贈る言葉 ◆LJ21nQDqcs
わたし、
福路美穂子は木陰で、未だ寝ている唯ちゃんを涼ませていた。
燦々と降り注ぐ陽の光は容赦なく大地を照らし、照り返しで地面そのものが眩しいくらいだ。
膝枕されている唯ちゃんは、時々誰かの名前を呟いているようだが、嬉しそうに微笑んでいる。
夢のなかでお友達と会ってるのだろう。
私は唯ちゃんの髪を撫でながらも、自分の中に嫉妬があることを否定出来なかった。
伊達さんは、片倉さんを前に胡座を組んでいる。
掛ける言葉も、何かしてあげることも、私には出来なかった。
逃れようの無い罪、そのものを目の前に突きつけられて、動揺していたと言うのもある。
だから放送まで一人にさせてくれ、という伊達さんの言葉は私にとっても有り難かった。
伊達さんの気持ちを置いて、唯ちゃんにかまっている私は、やはり酷い人間だと思う。
冷たく厳然とした死という現実から逃れて、
暖かい、生命そのものとも言える唯ちゃんに逃避していた。
逆に言えば唯ちゃんが居なければ、わたしはどうしようもなく泣き崩れていたかもしれない。
わたしは、少なくとも泣いて時間を浪費するよりは、唯ちゃんを気遣っている方が前向きであり、
ややマシな時間の使い方だ、と自分を騙していた。
ヴァンさんは、といえば腰を曲げながら、何をするでもなく帽子を胸に立ち尽くしていた。
わたしや、おそらく伊達さんからしてみれば重大事ではあるが、
傍から見ればやり過ごすべき茶番なのだろう。
ある意味、この場で誰よりも放送を心待ちにしているのかも知れない。
それにしても、
『ヴァン』
船井さんが注意するべきと言っていた14人の内の一人。
ヴァンさんで三人目ではあるが、その三人全てがやはり超人的な身体能力の持ち主だった。
恐ろしい
明智光秀、瞬烈なる二連撃を見せた伊達さん、落馬しつつも怪我一つないヴァンさん。
ことに伊達さんの懐の広さは驚嘆に値する。
どう見ても異形のわたしをあっさりと受け入れ、超人であるヴァンさんもすんなりと引き込んだ。
それはわたし達がどんなタイミングで翻意したとしても、
十分に対処出来るという自信の裏返しとも言える。
突き抜けた強さとはそういう事なのだろう。
片倉さんを殺しながら、わたしを捨て置いた、あの眼帯の女もそう。
絶対的な力の差があるからこそ、わたしは見逃されたのだ。
いつでも殺せるから、と判断して。
明智光秀にしてもそうだろう。
闘技場から逃げるわたし達を追うことは、いくらでも出来たはずだ。
神様から貰い受けた"左腕"をもってしても、それだけのアドヴァンテージが、彼にはあった。
二人とも、いずれ遭遇した時、また見逃してくれるとは思えない。
生死は彼女と彼の胸先三寸であり、わたしなどはその荒波の中でさまよう一葉に過ぎない。
力が欲しい。
やはり、そう思わずには居られない。
力があれば、伊達さんのように泰然自若としていられるというのに。
こんな風に心を乱すこともなくなるだろうに。
華菜を、上埜さんを、片倉さんを失わずに済んだというのに。
そしてわたしが渇望し、唯ちゃんが熟睡し、伊達さんが胡座をかき、ヴァンさんが立ち尽くす中、
第二回定時放送が始まった。
■
出だしは前回同様、機械的すぎる少女の声から始まった。
ここまで感情を殺すことが出来るのだろうか。
最初の、あの龍門渕の部長さんが殺された放送の時、
遠藤という人は【人質】【ゲスト】などと言っていた。
インデックスと名乗る、この少女のことを【ゲスト】と読んでいたが、
この感情をなくした様子を見るに、わたしから見たらどう考えても【人質】に他なら無い。
拘束するのに面倒が無いよう、従順にするために感情を消したのかも知れない。
そう言えば船井さんは、闘技場の控え室でどうやらわたし達に薬を盛る予定だったようだ。
あの時、
琴吹紬が事を起こさなかったら、もしかしたらわたしや唯ちゃんも、
あのように感情を殺され、船井さんにいいように使われていたのかも知れない。
