黒紅!偶然の邂逅 ◆SDn0xX3QT2
『五分以内にそこから退室してくれ』――その言葉に従い扉を開け一歩踏み出した先で、彼は信じられない物を見た。
そこにいたのは一人の女性。
問題はその服装だ。
細いひもで肩から吊り下げられたような薄い布。胸の谷間は隠れていないどころかむしろ強調されている。
丈も短く、腰に巻かれた別の布との間から覗く白い肌。
腰に巻かれた布も小さな物で、下には露わになった太腿が見えた。
「は、は、は……破廉恥でござるッ!!」
叫ぶと同時に慌てて女性に背を向ける。
彼の名は
真田幸村。戦国乱世を生きる武将である。
幸村は、こんなに露出度の高い女性を未だ嘗て見たことがなかった。あまりの衝撃に混乱する。
だがそれでも、なんとか心を落ちつけようと努め、そして背後の女性の様子を窺う。
そこで幸村は気づいた。
この女性には、気配が、無い。
恐る恐る振り返る。
そこには先程と同じ女性が、先程と "全く同じ状態で" 存在していた。
「これは……絵でござるか?」
肌、特に胸の谷間は極力視界に入れないよう気を付けながら慎重に見てみれば、それは生きた人間ではない。
本物と見紛うほどによくできた一枚の絵。
幸村よりも400年ほど先の時代を生きる人間の言葉で表現すれば、
『キャミソールとミニスカートを着た女性の等身大ポスター』がそこにはあった。
「もしやこれは異国の服……異国の女子は皆、このような、は、破廉恥な姿を……」
たとえ絵であろうとも、破廉恥な姿であることに変わりはない。
何かに打ちひしがれたような気持ちのまま、ポスターから視線を外す。
そして改めて周囲を見渡して――幸村は再び驚愕した。
灰色に固められた地面。
等間隔で建てられた柱には、いちばん上に火とは異なる灯り。
道の両脇には見たこともない形の建造物がずらりと並んでいる。
時代が違えば、至って普通のどこにでもありそうな住宅街の風景も、
コンクリートも街灯もプレハブ住宅もなかった時代の人間である幸村にとっては全てが未知のものだった。
「ここは異国でござるか……とすれば、《まほう》とは異国の妖術やもしれぬ。
もしや、あの人間の入った四角い板を壊すことができなかったのも、妖術であるが故のこと……」
少し腫れた右手を見ながら、幸村は思い返す。
一方的に押し付けられた殺し合い。
人質を取っていることを仄めかす卑劣なやり口。
得体の知れぬ方法で首を飛ばされた少女。
幸村は止めようとした。
だが、それは叶わなかった。
壁に取り付けられた四角い板―― モニター ――は、殴っても蹴っても壊れることはなく。
事は目の前で起こっているというのに、その場へと行くことさえできず、ただあの狭い部屋で吼えることしかできなかった。
「この《ばとるろわいある》なるものは、某にとって戦ではござらぬ。
真に戦うべき相手は、遠藤といんでっくすなる二人組。
某、必ずやあの二人を倒し、人質を解放して見せまする。待っていてくだされ、おやか――あああああっ!!
