黒い聖母 ◆hqt46RawAo



エリアE-4都市部。
2人の人間を乗せて、一頭の馬が疾駆する。

福路美穂子は重体となった伊達政宗を抱えながら、ひたすら馬を走らせ続けていた。
遠目に見えてきた薬局にむかって、更にスピードを上げる。

「死なせない……死なせちゃいけない……!」

彼女の心は今、二つの思いに揺れていた。

一つは、一刻も早く伊達政宗を救わなくてはならないという思い。

「この人を死なせたら……もう……希望が無くなるかもしれない……」

政宗は主催者に対抗する意思を持ち、なおかつ絶大な力を持つ人物。
いま彼を失えば、今後バーサーカー等の力を持つ敵と相対する事が出来ない。
それどころか、政宗程の力を持った対主催人物が今後現れる保障も無いのだ。

「でも……」

もう一つは、今すぐにでも、死にかけている政宗を捨て置いてでも、平沢唯の所にむかいたいという思いがあった。
彼女は不安だった。嫌な予感がしていた。
唯を残して来てしまった事。
それはとてつもない間違いではなかったかと。

しかし、もう彼女は選んでしまった。
伊達政宗を助ける事を選択してしまったのだ。
今更引き返すことは出来ない。ここまできたら薬局にむかい、そこで政宗が助かることに賭けるしかない。

「唯ちゃん……」

彼女はふと疑問に思う。
政宗と唯。
主催者を倒すという目的において、優先すべき対象がどちらであるかなど明白である。
なのにどうして、自分はこれ程まで平沢唯が大事だと思っているのか。
一体何故これ程の短時間で、ここまで平沢唯は福路美穂子の気持ちの大部分を占めたのかと。
自分は何故ここまで唯を守りたいと思っているのかと。
何故自分は唯を■■したい。などと考えたのかと。

□ □ □

美穂子はようやく薬局に到着する。
政宗を両手で抱えたまま馬を降り、入り口を蹴り開けて薬局内に侵入する。

静まり返った店内を見回して、目当ての物を探す。
一見して、店内は最初に訪れたときとなんら変わっていないように見えた。
しかし、変化は有った。というより、彼女には無ければ困るものだ。

かつて、薬ビンを見つけた場所。
奥の商品棚の影にひっそりと、新たに備えられた二つの機械。
以前は無かった、首輪換金ボックスと無人自動販売機がそこに鎮座していた。
美穂子は抱えていた政宗を床に降ろし、機械に近づいていく。

急がなくてはならない。
こうしている間にも政宗の命は尽きようとしている。
事態は一刻を争うのだ。
焦りと共に、彼女は小十郎の首輪を換金ボックスに突っ込む。

「早く……!早く……!」

ごとごと、と音を立てててボックスが振動する。
換金の待ち時間すら、今の彼女にはじれったい。
一分一秒が長く感じる。

やがて、数秒の時が過ぎ。
問題なく、ボックスからペリカが吐き出された。
戦国武将の首輪の換金。それはかなりの高額だった。
一億以上はあるだろうか、彼女は小十郎の強さに感謝しながら、今度はそれを自動販売機に挿入する。

起動する自販機。
美穂子はタッチパネル式の商品項目を右手で操作し、販売品を確かめる。
だがやはり商品項目には今の政宗を治癒出来るような物は無かった。

「やっぱり……施設サービスしかない」

内容を説明するボタンも有ったが押さなかった。
悠長に聞いている時間も無い。
そして、彼女は迷わず『施設別サービス』を購入した。

変化を待つ。
一秒経過。何も起こらない。
十秒経過。やはり何も起こらない。
二十秒経過。未だ何の変化も無い。

「……っ!どうしてっ!」

彼女が遂に痺れをきらした時。
三十秒経過。――背後で足音がした。

「――!?」

美穂子は咄嗟に振り返りながら、持っていた刀を抜き放つ。
足音は一人分、敵か見方かも分からない。
ここに来てゲームに乗った者に遭遇することは即ち最悪の事態である。
どうか味方であってくれと。
そう願いながら美穂子は振り向く。
そして見た。
入り口付近に横たわる政宗。
その隣に一人の男が立っている光景を。