わたしはどうでもいいが、唯ちゃんが利用されるのは我慢がならない。
やはり船井さんは殺されて当然だった。同情する余地は全く無い。
思考をたぐらせていると、進入禁止エリアが読み上げられる。
【A-2】【C-7】【D-6】
地図に書き込む。今回は前回と違い、施設は禁止エリアに入っていない。
ただD-6はホームがあり、これから列車を利用する際に不便が出るだろうことは予想出来る。
それにしても列車は復旧するのかしら?随分長いこと止まっているけど。
また、河を挟んだ向こう側、東側の真ん中を横切る形で禁止エリアが広がったので、
東側の南北に人が大移動するかも知れない。
D-5、E-5、E-6は回廊になった為、もしここで待ち伏せされた場合はかなり危険だろう。
この3エリアには近づかない方が無難と言える。
それにしても7×7の49エリアしかないのに、毎回の放送で3エリアも立入禁止になるとは。
たった二回の放送で禁止エリアは、かなり面倒な配置になった。
最終的には第16回放送、四日目の終わりには最後の1エリアで決着する形になる。
それまでに何としてでも、このくだらないゲームを止めなくては。主催者を殺さなくては。
そして死亡者が読み上げられて行く。
特に断りが無いので、おそらく第一回放送と同じく死亡順なのだろう。
船井さんと琴吹紬の名前が読み上げられた後に、三名の名前が続いた。
あの凶事から一時間も経っていない。
残り人数が激減しているというのに、死亡者数が変わらない。
つまり殺人ペースは確実に早くなっている。
均衡が崩れつつあるのだろう。
「注意するべき14人」も4人死んだ。
ここに居る伊達さんとヴァンさん、明智光秀を除けばあと7人。
超人14人が互いに殺し合っているのかも知れない。
B-3の城を崩した人も、その中に居るのかも。
あのようなパワーを叩きつけられたら、わたしなどは苦も無くこの世から消滅するだろう。
天江衣、
東横桃子、
阿良々木暦、
張五飛、平沢憂、
秋山澪
そしてあの人の名前は呼ばれなかった。
ホゥ、と一息つく。
唯ちゃんの妹である憂さんが無事なのは良かった。
田井中律、琴吹紬の二人を失い、秋山澪があのような状況にある以上、
憂さんの無事は唯ちゃんにとって一番の関心事に違いない。
わたしは自分の事以上にそれが嬉しい。
それにしても深堀さんが姿が見えなかったと言っていた、東横桃子はともかく、
肉体的には脆弱な子供のそれでしか無い、天江衣が生き残っていたことは意外だった。
わたしも唯ちゃんも秋山澪も、神様から貰ったこの"左腕"が無ければきっと死んでいた。
力の無いものがあっさりと死んでしまう。それがこのくだらないゲームだ。
ならば、天江衣はなにか強力な力を手にいれたのか、
それとも強力な庇護者を味方につけたのか。
あの悪夢のような場の支配を思い出す。
華菜を徹底的にいたぶったあの支配が、もし洗脳などに使えるのであれば。
投薬の必要もなく人を操れるのだとしたら、それは本当に悪魔のような力であろう。
そして、インデックスと名乗る少女は言葉を閉じ、マイクが切り替わる。
前回の放送と同じく、遠藤という男ががなりたてるのだろう。
あの不愉快な声は耳に障る。しかし放送には有為な情報も多い。
聞きそびれ無いようにしなくては。そして男の声が響きわたる。
■
『おおっと……! 待ってくれ、まだ終わりじゃないぞ……!
こんにちは、諸君!
遠藤勇次だ……!』
ドクン
「え?」
脈打つはずの無い、わたしの身体に鼓動が響き渡る。
ドクン
違う、脈動は"左腕"。
そこから血が一斉に送り出されて
心臓が
いや!やめて!わたしはそんな事望んでいない!
ドクン
【 殺 す 】
"左腕"が一気に膨張する。振動する。鼓動する。
それにつれてわたしの身体も、黒い鼓動によって衝動が突き上げる。
そうだ。
主催者は殺さなくてはならない。
このゲームは殺さなくてはならない。
そう誓った。
そう願った。
それがわたしの望みだ!