まだ名簿の確認をしておらぬとは、なんたる不覚ッ!!」
慌ててデイパックの中を漁る幸村。
本当はあの部屋を出て真っ先に名簿を確かめるつもりだったのを、いろいろと衝撃を受け過ぎてすっかり忘れていたのだ。
取りだした封筒を乱暴に開け、中を確認する。
異国人と思われる名前が少なからず混じった名簿の中に、主である武田信玄の名は無い。
名簿に名前が無いということは、人質となっている可能性を示している。
「お館様があのような者どもに不覚を取るとは思えぬが、しかし相手は妖術の使い手。何があってもおかしくはないでござる。
それに名簿に載っておらぬ参加者であるやも……まずはお館様がどこにおられるか確かめねば……なっ! これは!?」
武田信玄の名はなかったが、幸村の知る名が名簿にはあった。
第六天魔王・
織田信長。信長の家臣である明智光秀。そして、
伊達政宗に
本多忠勝。
「伊達殿は長篠で受けた傷が癒えぬ身。それに本多殿はあの時、某をかばって―――」
―――捜さねば。
お館様を。伊達殿を。本多殿を。他にもこの地にいるやもしれぬ、某の知る者達を。
幸村は名簿をデイパックに突っ込んで走り出した。
時間は無駄にできない。
知っている。主である武田信玄は勿論、伊達政宗も本多忠勝もかなりの強者。そう簡単に殺されるようなことはない。分かっている。
それでも幸村の足は止まらない。
ひたすらに捜し回る。闇雲に走り続ける。
それまでの路地よりも道幅の広い通りに出た時だった。
幸村が背後に人の気配を感じたのは。
次の瞬間にはもう、首筋に冷たい刃の感触があった。
「死にたくなければ、動かないでください」
静かに告げる声。
若い男のものだ。
狂気も覇気もない。一切の感情が抜け落ちたかのようなその声に、幸村はひとこと、答えた。
「断るでござる!!」
叫ぶと同時に身体を捻り、おそらくそこにあるであろう刃物を持った手を狙う。
だが、そこに相手の手はなかった。
腕が空を切る。
そこにいたはずの人物とは、既に5メートル以上の距離。
一瞬にして幸村との間に距離をとった相手は、偶然か意図的か、街灯の真下に立っている。
それは、癖の強い茶色の髪をした、年齢も体格も幸村とそう違わない青年だった。
身に纏うマントは、肩から腰辺りかけては濃紺、それより下から足元までが深緋の布でできている。
金の刺繍と暗い赤の石が作る模様は、まるで人の目のよう。
青年の、木々の葉を思わせる緑の瞳は、僅かな驚きをもって幸村を見つめていた。
「某、このような場所で死ぬわけにはゆかぬ!」
「……それは、自分も同じです」
青年の手の中で刃が光る。握られているのはサバイバルナイフ。
その見慣れぬ形の刃物に、幸村は注意を向ける。
この地は幸村にとっての軍場ではない。だから、相手を殺す意思はない。
目的は自分の身を守ること。その為には、武器を奪い動きを封じることができれば十分だ。
「――――参る!!」
幸村が地面を蹴る。
狙いは刃物を持った相手の右手。その一点のみ。
小手先の駆け引きなどしない。真っ直ぐに青年へと突っ込んで行く。
が、その視界は黒に覆われた。
青年が幸村に向け、身に纏っていたマントを投げたのだ。
「姑息な!!」
怒りと共にそのマントを払い落とす。
開けた視界の中に、青年の姿は既に無い。
「後ろでござるか!」
気配を感じ振り返る幸村。
そこにあったのは予想していなかった光景。
幸村の視線の先――青年は、空中で回転、していた。
防御の為、咄嗟に構えた両腕に衝撃と痛みが走る。
重ねられた回転による遠心力が乗せられた蹴り。その威力はかなりのものだ。
とはいえ、幸村にとっては決して防ぎきれないものではない。青年の蹴りに耐え、相手の動きが止まった一瞬を狙う。
攻撃に転じた幸村が拳を繰り出す。
しかし、手応えはあまりない。
幸村が青年の蹴りに対してしたのと同じように、青年もまた両腕で幸村の拳を防いでいたのだ。
更に青年は、衝撃を逃す為、後方へと跳ぶ。
二人の距離が、また、開いた。
――――速い。
幸村は認めざるを得なかった。
目の前の青年は強い。少なくともその速さは自分よりも上。
相手の動きを止めればいいなどという甘い考えで勝てる相手ではないということを。
そして、それと同時に幸村はあることに気づく。
青年の手にあったはずの刃物が、無くなっているのだ。
刃物だけではない。肩に掛けられていたデイパックも、青年は持っていなかった。
マントを脱いだ青年は幸村にとって見慣れぬ形の服を着ていたが、その服の中に武器を隠し持てるとも思えない。
