パンドラを抱きし者 ◆5iKodMGu52
常識と思っている事柄に、何故?と聞かれて即座に答えられる人間は少ない。
「なんでそらはあおいの?」
「なんではなはうつくしいの?」
「なんで1+1は2なの?」
「なんでひとは、いきているの?」
平沢唯にとって、
伊達政宗の質問はそういった類の事柄だった。
なんで、と言われても彼女には「知っているから」、としか答えられない。
あえて理由を言うならば、と平沢唯は恥ずかしそうに、夢の中で
中野梓と会った次第を話した。
福路美穂子はそれをあっさり信じたが、伊達政宗はしかめ面をするのみだった。
ヴァンに至っては「死んだ人間は生き返らねぇ」と吐き捨てるほどだ。
結局、埒があかないと判断した伊達政宗は、
片倉小十郎の亡骸にシーツを掛けてやってくれと伝えると、
自らの足で闘技場へ向かった。
乗らないのか、とヴァンは伊達軍の馬に乗りながらのうのうと尋ねたが、
それじゃそっちの歩調が合わないだろう、と政宗は固辞して走り去った。
◆
バーサーカーは僅かに得た魔力を元手に彷徨っていた。
途中なにやら放送が入ったようだが、彼にそれを理解することは出来無い。
マスターからの指示もなく、周辺に強者も闘争もない。
暴力を持って蹂躙すべき対象も遠く地平にまで見当たらぬし、
そもそも動くものすら見あたらない。
行動指針を全く奪われた状態と言って、差し支え無い。
だが、バーサーカーは休むことなく歩み続ける。
破壊することしか知らない狂戦士に、敵を求めて彷徨する以外に何ができると言うのか。
何故戦いを求めるのか、と問われれば、
語ることが出来るのならば、彼はこう答えるであろう。
戦士は闘ってこそ、その存在価値を認められる。
ならば闘争を求めて動き続けなければ、彼の存在する意味はないからだ。
瓦礫で覆われた、かつて工業地帯であったエリアを、踏み砕きながら彼は歩く。
ただ彼の日常、戦いを求めて。
◆
「馬より断然速いじゃねぇか」
あっという間に豆粒のようになった政宗の姿を見てヴァンは呟く。
「それじゃ、私達も行きましょう」
小十郎の痛々しい遺体に支給品の中から毛布を取り出して被せ、黙祷した後
福路美穂子は平沢唯を後ろに乗せて、そろそろと馬を橋に向かわせる。
単独戦力として完成されている政宗と違い、
福路美穂子もヴァンも多少腕に覚えがあるものの、
この島で戦い、生き残るには多少不安があったのだろう。
悪意のある目標に発見された場合、対処に苦しむ事になりかねない。
目立つ行動を避けるために、馬を全力で走らせることは出来無い。
走りたける馬蹄の音は、想像以上に遠くにまで響く。
ましてや全くの一般人である、平沢唯を連れての行動である。
先程伊達軍の馬が見せた超機動を発揮するわけにも行かない。
あれは改造人間であるヴァンにすら、少々手にあまる暴れ馬だった。
平沢唯を乗せて、あのスピードを出したら、あっという間に振り落とされてしまう。
落馬のダメージは深刻だ。命の危険すらある。
先程のあの凄まじいスピードから落馬した場合、受身すら取れずに五体バラバラになるだろう。
ここに居る男、ヴァンはあの超スピードから振り落とされたにも関わらず、ピンピンしているが。
道中、福路美穂子は自分に起こったこと全てを、平沢唯に伝えていた。
自分は既に死んでいること。
自分がおそらくは"左腕"に宿る悪魔によって復活したこと。
そして、自分の全てを掛けて、平沢唯を護ると決意していること。
第二回放送を聞いての考察を含めて、
いつ自分が活動を停止するか分からない以上、後事を託す意味で。
福路美穂子にとって意外だったのは平沢唯が、
目の前で死んだはずの自分の生存をすんなり受け入れ、
さらに異形の"左腕"に、なんら恐れも不信感も疑問も持たなかったこと。
「やっぱり唯ちゃんはすごいんですね」
福路美穂子はぽろぽろと涙を流しながら、そんな平沢唯をなんの疑問も持たず受け入れた。
■
ヴァンにとって平沢唯という存在は「うざい」、の一言だった
馴れ馴れしく語りかける、妙な抑揚ととろいリズムで弾き出される言葉。
内容も実に脈絡もなく、取っ散らかっていて訳が分からない。そして実に嬉しそうに話し続ける。
アイスが食べたいだの、暑いだの、馬が可愛いだの、ダンってなに?だの。
(確かいま、殺し合いのゲームの最中だったよな?)
