その 名は ゼロ  ◆.ZMq6lbsjI




このタワーはどうやら宇宙開発局全体の管制を行う施設であるようだ。

最上階から降りてきた張五飛は、管制室らしき室内を見回し頷いた。動力は生きている。
ざっと、この宇宙開発局の敷地内のデータを検分する。
見たところ一つの浮島になっていて、出入り口は東西に橋が二つ。
もう一つは高架上の電車だ。駅があるので、ここから乗り降りができるのだろう。
施設はこの管制塔と、北東の展示場。そして民家や工場がまばらに。
展示場なら何がしかの道具が手に入るかもしれない。よもやガンダムやモビルスーツなどはあるまいが。

監視カメラなどないかとしばしコンソールを操作したものの、どうもそういった機能はスリープさせられているようだった。
解除を試みたが、命令権はこのタワーにない。おそらくは主催者が握っているのだろう。

「索敵は不可能……だが、通信はできるか?」

この場所から接続できる施設は、
【太陽光発電所】【展示場】【ホール】【政庁】【ショッピングセンター】、そして二つの【学校】。
それらの施設になら、ここからビデオメールを送信することができる。リアルタイム通信は不可能だった。
主催者としてもあまり参加者同士に密な連絡を取られてはゲームの進行に差し支えると思ったのか、送信できるのはタワーからのみの一方通行だったが。

黙考し、どういった手を打つか吟味する五飛。
一応の方針は決めている。
この殺し合いに乗った者は排除。
弱い者、戦わぬ者には脅威となって戦意を煽り、自らの意思で生きる道を、『戦い』を選ばせる。
どちらの場合も、まず五飛がその誰かと出会ってからの話だ。
虱潰しに探していくのもいいが、それでは50人以上もの参加者に対して己が『悪』であることを示しきれないかもしれない。

「こちらから仕掛けるより、向こうから来るように仕向ける、か……?」

呟いた言葉に着想を得て、五飛はデイパックから『ソレ』を取り出した。


     ◆


突然の無礼を、まずは詫びよう。

私の名はゼロ。諸君と同じ、このバトルロワイアルの参加者だ。

だが、諸君と私とは決定的に違う点が一つ、ある。

それは何か? 答えよう。

私は自ら望んでこの場所にいる。帝愛グループはいわば私の協力者だ。

この戦い――殺し合いにおいて、私は諸君がこの世界に貫くべき自らの『正義』を見出すことができるか。それに期待している。

おそらくこの状況に戸惑っている者は多いだろう。なぜ自分がこんな目に、と。

戦いたくなんかない、死にたくない、守ってほしい、家に帰りたい。そう考えるのはごく自然なことだ。

心中はお察しする。私とて、無垢なる者に痛みを強制することには同情を禁じ得ない。

だが同時に、私はそのような輩を断固として排除にかかる!

力がないからと言って、他人に自らの命運を預けるな! 生き延びたければ、死にたくなければ――自らの意思で戦え!

力がなければ考えろ。思考の限りを尽くし、戦術を駆使し、あらゆるものを利用して敵の裏をかけ!

他人に守ってもらえるなど思うのは甘えだ! そんな幻想にすがる輩は、自分の命を他人に投げ渡しているだけだ!

自らの意思を表現することができないのなら、それは死んでいるのとどこが違う? いいや、何も違いはしない!

私は戦いを否定しない。戦いの中で生きた実感を、充足感を得られる者もいるからだ。

諸君の中にもそういった者はいるのでなないか? 常に戦場に身を置き、原始的な欲望、衝動に身を任せている者が。

有史以来、人は常に争いの中で発展し、進化してきた。

であればこそ、この殺し合いの中においても人は正しく進化することができるのではないか?

私は、その答えが知りたいのだ。

もう一度言おう。我が名はゼロ!

人々よ、我を恐れよ! 私はここに、諸君ら全員の抹殺を宣言する!

間違っているのは私か? 帝愛か? それとも諸君か?

諸君らが本当に『生きている』と、自らの行いが『正しい』と確信があるのなら――抗ってみせろ!



     ◆


黒の仮面を外しふう、と息を吐く。
録画した映像は順次施設へと送信され、当該施設の映像機器で繰り返し再生されるようにした。
また、放送設備を用いてこの宇宙開発局エリア一帯にも声を届かせた。
映像が届いていないので実感は湧かないかもしれないが、これで隠れ潜んでいる者も何らかのリアクションを見せることだろう。
踵を返し、管制室を出る。
タワーを出れば、五飛はもう後戻りはできない。
参加者全てに喧嘩を売ったのだ。誰も彼もが、五飛を敵だと見定めているだろう。

だが、それがいい。

明確な敵が、目に見える脅威がなければ、人は危機を実感し辛い生き物だ。
既に誰かに襲われた者ならともかく、友好的な関係を築いた集団は楽観していることだろう。
この調子で仲間を集めていけばみんな助かる、と。
その過程で戦う意思を見出したなら構わない。
だが、集団に埋没し、守ってもらうことを期待するだけの弱者に成り果てたなら――