「待たれよ!!」
幸村は叫ぶ。
その声に応じるように、次の動作に移ろうとしていた青年が動きを止める。
幸村は今まで、この青年は自分を殺すつもりなのだと思っていた。
だから己の身を守る為に戦った。
だが、もし目の前の青年に自分を殺そうという意図はないのだとすれば――――幸村には、戦う理由が無い。
「我が名は真田源次郎幸村!! 某は《ばとるろわいある》なるものを是としてはおらぬ! お主を殺すつもりも無いでござる!!」
二人の視線がぶつかる。
訪れる静寂。
先に構えを解いたのは、緑色の瞳をした青年のほうだった。
「自分に従っていただけるのであれば、これ以上の攻撃はしません」
「某は既に、この身命を賭してお仕えする主を定めた身。その要求には応じられぬ」
「命令ではなく、依頼、という形であれば?」
「何をでござるか?」
「……こちらの話を聞く意思はある、と?」
「勿論でござる。して、お主の名は?」
幸村が問う。
短い沈黙の後、青年は静かに答えた。
◇ ◇ ◇
「くるくる殿」
「枢木です」
「くるるる……」
「………」
「……くるるぎ、殿。本当にかたじけない」
住宅街の一角にある駐車場。
その片隅に、幸村とスザクは向かいあって座っていた。
スザクに対して深々と頭を下げる幸村の右手には湿布が貼られ、その上から包帯が巻かれている。
包帯は幸村のデイパックに入っていた基本支給品。湿布はスザクが幸村をみつける前に調べた民家にあった物。
幸村の右手が腫れていることに気づいたスザクが自ら治療すると申し出たのだ。
何故こんな怪我をしたのかと訊いて返って来た答えが「人の入った板を殴った故」だったのには苦笑せざるを得なかったが。
そのスザクはといえば、幸村と対峙した時に投げたデイパックとサバイバルナイフを回収し、
ナイトオブゼロのマントを再び身に纏っている。
「くるくる殿」
「枢木です」
「枢木殿」
「なんですか?」
「本当に某、枢木殿には何と礼を言ってよいか」
「そんなにお礼を言われるようなことをした覚えはありませんが」
改めて頭を下げ礼を述べてくる幸村に、スザクは困惑する。
謙遜ではなく本当に、こんなに頭を下げられるようなことをした覚えはないのだ。
どちらかと言えば頭を下げるべきは、突然背後からナイフを突き付けるような真似をした自分の方だろう。
謝る意思は無いが、謝るべきことだろうという自覚は有る。
「いや、某、枢木殿に教えていただかなければ、この でいぱっく なる物の中身を確認することも
地図や でばいす を見ることも無いまま、ただ走り回るだけでござった。
よしんば見たとしても、『しょっぴんぐせんたー』や『ほーる』など某は知らぬ故、
ここで枢木殿から聞けたことは幸運と思っておりまする」
そう言って、幸村は再度スザクに頭を下げる。
確かに、スザクは幸村にデイパックの中身をきちんと調べるよう指摘した。
地図に記載された施設がわからないという幸村に、自分の分かる範囲内で教えもした。
怪我の手当てもしてやったが、それらを全て合わせても、ここまで礼を言われるようなことではない。
そもそも慣れていないのだ、スザクは。
他人から感謝され、それをストレートに表現されるということに。
「して枢木殿。枢木殿の目的は主である るるーしゅ殿とお仲間の しーつー殿を捜すことと、
この島より脱出する術を見出すこと、でよいのでござるか?」
「はい」
「先程申した通り、某も人を捜しておりまする。枢木殿には恩義もある。この幸村、協力は惜しみませぬ!」
「……え?」
「何を驚いているのでござる?
枢木殿の望みが人を殺めることであれば引き受けることはできぬが、主を捜すことであればお断りする理由がござらぬ。
某も主を持つ身。主を案じる想いは同じと思うておりまする!」
幸村の言葉にスザクは戸惑った。
今のスザクは神聖ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの騎士、ナイトオブゼロ。
世界の敵であると言っても過言ではない。
このゲームの参加者全員から憎まれ、恨まれ、命を狙われることも覚悟していた。
そんな自分に、自らの意思で協力するなどという人間がこの島にいるとは、スザクは思っていなかったのだ。
だからこそ途中に立ち寄った民家でみつけたナイフを使い、相手を脅すという手段に出た。
幸村はブリタニアなどという国は知らないとは言っていた。
モニターやショッピングセンターも知らないというから、本当に名前の通り戦国時代の武将なのかと考えもしたが、