常にTPOをわきまえないヴァンをして、突っ込まざるをえない平沢唯の現状。
福路美穂子は既に慣れているのか、心の底から幸せそうに、にこやかにうんうんと
まるで子供をあやす母親のように応対している。
付き合っていられないぜ、とばかりにテンガロンハットを目深に被ると、
ヴァンは平沢唯の話を、とりあえずはスルーすることに決めた。
■
「そう言えばわたしたち、結構近いところに居たのね」
「うん、もっと早くに出会えてたらよかったのにね~」
橋を越えて『神様に祈る場所』に向かう途中、未だ平沢唯と福路美穂子は語らっていた。
平沢唯はG-6展示場内に転送され、福路美穂子はその目と鼻の先、F-6にいた。
そして、どちらもヴァンが目指す宇宙開発局エリアだ。
福路美穂子は平沢唯との運命を、そんな些細なところにすら感じていた。
丁度三年前にたった一局、竹井―当時は上埜であったが―久と対局した、
あの時のような運命を、である。
上埜久の事を思うと既に鼓動を停止したはずの心臓が、胸が高鳴るような感覚に陥る。
これを、おそらくは憧れであろうと福路美穂子は思っていたが、
平沢唯のことを思うときも同じような感覚になることに、彼女は違和感を感じていた。
上埜久と平沢唯。
どう考えても似ない両者。なにか共通点があっただろうか。
もしかしたら、それが平沢唯を独占しようとした、先程の暴走につながったのかも知れない。
果たして、と福路美穂子が思考を巡らせていたところで、ヴァンが尋ねてきた。
「お前ら、そこでなんか見なかったか?ヨロイとか」
福路美穂子は展示場内に転送され、F-5駅をひたすら目指して歩いた。
精神的にもギリギリだった彼女に、周りの風景など眼に入るはずも無い。
平沢唯は、といえば展示場内で目に入った全てを語り始め、またもやヴァンをうんざりさせた。
ロケットだの、ひこーきだの、でっかい筒だの、本当に脈絡も無い、要領を得ない話。
果ては悪の秘密基地があった、だの荒唐無稽なことまで言い出した。
(こいつにホイホイ見つかるような秘密基地なんて、あるはずねぇだろ…)
ヴァンは少しでも期待した自分が悪かった、と馬の背にだらりと身を任せる。
ただ、福路美穂子はその会話に違和感を感じていた。
「唯ちゃん、展示場には行ってなかったんじゃないの?」
☆
福路美穂子はそれまで平沢唯が辿った軌跡について、詳細に聞いている。
その道程に、展示場に立ち寄ったなどと言う事実は無かった。
「え?でもわたし見たよ?ロケットとか。あ、地下におっきい船があってね」
話があっちこっちに行って、またもやワケが分からなくなる。
福路美穂子は平沢唯の中で起きたことに、必死で思考をめぐらす。
行ったことがない場所について、何故平沢唯はコレほどまで詳細に知っているのか。
一方、ヴァンは既に平沢唯の話には興味を失ったようにそっぽを向き、
これから向かうギャンブル船について、おそらくは考えていた。
正確に言うと、そこで景品としてさらし者にされている、ダンについてだろう。
無論、確定情報ではない。
ヴァンの愛機、いやそれ以上の存在であるダン・オブ・サーズデイは、
こちらの情報によれば、いまだギャンブル船の景品リストには無い。
これから追加されるやもしれないが、だが、ヴァンはそのことを知らない。
エレナの形見であり、己の半身であり、命そのものであるダン。
常はサテライトベースにあり、呼ばれればすぐさま駆けつける憎い奴。
その自由を奪われ、事もあろうに売り物にされている、という福路美穂子の冗談交じりの推測は、
