亡国覚醒カタルシス ◆0zvBiGoI0k



ある、1人の少女がいた。

美しく、強い芯を持つ女性であった。

世界の誰もが平和であって欲しいと、人々は皆分かり合えると本気で信じ抜いていた。

空想でも、絵空事でも、その願いに間違いはないのだと常に訴え続けてきた。

彼女の元に賛同する者は国に、星に、宇宙に日ごとに増していった。

美貌か、気品か、思想の気高さか。人を惹きつけて病まない魅力を彼女は持っていた。

その願いを砕かんとするものは絶えなく現れた。

平等な地上、戦争が行われない世界。

中世より続く貴族主義、戦争行為による利潤を人は早々に手を切れない。

武器を取らず対話のみにより解決を図るその白い装束は幾度となく血に染める危機にみまわれた。

抗う者がいた。戦う者達がいた。

彼女の意志に共感し、彼女の思想に反していても、未来の為に戦い続ける者達がいた。

例えこの手を血に染め、修羅道に堕ち逝くとしても、

その道の続きに彼女がいれば、これ以上血に濡れる世界は来ない。

故に彼女の足元に汚れを残してはいけない。この血みどろの膿に近づかせてはいけない。







……いけなかったのに。

■――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ゼクスさん、どうなさいましたか?」

思考の隅よりかけられた声により意識が半強制的に引き戻される。

「お顔が優れませんけど、ひょっとしてどこか具合が……?」

視界には自分を心配そうに見つめるユフィ。そこに見せかけの善意の類は一切、ない。

「いや、大したことはない。これでも軍人だ、不眠不休など日常茶飯事さ。
こちらこそ済まないな、皇女に行軍などさせてしまって」

「いえ、お気になさらなくて結構です。こんな場所で皇女も一般人もありませんから」

「……そうだな、確かにその通りだ」

ユフィの言葉がゼクスに小さな、だが鋭い痛みを感じる。
そうだ、こんな、殺し合いの場では肩書きなど意味がない。どんな強大な権威も崇高な思想も無為に散る。

―――この思考はやめだ。底なし沼のように際限なく落ちていく。
悔恨の念に囚われ成すべき事を成せず無様に逝く等それこそリリーナに合わせる顔がない。
いや、彼女と違って自分は底に堕ちるか。地獄なんてものがあればの話だが。

グラハム達と一方的に別れ西の【B-4】駅へ向かうべく森林地帯へと入っていた。
森といっても都市の自然公園のような整備された人口樹林で根に足を取られることは無い。
それでも昼とはいえ木々が林立する場は身を潜めるには事欠かない場所だ。トラップの類も懸念される。
よって周囲と、背後の少女への警戒を解くことなくここまで歩いてきた。

「神聖ブリタニア帝国にKMF(ナイトメアフレーム)、黒の騎士団、仮面の男ゼロ……
どれも聞いた憶えがないな」

「私も政治にそれほど詳しいわけではないですけど、
OZやロームフェラ財団なんて聞いたことがないです。それに人が地球を出て宇宙に住んでるなんて……」

道中の途中ゼクスはユフィに簡単な世間話を持ちかけた。
談笑のような雰囲気にして友好的な関係になれば情報も引き出し易くなる。
それに身の上話程度でも大抵の素性や人となり、世界情勢は判別が出来るものだ。
いわば誘導尋問のような形には少々気が進まないが相手が最低1人、
最悪3人も殺した犯人という可能性を考えると警戒の念は捨て切れない。これが安全手だろう。

そしてユフィの話はゼクスの予想以上の成果を上げた。
2人の間で交わされた僅かな間の会話で生じた幾つもの常識的な範囲での食い違い。
やはりこの少女も異世界の住人という事か。しかも今まで自分が会った参加者とも違う新しい世界の。

(これで多くても10の異世界が存在することになるのか。
ここまで来ると私の知る以外の人間は全て異世界の者と考えても良いのかも知れんな。
1世界につき平均5人とすると、12か13か。
そして世界の数だけ異能と、技術がある。それらを有する者を全て集めれば首輪の解除も可能か……?)

