fragile ~こわれ者~ ◆CcfuOxf30g
ここはとある民家。
窓から漏れる、朝の光。
落ち着きのある純白色のクロスが敷かれたテーブル。
その上でモダンなデザインのカップで紅茶を啜る紫色の髪の美女の姿。
それは、まるで西洋の絵画に描かれた神聖なる日常の風景の一部ようだ。
騎乗兵のサーヴァント、
ライダー。
彼女は人の集まりそうな学校の近くまで移動し、そこにある民家で来たるべき放送に備えて待機していた。
それは時間をしっかりと守る性格の彼女だからこそ下した判断でもあった。
放送が始まるまでに、他者から奪ってきた支給品の確認を済ませ、机に名簿を広げる。
ついでに民家に備えてあった紅茶を淹れて、支給品の食料を口にする。
味気ないパンを機械的に口に放り込み、紅茶の香りで嗅覚だけでも満たそうとする。
ふと、腕時計を見ると二つの針が互いに背を向け、円形を縦に分かつ。
――時刻は午前6時。
どこからともなく、無機質さを帯びた少女の声が聞こえてきた。
『――おはようございます』
◇
「やはり、呼ばれませんでしたか――」
放送を聞き終え民家を出たライダーは一人呟く。
第一放送でサーヴァントの名前が呼ばれることを僅かに期待していた。
アーチャーやキャスターならまだしも、セイバーと
バーサーカーは宝具をまともに持たぬ状態の彼女では正面から戦えば敗北は必至である。
できることなら自らの手を煩わすことなく、他のサーヴァントや参加者には潰しあってもらいたいのが彼女の本音である。
そして、先の放送で最後に現れた遠藤の言葉も多少は気にかかる。
放送で呼ばれた人物の中で三回名前を呼ばれた者、すなわち名簿に名前が記載されていない上にこの6時間までの間に死んだ人間は7人。
名簿に記載された12名のうち7名もの死人。そして、最後にわざわざ遠藤がこのことを強調した。
その意図とは――
「殺し合いを進めるための潤滑油――生贄といったところでしょうね」
彼女はそう判断した。
無力だったり、死に急ぐような性格のものを選んで、積極的に殺し合いに乗りそうな参加者の近くにでも飛ばしたのであろう。
となると、実質的な死者はその7人を引いて、半分の7人。
主催が最初から死んでもらうために参加させた人物以外はまだ7人しか死んでいないのだ。
つまり、実際の死亡者数以上にこの殺し合いが進んでいないという可能性がある。
それを主催者である遠藤は示唆して、殺し合いを円滑に進めようとでも思ったのであろうか。
その真意はどうであれ、先の放送は参加者を煽るためには十分なものだったと言える。
ライダーはそう判断し、放送について思案することをやめた。
しばらく民家街を歩いていると、絶叫と思しき叫び声が近くから聞こえた。
しかも一回ではなく、何度も。
ライダーはわずかに唇を釣り上げてほくそ笑むと、絶叫の主のもとへと向かった。
◇
それは凄惨な光景だった。
窓越しに繰り広げられる、異常なまで人体の破壊。
もはや人の体を成さないグロテスクなだけの塊と紅い液体とが乱舞する。
その狂った踊りの担い手は神聖な修道服姿を血で染めた少女。
彼女は眼前の死体と血の飛沫の舞に夢中で窓から、彼女を見つめるライダーには気づく気配がない。
飛び散った血液が窓にへばりついたことも相まって、こちらの顔も視認しにくくなっただろうとさらに民家の中を覗き込む。
そして、死体の躍動に合わせて唱えられる「凶れ」という叫び、それと共に少女の眼に灯る赤と緑の光をライダーは見逃してはいなかった。
◇
――わたし、笑ってしまいそうです。
人ってあんなにもすぐに壊れてしまうんだもの。
凶ることが、こんなにも愉快だなんて。
―――ああ、先輩――
――わたし――――笑ってもいいですか?