「うああああああああああああああああああああああああああああ!!」
抵抗と歓喜と恐怖と殺意と諦観と興奮と絶望と。
全て渾然一体となったわたしの絶叫は、伊達さんやヴァンさんを振り向かせた。
■
ヴァンさんや伊達さんが、どうしたんだと近寄ってくる。
駄目。
近づかないで。
わたしは今わたしじゃない。
だってこんなにも誰かを、今すぐ殺したくなっている。
何かの拍子で溢れ出した殺意が、周りの全てを蹂躙しようと奔走しようとしている。
どうやらその殺意の根源である"左腕"を必死に抑えるが、
そもそもわたしの身体が、わたし自身が殺意の塊となっている。
とても抑えきれるものではない。
そうか。
この"左腕"は神様からの贈り物なんかでは無かった。
それとは真逆の、あぁ、卑しいわたしにはむしろ相応しいではないか。
これは悪魔だ。
人を騙し、人を欺き、人心を惑わし、混乱をもたらす。
その為にわたしを生かしていただけだ。
滑稽な操り人形。
それがわたしだ。
このままでは唯ちゃんを守るどころか、重石にしかならない。
最悪わたしが唯ちゃんを殺すことになりかねない。
駄目だ。
それだけは駄目だ。
わたしが全てを失って、そしてようやく掴んだ希望を、
わたし自身が摘んでしまうだなんて、そんな馬鹿なことが、あっていいはずが無い。
まだ自由がなんとか効く右腕で傍らにある刀を鞘走らせる。
思考に雑音が混じる。
『殺ス』
駄目だ。殺すのは、殺されるのはわたし自身だ。
『殺ス殺ス殺ス』
違う。この殺人衝動をこそ殺す。
『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』
嫌だ、殺したくない!
『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』
今すぐ刀を首に押しあてなければ。
『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』
早く!早く!
『殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス』
ごめんね、唯ちゃん。わたしは馬鹿な人間でした。
あたなのように太陽のような、全てを照らす人と一緒に居られなくて当然な、
馬鹿な、滑稽な、人間でした。
だから
「殺ス!」
わたし自身を!
◇
だりぃ。
馬に騙されて、ダンにも会えずに、死体と一緒に旅をして。
そんで振り落とされて、地面を転がって、身体起こしたらしんみりした雰囲気。
弔いっていう神聖な時間は結構だ。
だが俺も急いでいる。
はええ所宇宙開発局やらに行って、ダンを取り戻さなきゃならねーんだ。
まぁこのなんとかいう旦那も、どうとかいう女も、悪い人間じゃなさそうだし、
俺を騙した馬にも天誅やったみたいだから、いちいち邪魔をする気はないが。
あ~、陽が照りつけてあちぃ。
しかし、一本しか無い木陰を占領するとか、この女もなかなかいい度胸してやがるな。
寝てる人間を陽に晒しちゃそりゃまずいがよ。
時々扇いで風送ったりして甲斐甲斐しいなぁ、おい。
気がつきゃあ、俺をほっぽり出した馬の野郎も起き上がってやがる。
まだ気が収まらねぇから、あとでしめておくか。
お、放送が始まった。
これが終わったら、そろそろお暇するか。
14人か、結構死んだな。
胡座かいて座ってる旦那がなんとなく反応したみてぇだが、俺には関係ない。
さて、行くかってな具合でディバッグを拾った、その時に異変は起こった。
「なんだぁ、こりゃ」
風が逆向きに吹いている。
つーか一点に向かって集まってきてやがる。
一点。
つまりあの女のところへ。
どういう理屈かを考えるのは苦手だ。
ただこれがやばい事態だってのは分かる。
どんどんと、あの女の左腕が異様なパワーを蓄えてるのが分かる。
「こりゃすげぇな。力とパワーとストレングス、三つ全てを兼ね備えようとしてやがる」
「それ全部同じですよね」
やかましい!と言おうと横を見ると、なんだ馬か。
「馬だけに馬いツッコミ。なるほど、いい感性をしてますね」
「ごちゃごちゃうるせェ!」
見ればあの女、殺る気満々の癖して、刀を自分の首に押し当ててやがる。
なんでこの島の女は、みんなめんどくせぇ奴ばっかなんだよ!
◇
あと一息で終止符を打てるという所で、わたしはヴァンさんの武器で右腕を拘束された。
絶妙な力の加減だろうか、右腕から刀がポロリと落ちる。
と、同時に背後から伊達さんがわたしを羽交い締めにする。
だが"左腕"はわたしの意志を既に無視して、悪あがきを続ける。
二人が何事かを叫んでいるようだが、"左腕"を抑えこもうと集中するわたしの耳には入らない。
ヴァンさんが今度は"左腕"を拘束しようと武器を飛ばす。
しかし"左腕"はヴァンさんを一本釣りし、投げ飛ばした。
わたしの意志は、既にわたしの身体の中に閉じ込められていた。
もはやわたしは自分で体を動かすことも出来ないのか。
これではもう、私は死んだも同然なのではないのか。
いや、それ以前に闘技場で毒を飲んだ時、わたしは死んでいた。
ならば今のわたしは残滓でしか無い。
あぁそうだ。わたしは既に死んでいたんだ。
伊達さん、もう手加減せずにわたしの首をへし折って下さい。
わたしは既に死んでいるんです。
これ以上、生きている人たちに迷惑を掛けたくない。
だから、唯ちゃんを誰にも渡したくないから、みんな死んで下さい。
そうだ、みんな死んでしまえば、唯ちゃんはわたしだけのものになる。
そうすれば、
?!
