試練/どうあがけば希望?(後編) ◆fQ6k/Rwmu.
な…………は…………?
聞き………まち、が、え………たのか?
『じ』………? 『す』………?
「さあ利根川氏。ゲーム名を………む」
聞こえるわけがない。
『げ』以外の音が。その後は『ん』のはずだ。
聞こえるわけがない。
聞こえるわけがない。
聞こえてはいけない!!
『げ』以外の音など!!
聞こえてはならんのだ!!
それが………それがぁ………!!
「どうした利根川氏。顔色が悪いぞ?」
ありえん!ありえんありえんありえん!!
ありえんならば、答えは1つ。
こいつ……この若造!
とんだペテン師!!
「おい若造! 貴様………わしをハメる気だな?」
「何の話か理解しかねる」
「とぼけるな! 『じ』だと? 『す』だと?
そんな文字がつくゲーム、帝愛にはない!
わざと間違った文字を出してわしを罠にかけようとしても無駄だ!わしは知っているんだからな!
何が軍人だ! 姑息な手を使いおって! 恥知らずが!
おい小娘! こんな男は信用できんぞ!」
リボンの小娘を見やる。
こいつは知っているはずだ。この男と一緒にゲームを見たこいつなら!
中学ですらギリギリそうな小娘なら、正直に!!
正直でその辺のガキにしか見えない……。
小娘を見て、わしの動きは止まった。
小娘は戸惑っていたと思っていた。だが、その目はやけに静かでどこか威厳を保っていた。
なんだ、この変化は……!
「利根川………グラハムは嘘をついていない。確かにゲームの頭は『じ』で最後が『す』だ。
衣がそれを保証する」
馬鹿な………馬鹿な………馬鹿なっ!!
なんだこいつの落ち着きようは!さっきと雰囲気が違うぞ!
いやそんなことはどうでもいい!
こいつめ……小娘まで抱きかかえて嘘を!!
「貴様………小娘まで抱きかかえて一介の老人を陥れようと言うのか。
素直に言ったらどうだ。『限定ジャンケン』。
最後のゲームはこれだ。そうだろう!」
「…………それが貴方の答えか。利根川氏」
若造はこちらを静かに見ている。くそ、このペテン師が!
なんだその目は! なんだその哀れむような目は!
「ならば、不正解だ利根川氏。
『女性限定水上アスレチックレース』。これが最後のゲーム名だ」
な………っ!
こいつ……こいつ……!
どこまでとぼける気だ……!
「嘘をつくな!
そんなふざけたゲームは帝愛にはない!!
わしは知らん! わしは知らんぞそんなゲーム!」
「だが帝愛にこのゲームが無いという証拠は無い」
ふざけるな………!
自分で証明をさせておいて、間違えたらこれか!
そうか……こいつ、始からこうするつもりだったのか!
最後の最後に自分で考えたゲームなど入れて……!正解を知っていようがわしを問答無用で『不正解』にする!言い分も聞かない!
そうやってわしの地位を貶め、一方的に情報を搾取する!
こいつ………人の良さそうな顔でっ!
若造がイスから立ち上がり、こちらを見下す。
くそ……なぜだ、なぜっ!
「では私達はギャンブルルームに戻り答えあわせをしてくる。
利根川氏。貴方はここで待っていて欲しい。すまないが、まだ貴方を完全に信用はできないのでな」
「ふ、ふざけるな……! それでは『限定ジャンケン』がないかどうかを証明できんだろうが!
第一わしを1人にして襲われたらどうする気だ!」
「ルールを黒服に聞いて戻ってくればすぐに案内する。
時間はかけない。不安ならば鍵をかけてくれればいい。戻ってきた時、ノックを短く3回、3セット叩く。それで開けてくれればいい」
「おい待て、待て若造!!」
若造は踵を返し、こちらを心配そうに見る小娘を連れ部屋からでようとしている。
「貴方が信用できたならば、その時は謝罪しよう。
いくぞ衣」
「あ、ああ……」
くっ……なぜだ……なぜだ……!
なぜ限定ジャンケンじゃない!
そもそもなぜ帝愛オリジナルでないゲームを混ぜる!
