Card ◆Ok1sMSayUQ
「まず……裏のゴールを目指すためには、道具が必要や」
「道具、ですか」
いまいちピンと来ていないように首を傾げる
平沢唯に、大仰に頷いて見せたのは
船井譲次だった。
身振り手振りを交えながら説明する船井に対してじっと椅子に座って聞く唯の姿は、
目の前に吊り下げられた餌を見つめる飼い犬のようにも見える。
ここまで素直だということは、世の中の澱み、芥など何一つとして知りもしない若造だということなのだろう。
そんな唯に出会えたことへの幸運を噛み締めながらも腹の底に仕舞いこんだ船井は、しごく真面目な調子で続ける。
「そう……! このギャンブルの解れ……そこを引けばバラバラに砕け散り、崩壊……!
そんな針の穴……突破点を探す必要があるっちゅうわけや」
「はあ」
「つまるところ……オレらが殺し合いをせなあかん理由……それはこの首輪の一点に尽きる」
とんとん、と首輪を叩いてみせると、唯も流石に理解してきたようで、合点したようにうんうんと頷く。
船井はさらに続ける。
「この首輪さえ外してまえば、もう殺しあう必要性はゼロ……後は、脱出に専念できるっちゅうわけや。
船なり飛行機なり……見つけてしまえばこっちのもの。爆破に怯えることなく、悠々自適の脱出……」
「でも、これどうやって外すんですか? 無理矢理外したら爆発するって……」
「それは恐らく……暗号か何かが仕掛けてあるんやろ。どこかに読み取る装置みたいなのがあって、認証しないと爆発、お陀仏……
遠隔操作で爆破できるような代物が、単純な仕掛けやあらへん。だがな……それこそが奴らの隙……油断や。
そもそも機械っちゅうやつは、複雑になればなるほどガタも起こりやすくなるもんや。パソコンも頻繁に壊れるやろ?
あれも同じ……複雑なパーツをいくつも組み合わせているから、隙間も多くなる……そう、解れや。
この仕掛け……遠隔操作するための部分を狂わせて、突破する……例えば、爆破するための信号を受信する部分を狂わせて、
絶対受け取れへんようにするとか……」
「あっ、なるほど! すごい、船井さん!」
船井の出した案が余程目から鱗だったらしく、ますます目を輝かせてぱちぱちぱちと拍手喝采する唯。
話を阻害された船井は若干の苛立ちを感じながらも、上手く行きつつあることを確信して、どうどうと唯を抑えた。
「せや言うても、そう簡単には行かへんもんや。奴らだって相当周到にルールを練っとるはず……首輪のブロックは厳重にやっとる。
ドライバー一本で外せるほどチャチなもんやない。せやから道具が必要なんや」
ここでようやく、最初の話に戻る。ここからが本番だと言わんばかりに船井は唯の下へと詰め寄り、
ひそひそ話をする要領で耳打ちする。唯は今まで以上に真剣に聞き入っていた。
「こいつを狂わせられるような何か……特殊な電波を発信する道具を探さなあかん。無論、そう簡単に見つかるわけはない。
寧ろ自作するくらいの気概で挑まなあかん。せやからまず……そのためのパーツを探す……分かるな、唯さん」
「え……でも私、どんなのか分かんないよ……」
声を曇らせる唯。それはそうだろう。一介の女子高生が機械工学に詳しいわけはない。
だからこそ、船井はこの案を持ちかけた。
希望を指し示し、そこへと導く灯台の役割となるために。
大抵、唯のような何も知らない女学生は怯えるばかりで動こうとしないのが普通。
寧ろ身の危険性を考えればじっとしている方が生存率は高くなる。
それではダメだったのだ。動かないということは、即ち狩られるだけの対象……哀れな獲物にしか過ぎない。
しかし動けば多少なりとも話は変わってくる。有用な道具を拾える可能性だってあるし、駒を増やすことも出来る。