戦国武将が素肌にライダースジャケットなどという格好をしているはずがない。
幸村の態度は嘘をついているとは思えなかったが、現代の人間ならば世界中のどこに住んでいようと
ブリタニアを知らないわけもなく、まして日本人であればナイトオブゼロとなった自分を知らないなんて有り得ないのに。
それなのに、幸村はあっさりと、スザクに協力することを自らの意思で快諾したのだ。
そのうえ「主を案じる想いは同じ」と言われ、スザクの戸惑いは更に強くなる。
―――同じわけがない。
スザクが幸村に名簿に知っている名が無いのか訊ねた時、
幸村は伊達政宗や織田信長、明智光秀、本多忠勝という名と共に、名簿には名前の無い己の主、武田信玄のことを話した。
熱く語るその様に、幸村の信玄への敬愛と忠誠心は本物だとスザクは感じた。
スザクとルルーシュの間には、そんなものは存在しない。
騎士と皇帝という立場にはあるが、それさえも表面上のものだ。
あるのは、約束。
ゼロレクイエムのその日まで、スザクはルルーシュを守る。
それは忠誠心でもなければ友情とも違う。
殺す為に、守るのだ。
たとえ、どんな手段を用いても。
「枢木殿!」
スザクがハッと顔を上げる。いつの間にか考え込んでしまっていたらしい。
幸村の方を窺えば、特にこちらの態度を気にしている様子は無い。
それにしても――――
似ている、と思う。
幸村の声は、ジノの声に。
ジノ・ヴァインベルグ。
金髪を三本の三つ編みにした奇抜な髪形と、人種の差を考慮してもひとつ年下とは思えない恵まれた体躯。
シャルル・ジ・ブリタニアの騎士として共に名を連ねた嘗ての同僚。
過剰なスキンシップをもって、ナンバーズの自分を差別することなく受け入れたナイトオブスリー。
もし、ほんの少しでも何かが違っていれば、今も仲間として共に戦っていたかもしれない。
友達と呼び、もしかしたら親友と呼ぶこともできていたかもしれない。
だが、そうはならなかった。
自分から、離れた。
切り捨てた。
裏切って、傷つけて。
戦場で敵同士として対峙した時、他のラウンズは殺してもジノだけは殺さなかった。
だがそれは、友情や優しさなどという綺麗な感情では、たぶん、ない。もっと利己的で醜い想いだ。
きっとジノは助かってよかったなどとは思っていない。
ジノだけではない。
多くの人を裏切った。傷つけた。殺した。
今までも。そして、これからもまだ、殺すのだ、きっと。
「某、枢木殿にお願いしたき事がござりまする」
「……なんですか?」
「もし枢木殿が槍をお持ちであれば、某に譲っていただけぬかと」
「槍?」
「如何にも。某の槍はいつの間にか奪われ、この でいぱっく の中にも入っておらず」
「槍は持っていませんが、もし、これでいいなら――」
スザクはデイパックを開け、自分のランダム支給品のひとつを取り出した。
「おお! これは!!」
幸村が感嘆の声を上げる。
スザクが取りだしたのは、銀色をした二本の棒だった。
「物干し竿です。ステンレス製の」
「某に、いただけるのでございますか!?」
「はい」
幸村は立ち上がり、早速スザクから物干し竿を受け取ると、両手に一本ずつ持ち構えを取った。
そして、試しに回してみる。
「使い勝手は異なるが、長さは某の槍とほぼ同じ! 助かり申した。かたじけない、枢木殿!」
「自分には使い道はありませんから、お役に立つのであれば」
「しかし、ただ一方的にいただくわけには参りませぬ。代わりにこれを受け取ってくだされ!」
そう言って幸村がデイパックから取り出しスザクに差し出したのは、日本刀に見える物。
だが、見た目は日本刀でも、実際は刀ではない。
幸村の支給品確認に付き合ったスザクは知っている。
これは銃だ。
『
レイ・ラングレンの銃』――柄に見える部分に銃口があり、鞘に見える部分が弾倉だと説明書には書かれていた。
「さして殺傷力のない物干し竿と交換するには、この武器は強すぎると思いますが」
「構いませぬ。枢木殿にはいろいろと教えていただき、手当てまでしていただいた恩もござる。
それに某には、このような西洋式武具は扱えぬ故」
「……危険だとは、思わないんですか?」
「何をでござる?」
「知り合ったばかりの自分に、こんな武器を渡すことをです。自分が真田さんに刃物を向けてから、まだ30分も経たないのに」
「あれは主を想うが故のことだったのでござろう?」
その言葉にスザクは沈黙する。
違うのだ。
自分とルルーシュは、幸村が思っているような関係ではない。
「受け取ってくだされ。某は枢木殿に協力すると約束致した。その証と思うて下され」