ヴァンの復讐者としての血を騒がせるのに十分だった。
エレナ、
カギ爪の男、そしてダン。
次々と自分の中の中心を奪われ続けるこの男に、心の平穏は訪れるのか。
それはいまだ闇の中だ。
自分の中の中心を奪われ続けいると言えば、福路美穂子も同様。
池田華菜、竹井久、片倉小十郎、そして彼女はいまだ知らぬが
トレーズ・クシュリナーダも。
このゲームにより全てを奪われたといっても差し支えない状況。
だが、ヴァンに比べるとまだマシなのかもしれない。
今は平沢唯が傍らに居るから、だ。
おそらく自らの復活に関与しているであろう平沢唯は、今や福路美穂子の全てだ。
今は船井の提案に従ってエスポワール号を目指してはいるが、
なるべくならば平沢唯の意向通りにしてあげたい。
そう願っていたと思われる。
平沢唯もまた大切な仲間である
田井中律、
琴吹紬、中野梓を失った。
また、琴吹紬、
秋山澪に至っては自らを殺そうとまでしている。
普通の人間ならば人間不信と狂気に襲われていても不思議ではない。
実際、福路美穂子は精神の平衡を失い、ヴァンは復讐のみに心を囚われた。
だが、平沢唯は何故か平然としていた。ただひとつの心残り以外は日常然としていた。
平沢唯自身が言うには、死んだ三人に慰められたから、だそうだが。
そして気絶し、外界からの情報を遮断されていたはずの彼女が、
何故あの事を知っているのか。
さて。
☆
そろそろ着く頃だと三人がきょろきょろと辺りを見回していると、平沢唯が教会の姿を認めた。
「あ、教会が見えた。あれが"神様に祈る場所"だよ、みほみほ」
途中何度も後ろから固く抱きしめられて、赤面しっぱなしの福路美穂子は、
平沢唯の言葉に、はっと我を取り戻した。
「そうね、きっとあれがそうだわ。…?」
平沢唯の言い回しに若干の違和感を感じつつ、福路美穂子は教会に向けて進路を取った。
その時。
三人の耳に程遠くから流れるライブ音が響いた。
■
三人は馬の歩みを止め、
福路美穂子はキョロキョロと辺りを見回し、
ヴァンはテンガロンハットを深く被り直し、
平沢唯はある一点を見つめる。
目を閉ざし、耳を澄まし、音源に集中する。
平沢唯はやがてポツリと「澪ちゃん…」と呟く。
「え、澪って秋山澪なの、唯ちゃん?」
黒髪ロングのスゴク綺麗な子で、スタイルもよくて気っ風が良くて人気者で、
左利きで専用ベースが滅多に売ってなくて文句を言って、
怖がりで恥ずかしがり屋で強情っ張りで真っ直ぐで、
ベースが凄く上手くて歌がとてもキレイで。
音楽がとても好きで、部のみんなをとても好きな、田井中律の無二の親友。
それが平沢唯の語る、秋山澪。
平沢唯の向く方向と地図とコンパスを見合わせる。
「そっちの方角って…闘技場?まさか、まだそこに
明智光秀がいるというの?!」
福路美穂子は平沢唯を連れて逃走する際、秋山澪を闘技場控え室に残していった。
それが心残りで、伊達政宗に秋山澪をお願いしますとは言った。
だが伊達政宗の憶測では、
平沢唯・福路美穂子の両名が闘技場から脱出してから既に二時間以上経っている為、
明智光秀・秋山澪の二人が闘技場に残っている可能性は低いはずではなかったのか。
■
「伊達政宗、だったか。遂にぶつかっちまったって事だな」
その声に福路美穂子はヴァンの方を振り向く。
「知っていたんですか?!」
「知ってて送り出したんじゃなかったのかよ?!」
エ…、と福路美穂子が一瞬固まったのを見て、めんどくせぇな、と溜息をついてヴァンは続ける。
「あいつがこれからピクニック行くような様子に見えたか?