◇
浅上藤乃は血に染まった制服を纏い歩く。
傍から見ればその姿は異常者そのもの。殺し合いに乗っていると、こちらから曝け出しているようなものだ。
そして、先ほど行った
月詠小萌の死体の破壊で制服についた血が垂れて道に痕跡を残していることにすら気づいていない。
もちろん、自身の後を追う者がいる可能性など考えるはずもない。
それもむべなるかな。
月詠小萌の死体を破壊した愉悦、これから自分の手で
琴吹紬、果てには両儀式までもを凶げつくすことへの期待感、そして何より大好きな先輩
黒桐幹也への歪んだ愛情といった情念が藤乃の頭を埋め尽くし、現状を合理的に判断するほどの余裕などなかった。
歪んだ想念に耽っていた彼女の思考は、長らく失っていた痛覚と耳元で刹那響いた空気の振動によって途切れる。
目の前では頬を掠めた手裏剣のような物体が目前で旋回し、藤乃へ向けて襲いかかろうとしていた。
新たな殺戮の予感に藤乃は歪んだ笑みを口元に浮かべ、この殺し合いで何度叫んだか数えられないほどの言葉を発した。
「――凶れ」
自分へ向かってくる凶器を空間を曲げることで難なく落とす。
同時に藤乃は体を180度回転して、襲撃者を凶げんとする。
しかし振り向くと同時に、猛烈な閃光が藤乃の視界を瞬時に白色に染める。
「見る」ことが前提である歪曲の魔眼の能力は奪われた。
だが――
藤乃には第三の眼、千里眼がある。
それで敵を見れば、あるいは凶げられるかもしれない。
そう思い、藤乃は千里眼を開眼する。
しかし、覚醒したて故に千里眼はせいぜい監視カメラ程度の役割にしかならない。
加えて、襲撃者はそれでは捉えることのできない速さで動いている。
気づいた瞬間、藤乃は体を羽交い絞めにされ、一瞬のうちに体になにかが巻きつく。
そして、完全に身動きを奪われた。
確実に危険な状況だが、藤乃はそれをチャンスだと思った。
なぜなら、相手が触れているのならば、相手の場所は明確なのだから。
千里眼にて初めて視認する襲撃者、ライダーに焦点を定める。
その瞬間、藤乃は自らの勝利を確信した。
(一撃で仕留めなかったことを悔やむべきです…)
そして、これまで彼女が何度人を殺めてきた呪いの言葉を叫ぶ。
「凶れぇぇぇぇえええええ!」
その呪文と共にライダーの体は凶る。
――はずだった。
「――――――――――え?凶れ……、凶れぇえええええ!」
しかし、千里眼通して見るライダーにはなんの変化も見られない。
「魔眼は見ることで初めてその効力を発揮するのは知っていますよね。視界の奪われた貴方は無力です」
そこで、初めて襲撃者は口を開いた。
「なんで―――そんな、見えているはずなのに――。凶られないの――そんなことが――」
相手が自身の魔眼のことを知っている事実以上に、千里眼で捉えたライダーを凶げられない事実が藤乃にはショックだった。
ライダーは藤乃の挙動に一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに得意のポーカーフェイスをその顔に貼り付けた。
ライダーは藤乃を捉えた鎖の先端を持ったまま、彼女から離れる。
「そろそろ、閃光弾の効果も和らぐ頃合いです。目を開けてはどうでしょうか?」
そう言われ、藤乃は相手が自分の魔眼を知っていながら目を開けという不自然さなど考慮することもなく、言われるがままに目を開いた。
否、どちらにせよ藤乃が目を開いた瞬間、自分を拘束している女は凶ることになるのだから、そんなことなど考える必要もない。
藤乃は目を開く。
そこには自身を拘束する鎖を掴んだままのライダーが立っていた。
「凶がれええええ―――――――!!」
藤乃の歪曲の魔眼が開かれ、赤と緑の螺旋が渦巻く――はずが、その光は発せられない。
藤乃は自身の視界の異変に気づく。
視界の隅に移る境界線、知らぬ間に眼鏡をかけさせられていたのだ。
その間隙にライダーは藤乃の背後へとまわり、彼女の喉元にナイフを突き当てる。
「それは魔眼殺しの眼鏡です。貴方の負けです――騒がないでください」
「――――」
藤乃は成すすべなくライダーの言われるがまま口を閉ざす。
「ところで自分の足元を見てください」
そう言われ、藤乃は自身の足元を見る。
そこには石へと変わり果てた自分の足首が映った。
「これが私の『目』の力です。このまま全身を石に変えられたくないのであればそのまま動かないでいてください」
◇
「なぜこんなことをするのですか?――なんだかとても嫌な気分です」
鎖を巻かれた藤乃は近くの民家にまで連れ込まれた。
その間に藤乃の膝まで石化が進んでいた。
もはや、藤乃はこの状況に勝ち目を見いだせなくなり諦観していた。
