幸村ああああああああああああああっ!!(前編) ◆0hZtgB0vFY


 この地に来て初めての水浴びは、体のみならず心までさっぱりと洗い流してくれるようだった。
 衣服を身につけた浅上藤乃は、そんな事を考えながらライダーと共に家を出る。

    ~ シャワーシーンがあると思ったの? バカなの? 死ぬの? ~

 幾つか情報を交換しながら今置かれた状況を確認するライダーと藤乃。
 藤乃はほとんど学校周辺から動いていなかったが、ライダーはE6の公園からD2まで来たのだ。
 出会いも多く、この辺りの人の動きはある程度予想出来るようになっていた。
「これより西側は……行っても無為でしょうか」
 藤乃がそう呟くもライダーは判断に迷っているのかはっきりと返事はしない。
「しかし東側は私が一通り抜けてきましたし……北上も良手とは思えませんね。わざわざ山の中に行く意味がわかりませんし」
 そんな事を言いながらもライダーは何か目的があるのか足取りに不安な所はない。藤乃はただ静かに付き従うのみ。
 目的地と思しき場所に着くと、ライダーの口元が僅かに緩む。
「ああ、やはりありましたか。これなら……」
 それからのライダーの行動は、藤乃の想像の斜め上をいっていた。



 金属の檻、真四角な内装はぶつかれば怪我をするとの理由で最近は何処でもあまり採用されない造りのはずだが、この部屋に限ってはそんな配慮とは無縁である。
 そもそも不特定多数が入って良い部屋ではないのだから、社会的配慮などともある程度距離を置けるのだろう。
 正面は一杯に張り詰められた強化ガラス。正面視界に限って言えばほぼ死角は無い。
 目の前にはレバーが一本、これとは別に足元にもレバーがある。
 また、電子操作が行えるコンソールがあり、ライダーはこれらの操作を澱みなくつつがなく執り行う。
「ライダーさん、運転出来たんですか」
「私はライダーですから。操れぬ乗り物など存在しません」
 理由になってるんだかいないんだか。
 がたんがたんと揺れる車体、きぃーっと金切り音が聞こえるのは古いせいではなくそういった仕様であるせいだ。
 線路の上を我が物顔で突き進む電車。ライダーはこれを操っていたのだ。

