常世全ての善と成る者、常世全てに悪を敷く者 ◆kALKGDcAIk



「おいフザケんな。目覚ましやがれ!」

上条当麻が何度揺らそうが。何度叫ぼうが。
アーチャーが目を覚ますことはなかった。
アーチャーの瞼は決して開かれない。

如何なる想いでアーチャーは織田信長に戦いを挑んだのか。
そして、この結末を迎える上で、一体何を考えていたのか。
その死に顔は何故か満足げな表情を浮かべているが、上条当麻には理解できない。
死という絶対の終わり。
そんなバッドエンドを上条当麻は許容できない。

上条当麻はもう分かっている。
アーチャーは死んでいる。
その結果は如何にしても覆らない。
それでも叫ぶしかなかった。
百回呼んでも目覚めることはないだろう。
千回呼んでも目覚めることはないだろう。

それでも。
それでも。

上条当麻は叫ぶ。
目の前で死なれた仲間に対して出来る唯一の対応。
それしか上条当麻は知らなかった。


「ギャー、ギャー呻いてるんじゃねェ!」

悪態。
上条当麻が振り返ると、そこには民家に置いてきた筈の一方通行が立っていた。

一方通行は横たわるアーチャーの死体を一瞥すると、イライラした表情を隠さずに言い放った。

「死ンだ奴の事をいつまで喚いてやがる。そんな無駄なことしてンじゃねェよ」
「アーチャーはな。俺たちの為に命を張って助けてくれたんだぞ」
「ハッ、それじゃあ感謝してやるよ。でもな、死ンじまったらそこで終了。ゲームオーバーなンだよッ!」

ハッキリと真実を言い放つ一方通行。
勿論、上条当麻にもそんな事は百も承知だった。

しかし、アーチャーとの短い間でも確かに仲間だった時のことを考えれば、真実も認めにくい。

「うるせえ、そんな簡単に割り切れるか!」
「そうかい。だったら死ぬまで拝んでろ」

乱暴に台詞を吐いて、一方通行は上条当麻に背を向けて歩き出した。
当然、そんな一方通行を上条当麻は許容出来ない。

「おい。どこに行きやがる」
「あァ!? 何で俺がオマエと一緒に行動しないといけないンだ? レベル0の尻拭いなンてオレはゴメンなンだよ! 大体なァ、弱いヤツ

と群れたら、巻き込んで殺しちまうかもしれないじゃねえか。あのクローンたちのようになッ!」

上条当麻はその言葉を許すことが出来なかった。
自分の事ならどうでもいい。
しかし。
他人に関しては別であった。

「ふざけんじゃねえよ!」

上条当麻の右拳が一方通行に襲い掛かった。
しかし、その拳が一方通行の頬を捉えることは無い。
それよりも一瞬早く。一方通行の手が先に届いていたのだ。

上条当麻が異能を無効に出来るのはあくまで右手だけ。
それ以外の箇所に異能が働いても防ぐ手段はない。

一方通行のベクトル変換により、上条当麻は殴りかかるポーズのまま吹っ飛ばされた。
そのまま、受身も取れずに地面をゴロゴロと転がっていく。

「そのままブッ倒れてろ。二度と近寄んじゃねえぞ偽善者!」

そう言い捨てて一方通行は去っていった。
上条当麻は起き上がることが出来なかった。


◇◇◇◇◇


(クソッ、まだ聞こえてきやがる…)

死ねとか、殺せとか、ロクでもない言葉が脳の奥底まで刻まれる。

「クソッタレがッ! グチャグチャうるせえンだよ」

目覚めたときから常に耳元で呻く声。
辺り一面吹き飛ばしそうになるのを我慢しつつ、自身の脳波を確認したが、その原因は判別不能。

今のところ演算能力には影響ないがそれもいつ迄持つか。
取りあえず、象の像に向かうのは中止だ。
この声を何とかしないかぎり、正気を失って集まったヤツらを皆殺しにしてしまう。
そんな可能性を考慮しなければならないほど、精神を磨耗させられている。

(どォする……?)

人がいないところで、休むべきか。
心の平穏があれば、少しはコレも楽になるかもしれない。
もっとも、この会場内にそんな安息の地があるとも思えなかったが。
もし、また織田信長のようなヤツと遭遇すれば、戦闘に意識を持っていかなければならなくなる。
そうなれば、このまま正気を失って、コレに飲み込まれてしまうかもしれない。
また、殺し合いに乗っていない奴でも、他者を意識して、常に神経を張り続けなければならなくなる。


あのレベル0。キレイ事ばっか吐けるあの偽善者。
こんな状況でついてこられても、邪魔でしかない。
アイツとこれ以上関わったらどうにかなっちまいそうだった。
大体、アイツと俺は水と油。決して交われない。
もう戻れない程の罪を重ねた悪党が、善に属するアイツと仲良し小好しでやっていけるはずがないのだ。