いや、待て。
なぜ帝愛オリジナルとわしは決め付けた。『全て』帝愛オリジナルなど、限らないではないか。
聞いた事がないからだ。
違う。そう言ったのは別の奴だ。
そうだ。
あの言葉で帝愛オリジナルと印象付けたのは、わしをその思考の網に捉えたのは……!
そもそも、わしが想定していたとはいえ、『チャンス』を掲示してきたのは……!
わしを正解をいようが言うまいが不利にできるこの証明を持ちかけたのは……
合点がいった瞬間、扉が閉じた。
奴らは部屋を出た。
わしはイスから動けない。
優位に立てるはずだった、完璧な優位から落ちた衝撃……動けない……!
だが、できることはある。
怒ることは、できる。
確信した。
違う。若造じゃあない。
わしを本当に追い詰めたのは。
わしに間違いをさせ信用を失っても仕方なくしたのは……!
安全圏にいて非道な事には怒る小娘……それが演技だとしたら………!
まさか、あの若造は本当は奴の傀儡!? 思えば、時々の会話のイニシアチブを握っていたのはあの小娘!
ありえん。ありえん。あんな奴が。だが一瞬見せたあの冷徹な顔……あれは……!
全ては、全ては……!
あの、『鬼子』………天江、衣ぉ………!!
「小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
======
「グラハム!
あれでは利根川翁がいくらなんでも可哀相だ!」
「衣よ。
話してわかったとおり、利根川氏は老獪な人だ。少しでも隙を見せれば付けこまれる。そうなれば、危ないのは君だ。
こうして先に手を打ち、荒療治をしておかねばならん」
「だが……! 一度間違えたからといって見捨てるのか!?
もし本当に帝愛オリジナルではなかったなら、非があるのは全部帝愛オリジナルだと思い込んでいた衣たちだ!」
階段を下りながら衣はグラハムに詰め寄っていた。
いくら文句を言ってもグラハムは構わずどんどんと階段を下りていく。
衣に振り向かず、どんどん……
「衣よ。少し誤解が生じているようだな。
私は利根川氏を見捨てる気はない。むしろ、戻ったならば積極的に話を聞くつもりだ」
「え………?」
思わず足が止まってしまった。だがグラハムが足を止めないので慌てて後を追う。
「だが、利根川翁は最後を間違えて」
「ああ、そうだな。だが……私は逆に信用した。
彼は帝愛のゲームに大きく関わり知っているということをな」
「え!?」
「むしろ3つとも当てる事ができた方が私の疑念は大きかっただろうな。
そうなると、ギャンブルルームに既に行っていたという可能性がどうしても頭を離れない」
「そ、そういえばそうだ」
「だが彼は2つを当てて1つを間違えた。
もし彼が既にギャンブルルームに行っていたならそんなことをする必要が無い。わざと間違えてわざわざ信用を下げる真似はしないはずだ。
つまり、彼は本当に帝愛の関係者であり最後の1つは帝愛のものではなかった、という彼の理由は真実味を帯びてくる」
「グラハム……」
階段を降りながらグラハムの顔が曇るのが分かった。
その顔で分かった。本当は軍人として市民である利根川翁を追い詰めた事を気に病んでいたんだと。。
でも、それは衣のためだ。
老獪な利根川翁に衣が利用されないように、あそこまで利根川翁を追い詰めて……。
「グラハム。それでもまだ利根川翁を疑っているのか?」
「一抹の、な。もしかしたらあれすら演技では、という疑念はある」
「それはない!」
「衣?」
衣の断言にグラハムはやっと足を止めてこっちを見た。
「衣は色んな相手と麻雀を打ってきた。その過程で、相手の一喜百憂をいくつもいくつも見てきた」
「憂が多いな」
「う。そこは気にするな!
だから衣は面と向かえば本当に怒っているか本当に喜んでいるか、少しはわかる自信がある。
利根川は本物だったと思う。2回目までは本当に喜んでいた。2回連続で和了できたようなそんな顔だ。
そして最後の時もだ。倍満に振り込んでしまったような、そんな顔だ。何回も見たから……わかるんだ。
あれは演技ではなかった。衣が保証する!だから」
と、そこでグラハムがずいっと近づいてきて
「失礼」
「ふ、ふわ……」
ま、また……あ、頭をぉ……。
「いきなり、な…」
「失礼だと言った、とは2回目だな。
何。君は本当に優しい子なのだなと思っただけだ」
「こ、子供扱いするなぁ」
「またも失礼してしまったか。
ならばこう言おう。
君は本当に優しい女性だ」
「っ!! そ、そんな甘露のような台詞を真顔で言うなー!!」
うう、グラハムめ。撫でるのをやめろー!
