最凶のバケモノ達◆QkyDCV.pEw




どうやらここはシャルティア・ブラッドフォールンの全く見知らぬ土地であるらしい。
とっ捕まえた戦士から聞き出した話から考えるに、ここはネオサイタマという場所の近くと思われるが、そいつも拉致されて来た口で本当にそうなのかの確証も得られなかった。
シャルティアが見つけた人間は全部で四人居た。内二人は殺してしまったので残る二人を追ったのだが、どうにも見失ってしまったようだ。
眷属まで使っての捜索に全く引っかからなかったのだから、かなり高速で移動したのだろう。最早周辺には居ないと考えるべきだ。
とにかくここが何処かがわからなければどうにもしようがなく、シャルティアは特にアテもなく人の居そうな場所を目指し歩いてみる。
この町、人の住居と思しきものは所狭しと建ち並んでいるのに、人の気配はまるでない。
建築様式も何処かで見た事あるような無いような、な感じで。それなりに進んだ文化と技術を持った国だとわかる程度だ。
高いところに上がってみても、人の気配は無い。時折、妙な違和感があって集中して気配を探ってはみるものの、やはり何も引っかからない。
よほど人が居ない土地なのだろう。いや、人は居たのだが、何処かへ消えてしまったというのがより正確な気がする。
「流石に、参りましたでありんす」
もう一度、シャルティアは現状を整理する。
恐らくシャルティアは何者かに拉致された。もしくは強制テレポートの類で吹っ飛ばされた。
その際、身につけていた装備品を悉く奪われているので、そういった魔法の罠の類でもなければ、やはり拉致されここに放り出されたと見るべきか。
「まったく、これではまるで迷子にでもなった気分でありんす」
少し考えて、シャルティアは頭を抱えてうずくまった。
「まるでじゃないしっ! まるっきり迷子そのものだしっ! ああああああああああ、なにこれなにこれ、わざわざ人をさらっておいてそのまま放置って何かの特殊プレイでありんすか!? 幾らなんでもこんな現状に性的興奮をもよおすとか難度高すぎでありんしょう!」
創造主にエロゲ設定を山盛り詰め込まれたシャルティアさんにも、流石にコレは無理らしい。
遊んでいる場合ではなかったのである。
てっきり、ここにシャルティアを拉致した者から何らかの接触があるものと思っていたのだが、見つけられたのは同じように捕まって来た者ばかりである。
確認したのは一人だけであるが、シャルティアを相手にロクに前に立つ事すら出来ぬような輩がシャルティアを拉致出来るなどとは考えられないので、アレ等も先に捕えた者と同様であろうと判断した。
ここまで接触が無いのなら、恐らくシャルティアを拉致した何者かはシャルティアと会うつもりはないのであろう。
つまり、接触して来た時にそいつから直接拉致の理由を問い質そう、というシャルティアの考えは実行出来ぬという事で。
もちろんそれでは帰る方法もわからぬままだ。転移系の術は全て、この地に結界だか封印だかがなされているらしく使用不能。伝言の魔法も駄目。小憎らしい程に、シャルティアには何も出来ない状況である。
よよよ、とその場に崩れ落ちる。
「どうして何時もわたしだけがこんな目に……この前も気がついたらアインズ様に……あああああああああああああぁぁ、またこの前のような失態を晒したらきっと……」
その時のアインズの様を想像したのか、シャルティアの全身を怖気が走る。
「いやっ! 絶対に嫌でありんす! そうよ、今回は意識がなくなってるなんて事もないのだし、わたしにもまだどうにかする目があるはずっ!」
意地でも自力で帰還して見せよう、と気合いを入れるシャルティア。ちなみに支給品やらの入ったバッグは最初に居た場所に放置したままである。
どうするべきか、不用意に動かず慎重に行動し(←既に色々と手遅れ)逆に窮地を見事乗り切ったとアインズに褒めてもらえるよう頑張って考えようと、頭を捻る。
そんなシャルティアの耳に、何やら騒がしい声が聞こえて来た。
「えー、これより第一回放送を開始します……」
シャルティアは、苛立たしげに怒鳴り返す。
「うるっさい! わたしが考えてるんだから邪魔すんな!」
そう怒鳴って音の発生源と思しき場所目掛けて、そこらに転がってる石をぶん投げる。
シャルティアの百レベルは伊達ではなく、ぶん投げた石は見事音の発生源である家の屋根の端についた魔法の装置を粉砕する。