少なくともこの状態なら、唯の知り合いだという連中は自分の味方になってくれる公算は高い。
唯と同じ学生の身分だ。ロクに考える頭もなく、糸を垂らしてやればホイホイかかってくれるはずだ。
駒を増やせば、やれることは広くなる。盾にだってすることも、自分自身を指揮官にして、比較的安全な場所で身を潜めることも出来る。
そう、人とは即ち駒。自分の持ちうる有効なカードなのだ。
中年に差し掛かり、体にも余分な脂を蓄えた身には直接戦うなどあってはならない事態。唯程度の女ならばどうにかできるが、
自分よりも若い屈強な男は何人もいるはずだった。それらを相手取って戦うのは愚の骨頂であり、いかに駒を揃えて味方につけるかが、
船井の取りうる最善の戦略であった。
直接戦うことを選択した者は野蛮、匹夫の勇でしかなく、傷つき倒れるのが関の山といったところだろう。
だが希望の糸であり、灯台である自分は矢面に立たなくてもいいメリットがある。駒を使えばいいからだ。
ここで重要なのは駒には弱者を選択する。強者は手持ちのカードを駆使して対応することだ。
肉体的強者を近くに置いておけば、主導権を握られる恐れも出てくる。得てしてそういう人物は支配者たろうとするものだ。
常に自分は主導権を握らなければならない。絶えず場をリードしておくことが生き延びるための近道だ。
だからこそ、今はカードを増やすことに徹しなければならない。
ギャンブルに挑むときの熱すぎず、冷めすぎていない頭の調子を確認して、船井は目の前の『カード』に目を移した。
ここにいるのは、カードでありながらも自分と同じ立場。同等の立場の人間だ。
隙を突き、主導権を握り、滓になるまで絞りつくし、利用する。
それはギャンブルにおいて船井が培ってきた理論であり、油断を許さない自戒の言葉でもあった。
そう、どれほど平沢唯が間抜けで愚鈍な人間だったとしても、同じ穴の底、上から見下ろされる立場である以上、
彼女だって同じプレイヤーなのだ。ふとした切欠で足を巣食われ、底無しの沼に落とされる……
船井自身、限定ジャンケンという地獄の賭博を潜り抜ける中で何度も死に掛けてきた。絶体絶命の窮地にだって立たされた。
しかし己が知恵を駆使し、他人を欺き、陥れ、いつだって這い上がってきた。その自覚があるからこそ、自分は決して驕らない。
ギャンブルで一番恐いのは慢心――いつもの感慨を結んで、船井は締めの言葉にかかる。
「大丈夫や……オレの知り合いに、機械工学に詳しい奴がおる……誰に盗み聞きされてるかも分からへんから、
今は名前を伏せとくけど……そいつやったら間違いない。必要な部品が分かるはずや。
後は、それを唯さんの友達と共同で捜索すればええ。多人数で探した方が早いのは明白やからな」
「本当ですかっ!?」
「バカっ……! 声が大きい……!」
どこまで正直者なのか、声を大にして喜ぶ唯の口を慌てて塞ぐ。彼女は失言に気付いたようで、
ハッとして申し訳なさそうな表情へと転じたが、ここで怒るわけにもいかない。
船井という人間は理解者であり、良き大人でなければならなかった。
「とにかく、今はそいつに会うことが一番。かと言ってそいつも無手やとウドの大木や……
まずはそいつのために、基本的な道具をオレ達で探す。それがまず第一にやるべきことなんよ」
「えっと、具体的には何を?」
「まあドライバーとかの工具類ってところやろ。
オレはここらへんを探す。唯さんは隣の部屋を中心にして捜索してくれへんか」
「オーケイです! 分かりました!」
威勢よく声をあげ、ビッと似合いもしない敬礼を取ってから、唯はどたばたと慌しく駆けて行く。