あからさまに腹決めた男の顔だっただろうが。
それにアッチの方から絶えず漂ってくる、隠そうともしないアブねェ気配。
あいつは口じゃああは言っていたが、お前らに『来るな』って訴えていただろ」
短慮を責められたことで冷静さを失っていたのか、
福路美穂子は常なら察していたであろう伊達政宗の機微を、見失っていた。
付いてくるな、という意思表示は、ヴァンが来る前に既に為されていた。
そして福路美穂子が闘技場へ単独で攻め込むという案に対して、
それを辞めさせる為に、わざわざ嘘をついたというわけだ。
「伊達さんは、わたしを完全に足手まといとしてしか認識してなかった、ということですね」
"左腕"を得ても、結局は片倉小十郎を見殺しにせざるを得なかったあの時と、全く変わらない。
そう福路美穂子が自嘲すると、ヴァンはその背中で耳を澄ます平沢唯を向いて言う。
「守る者がすぐ傍にいるって言う奴を、連れて行きたくなかったんだろ。
お前の補助に、わざわざ俺をお目付け役だかなんだかに付けてまでな」
ヴァンが二人について来たのは、エスポワールに向かうためも勿論あるが、
伊達政宗の意図を汲んだ為でもある。
でなければ、さっさと一人で船に向かっていただろう。
伊達政宗ほどではないが、彼もまた一人で完結した戦士だ。
単独行動はむしろお手の物だろう。
問題は方向感覚が極端にないと言う点だが、
これは彼自身が自覚してないことなので、ここでは関係ない。
だとするならば、伊達政宗の意志を汲んでこのままエスポワールを目指すべきなのか。
福路美穂子がそう決断しかけたとき、それまで一心不乱に耳を澄ましていた平沢唯が口を開いた。
「闘技場に行こう!ヴァンさん、みほみほ!」
◆
かつて手にした斧を拾い上げたバーサーカーは同時に遂に闘争の芳香を嗅ぎつけた。
二箇所。
左か右か。
どちらも自分の相手としては申し分ないほどの強さを秘めた人間たち。
だがバーサーカーは左を選んだ。
理由は明白。
より近いから、である。
戦いを求めて彷徨し続けた狂戦士は、喜びの咆哮も僅かに、北へ、北へと歩を進める。
嗅ぎつけた獲物を逃さぬよう、音を殺してそろりそろりと。
◇
白髪の人が、澪ちゃんがりっちゃんを殺したって言って、
わたしは信じられなくて澪ちゃんに聞いて。
頭がこんがらがって、気がついたらわたしは倒れて意識を失っていた。
あぁこのまま死んじゃうのかなぁって思った。
だって意識を失っているわたしに、澪ちゃんが変な銃を向けているんだもん。
ちっちゃい針がわたしに向かって飛んできたけど、身体が動かない。
なんで?なんでムギちゃんも澪ちゃんも、わたしを殺そうとするの?
もうその後は光で全部見えなくなっていた。
■
気が付くとわたしは緑色の光で満ちた、なんかパルテノン神殿みたいな場所に居た。
そこには14人と11人が集まっていて。
わたしを見つけると、みんな驚いた顔をして、寄ってきた。
その中にはあずにゃんもりっちゃんもムギちゃんも居た。
あ、それと船井さんも。
あれ、そうか。わたしあのまま死んじゃったんだ。
そう思っていたら、ムギちゃんが
「違うよ、福路さんが助けてくれたから、唯ちゃんは生きてるよ」
って言ってくれた。
「澪がわたし達を殺すはずないだろ」
りっちゃんが言う。いつも通りの頼りになる笑顔で。
「そっか。じゃあみんな死んで無かったんだね!」
っていうとりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも、他のみんなも下を向いちゃった。
あれ?
■
りっちゃんが説明したところによると、みんなが死んでいるのは確かなことなんだって。
じゃあなんでわたしはここにいるのって聞くと、りっちゃんも分からないみたい。
ムギちゃんが、殺そうとしてゴメンねって、
澪ちゃんもわたしを殺そうとしていたけど許してあげてね、って言ってる。
そんな、言われなくてもわたしたち友達だもん。
なにかの間違いだって分かってるよって言うと、ムギちゃんも、りっちゃんも、あずにゃんも泣いちゃった。
泣いてるけど、みんな笑ってるから、んー、大丈夫かな?
