Oblivion Recorder ◆C8THitgZTg



時刻が夕方に代わって暫し。
ゼクスとユーフェミアは、まだ『死者の眠る場所』の付近にいた。
政庁へ向かうのを渋っているわけではない。
新たに手に入れた装備――ラブ・デラックス――その機能を確かめておきたかったのだ。

「操縦系統には妙な改造はないようだな」

ゼクスはラブ・デラックスの周囲を巡りながら、車体の各所を検めている。
左ハンドルで座席は二つ。
燃料も充分。
少々見難い角度だがミラーもきちんと付いている。
改造前はそれなりの高級車だったのか、座席のシートの質はいい。
その上、運転席と助手席が繋がっていて、まるでソファーのようだ。
車高が低く、全長が大きいので、オフロードの走行には不向きだろう。
どうやら改造され尽くした外観に反し、自動車としての最低限の機能は損なわれていないらしい。
しかし、逆に特別な機能が付与されている様子もなかった。

「見かけだけの改造なのか、それとも外されてしまったのか……」

何かしらの武装が搭載されているのでは、という期待がなかったわけではない。
だがそれは、武装がないよりもあるほうがいい、という程度のものだ。
一通り確認を終えたゼクスは、道端で待っているユーフェミアに向き直った。

「政庁まで行くには充分だ。そろそろ出発を……どうした?」

ユーフェミアは縁石に腰を下ろし、言葉もなく俯いていた。
手に持った首輪を眺め、物憂げな表情で、何事か考え込んでいるらしい。
その横顔がとても辛そうで、無理に声を掛けるのが躊躇われた。
だが、今はそんなことを言っていられない。
これがただのドライブなら、気が済むまで考え込ませてもよかったのだが。
もう一度、さっきよりも大きな声で呼びかける。

「ユフィ、何か不安でもあるのか」
「……あっ。いえ、そういうわけでは」

ユーフェミアはパッと顔を上げ、何てことはない、といった風の表情を作ってみせた。
しかしすぐに表情を曇らせ、再び首輪に視線を落とす。

「さっき……アーニャの声を聞きましたよね。
 あの声はどうやって記録していたんでしょうか」

アーニャの声というのは、断末魔サービスで聞いた音声のことだろう。
このサービスを成立させるためには、大前提として、全員の声を常時記録しておく必要がある。
考え方を変えれば、随分と間の抜けた施設であると言えなくもない。


何故ならこれの存在により、主催側が参加者の会話を盗聴していることが証明されたのだから。


音声を記録しなければ成立しない装置が存在している以上、音声が記録されていることは自明である。
よもや「記録はするが、主催は内容を知らない」ということはありえまい。
無論、盗聴に気付かれることを踏まえた上で、知られたところで問題はないと判断した可能性も考えられる。
もしかしたら、それを悟らせること自体が目的だったのかもしれない。
どちらでもなく、ただ不注意から情報を与えてしまったというなら――

「どうやって……か」
「はい……」

ゼクスはユーフェミアの問いに思考を傾けた。
『どうやって記録しているのか』
彼女の疑問は、音声が記録されているという事実を前提としている。
ならば、盗聴した会話から抜き出しているのだ、という答えでは不適当だろう。
考察するべきは盗聴の方法だ。

「可能性が高いのは盗聴器だな。会場に集音器を置くやり方では不確実だ。
 そして、外されにくさを考えれば、設置箇所も自ずと限られてくる」

言いながら、ゼクスは首輪に手を添えた。
盗聴器を仕掛けるなら、十中八九、首輪の内部だ。
ここなら首輪が壊れるか外されるまで、確実に声を集めることができる。
そして万が一のことを考える必要は殆どない。
単純に首輪が破壊されたのなら、それは即ち首輪の爆破と同義であり、それ以上盗聴する必要はなくなる。
解除されたのであれば、それはもう盗聴どころの問題ではなくなっている。
首輪への設置は、盗聴器としての必要充分条件を備えているのだ。

「いえ……そういうことではなく……」

ユーフェミアは俯いたまま、静かに首を振る。
そうして暫く押し黙ったかと思うと、すっと立ち上がった。

「やっぱり大丈夫です。出発しましょう」
「……そうか」

こう言われてはゼクスも納得するしかない。
助手席にユーフェミアを乗せ、自身は運転席に乗り込む。
政庁までは直線距離でおよそ一キロ半。
道の状態にもよるが、まっすぐ向かえば数分程度で到着するだろう。
問題は、その後だ。