衛宮士郎により首輪に科学的、それと異能に関する技術が使われてることを思い出す。
ならば双方の技術者、知識に精通した者を集めるのが自分の役目か。
分断したのは考えようによっては悪くない手だ。

2回放送時点での生存者は38名。その後直接死を確認した伊藤開司を抜けば最大でも37名。
そしてこれまで自分の出会った人間は約10人。
殺し合いに乗っている者は駅で見た2人組の女の強さを基準―――とするには短慮に過ぎるが―――
にして彼我のパワーバランスを考慮すれば、恐らく10人以下。
それらを抜けばあと10人は自分と会っていない主催への反抗、会場の脱出を志している参加者がいるだろう。

グラハム達もいつまでもギャンブル船に留まる訳にはいかない。
放送時に聞かされたペリカの存在。それに各地に首輪換金装置と共に自販機を設置したというが
品揃えはギャンブル船の方が豊富だというのは想像に難くないだろう。
参加者の殺害と武器の調達の一石二鳥。少なからず殺しを是とする者達が集まってくるだろう。
グラハム・エーカーならそれの可能性に気付く筈。会って間もないが彼の軍人としての能力は確かなものだ。
そして、それの根幹となる信念も。

「そしてこの場でゼロを名乗る者が殺し合いを扇動する宣言をし、
君はそれが偽者であると思っているのか?」

「はい、あの人はゼロじゃありません。本物は……ええと、彼が困ってしまうので口には出せませんが、
殺し合いを望むような人じゃないということは信用してください」

ユフィの語るゼロという殺し合いを扇動する存在はゼクスにとっても有益な情報だ。
そして彼女は本物の「ゼロ」を知り、それはゼロの名を騙る偽者という。
まだ不鮮明だが、今は信用しておこう。

「わかった。それと君の知り合いはアーニャ・アールストレイム
ルルーシュ・ランペルージ、それと、枢木スザクだったか」

「はい、ルルーシュは、すごく頭が良いんです。その分体は弱いですけど……
ちょっと危険なこともするけど本当はとても優しくて、強い人です。
スザクは、日本人だからもちろん……」

幾度も目にしたその反応。知人であっても変わらぬか。
呪詛にも似たその言葉を静かに聞こうとして―――





「………………違う。スザクは……ち……がう―――」

「――――――!?」

今までとは明らかに違う反応にゼクスも驚愕の念を持つ。

「スザクは―――ルルーシュの親友なんです……。今は、私の騎士で……私を守ってくれて……
一緒に、平和な世界に……しようって、約、束―――」

自分を強制する何かに必死に抗うように言葉を続けるユフィ。
途切れ途切れの、だがそれが彼女の本心だということに漠然ながら理解していた。

「知っている者以外に誰とも会っていないのかね?」

これ以上彼の話をさせるのは危険だ。早々に話題を切り替えるゼクス。

「……最初に会ったのは、槍を持って襲おうとした女の人と、それを助けてくれた男の人、
名前は聞きそびれちゃいましたけど。それとタキシードを着たヴァンって人、
あと……鎧を着たとても怖い男の人が襲い掛かってきて……」

そこまで言って言葉を詰まらせるユフィ。余程容赦が無かったのだろう。
鎧姿、というと伊達政宗と同じ戦国武将、とやらか。

「その男は名前を?」

「……いえ、急に刀を振り上げて来て……あの時アーニャがいなければ…………」

「……有難う。それで全員かね?」

問答無用で斬りかかったということはかなりの危険人物、政宗から聞いた織田信長
そして明智光秀の像がそれに当てはまる。

「はい、後は誰とも会ってません」

はっきりと嘘を突いた。開伺が最後に残したメッセージの痕跡がユフィの指に付着していることから、
最低限開伺のデイパックを拾ったことは間違いないのだ。
死体はカウントしていないとも言えるが彼女なら死者にも最大限の意を汲む筈だ。

