Miriarudo―Le Petit Six Prince― ◆zg9MHZIP2Q



「おいおい、もう少しゆっくり話せってーの」

壁に名簿を押し付けて、サーシェスは氏名を殴り書く。
新たに加えられる12名の参加者。サーシェスはどれも聞き覚えのないものばかり。
ヨーロピアン?アジアン?アメリカン?ハーフ? レッツ・リスニング。
一瞬で流れる指令を聞き逃すようでは軍人は勤まらない。これまで培った語学を生かすいい機会だ。

【あーにゃーあーるすとれーむ】 【あんどーまもる】 【うなばらみつき】【くろぎりさつき】
【せんごくなでこ】 【つくよみこもえ】【なかのあずさ】【ひょーどーかずたか】
【ふないじょーじ】 【ぷりしら】 【ゆーへみありぶりたにあ】

予期されていた苦労はいとも容易く解消された。
サーシェスはいとも簡単に12人の名前を聞き分けることが出来たのだ。
インデックスの放送がわかりやすい物だったからか。
よそ様の氏名をすんなりと認識すること――これはサーシェスにとっても少し意外だった。
名簿を見れば、そこはちょっとした異文化交流。同郷を探し当てるのは用意ではない。
ゆっくりと区切って聞かされたとしても、こうも綺麗にこなせるものだろうか。

「……ま、こっちとしちゃ楽で助かるぜ、帝愛サンよ」

サーシェスは浮かび上がりかけた疑問にあえて目を瞑った。
多種多様な言語を交えた人名解読の列挙を自分が遂行できたのは。
これまで遭遇した者たちと言語疎通のトラブルに見舞われなかった。

それは運がよかったから。
“俺たちは・・金で魔法を買ったんだからなっ・・・・!”
この戦場でもっとも旨みがある客は帝愛。
ささいな疑問は相手のサーヴィスにケチをつけるようなものだ。
せっかくお膳立てしてくれたのだから、このビッグウェーブに乗るしかない。

自分はしがない戦争屋。

ようは“殺し”さえすればいい。それが与えられた愉悦。
他のことは、よほどの事がない限り考えないでおく。
それは思考の放棄ではなく、最優先事項に全神経を注ぐため。
サーシェスはシャッと横線をメモに走らせる。

「命あっての物種ってもんよ……ドジふんじまったなぁ兄弟! 」

サーシェスの知っている人が死んだ。
スクリーン越しじゃない。本で覚えたわけでもない。噂話でもない。
直接顔と顔を向かいあわせた人が死んだ。
出会ってすぐ別れた。不満だけが残った。親しくなかった。むしろ敵対していた。
それは、12人の参加者のうち、唯一わかっていた【かたくらこじゅうろう】の名。

(だがよ、うかうかしてらんねぇな。ちいっとばかし“遠回り”しなきゃ俺もお陀仏)

手痛い仕打ちを受けた小十郎も、サーシェスにとっては終わった話。
誰かが小十郎の死について問い詰めるまでは、忘却の彼方に飛ばし続けるだろう。

サーシェスの目下の予定は接触と利用。
闇雲に殺しにかかるようでは、第一回放送の苦戦を繰り返すこととなる。
6時間を経て、サーシェスはこのバトルロワイアルの全容を少しづつ理解し始めていた。

参加者は、年齢や職業を問わず(素性がどうであれ一見してはわからない)に選ばれている。
参加者は好戦的な者もいれば人道的な偽善者もいる。
参加者は、何かしらの殺しの手段(武器? 技術? 帝愛が言っていた“魔法”?)を持たされている。
参加者の戦闘力の水準は高い。自分(サーシェス)程度の力量でも、お世辞には長生きできない。

もっともっと賢く立ち回る――すべて殺しをスムーズに遂行する――ゆえに調べる。
交通機関や著名な名所の把握。そして現地調達を行うために。

「なぁ、てめぇはいったい何を見てやがるんだ……? 」

サーシェスは顔をあげて、目を凝らす。
自分の前に立ちはだかるデパート。その上のテラスの窓ガラスに佇む長髪の男。
ここから遠い向こうをじっと眺め続ける男の姿。夜に映えるブロンド。