そしたらみんなが、けいおん部のみんなだけじゃなくて、みんながわたしに話しかけてきた。
みんな一斉に話すもんだから聞きとるのが大変だったけど、
わたしも一生懸命全部聞き取ったよ。
聞いた内容を地図に書き込んだら、地図が真っ黒になっちゃった。
その黒がわたしを取り込んで行く。黒いのになんか妙に明るい。
あれ、もう帰る時なんだ。みんなが悲しそうな顔をしている。
あずにゃんが「伊達さんにありがとうって言っておいて下さい」って言ってる。
「綺麗な宝石と着物をありがとうって伝えて下さい」って言ってる。
わたしは片手を上げて「大丈夫だよ、伝えるよ」って言うとあずにゃんはとっても嬉しそうだった。
わたしも嬉しかった。
■
目が覚めて、伊達さんにあずにゃんの伝言を伝えると伊達さんはビックリした顔をしていた。
あれ?なんでわたしこの人が伊達さんだって知ってるんだろ。
あぁそうだ、みんなから聞いたんだっけ。
あ、みほみほだ。左腕がお猿さんになってる。みんなから聞いた通りだ。
わたしを助けるために、死んでたのに生き返ったんだよね。ありがとう、みほみほ。
そうだ、りっちゃんが、
「唯はワガママ言ったら駄目だぞ。そこにいる人達はみんな、唯のために頑張ってるんだからな」
って言ってたから、みんなが心配しそうなことは言わないでおこう。
みんなから一杯聞いて一杯知ったけど、わたしじゃそれをどうしたらいいか分からないし、
そもそもそれがどういう意味を持つのか分からない。
全部みほみほやヴァンさんに伝えた方がいいのかも知れないけど、
さっき伊達さんに、あずにゃんからの伝言をなんで知っているのかって言われたときに説明したら、
みんなちんぷんかんぷんだって顔してたし、どう伝えたらいいのか分からない。
●
それに覚えた事だって、ずっと覚えているわけじゃないみたいだ。
それが分かったのは教会に着く、ちょっと前。
森の中の小さい小屋を見た時だった。
そしたらなんか、見えないものが見えた。
わたしと同じくらいの身長で、可愛くて優しそうで可愛い子。
あれは忘れもしない。
ういだ!
ういー、って言って手を振ろうとしたけど、
あれが幻だってことは、さっきみんなに教えて貰ったんだった。
良く分からないけど、ちょっとした拍子で記憶が表に出てくるんだって。
写真を見たときに、その時のことを思い出す感じみたい。
小屋の中にわたしと同い年くらいの女の子と一緒に入って、
その子はういを後ろから鉄砲でバン!って撃った。
でもういは死ななくて。
駄目だよ、うい。
そんな事しないで。
ういは優しくて可愛くて、胸がわたしより大きくて、気が利いて、
ちょっと練習しただけでギター覚えちゃう凄い子なのに、
殺されそうになったから、ちょっと気が立っただけでしょ?
そんな黒いナイフなんて持たないで。
怖い顔しないで。
その子は口から血を吐き出しながら、ういを恨めしそうに見つめる。
その子の走馬灯が見える。全部みほみほとの思い出だ。
●
ごめんなさい、みほみほ。
ういが、わたしの妹があなたの大事な人を殺しました。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
わたしはぎゅっ、と前にいるみほみほの身体を抱きしめた。
みほみほに謝らなくちゃ。
でもどうやってこんな事伝えればいいんだろう。
わからないよ。
みんなにどうしたらいいのか教えて欲しかったけど、それももう駄目みたいで。
わたしはみほみほの背中に顔を押し付けて、ごめんなさいって言うしか出来なかった。
みほみほはわたしをすっごく心配して、すっごく無理をしているというのに、
わたしはみほみほに心配だけ一杯させて、しかもういがみほみほの大切な人を殺しちゃって。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。どうすればよかったんだろう。
どうしたらいいの、みんな。
そう思って辺りを見回す。
すると、教会が見えた。
わたしは気を取り直して、教会を指さし、あそこが神様に祈る場所だよって教える。
そうするとまた幻が見える。
●
教会にはりっちゃんがいて、他にも二人、男の人と、綺麗な人がいて。
そこに澪ちゃんと白髪の人が入ってきた。
白髪の人はふらふら歩くと、あっさりと綺麗な人と男の人を殺して。
りっちゃんは一杯抵抗していたけど足を斬られて。
首を斬られた。
●
もうイヤだ。
我慢するのはもうイヤだ。
なにも知らないのに、みんなが死ぬのが、もう我慢出来ない。
みんなに迷惑を一杯かけちゃうかも知れない。
でももうこんなのは我慢出来ない。我慢出来ないよ、りっちゃん。
■
そんな時、遠くから歌声が聞こえてきた。
もう、一声聞いただけで分かる。