まさか。
まさか、わたし自身が望んでいたというの?
参加者全てが死ぬことを。
第一、唯ちゃんをわたしだけのものにしてどうしようというの?
分からない。もう、自分自身すら分からない。
もうイヤだ!
上埜さん、華菜、片倉さん、
わたしを助けて!
こんなわけの分からない心のまま、死にたくない!
◇
チッ、なんてぇ力だ。
本気出したら対抗出来なくもねぇが、俺は引っ張られるままに空中に放り出された。
旦那が羽交い絞めにすることで、ほぼあの女の動きは止められているが、
それだけでどうやら手一杯のようだ。
人ひとりを傷つけずに拘束するのは、結構な力量差が必要だからな。
ましてや頑丈な野郎相手ならいいが、どうみてもあの女は体自体は普通の女だ。
旦那が遠慮して本気を出せないのも仕方のない話だろう。
こうなったら、この隙にあの女の意識自体を断ち切らねぇといけねぇか。
とりあえず、着地せんとっと思って足元を見ると、あのバカ馬が落下地点に居やがる。
いいタイミングだ。
人馬合体!
「気がきくな!ただの喋る馬じゃないな、お前」
「こういう無茶なことする人には慣れてますから」
「よし、んじゃいくぜぇ!」
無茶な機動と軌道で、無駄にものすごいスピードを出して突っ込む。
狙いは羽交い締めにされて、無防備に頭上を泳ぐあの女の左腕!
どうやらあの異形は頑丈っぽいし、なんだか分からねぇが危ないっぽいからな!
「チェストおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ものすごい速さと、俺の力によって、蛮刀は白銀の閃光となって炸裂する!
ゴィンという間抜けな音とともに、女の左腕をぶっ叩く。
その衝撃か、女の動きは完全に停止したように見える。
ふぅ、と一息つく。どうやらこれでなんとかなるだろう。
と思って正面を向くと。
樹。
馬が急停止した反動で前方に放り出された俺は、そのまま樹に激突した。
このバカ馬、やっぱり許さねぇ!
◇
「Shit!全く、揃いも揃って気を失いやがって」
俺は軽く肩をすくめて両手を上げる。
平沢唯、福路美穂子、ヴァン。
三人全員眠っちまってちゃ、俺が光秀の野郎を追えねえじゃねえか。
この福路美穂子って娘は少しはしっかりしていると思ったら、いきなり暴れ出しやがるし。
まったく
神原駿河といい、福路美穂子といい、バテレンの娘はワケが分からねぇ。
しかも左腕に変な装飾でもするのが流行ってやがるのか?
それにしては平沢唯の左腕には何も無いが。
まぁ幸い、誰も近づいてくる気配も無い。
途中までだが聞いた放送の内容を思い出す。
「
真田幸村、
本多忠勝、か」
二人ともどこまでも真っ直ぐな愚直なまでの武将だった。
あいつらだったら主催に対して真っ向からぶつかっていくだろう。
そして、生き急いじまったか。
ことに幸村とは再戦も果たしたかった。
しかし、感傷に浸る暇はない。
元々独りだろうが、主催の野郎を倒すと決めている。
(ならどうして、この三人を見守っておられるのです?)
そりゃお前、害意を持っていない人間を、無駄に見殺しにする必要も無いからだろうが。
(あの福路美穂子は、明らかに害意を持っているように見えましたが)
お前が守った女だからな。突然暴れだしたことについても本意じゃあるまい。
小十郎、お前も思ってもいないことを俺に聞いてくるな。
ン?小十郎?