……が、勢い余って開けようとしたドアにぶつかり、「へぶっ!」と情けない声を上げていた。
えへへ、と誤魔化すように船井へと向けて笑い、ようやく出て行くという始末であった。
やる気があるのは見た目にも明らかだが、こんな調子で大丈夫なのかという不安が頭に過ぎる。
流石の船井も溜息をつかざるを得なかった。
とはいえ、ガタガタ怯えてうずくまっているだけの役立たずよりは価値があると断じて、船井も道具の捜索に乗り出す。
無論工具類など探すつもりはない。必要なのは護身用の武器。それもポケットに隠しておける程度の小型のものだ。
殺傷力は重視しない。不意を突き、怯ませられるものがあれば良かった。
人を傷つけたくないから、などといった博愛主義的理由で殺傷力を二の次にしたわけではない。
あからさまに武器を所持しておくことは他者と接触を図る際不要な警戒心を抱かせてしまうことに繋がる。
唯と接触した際、船井が何も持たなかったのはそのためであった。
もちろん唯に襲われる可能性もないではなかったが、唯の間抜けな様子と彼女自身も武器を持っていなかったということ、
そして船井自身の観察眼から唯は無害だと踏んだ。
他者を騙すということは、他者をよく観察するということ。挙動、視線、細かな仕草から心理を読む。
人は言葉ではなく、動きにこそ本性が出る。それを抑えられる者こそが心理を掴み、優位に立つ権利を得るのだ。
それもこれもエスポワールの経験から会得したものなのだから、あの地獄も悪くなかったと思う自分が現金に思え、
船井はようやくひとつ、苦笑を漏らすことができた。
「さて、オレも動かんとな」
気持ちを切り替え、声を発した船井の顔からは先程の苦笑も消え、この場全てに警戒を払う、勝負師のものへと変わっていた。
手持ちのカードを、効率よく増やすために――
* * *
部屋の隅、暗がりに隠れるように……いや、溶け込むようにして佇み、じっと腕を組んで船井を観察する人間の姿があった。
紺一色の制服に身を包み、表情も隠すくらいの長い前髪という特徴を持つ彼女はどこか茫漠としていて、さながら空気のようであった。
東横桃子。鶴賀高校の麻雀部員。どこにでもいる女子高校生。
……いや、どこにでも、はいないか。
そう言い切れるだけの人生を過ごしてきた桃子の口元には軽い失笑が浮かんでいた。
桃子にとって学校とは過ごす場所ではなく、いるだけの場所だった。
学校が嫌いなわけではない。いじめられていたわけでもないし、それどころか問題などなにひとつとしてなかった。
ただ――億劫だった。学校で友達を作ることも。部活動に入ることも。
どうせ誰も自分に気付きなんてしない。なら、最初から諦めてしまえばいい。放棄してしまった方がいい。
手間をかけて過ごす時間を得たところで、それほど楽しくもないに違いない。
幼いころから存在感がないと言われ続け、いつからかその状況を当たり前にしてきた自分の、
それは逃げるための言い訳だったのかもしれない。知りもしないくせに、分かった風になって曖昧に物事をやり過ごすしか能のない自分。
自らコミュニケーションを放棄してきたくせに、その事実から目を背けて逃げてきた東横桃子という人間は、とても弱い人間だったのだろう。
しかしそんな自分でも必要としてくれる人が現れた。
加治木ゆみ。同じ麻雀部の、三年生。
そして私の……恩人。
君が、欲しい――今でも鮮明に思い出せるゆみの言葉を反芻しながら、桃子は改めてこの殺し合いに飛び込む決意を固めた。
誰にも見つけてもらえなかった私。それに慣れて、他人とコミュニケーションするのさえ放棄していた私。
そんな私に、コミュニケーションのための努力も悪くない。その時間が楽しいこともあると教えてくれた先輩。