「なぜ殺さないんですか?こんなことになんの得があるというのです?」
その問いかけに、藤乃から奪ったデイパックの中身を確認するライダーが答えた。
「殺そうと思えば、最初の一撃で貴方の首を飛ばすこともできました。それをしなかったのは、もちろん理由があります」
たしかに、ライダーに襲撃された際、愉悦に浸っていた藤乃は周囲への警戒を怠っていて完全に無防備だった。
あの手裏剣が首を胴体から切り離すことだって容易だっただろう。
それをあえてライダーは行わなかったのだという。
藤乃はそのライダーの余裕に多少苛立ちを感じたが、今は彼女に命綱を握られてる身。
ここはライダーに従うしかないのだ。
「それで、その理由とは一体なんなんでしょうか?」
ライダーは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。
「率直に言いましょう。――――私と手を組みませんか?そうすればその足も元に戻しましょう」
藤乃は予想だにしない、ライダーの言葉に困惑する。
「この状況であなたは何を?ここにいる人間はみんな敵なんですよ?全ての人間を殺さないと自分は生き残れない。それなのに、わざわざ私を生かして手を組めというのですか。――まったく、おかしな人」
「それはわかっています。ですが、貴方はこの殺し合いを一人で円滑に進められると思いますか?中には徒党を組んで、殺しあいに抗う厄介者もいます。それが無力な人間の集まりならまだしも、強い力を持った人間の集団だとしたらどうします?」
そんなことは知らない、仮にそんな集団いたとしても全て凶げつくせば――
そう言おうと藤乃は思ったが、自分がすでにそのような場面に出くわしていたことを思い出す。
学校にて出会った三人の少女と一人の教師。
本来なら無力な四人全員を殺すことは容易だったはずだ。
だが、彼女たちの助け合い、小萌の教師としての誇りとその機転――
歪曲の魔眼の前には無力とも思えるものが重なり、直接殺せた人間はただ一人という結果へとなってしまった。しかも、一人はあの場から抜け出して自身を危険人物と他の参加者や彼女の愛する先輩である黒桐幹也にまで知らしかねない失態まで起こしてしまった。
無力な四人ですら、この有様だ。
もし敵が両儀式やライダーのような強敵の集団だったらどうだろう?
考えたくはないが、返り討ちにあう可能性は否定できない。
「確かに厄介ですね。ですが――」
確かにライダーの提案は合理的かつ現実的であると言える。
しかし、この話はそもそも前提から破綻している。
一人しか生き残れない殺しあいで、最後の一人を目指す者同士、つまり敵である者同士が組むことなんて成立するはずがない。
「いつ殺されるかわからない相手と組めと。あなたはそう言うのですか?あなたが誰かと戦っている最中にわたしが敵もろとも凶げてしまうとは考えないのですか?」
「それは重々承知の上です。言い方が悪かったでしょうか?もっとわかりやすく言うのなら、お互いの目的のために利用しあいましょう、と言い替えましょう」
ライダーはそう言い切った。
◇
ライダーが藤乃が死体を破壊する姿を見た時に感じたこと。
それは、過去の自分に似ている―――否、むしろあれは自分そのものだ。
いつしか、殺戮に歓喜を覚え、果てには怪物へと成り果て姉妹をも手に掛けた自分、メドゥーサと。
あの目の光――おそらくは魔眼までも持ち合わせていると来た。
あまりにあの少女は自分に似すぎている――
だが、そこに情を持つつもりはない。
あの少女はすでに壊れてしまっている。
一度壊れてしまった者を元に戻すことは容易ではない。
何より、自身の末路がそうであったのだから。
せめて、自身に似たマスターの間桐桜が崩壊の道を辿らないようにすること。
それだけが、ライダーにできることであり、もっとも優先すべきことなのだ。
あの少女が殺人に快楽を覚える異常者であるならば、この殺し合いを円滑に進める分には都合がよい。
完全に壊れ切っている――それこそ怪物へと化しているのならば、このまま放っておくだけでもよい。
しかし、あの少女はまだ発展途上だ。完全な崩壊へ至らないまでの理性はまだ残っているように思える。
―――ならば、つけ込む余地はある。
幸い、向こうは激情に駆られ、こちらに気づく素振りすら見せない。
ならば、こちらの得意とする奇襲で不意打ちにしてしまえばいい。
そして、魔眼使いとしてこちらの絶対的優位を知らしめれば、なお手駒としては使いやすくなるであろう。
また、ライダーは石化の魔眼に施されている制限についても知りたいと思っていた。