幸村に真っ直ぐに見つめられ、スザクは差し出された銃を受け取る。
「……ありがとう、ございます」
「礼には及びませぬ。それよりも今は、この地にいる互いの主、そして仲間を捜すことが肝要。手分けして――」
「いえ。一緒に行きましょう」
「何故でござる? 二人で手分けして捜した方が早いはず」
「自分はまだ、貴方を信じていません。貴方がルルーシュを殺さないと、信じられない」
スザクの言葉に、幸村の表情が険しくなる。だが、それは一瞬のことだった。
「大切な主の命がかかっているとなれば、枢木殿が慎重になられるは無理ならぬこと。
分かり申した。しばし行動を共にし、某の言葉に偽り無きこと、確かめてくだされ! では、参りましょうぞ!!」
「どこへ?」
「お館様や るるーしゅ殿達を捜しながら、『敵のあじと』へ向かうでござる!!」
威勢よく答えるなり歩き出す幸村の後ろ姿を見ながら、スザクはゆっくりと立ち上がる。
そして、銃を持った右手を上げた。
銃口を幸村の背中に向ける為に。
―――スザクは、思ったのだ。
スザクは、バトルロワイアルに優勝したからといって、願いを叶えて貰えるとは思っていない。
優勝した瞬間に首輪を爆破されてもおかしくないし、首輪を外せたとしても他の方法で殺されてもおかしくないと考えている。
仮に願いが叶うとしても、死者の復活、それだけは絶対に不可能だ。
C.C.という不死の存在をスザクは知っている。
だがそれでも。スザクは死者を蘇らせる力の存在を信じられない。信じる気もない。
"死なない"ことと"生き返る"ことは、スザクの中では決定的に違う。
人は、一度死ねば生き返ることはない。
それが、生であり、死だ。
だから、ルルーシュの命が僅かでも危険に晒されるようなリスクを、スザクは冒せない。
絶対にこんな場所でルルーシュを死なせるわけにはいかない。
ルルーシュは世界の為に死ななければならない。
ゼロレクイエムが為されなければ、これまでに自分達が生んできた犠牲の全てが無駄になってしまう。
それだけは何としても避けなくてはならない。
スザクは思う。
自分が今やるべきことは、目の前の人物が協力しあえる相手なのかを見極める為に行動を共にすることではない。
彼がルルーシュを殺さないと信じられないのなら。
ならば、スザクはそれを排除するだけだ。
それが、ルルーシュの剣である、僕の役目だ――――と。
スザクの構えた銃が、狙いを定める。
一発の銃声が、響いた。
引鉄を引いた次の瞬間スザクが見たのは、驚愕に見開かれた目を自分に向ける幸村の顔だった。
そして、その幸村の先に、弾丸によって穴の開いた壁。
「く、枢木殿………」
スザクは幸村に対し、淡々と答える。
「試し撃ちです。いざという時に弾が出ないのでは話にならない」
「そ、そうでござったか」
「信じるんですか?」
「どういう意味でござる」
「自分を狙って撃ったのだとは、思わないんですか?」
スザクのその言葉に、幸村は激昂した。
「何故でござるッ!!! 何故でござるか、枢木殿! 何故、某に己を疑わせようとするのでござる!!」
幸村の叫び。
その言葉に、スザクは理解した。
ああ、そうか。僕は、疑われたかったんだ―――
幸村はスザクに協力すると言った。
協力。それは、ある程度信用している相手に対して使う言葉。
自分でさえ信じられない自分自身を、幸村は信じた。
もう誰にも信頼されることなど無いと思っていた自分を、幸村は信じた。
それがスザクには辛かったのだ。
一方的に勘違いされたも同然とはいえ、実際には存在しない"主への想い"が理由であるから尚のこと。
血に塗れ、嘘に塗れ。
咎人である自分が、誰かから真っ直ぐに見つめられ本心からの協力を得られることが、赦せなかった。耐えられなかった。
恐怖で屈服させ従わせることよりも、純粋な気持ちでの協力が苦しい。
そんな自分自身の気持ちに気づいて、スザクは心の中で自嘲する。
「―――僕はさっき、貴方を殺せた。でも、殺さなかった」
スザクは告げる。
「きっと、これが僕の答えです」
言葉を紡ぐ。
「僕は、貴方がルルーシュを殺さないとは信じていない。もし貴方がルルーシュに危害を加えようとしたら、殺してでも止めます」
その言葉の向かう先は、幸村だけではない。
「でも、今は貴方を殺さない」
これはきっと弱さだ。迷いだ。……それでも。
「僕は……貴方を殺したくはない。だから――」
その先は言えなかった。言ってはならない。そう、スザクは思った。
「……某も、枢木殿に殺されたくはないでござる」