ゆみがいなければ、自分は何一つ我が身の不実を自覚することもなく、十年一日変わらない、諦めに浸ったままの日々を過ごしていたのだろう。
今でこそ少しはマシになったと自覚しているが、それまで積み重ねてきたものへのツケは山をなして目の前に存在している。
それさえも共に分かち合い、自分を引き上げようとしてくれているゆみの優しさに対して、
桃子が出来ることは『ステルス』を生かしてゆみを最後まで生き残らせることだという結論に達した。
影の薄さから、今でも滅多に存在は悟られることがない。それこそ派手に騒いだりしない限りは。
それを生かし、ゆみが生き残るために必要なあらゆるものを揃える。武器、道具、情報……集めるべきものはいくらでもあった。
先程まで話し合っていた『クチビルさん』、船井という男と、『不思議さん』、平沢という女の子の話題も重要な武器のひとつだった。
こうして手持ちのカードを増やす。自分が稼いだカードをゆみに渡す。自分の役割はそれでいい。
未だに情けない人間である自分が生き残るより、人に希望を与えられるゆみが生き残ってくれた方が何倍も幸せだろうから……
そう考える桃子の頭には、しかしそれでゆみは納得するだろうか、という疑問が持ち上がっていた。
殺し合いの開始時に告げられた言葉。そのどれもが真実だとは思いがたい。生き返らせるという言葉も、魔法を金で買ったという言葉も。
自分より数段聡明なゆみがこの事実に気付いていないはずはなく、どうにかして優勝ではなく脱出の案を練ろうとしているかもしれない。
それくらい、ゆみは優しいひとなのだ。こんな自分でさえ手を取って必要としてくれた事実が、桃子にそう思わせる。
殺し合いを受け入れ、飛び込もうとしている自分を見たら、ゆみは止めるだろうか。
いやきっと止めるのだろうと無条件に思うことが出来て、桃子は、それでもこうすることしか出来ないんすよ、と内心に語った。
私は先輩ほど賢くないし、希望を信じきることも出来ない。私、バカだから……こうやって恩返しすることしか思いつかなかったっす。
でもそれくらい先輩の言葉は嬉しかった。恥ずかしい話ですけど、泣いてたんすよ、あの時。
私を、私という人間を必要としてくれたあの言葉……一字一句覚えてます。
だから、ごめんなさい。今回だけ――スタンドプレーに走らせてもらうっす、先輩。
こんな選択をしてしまう自分は、やはり弱いのだろうか?
問いかけてみようと思ったが、そうすると弱気の虫が這い上がってきそうな気がして、桃子はその思いを打ち消した。
そんなことは考えなくていい。自分は、自分の勝負に集中してさえいればいい。
殺し合いも麻雀も同じ。一つの油断が振り込みに繋がり、死を招く。
そして自ら動かなければ当たり牌だって巡ってこない。動かないということは、牌をツモることさえ放棄しているのと同じ。
それこそ逃げなのだと断じた桃子は、揺れていた心が落ち着き、自分の存在が空気に溶けてゆくのを自覚していた。
だがこの『ステルス』とて手札の一枚に過ぎない。重要なのはそれに頼りきりにならず、適切に切る牌を選択すること。
時と場合によってはステルスを解除し、他者と接触を図ることも視野にいれるべきだし、
利用できると踏んだ相手には持ち得る手札の交換だって持ちかけてもいい。
所詮はただの女子高校生。上手く立ち回らないと『ステルス』以外これといった手札の持ちようがない自分はあっという間にアドバンテージを失う。
無茶はせず、勝ちを掴めると確信したら一気に全力を注いで奪い取る。人だって、殺す。
それこそただの女子高校生のすることではないと思い、桃子はやはり自分はおかしいのだと自嘲する。
