嫌悪 ◆lDZfmmdTWM



―――あなたは私とよく似ている。殺人を望んでいるのは他ならぬあなた自身ですよ。


―――自分に素直な人生程、素晴らしいものはありませんよ。


先ほど対峙したあの男の声が、ずっと頭の中で繰り返されている。
やけに脳裏に焼きついているのは、その異常なまでの気色悪さが印象強かったからか。
もしくは、的外れもいい所な指摘が心を苛立たせるからか。

答えは当然―――とはいえ、男の気色悪さが心に残らなかったのかと言われればそれは嘘になるが―――後者だ。

式は光秀の言葉が、この上なく気に入らなかった。
あの男が望んでいるものは、『殺人』などでは決してない。
血の味を知ったケダモノが、ただ快楽の為に人を殺し回る。
命を奪う事に大義名分も無いその行為は、殺人ではなく『殺戮』となる。

かつて、浅上藤乃と対決した時と同じ感情だ。
故に、光秀の同類視がどうしようもなく嫌悪感を抱かせるのだろう。
人から成り下がり、彼が殺戮を楽しむが故に。

そこまで感じておきながら、ならば何故殺人衝動が萎えてしまったのか。
光秀の放つどろどろとした感触に毒され、嫌気が刺してしまったのか。
もしくは、光秀の言葉に単にしらけてしまったのか。

……もっとも今更考えた所で、もう過ぎたことなのだから仕方は無い。

「……明智光秀か」

相手の行き先は見当が付かない―――そもそもこの出鱈目な会場そのものが、どんな場所なのかがまるで分からない。
故に追いかけはしない、というよりも出来ない。
しかし光秀は、また自分の前に現れると口にした。
ならば答えは簡単だ。
もしも、あの男を誰かが先に殺したのならばそれはそれで構いはしない。
そして、己の前に再びあの男が現れたのならば、その時は今度こそ殺そう。

「それにしても……やっぱり窮屈だな、こいつは」

ふと、式は首輪に触り溜息をついた。
こんなものを身に着けることなんて、日常生活においてまずある筈もなく。
その首に感じる違和感に、少々の窮屈さを感じる。
外せる物なら、やはり外したい……そこまで考えた所で、式はある事を思い出す。

(……そういえば……この首輪、視えなかったな)

光秀の姿を、直死の魔眼で視た際。
その死はあまりにもドス黒く、はっきりとし過ぎていた。
しかしそれに反して、この首輪からはまるで死が視えなかった。
確かに元々、生きていない無機物の死を視るのは苦手だ。
物によってはかなりの集中力を使わされ、精神的にも少々くるものがある。
だが……それだけで片付けるのには、気になる事がある。
そう、視えてしまえばどうとでもなりすぎるのだ。

(ああ……なるほどな、そういう事か)

そこまで考えれば、すぐに答えは出てくる。
視えてしまえば、自分の力ならば簡単に解体が出来てしまうではないか。
無論、その瞬間に爆発する可能性も否定は出来ないが、その逆もまた然りだ。
ならばそれを封じる方法は一つ。

この首輪には恐らく、死の線を視えにくくする細工が何かしてあるのだろう。
そんな事が出来るのかと言われれば、答えは是だ。
事実、荒耶宋蓮は左腕に仏捨利を埋め込んだ事によって、式の魔眼を封じた。
また、これは式自身も知らない事だが、蒼崎橙子が彼女の為に作った『魔眼殺し』の存在もある。
もっともこの魔眼殺しは、式には不用とされ後に別の者の手へと渡ったが、それはまた別の話となる。

(俺が視え難くされてるのか、この首輪が視え難いのか……どちらにせよ、これはお手上げだな)

死が首輪から視えないのであれば、式にはもはやそれを取り外す手段は無い。
この手の物を扱いなれている専門的な知識の持ち主がいてくれれば助かるのだが、生憎名簿の知り合いには一人もいない。
そもそも、黒桐を除けば参加者自体にあまり良い知り合いがいない。

(浅上藤乃に……荒耶宋蓮か)

かつて戦い、そして倒した二人の名。
浅上藤乃に関しては別に放っておいても問題は無いだろう。
今の彼女はかつての様に、殺戮に手を染めようとはしない筈―――もっともそれはあくまで、
今の式が知っている彼女であり、この会場にいる彼女は既に殺し合いに乗ったのだが―――だ。

そして、荒耶宋蓮。
一度はこの手で打ち倒した筈の元凶だが、それが何故この場にいるのかは、特に深くは考えなかった。
死霊や生きている死体の類は今までに何度か見てきているから、恐らくはそれと同じだろうと思えたからだ。
この男も恐らくは、自分を狙いにどこかで必ず仕掛けてくる。
ならば、こちらも再び殺すまでだ。

「ま……気になる事は色々あるが、とりあえず今は待つか」

しばらく歩いた後、式が辿り着いたのは近くにある駅だった。
ここで電車に乗れば、島中を一通り見て回る事は出来るし、自分以外にも長距離を移動しようとする他の利用者がきっといるだろう。
その者から、黒桐や他の参加者の情報でも聞ければしめたものだ。
式はひとまずホームのベンチに座り、電車の到着を待つ事にした。

【D-6/駅のホーム/一日目/黎明】
両儀式@空の境界】
[状態]:健康、光秀へのわずかな苛立ち
[服装]:私服の紬
[装備]:ルールブレイカー@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式 ランダム支給品0~2
[思考]
1:とりあえず、電車の到着を待つ。
2:黒桐は見つけておいた方がいいと思う。
3:光秀と荒耶に出会ったら、その時は殺す。
4:首輪は出来るなら外したい。

[補足]
  • 首輪には、首輪自体の死が視え難くなる細工がしてあるか、
 もしくは己の魔眼を弱める細工がしてあるかのどちらかと考えています。
  • 電車がいつ到着するかは、次の書き手さんにお任せします。
  • 荒耶が生きていることに関しては、それ程気に留めてはいません。
  • 藤乃は殺し合いには乗っていないと思っています。





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最終更新:2009年11月23日 11:43