サーシェスは迷うことなく、デパートに侵入した。


人を見かけで判断するなとはいうが、人の本性は見かけに現われやすいものだ。
最初に彼を近場で観察し始めたときから――もっといえば彼と直接対峙したときから、納得していた。

(へぇ……どんなエリート様かと思いきや)

サーシェスはテラス内の影に隠れて男の情報を探る。
年齢は自分よりも年下……30代、20代、いやもっと……。
見慣れない軍服を着ているが、たたずまいは高い階級持ちを匂わしている。

(でもあの目はどっちだ? 現実と理想で揺れ動きやすい年頃にしては、いやに鉄面皮だ)

こちらの気配にまったく気づいていない平和ボケか、気配を察知してもあえて放置しているキレ者か。
サーシェスはテラスの入り口付近に身を移した。非常階段からいつでも逃げられる道だ。

(ま、ここはひとつ踊らされてやりますかね……)

そして、右足を軽く振り上げる。
何かが当たり激しく揺れる。じゃらじゃらと物が磨れる音が静かなテラスに響く。
鳴子。サバイバルでは敵の侵入を気取らせるための初歩的なトリック。
うっかり足を引っ掛ければ、音が発生し、仕掛けぬしに敵の侵入を知らせてくれる。

「うわーなんじゃこりゃー」

サーシェスはわざとらしく転び、自分の情けない様子を見せ付けた。相手の腹を探るために。

鳴子を仕掛けることにはデメリットがある。それは“誰かが近くにいる”と足跡を残すこと。
鳴子を仕掛けた側は鳴子の音が聞こえなければ、トラップとして活用できない。
敵と直接対峙する用意――すなわち接近戦を得意とする者。その他のトラップと絡めて使う者、すでに逃げ道を確保している者。
あのブロンド男はそのどれでもない。
サーシェスはすでにデパート内の地図から把握している。エレベーターと非常階段の位置は彼から遠い。
朝日に照らされるテラスにはワイヤーや釣り糸のような罠を浮かび上がらせることもない。
かろうじて武器はある。これだけ距離をとっていれば、入り組んだデパート内を逃げ切る自身はある。

「痛ぇ……ドジふんじまいました。まいったまいった」

残る可能性は、罠をしかけたのが彼ではないケース。
つまり彼には仲間がいて、彼自身は腕利きかもしれない。
もうひとつは何の意味もないケース。単なる陽動の1つ。
サーシェスの不安は今も無くなっていない――。

「はじめまして。おたくは?」

サーシェスは鴨になりきることで、相手の出方を観た。
相手が馬鹿な戦争屋ならこの瞬間襲い掛かってくる――NO
相手が馬鹿な善人なら、心配して近寄ってくるか、震えて動かない――NO
相手が利口な善人なら、こちらを探るために様子を見る――YES
相手が利口な戦争屋なら――やはり様子を見る――YES

「すまない。それは私の仲間がしかけたものだ。悪く思わないでほしい。
 できればそのままにしてくれるとありがたい。話を聞いてくれるだけでいい」

サーシェスの賭けは、ほんの少しだが更に有利に働いた。
仲間がいるということをわざわざ口にしたこと。
嘘か真かさておき、相手は重要な手の内を明かした。つまり表面上は――


――限りなく善人よりの行動をとるタイプ。

「どうぞ。こちらも手詰まりで困ってたんです」

ゼクス・マーキス。名簿には最初から記されていた男。
礼儀正しさは、相手の公正さを裏付ける。話したがりやには話させればいい。
サーシェスはひた隠し、引き続き目の前の青年に善意を押し売りした。
いわゆる営業モードである。