======
【
白井黒子 ギャンブル船/3階スイートルーム前 -0:33:58】
目の前の景色が変わり、かすかな浮遊の後わたくし達は床に降り立ちました。
床の厚さがわからなかったので少し長めに飛びましたが、大丈夫だったようですわね。
と、そんなことを考えている場合ではありませんでした。
「嫌だぁ……嫌だぁぁ!」
「しっかりしろ秋山! 落ち着け!」
わたくしが肩を抱く秋山さんは完全に恐慌状態。嫌だ嫌だと叫び涙を流して震えている。
一方、便宜上肩をつかんだ衛宮さんはその彼女をなだめようと必死。ですが効果はなさそうですわね。
やはり、ここは。
「衛宮さん。そこの部屋にわたくしと秋山さん2人で入ります。彼女もベッドなどがある場所なら少しでも気持ちは和らぐでしょうし。
衛宮さんは申し訳ないのですけど、ここで見張りをしていただけますか?」
「それは構わないけどさ……やっぱり俺も中に」
「こういう時は同姓の方が心を開いてくれるものですのよ?」
「………変なこと、するなよ?」
「わたくしはお姉さま一筋ですのと何回言えばいいんですの」
釈然としない顔の衛宮さんを廊下に置いたまま、わたくしと秋山さんは部屋に入りました。
内装はかなり豪華。どうやらスイートルームのようですわね。
まあそんなことを考えてる場合ではないのですけれど。
「痛いのは嫌だぁ……嫌だぁ……!血……血っ……!」
「落ちついてください秋山さん!」
ベッドに未だ狂乱する秋山さんを座らせ、わたくしは落ち着かせようと声をかけ続けることにしましたわ。
そうしながら思い返しますの。
なんでこうなってしまったのか……。
Eカード、『勇者の道』の説明を聞き終えた後のこと。
秋山さんがあるボードを指差したんですの。それは『奴隷』『皇帝』の文字や勝敗と書かれていたことからおそらくはEカードのスコアボード。
説明を受けた後ならばほとんどの意味は分かる……なのに、1つだけわからない項目が。秋山さんはそれに気づいてしまったんですの。
『距離』という項目に。
思えばあそこで止めておくべきでした。
けれどわたくしも衛宮さんも『距離』が何を表すのかわからなかった。だから気になってしまった。
秋山さんの疑問に、黒服はこう答えましたの。
このEカードにおいては、ペリカ、血液(これを聞いた時既に秋山さんはグロッキー状態でした。衛宮さんは激昂しておりました)の他に代償が許されると。
わたくしが嫌な予感がよぎった時にはもう遅く、男は奇妙な器具をカウンターの上に置きました。
少し形の違う2種類の器具。何かを覆うような形状。そしてその中を貫通している棒。
その棒の先には……針が3つ三角型に取り付けられた凶悪な形のものが。
『距離』という単語に何か思い当たったのは、おそらくその時点でわたくしだけ。
わたくしが黒服の男を止めようとした瞬間、奴は言いました。
『代償は耳もしくは目。負ければ針の距離が進み……耳は鼓膜を破られ、目はその中心を粉砕される……!』
血液を抜く、よりも痛々しい、味わいたくない代償。
それを想像してしまった秋山さんがついに錯乱してしまったんですの。
今までのストレスが関を切ったように、ダムが崩壊するように流れ出した。
こうなればもう説明どころではありません。又のお越しを、という男の言葉を他所にわたくし達は部屋を出ました。
ギャンブルルームは広い為周辺に客室はなし。
錯乱したまま船の中を歩き回らせるわけには行かないので、見取り図を頼りに2階へと空間移動。そして今に至るわけですの。
「助けてぇ……助けて律……助けて皆……」
友人達の助けを求める秋山さん。
『弱い』などと蔑む事はできません。むしろこれが普通。わたくしこそが異常なのですから。
それに、これはわたくしの責任。
こういった方を守り通すことこそが『風紀委員』の仕事だというのに。『距離』などに目を引かれていなければ。
彼女の肩を抱き、自分や衛宮さんがいることを言いながら、わたくしは考えます。