切り札として温存しておきたい能力ではあるが、その力のほどを知らなければいざという時に役にたたない。
そう考えた結果、ライダーは先ほどの行為に及んだのだ。
奇襲は成功。
石化の魔眼の発動も行えた。――が、予想通り制限は課せられていた。
一瞬での石化とは行かず、足元から徐々に石化していく。
しかもその進行は通常よりはるかに遅く、魔眼の効果を持続させるには魔力を消費し続けないといけないようだ。
◇
「……わかりました。その話、受けました。手を組みましょう」
どちらにせよ、この状況ではそう答えるしかないと思い藤乃はしぶしぶ答えた。
だが、完全に勝ち目がなくなった状況で帰って冷静になった彼女の思考が、ライダーの提案を合理的だと判断した側面もないとも言えない。
この場で彼女の話を飲むふりをして、拘束から放たれたら攻撃を仕掛ける手も思いつきはしたが、先の戦いで彼女の強さは確認済みだ。
たとえ勝機があるにしても、リスクが高すぎる。
それ以上に、彼女と手を組むことができれば、新たな得物を狩りやすくなるし強敵や集団にも立ち向かいやすくなる。
ライダーは藤乃の了承とともに、彼女の石化を解除、天の鎖による拘束から藤乃を解き放つ。
「理解が早くて助かります。私の名はライダーです」
「わたしは浅上藤乃と申します」
「フジノですか――良い名前ですね」
「え―――?」
あまりに思いがけない言葉に、藤乃は感嘆の言葉を漏らす。
今まであまり褒められたことなどないゆえ、藤乃はそのような言葉には人一倍敏感だった。
藤乃はとっさに思考を元に戻し、目の前の女性を利用しあうだけの人間と割り切って話す。
「それで、手を組んでまずは何から始めるんでしょうか?」
「ではまず―――」
藤乃の拘束を解いたライダーは、放送前にいた民家から漁ってきた黒い洋服とタオルを藤乃に手渡し、僅かに微笑みながら囁く。
「その体についた汚れを洗い流してきてはどうでしょうか?幸いシャワーはあるみたいですので――」
予期せぬライダーの一言に藤乃は怯む。
それと同時に、しばらく前に憧れの黒桐幹也に自宅のシャワーを貸してもらっていたことを思い出していた。
「手を組んで最初にそれとは――いきなりあなたはおかしなことを言うのですね」
「そうでしょうか?これから行動する上で、貴方の格好は少々厄介ですので。一度体についた血を洗い流すといいでしょう」
「――――心遣い感謝します」
藤乃は皮肉と感謝を混ぜた精一杯の笑顔でライダーの配慮に応えた。
◇
藤乃の豊満なボディをお湯の飛沫と白い湯気が包む。
彼女が命を奪った者たちの血痕は、体を滴る水滴に混じり洗い落とされていく。
藤乃はどこかそれを心惜しく感じた。
その返り血こそ、自らが他者を凶げた証であり、自身を異常者たらしめるためのわかりやすい印でもあるのだから。
これから共に利用しあうことに同意したライダーを千里眼で透視する。
先ほど自分がいた部屋のソファに腰かけ、藤乃から奪った支給品の参加者詳細名簿を読んでいるようだ。
おそらく、ライダーはこちらの監視、つまり千里眼の存在には気づいていないだろうと思える。
先の奇襲ではことごとく完敗、魔眼同士の対決でも向こうに分があった。
だが、あの時に千里眼で見たライダーを凶ることができれば、あるいは藤乃にも勝機があった。
(――制限――でしょうか)
この会場に来て気づいた。自身の目から発せられる歪曲の螺旋が視認できるという制限。
新たに発現した透視能力にも同様に制限が課せられているのだろう。
それはおそらく――直接見た人間しか凶げられない。
これに気づくことができただけでも、先の敗北は無駄ではない。
(――それにしても、あの人苦手)
ライダーは利用しあう仲ではあれ、それは敵同士だという前提の上成り立っている。
だというのに、彼女はいちいちこちらの心の隙に付け入っるようなことをしてきた。
両儀式に感じた異常者同士ゆえの嫌悪感に似て、それでいて黒桐幹也に優しくされた時のような感情がどこかしら入り混じる―
――そんな複雑な感情を藤乃はライダーに抱いていた。
◇
ライダーは藤乃がバスルームへ向かったことを確認すると、彼女の支給品である参加者詳細名簿に目を通した。
この会場に来た参加者の名前と写真、それに簡潔な紹介が添えられている。
その中にあったいくつかの名前と写真にライダーは興味を示した。
それは
片倉小十郎を始めとする、戦国武将の名とその容姿――
戦闘となり最期には仕留めた男の名、片倉小十郎。
ライダーはあの男をただの人間として認識していた。
だが、彼は戦国に名を残す名将だというのだ。
(戦国の名将がこの時代にいるということ――つまり我々英霊と同じ存在だとも言うのでしょうか?)