「あなたは……!?」

その男は異常な出で立ちだった。
着込んだ神父服。彼女の知る誰よりも、あの船井ですら及ばない胡散臭い表情。
しかし、それらも全て些細な問題だ。
何よりも異常なこと。
それは男が、この島で活動している者達が必ずと言っていいほど身に着けている物を、身につけていないということ。
つまり、その男は首輪をしていなかったのだ。

「福路美穂子、か。なるほど……これは面白い」

驚愕する美穂子をよそに、男は――言峰綺礼はそう言って嗤った。


□ □ □

首輪をしていない。
それが指し示すことは二通り。
首輪を外した参加者か、そもそも首輪をしていない主催者か。

そのどちらかだった。

だがそれを見極める前に、美穂子の足は駆けていた。

「伊達さんから……離れて!」

一気に言峰へと接近し、抜刀していた刀を横に一閃する。
殺すつもりは無かった。
だが殺してもいいとも思った。
主催者側なら言わずもがな、味方にも思えない。
ここで気を抜いて、政宗や自身が殺されるよりはマシと考えたのだ。

しかし、言峰は刃を軽くかわしながらあっさりと後退する。
そして言った。

「その認識は改めておこう。私は完全な主催者側の人間ではないし、もちろん君の敵でもない」

言いながら――刀を蹴り上げた。

「……っ!」

バーサーカーの斬撃を受け流した際に、既に限界まで損壊していた刀身がへし折れる。
ならば、と美穂子がデイパックから六爪を取り出そうとした瞬間。

「参加者への攻撃は基本、禁じられているのだがね」

彼女の腹部に、言峰の掌が当てられた。

「職務遂行の障害になる場合や、私自身の命の危機に際しては、相手が死なない程度の暴力が認められている」

瞬間。
内臓をかき回されたような衝撃が、美穂子を襲う。
ゼロ距離で打ち出された拳法が彼女の体を浮き上がらせ、後方へと大きく吹き飛ばす。
そして彼女の体は、換金ボックスに衝突して動きを止めた。

「ぐ……あっ……」

激痛と共に血反吐を吐きながらも彼女は立ち上がろうとするが、四肢に力が入らなかった。
そんな美穂子を見下ろしながら再び言峰は口を開いた。

「聞け。もう一度言う、私は君の敵ではない。私は私の職務を全うしに来ただけだ」

「そんな……事が……」

信用できるか、と。
美穂子は言峰を睨みつける。

「君らしくも無い短慮だな。それが裏の願いということか、ではこちらを強調しておこう。
 私は完全なる主催者側の人間ではない。私には私の目的があって帝愛に協力している。言わば外部の人間だ。
 この説明ならその殺意を収めてくれるかね?インデックスへの反応を見る限りそう思うのだが」

そこまで言われてようやく、美穂子にも少しの冷静さが戻ってきた。
体中に滾っていた殺意が退いていく。
そして、今の自分は明らかに正常では無かったと再認識した。
放送で遠藤の声を聴いた瞬間の殺意の波。
先程までの美穂子には、それの半分ほどが自身の体を駆け巡っていたのだ。

しかし、彼女は放送の時、インデックスには殺意を抱かなかった。
おかしな話である、主催者側の人間を殺すというのが彼女の裏の願いなら、たとえ少女の容姿をとっていようがインデックスは殺害対象に値するはずだ。

では何故殺意を感じなかったのか、理由は最初に遠藤が言っていたゲストという言葉。
インデックスが完全には主催者側の人間ではない、という予想を心の何所に持ってたのだ。
逆に言えば、美穂子の殺意は主催者側であるという確証が無ければ発動しないということになる。

しかしこれで、言峰の言葉によって、美穂子の殺意もようやく収まった。

「じゃあ……何が目的で……」

その様子を見て、言峰も一つ頷き、会話を再開する。

「知れた事だ。施設サービスを購入したのだろう?
 私がそれを執行する」

そう言って言峰は両の手をかざす。
手の平の上には黒い泥の様な物体が乗っていた。

「それは……いったい……?」

「アンリ・マユ。この世全ての悪と呼ばれる存在だ。
 これを持って参加者の命を繋ぐ事が出来る」


□ □ □

現れた男の言葉。
正直願ってもない話だった。
これで伊達さんは助けられるかもしれない。
けれどやっぱり、信用はできない。
これはあの姑息な主催者達が示す救済。

罠があってもおかしくない。
よって問わずにはいられなかった。

「その代償は……お金だけなんですか?」

「ほう、鋭いな。そうだ、ペリカ以外にもリスクはある。
 これは魔力の塊であると同時に絶大な呪いでもある。
 使った者の精神を蝕む危険な代物だ。
 しかし、命を救う点については保証しよう。更には絶大な魔力を行使できるようにもなる。
 先着一名限定の救済サービスだ。このぐらいのリスクは当然だろう?
 それに、その呪いを耐え切り、飲み込むことの出来る存在も確かに居る。
 私はそれを知っている。さてどうするかね?辞退するか?それも選択の一つだ」