『参加者の居場所』。それはわたくしたちの持つ全財産ペリカでやっと1人分。
つまり今のままでは1人分の情報しか貰えない。しかもその時間はたった1時間。
距離が遠ければすぐに移動しなければいけない時間。つまり他の2人を振り回す事になる時間。
3人とも捜し人がいる中でこの状況。
わたくしはギャンブルなどする気はなかった。けれど、それでは手に入る情報は1人分だけ。
となれば、ペリカを手に入れなければいけない。問題はその方法ですわね。
わたくしと同じようにペリカを支給された参加者を捜す――これが1番堅実。ただし捜して歩き回るにはリスクもある。
施設内にペリカがないか捜す――これは不確実ですわね。
そして……ギャンブルゲームでペリカを得る。
わたくし達には今3000万の元手。負けても血液は抜かれないし耳を破壊されることはない――鉄骨渡り以外は。
けれど、1文でも負ければ情報に手が届かなくなる。
こういう時ギャンブルに精通している人間がいれば頼りになるのですけれど……。
秋山さんは論外、衛宮さんも反応からしてギャンブルをよくやっているとは思えない。
勿論わたくしも賭け事など嫌いですのでまったくやったことはありません。
では素人同然のわたくしたちがギャンブルに勝つには――――必勝法を掴むしかない。
けれどそんな時間があるんですの? そしてそんな方法がそもそもあるんですの?
わたくしの長所。『空間移動』。
これを利用すればもしかしたら――。
けれどそれは向こうとて承知のはず。となればわたくしの『空間移動』を阻害する何かがあるかもしれない。
それにそもそも、『空間移動』によるイカサマ……わたくしの『風紀委員』としてのプライドがそれを許したくない。
そんなことを言っていられる状況ではないとはわかっていても……!
けれど、目の前で震えて泣く秋山さんを見ると、だんだんと心が揺れてくる。
使ってしまえ。『空間移動』を使ってしまえと。
お姉さま………わたくしは、どうしたらいいんですの………?
======
【
利根川幸雄 ギャンブル船/3階スイートルーム -0:30:04】
小娘どもへの怒りをぶつけるかのように寿司を口に放り込んだわしの下に、あわただしい音が聞こえてきた。
憎らしい小娘どもが戻ってきたにしてはやけに早い。それに、音がしたのは……隣の部屋だ。
部屋が空いた音と駆け込む音。
おそらく誰かが部屋に入ったんだろうが……気になる点がある。
わしは寿司を食いながらも廊下に耳をすませていた。
だが廊下を歩いてくる足音はほとんどなく、扉が開き誰かが入った。
まるで廊下に突然現れたような感じだ。わしが聞き落としたのか?いや、それとも……。
わしは音を立てんように扉に近づき、耳を扉に近づけた。
「大丈夫かな秋山……白井が付いてくれてるから大丈夫だとは思うけど、さ。
くそ、あいつ……笑いながらあんなこと言いやがって。帝愛、どこまで外道なやつらなんだ……!」
聞こえてきたのは若い男の声。さっきの若造よりも若い、小僧だ。
声に満ちているのは心配と憤慨。
わしは聞こえないようデイパックから名簿を出し今の声で聞こえた『秋山』、『白井』を捜してみる。
あった。
『
秋山澪』と『白井黒子』。名前からして2人共女だな。
その後も奴はぶつぶつと独り言をしていた。
おそらく独り言で自分の精神を落ち着けるタイプのようだ。そういうタイプはいる。
自分の言葉を出して自分の心を確認する、そういう奴が。
駄目だな小僧。そんなんじゃ社会に出ても落ちるだけだぞ。
いくら廊下に誰もいないといってもこうやって耳を澄ます男がいるのだからな。
奴の独り言から判断すると、どうやら奴らはギャンブルルームに行き、そこでルール説明の際に秋山澪が錯乱。
ギャンブルルームを出てここまで移動してきたらしい。
ふん。説明如きで錯乱するとは……秋山澪、確実に弱者……足手まとい……!