(やはり……彼女は何者かに意志を歪められている可能性が高いな。
だが魔法に超能力、もしくは科学的な洗脳装置……選択肢はまだまだ多いな……)

ユフィと出合って以来ずっと浮かんでいたゼクスの疑問が氷解していく。
はっきりしたことは自分の前で振舞う姿はありのままの彼女だということだ。
断じて人を殺す側の人間ではない。
日本人のみが殺害対象というのは始めは反日の過激派か何かとも思ったが、
そういった選民的思想も感じられない。
これが演技だというのなら自分は人間不信障に陥ってしまうだろう。
だが残された証拠は全て彼女が犯人であることを告げている。少なくとも伊藤開司の殺害犯なのはほぼ確実とできる。

つまりはこれまでの交流で見せたユーフェミアの人物像と、
証拠や事実から導かれるユーフェミアの人物像にギャップがあり過ぎるのだ。

その乖離を埋める手段がある事をゼクスは知っている。
一方通行は超能力の中に人の思考や記憶を操る術があるといった。
魔術師だという衛宮士郎からは詳細は聞けてないがやはり同等の事は出来ると見ていいだろう。
自分のいた世界にも人の思考に干渉するシステムがある。他ならぬゼクスがその体験者の1人だ。

他者の考えを捻じ曲げる超常現象。優しき少女のユーフェミアと虐殺犯のユーフェミアとの間にあるミッシングリンク。



「あの、ゼクスさん」

「何かな?」

ユフィからの声に今度は余裕を持って応える。長く癖のある長髪が風に揺れる。
仕草にひとつひとつに気品があり育ちの良さが窺える。

神聖ブリタニア帝国第3皇女。世界の3分の1を支配する超大国。その言が事実ならまさに世界の覇権者に近い。
その皇位に立つ権利を持つ高嶺の花でありながら、他を見下さず、慈しみ、誰にも等しく接する。
弱者を守る為に自ら立ち向かう強く気高い精神力。多くの人間が彼女の道を信じ、守ってきたのだろう。
邂逅して間もないというのにそれが分かる。自分だからこそ理解が出来る。



「地球は―――綺麗でしたか?」

「―――え?」

思わず間抜けな声が出てしまう。それ程、彼女の質問は意外だった。
意外と思うほど当たり前過ぎた、というべきか。

「宇宙から見た地球は綺麗でしたか?私、いえ、私の世界で殆どの人は宇宙を知らないので……」

少し気恥ずかしそうに尋ねる少女。その姿は年相応の、未知なる物への好奇心が覗いていた。
その問いに己は答える。OZのゼクス・マーキスではなく、ホワイトファングのミリアルド・ピ-スクラフトでもなく、
地球に生まれた一人の人間として。

「―――ああ、綺麗だった。何度見てもその美しさには目を引かれ続けた。
どれ程時代が流れようと、星の外へ飛び出そうと、人は自分の生まれた故郷を忘れはしないだろう」

あの暗い空間の中に蒼く輝く光をゼクスは忘れない。
コロニーで生まれたとしてもヒトという種が、生命の起源を遺伝子で憶えているのだろうか。

だからこそ、それを独占せんとする者がいる。
地上を越え、宙(そら)の中まで続く闘争。
戦争・革命・平和の3重奏(ワルツ)は宇宙世紀に入っても終わり(フィナーレ)が見えない。

そのことはあえてユフィには話していない。星の海に憧れを抱く彼女の心を曇らせるのは、憚られた。
お互い生き残れても二度と会うことは無いだろう。せめて彼女の中だけでは美しい記憶として残っていて欲しい。
いずれその記憶の通りの世界になると信じて。