早くも自分はここの毒気にあてられているのだろうか? そんなことを考えながら、桃子は船井の挙動をじっと観察する。
唯に語ったこととは違い、何やらナイフやらコンパスやらの物騒なものをポケットに仕舞いこんでいる。
あのクチビルさん、嘘つきっすね。
カードが一枚手元に増えたのを確信して、桃子はニヤと口元を歪めた。
* * *
「う~ん……」
目の前にあるものを悩ましげに眺める唯。目を細め、真剣に目を走らせている彼女が見比べているのは……服だった。
「結構可愛い……着るくらいならいいかなあ……」
船井に言われたことはもはや彼女の頭になかった。取り合えず隣の部屋から調べ始めたはいいものの、
クローゼットを開いた途端目に飛び込んできた洋服の数々に目を奪われ、
ちょっとくらいならいいよねという軽い気持ちで見始めてからかれこれ十分近くが経過しようとしていた。
普段なら絶対に手を出せないような珍しい服の数々。
フリフリのついたメルヘンちっくなエプロンドレスに、涼しげな色を基調とした浴衣もあれば、所謂ゴスロリと呼ばれる類の際どいものもある。
さわちゃん先生あたりが作ってそうだなあと想像しながら、唯はそろそろと手を伸ばそうとして、ハッとなってやめた。
こんなことをしている場合じゃない。工具を探さないと。
ぶんぶんぶんと首を振り、邪念を頭から追い払った唯の頭に残ったものは、
突っ込みを入れてくれる仲間がこの場にいないことへの寂しさであった。
自分と同じくらいいい加減でありながら、人一倍軽音部に対して一生懸命である
田井中律。
恥ずかしがりやで、しかし友達思いで心優しい
秋山澪。
その懐の広さで、いつも自分達を助けてくれる
琴吹紬。
何やら対抗意識を持ちながらも自分を慕ってくれている後輩の
中野梓。
誰一人としてこの場になく、そのことから彼女達は無事なのだろうかという不安が持ち上がる。
自分はこうして船井という頼れる人間と出会えたからいいものの、他の皆も同じとは言い難い。
きっと大丈夫。いつもなら無条件にそう思えるはずの頭も、あの光景を目にしてしまってはなりを潜めてしまっていた。
人の首が吹き飛ばされたあの映像。悲鳴もなく、ただ物のように吹き飛ばされた人間の頭……
「だ、大丈夫! だってみんないい子だもん!」
それ以上考えると頭がおかしくなってしまいそうで、唯はそう口にすることで恐怖を意識の底へ追いやった。
何の根拠になるわけもないと分かっていながらも、そうしなければ押し潰されてしまいそうだった。
思い出を紡いでいたはずのものが、全部過去になってしまう。唯にはとても耐えられないことだった。
ようやく、やりたいことだって見つけられたのに。
唯の半生はただ漫然と時間を過ごしてきた、その一点に尽きる。
やりたいことも見つからず、見つけようとせず、それでもいいかと曖昧に笑って過ごしてきた。
それなりに上手くいっていたし、それなりの生活であったし、何も不満はない……はずだった。
だが流されるがままの生活が、つまらないものだったと分かったのは軽音部で皆といるようになってからだ。
普段はテーブルを囲んでお菓子とお茶でのんびりとした時間を味わい、たまに練習して音楽の楽しさを身に染み込ませる。
休日は皆と連れ立って買い物に出かけたり、遊びに行ったりして笑い合う。
どれもぼんやりと過ごしているだけでは得られないもので、かけがえのない思い出ばかりだ。
失いたくない。無為な日常に戻るのだけは絶対に嫌だ。
強い思いを抱きながらも、しかし自分自身は何が出来るのだろうという疑問が唯の中に浮かんだ。
船井の言葉に従っているのはいいが、本当に必要なものが見つけられるかどうかなんて分からない。
納得したつもりで、何も考えていないだけなのではないか?