まあ肉の盾にはなるだろう。まあこいつらに利用価値を見出したらの――
『こっちには三千万の元手があるとはいえ……やっぱ足りない。ギャンブルで増やすしかないのか?
遊戯台にイカサマがないかどうかはわかるかもしれないけど……。
そういえばさっき、ここまで飛んできた白井の能力は……『魔術』なのか? 聞きそびれたけど、後で聞いてみようか』
な、何?
今こいつ、とんでもない情報をどんどん吐き出したぞ!?
三千万の元手。
つまりこいつらは既に三千万ペリカを持っていることになる。
わしにはない。若造鬼子らにもない。わしらは血液や目、耳を差し出さなければギャンブルができない。
だがこいつらは違う。もしこいつらのペリカ、なんとか分けてもらうか奪う事が出来れば……。
遊戯台にイカサマがないかわかるかもしれない。
馬鹿な。一体どうしたらそんなことができる?
こいつ、何かそういった技能でも持っているのか?
ここまで飛んできた能力、だと?
飛んできた、となると足音が無かったのは頷ける。
そして飛ぶという単語には聞き覚えがある。あの遠藤とかいう奴の言葉だ。『部屋から飛ばす』と。
わしは結局5分の間部屋にいたらこの豪華な部屋にいつのまにかいた。だから『飛んできた』というのも納得できないでもない。
もしそれとその女の能力が同じならば……白井黒子、とんでもない駒になるかもしれん。
そして……『魔術』?
奴らが開会式で言ったのは『魔法』だ。
わしからすれば代わりは無いが、この男、本当にそんな違いで使ったのか?
普通なら開会式の言葉を受けて『魔法』と言う。大きな違いは無いんだからな。
ということは、こいつは……『魔術』という何かを知っている。
もしかしたらそれは帝愛が買った『魔法』と関係あるかもしれん。
つまりコイツは『魔法』に食い込む楔になる……!?
これは……チャンス。
鬼子たちにちらつかされた、偽りのチャンスではない。
わしのもとに舞い込んだ、偶然のチャンス! いや、わしが引き込んだ!
隣の部屋に、しかもあの忌々しい2人が離れたまさにそのタイミングで!
強力な駒が2人も近づいてきた! 1人邪魔なのがいるがまあ許容してやる。
さあどうする?
接触せずにこいつらを見逃す―――悪手……!そんなのはリスクをおそれて賭けに出ない、逃げ……!ここで勝負に出ないでどうする!
接触は確定だ。問題はその後。どう奴らを手なずけ、取り込むか。
そしてその後。
あの忌々しい2人の処理だ。
戻ってくるのを待って合流――これはアリだ。もし3人を味方につけられれば数はこっちが有利。奴らをグループ内で劣勢に追いやる事もできるっ!
奴らを殺戮者だと教えて排除する――これは少し危険か。なにしろわしは3人の戦力を知らん。2人は若造が拳銃、小娘は戦闘で役立つはずがない。
有利……だが、油断はできん。
そうだ、油断だ。さっきのわしにはそれがあった。
慢心、油断。それがわしの目を曇らせ、まんまと天江衣の罠にかかってしまった。
勝利しつづけた奴らが油断し、堕落していく。そんな様は何人も見てきたというのに!
わしはまだ腑抜けていたようだ。酔いがそうさせたのかもしれんが、そんな言い訳はできん。
わしは失敗した。マイナスだ。ただし、失敗は必ずしも終わりと=ではない。
失敗には2種類ある。『致命的な失敗』と『そうでない失敗』。
そして『そうでない失敗』にも2種類ある。『どうでもいい失敗』と『成功への布石になる失敗』だ。
カイジはそうだった。奴もEカードでは失敗していた。
だがそれはわしを油断させ成功に繋がる失敗だった。
そうだ。まだ大丈夫。まだこの失敗は致命的ではない。まだプラスで補えるマイナスだ!
この失敗はわしを目覚めさせた。夢から、酔いからさめさせた!
もう油断はしない。もう慢心はしない。それを心に誓う。
ここが正念場だ。
わしはここにいる5人の所在を掴んだ。奴ら同士にはどうやら存在を確認していないらしい。
そう、つまりわしだけ……わしだけが知っている! 5人全員の存在と場所を!