「……私の世界でもその景色を見れるでしょうか」

「見れるさ。その為に何としても君は生き延びなければならない」

それは2重の意味を込めて。
1つは文字通り生きて還ること。もう一つは彼女なら乱れた世界に柔らかな光を照らせるということ。



「……はい、そうですね!けどまずは行政特区で日本人を皆殺しに―――あれ?
ええと、そうじゃなくて、虐殺―――違う、その日本人をぶち殺す、いや―――」

突然、支離滅裂なことを喋り出す。無意識に口走ってしまう言葉を否定しようとして、
また自身の意思を無視して呂律が回らない。

「……ユフィ、突拍子もないことを言うが、」

「―――え、あ、ハイ!何ですか?」

再度会話を無無理やりに打ち切り話題を変える。だがその内容も今の問題の中で重要な意味を持つ。

「君の世界で魔法、超能力などが確認されているか?」

「魔法に、超能力……?いえ、そんなの全く……」

「そうか、変なことを聞いたな」

彼女の2面性の隔たりを魔法という存在で埋めれば、全ての辻褄が合うことになる。
ユフィは魔法を知らないようだが彼女が知らないというだけで事実は存在するという線もありえる。
とかく、魔法といったものは秘されるものが常だろう。
もし本当に彼女のいた世界に魔法や超能力の存在しない世界だったとしたら、そこでまた一つ問題が出てくる。

それでは、一体誰が彼女にそんな暗示をかけたのか?
それなら答えは単純だ。参加者の誰かだ。魔法か超能力、いずれにせよ洗脳技術に長けた者の。
名簿には日本人の名前が多く書かれていた。そこに目を付けて、無害な彼女に日本人を殺すよう仕向ける。
自分は守られる側として安全に行動し、勝手に人知れず邪魔な参加者を減らしてくれる。
彼女が死んでも自分には損失がない。
手段としては悪くない。下衆な、と付け加えるが。

もっともこれには異能を知る人間からすれば残された情報から犯人を特定できる要素が
多く内包されているのだが、それらに縁遠いゼクスには分からなくとも無理はない。

白でもあり黒でもある。何とも厄介な見解に至ったことに頭を悩ますゼクス。
それでも、どうにかして彼女の洗脳を解いてやりたいという考えは既に頭の中に浮かんでいた。

そこでゼクスはようやく気付いた。自分が彼女に強い関心を寄せている理由を。

(せめてもの罪滅ぼしに彼女だけでも救おうとしてるのか。私も情けなくなったものだ。
……いや、始めから情けなかったのだろう、私は)

ユーフェミアという少女に、妹の姿を重ね見ている。それを守ることで自分の咎を減らそうとしている。
我ながらなんと身勝手なものか。だがだからといって彼女を切り捨てる理由にはならない。
それが罪なら背負おう。罰なら幾らでも受けよう。
自分が背負った分だけ誰かの救いになるのならば、その身勝手にも価値はある。
我は風。地獄の業火に身を焼かれようと戦火を鎮める火消しの風なのだから。




◇――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




目的地の【D-4】駅には滞りなく着いた。
途中から現れたトンネルづたいに進み、木々に包まれひっそりと佇むホームへと足を踏み入れる。
改札口は停止しており何の手続きなしに進入出来た。
線路には電車が一つ置かれていた。周囲には何やら丸い球体が乗った機械が飛んだり跳ねたりしている。
どうやら車内を整備しているらしい。
近寄ると『ただいま予備車両の点検作業中、暫くお待ち下さい』と書かれた看板をぶら下げていた。
ホームに目を移すと電光掲示板には『D-6駅付近にて大規模な爆発が起こったため復旧に更なる時間が掛かります』
と表示されていた。
あそこで再び戦闘が起こったのか。分かれた一方通行らの身を案じつつひとまず4時までは待つことにした。

「暫く休んでいてくれ。私は他にも誰かいないか調べる」

「はい。……あら?これは……」

水を取ろうとしたのか、デイパックに手を突っ込んだ手には、ぎっしりと札束が握られていた。

「……驚いたな。どうしてそんな大金を?」

「分かりません。気付いたら中にたくさん詰まっていたんです。多分支給品というものではないでしょうか」

何の気負いもなく嘘を口にするユフィ。いや、本人にとっては本当の事しか言ってないのだろう。
先ほどの放送でペリカがこの会場で重要な価値を持ってるのは明らかだ。
それをランダムとはいえこれほどの大金を支給するわけがない。
伊藤開司はギャンブルに長けた人物だとグラハム達から聞いた。ならばこれは彼が船で稼いだ金だろう。
その荷物を彼女が奪った。これで説明が付く。
しかしこれだけの金を集めるとは、相当の人物であったのだろう。あの場で死したのが惜しい。
何か武器なども買っているのかもしれない。1度彼女の荷物を調べておきたい所だが……

