今は亡き王国の姫君 ◆00PP7oNMRY
「ロームフェラ財団による私的な処刑、という訳では無いのかしら」
それなりに大きな何処かのビルのロビー、少し固めのソファに腰を下ろしながら、リリーナ・ピースクラフトは自問した。
地球圏を実質支配するロームフェラ財団にとって、目下最大の脅威と認識されていた、リリーナの国サンクキングダム。
脅威なのは国力では無く、その理念。 『完全平和主義』というあらゆる武力の放棄と、戦争の排除を謳う思想。
死の商人の一面を持ち、現存する最大の武力組織、『OZ』を抱える財団としては、見過ごせぬ敵。
それにより財団は常にサンクキングダムを監視していた。 スキあらば解体するために。
地球連合の解体とそれに伴う戦火の拡大で、徐々に広がりつつある完全平和主義の思想。
財団の誘導により、OZの内部抗争に敗れた前総帥、通称トレーズ派の兵士が流れ込んだ際に、彼らを亡命者として遇し、それを前身とした自警組織の設立。
加えて、コロニーとの融和派であったノベンタ元帥の殺害、コロニーの武力破壊などを行った世界最大のテロリスト、
ガンダムのパイロットの存在までもが囁かれるようになり、
遂にOZによる武力侵攻を受ける事になった。
それが数日前。
サンクキングダムは既に無く、リリーナは財団に賓客という名の虜囚となった。
持たされた粗末なデイパックを探り、中身を確認する。
リリーナの見知った名前は五つ。
ガンダムパイロットであり、リリーナとも因縁浅からぬ相手、
ヒイロ・ユイと、同じく
デュオ・マックスウェル、
張五飛。
OZの前総帥であり、財団の意向に反を唱え幽閉されたというトレーズ・クシュリナーダ。
そして、武力を用いて財団を妨害するリリーナの兄、
ゼクス・マーキスことミリアルド・ピースクラフト。
特に、ヒイロとゼクスの二人はリリーナにとっては他人ではない。
無事であったという喜びと共に、この状況に対する不安がいや増す。
サンクキングダム崩壊後のヒイロの行方は知らないが、リリーナ同様に虜囚の身という可能性はある。
ミリアルドの方は宇宙にてOZにゲリラ的な攻撃を仕替けていると以前財団から聞いた。
その件に関して財団から追求の材料にされたが、ピースクラフトの名を冠する者が武力に頼るというなら、それはミリアルドでは無いと回答した為に、その後どうなったのかまでは知らない。
ただ、名簿にはゼクス・マーキスと記されているのが、若干の疑問を齎させた。
リリーナ自身、ピースクラフトではなく、育ての親であるドーリアンの姓で記されてる。
そのことに若干の疑問を抱きながらも、考えても仕方の無いことなので放棄した。
「さて、どうしましょうか」
とりあえずと電気を消してビルを出る。とりあえずはヒイロと兄を探す、トレーズに関しては面識がある程度。
あてなどある筈もないが、この何もせずにじっとしているというのはあまり彼女の性格にはあっていない。
ガンダムパイロット二人については、ほぼ面識が無いので保留するしかない。
トレーズ・クシュリナーダにしても同じ。 無理に探しても向こうがこちらをどう思うかわからない。
支給品の中には銃器の類が二つもあった。 一つはかなり実用に耐えられそうなもので、もう一つは護身か暗殺用。
ただ、それを身に付けることはしない。
リリーナの持つ意思と矜持は、それを身に付ける事を許さないからだ。
あまりにも甘い、現実を見ない少女の戯言、
というわけでは無い。
彼女は賢い、だから己の行動がもたらす結果も予想は出来ている。
一度武器を握れば、その先に対話のみでの解決は存在しない。
殺し合いの最中に電気の付いた建物にいたのも、人を呼び寄せる為。
彼女には最初から、殺しあおうという意思など存在しなかった。
コンッ
「!」
と、そこで路地裏にかすかな物音を聞いて、わずかに警戒を抱く。
彼女自身には殺しあう意思などないが相手は別。
「どなたですか?」
極力平静な声で呼びかける。
相手の感情を刺激しないように、慎重な声で。
己の意思で人を殺す人間よりも、偶発的に人を殺す相手の方が危険な事もある。
「私には貴方を害する意思はありません。
どうか姿を見せてはいただけませんか?」
特にこの場合、前者の人間には話す余地はあるだろうが、怯えた後者にはその余裕すらない。
だから、後者を刺激しないように、勤めて冷静に話しかけた。