だからこそ、ここが勝負時!分水嶺!天下分け目……!
乗り越えてやる。
試練を。苦境を。逆境を。
そして再び這い上がるのだ。
全てを見下ろし、安全≪セーフティ≫を約束されたあの場所に!
=====
利根川はほくそ笑む……!
希望の船、エスポワール。そこに集った人間、全員の運命は自分次第だと信じて……!
全員自分が掴んでいると信じて……!
確かにそれは正解……黒服を除けば、利根川はこの船にいる全員を知っている……!
がっ……利根川は知らない……!
この船に、『まだ』入っていない2人組がいることを……!
そしてその2人のうち、1人は自分にとって因縁であることを!
まだ知らない……!
=====
シャッ、という音と共に俺はわずかにカーテンを開けた。
窓から見える、その先には……船。俺にとっては見覚えがあり、できればもう見たくなどなかった船だった。
エスポワール。
俺と『帝愛』の因縁の始まりで、俺が騙された場所で、俺が運命共同体を作った場所で、俺が勝利した場所で、そして俺が裏切られた場所……。
それが港に止まり、船頭側と船尾側両方からタラップを降ろして停泊している。ギャンブル船という名で地図に書かれているのだからおそらくこいつが出航することはないのだろう。
俺の視点からはそのタラップが2つとも見える。つまり、船に入る場合は必ず俺の目に留まるわけだ。
何回か間を置いては見ているが、未だに船に入っていく者はいない。
だが、中には必ずいるはずだ。
ギャンブル相手として待機しているはずの、サクラ参加者の利根川が!
俺と八九寺が未だに船に入らないのも1つは奴が原因だった。
ここは奴の砦も同然。俺達がいるのはその砦の門前……。
そこにフラフラと無防備に入っていっていいのか? いや、よくない。
しかも俺達はここまで4時間山道を歩き通し……疲労している。
奴はサクラである以上、武器を優遇されている可能性が高い。
マシンガンとかショットガンとかが俺の脳裏に浮かぶ。
いきなり攻撃は無いとは思うが、万が一ということはある。
だから俺は慎重に動く事にした。
まずは休憩。近場の民家で休憩し、体力を回復させる。
時折船に入っていく奴らを確認しておく。そして様子を見る。
八九寺は少し渋ったが、あいつも疲れているのは事実だったみたいで提案には乗った。
民家で手ごろなベッドを見つけた俺はそこで八九寺に睡眠するよう言った。
『寝ている間に……!?』とかふざけたこと抜かした八九寺だったが、時々まぶたが降りそうになっているのを俺は見逃さなかった。
結局、『カイジさんは隣の部屋です』と言われ俺は隣の部屋で見張りをすることにした。
鍵までかけやがって。ちゃんと寝てるんだろうなあのガキ。
俺も眠い事は確かだが、ガキよりは夜に強い自信がある。
それにガキに見張りさせて寝るなんて不安で仕方ない。俺は手元の拳銃を握り、水を飲んだ。
待っていろ利根川……。
『会長』の奴が主催でお前の上にいるなら、Eカードの対戦はまだ有効なはず!
必ずお前を倒して、石田さんや佐原たちに謝らせる! そしてこの殺し合いについても全部吐いてもらう!
希望の船とか言っていたな。
俺は一度掴んだんだ。泥まみれに傷だらけに涙まみれになって掴んだ……!
今度も掴む! お前から奪う! 希望を……俺の……俺や八九寺の希望を……!
=====
天江衣は自分が誤解されているとも知らずに利根川を心配する。
グラハム・エーカーは衣の優しさを撫でる事で褒め称える。
秋山澪は血や怪我の恐怖で親友達に助けを求める。
白井黒子は少女の恐怖と自らの禁断を秤にかける。
衛宮士郎は自分が情報を漏らしているとも知らず自分の精神を確認する。
利根川幸雄は誤解を含み強力な駒を手にせんと手を模索する。
伊藤開司は敵でないものを敵とし尚魔法を否定しながら休息を得る。
八九寺真宵はカイジの危うさを知りながら黙して隣室に潜む。
希望の船『エスポワール』。
集う者たちは皆希望を求める。
だが、最後に手にできるのは……わずか。
何人が堕ち、何人が助かるか。
その内に誤解や疑念を孕みながら、鉄の巨船は黙して語らない。
もうすぐ1回目の放送(サイレン)が鳴り響く。
希望への『試練』はまだ、始まったばかり……!