それならばあの強さも頷ける。
戦国の名将が自身と同じく、サーヴァントと同様にこの舞台に召喚されたというのならば。
(だとしたら、この残りの5人の武将も厄介でしょうね)
ライダーは戦国武将たちの顔写真を目に焼き付け、危険人物として記憶する。
危険だと認識する参加者が増えたことにより、浅上藤乃という手駒を獲得できたことをなおさら幸運に思う。
戦力としてはサーヴァントには及ばないだろうが、殺し合いをかき乱すには十分の能力と資質を持っている。
それに強い相手とはいえ、何も正面から戦う必要もない。
藤乃の撹乱させたところで、自分がその速さを活かした奇襲を行えば、勝機も転がりやすくなるだろう。
しかし、浅上藤乃は存在不適合者。何かの拍子で自身への牙を向ける可能性は否めない。
だが、魔眼の持ち主としても自身の優位は彼女に知らしめておいた。
下手にこちらに手出しすることもないだろう。
とはいえ過信は禁物。存在自体が災厄のような彼女を警戒は怠らないよう心がけよ、と自身に言い聞かす。
◇
バスルームから戻ってきた藤乃とライダーは、お互いの情報を交換し合った。
藤乃はこれまでの出来事と両儀式の危険性を話した。
切り札たりえる千里眼、そして守るべき先輩の存在はライダーには話さないでおいた。
ライダーまでこれまでの経緯を簡潔に話し、サーヴァントと戦国武将が手ごわい相手であることを藤乃に伝える。
その結果、両者はサーヴァントと戦国武将を危険な敵と、藤乃の危険性を知る琴吹紬を注意人物と認識した。
武器として有用な支給品をすべてライダーに奪われたことに藤乃は多少不満は感じたものの、自身には魔眼があればどうとでもなるのであまり気にはしなかった。
「それで、ライダーさん。これからどうなさるおつもりで?」
支給品をまとめ終わったライダーに、藤乃が問いかける。
「他の参加者を見つけます。そこで私たちが取るべき行動は――」
と引き続き、ライダーが具体的な行動指針を藤乃に提案していく。
ひとつは、こちらが集団であることを活かし他の参加者に紛れこむ。
この殺し合いで徒党を組む参加者は、少なからず積極的に殺しあう者ではないだろう。
つまりこちらが二人でいるというだけで、他の参加者からはある程度安全な人間として見られる。
その為もあり、ライダーは藤乃に着換えさせた。
上手くいけば、他の参加者から情報を得ることもでき、機を見て不要な人間を殺していけばいいだろう。
ふたつめは、出会った参加者が強力な相手であった場合。
サーヴァントや戦国武将といった面子がこれに該当する。
できる限り正面からの衝突は避け、策を練って確実に始末したい。
こちらの場合は臨機応変に対処すべき必要があるだろう。
そしてみっつめは――
支給品である拡声器を使い、参加者を一か所に集めるという策。
拡声器を使えば、参加者の位置がわからないこの会場で、こちらから一方的に自身の居場所を不特定多数に知らし渡らせることができる。
新たな得物を求める者、仲間を募る者、明確の行き先を持たずさまよう者――
さまざまな参加者を近くに呼び寄せることができるだろう。
殺しあいを煽るためには、これまた良い材料となる。
だが、いかんせんリスクが高すぎる。
それゆえ、この策を実行するには慎重にならねばならない。
以上の行動指針を藤乃に語り終えたライダーは、拡声器を藤乃に渡す。
「これを使う場合はフジノに話してもらいます。私よりも、貴方の声の方が他者には響きやすいことでしょう」
「わたしに危険を背負わせようとするのですか?」
「そうなりますが、その時はフジノは私が守りますので、心配なさらずに」
ライダーは無表情のまま呟く。
――利用する相手に「守る」だなんて、よくさらっと言えたものだ。
そう思いながらも藤乃は拡声器を受け取り、デイパックにしまい込んだ。
◇
かくして、
魔眼を擁する二人の魔女は邂逅した。
存在不適合者、浅上藤乃は殺人の快楽と新たな殺戮の予感に我知らずその存在意義を見出していた。