だが、声はまだ聞こえる。シャルティアの感覚は、それは人が発する音とは似て非なるものであると感じ取っている。
別の音の元を探ると、街中に立っている石の柱の上部に付いている魔法の装置から聞こえて来る。
「……以上、十六名になります。また禁止エリアはC1、A8、H8の三箇所になります……」
小首を傾げるシャルティア。
「十六人? 何が? あーもうっ! 良く聞こえなかったでありんすよ!」
別に声は悪くない。大声で怒鳴ったり装置壊したりしていたからである。
実に馬鹿丸出しなザマであるが、これは彼女のみに原因があるわけではない。
エロゲのような設定を詰め込まれているシャルティアであるが、設定とは趣味嗜好であったり、性質だったりを定めたもので。
趣味嗜好が、戦闘に有利云々ではなくそれ以外の方向に突き抜けていったような内容であるのなら、好き嫌いは概ね当人にとっての弱点にしかなりえない。
性質にした所で、冷静沈着で常に最善の判断を下せるような性格を形成するような要素は、そのほとんどが可愛いといった要素と相反する。つまり、こちらも設定を盛られれば盛られる程立ち回りが不利になっていくものだ。
シャルティア・ブラッドフォールンはそれ以外、つまり能力的な面で言えばかなりのガチ仕様であり、総合的にはナザリック守護者達の中でも最強の部類に入ろう。
スキルや能力のバランスも良く、戦闘の際の大きな弱点もない。アインズがこれと戦うと言い出した時は、残る守護者全員が止めに入った程だ。
そういった能力の高さを活かす為の頭脳に、彼女は制限が加えられているという事。さながらガンダムの阿頼耶識を通した強力なフィードバックを、安全装置が防いでいるかのよう。いや別に、シャルティアに能力を発揮したらフィードバック食らって死ぬなんて設定は無いが。
結局、シャルティアは放送を耳にしていながら聞き逃すという素敵な失態を晒す事に。
まあ主たるアインズ・ウール・ゴウンも後半聞き逃していたようなので、きっと責められるような事は無かろうが。

シャルティア・ブラッドフォールンの能力はいずれかに特化しているわけではなく、故に様々な事態に対応出来るようになっている。
ならばこうした予測も出来ぬ緊急事態の対処において、彼女程相応しい存在はあるまい。
実際、様々な術への耐性を備え、耐久力や回復力も高い、索敵能力が少々劣るも、完全な不意打ちを食らったとしても一撃でシャルティアを打倒しきるのは至難の業だ。
そしていざ攻撃に移ったとなれば、物理、魔法、双方をバランス良く行使出来、スキルも充実している為ほとんどの防御手段への対応策をその手にしている。
彼女を殺すのは極めて難しく、彼女に殺せぬ敵はほとんど居ない。そんな存在である。
挙句、初見殺しも多数所持していて、魅了の術も数多揃えている為、敵を倒した後の情報収集も万全。スキルと能力だけ見るなら、アインズよりよほど彼女の方がこの地に向いているだろう。
また装備が奪われた現状でも、彼女はアンデッドである為疲労とは無縁で、当人が手を止めるか、行動不能になるまで何時まででも戦闘力が落ちぬままに継続戦闘が可能だ。
これまでに打倒された二人の守護者、これを倒した者達ともしシャルティアが戦うとなれば、恐らくまた別の結果になっていたであろう。
アルベドでは殺しきれなかった斗和子も、シャルティアならばすり潰す事が可能だ。デミウルゴスが耐え切れなかったオシュトルの斬撃もシャルティアならば堪えきり回復再生、しかる後反撃が可能であったろう。
斗和子やオシュトルならば、シャルティアの弱点である血の狂乱発動まで戦いきる事が出来るだろう。だが、血の狂乱はただのバーサークではない。魔法やスキルの行使も可能な、暴虐の嵐であるのだ。如何な双勇であろうとこれを耐え切るのは難しかろう。
この地に招かれた事で、計らずもシャルティアは守護者最強の証明を為し得る事となろう。当人がそれを望んでいるかどうかはさておき。



月山習、一生の不覚。
とばかりに頭を抱え、おろおろとその場でふらつく喰種月山習。
放送を聞いた結果である。そりゃ、アテにしていた喰種の二人の内の一人、霧島董香の死亡をいきなり聞かされてしまえばショックも受けよう。
習がこれまでに出会ったのは四人。学生らしき少女が二人、奇特な格好をした忍者紛いが一人、少女の容姿をしたバケモノが一人。