「私が目指すものは、コネクションの形成だ」

放たれる手口。それは殺し合いの真っ向否定だった。
ゼクスは話す。自分のいた世界も、自分の仲間の存在も。

「君と別れたら、私は他を目指す。おそらく仲間はここには戻ってこないからな」

いついつどこで自分たちがどうしていたのか、これからどうするのか。
これまで何があったのかも。次から次へと情報開示。
サーシェスはあんぐりと口を開くしかなかった。
これほど美味しい展開があるだろうか。望んではいたが、ここまで期待してはいなかった。

(……やべ、まったく信用できねぇ)

これが全て真実であったなら、自分はどれほど有利であっただろう。
しかし戦争屋として培われた経験が、サーシェスを素直にさせない。
させるわけがない。どの世界に、初対面で、この状況で情報を吐露する相手がいただろうか。
第一印象とは打って変わったゼクスの中身に、サーシェスは肩を落した。
サーシェスはゼクスの言う全てを信用することなど有り得なかった。

「それじゃあ、ゼクスさん。私はこれからどうすりゃいいんですかね」

その決定打となってしまったのは、サーシェスに最も身近な『ガンダム』だった。
ゼクスのいた世界とサーシェスのいた世界ではガンダムの扱いはまるで違う。
サーシェスにはゼクスが“ガンダムを知ったかこいて、話している”ようにしか思えなかった。

「私と同じことをしてくれればいい。仲間を集ってくれ。
 第三回放送で君が『E-3 象の像』にて、信頼出来る仲間を引き連れてくれるだけで充分だ」

異世界の存在だの、戦国武将だの、すべてが疑わしい。
この男の言葉のどれを信ずるの値するのか。
この男に貴重な時間を割くほどの価値はあるのか。

「わかりました。私はアリー・アル・サーシェス。あいにく面識のある奴はいません。
 しがない傭兵やってます、私の世界はごくごく普通の世界ですよ。
 ずっと隠れてましたが……ま、あんたのような人がいるんなら話は別だ。
 その話、私もなるだけ協力しましょう……吉報を待っててください」

サーシェスは軽くお辞儀をして、テラスを後にした。
自分の名前を話したのは、それだけで利益があるからだ。
ゼクスはきっと他のやつらに自分の名前を出すはず。
知り合いがほとんどいない現状では、こういったささいな信用が生きてくる。

(あのアホの言葉を信じるやつはいねぇとは思うがな。ま、無いよりはマシだろう)

ゼクスの情報で信頼できるかもしれないもの。
それは彼の知り合いがヒイロ・ユイトレーズ・クシュリナーダ、張 五飛であること。
それは彼が一方通行伊達政宗神原駿河の3人と会ったということ。
この2つは直接本人に会えば真偽がハッキリするからだ。
あわよくば相手の信頼を勝ち得ることができるかもしれない。

「ゼクスさんよ、“なるだけ”協力してやるぜ。
 せいぜい俺を仲間として周りに触れ回ってくれや」

サーシェスのサーシェスによるサーシェスの円滑な殺人行為のために。
戦争屋はデパートの階段を走る。


【D-6/デパート内/一日目/朝】
【アリー・アル・サーシェス@機動戦士ガンダムOO】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ、額より軽い出血(止血済み)。
[服装]:赤のパイロットスーツ
[装備]:ガトリングガン@戦国BASARA 残弾数50% 果物ナイフ@現実 作業用ドライバー数本@現実
[道具]:基本支給品一式、 ガトリングガンの予備弾装(3回分) ショットガンの予備弾丸×78 文化包丁@現実 
[思考]
基本:この戦争を勝ち上がり、帝愛を雇い主にする。
1:周辺を見て回り、できれば組める相手を見つける。
2:殺し合いをより楽しむ為に強力な武器を手に入れる。組んだ相手を騙すことも辞さない。
3:ゼクスは胡散臭いが、彼の知り合いに接触する価値はある。
4:アーチャーとの決着をいずれつける。
【備考】
※セカンドシーズン第九話、刹那達との交戦後からの参戦です。
※ゼクスからもらった情報はあまり真面目に聞いてません(確かめようがないので)。話半分程度。
  ヒイロ、トレーズ、デュオ、五飛、一方通行、伊達政宗、神原駿河に会った時に裏づけが取れればいいと思ってます。
※この世界の違和感(言語の問題等)は帝愛のせい、ということで納得しているようです。
※何処に向かうかは次の書き手さんに任せます。