幸村が答える。
それが単純に言葉通りの意味だけでないことは、スザクにも伝わった。
「枢木殿と刃を交えるのも、御免蒙りたい。 某は、枢木殿から受けた恩義には必ず報いまする」
「あの、さっきも言いましたが、僕はそれほど大したことをした覚えは――」
「枢木殿にとっては大したことではなくとも、某にとっては大きなこと。では枢木殿、今度こそ参るでござる!!」
幸村は宣言し、再び歩き始める。
スザクに、背中を見せて。
スザクはその背中をしばらく見つめてから、手に持った銃をデイパックにしまうと幸村の後を追い、隣りに並ぶ。
「ところで、目的地は」
「先程も申した通り! 地図に書かれた『敵のあじと』へと、乗り込むでござる!!」
熱く宣言する幸村に、スザクは静かに言った。
「……言い難いんですが、『敵のアジト』って、真田さんが思ってるような場所じゃないと思います」
【E-7/住宅地/一日目/深夜】
【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]: 健康、「生きろ」ギアス継続中
[服装]: ナイトオブゼロの服
[装備]:
[道具]: 基本支給品一式、レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、バタフライナイフ@現実(現地調達品)、湿布@現実(現地調達品)、
ランダム支給品0~2(確認済み)
[思考]
基本: ゼロレクイエム完遂の為、ルルーシュ、C.C.と共に生還する (特にルルーシュを優先)
1: ルルーシュ、C.C.、名簿外参加者の中にいるかもしれないゼロレクイエムの計画を知る人間を捜して合流
2: ルルーシュに危険が及ぶ可能性のある要素は排除する
3: 確実に生きて帰る為の方法、首輪を外す方法を探す
4: しばらくは幸村と共に行動
[備考]
※ラウンズ撃破以降~最終決戦前の時期から参戦。
※主催がある程度の不思議な力を持っている可能性は認めていますが、死者蘇生が可能という点は全く信じていません。
※少なくとも、『真田幸村』が戦国時代の武将の名前であることは知っていますが、幸村が本物の戦国武将だとは思っていません。
【真田幸村@戦国BASARA】
[状態]: 健康、右手に軽い打撲(治療済み)
[服装]: 普段通りの格好(六文銭の家紋が入った赤いライダースジャケット、具足、赤いハチマキ、首に六文銭)
[装備]: 物干し竿(ステンレス製)×2@現実
[道具]: 基本支給品一式(救急セットの包帯を少量消費)、ランダム支給品0~2(確認済み)
[思考]
基本: 『ばとるろわいある』なるもの、某は承服できぬ!
1: 武田信玄のことは何があろうと守る
2: スザクと共に行動、恩義に報いる為にも協力を惜しまない
2: 『敵のあじと』に乗り込む
2: 『敵のあじと』が自分が思っているものとは違うというスザクの指摘がどういう意味か分からないので確認する
2: 怪我をしている伊達政宗、名簿に記載されていない参加者の中にいるかもしれない知り合い、 ルルーシュとC.C.を捜す
2: 主催を倒し、人質を救い出す
2: これは戦ではないので、生きる為の自衛はするが、自分から参加者に戦いを挑むことはしない
2: 争いを望まない者は守る
2: 織田信長と明智光秀は倒す
※武田信玄が最優先であること以外、本人には優先順位をつけるという発想がありません。矛盾もありますが気づいていません。
[備考]
※長篠の戦い後~武田信玄が明智光秀に討たれる前の時期から参戦。
※MAPに載っている知らない施設のうち、スザクにわかる施設に関しては教えてもらいました。
※スザクとルルーシュのことを、自分と武田信玄のような主従関係だと勝手に思い込んでいます。
支給品解説
【レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード】
レイ・ラングレンがいつも腰に挿していた、刀のようにも見える連射可能な銃。赤い鞘のような部分は弾倉。
相当数連射すれば床を撃ち抜いたりもできる。ヴォルケインを呼ぶのにも使用されていたが、本ロワ内では呼び出せない。
【物干し竿(ステンレス製)×2@現実】
その名の通り、ステンレス製の物干し竿。2本で1セット。
真田幸村の槍と長さはほぼ同じ。
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最終更新:2009年11月07日 10:02