さよならのありか ◆qh.kxdFkfM



そこはあの日のままだった。気がつくとヴァンは長く赤い絨毯の上に立っていて、目の前に自身が打倒した師がいた。
「ガドヴェド……? なんで」
「何を呆けている。今日はお前の――お前たちの記念すべき日だというのに」
「んあ?」
 周りを見れば、どこか見たような連中が長椅子に座っている。ヘンなカップル、ヘンな水兵、ヘンな水着の女とヘンな下着の男。
ヘンな……。そんな多くの人間の中に、見知った顔があった。自分にもっとも近い、最前列の長椅子だ。
「ウェンディ、これはどういうことだ」
 するとエビフライのような髪型の少女は驚いた顔をして、
「何言ってるのよヴァン。あなたの結婚式じゃない」
 隣で短い青髪の女がため息を吐く。
「そうよ。ウェンディやアタシをつっぱねて結婚するんだから、幸せになりなさいよね」
「はあ?」
 そこで初めて、隣に誰かがいるのに気づく。純白のウェディングドレスに身を包んだ女性。
顔はベールに覆われて、誰かは分からない。
「それでは誓いの口づけを」
 神父であるガドヴェドがそういうと、ウェンディたちとは反対側の席が沸く。
『よっしゃ。一発キツいのをお見舞いしてやれ』『我が弟子よ、正義のキッスというものを見せてやれ』
『うむ。口付けとは神聖でなければならん』『わしじゃだめかい?』『駄目にきまってます!』
「…………」
 ヴァンは恐る恐るベールを剥ぐ。もしかしたらエレナかもしれない。そうでないにしても、相手が誰かは気になる。
「ヴァン」
 そこにいたのは……。
プリシラ……」
 自身を好きだといってくれた、少女の姿がそこにあった。その顔は笑っていて、泣いていて……よくわからない表情だ。
「ごめんね、ヴァン。返事を待つのも聞きにいくのも、できなくなっちゃった」
「それはどういう」
 その先は口から出ることはなかった。彼の視界は少女の顔が大部分を占め、その涙がきらきらと輝いているのが見える。
やがて自分が何をされているのか認識した時、自身と重なっていたプリシラは突然体勢を崩した。
「おい! どうし……」
 抱き上げようと手を伸ばすが、彼女の体に触れることなく、腕は少女を通り過ぎた。何度やってもそれは変わらない。
まるで雲を掴もうとしているみたいだ。
「くそっ、くそっ! なんで掴めない!」
「ヴァン、『死』とは何だろうな」
 顔を上げると、ガドヴェドは悲痛な表情をヴァンに向けていた。
そこで初めて周囲の人間が消え、教会だったはずの場所が真っ暗闇な空間になっていたことに気づく。
「お前は私と同志を斬った。しかしそれがはたして『死』なのだろうか」
「何わけのわからないことを言ってやがる!」
 人は斬られれば死ぬ。そして死んだ人間は生き返らない。
その絶対原則をヴァンは叫ぶ。すると強面の男はふっと顔を綻ばせる。
「そうだ、それでいい」


 そこでヴァンの視界はブラックアウトした。



「うっ……」
 朝日が目にささるような感覚とともに、ヴァンの意識は覚醒していく。
どうやら調味料に酒が含まれていたらしい。もうあの弁当は食えたものじゃない。
男は直前まで使っていたみりんのボトルと喰いかけの弁当を、とりあえずそばで未だに眠り続けている女性の前に置いておく。
もしかしたら食べるかもしれないし、食い物を粗末にするのは気が引けた。決しておしつけたわけではない、決して。
「…………」
 寝る前のことを思い出す。カギ爪、レイ、ファサなんとか……。死んだはずの奴らがなぜか生きていて、ここにいるらしい。
 …………。
 …………。
 …………。
「まあいいか」
 そういうことは会った時に考えればいい。もしかしたら間違って載せたのかもしれない。
少なくとも自分は直接カギ爪の死を見ている。そっちの方が、こんな紙切れの情報より絶対に真実なのだ。

「なんかまた腹減ったな」

 それからしばらくして、弁当と牛乳をひとつずつ平らげたヴァンは、再びショッピングセンターに舞い戻っていた。
することがあるわけではない。少なくともあそこにいるよりはマシだろうという考えだ。

「お……」
 そこでヴァンはあるものを見つけた。男ならば――いや、ここはあえて漢と表記させてもらおう――誰しもが興味を抱くであろうそれに、その漢も例にもれず、興味津々という面持ちで向かっていった。


 数十分後、ヴァンはとある機動兵器――モビルスーツ(MS)を操っていた。
オレンジのカラーリングをしたそのMSの名は、アリオスガンダム。
ほかにも色々な種類があったが、ヴァンはこのMSの変形機構が自身のヨロイであるダンと似ているのでこれを選択した。
「なかなかいいもんだな」
 そう感嘆するヴァンの顔は、まるで少年のような輝きを放っていた。

 アリオスはヴァンの意のままに宙を浮かび、空を舞う。停止、着地。
GNビームサーベルをふりまわす。再び飛翔。今度は変形し、飛行形態で中空を漂う。

「これからどうするかな」
 空を見上げ、ふと考える。当面のメシは確保した。アリオスを手にした今、暇で時間を持て余すことはないだろう。
 …………。
 …………。
 …………。
「まあいいか」

 とりあえず、アリオスの改造でもしよう。意気揚々と追加武装と思われるパーツを調達するその男の姿を、緑のデュアルアイは静かに見守っていた。
仮にこのガンダムに意志と発声機能があるならば、おそらくこう言うだろう。

『こんな状況で何をしているんだ、この馬鹿は』、と。


【E-1/模型店内/1日目/朝】


【ヴァン@ガン×ソード】
[状態]:満腹、アリオスに夢中
[服装]:黒のタキシード、テンガロンハット
[装備]:ヴァンの蛮刀@ガン×ソード 、アリオスガンダム@現実
[道具]:基本支給品一式、調味料×大量、徳用弁当×6、1L入り紙パック牛乳×5
[思考]
基本:何をしたらいいのか分からないが、自分の感情の赴くまま行動する
1:とりあえずこれ(アリオス)で遊ぶ
2:向かってくる相手は倒す
3:主催とやらは気にくわない
[備考]
※26話「タキシードは明日に舞う」にてカギ爪の男を殺害し、皆と別れた後より参戦。
※ヴァンは現時点では出会った女性の名前を誰一人として覚えていません。
※死者が蘇生している可能性があることを確認しましたが、結論は保留にしました。
※蒼崎橙子の人形@空の境界はF-1に放置しました。
※第一回放送を聞き逃しました。



【アリオスガンダム@現実】
 ガンダムの支援機を支援するガンダム。一部からは船の備品だと思われている。パイロットの必要性は賛否両論である。
●MSの最大特徴を再現する1/100シリーズ。アリオスガンダムの“変形”機構を再
 現しながら、より組み立てやすいパーツ構成を実現。
●飛行形態へ変形可能。先端は分かれてクローに。各種ロック機構で変形も簡単。
●遊び方を考慮した変形後のロック。変形機構を利用した力強いポージング表現が可能。
●付属品:GNビームサーベル x 2、GNツインビームライフル x 1、GNビー
 ムシールド、武器用握り手×2(左右)アクションベース対応ジョイントパーツ(MS
 用・飛行形態用2種)
定価:\2,730


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101:Unlimited Cooking Works ヴァン 128:偽者(レプリカ)、E-2学校に死す!


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最終更新:2009年12月07日 09:25