 D-2駅は始発であり終着である。
 ならば電車の車庫が、そう考えても不思議ではあるまい。
 運休が続く線路上を、予備の電車を用いて一気に公園の方まで戻るというのがライダーの考えた侵攻ルートであった。
 単体では攻略が難しいサーヴァント、アーチャーがこの周辺に居る。
 しかし千里眼を持つ藤乃を擁していれば、ライダーにも充分勝ち目は出来るだろう。
 せっかく手にした戦力だ、敵うという確信が得られたのなら即座に活用したい所だ。
 途中、見咎められ狙撃を受けるかもしれない。
 ちょうど良い、その時は電車という鉄の装甲で身を守り、位置を特定して仕掛けてやるまでだ。
 アーチャーが最も厄介なのは、身を隠し狙撃を続けられた時だ。しかし一度でも捕捉してしまえばこちらには藤乃が居る。
 地獄の底まで追い詰めて、撃ち滅ぼしてくれよう。
「あ、あのライダーさん……少し、スピード出しすぎでは?」
 操縦席に共に居る藤乃が不安そうに問うが、ライダーは歯牙にもかけない。
「アーチャーの狙撃があるかもしれません。正確な着弾を避ける意味でも、速度は限界一杯まで上げます」
「は、はぁ……って前っ! 線路がっ!」
 突然大声を上げる藤乃。
 さもありなん、二人は預かり知らぬ事だが、これこそが電車運休の原因、バーサーカーが高架を支える柱を粉砕したおかげで線路が途中で途切れ、奈落の底へと大穴を開いているのだ。
「問題ありません」
「ありますって!? 線路が無くちゃ……」
「パンタが通っていれば充分です。行きますよ、舌をかまないでくださいっ」
 電子装置に指を滑らせると、遙か後方から独特の機械音が響いてくる。
 高架になっている線路は、バーサーカーの一撃で真ん中から崩れ落ち、へし折れた線路は斜め下に向かって伸びている。
 無論、こんな線路にガイドされては奈落の底へ真っ逆さま。
 なのでライダーは最後尾車両のエンジンを回したまま、最前車両のエンジンをがつんと力強く止める。
 引っかかるように膨らんだ三両目、四両目、五両目は、容易に線路保持の限界を超え脱輪してしまう。
 これが普通の線路であるのなら、お客様に多大なご迷惑をおかけする事必至の大事故を予感させるありえぬ一撃であるが、ライダーはこの地で電車に乗らんとするお客様方に、欠片の敬意も抱いては居なかった。
 波打つように一両目も線路から外してしまう。このブレーキとの微妙な按分はどうだ。
 足の裏、レバーから伝わる振動から電車のグリップを読み取り、適切で、確実な動作を行う、スーパードライビング。
 線路を外れた電車は、砂利の上をがたがたと、それでいてパンタを外していないので速度も落とさずへし折れた高架に達する。
「フジノ! 射台を!」
 言いたい事は、わかる。というかわかってしまった事が何というか悔しい藤乃は、しかし他に手は無いので気乗りはしないが依頼通り、力を解放する。
「凶がれっ」
 高架の端が藤乃の力に応えて歪み、斜め上へと伸び上がる。
 直後、電車はここを通過、射角をもらった電車は、速度も相まって容易く高架を両断する亀裂を飛び越していった。
 パンタが電車と電線の間で押し潰され、車体が線路をこするのとはまた違う不気味な悲鳴が聞こえてくる。
 それでも、電車が上に跳ね上がりすぎるのを防いだのは、横転せぬよう空中にてバランスを整えたのはこの電線であった。
「まだ安心するのは早いですよフジノ」
「……いえ、これ私にでもわかります。曲り、きれませんよこの速度じゃ」
 E-2からF-2へと続く線路、ここは大きく弧を描いており、充分な減速が必要となろう。
 しかるに、亀裂を飛び越す為に限界まで速度をあげた電車は既に必要減速など不可能な程、かっ飛んでしまっている。
「手はあります。この子を……信じて下さい」
「……この子って、コレ、ですか?」
 線路から外れてしまったせいで、がたがたと激しく振動する電車を見下ろす藤乃。
 ほどなくして先頭車両は線路へと復帰する。
 本来ハンドルなぞない電車が線路を頼らずに曲る事、進路を変える事など不可能である。
 しかし、この電車は先頭のみに機関車両を擁する常の電車にあらず。
 最後尾の車両にも機関車を用いてあり、先頭車両に居ながらにしてこれを操れるのだ。
 ここにライダー奇跡の車体過重移動スキルが加われば、電車は決して曲らぬ乗り物ではなくなる。
 そう、ライダーは声高らかに叫ぶだろう。電車は曲る、曲る乗り物なのだと。
 後部車両まで全てを線路に載せ終わると、ライダーは電車を更に加速させ、前へと車体過重を集中させる。
 藤乃は、何か何ていうかもうどうにでもなれー的なオーラを漂わせつつドアの取っ手にしがみついている。
「行きます。コーナーリングフォースを稼ぐ手は、一つではないという事お見せしましょう」
 遂に飛び込んだ距離にして1キロ弱のスーパー高速コーナー。
 線路ががっちりと車輪を掴み、外に放り出されようとする車体を抑えつけんとするが、金属にも限界があり、外内の力のバランス次第ではいつ吹き飛んでもおかしくないゾーンへと突入する。
 ライダーは全神経をレバーとブレーキに集中する。
 綱渡りでは済まぬ、最早針渡りといっても過言ではない程か細い糸を、少しづつ少しつづ手繰り寄せ、最後の奇跡に辿りつかんと電車を信じる。
 きんっ、重苦しくも甲高い音と共に、後部車両がアウト側に脱輪してしまう。
「ここですっ!」
 ライダーの操作に従い、後部車両の機関が炎を上げる。砂利を撒き散らし、線路を飛び越えながらも車輪は確実に、大地を踏みしめ前へと突き進む。
 向きを合わせるのは先頭車両の役目だ。
 速度調整と後ろに引っ張られる車両の過重を計りつつ、最適な向きを、これしかないというピンポイントを。
 これは吹っ飛んだと覚悟を決めた藤乃は、しかし急に揺れながらだが安定した車体に驚き、窓の外を見る。
 お嬢様学校に長く居たせいか、はたまた生来のものか、品の良さはその身に染み付いていたのだが、そんな藤乃をして大口を開いたまま呆然とするなんていう真似を強要してしまう光景がそこにあった。
「……一体、これ、何が起きてるんです?」
 先頭車両は左の登り線に、後部車両は何と隣の下り線に車輪ごときっちりとはまり、平行して走る事で外へと飛び出す力を見事分散する事に成功しているのだ。
 ライダーは冷汗をぬぐいもせず、真正面を見据えたまま応えた。
「そうですね、複線ドリフト、とでも名づけましょうか」
 1キロの高速コーナーが全て終わると、がきょん、という派手な音とともに後部車両が元の線路に復帰し、全ては事もなく電車は突き進むのだった。