大切なものは、目に見えない。

1人目は、金で魔法を買ったとのたまう遠藤勇次
2人目は、幼さとかけ離れて事務的に死を処理したインデックス
3人目は、自分の誇りを貫くことを良しとする一方通行
4人目は、耽美の言葉しか耳に入らない神原駿河
5人目は、武士であることを主張し、ただの人間であることを忘れるために吼える伊達政宗
6人目は、仲間の約束をすっぽかし、好奇心旺盛に生きたプリシラ

私にとっての7人目は、妹。
最愛なるリリーナ・ドーリアン。いや、リリーナ・ピースクラフト。

“別れることで悲しくなるのなら、仲良くなんかならなければ”と泣くあの娘に。
“仲良くなった事は決して無駄なこと、悪い事ではなかった”とキツネは告げる。

――あなたを腹の足しにできるから。

彼女は私に出会う前に、キツネに食べられてしまった。
色づく麦畑をのような髪をした、平和を全身で訴えるあの子を。
いずれこうなることはわかっていた。
リリーナが平和の前に殉死することはわかっていた。

ならば、なぜ探さなかった。
初めて出会う仲間たちを作ることを選び、旧知の妹を選ばなかった。
ここはOZではない。ここは私の住む世界とはまったく違うもの。

私はリリーナが選んだ道を、信じていたから、何もしなかったのだ。
リリーナを探しにいけば、それはリリーナの生き方を否定することになっていただろう。
間違ってはいない。あの時も、あの時も、そうだった。
リリーナは、死んでいたかもしれない。

「見逃してくれ……甘い私を」

いずれ、こうなっていた。
歯車が掛け違えば私と妹はいつ死んでもおかしくなかったのだから
ここで、それが起きたのは、その数多の可能性の1つに過ぎない。
私も長くない。ここで骨を埋める覚悟も


「――何が“星の王子様”だ! 」


星の王子様ゼクス・マーキスの慟哭がテラスに木霊する。
本当に大切なものは、いつもそばにあると思っているから、忘れやすい。
残された者は、死んだ者に対し何を思うのか。
ゼクスが選び取った道は、一方通行が鼻で笑った道。
コネクションを形成し、一つの《グループ》を作り続ける。
腹に一物を持っていようが関係ない。妹が選んでいたであろう道をあえて進む。
裏をかかれるのは大いに上等。それは戦争では当たり前の話だ。
愚かな男と言われるのは百も承知。
そう言ってくれる人間が、この世界では生き延びる。
その時は自分が表舞台から降りればいい。


「リリーナ、あの世で見届けるのだ。戦いがいかに汚く卑劣であるかを!」


【D-6/デパート内テラス/一日目/朝】
【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康 激しくゆれる感情
[服装]:軍服
[装備]:真田幸村の槍×2
[道具]:基本支給品一式
[思考]
0:デパートを後にし、東を目指す。一方通行はどこかで出会えれば良し。
1:新たな協力者を探す。どんな相手でも(襲ってこないのなら)あえてこちらの情報開示を行う。
2:第三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、一度信頼出来る人間同士で集まる


[備考]
学園都市、および能力者について情報を得ました。
MSが支給されている可能性を考えています。
主催者が飛行船を飛ばしていることを知りました。
テラスには鳴子のトラップが仕掛けられています(音が鳴るだけのもの)。仕掛けたのはゼクス。仲間が仕掛けたというのは嘘。
悪人が集まる可能性も承知の上で情報開示を続けるようです。
サーシェスには特に深い関心をしめしていません(リリーナの死で平静を保とうと集中していたため)。




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102:こんな俺に世界を守る価値があるのか アリー・アル・サーシェス 160:協議の果てに迷える戦士達
088:届かなかった言葉 ゼクス・マーキス 146:ガンダムVSガンダム


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最終更新:2010年01月24日 22:55