つまり、生き返った伊達さんはもう、今までの伊達さんでは無いかもしれないという事。
伊達さんの力を信じて危険を冒すか。
それとも伊達さんの命を見捨てて避けるか……。
私は二択を迫られた。

二択だと――思っていた。

「して、どちらが使用するのかね?」

「――え?」

私はその質問の意味が一瞬分からなかった。

「もし、これを使用するとして。
 君と伊達政宗。一体どちらの命を繋ぐのかと聞いているのだが?」

そして、理解する。
これは悪魔の囁きだ、と。

■ ■ ■

「福路美穂子、君の選択肢は三つだ」

男がゆっくりと近づいてくる。
厳かに、両の手から泥を滴らせながら。
私に三択を突きつける。

「一つ、伊達政宗を蘇生させる。
 二つ、蘇生後の危険を避け、誰も蘇生させない。
 三つ、君自身の命を蘇生させる」

「私の命を蘇生する?」

第三の選択肢。
その内容を男は示す。

「そう、君だ。君の肉体が既に死している事は自覚しているのだろう?
 今の君は腕の契約によって『生かされている』にすぎん。
 いずれ免れようのない死がやってくる。
 だが、このアンリマユを使えば、君はもう一度、『生きる』事が出来るのだ。
 更に重要な事は先程も言ったように、この泥は呪いであると同時に絶大なる魔力の塊だということだ。
 使用すれば、その左腕など比ではない程の魔力が与えられるだろう。
 つまり、君はコレと契約する事によって、君が渇望していた『守る為の力』を手に入れる事が出来るという訳だ。」

男は言う。
私はここで、生き返る事が出来ると。
そして強くなれるという。
今まで弱者でしかなかった、小十郎さんや伊達さんに頼る事しか出来なかった私。
この左腕を持ってしても、あの巨人のような相手には、一人じゃ到底太刀打ち出来ないと先の戦いで痛感した。
その私が、私一人で戦う事が出来て、誰かを守る力を得る事ができると。
私が求めてやまなかった『守る為の力』が、戦う為の力が今、私の目の前にあると言う。

「さあ、どれを選択する?
 決定出来るのは君しか居ないぞ?」

私はどうすればいい?
何が正しい選択だというのか?

多分、一番真っ当な選択は伊達さんを助けること。
でも、それでもし伊達さんが殺し合いに乗るような、危険人物になってしまったらどうする?
伊達さんが暴走すれば、私にはとても止められない。
そして、それは唯ちゃんの危険に直結する。
そんな事は出来ない。そんな危険は冒せない。

かと言って、何もしないと言うのか?

おそらく、一番リスクが低いといえる選択はアンリマユなど使わないこと。
でも、そのかわり何も得る事が出来ない。
伊達さんを失う事になって、私も弱いままで、
一体これからどうやって、殺し合いに乗った者たちや、主催者達と戦っていけばいいのだろう。
この先、あの巨人の様な強大な敵を相手に、私一人で唯ちゃんを守りきる自信など無い。

伊達さんが暴走する危険と、何もせずに伊達さんを失うという事態。
どちらも選べない。

それなら、いっそ……。

最後の選択肢。
私自身にあの泥を使うこと。
それで、私は生き返る事が出来る。生きる事が出来るのだ。
唯ちゃんと生きて、この島から出れる可能性が開ける。
なにより大事な唯ちゃんを、守る力を手にする事が出来る。
でも、あの泥を使えば、私の心はどうなってしまうのだろう?
自分を保つ事が出来るのだろうか?
守りたいと願う。助けたいと思う。
この心を持ち続ける事が出来るのだろうか?