「え……」




瞬間、ユフィの表情が引きつった。信じられない、といった顔で。

「どうして、これが……?」

恐る恐る出した手には1つの首輪があった。自分達参加者を縛る主催者に繋がれた爆弾という鎖。

「あ……………………」

ゼクスの顔を見てユフィはますます青ざめた顔になる。自分が誰かを殺したという
―――本人にとってはこの上なく誤解である―――疑念をかけられたことに。

「ち、違います!!私は……私は誰も……っ!」

「落ち着け!……分かっている、私も君を疑いはしない。
首輪を見せてくれないか、あと荷物も。他にも何か誤解を招くようなものがあるかもしれない」

混乱するユフィをなだめつつデイパックの中身を確認するよう支持するゼクス。
それにひとまず落ち着きをみせ震える手でデイパックから荷物を出していく。



出てきたのは、4人分の基本支給品に彼女が着ていたというドレス、
装飾の施された短剣に銃器が複数、ティーセットやら女性用運動着やら実に節操ない。
1番注目する点は銃が3丁見つかったことだ。人1人が持つには余りに過剰、
支給品全てが銃などとは到底考えられない。
ならばやはり伊藤開司が購入した銃器、となるか。

「…………………………」

悟られないようユフィの方を見やる。
ここまで歩いてきた疲労も祟ったのだろう。目の前に広がる余りに不自然な荷物に不安を隠せないでいる。

「あの……私……」

「安心してくれ、君を疑いはしない。
その荷物はアーニャという少女が君の荷物に忍ばせていたのではないか?
彼女が君と会う以前に誰かと接触したならば話が合う」

思いつく限りの妥協案で彼女の気を保たせようとする。
なるべく彼女に不安感を与えたくはなかった。彼女に残る不安要素を考えて。

「それと、荷物を少し分配しよう。それだけ多くても扱えないだろう」

そして多量な荷物を整理する。ペリカの札束はどちらかが奪われてもいいように分割する。
銃が手に入ったという点のみなら心許なかったゼクスにはありがたいことだった。
重量故ユフィには扱えないH&K MARK 23とそれよりなお重い短機関銃H&K MP5K、
それと偵察用にDraganflyer X6とそのバッテリーを預かる。
それと、『YUKIO TONEGAWA』と刻まれた首輪も。

「4時まで休もう。電車が動けば乗り込みたいが、間に合わなければどこか近場、
【神様に祈る場所】辺りで車を買って南に進む。そこで仲間と落ち合う予定だ。
少し外でこれを飛ばして調べてみる。何かあればそのレシーバーを使ってくれ」

手にしたラジコンの操作を確認して改札に向かうゼクス。その姿はだんだんと小さくなっていく。
遂には足音も消え、後は車内を点検する機会音だけが響いた。





「私は…………」

ユフィは恐ろしかった。自分は何も知らない、知らないことこそが一番怖かった。
4人分もの基本支給品が自分のデイパックに入っていることがおかしいのはさすがに分かる。
ゼクスの言うとおりアーニャが入れておいたとしてもそれはアーニャが
―――アーニャ自身の分も含めたとしたら―――2人もの人間を殺したということにもなる。
皇族である自分のための行いだとしたらそれもまた自分の責任ではないのか?