「その前に、今後の方針について確認しておきたい。
 政庁へ行く理由は以前聞いた通りだが、『目的を果たせない場合』はどう行動する?」

想定できる状況は幾つもある。
政庁が想像とは違う施設だった場合。
周辺が戦場となり接近できない場合。
どれであっても、政庁に向かうのは断念せざるを得ない。

「そのときは……別の場所を探したいと思います」
「了解した。まずは政庁に着いてからだな」

キーを捻りエンジンに火を入れる。
鋼鉄の騎馬――そう呼ぶにはあまりにもエキセントリックな車両。
六つのタイヤが路面を食み、二人を南へと運んでいく。
目指すべき場所は政庁。
そこで何が待っているのか。
そこで誰が待っているのか。
二人は、何も知らない。



   ◇  ◇  ◇

吹き付ける風の中、ユーフェミアはそっと自身の首筋に触れた。
冷たい、無機質な首輪の手触り。
命を縛る悪魔の戒め。


ユーフェミアが抱いた疑問の真意。
それは、ゼクスの想像から大きくかけ離れたものであった。
盗聴されているなんて、とっくに見当がついている。
首輪がその装置を兼ねていることも想定済みだ。
確かめたいのは、更にその先。
首輪が収集した音声が、どのようなプロセスを経て送られていくのか。
もしコレが通信機のようなもので、音声が常に送信され、別の機械に記録されているなら。
または、首輪自体にすべてが記録されているのだとしたら。



――――確かめることができるのではないか。



度重なる思考の断絶。
白昼夢のような空白。
ほんの僅かな、しかし紛れもない違和感。
それに気付かないほど、ユーフェミアは愚かではない。
特に、ギャンブル船に入ってからの記憶の混雑は酷かった。
船を訪れ、階段を登り、甲板へ――――――そして、ゼクスと出会う。

思い出せない。

記憶を辿れない。

そう、あの首輪もだ。
いつの間にデイパックの中に入り込んでいたのか。
ゼクスはそれなりに説得力のある理由付けをしてくれたが、それが真実だとは信じきれない。
もしかしたら、意識が途切れた間に恐ろしいことをしているのではないか。
そんな漠然とした不安が、彼女の内側から、音もなく滲み出てきていた。
具体的な根拠はない。
しそうだったらと想像して、恐怖を感じているだけ。
しかし、そもそも不安とはそういうものだ。
確信できないことを恐れるからこそ『不安』と呼ぶのだ。
思い過ごしならそれでいい。
ただ単にぼうっとしていたせいなら、これ以上、思い悩むこともない。
けれど今は、どちらも確信することができなかった。
もう一度、首輪に手を触れる。
冷たく硬い表面は、何も答えてはくれない。
仮にすべての言葉がここに記録されているのなら。
忘却した時間が録音されているのだとすれば。



――――すべてを確かめることが、できるはずだ。

【C-6/死者の眠る場所付近/一日目/夕方】



ゼクス・マーキス@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:健康、真・新たな決意
[服装]:軍服
[装備]:H&K MARK23 ソーコムピストル(自動拳銃/弾数12/12発/予備12x1発)@現実、ラブ・デラックス@ガン×ソード
[道具]:基本支給品一式 、ペリカの札束 、3499万ペリカ、おもちゃの双眼鏡@現地調達
真田幸村の槍×2、H&K MP5K(SMG/40/40発/予備40x3発)@現実
その他デパートで得た使えそうな物@現地調達、ピザ×10@現実
Draganflyer X6(残りバッテリー・10分ほど)@現実、Draganflyer X6の予備バッテリー×4@現実、利根川幸雄の首輪


[思考]
0:ユーフェミアと共に【政庁】に行く。しかしこの車は……。
1:ユーフェミアの洗脳を解く方法を探す。
2:国の皇女、か……
3:『枢木スザク』と会うまでユーフェミアを守る。スザクならユーフェミアの洗脳を解けられる?
4:衛宮士郎が解析した首輪の情報を技術者、またはガンダム・パイロットへ伝える。
5:新たな協力者を探す。どんな相手でも(襲ってこないのなら)あえてこちらの情報開示を行う。
6:第三回放送の前後に『E-3 象の像』にて、一度信頼出来る人間同士で集まる
7:集団の上に立つのに相応しい人物を探す。
8:【敵のアジト】へ向かった2人組が気になる。
9:『ギアス』とは……?