俺は自分の言葉に驚いて振り向く。
そこにあるのは小十郎の遺体のみ。
Ha!俺もやけが回ったか。幻聴が聞こえるだなんてな。
(幻聴じゃありやせんぜ、政宗様)
Okay。お前が言うんだったら、そうなんだろうな。
で、なんだ。死んですらも俺に小言を言いに来たのか。
(首輪のことです)
あぁ、胸糞悪いこの首輪か。
放送じゃ辺離加(ペリカ)ってえ金に替えられるとか言ってたな。
(政宗様。この小十郎の最後の頼み、聞いてくれやしませんか)
なんだ、埋葬してくれって言うのか?全くお前は足止めばかりさせるな。
そんなに光秀の野郎と戦わせたくないのかよ。
(いえ、僭越ながら、我が首級を上げていただきたいのです)
■
「Ha!お前の首を切ろだと?!そんな小銭にたかる餓鬼みてえな真似を
後の天下人たる俺にやれって言うのか?!」
Shit!幻聴だけじゃなく、幻視まで見えてきやがった。
土下座する小十郎の姿が奴の遺体に重なって見えやがる。
やめろ、そんなことをしても、俺がお前の首を切るだなんて、出来るはずないだろうが。
(既に死んで役立たずとなったこの身に、未だ政宗様の役に立つ価値があるのならば、
喜んで差し出すのが小十郎の忠義にございます)
「馬鹿野郎!そんな事までしなくていいと、いつも言ってるだろうが!
主に向かって自分の首を切れ、だぁ?斬られたいならな、戦場で裏切り者として斬られろ!」
「バカとはなんだ、バカとは!」
背後で怒号が聞こえたんで振り向いてみたら、なんだヴァンの寝言か。
余程言われ続けてるんだろうなぁ。まぁあんな気絶の仕方してちゃ、言われても仕方ねぇが。
(では聞きますが政宗様。あんたは配下の者が首を斬られても知らん振りする、
そんな情けねぇ主なんですかい?)
小十郎のいつもの小言、そんな時に発せられるいつもの挑発。
あいつは死ぬまでこの調子で、俺に小言ばかり言って、俺を困らせていた。
「んだとテメェ!俺は奥州筆頭独眼竜
伊達政宗だ!
この胸くそ悪ぃ島から出たら、すぐにでも戦国の世を統一してみせる男だ!
お前にゴタゴタ言われる筋合いはねぇ!斬らねぇものは斬らん!」
気宇壮大な夢を、それこそ俺の背となり脚となり支え続けた、小十郎。
そんな男の首を斬るなんざ出来るはずも無い。
(うるせぇぞ、藤次郎!あぁくだらねぇ!変なプライドばかりでかくて全体を見やしやがらねぇ!
こんな情けねぇ男に一生を捧げたのかと思うと、自分の見る目のなさと不運に涙が出らぁ!)
「あぁ分かった!斬ってやる!この不忠のコンコンチキ野郎!
死んで主君から見放されるなんざ、とんだ忠臣だ、お前は!」
小十郎が言うことはいつも俺と、俺の夢のためだった。
俺のPrideを崩してまで、お前の首輪に、首を斬ることに価値があるってんなら、
「Good-Luck、小十郎。面と向かって別れを言えるとは思わなかったぜ」
六爪から一振り抜いて構える。
(おさらばでございます。政宗様)
辞めろ、そんな顔で見るな。
幼少の頃よりつるんできた、お前との思い出が蘇るじゃねぇか!
想起される思い出を振り払うかのように、俺は丹田に力を集めて愛刀を振り下ろす
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
雷光が、大地を穿った。
◇
何分ほど気を失っていたのだろうか。
わたしは身体を起こすと辺りを見渡す。
まず最初に"左腕"を見る。
未だ異形の腕は私に生えたままだ。
その異形とわたしの上腕につながる一点に、あの人がつけた、あの人と過ごした証がある。
ちっちゃなちっちゃな、針の跡。
「存外、主張が激しいんですね、貴方」
くすりと笑って傍らを見る。
両隣で唯ちゃんとヴァンさんが寝息を立てているのを見ると、
どうやら酷い事にはならなかったのだと、胸をなでおろした。
しかし、最早わたしの存在は唯ちゃんの重石にしかならない。
唯ちゃん以外の存在を殺そうとする、あの衝動がまた何時襲ってくるか分からない。
何処か誰もいないところで、ひっそりと死のう。
唯ちゃんに気付かれないように。
「澪ちゃん」
唯ちゃんが寝言を呟く。
そうだ、どうせ死ぬなら、あの狂人から秋山澪を救い出して死のう。
それがせめてもの、唯ちゃんに出来る恩返し。
私に生きる希望と意味を一瞬でも与えてくれた、あなたに対しての。
伊達さんがわたしの方を振り向いて、あぁ起きたのかと声をかけて来る。
片手にはちょっと大きめの袋が。血が、滴っていた。
まさかと思い、飛び起きて片倉さんの遺体があった辺りを見る。
案の定、片倉さんは首を失って、指を組んで横たわっていた。
「まさか、片倉さんの首を切ったんですか?!」
分かりきったことを聞く。しかし聞かずにはいられない。
片倉さんが伊達さんを敬愛していたことを知っているからだ。
その忠誠に対して、この仕打ちはあまりではないか。
あぁ斬った、と伊達さんは応えた。
髪の毛が逆立つのを感じた。
片倉さんと過ごした六時間弱。
それは片倉さんにとっての最期の六時間でもある。
ほんの些細な時間ではあるが、それでもあの人のひととなりは十分すぎるほど伝わった。
誠実で真っ直ぐで、そして強くて。
こんなくだらないゲームで死んでいいはずの人でも、
ましてや、主君に首を斬られてぶら下げられるような人でも無い!