それに、彼女自身も気付いていた。時々起きる記憶の欠如。
扇情的な女の人に襲われて何故自分が無事だったのか。
鎧姿の男の前で自分は何をしたのか。
どうして自分は遺跡とは正反対のギャンブル船にいて、アーニャが死んだのか。



分からない。

どれも自分の、他人の命に関わる重大な場面。その時の記憶がどうして自分にはないのか。



分からない。

そもそも自分は何故ここにいる?ここに来る直前自分は何をしていた?
行政特区を造り、皇位継承権と引き換えにゼロを、ルルーシュを受け入れ、
その後、彼と何かを話していたような……

「スザク…………」

去来するのは自分の騎士。
単なる主従の間柄ではなく個人として互いを支え、称え、進んできた真の意味での騎士。
ゼクスを信頼してないわけではない。だが自分の傍らにいて欲しいのは彼なのだ。





それに彼は日本人だから殺さ―――





「っっ!!違う!!!」

身を震わせ叫ぶユフィ。それだけはいけない、絶対に考えてはいけないことだと、
ユーフェミアという全存在を懸けてそれを否定する。

どうして?何故こんなことを考えてしまうの?
スザクを殺したくなんかないのに。誰も殺したくなんかないのに。




―――理由なんてないよ、日本人は殺さなくちゃいけないんだから




そんな声が、どこかから聞こえた。
それは自分の声にしか聞こえなかった。

「私、は…………」

その呟きに答えられる者はここにはいない。
騎士が姫の元に辿り着くのは、いつの日か。



【D-4 駅ホーム内/一日目/午後】

ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康  精神的不安
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:
[道具]:基本支給品×4、豪華なドレス、アゾット剣@Fate/stay night、神原のブルマ@化物語、
ティーセット@けいおん!、特上寿司×21@現実 、空のワインボトル×4@現実、
ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×26@現実
    紬のキーボード@けいおん! ペリカード(3000万ペリカ)@その他、5000万ペリカ@その他、シグザウアーP226(16/15+1/予備弾倉×3)@現実
    レイのレシーバー@ガン×ソード、脇差@現実、即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)

[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する
0:スザク……私は……
1:駅で休む。記憶の欠落に不安感
2:偽ゼロの存在を全参加者に知らせる
3:政庁で放送施設や通信施設を探し、全参加者に呼びかける
4:殺し合いには絶対に乗らない
[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
 現在は弱体化しているため、ある程度の意識レベルで抵抗すれば解除可能。
 今後も発動中に他の発動しているギアスと接近すれば弱体化、あるいは相殺されます。時間経過により回復。
 会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間に影響が出ているかは不明。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ゼクスと情報交換をしましたが、船組のことは伝えられていません。
※ギアス発動時の記憶の欠落を認識しました。発動時の記憶、ギアスそのものには気付いていません。








「……暫くは時を置くしかないか」

誰もいないホームの前で、コンソールを握りながらゼクスは呟いた。
もし洗脳の意識化にある記憶がないものとすれば、彼女の不安は相当なものだろう。
下手に刺激しては錯乱してしまう恐れもある。洗脳されてることに関しては教えない方がいいだろう。

手にした首輪を手に取る。刻まれた記号からこの首輪が利根川幸雄のものであることは疑いない。
やはりユーフェミアが利根川を殺し首輪を?だがただ日本人を殺すのみが―――彼女を操る犯人の―――
目的であるなら首まで切るのはおかしい。ユーフェミアの荷物に首を刈り取れる武器はない。
短剣では刺すまでがやっとだろう。現に開司の首輪には手を付けていない。
とにかく首輪の試料が手に入ったのは有難い。首輪換金機に出す必要もない。金なら充分すぎるほどある。
重量は軽く人1人殺すだけの爆薬が詰まってるとは思えない。どうやら自分の技術だけでは解析することは出来なさそうだ。

「……むっ…………?」

遠くに僅かな耳鳴りを感じて双眼鏡を手に取る。周囲を探している内にそれの発生源らしき影を見つけた。
音の主はバイク。乗っているのは2人。性別などは玩具の双眼鏡では判断できない。
行き先は、ここではない。さらに北、海岸へと向かっていく。
いやそこにある施設が目的か。

「【敵のアジト】に向かうつもりか?」

アジトというあからさまに誘いをかけている場所にああも急いで向かうとは。
何らかの手がかりになるものを掴んだということか?

