
会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間に影響が出ているかは不明。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ラウンズの正装と山中 さわ子のスーツ@けいおん!、下着類が岩場に干してあります。
極楽浄土とは何だ。苦しみのない世界? 飢えのない世界? 争いのない世界?
否! 否――否――否――否――否――否――!
断 じ て 否 !
そう! 目の前に広がる空間を極楽と、桃源郷と言わずして何と言う!
むさ苦しいおっさんに付き合ったのは何のためだ? そう、このときのためだ!
釈迦よ、あなたが与えし苦難! 見事乗り越えてみせましたぞ!
おお、なんと。まだ女というには幼すぎる裸身をさらけだし、あまつさえ恥部を隠そうとしない。
その少女が、一方の成熟した――それでも若いと言わざるを得ない――乙女の豊満な山城を攻略しておる。
その柔らかそうでいてなおかつ弾力をもつその巨城の天守閣がちらちらと顔を出し、やがて天を見上げる。
なんと淫靡なことか。思えば今まで周りはガサツで汚い野郎ばかり。同僚もその乱暴で下劣な行いに辟易しておった。
それに比べて女子の尻の何と柔らかいことか。手もまるで絹糸で包んだかのように繊細で、儚げだ。それを二人も味わえるなんて。
自分は何て果報者だ。三国一といっても相違ないであろう。おっと、今度は二つの山城の間にできし桶狭間に顔を埋めおった。
それと同時に聞こえるまるで天女の誘いのような嬌声。戦場でも平素でも決して味わえないこの楽土、しかとこの眼に焼き付けさせていただく!
…………。
……………。
…………………。
ふぅ。
【伊達軍の馬@戦国BASARA】
[状態]:ボロボロ、ずぶ濡れ、賢者状態
[思考]
基本:誰にでも従う。乗った人をできるだけ落とさないようにする。
1:生きててよかった。眼福眼福
2:正直辛い
3:もう身投げは勘弁してください
[備考]
※バイクのハンドルとマフラーっぽい装飾類を失くしました。見た目では普通の馬と大差ありません。しかし、色々な意味で「馬イク」です。
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最終更新:2009年12月14日 11:29