 難所を超えたライダー達はF3駅を超え、F5駅を一気に突っ切る。
 ここまで妨害は一切無し。順調すぎる快適走行は、稀有な運転手ライダーにより電車の常識を覆すコースレコードを弾き出しながら、目指すD6駅に向かう。
 F5駅で下車する方がアーチャーには近いとも思うのだが、宇宙開発局周辺より、雑然としたD6駅周辺市街地の方が電車を降りた後、狙撃を警戒しやすいと考えたのだ。
 ホームに万が一人が居てもいいように、藤乃の頭を下げさせ、外からこちらの顔が見えぬよう自身も顔を伏せる。
 そして次は下車予定のD6駅だ。ライダーはホームや周辺に人は居ないかと、駅に着く少し前から前方視界に集中する。
 居た。駅前ロータリー、二人、男と女。
 ライダーは一瞬で決断を下し、電子操作盤に指を走らせる。
「攻撃を開始します。あれはセイバーです」
 藤乃が何を言うより先に、ライダーは先頭機関車両と後尾の機関車両の二つに速度差を作り、故意に重心バランスを崩して脱輪を引き起こす。
 狙いは上々、進路クリア、この速度、質量に突然襲いかかられては、剣の英霊セイバーとて対処なぞ出来まい。
 引換に電車は再起不能なダメージを負うだろうし、巻き込まれるのも拙いので、ライダーは藤乃を小脇に抱え二両目まで戻る。
 完全に脱輪し、鉄条網やら壁やら看板やらを弾き飛ばしながらなので、とんでもなく揺れる車体の中、ライダーは片手が完全にふさがっている事すら苦ともせず、残った片手を使って電車の上にひらりと舞い上がる。
 軽業師ですらこうまで見事な挙動は行えぬであろう。身のこなしの軽さはサーヴァント随一と言ってもいい程だ。
 すぐ電車から飛び降りるのはまだまだ危険が伴う。
 下手をするとセイバーはこの奇襲ですらかわしてくるかもしれないのだ。
 電車の屋根からセイバーが飛び出す姿を監視する。
 しかしライダーの心配は杞憂であったのか、電車の脇から飛び出してくる人影は無く、セイバーと隣に居た男は電車にまともに突っ込まれてしまったようだ。
 弾き飛ばされるかとも思ったが、そういった様子も見られなかったのでおそらくは潰されたのだろう。
 如何な英霊とてこの質量に押し潰されれば死は免れまい。
 突如、電車の速度が急激に変化する。
 ほんの僅かな予備挙動でこれを見抜いたライダーは咄嗟に電車から飛び降り、安全と思しき通りに着地を決めると電車の動きに注視する。

「うおおおおおおおああああああああ!!」
「ぬうううううりゃああああああああ!!」

 電車の前面から金と赤の閃光が溢れ出す。
 まだ電車はアスファルトを削り、建物を抉り、並み居る建造物を蹴散らしながら突進を続けているが、まるで輝きに押し返されるかのように、徐々にその速度を落としていく。
 避けるはあると思っていたライダーは、受け止めるなんてアホな選択をしたセイバーを呆れながら、感心しながら見守っている。
 電車が跳ね回る側でもある事だし、流石にこの状況で手は出しかねたのだ。
 藤乃に至っては、何がどうなっているのかすら把握出来ていない。