分からない。
どれを選べばいいのか。
何が正しいのか。
早く決めなくちゃいけないのに、
こうやって悩んでいる間にも伊達さんは死にかけているのに。
選べない。どの選択肢も、その後に待っている結果が怖い。
私の選択が誰かを苦しめる事になるなんて、想像すると決められない。

それでも、私が決めなければいけない。
私にしか……決められない事なんだ。

「さあ……答えを聞こうか、福路美穂子」

目の前に立つ男が、私に問いかける。

まだ頭の中は纏まらなくて、でも決めなくちゃいけなくて。

私の脳裏にいろんな人たちの姿が過ぎる。

守れなかった、大切な人たち――。
華菜や上埜さんの姿。

私と私の大事な人を守る為に戦ってくれた、小十郎さんの姿。
あの明智光秀や巨人に一歩も引かずに立ち向かい、打ち倒した、伊達さんの姿。

そして最後に、唯ちゃんの陽だまりの様な笑顔を思い浮かべ。

私は目の前の男と、男が持つ泥を見上げる。

「私の、答えは――」

そして、決断を下した。

■ ■ ■

「――心得た」

そう言って男は黒い泥を差し出してくる。
泥は男の手を離れ、私の体に纏わりつく。
足、お腹、胸、腕、首。
泥は私の皮膚を、服の下から這い回る。

これが私の選択。
私自身に、あの泥を使うこと。

これでもう、伊達さんを救う手立ては無くなった。
私はそれに耐え切れなくなって、立ち上がり、もつれる足で歩き出す。

そして、神父服の男の横を通り抜け、倒れている伊達さんの傍に駆け寄った。
まだ、彼の息は有った。
でもそれはとても微弱なモノで、今にも途切れてしまいそうで。

「伊達さん……伊達さん……」

私には選べなかった。
伊達さんを救う選択が出来なかった。
彼の強さを知っていたから、知っていたからこそ、
伊達さんが敵に回った場合の事を考えると、どうしても選べなかったのだ。

そして、何よりも、私は唯ちゃんを失いたくなかったから。
もう、私には失うものなど何も無いと思っていたのに、大切なものなど残っていないと思っていたのに。

この場所で、私は唯ちゃんを大事だと思ってしまった。
もう恐怖なんて感じなくなったと思っていたのに、彼女を失うことを考えると、怖くて怖くて仕方が無かった。

彼女を失う危険など冒せず、そして彼女を守る為の力が欲しかった。

たとえ、私の心が蝕まれようと、『唯ちゃんを守る』という思いだけは消して忘れないと誓う。
だからお願い。
私に、唯ちゃんを守らせて下さい。

「ごめん……なさい……ごめんなさい……」

助けられなくてごめんなさい、と。
伊達さんに何度も謝りながら、涙を流す。

ここに連れてこられてから、一体どれほど泣いた事だろう。
どれだけの死を見てきたことだろう。
私は無力で、誰も助ける事が出来なくて。
どうかこの力で、今度こそ大切な人を守りたい。

「んぐっ……あっ……」

体に纏わりついていた泥は遂に、口から体内へと侵入してきた。
舌の上を踊り、喉を通り抜け、胃と肺を満たし、血管に混じる。

「か……はっ……」

あまりの息苦しさにむせかえったその時。
私の頬に、誰かの手が添えられた。
死にかけている伊達さんの、手だった。
私は驚きながらも、心の中は罪悪感でいっぱいで、その手に触れる事が出来なくて。

伊達さんの口が動く。
ヒューヒューと息が漏れるだけで、声になっていなかったけれど。

――負るんじゃねえぞ。

と、そんな声が、聞こえた気がした。

そして、触れていた手がゆっくりと地面に落ち。

私の目の前で、伊達さんの呼吸は止まった。






【伊達政宗@戦国BASARA   死亡】



■ ■ ■

黒い泥が私の全身を駆け巡る。

泥はやがて私の心臓部に沈殿し、新たな鼓動を生み出した。

どくん、どくん、と。
久方ぶりに、自分の心臓の音を聞いた気がする。
けれどそれは、決して心地よいものではなく。
おぞましいモノがそこで胎動しているように感じられた。

「気分はどうかね?」

背後から、神父の声がする。

「最悪に……決まってるじゃないですか……」

そう応え、頭を抱える。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、と。
ノイズのように頭に響く、黒い感情。
この世に存在するネガティブな感情を、纏めて頭に突っ込まれたかのようだった。
泥が体の全体に馴染み、動けるように成るにはまだまだ時間が掛かる。
それまでは立ち上がることも出来ない。背後から話しかけてきた神父に対して、振り向くことも出来ない。

「負け……ない……こんなもの……」

そうだ。
負けられない、伊達さんを犠牲にしてまで、力を手に入れたんだ。
こんな感情に飲まれてたまるか。

「私は……唯ちゃんを……」

「そうだな。君の大事な平沢唯を、■■する力が手に入ったのだ。
 ――喜べ、福路美穂子。君の願いはようやく叶う」

この男は何を言っている?