【B-6/ギャンブル船・2階3階間の階段/一日目/早朝】
【天江衣@咲-saki-】
[状態]:健康
[服装]:いつもの私服、ぬいぐるみを抱いている
[装備]:チーズくんのぬいぐるみ@コードギアス反逆のルルーシュR2
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1(グラハム・衣確認、ペリカは無い)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、麻雀を通して友達を作る
1:グラハムについていき、利根川を受け入れる。
2:ひとまず一万ペリカを手に入れて、ギャンブル船で『麻雀牌セット』を手に入れる
3:そしてギャンブルではない麻雀をして友達をつくる
4:まずはグラハムに麻雀を教える
5:チーズくんを持ち主である『しーしー』(
C.C.)に届けて、原村ののかのように友達になる
6:利根川は…怖い……でも助けたい。
【備考】
※参戦時期は19話「友達」終了後です
※グラハムとは簡単に自己紹介をしたぐらいです(名前程度)
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※参加者は全員自分と同じ世界の人間だと思っています
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:健康
[服装]:ユニオンの制服
[装備]:コルト・パイソン@現実 6/6、コルトパイソンの予備弾丸×30
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(グラハム・衣確認、ペリカは無い)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。断固辞退
0:黒服と答えあわせをした後、利根川に謝罪し同行。情報を得る。
1:主催者の思惑を潰す
2:ガンダムのパイロット(刹那)と再びモビルスーツで決着をつける
3:地図が本当に正確なものかどうかを確かめるために名所を調べて回る
4:衣の友達づくりを手伝う。ひとまずは一万ペリカを手にいれ、『麻雀牌セット』を買ってやりたい
【備考】
※参戦時期は1stシーズン25話「刹那」内でエクシアとの最終決戦直後です
※衣とは簡単に自己紹介をしたぐらいです(名前程度)
※刹那・サーシェス以外の参加者が自分とは違う世界の人間であることに気づいていません
※バトル・ロワイアルの舞台そのものに何か秘密が隠されているのではないかと考えています
※利根川を帝愛に関わっていた人物だとほぼ信じました。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
【B-6/ギャンブル船・3階客室303号室/一日目/早朝】
【利根川幸雄@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康 悪酔い(大分冷めてきた)
[服装]:スーツ
[装備]:Draganflyer X6(残りバッテリー・20分ほど)、即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)
[道具]:基本支給品一式、シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)@現実×26本
:特上寿司@現実×61人前、予備バッテリー残り×4本、空のワインボトル×4本
[思考] 基本:ゲームからの脱出。
1:油断、慢心はしない。
2:集団を作り、脱出への突破口を模索する。他人は利用。カイジと遭遇しても集団に引きこむ。
3:隣の部屋の3人と接触する。グラハムたちを取り込むか、排除するか…?