「なんでです?!片倉さんはあなたのことをずっと、ずっと支え続けていた人なのでしょう?!」
思わず食って掛かる。生殺与奪の権利は伊達さんが担っているというのに。
「あいつは俺の家臣だ。なら死んだあいつをどう扱おうと俺の勝手だ」
冷たく、伊達さんは言い放つ。
普段のわたしなら、その言葉の奥に潜む悲しみに気付けただろう。
いや、気づいていてもなお、言わずには居られない。
それが片倉さんに守られた、わたしの義務だ。
「だからって、そんな事して、片倉さんが喜ぶはずないです!」
「あいつが言ったんだよ、斬れってよ」
すかさず伊達さんが言う。
「Coolになれ、福路美穂子。お前は聞いてなかったかも知れないが、
首輪換金制度って奴が出た。他の誰かにこいつの首を渡すわけにもいかねぇ。
だったら俺が取っちまうのが、一番あいつのためになる。You See?」
遠藤なる男が話した瞬間、わたしの意識は混乱した。
だから遠藤の話を、私は全く耳にいれてない。
首輪換金制度。
確かにあいつらの考えそうな、ゲスな、最低なシステムだ。
片倉さんの首を他の誰にも奪われたくない、と言う気持ちも分かる。
わたしの怒りは憤りは急速にしぼんでいってしまった。
「I see」
そう呟くのが精一杯、だった
「Thank you、福路美穂子。その怒りはあいつの為だろう?主として礼を言っておくぜ」
あぁ、やはりこの人は大きい人だ。
わたしのような卑小なものの卑小な怒りすら簡単に抱き込んでしまう。
わたしは涙を流すしか無かった。
■
「それでどうするつもりだ、福路美穂子」
伊達さんが見た目落ち着いたわたしに聞いてきた。
わたしは先程の考えを打ち明けた。
我ながら捨鉢にも程があるとは思うが、唯ちゃんの負担になる自分を許せはしない。
だが
「そりゃ無理だろうな」
伊達さんはあっさりと言い放った。
伊達さんは整然とわたしの考えを崩していった。
ひとつ、光秀とわたしの実力差は明らかであり、
捨て身で行ったとしても秋山澪を救い出すなどと言う難事をこなせないだろうと言う事。
ひとつ、既に闘技場での凶事より二時間が経過しており、
光秀は既にその居場所を変えている可能性が高いこと。
ひとつ、一旦決めたことを勝手に変えるのは間違っていると言う事。
確かにそうだ。他人に言われると自分の浅慮が恥ずかしい。
ならばわたしはどうしたらいいのだろう。
「簡単だ。今まで通り、平沢唯を守ってギャンブル船に行けばいいだろう」
そうか。やはりそれしか無いのか。
自分の暴走が心配ではあるが、決めたことは最期まで貫き通さなければならないだろう。
「わかりました。伊達さんはどうなさるんです?」
「ちょっと待て。この島には光秀や信長、あの城をぶっ壊した奴まで居る。
その中をこのお嬢さんを守っていけるってな、本気で思ってるのかい?」
先程の提案をなにを覆そうとしているのだろう、この人は。
「さっき言っていたことと違うじゃないですか!わたしは唯ちゃんを守ります!」
なんだろう、さっきからわたしは怒りっぽくなっている。
「だから福路美穂子、お前独りじゃ無理だって言ってるだろ」
「無理でもやるんです!出来ようが出来なかろうが、守るって決めたんです!」
伊達さんは首をすくめた。
アメリカ人がよくやるポーズだが、戦国武将がやると違和感がものすごい。
「福路美穂子、Coolになれ。無理なことは無理と認めるのは恥じゃない」
「恥とか恥じゃないとか、どうでもいいんです!」
あぁ駄目だ。これって平行線だ。なんでこうなったんだろう。
わたしって、こんなに聞き分けの悪い人間だっただろうか。
「んじゃあよぉ」
不意に傍らで声がする。ヴァンさんだ。起きていたんだ。聞いていたんだ。
恥ずかしい。
「つまり旦那はこう言いたいんだろ?"俺が着いて行くから安心しろマイハニー"ってよ」
えーっと。
こういう時言う言葉って一つだと思うんです。
「「はぁ?!」」
思わずハモって言ってしまった。
■
結局の所、伊達さん自身は南下するらしい。
時間が経ったとはいえ、何らかの痕跡を見つけることは出来るだろうと言うことだ。
わたしは秋山澪の件を今一度頼み込み、ひとまず二手に分かれることにした。
ヴァンさんは変なことを言った責任を取る意味で、わたしたちと同行することとなった。
もしかしたらギャンブル船の景品に、ダンが居るかも知れないというと
何故かすごく怖い顔をして、同行することに同意してくれた。
さて、出発しようか、と言うところで唯ちゃんが起きてくれた。
まだ眠いのか目元をゴシゴシと擦る姿が愛らしい。
「ん~、おはようございま~す」
あくびとともに発せられた言葉は、私が忘れかけていた日常そのもので。
やはり唯ちゃんはすごいって、素直に思えた。
唯ちゃんは伊達さんの姿を見ると、急にかしこまって頭を下げた。
え?唯ちゃん、伊達さんのこと知っているの?