綺麗な長音と発音と、凄くうまいベースと相まってすごくうまい。
こんなの聞き間違いようがない。
澪ちゃんだ。
澪ちゃんが凄く悲しい気持ちで歌っている。弾いている。
もうどうにも止まれなかった。
澪ちゃんを助けたい。
そこにいるって分かっているのに、我慢するなんて出来るはずがない。
だからわたしはこう言うんだ。
「闘技場に行こう!ヴァンさん、みほみほ!」
◇
平沢唯の真剣なまなざしと口調に、福路美穂子はあっさりと翻意した。
元々平沢唯の意志を尊重すると決めていた彼女にとって、
この真っ直ぐな意志は非常に喜ばしいものだった。
まるで初めて立ち上がった我が子を見るような眩しい目つきで、
福路美穂子は平沢唯に微笑みかけながら「行きましょう!」と息巻いた。
「俺は反対だ」
ヴァンはそう告げた。
「それじゃあいつの意志を無にしちまうだろ。
俺はその為にお前らにわざわざついて来てんだ。
だから、そっちに行くってなら、俺は外させてもらう」
福路美穂子も平沢唯も、それは覚悟の上だった。
平沢唯に至っては一人でも闘技場に行く腹積もりだった。
だからヴァンを引き止めることはしなかった。
「じゃあお別れですね」「ヴァンさんバイバイ」
そう言って二人は西、つまり橋に向かう。
ヴァンも背中を向けて立ち去るつもりだった。
でも少しは引き止めてもらうつもりだった。
(おいおい、お目付け役だぜ、俺。
その俺が別れるって言ってるんだから、もう少しは引き止めてくれたっていいだろ?
なんであっさりバイバイとか言ってるんだよ、お前ら!)
ヴァンは、なんかイライラしてきていた。
(そもそも南っていうやつは俺が最初に行きたかった方向じゃなかったのか?!
なんで俺はわざわざあいつらと別れてまで北って奴に行こうとしてんだよ?!
ああああああああああああああああああああああ!!チックショオオオオオオオオ!!)
「おい、お前ら!さっさと南行くぞ、南!」
そういうとヴァンは180度回頭して、真っ直ぐ南を目指す。
控えめに言って疾風のように。見た目ズッパリ言えば単なる暴走。
「ヴぁ、ヴァンさん?!そっちは危険だって、さっき言ったばかりです!」
真っ直ぐ南に向かえば、そこは政庁。
第二回放送を聞いた福路美穂子が、まず近づいては危ないと判断した、
立ち入り禁止エリアと河で挟まれた危険地帯。
それ故、福路美穂子は来た道を引き返して橋を渡り、それから南下するつもりだった。
それが一人のバカの暴走で、おジャンである。
福路美穂子は仕方なく南に進路を取り、何とかヴァンに追いついた。
もう隠密しながらの移動もなにも無くなった。
ドドドドドドと馬蹄の音が辺りを震わせる。
「なんで真っ直ぐ南に行ってるんですか?!」
「だって俺が行きたかった宇宙開発局への通り道だろうが!
それにギャンブル船を通る通り道だろうが、こっちは!」
福路美穂子はなんの冗談だろうと首をかしげ、あるバカバカしい仮定に行き着いた。
「まさか地図の下と上がつながってるとか思ったんですか?」
「あぁ?!違うのか?」
「あ、わたし知ってるよ!TRPGの地図とかそういう風になってるよね!」
そんな感じで二つの騎影と三人は一路南を目指す。
その先でなにが待ち受けるているのか、まだ三人は知らない。
【D-5西部川沿い/一日目/午後】
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、健康だが心音停止
[服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない
[装備]:レイニーデビル(左腕)、大包平@現実
[道具]:支給品一式、童子切安綱@現実、燭台切光忠@現実、中務正宗@現実、雷切@現実、和泉守兼定@現実
[思考]
基本:唯ちゃんを守る
0:闘技場を目指す
1:唯ちゃんの意志を尊重というか優先というか、それを大前提として行動する。
2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。
3:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい
4:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す
5:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す
6:
阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
7:
張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える
8:トレーズと再会したら、その部下となる?