実に半数が人外である。これほどの者が居るというのならば霧島董香程の喰種が殺されるのも理解は出来る。
彼女とは面識もあるし、それなりに気にはかけている。一度殺されかけた相手でもあるし。ただ、彼女以上に、彼女が死んだ事で衝撃を受けるだろう人物、金木研の事が気になる習だ。
かなり真剣に、一度彼に会っておかなければと考え始める。
ふと、何かに気がついた習は、今居るビルの屋上から隣にビルへと飛び移る。音も無く着地をし、滑るように走る。再び跳躍、ビル端のフェンスの上に一足で飛び乗り、再び次のビルへと飛ぶ。
こんな派手なムーブ、もし他人に見られたらと思うと何時もの町ではそうそう出来ないだろう。習は少し気を良くしながらビルの屋上を飛び移りながら移動を続ける。
が、突然足が止まる。
『何っ!?』
驚いたなんてものではない。
それまでアホみたいに騒ぎ喚き、挙句隠す気配すらない死臭を漂わせながらゆっくりと移動していた対象が突然消滅したのだ。
習の鼻は喰種ならではの鋭敏さを持ち、その索敵範囲は彼が追っているゴスロリバケモノ少女の索敵範囲を軽く超えている。
別の臭いで上書きしただのでは断じてない。突如、臭いそのものが消失したのだ。
かなり壁の厚い建物にでも入ったか。いや、臭いのみならず、習の肌にひりつくように漂ってきていた死の気配までが、綺麗さっぱりなくなるというのはありえない。
だが、そうなった原因らしきものはわかるので、習は細心の注意を怠らぬままに、追跡を続けた。



ダークニンジャは流れて来た死者を告げる放送に、思う所があったのか表情を引き締める。
呼ばれた名に聞き覚えは無いが、ダークニンジャのニンジャ第六感が言っているのだ、呼ばれた名の中にも恐るべき使い手が居たであろうと。
それは直前に姿を見かけた、ニンジャならざる圧倒的脅威の存在故の事だろうか。否である。
アレの存在もまたダークニンジャが警戒を強める原因ではあろうが、だからと言ってダークニンジャのニンジャ第六感の感性にブレが生じる事は無い。
何処までも冷静に、冷徹に、現状がどうであるかを受け止める為のセンサーとしての役割に、乱れが生じる事は無いのだ。
故にこそ、ダークニンジャはこの地に複数の絶大なる脅威が存在する事を知る。
例えば江戸川コナンであっても、シャルティアのような規格外は特別である、と考えているフシがあった。
もちろん彼の知能ならばアレクラスのバケモノが複数存在する可能性にも当然思い至っているだろうが、まずはアレを対処すべしと全力をそちらに傾けてしまっている。
だがダークニンジャは違う。ニンジャならではの独特かつ超越した感性により、更なる強敵の存在をコナンよりも確かなものとして感じているのだ。
ダークニンジャは町を走る。
前述の理由により、常ならぬ警戒を周囲に張り巡らし、四方にカラテを向けながら。
そしてダークニンジャの優れた感知能力は、手にしたキルリアン感知器よりも早く、その存在をダークニンジャに教えてくれた。
これもまた、ダークニンジャがまるで出会った事のない類の気配であった。
少ししてキルリアン感知器も反応を示すが、その数値はあのバケモノはもちろん、ダークニンジャよりも大きく劣るものであった。だが、だからこそ、ダークニンジャはこの数値が戦闘力の高さではないと察する。
ダークニンジャのニンジャ第六感は、この気配の主の並々ならぬ脅威度を感じ取っていたのだ。
だがダークニンジャは今度の相手には遠くから様子を見るのではなく、自身をその脅威の前に晒しだす。
まず、ダークニンジャを前にした相手の反応を確かめる。
ダークニンジャの登場にもその大男は動じた風もなかったのは、そういったものが表に出ずらい人間であるかもしくは、ダークニンジャのニンジャソウルを感じ取っていたか。
大男は手にしたバッグより太長い棒状の武器を取り出す。
言葉は無い。あるのは肌にひしひしと伝わってくる殺気のみ。ダークニンジャは先の青年の時と同じように、僅かに眉を動かした後、お辞儀をしながら言った。
「……ドーモ、ダークニンジャです」
大男からの返事は無かった。
これは許されざる非礼であろう。だが、少しダークニンジャも予想していた事であった。
挨拶を返す事は古事記にも記されているユイショタダシキものであるが、マッポーの世においては古事記を全く知らぬ無学の徒が強力な力を持つというのはありえる話だ。
ニンジャソウルをまるで感じぬ事といい、やはりこの地にはニンジャ以外の強者が存在するのだ。それも複数。