「なに……を?」

私が本当にそれを望んでいると――?

「違う!そんな事……望んでいません!
 私はこのゲームに乗った人や、主催者を殺して、唯ちゃんを守る!
 その為だけに……!」

「詭弁だな……」

そう言って、男は私を嘲笑い。

「自分を偽るのはやめたまえ。
 殺し合いに乗った者が憎いかね?君の大切な人を奪った者を悪と断じるか?
 だが君の思想は破綻している」

まるで、この瞬間を待っていたと言わんばかりに、私の心を抉りにきた。
神父はわざわざ、私の正面まで歩いて来る。

「殺し合いに乗った者を殺す。その行為はやがて、平沢唯から一番大切な者を奪う事になる」

そして、告げられる事実は。

「平沢唯の妹。平沢憂は殺し合いに乗っている。
 君は平沢憂も殺し合いに乗った者だから、という理由で殺すのかね?」

やがて静かに、私の心を打ち砕く。

「――――え?」

「私は主催者と繋がりのある人間だぞ?知っていて不思議では有るまい。
 まあ、確かに参加者全員の現状を知るわけではない。だが私と、ある男は君と平沢唯に興味があってね。
 以前から接触する機会が有れば良いと思っていた」

この男は今、何と言った?
唯ちゃんの妹さんが殺し合いに乗っている?何故?
平沢憂の人格については唯ちゃんから聞いていた、姉に似ずしっかり者で、殺し合いに乗るような子じゃないと聞いていたのに。
しかし、神父は平沢憂が、既に二名もの命を奪っていると言う。

「どうして……そんなことに……!?」

「聞きたいかね?」

確認する男の表情は、今や愉悦の表情を隠してはいなかった。
その理由を告げる瞬間が待ちきれないといった様子で。
ここまで露骨な態度では、この男がこの瞬間を楽しんでいることなど明らかだった。

これ以上、この男の話を聞けば必ず後悔する。
最低でも心が蝕まれている様な状況で、聞くべき事では無いと分かっているのに。
ここまで聞いてしまったら、これ以上聞かないなんて最良の選択肢を選ぶことなど出来なかった。

よって、男は求められるままに、事実を告げる

「平沢憂が最初に殺した人物である、池田華菜
 君の後輩だよ。彼女が原因だ」

「……そん……な……」

そして、目測は外れる事無く、私は後悔した。
聞かなければよかったと。知らなければよかったと。

殺した?唯ちゃんの妹が、華菜を?

私は以前、唯ちゃんに対して些細な運命を感じていた。
でもこれは、ああなんて――最悪な運命なのだろう。

嘘であると信じたかったけれど……。
おそらくこれは真実だ。
男の表情を見れば分かる。あれはすぐにばれる嘘で楽しんでいる顔じゃない。
真相を示して、面白がっている表情。

愕然とする私へと追い討ちをかけるように、神父は更に残酷な事実を突きつける。

「平沢憂は池田華菜に殺されそうになった。
 だから自分を守る為に、池田華菜を殺した。
 平沢憂が殺し合いに乗った理由など、突き詰めればそれが全てだ」

その真相は最後まで容赦なく。
私の心を、決意を、粉々になるまで踏みにじった。

「池田華菜は君を守る為に、殺し合いに乗っていたのだよ」

それじゃあ、それじゃあ全部私のせいで……私の為に華菜は……。
私のせいで唯ちゃんの妹は……。

「私が……いたから……」

私がいたから、華菜は唯ちゃんの妹を殺そうとして、殺された。
私がいたから、唯さんの妹は人殺しになった。

「そうだな。君が存在しなければ、君さえいなければ池田華菜は死なずに済んだかも知れない。
 平沢憂とて、誰も殺さずに済んだかもしれないな」

「私さえ……いなければ……」

神父が告げた一連の出来事は、私を絶望させるに十分な効果を発揮した。
体中から力が抜けていくのを感じる。
それでも、男の言葉は続く。

「だが、これで分かったろう?君の思想は破綻している。
 誰かを守る為に、殺し合いに乗った者を殺す。
 しかし、平沢唯の妹を殺す行為は、平沢唯を守ることになるのかね?
 逆に彼女の心を完膚なきまでに傷つける行為だろう。