しばらく、と言っても5秒程度ではあるが、待つ。
暗い路地裏に動きはないが、明かりを灯すのは相手を刺激する可能性もあるので出来ない。
ただゴミでも崩れただけで、そこには誰もいないのかもしれない。
そう思い始めた矢先の事。
「……動かないで」
「!」
リリーナの背後。
背中に硬質の感触が押し付けられる感覚と共に、少女の声がした。
「静かにして……」
そうしなければ撃つ、と言外に込めた少女の声に従う。
殺害予告をされるのは初めてではない。 後ろからいきなりとは不躾ではあるが。
声は出さず、手をゆっくりと横に上げる。 言われた訳では無いが、こういう場合の行動は概ね決まっている。
「……右に歩いて」
少なくとも、ここですぐに殺されるという事はなさそうだ、とリリーナは判断した。
言われるままに、先ほど向かっていた方向に進む。
何度か方向を転じて、適当なビルの扉をくぐる。
先ほどのビルもそうだが、自動ドアが動く以上電気は生きているようだ。
「座って」
言われるままに腰を下ろす。
先ほどのよりも上等な感触を感じながら、まだ子供と呼べるくらいのピンク髪の少女と向き合った。
◇
「私はリリーナ・ピースクラフト。 サンクキングダムの王女です」
「サンク、キングダム?」
「ご存知ありませんか?
完全平和主義を掲げる国として世界的にニュースになったと思いますが」
「……続けて」
アーニャ・アームストレルムと名乗った口数の少ない少女に、リリーナは答える。
完全平和主義。
名前から内容は容易く理解できるが、耳を疑うような言葉だ。
だが、語るリリーナの静かな声には、その事に関する疑いは一切存在しない。
この状況下でも、その理念に一片の迷いも抱いていないようだ。
「……貴女、凄くバカ?」
リリーナの言葉を聞いたアーニャの口から、素直な感想が出た。
二つの意味で、正気とは思えない。
「どうしてそのように思われるのですか?」
「正義は、力。 立派な言葉も、力が無ければ無力」
「そうですね」
素直に首肯を返すリリーナ。
少し前に、その現実を噛み締めたばかりだ。
戦禍に晒されるサンクキングダム、自警の戦力を用意しようと、強大なOZの武力にかなう筈も無い。
そうして、サンクキングダムは崩壊したのだから。
「少し前に、同じような事を言われました。
戦禍に晒される国の最中にあって、 戦えない完全平和主義に何が出来るのかと。
絵空事に過ぎない、と」
「それが正しい」
「そうですね、だから私は、サンクキングダムの主権を放棄しました」
「……え?」
一瞬、何を言ったのかアーニャには理解出来なかった。
「サンクキングダムがOZの攻勢を受け、武器を持ち戦争しなくてはならない事になりました。
ですから私は、戦争の理由を生み出すサンクキングダムを解体、主権を放棄したのです」
当たり前のように、既に起きた事柄を告げるリリーナ。
そうするのが当然であるからそうしたと。
自分の国が争いの原因となるのなら、それは不要であると。
「…………やっぱり、バカ?」
「そう思いますか?」
「思う」
「ですが、仕方の無いことです。
完全平和主義は、いかなる理由があろうとも戦争を生み出す存在であってはならないのですから。
そうして私は、OZとその母体であるロームフェラ財団に身を預ける事にしました」
◇
はじめは誇大妄想狂かと思った。
倉庫から離れて人を探す最中で、煌々と電気を付けた建物から現れた栗色の髪の年上の少女。
投げた石の音に簡単に引っかかる所から、戦闘経験などは無いのだろう。
外見や名前の響きから欧州の辺りの人間なのだろうが、サンクキングダムなんて名前の国は聞いた事も無い。
EUに属さない、既に植民地化したエリアのどれかの話かとも思ったけどそれほど昔の話という訳でもないようだ。
何より、リリーナという少女が口にした単語。
地球圏をほぼ掌握しているというロームフェラ財団と、その配下の武力組織、OZ。
現在の世界はアーニャの仕える神聖ブリタニア帝国が、EU、中華連邦と三竦みを形成している状態だ。
それも、中華連邦は先だっての事件で混乱状況にあるし、その隙を練った攻勢によって、EUはもはや単独では膠着状態の維持も出来ない。
ブリタニアの征服を阻むものとすれば、まとまりつつある中華連邦と、弱小ではあるがその同盟者の武力組織、黒の騎士団くらいか。