「行きますよユキムラ!」
「任されよせいばあ殿!」

 一際強い光を放ったかと思うと、突進してきた電車を全身で受け止めていた二人、セイバーと真田幸村は、この莫大な質量を押し止めるどころか、何と何と放って投げ返してみせた。
 ごろんごろんと発泡スチロールで出来ているかのように軽々と転がる電車は、横の民家六軒程を道連れに土煙と轟音を巻き上げ、その活動を停止した。
 ライダーもこれには一言言わずにはおれなかったようだ。
「……剣の英霊というにはあまりに、力任せが過ぎませんか?」
 電車を跳ね除けた怪物、セイバーは背に二メートルはあろうかという長大な刀を背負い、踏み耐えたせいでアスファルトに膝までめり込んだ体勢そのままに、周囲全てを圧する人の身に在らざる強力無比な覇気を漲らせる。
 並ぶように立つ男、真田幸村は無手のままだらりと両腕を垂らし、信じられぬ偉業を成し遂げた興奮など微塵も見せず、険しい表情のまま不意打ちへの憤怒を顕にする。
「名乗りも上げず襲いかかるとは卑怯千万! 戦の礼儀も弁えぬ不貞の輩か!」
 怒鳴り散らす幸村。もちろん、そんな言葉で反省する者などこの会場の何処を探しても見つかりはしないだろう。
 ライダーともう一人の姿を認めたセイバーは、臨戦態勢を崩さぬまま冷笑する。
「騎英の手綱も随分と品格が落ちたものだな。例の幻想種には愛想でも尽かされたか」
「そうですね、憎まれ口を叩くぐらいしか今のあなたには出来る事は無いでしょう」
 電車の衝突を腕力のみにて抑え込む。二人がかりとはいえこれを成し遂げるのにセイバーが消費した魔力は膨大な量であった。
 セイバーは有り余る魔力を自在に振り回し、圧倒的な力で敵をねじ伏せる戦いを得手とする。
 マスターが居ない今、消費した魔力を再び補充する事も叶わぬセイバーは、数度の吸血を行ったライダーと比べ、魔力という点においては圧倒的に不利な立場にあった。
 だからといって戦闘を避けるようなセイバーではない。そして、魔力が不足している程度の理由で、セイバーはライダーに遅れをとる気などさらさらなかった。
 これ以上は語るに及ばずと剣を抜こうとしたセイバーの前に、幸村がライダーとの間に立つように体を入れてきた。
「ユキムラ?」
「ここは某にお任せあれ」
「何を言う!? 私はまだ戦える……」
「では阿良々木殿はどうされるか?」
 幸村は電車衝突の際何処かへ行ってしまった(間違いなくへし折れ潰されていると思われる)物干し竿に未練は無いのか、セイバーを安心させられるように力強く拳を打ち鳴らす。
「きゃつが何者かは存じませぬが、いずれ罪無き人を害する者であろう。何より某、こやつに聞かねばならぬ事があり申す。それにせいばあ殿ならともかく、阿良々木殿が戦闘に巻き込まれては無事には済みますまい。どうか、しばし彼を連れ避難をお願いいたす」
 セイバーは幸村の気配に、セイバーがそうであるような魔力減少による弱体化の兆しを見出し事が出来なかった。
 最初に出会った時と変わらぬ、否、敵を前にして比べ物にならぬ程の存在感と、暑苦しいまでの圧力を覚える。
 今すぐに戦わせろ、そう言葉によらず全身から漲らせる幸村は、魔力が十分であったとしてもセイバーですら容易く勝利出来る相手ではないと思えた。
「……わかりました。敵を前に引くのは甚だ不本意ではありますが、そこまで言うのでしたらこの場はユキムラに任せましょう。ですが……」
 真顔のままセイバーはきっぱりと宣言する。
「おまけが居ようとライダーごときに敗れる事は許しません。必ずや勝利するように」
「承知っ! 武田武将の底力とくとご覧あれ!」

 藤乃はセイバーと幸村が話し合っている間に魔眼にて攻撃を、そう考えたのだが、気配をライダーに読まれ止められる。
「フジノはここ一番までは動かず、あちらの建物に隠れていてください。もちろんセイバーがこの場を去ってからですが」
「見逃すのですか?」
「ユキムラ、そう呼ばれる彼はおそらく戦国の武将でしょう。一人づつ確実に潰します。電車を踏みこたえて尚、セイバーですら魔力を著しく消耗したというのに、ユキムラはまるで損害を負った様子が見られません」
 あなたが切り札です、タイミングを誤らぬよう、と告げ、ライダーは一人幸村へと向かっていく。
 残された藤乃は全てがライダーの都合で進んでいる気がして不快に思ったが、今は、素直に従ってやると不満を飲み込み建物の影に隠れる。
 当然戦闘は見えるようにしておくが、藤乃の目に映る景色は、正直夢か幻の類であろうと何度も自身を疑ったものである。