「筆頭さん、あずにゃんをありがとうございました」
言われた伊達さんも呆気にとられている。
どうやら面識はないみたいだ。
なら、どうしてだろう。寝ぼけているのだろうか。
「唯ちゃん、あずにゃんさんってもしかして
中野梓さんのこと?」
闘技場で聞いていた唯ちゃんの後輩の名前を出す。
「うん、真面目でね。すごい練習熱心なすごい子だよ」
「その梓と言う女と俺が、どんな関係があるってんだ?」
伊達さんは怪訝と言う言葉を形にしたような顔で、唯ちゃんに聞く。
「えと、あずにゃんにそう言われたから、言っただけで。
あ、宝石と綺麗な着物をありがとうって言ってました!」
言われて伊達さんは彼にしては珍しいだろうことに、驚きを隠そうとはしなかった。
「なんでそれを知っていやがる?!」
【C-4/北西/一日目/日中】
【伊達政宗@戦国BASARA】
[状態]:健康
[服装]:眼帯、鎧
[装備]:六爪@戦国BASARA
[道具]:基本支給品一式(ペットボトル飲料水1本、ガーゼ消費)不明支給品1(武器・確認済み)、田井中律のドラムスティク×2@けいおん!
[思考]
基本:自らの信念の元に行動する。
1:なんでそれを知っていやがる?!
2:闘技場を目指す。
3:小十郎の仇を取る。
4:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。
5:信長、光秀の打倒。
6:ゼクス、
一方通行、スザクに関しては少なくとも殺し合いに乗る人間はないと判断。
7:
戦場ヶ原ひたぎ、
ルルーシュ・ランペルージ、
C.C.に出会ったら、12時までなら『D-6・駅』、
その後であれば三回放送の前後に『E-3・象の像』まで連れて行く。
8:馬イクを躾けなおす。
[備考]
※信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点。長篠の戦いで鉄砲で撃たれたよりは後からの参戦です。
※長篠で撃たれた傷は跡形も無く消えています。そのことに対し疑問を抱いています。
※神原を城下町に住む庶民の変態と考えています。
※知り合いに関する情報をゼクス、一方通行、
プリシラと交換済み。
※三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、信頼出来る人間が集まる、というゼクスのプランに同意しています。
政宗自身は了承しただけで、そこまで積極的に他人を誘うつもりはありません。
※政庁で五飛が演じるゼロの映像を見ました。映像データをスザクが消したことは知りません。
※スザク、幸村、暦、
セイバー、デュオ、式の六人がチームを組んでいることを知りました。
※
荒耶宗蓮の研究室の存在を知りました。しかしそれが何であるかは把握していません。
また、中野梓の遺体に掛かりっきりで蒼崎橙子の瓶詰め生首@空の境界には気付きませんでした。
※小十郎の仇(
ライダー)・
浅上藤乃の外見情報を得ました。
※中野梓が副葬品(金銀・宝石)と共にB-3付近に埋葬されました。
※宝物庫にはまだ何らかの財宝(金銀・宝石以外)があります。
【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、健康だが心音停止
[服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない
[装備]:レイニーデビル(左腕)、大包平@現実
[道具]:支給品一式、童子切安綱@現実、燭台切光忠@現実、中務正宗@現実、雷切@現実、和泉守兼定@現実
[思考]
基本:唯ちゃんを守る
1:唯ちゃん?