騎乗兵のサーヴァント、ライダーは自身の過去そのものとも思える少女を手駒に、主の元へ帰らんと策を張り巡らす。
この二人が殺しあいにもたらす新たな災厄は如何ほどのものになるだろうか――
【D-2/民家/一日目/朝】
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:千里眼覚醒・頬に掠り傷
[服装]:黒い服装@現地調達
[装備]:軍用ゴーグル@とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品一式、拡声器@現実
[思考]
基本:幹也の為、また自分の為(半無自覚)に、別に人殺しがしたい訳ではないが人を殺す。
1:ひとまずライダーと共に行動する。
2:人を凶ることで快楽を感じる(無自覚)。
3:サーヴァントと戦国武将に警戒。
4:琴吹紬を探して凶る。
5:できれば式も凶る。
6:それ以外の人物に会ったら先輩の事を聞き凶る。
7:幹也に会いたい。
8:逃げた罰として
千石撫子の死体を見つけたら凶る。
[備考]
※式との戦いの途中から参戦。盲腸炎や怪我は完治しており、痛覚麻痺も今は治っている。
【ライダー@Fate/stay night】
[状態]:魔力充実 右腕に深い刺し傷(応急処置済み)
[服装]:自分の服
[装備]:猿飛佐助の十字手裏剣@戦国BASARA、 閃光弾@現実×1
[道具]:基本支給品一式x3、ライダーの眼帯、不明支給品x0~5、眼鏡セット(魔眼殺しの眼鏡@空の境界 を含む)@アニロワ3rdオリジナル、
天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night、風魔小太郎の忍者刀@戦国BASARA、かすがのくない@戦国BASARA×8本、デリンジャーの予備弾薬@現実、
ウェンディのリボルバー(残弾1)@ガン×ソード 、参加者詳細名簿@アニロワ3rdオリジナル、デリンジャー(0/2)@現実
[思考]
基本:優勝して元の世界に帰還する。
1:藤乃を利用して、殺しあいを有利に進める。
2:サーヴァントと戦国武将に警戒。
3:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。
4:出来るだけ人の集まりそうな街中に向かう。
5:戦闘の出来ない人間は血を採って放置する。
[備考]
※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。
※
C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。
※忍者刀の紐は外しました。
※藤乃の裏切りに備えて魔眼で対応できる様に、眼帯を外しています。
※藤乃の千里眼には気づいていない様子です。
※戦国BASARA勢の参加者をサーヴァントと同様の存在と認識しました。
※以下の石化の魔眼の制限を確認しました。
通常よりはるかに遅い進行で足元から石化。
魔眼の効果を持続させるには魔力を消費し続けないといけない。
なお、魔力消費を解除すれば対象の石化は解ける。
【天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night】
かつてウルクを七年間飢饉に陥れた“天の牡牛”を捕縛した鎖。
ギルガメッシュがエア以上に信頼する、自らの友の名を冠する宝具。
使用者の意思に応じてホーミングし相手を拘束する。
能力は“神を律する”もの。
捕縛した対象の神性が高いほど硬度を増す特性を持つ、数少ない対神兵装。
ただし、神性の無い者にとっては頑丈な鎖に過ぎない。
【眼鏡セット@アニロワ3rdオリジナル】
参加者や参加作品の関係者の眼鏡を集めてセットにしたもの。
魔眼殺しの眼鏡@空の境界を含む。
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最終更新:2010年01月24日 22:56