?:唯ちゃんを独占したい。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※
ライダーの名前は知りません。
※トレーズがゼロの仮面を持っている事は知っていますが
ゼロの存在とその放送については知りません
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています
※
浅上藤乃の外見情報を得ました
※自分が死亡もしくはそれに準ずる状態だと認識しました
※
織田信長の外見情報を得ました
※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。
【黒の騎士団の服@コードギアス】
黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム
超ミニスカ
【ヴァン@ガン×ソード】
[状態]:健康、ダンを奪われた怒り
[服装]:黒のタキシード、テンガロンハット
[装備]:ヴァンの蛮刀@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式、調味料×大量、徳用弁当×6、1L入り紙パック牛乳×5、伊達軍の馬
[思考]
基本:ダンを取り戻す
0:宇宙開発局に行くついでで、こいつらと一緒に闘技場に行く。
1:その後また宇宙開発局を目指す。
2:その後ギャンブル船に行く。
3:機械に詳しい奴を探す
4:向かってくる相手は倒す
5:
上条当麻を探して殴る
6:主催とやらは気にくわない
[備考]
※26話「タキシードは明日に舞う」にてカギ爪の男を殺害し、皆と別れた後より参戦。
※ヴァンは現時点では出会った女性の名前を誰一人として覚えていません。
※死者が蘇生している可能性があることを確認しましたが、結論は保留にしました。
※エスポワール号が闘技場と宇宙開発局の延長線上にあると思い込んでいます。
☆
積み重なる膨大なる資料と映像に埋もれながら、私は美麗なる顎をつかみながら思案する。
「平沢唯。やはり繋がっていたか」
アカシックレコード。
過去から未来に到るまでの全てを収めた記憶装置。
この世の全てを手にいれることが出来ると言われる存在。
遥かに矮小ではあるが、平沢唯はそれを手に入れた。
記憶装置に封じられた対象はおそらく、この島に存在する全参加者。
もっと言ってしまえばダミーでない首輪を身につけた、この島にいる全参加者といえばいいのか。
平沢唯の会話を分析した結果、死者に関する情報に関しては
ひときわ色濃く彼女自身の中に封じ込められていると見られる。
一時はトランザムバーストなる現象により、
周囲の人間全ての深層心理に到るまで把握したのかと思った。
だが、どうやらそれだけに留まらない彼女の知識範囲に、
私は第二回放送直後からずっと、彼女と、その周辺に起きた出来事に取り掛かっていた。
そして導き出された答え。
それが《アーカーシャの剣》、アカシックレコードである。
「まさか神根島に、このようなオカルティズムの極致が隠されていたとは…
いやはや、やはりどんな秀逸なフィクションも、現実には勝てないな」
膨大なる記憶媒体が積まれた資料室。
ここには呼び出された参加者の、全ての世界のすべての資料が山と積まれている。
それらの資料をひっくり返して得られた結論が、まさか自分の世界由来の装置とは思わなかった。
ヒトの脳は、想像もつかない事柄を、持ち主に理解させやすい形に変えて伝達させる。
卑小な例だが、ガンダムを見たものがそれを「KMFのようなものか」と判断する、そのようなものだ。
平沢唯は眠りの最中、トランザムバーストにより作動した思考エレベータに接続し、
生も死も関係なく、この島の参加者の思考に干渉することによって膨大な情報を手に入れた。
それを彼女の脳は、死者との対話という形で彼女に理解させたわけだ。
「もしくは本当に、死者達を閉じ込めた空間があるのかも知れないな」
戯れ言だな。私は自分で言ったおとぎ話を、鼻で笑って否定した。
死んだ人間が、何かを語ることなどあろうはずがない。
Cの世界?そんなものはまやかしだ。ラグナレクの接続?狂人の考えだ。
我が皇帝陛下も立派に人の子。子供騙しじみた妄想に振り回された哀れな道化に過ぎなかった。
それにしても疑問なのは、アカシックレコードにこの島の記憶しかなかったことだ。
それがアカシックレコードであるのならば、この世界のすべての記憶が存在して然るべきだ。
ならばこの世界は、このゲームのために生み出されたのだとでも言うのだろうか。