けれど、リリーナの声に狂気の響きは無い。
確たる知性と、揺るがぬ意思を秘めた静かな声。
王女という生まれ持った高貴な地位、という幻想に浸れるような、強い言葉。
アーニャの知る少女に似た、それでいて彼女以上の強さを持った声。
危険だと思う。
恐ろしいとも思う。
皇帝の剣、ナイトオブラウンズの一人として、許してはならない存在だと。
だが、
「そう、わかった。 貴女は凄いバカ」
「そうかもしれませんね、でも……」
「でも、キライじゃない」
「あら、それはありがとうございます」
この少女の言葉は、ある相手を思い出す。
一時期ではあるが騎士を務めた相手。
誰よりも無力でありながら、人の事を思いやれる優しい少女。
その内に、強い意思を秘めた少女を。
「貴女の言葉が本当なら、会わせてみたい人がいる」
だから、見てみたい。
知らない国の知らない王女が、何を齎すのかを。
◇
「とりあえずここから移動。
光が漏れてたのは高い所からならわかった筈」
移動したとはいえ、付近を探索されては危険なのは変わらない。
とりあえずは暗い道を通りながら移動するしかない。
安全な陣地の存在がわからないのも辛い所だ。
「貴女のような子供まで、戦うのですね」
「それ凄く失礼。 あと王女様も子供」
ナイツオブラウンズとは、元々はナイトメアの乗り手に在らず。
今でこそ戦闘の主体が移行したために自ら剣を取る機会は無いが、本の数十年前までは、正しく騎士であったのだ。
アーニャとて、帝国貴族として、ナイツオブラウンズとして不足の無い実力を伴っている。
「私はもう王女ではありませんわ。
主権を放棄して囚われた国の首班、ただの罪人のようなものです」
「じゃあ、リリーナ様で」
別に様を付ける理由はないが、あの少女と接しているような気分になれるから。
少し困りながらも、その呼ばれ方自体にはまるで困惑してない姿は、確かに高貴な地位にあるのだろう。
「あと、一つ。 多分面白くない話がある」
リリーナの話が本当でも妄想でも、面白くない事には変わりがない。
ただ、前者であるなら、少しは嬉しさも感じられるだろうか。
【F-3/北東/一日目/深夜】
【
リリーナ・ドーリアン@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ボールペン型の銃(1/1)、9㎜ピストル弾×5、AK-47(30/30)AK-47の予備マガジン×5(7.62mm弾)
[思考]
基本:完全平和主義の理念を貫き通す。
1:ヒイロとミリアルド(ゼクス)を探したい。
備考]
※参戦時期は36話、王国(サンクキングダム)崩壊から38話、女王リリーナ誕生誕生までの間。
【ボールペン型の銃@現実】
見た目は高級感のある普通のボールペン。 軸を回し外して弾を込める。 ノック部を引き出し、グリップを押すと発射。
基本はお土産用で命中率は低いが、頭か心臓に押し付けて使えば殺傷力は充分。 ちなみに一個100ドルくらい。
【
アーニャ・アールストレイム@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康、記憶が途切れることへの不安
[服装]:ラウンズの正装
[装備]:ベレッタM92(15/15)、アーニャの携帯@コードギアス 反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式、ベレッタの予備マガジン(4/4)
[思考]
基本:主催者に反抗する
0:リリーナに自分の世界との相違を告げる。
1:まずはスザクを捜す
2:リリーナの言葉に少しの興味と少しの警戒
[備考]
※少なくとも21話より以前からの参戦です
※マリアンヌはCの世界を通じての交信はできません
またマリアンヌの意識が表層に出ている間中、軽い頭痛が発生しているようです
※マリアンヌのギアスに対する制限は後の書き手にお任せします
【アーニャの携帯@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
アーニャが所持している携帯。
アーニャの記憶ともいえる沢山の写真データが入っている
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最終更新:2009年11月13日 20:04