そんな者に対しては充分な宣告になっただろう。
もちろん、明確に殺し合いに乗ったと判断した者には容赦はしない。
望むのでは殺戮ではなく、個々人の意識の変革だからだ。

途中、休憩室らしきところに寄って、自販機からコーヒーを取り出す。
熱いコーヒーのはずなのに、飲んでいれば不思議と心が冷えていく――決意が固まっていく。
ふと目に付いた窓際の黒く分厚いカーテンを、刀で手頃なサイズに切り出す。
背に翻った布はまるでマントのように。
この仮面にマリーメイア軍の軍服はミスマッチと言わざるを得ない。やはり、このような小道具が必要だろう。
銃弾を防げはしないだろうが、刃物なら一瞬なりと絡め取ることができるかもしれない。目隠しにもなるだろう。

仮面を小脇に抱え、タワーを後にする五飛。
その足取りにもう迷いはない。




タワーを出て、とりあえずは手近な参加者を探すかと歩き出した五飛の目にずらりと居並ぶ車の群れが飛び込んできた。
タワーに併設された駐車場らしい。
足が手に入ればと五飛はその内の一台、乳白色のス○ルR2らしき車に目を付けた。
窓ガラスを腰に挿していた刀の柄尻で叩き割り、強引にドアを開く。
だが、そこで五飛は凍り付いた。

「……足が伸ばせんな」

渋面を浮かべ、五飛。
その車体は外からはわからなかったが、床がかなり底上げされていた。
五飛が乗っても足が途中でつっかえてしまうだろう。
そもそもペダルもなかった。どうやって運転するのか、と思ったが。

「ハンドルに細工がしてあるな……足を使わずに運転できるのか」

その技術力と言うか凝りように驚かなくもなかったが、五飛が乗れないのでは何の意味もない。
足で操作し手をフリーにできるのならよかったのだが。
これは使えないと判断して、五飛は視線を巡らせる。
次に目を付けたのは、駐車場の隅に置かれていたバイク――らしきもの。
一般のバイクと違い、密閉型のバイクだ。これなら防弾性能も期待できそうだ。
近寄り、またガラスを叩き割ろうとした五飛だが、バイクに手が触れた途端キャノピーが開いていく。
どうやら、鍵はかかっていなかったようだ。

「…………」

五飛は先ほど破壊した車を数秒ほど見やり、一礼した。運が悪かったとしか言いようがない。
バイクに乗り込み、これまた鍵がないので回路を直結しようとハンドルの下あたりを探る五飛。
だが蛮行が行われる前に、五飛に別の方法が提示される。
カーナビかと思っていたモニターに文字列が踊った。

「パスワードを入力せよ……か。フン、使わせる気はないということか?」

苛立ちとともに吐き捨てる。コンピュータで制御されるのなら、回路を繋げたところで動きはしないだろう。
まあ考えてみれば考えなしに車など支給すれば、あっという間に殺し合いどころかどこぞの自由都市になってしまうはずだ。

機械による総当たりなどを除けば、パスワード、暗号という物は大きく分けて二つ存在する。
誰かに解かせるものと、解かせる気のないものだ。
前者で言うならクイズ番組などでよく見る、ヒントなどをばらまきその情報を総合して類推できるもの。雑学の範囲で答えられることもある。
後者はある個人のプライベートに関するものなど。設定した本人以外に知られてはまずいものや、誰か特定の人物にのみ知らせたいことがあるときなどだ。
前者ならともかく、後者ならどうやったところで五飛に解けるはずもない。
このバイクの持ち主の名前・思考・性格・素姓などあらゆる情報が不足しているからだ。
溜息をつく。
この様子では他の車も同じだろう。鍵を外したところで動かせなければ車などただの棺桶だ。

「まあ……いい。さして期待はしていなかったしな」

軽く気疲れを感じた五飛は、これと言って特に思うところもなく適当に文字を入力していく。
せっかくだから適当に何か打ち込んでみようと思った、それだけのことだ。

teiai――設定されたパスワードに一致しません。
t・i――設定されたパスワードに一致しません。
endo――設定されたパスワードに一致しません。
y・e――設定されたパスワードに一致しません。
index――設定されたパスワードに一致しません。

帝愛グループ、遠藤勇次インデックス。数少ない主催者側の名前、もちろんNG。
まったく、無駄足だな――五飛は嘆息し、ここに来る直前のことを思い浮かべた。
指先は踊る。
五飛自身の身の上のこと。

oz――設定されたパスワードに一致しません。
colony――設定されたパスワードに一致しません。
operation meteor――設定されたパスワードに一致しません。

オペレーション・メテオ。全ての始まりにして、今またデキム・バートンによりその模倣が行われた作戦名。
本当なら今も衛星軌道上で追ってくるかつての仲間――おそらくはヒイロ、ウイングゼロだろう――を待っているはずなのだ。

xenlon――設定されたパスワードに一致しません。
Altron――設定されたパスワードに一致しません。
natak――設定されたパスワードに一致しません。
gundam――設定されたパスワードと一致しました。ロックを解除します。