それだけではなく、実は探しに行くのを恐れているのではないか、という考えも持ち上がる。
他人の言葉に従うままで、仲間を探しに行こうともしない自分は、以前と変わらず流されるままの人間でしかないのではないか。
友達が酷い目に遭っているかもしれないと確かめるのが恐く、誤魔化しているだけなのではないか。
「で、でも、裏のゴールっていうのに辿り着けば皆で助かれるんだから……これでいいんだよね……これで……」
何一つ自分の考えに確信を持てず、結局今やっていることを続けることを選択した唯は、
これが何も考えずに生きてきたことへのツケなのかもしれないと思った。
だからといって何が正しい行動で、何が間違った行動なのか言い切れる自信はなく、唯は取り合えず目の前の作業に没頭することにした。
バンドと同じ。それに集中している間は、それ以外のことを何も考えずに済むから……
クローゼットを探す意味はないとして、別の棚でも探すかと歩き出そうとしたところで、こけた。
畳で滑ったのは、何も考えまいとしていたからか、単にドジな自分の性分なのか。
いててと打ち付けた腰をさすりつつ、倒れた拍子にバラ撒いてしまったらしいデイパックの中身を急いで戻す。
「ん……あれ? これなんだろ」
唯が見つけたのは、床にバラバラと落ちていた何枚ものカードだった。
これだけ数があるのに、水分補給をするためにデイパックから水を取り出したときはこんな感触はなかったはずなのに。
拾って、眺めてみる。カードの材質はやたらと硬くてずっしり。随分と丈夫そうで、多少のことでは壊れそうな気がしない。
「うーむ、でも絵柄が可愛くない」
カードの絵柄はグー、チョキ、パーを模した手のひらの形をしていたが、おどろおどろしい骨が浮き出たモデルであり、
お世辞にも愛嬌があるとは言い難かった。
結構数があることからこれでじゃんけんゲームでも出来そうだったが、果たしてカードを使ってまでじゃんけんをする意味はあるのか。
「むぅ。あ、そうだ」
すっ、と立ち上がり、ほぁぁぁぁ~~、と気合を注入して、えいっと投げてみる。
これだけ硬いのだ。ひょっとして刺さったりするかもしれない。
「まぁそんな都合よく忍者みたいな……っていったー!?」
驚くべきことに、全力で投擲したカードの角が壁に突き刺さっている。
壁が柔らかいのか、ともおもったが、カードを抜いて確認してみると硬い。パラパラと何かの欠片まで落ちてくる始末。
「はっ、実は私って忍者!?」
よく分からない硬い材質のカードの不思議に対するとりあえずの結論を出してみたが、即座にバカらしいという冷めた声が浮かんだ。
とにかく、物凄く硬いということだけは確からしい。
もしかすると包丁にでも使えるのではないだろうか。奥様ご覧下さい。大根の輪切りもほらこの通り。
悩んだ末、一枚をスカートのポケットに入れ、残りはデイパックに入れることにした。
深い理由はない。ちょっとした御守りくらいにはなるだろうという、その程度の考えだった。
唯は知らない。このカードに用いられている金属は、ガンダムに用いられている、ガンダニュウム合金だということを。
【G-6/民家の中/1日目/深夜】
【平沢唯@けいおん!】
[状態]:健康
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)
[装備]:ジャンケンカード(チョキ)@逆境無頼カイジ
[道具]:デイパック、基本支給品(+水1本)、ジャンケンカード×十数枚(グーチョキパー混合)、不明支給品x0-2
[思考]
基本:みんなでこの殺し合いから生還!
1:船井さんを頼りにする。
2:友人と妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない……
[備考]
※東横桃子には気付いていません。
支給品解説
【ジャンケンカード】
限定ジャンケンにてカイジ達が使用していたカード。
ただしガンダニュウム合金製で、非常に硬い。投げたら刺さるかも。
【船井譲次@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:ナイフ、コンパス。他にも何かあるかは後続にお任せ
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品x1-3
[思考]
基本:優勝か別の手段か、ともかく生還を目指す。
1:まずは唯の友人らを探す方法を考える。利用できそうなら利用する。
2:仲間を勧誘し、それらを利用して生還の道を模索する。
3:絶対に油断はしない。また、どんな相手も信用はしない。
[備考]
※東横桃子には気付いていません。
※登場時期は未定。
【東横桃子名@咲-Saki-】
[状態]:健康、ステルス
[服装]:鶴賀学園女子制服(冬服)
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品(-水1本)、不明支給品x1-3
[思考]
基本:自分と先輩(加治木ゆみ)の生還を目指す。
1:船井の策にこっそり相乗り。機を見て横取りする。ただし必要と感じるならステルス状態解除も視野に入れる。
2:先輩を探す。または先輩のために武器、道具、情報を収拾する。
[備考]
※登場時期は未定。
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最終更新:2009年11月14日 11:49