 白と黒で遂になっている二本の刀、常の日本刀とは異なりまっすぐに伸びた刀身と、短めの刃はこれが忍びの用いる刀である証であろう。
 両手で同時に武器を操るのも苦とせぬライダーは、この武器を持って幸村に迫る。
 対する幸村は無手。武器など何一つ持たぬ武装解除状態。しかし、決して無防備ではなかった。
 間合いはライダーが長い、そんな不利を物ともせず勇躍前傾姿勢にて刀を迎え撃ち、その隙間を縫うように拳をねじ込む。
 二本の刀は霞でも狙ったかのように空を切り、中央ど真ん中、隙とも呼べぬ僅かな猶予を貫いて幸村の拳がライダーへと迫る。
 完全にかわした、そう確信出来るライダーの見切りは、しかし見当が外れており、首がねじ切れるかと思う程の衝撃と共にライダーの体は宙を舞う。
 真横に三回転、大地との距離感を容易く失ってしまいそうな速度であったが、ライダーは足を大きく開き、四つん這いになって着地を決める。
 大地についた両肘、膝と脛が勢いそのままにアスファルトにこすりつけられた為、スレるような痛みを覚えたがこれを黙殺。
 見切り損ねた原因の究明を、いや、原因はわかった。しかし理解が出来ない。
 電車との衝突時に見えた赤き輝き、これが残滓のように幸村の体から漏れ落ちている。
 確認が必要と、ライダーは再度幸村へと踏み込む。
 今度は真正面からと見せかけ、前後左右に大きく跳び回って距離を測る。
 そのライダーの身の軽さはどうだ、全身で飛び回っているというのに、目で追う事すら困難な速度で死角から死角を伝い、人知を絶するフットワークにて幸村を翻弄する。
「遅いわっ!」
 幸村はライダーが間合いに踏み込んだ瞬間をそちらを見もせずに察し、肩ごしに裏拳を放つ。
 あるを予測していたライダーだからこそ、今度は何とかかわしきる事が出来た。
 そして、先程見切りを誤った理由が、今度こそはっきりとわかった。
 振るわれた幸村の拳、これに赤い閃光が纏わりついているのだ。
 魔力ではない。それならばわかる。
 しかしかといって物理的な何かかというとそうでもないようだ。
 熱き炎に近いナニカであるとは思うのだが、発火の為に必要なプロセスを踏襲しているようにもみえない。
 敢えて言うのであれば炎っぽい何か。それが、魔術師のように回路を伝うような事もせず、英霊が自らの蓄えた魔力を放出するような形式でもなく、何故か突然幸村の体に纏われている。
 威力の程はたった今ライダーが味わった。急所にもらえばただの一撃で死を覚悟せずばならない程の一撃である。
『なんなのでしょう彼は一体……あの武将も雷を放ってきましたが……』
 ライダーが現界した時に得た戦国の世とやらの知識から大きく逸脱した存在であるようだ。
 それでも勝てる。ライダーは一つ、動きのギアを上げた。



 セイバーは幸村と分かれると、駅構内へと駆け込んだ。
 電車を共に支えたからこそわかる。幸村は英霊と並んでもまるで遜色無い程の英傑であろうと。
 見るからに無力な女性がライダーと共に居た事が少々気に掛かるが、彼ならば任せられるだろうとセイバーは自らに課した役割を果たしに行く。
 電車が脱線した音は流石に暦も聞いていたようで、すぐにホームを走る姿を見つけられた。
 事情を説明すると暦は少し返答を渋ったが、より以上に無念そうなセイバーを見たせいか、納得して逃走の道を選んだ。
 戦闘が終わった頃を見計らって戻るというのも手ではあるが、一度北上して、先にデュオ達と合流する方が効率的であるし、再戦闘の必要が出た時も対応しやすかろう。
 すぐに轟音が駅前から響いて来た。
 人間同士の戦闘音とはとても思えぬソレを聞いた暦は色々と言いたそうにしたが、ぐっと堪えてセイバーと共に北へと向かって走り出した。


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117:おくりびと/燃える火のように 真田幸村 :幸村ああああああああああああああっ!!(後編)
129:からまりからまわり 阿良々木暦 :幸村ああああああああああああああっ!!(後編)
117:おくりびと/燃える火のように セイバー :幸村ああああああああああああああっ!!(後編)
122:fragile ~こわれ者~ 浅上藤乃 :幸村ああああああああああああああっ!!(後編)
122:fragile ~こわれ者~ ライダー :幸村ああああああああああああああっ!!(後編)


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最終更新:2010年01月25日 21:13