「……だが、この場は動けんな」

1人ならともかく今はユーフェミアがいる。今の彼女を連れまわすのも、残しておくことも出来ない。
出発予定までまだ時間がある。運が良ければここにやって来ることもあるだろう。
……運が悪い可能性もあるが。

様子見と決めて今までの考えを纏める。
4時になるまでに駅の復旧が見込めるようならそれにのり【象の像】がある【F-3】まで一気に進む。
直らないようならばどこか近場で、ここからなら【神様に祈る場所】で乗用車でもあって欲しいものだ。
全て金を奪われたグラハム達に自分の持っていた札束だけでもジープに残しておくべきだったか、
と今更ながら悔やんでしまう。

(枢木スザクか。文字通り彼女の騎士であったのだろうな。彼ならば、あるいは……?)

先ほど見せた『枢木スザク』に対するユフィの反応は明らかに他と異なっていた。
日本人であるはずの彼に対して自制の念を働かせていた。
伊藤開司の時もそうだったのかは定かではないが、『枢木スザク』が彼女にとって重要なファクターであることは疑いない。

(騎士の務めを果たすがいい枢木スザクよ。彼女を守るのは君の役目のだ。
それまでは不肖、この火消しのウインドが彼女を守護しよう)

彼女の騎士は既にいたのだ。自分などが手を貸す必要などなかった。
ならば、騎士が姫の元に辿り着くまでこの身は風の盾となろう。
それが姫を守れず、標を失った騎士の贖罪となると信じて。



【ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康 、真・新たな決意
[服装]:軍服
[装備]:真田幸村の槍×2
[道具]:基本支給品一式 、ペリカの札束 、5000万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達、
H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数12/12発/予備12x1発)@現実
その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、 H&K MP5K(SMG/40/40発/予備40x3発)@現実
Draganflyer X6(残りバッテリー・10分ほど)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、利根川幸雄の首輪
[思考]
0: 駅周辺を見張る。ユーフェミアの警戒レベルは下げる。
1:16時までに電車が復旧したら乗り込む。ないようなら【神様に祈る場所】で車を買いたい。
2:国の皇女、か……
3:『枢木スザク』と会うまでユーフェミアを守る。スザクならユーフェミアの洗脳を解けられる?
4:衛宮士郎が解析した首輪の情報を技術者、またはガンダム・パイロットへ伝える。
5:新たな協力者を探す。どんな相手でも(襲ってこないのなら)あえてこちらの情報開示を行う。
6:第三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、一度信頼出来る人間同士で集まる
7:集団の上に立つのに相応しい人物を探す。
8:【敵のアジト】へ向かった2人組が気になる。


[備考]
※学園都市、および能力者について情報を得ました。
※MSが支給されている可能性を考えています。
※主催者が飛行船を飛ばしていることを知りました。
※知り合いに関する情報を政宗、神原、プリシラと交換済み。
※悪人が集まる可能性も承知の上で情報開示を続けるようです。
※サーシェスには特に深い関心をしめしていません(リリーナの死で平静を保とうと集中していたため)。
ライダーと黒服の少女(藤乃)をゲーム乗った特殊な能力者で、なおかつ手を組んでいると推測しています。
※ギャンブル船で会議が開かれ、参加者を探索していることを知りました。
※グラハムから以下の考察を聞きました。
 ・帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいる。そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があった。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアと情報交換をしましたが、船組のことは伝えていません。
※ ユーフェミアは魔術・超能力その他の手段で思考を歪められてる可能性に思い当たりました。
海原光貴加治木ゆみ)、荒耶宗蓮(蒼崎橙子)の容姿は確認できていません。


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188:The Hollow Shrine(後編) ユーフェミア・リ・ブリタニア 204:兄妹 ~或いは、爆弾とボンバーマン~
188:The Hollow Shrine(後編) ゼクス・マーキス 204:兄妹 ~或いは、爆弾とボンバーマン~


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最終更新:2010年02月18日 11:31