だが、気がつけばこの隔離された島で殺し合いなどをしている。
地球と宇宙、連合とコロニーの争い。その果てに手を取り合ったはずの人類が、今またこうして血を流すことを強いている。
やはり、間違っているのは――

「……何?」

徒然とした思考を打ち切り、モニターを注視する。
見間違いか、と五飛は目を瞬かせた。
だがモニターには確かに、パスワードが一致しロックが解除されたとの旨が通知されている。

「ガンダム……これがパスワードだと?」

ガンダムと言う名はもはや世界規模だ。知られて困ることはない。
だが一般の人々が持つガンダムのイメージと言えばそれは間違いなくただの破壊者だろう。
その本質を力なき者の代弁者、と捉えている者は果たしてどれだけいることか。
しかしだからと言って、自分のバイクにこんな酔狂なパスワードを設定する馬鹿者など――

「……いるな。あの馬鹿ならやりそうなことだ」

と、五飛が思い浮かべたのは三つ編みのおさげも長い死神を自称する少年だ。
同じガンダムパイロットでありながら、ヒイロや五飛、トロワとはあまりにも違う陽気なメンタリティを持つ男。
だが決して軽薄ではなく、締めるべきところは締める男なのだが。

「まあ……いい。デュオ、お前もまた俺を追っているのだろう? もしお前もここにいて、相まみえることあらば……」

X-18999でヒイロは五飛と交戦し、デュオはトロワと交戦した。
トロワはそのままX-18999に残ったことから、もはやマリーメイア軍の仮面を捨てたのだろう。
しかし五飛は違う。ヒイロと戦ったのは演技などではない。

「そうだ……貴様らが正しいのなら、俺を止めて見せろ。俺は逃げも隠れもせんぞ」

正義はどこにあるか。
それを問うに、同じ答えを求め戦ったガンダムパイロットほど相応しい相手もいない。
キャノピーを閉め、アクセルを吹かす。問題なく運転できそうだ。
足の確保はできた。加えてこのバイクは武器にもなる。
とは言え、発見した参加者を有無を言わさず轢き殺しては意味がない。
接敵すれば降りた方が無難だろう。

やがて五飛を乗せたバイクは勢いよく駐車場を飛び出した。
その内部、さきほどまでの五飛は消え、今は黒い仮面を纏った男がそこにいた。
ヘルメットの代わりでもあるが、それだけではない。

(俺は『悪』になると決めた。この仮面はいわば誓いだ)

ゼロの仮面。
己の信じた正義との、決別の証。
全てを0にするか、そうでない道を選ぶのか――

「さあ……見せてみろ! お前達の意思を、お前達だけの『正義』を!」

吠えて、悪の仮面は突き進む。
戦争を捨てることが出来るだけの……それに足るだけの答えを求めて。



【G-5/タワー外部/一日目/黎明】

【張五飛@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:マリーメイア軍の軍服   分厚いマント
[装備]:干将・莫耶@Fate/stay night  ゼロの仮面@コードギアス  刹那のバイク@機動戦士ガンダム00
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品1(確認済)
[思考]
基本:オレが参加者の脅威となる!
1:殺し合いに乗ったものは倒す。
2:ゼロとして『戦う意思』のない者達を追い詰める。……それでも『戦う意思』を持たなければ――
3:人間の本質は……
[備考]
※参戦時期はEndless Waltz三巻、衛星軌道上でヒイロを待ち構えている所です。
※バイクはデュオの私物だと思っています。

※【太陽光発電所】【展示場】【ホール】【政庁】【ショッピングセンター】【学校】にゼロの演説を記録したビデオメールが送信されました。
 受信するまで多少タイムラグがあるかもしれません。受信したときは、モニターやテレビなどで自動で再生されます。
 また、宇宙開発局エリアに声だけが響き渡りました。


【ゼロの仮面】
ルルーシュ・ランペルージ及び枢木スザクがゼロとなるとき使用するフルフェイスの仮面。
ボイスチェンジャー機能が搭載されており、左目に当たる部分は開閉可能。
視界は狭そうに見えるが、スザクはこれをつけたまま機関砲を避けたりしているので、おそらくセンサーなどを内蔵して視覚を補っていると思われる。


【刹那のバイク@機動戦士ガンダム00】
刹那がマリナ姫と初めて会ったときに乗っていた卵型のバイク。
バイクとは言う物の、車高の低さから見るに車体にまたがるのではなく車の座席のようなシートで操縦している。
その上風防というかキャノピーが閉まる密閉タイプ。またタイヤは異様に太く、車体にはTAXIと書かれている。
ちなみにメガゾーンではないので変形はしない。エクシアのコアファイターでもない。


【小萌先生の車@とある魔術の禁書目録】
月詠小萌の体格に合わせ特注された車。
小萌先生は足がペダルに届かないため、ハンドルにアクセルとブレーキ用のスイッチのようなものが付いている。
※窓ガラスが破壊されました。
※また、他の車と同様パスワードが設定されているかもしれません。


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034:正義のためなら悪となる 張五飛 089:乗り損・エスポワール・スタンダード



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最終更新:2009年11月14日 11:51