[備考]
※学園都市、および能力者について情報を得ました。
※MSが支給されている可能性を考えています。
※主催者が飛行船を飛ばしていることを知りました。
※知り合いに関する情報を政宗、神原、プリシラと交換済み。
※悪人が集まる可能性も承知の上で情報開示を続けるようです。
※サーシェスには特に深い関心をしめしていません(リリーナの死で平静を保とうと集中していたため)。
ライダーと黒服の少女(藤乃)をゲーム乗った特殊な能力者で、なおかつ手を組んでいると推測しています。
※ギャンブル船で会議が開かれ、参加者を探索していることを知りました。
※グラハムから以下の考察を聞きました。
 ・帝愛の裏には、黒幕として魔法の売り手がいる。そして、黒幕には何か殺し合いを開きたい理由があった。
※衛宮士郎の【解析魔術】により、首輪の詳細情報(魔術的見地)を入手しました。
 上記単体の情報では首輪の解除は不可能です。
※ユーフェミアと情報交換をしましたが、船組のことは伝えていません。
※ユーフェミアは魔術・超能力その他の手段で思考を歪められてる可能性に思い当たりました。
海原光貴加治木ゆみ)、荒耶宗蓮(蒼崎橙子)の容姿は確認できていません。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。

ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュR2】
[状態]:健康  精神的不安、自身への疑念
[服装]:さわ子のスーツ@けいおん!
[装備]:
[道具]:基本支給品×4、豪華なドレス、アゾット剣@Fate/stay night、神原のブルマ@化物語、
ティーセット@けいおん!、特上寿司×20@現実 、空のワインボトル×4@現実、ピザ×10@現実
ルイスの薬剤@機動戦士ガンダムOO、 シャトー・シュヴァル・ブラン 1947 (1500ml)×26@現実
紬のキーボード@けいおん! ペリカード(3000万ペリカ)@その他、3449万ペリカ@その他、シグザウアーP226(16/15+1/予備弾倉×3)@現実
レイのレシーバー@ガン×ソード、脇差@現実、即席の槍(モップの柄にガムテープで包丁を取りつけた物)


[思考]
基本:他の参加者と力を合わせ、この悪夢から脱出する。自分にできる事をする
特殊:日本人らしき人間を発見し、日本人である確証が取れた場合、その相手を殺害する
0:ゼクスと共に【政庁】に行く。
1:スザク……私は……
2:偽ゼロの存在を全参加者に知らせる
3:政庁で放送施設や通信施設を探し、全参加者に呼びかける
4:殺し合いには絶対に乗らない
5:ゼクスさんは兄様っぽい
6:方法があるなら、盗聴されていた内容を確かめる


[備考]
※一期22話「血染めのユフィ」の虐殺開始前から参戦。
※ギアス『日本人を殺せ』継続中。特殊条件を満たした場合、ユフィ自身の価値観・記憶をねじ曲げ発動する。
 現在は弱体化しているため、ある程度の意識レベルで抵抗すれば解除可能。
 今後も発動中に他の発動しているギアスと接近すれば弱体化、あるいは相殺されます。時間経過により回復。
 会場において外部で掛けられたギアスの厳密な効果・持続期間に影響が出ているかは不明。
※ギアスの作用により、ヒイロのことは忘れています。
※ゼクスと情報交換をしましたが、船組のことは伝えられていません。
※ギアス発動時の記憶の欠落を認識しました。発動時の記憶、ギアスそのものには気付いていません。
※アーニャの最期の言葉を聴き、『ギアス』の単語を知りました。


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204:兄妹 ~或いは、爆弾とボンバーマン~ ユーフェミア・リ・ブリタニア 227:それぞれの願い
204:兄妹 ~或いは、爆弾とボンバーマン~ ゼクス・マーキス 227:それぞれの願い


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最終更新:2010年03月19日 23:00