部屋に山と積まれた資料群を見る。ゲームが始まって以降の記録が、ここには残されている。
おそらくはゲームが終了するまでここに蓄積されて行く記録。
つまり創世と黙示の物語がここに綴られるわけだ。
―まるで一個の魔道書だな。
そう想いを馳せて、平沢唯も一つの魔道書と化したのではないかと想像した。
インデックスという少女は103000冊の魔道書を内封しているらしい。
ならば魔道書一冊をその身に刻まれた少女が居たところで、別におかしい話ではあるまい。
「もうしばらく調べる必要がありそうだな」
さて、この調査結果をどうするべきか。しばらく考えて、これは私の胸の内に秘めておくことにした。
どうせ平沢唯では、この膨大なる記憶情報をどうにか出来るわけもあるまい。
全てを知りながら、それを活用する術を知らない。
いわば『全知無能』、それが彼女だ。エピメテウスと言ってもいいかも知れないな。
もし神のごとき知略の持ち主が平沢唯を手に入れたら…まぁ考えたところで仕方ないだろう。
なにしろ、暴虐の嵐そのものが彼女に迫っているのだから。
全ては無為なのだ。私
ディートハルト・リートの為すことも含めて全て。
☆
【平沢唯@けいおん!】
[状態]:健康
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)
[装備]:
[道具]:武田軍の馬@戦国BASARA
[思考]
基本:みんなでこの殺し合いから生還!
0:澪ちゃん待ってて。今行くから!
1:誰かが知らない所で死んだりするのは、もう我慢出来ないよ!
2:憂、なんであんなことしたの…?
3:みんなから聞いた話、だれかに伝えられたらいいなぁ……
4:魔法かあ……アイスとかいっぱい出せたらいいよね……
[備考]
※
東横桃子には気付いていません。
※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ
※浅上藤乃と眼帯の女(ライダー)の外見情報を得ました
※第二回放送までに命を落とした参加者(死亡前に消滅したアーニャを除く)の記憶を得ました。
※第二回放送までに島で起きたほぼ全ての事象を、知識として得ました。
※上記二つに関しては知識としてのみ蓄積されている為、都合よく思い出せない可能性があります
◆
そろりそろりと近づくバーサーカーの耳に歌が聞こえる。
これは戦賦(いくさうた)。
古代において英雄の戦いを綴った、吟遊詩人たちの歌。
誇り高き戦士たちを鼓舞する、戦いの歌。
はるか古代の栄光を、凱旋する自らを讃える戦賦。
硝煙と爆音。
憎悪と闘争心。
戦賦と栄光。
それらすべての坩堝たる円形闘技場。
ここが次の戦場か。
吟遊詩人に戦賦をもって迎え入れられる光栄を、
狂気に縛られたこの身が受けられるとは。
目前に迫った戦いと光栄にバーサーカーは身を震わせ、
またそろそろと誇りと興奮をもって歩を進める。
決戦の時は、近い。
【E-4北部/一日目/午後】
【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(中)、狂化
[服装]:全裸
[装備]:長曾我部元親の碇槍@戦国BASARA、武田信玄の軍配斧@戦国BASARA
[道具]:無し
[思考]
基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。
0:闘技場に向かう
1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、その力を示す。
2:
キャスターを捜索し、陣地を整えられる前に撃滅する。
[備考]
※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3は使い切りました。以降は蘇生不可能です。
・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。
現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works
おもちゃの兵隊、ドラグノフ、大質量の物体、一定以下の威力の刃物、GN粒子を用いた攻撃、輻射波動、ゲフィオンディスターバー
※狂化について
非戦闘時に限り、ある程度の思考能力を有します。
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最終更新:2010年03月25日 18:12