さて、どこに向かうか。
ここから程よく近くて身を休めそうな場所は。


【E-6北東部/住宅地/一日目/夕方】
【一方通行@とある魔術の禁書目録】
[状態]:精神汚染(中)
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、缶コーヒー×12、ランダム支給品×1(確認済み)、パチンコ玉@現実×多量、缶コーヒー各種@現実×多数
[思考]
基本:うるせェ!うるせェ!うるせェ!
1:取りあえず1人になれる場所で休息をとる。
2:幻聴を何とかして治す。
3:打ち止めを守る(※打ち止めはゲームに参加していません)



[備考]
※主催側で制限を調節できるのではないかと仮説を立てました。
※飛行船は首輪・制限の制御を行っていると仮説を立てました。
※ゼクス、政宗、神原、プリシラ、スザク、レイと情報を交換しました。
※ライダーの石化能力と藤乃の念動力の制限を分析しました。
※式の力で、首輪の制限をどうにかできる可能性があると判断しています。
※織田信長の瘴気の影響で精神に異常が出ています。今後精神汚染が進行した場合、演算能力に影響が出る可能性があります。

[補足]
※D-6の駅周辺ではハロが制御する建設重機が多数、瓦礫撤去及び線路復旧作業を行っています(当然工事現場並みに騒がしいです)。
 建設重機には操縦席が無くハロ以外では動かせません。
 またこれらのハロは工事作業以外のことが出来ない様プログラムされています。
※D-6の駅前ロータリーに面したビルの一室に真田幸村の死体があります。


◇◇◇◇◇


俺が立ち上がった時、一方通行の姿は既に見当たらなかった。


埃まみれの体を払って大きな溜息をついた。
こんな所で油を売ってる暇なんてないのだ。
早く戦場ヶ原たちと合流しなければならない。
幸い、目立った外傷は見当たらない。
だったら、一刻も早く合流するべきだ。



でも、立ち止まってしまった。

一方通行は本当にムカつく野郎だ。
ミサカ達にやった事は絶対に許せない。
アイツと分かり合う日なんて想像も付かない


でも、割り切れなかった。

アーチャーすまない。キチンと弔ってやることが出来ない。
戦場ヶ原すまない。やる事やったら、急いで行くから。



こんな事だから偽善者だ。とか、言われちゃうんだろう。
いいさ。偽善者上等。何言われようが構いやしない。
あんなに真っ青な顔をして。
あんなに泣きそうな顔をして。
今にも世界が終わっちまいそうな顔をして。


そんな奴を。

―――放っておける訳ないじゃねえか!


【E-6北部/住宅地/一日目/夕方】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[服装]:学校の制服
[装備]:
[思考]
基本:インデックスを助け出す。殺し合いには乗らない。御坂の遺体は必ず連れて帰る。
 0:一方通行を追う。
 1:戦場ヶ原ひたぎに同行。阿良々木暦を探す。戦場ヶ原ひたぎと3匹の猫の安全を確保する。
 2:インデックスの所へ行く方法を考える。会場内を散策し、情報収集。
 3:壇上の子の『家族』を助けたい 。
 4:そういえば……海原って、どっちだ……?
[備考]
※参戦時期は、アニメ本編終了後。正体不明編終了後です。


◇◇◇◇◇


一方通行を蝕む謎の声。

その原因はもちろん織田信長との戦いにある。
ベクトル変換の能力を持つ一方通行に衝撃など通りはしない。
よって、頭を打った事による幻聴などではない。



この世全ての悪(アンリマユ)。


かつて、冬木市にて引き起こされた大火災。
その爪痕は冬木市自然公園に深く刻まれていた。
織田信長は公園に染み付いていたアンリマユをも、瘴気としてその身に取り込んでいたのだ。
彼にとってはアンリマユだろうが、元々の世界の瘴気だろうが関係無かった。
そして、一方通行はそんな瘴気の一撃を受けてしまった。


少年は自身が黒い闇に染まりながらも、闇を喰らい続ける、悪党になろうとした。
そんな彼にアンリマユが興味を持ってしまったのかも知れない。

この世全ての悪性とも言える、圧倒的悪意。
魔王と称される織田信長だから平然としていられるのだ。
学園都市最強の能力者。
核にすら耐えられる彼でも能力が関われない現象に対してはただの人だ。
3倍持って来いなど言えるはずもない。
少しずつ。しかし確実に一方通行の精神は蝕まれていく。
常人なら即座に発狂す恐れもあるソレに耐えられているのは意地か。あるいは奇跡か。



精神はあくまでただの人間。
そんな少年がこの世全ての悪を背負える可能性は限りなく低い。
だが、もしも。
少年がこの世全ての悪をも飲み込む“悪党”に成りえるのなら。


神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くことも可能なのかもしれない。


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202:魔王信長(後編) 上条当麻 223:隣合わせの灰と青春
202:魔王信長(後編) 一方通行 223:隣合わせの灰と青春


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最終更新:2010年03月17日 11:19