2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。
3:みんなで神様に祈る場所を通って、ギャンブル船に向かう
4:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい
5:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す
6:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す
7:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
8:張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える
9:トレーズと再会したら、その部下となる?
?:唯ちゃんを独占したい。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
※ライダーの名前は知りません。
※トレーズがゼロの仮面を被っている事は知っていますが
ゼロの存在とその放送については知りません
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています
※浅上藤乃の外見情報を得ました
※自分が死亡もしくはそれに準ずる状態だと認識しました
※
織田信長の外見情報を得ました
※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。
【黒の騎士団の服@コードギアス】
黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム
超ミニスカ
【レイニーデビル@化物語】
魂と引き替えに三つの願いを叶える低級悪魔。
自らの意志は持たないが、所有者の表の願いの裏に潜む願いすらも叶えようとする。
叶えることが不可能と判断した場合、契約を返上する。
なお、福路美穂子の肉体は既に死亡しているが契約により生かされている状態である。
また、何らかの理由でレイニーデビルが去った場合、福路美穂子は死亡確定となる。
福路美穂子の願い
表1:平沢唯を守る
裏1:主催者を殺す(主催者の一人である遠藤の声に反応する)
【ヴァン@ガン×ソード】
[状態]:健康、ダンを奪われた怒り
[服装]:黒のタキシード、テンガロンハット
[装備]:ヴァンの蛮刀@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式、調味料×大量、徳用弁当×6、1L入り紙パック牛乳×5
[思考]
基本:ダンを取り戻す
0:なんで俺がついていかなきゃならねぇんだよ?!
1:また宇宙開発局を目指す
2:機械に詳しい奴を探す
3:向かってくる相手は倒す
3:
上条当麻を探して殴る
4:主催とやらは気にくわない
[備考]
※26話「タキシードは明日に舞う」にて
カギ爪の男を殺害し、皆と別れた後より参戦。
※ヴァンは現時点では出会った女性の名前を誰一人として覚えていません。
※死者が蘇生している可能性があることを確認しましたが、結論は保留にしました。
※馬イクに騙されていることに気付きました。
【伊達軍の馬@戦国BASARA】
[状態]:イノベイターの兆し
[服装]:なし
[装備]:傷ついたゲイボルグ(メタファー)
[道具]:
[思考]
基本:ヒヒーン
1:アレ?声が出ない?!
[備考]
※バイクのハンドルとマフラーっぽい装飾類を失くしました。見た目では普通の馬と大差ありません。しかし、色々な意味で「馬イク」です。
※主催の調教の効果消失。乗せる人間をある程度選ぶようになりました。
※GN粒子の影響下において意思の交信が可能です。こちらが伝えようと思ったこと以外は相手に伝わりません。可能領域・限界時間については不明です。
※GN粒子の影響で身体に変化が起きました。少なくとも身体能力や新陳代謝は向上しています。
※女性によって急所に大ダメージを負った事で女性恐怖症になりました。
人の生死は、どの瞬間に決まるのであろうか。
現代医学においてすら、その境界線は定まらない。
死は誰の上にも降り注ぐものでありながら、その実態を知るものは誰ひとりとして居ないのだ。
平沢唯の身に起こった事態は、そういった神の領域での出来事。
だが、これは珍しいことでは決して無い。
臨死体験を経験した者は数知れず居るし、虫の知らせを経験したものも多いだろう。
これが平沢唯のただの夢であるか、完全なる予知夢であるか、
何らかの手段で得た魔術であるか、GN粒子なら仕方ないのか、
結界の歪みが生んだ結果なのか。
それは神のみぞ知る、もしくはのちの書き手さんのみぞ知ることなのだ。
【平沢唯@けいおん!】
[状態]:健康
[服装]:桜が丘高校女子制服(夏服)
[装備]:
[道具]:武田軍の馬@戦国BASARA
[思考]
基本:みんなでこの殺し合いから生還!
1:あずにゃんからの伝言も伝えたし、みほみほと一緒にギャンブル船にGOGO!
2:妹を探す。でもどんな状況にあるかはあんまり考えたくない……
3:澪ちゃんにまた会ったらどうしよう……
4:魔法かあ……アイスとかいっぱい出せたらいいよね……
[備考]
※東横桃子には気付いていません。
※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ
※浅上藤乃と眼帯の女(ライダー)の外見情報を得ました
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最終更新:2010年02月02日 21:39