 元より、殺し合いに乗った者が全て悪だと、そんな事を短絡的に断ずることなど出来はしない。
 誰が、平沢憂を責められる?誰が、池田華菜を責められる?
 彼女達はただ守りたい者を守るという、自分の欲望の為に戦ったに過ぎないのだ。

 そして、君とて彼女達と同様に、自分を偽る必要など無い。
 己の欲望を認めたまえ、そして自分の望みを叶える為に、その力を行使すればいい」

その言葉は心の傷口に塩を塗りたくるように、私の中に溶け込んだ。

「さあ今一度、選択をしたまえ。君は何を望む?
 何の為に力を欲した?」

そう言い残し、男は去っていく。

一人残された私はただ、告げられた事実にうち震え。

「唯ちゃん……私は……」

もう分からなくなった自分の心が、黒く染まっていくことに怯えていた。


【E-4/薬局/一日目/夕方】

【福路美穂子@咲-Saki-】
[状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、アンリ・マユと契約、黒化(精神汚染:小→中)
[服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない
[装備]:レイニーデビル(左腕)、聖杯の泥@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、伊達軍の馬 、六爪@戦国BASARA、片倉小十郎の日本刀(半分ほどで折れている)@戦国BASARA
[思考]
基本:私は――。
0:暫く行動不能。
1:唯ちゃん……。
2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。
3:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい
4:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す
5:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す
6:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら?
7:張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える
8:トレーズと再会したら、その部下となる?
?:唯ちゃんを独占したい。
[備考]
登場時期は最終回の合宿の後。
ライダーの名前は知りません。
※トレーズがゼロの仮面を持っている事は知っていますが
 ゼロの存在とその放送については知りません
※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています
浅上藤乃の外見情報を得ました
織田信長の外見情報を得ました
※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。

※アンリマユと契約、黒化しました。
※アンリマユとレイニーデビルの両方が体から離れた場合、死に至ります。
※黒化進行中にて、精神汚染は時間経過によって増大します。

【黒の騎士団の服@コードギアス】
黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム
超ミニスカ

□ □ □

言峰綺礼は去り際に振り返る。
伊達政宗の死体の傍らに座り込んでいる、黒い泥に纏わり憑かれた少女を眺める。
その震える背中と悲痛な表情を見ているだけで、既に彼の娯楽になりえていた。
出来るならばもう暫く眺めていたい所であったが、彼には別の仕事があり、それに赴かねばならない。

(その苦悩とくと味わわせてもらった。……まあ、この仕事の報酬としては、なかなかに悪くない)

コレこそが言峰綺礼にとっての愉悦にして娯楽。
彼は主催に協力する条件の一つとして、職務中に関わった参加者への切開が認められていた。
その際には、多少の情報開示も是とされている。

(さて、次はアーチャーの回収だな……。脱落したサーヴァントはこれで3体目、アレの起動もそろそろか……)

そして、言峰の姿は消えうせる。
福路美穂子を一人残し、去っていく。

「さらばだ、福路美穂子。せめて、助けた者が女ならば殺すな。
 目の前で死なれるのは、中々に堪えるぞ」

最後に、そう言った彼の言葉は福路美穂子に届く事無く、
彼の姿と同様に、大気混じって消え去った。

【?-?/???/1日目/夕方】


【言峰綺礼@Fate stay/night】
[状態]:健康
[服装]:神父服、外套
[装備]:???
[道具]:???
[思考]
基本:???
1:サーヴァントの死体(魂)を回収する
2:荒耶宗蓮に陰ながら協力する
3:この立場でバトルロワイアルを楽しむ


[備考]
※サーヴァントとの契約を結んでいるかは不明です

時系列順で読む


投下順で読む



208:六爪流(後編) 伊達政宗 GAME OVER
208:六爪流(後編) 福路美穂子 216:巡り合いは残酷すぎて
208:六爪流(後編) 伊達軍の馬 216:巡り合いは残酷すぎて
203:Paradox Spiral(後編) 言峰綺礼 217:黄金ノ剣


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最終更新:2010年03月07日 10:11