※天江衣が自分を嵌めたと思い込んでいます。
※ギャンブルルームについて情報を知りました。
【B-6/ギャンブル船・3階305号室/一日目/早朝】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]: 健康
[服装]: 常盤台中学校制服
[装備]:
[道具]: 基本支給品一式、ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、ペリカード(3000万ペリカ)@その他、不明支給品(0~1)*本人確認済み
[思考]
基本: 殺し合いはせずに美琴、澪や士郎の知り合いを探し出しゲームから脱出する
0:澪、士郎と行動を共にする
1:澪を落ち着かせる。情報の為にギャンブルをするか否か。
2:互いの信用できる知り合いの探索
3:
一方通行、
ライダー、
バーサーカー、
キャスターを警戒
[備考]
※本編14話『最強VS最弱』以降の参加です
※空間転移の制限
距離に反比例して精度にブレが出るようです。
ちなみに白井黒子の限界値は飛距離が最大81.5M、質量が
130.7kg。
その他制限については不明。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※駐車場のない船尾側から入ったため、武田軍の馬@戦国BASARAを見ていません。
【秋山澪@けいおん!】
[状態]: 健康 、錯乱状態
[服装]: 桜が丘高校制服
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品一式
[思考]
基本: 死にたくない。殺したくない。皆に会いたい。特に律に会いたい。
0:士郎、黒子と行動を共にする
1:嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
2:知り合いを探す
3:一方通行、ライダー、バーサーカー、キャスターを警戒
[備考]
※本編9話『新入部員!』以降の参加です
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※駐車場のない船尾側から入ったため、武田軍の馬@戦国BASARAを見ていません。
【B-6/ギャンブル船・3階305号室前廊下/一日目/早朝】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]: 健康、額に軽い怪我(処置済み)
[服装]: 穂村原学園制服
[装備]: カリバーン@Fate/stay night
[道具]: 基本支給品一式、モンキーレンチ@現実 、不明支給品(0~2)*本人確認済み
[思考]
基本:主催者へ反抗する
0:黒子、澪と行動を共にする
1:女の子を戦わせない。出来るだけ自分で何とかする
2:澪が落ち着くのを待つ。部屋の見張り。
3:
セイバーや黒子、澪の信用できる知り合いを探す
4:一方通行、ライダー、バーサーカー、キャスターを警戒
[備考]
※参戦時期は第12話『空を裂く』の直後です。
※残り令呪:1画。
※Eカード、鉄骨渡りのルールを知りました。
※駐車場のない船尾側から入ったため、武田軍の馬@戦国BASARAを見ていません。
【B-6/港近くの民家/1日目/早朝】
【伊藤開司@逆境無頼カイジ Ultimate Survivor】
[状態]:健康 疲労(小)
[服装]:私服(Eカード挑戦時のもの)
[装備]:シグザウアーP226(16/15+1/予備弾倉×3)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考]
基本:人は殺さない……なるべく……なるべく人が死なない方向でっ……!
1:八九寺真宵と一緒に行動する。
2:民家で体力を回復させてから船へ向かう。船へ行く人物を見張る。
3:ギャンブル船に向かい、待っているであろう利根川を倒し情報を引き出す。
4:『部屋から会場への移動方法』を魔法なしで説明可能にする。
5:『5分の退室可能時間』、『主催の観覧方法』が気になる。
6:八九寺のボケは基本スルー。
[備考]
※Eカード開始直前、賭けの対象として耳を選択した段階からの参加。
※以下の考察を立てています。
・帝愛はエスポワールや鉄骨渡りの主催と同じ。つまり『会長』(兵藤)も主催側。
・利根川はサクラ。強力な武器を優遇され、他の参加者を追い詰めている。かつギャンブル相手。
・『魔法』は参加者達を屈服させる為の嘘っぱち。
インデックスはただの洗脳されたガキ。
・戦国武将はただの同姓同名の現代人。ただし本人は武将だと思い込んでいる。
・八九寺真宵は自分を幽霊だと思い込んでいる普通人。
※デイパックの構造に気付いていません。
※黒子たちの到着後に到着したため、黒子達を確認していません。
【八九寺真宵@化物語】
[状態]:健康 疲労(小)、睡眠中?
[服装]:私服、大きなリュックサック
[装備]:
[道具]:デイパック、基本支給品、不明支給品×1~2 紬のキーボード@けいおん!
[思考]
基本:まずはお約束通り、知り合いを探してみることにしましょう。
1:?
2:伊藤開司と一緒に行動する。話し相手は欲しいので。でも微妙に反応がつまりません!
3:
阿良々木暦と
戦場ヶ原ひたぎを捜す。
[備考]
※「まよいマイマイ」終了後以降からの参加。
※デイパックの構造に気付いています。
※黒子たちの到着後に到着したため、黒子達を確認していません。
【ギャンブル船について(追記)】
賞品の中に【参加者の
現在位置(1時間) 3000万ペリカ】がある。位置は要求者のデバイスにリアルタイム送信される。1時間有効。
更に長い時間有効なものは更に高額になる。
またギャンブルルームにおける『戦闘行為の禁止』には穴あり。
ギャンブルルーム外からの攻撃に対しての対応は不明。
タラップは船頭側と船尾側にあり、船頭側に駐車場がある。
施設の位置は、甲板下の3階にスイートルーム客室、食堂。2階にギャンブルルーム。1階に駐車場。他にも施設は存在している。
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最終更新:2009年12月12日 23:39