正義のためなら悪となる ◆Nfn0xgOvQ2



「何がバトルロワイヤルだ、ふざけるなぁぁ!?」

一人の少年が憤怒の形相で、モニターに向かって天を突くばかりに吼える。
烈火の如く、雷音の如く、龍が如く。
65人もの人間を誘拐した挙句殺し合いを強制し、家族を思う一人の少女を見せしめとして無残に殺害した、その外道な所業に。

「オレは『悪』だ……だがな!! 貴様らの様な『外道』の言うことを素直に聞いてやるほど、堕ちたつもりはないぞ!!」

己を『悪』とする少年・五飛は己の怒りを吐き出していた

『正義』
かつて五飛はその言葉をよく口にしていた。
己の『正義』を信じ『悪』を倒すと。
一度は『悪』に敗れ、己の『正義』を見失いかけもした。
だがより確固たる正義を見つけ、修練を重ね戦場に戻った。
だが五飛は自分の事を『悪』と言った。
それは何故か?

AC195『EVE・WARS』と呼ばれる大きな戦争があった。
それにまつわる一連の戦乱の最中を、五飛は平和を求める一人の戦士として戦いぬいた。
だがその一年後、五飛の姿はその平和を打ち破る反乱軍の中にあった。

戦争が終わり、民主はただ安穏と平和を享受するだけで地球は変わらなかった、倒すべき敵を倒してもそれただ単に戦争が終わっただけである。
ただ流されるままにその流れを受け入れているだけでは、同じことを繰り返すのは必然である。
だから五飛はな悩む。

人、いや人類はそうなのか?
戦う者、戦える者だけに犠牲をしいて、自分は何もしない。
与えられる事が当然で、手に入れたモノを守ろうともしないのか?
それは戦争だけではない、このバトルロワイアルでも同じではないのか?
無力だからと、守ってもらうのが当然と戦う意志すら持たない。

そんなもの俺は認めんぞ!?
俺が弱い者は戦いに出るなと言ってきたのは、その命を無駄に散らせない為だ。
別に命を懸けて戦場で戦えとは言わん、いつだって戦いは戦士の役目だ。
だが弱い者-戦う力の無い者にも何か出来る事があるはずだ。
オレはリリーナ・ピースクラフトを認めない。
あの女の兵士と兵器を捨てれば平和になるという考えは間違っている。
間違っている……だが、あの女が自分なりに平和を求め戦っているのだけは確かだ。
弱い事を理由に何もしないと言うのはただの甘えだ。

ならば…ならばオレは『脅威』に『悪』なる。

だが決して無差別に参加者に襲いかかるという意味ではなかった。

己の保身や優勝の報酬に目が眩んで、バトルロワイヤルに乗った悪は潰す。
オレは『悪』だが、『悪』が悪を倒してはいけないなんていう決まりはない。
それに殺戮を黙って見逃すほど、オレは堕ちていない。

それに、このバトルロワイヤルを打倒しようとする者達は必ずいるはずだ。
そいつらは弱い奴を守ろうとするだろう、以前のオレの様に。
力の強い者なら自力で道を切り開くだろう、だが力の弱い者は?
そいつに戦う意思があるなら、いくらか手を貸してもいいだろう。

だが始めから自分の庇護をだけ求めてくるような奴や、守られてばかりで戦おうとしない奴には話は別だ。
そいつらにオレは『悪』として襲いかかる。
すぐに殺しはしない、なるべく嬲るように戦う、殺す事が目的ではないのだからな。
その過程で『悪』であるオレを倒そうと奮起したならそれでいい、だが何をしても奮起せず命乞いや逃げ出すような奴ならその時は……

普段の五飛なら、例え自ら『悪』になったのだとしても、バトルロワイヤルという状況下に置かれたとしてもこの様な考えには至らないであろう。
これは荒耶の言っていた人を狂わせる仕掛けのせいか?
だが五飛はそんな細工に心を狂わされる様な、弱い心を持ってはいない。


普段ならば……



勝ち取ったはずの平和に対する不信感が―
変りもしなかった民衆に対する嫌悪感が―
自らが散々掲げてきた『正義』を捨ててまで、『悪』となりこの平和が本当に正しいのか確かめさせた事が―

精神の防壁に隙間を作り、じわじわと五飛自身も気づかない速度で、その心の一部を侵していったのだ。
そして何よりも、他者の脅威となって進歩を促すという考えを受け入れる土台が、五飛には既にあったのだ。

戦争後の事である、五飛はある出来事で行動を共にしたOZの将校がいた。
ブローデンというその男は自らが人類の脅威となる事で、人類結束力を増しさらなる進歩を促そうとしていた。
具体的には、人類抹殺をプログラムした約三百体のビルゴを内包したOZの無人プラント『ウルカヌス』
それを木星あたりに脅威として存在させ、それを破壊するための惑星間遠征を強いる事で人類は進歩させようと考えていた
五飛はその時に交わした言葉を忘れてはいない、五飛の問いかけに答えたブローデンの言葉を。

「人はもっと遠くへ行くべきだと?」

「遠く行けると私は信じている。」

だが結局ブローデンはその思いを果たす事無く、敵対する組織のスパイの凶弾によって志半ばでその生を終わらせてしまった。

人はどこまで行けるのだろうな……

その言葉を五飛に残して。
その遺志を汲んだ五飛は、オレが脅威になるとまで呟いている。

だからこそなのだ、自分は倒されるべき『悪』として、参加者全体にバトルロワイヤルを打倒する為の意思を―

状況に流されてそうするのではなく、自分自身の意思で決意させようと―
それが自分の役割だと、そう思ってしまったのである。
元々犠牲の上に成り立つ『正義』が正しいのか、それを確かめるためにマリーメイア軍に加担したのだ。
今さら『悪』である事に抵抗は感じない。

する事が決まれば五飛行動は速い。
まずは基本的な支給品を確認し、地図で現在地を確認する。
現在地はG-5・タワーの最上階だ。
名簿の確認はしなかった。
どうせヒイロ達がいた所で、自分に協力するとは思わなかったからだ。
そもそも五飛がマリーメイア軍に所属している時点で、ヒイロ達とは敵対関係である。
どうせ一人で行く道、確認は放送の後で名簿が完全になってからでも遅くはない、そう五飛は考えた。
そしてランダム支給品の確認に移る。
最初に出てきたのは、白と黒の一対の中華刀。
愛用の青龍刀ではなかったものの、一目でそれが業物である事が見てとれた。
他の支給品も確認したが、ハズレの類ではなかった。
準備が終わると、下に向かうため歩き始める五飛。

「……今のオレを見たら失望するか、トレーズ?」

ふと何故か、脳裏にトレーズの姿が思い浮かんできた。
かつて『正義』だった自分を始めて打ち負かした『悪』であるトレーズを。
だがそれでも、五飛の決意が揺らぐような事はなかった。


【G-5/タワー最上階/一日目/深夜】
張五飛@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:
[服装]:マリーメイア軍の軍服
[装備]:干将・莫耶@Fate/stay night
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済)
[思考]
基本:オレが参加者の脅威となる!
1:殺し合いに乗ったものは倒す。
2:『戦う意思』のない者達を追い詰める。……それでも『戦う意思』を持たなければ―
3:人間の本質は……
[備考]
※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。





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張五飛 060:その 名は ゼロ



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最終更新:2009年11月08日 16:56