ダークニンジャは長棒を構える大男に対し、だらりと両腕をたらした一見無防備にも見える構えを取る。だが、これを無防備と受け取る思慮の浅い者は、たちまちダークニンジャのカウンターの餌食となろう。
そんな誘いの型であったが、大男はダークニンジャの構えなぞ委細構わず、ゆっくりと前進してくる。
その覇気とダークニンジャの仕掛けなぞ意に介さぬ自信に、ダークニンジャはぼそりと問う。
「名乗れ、大男よ」
返事は無くても構わない、その程度の一言であったが意外にも相手からの答えはあった。
「……ヤマト八柱将、ヴライ」
ヴライと名乗った大男は、その一言と共に、巨大な長棒を振り下ろして来た。

何たる豪腕、何たる威力か。
ヴライの振り下ろした長棒は叩き付けた大地を深く抉り、跳躍し距離を取ったダークニンジャを吹き上げた土砂が襲う。
ダークニンジャ、叩き付ける土砂を厭わずじっとブライから目を離さない。
当たり前にヴライはこの土砂の中を突っ込んで来た。攻撃はまたしても単純明快な、振り下ろしの一撃。
だがその振り下ろしに、珠玉の技が込められている事をダークニンジャは見てとった。
あれほどの威力。筋力だけで為し得るものではあるまい。いや、技のみでも不可能だ。類稀な鍛え抜かれた筋力を、膨大な経験に基づいた術理により運用し、早く、強くを何処までも極め尽くして初めて至る戦人の境地の一つであろう。
実際ダークニンジャも、飛んでかわさねば危うい。ギリギリでかわしあわよくば反撃などという甘えた行為の一切を拒否する、鋭さを備えた攻撃であるのだ。
太い棍棒をそのまま長くしたような、常識外の膂力でもなくば振り回せぬ武器を軽々と振り回すヴライ。だがそれは彼の戦闘力のほんの一部に過ぎない。
ダークニンジャが注視しているのは、その長棒を大地に叩き付けた動き、そのものだ。
最初の一撃は敢えて大地を叩いた。だが、次の一撃は大地に付く直前で棒先がぴたりと制止していたのだ。
それはダークニンジャの飛び道具による反撃を警戒しての事であろう。もしスリケンなどで仕掛けていても、あの長棒が跳ね上がり容易く弾かれていた。
たったこれだけのやりとりでもわかる。この大男ヴライは、ただの力自慢などでは断じてない。もちろん、ニンジャソウルを手にした事で有頂天になってしまうような浅薄な輩とも違う。
己を厳しく律し、何時でもより強くならんと切磋琢磨し続けて来た者の持つ、重厚な土台が感じられる。
これを一言で言い表すならば、見事なカラテ、であろう。
ヴライの足は止まらない。後退したダークニンジャに向かって、三度目の振り下ろし。
『否っ!』
ダークニンジャは前二度と全く同じモーションのヴライに対し、脅威は上ではなく前と感じ、その直感を信じ動く。
果たしてヴライの振るった長棒は振り下ろす挙動から一瞬で切り替わり、奥深くへと伸びていく突きとなる。もし後ろに下がる事でかわそうとしていたならば、この突きに追いすがられ致命的な一打を許したであろう。
だがヴライが稀有な武人であると言うのなら、ダークニンジャもまた古今稀に見る優れたニンジャだ。
突きの気配を感じ取り、後退ではなく左方への跳躍に切り替えこれをかわす。
ヴライの突きの威力は周辺の大気をすら巻き込み伸び行くもので、渦を巻いた風がダークニンジャを引きずりこまんと吹き付けるが、ダークニンジャはニンジャ脚力で大地を踏みしめこれを堪える。
更に、この突きの風圧で動きを制したヴライは、三種目の攻撃、薙ぎを繰り出す。
これぞ必殺の一撃であろう。前方の空間全てを削ぎ取る回避不能の剛撃だ。
地上には物理的にこれを回避する空間が存在しない。何処に居ようと薙ぎの範囲内であり、この範囲から一足で飛べる距離を、ヴライが長棒を振るう速度を越えて稼ぐのはさしものダークニンジャにも叶うまい。
それでも、ダークニンジャは歴戦を潜り抜けてきた勇士。出来ぬをこなしてこその超一流であろう。
先程大地を深く踏みしめたのは、風圧を堪えるのみが目的ではなかった。
次撃を薙ぎと予想したダークニンジャは、深く沈みこむ事で跳躍に必要な脚力を溜め込んでいたのだ。
一瞬でヴライの頭上を取るダークニンジャ。そして、何たる妙技か。空中で一回転し、ヴライの頭部を蹴り飛ばしにかかる。
咄嗟に、長棒から片手を外し、頭上に掲げて手の平で受け止めにかかるヴライ。ダークニンジャのニンジャケリキックを、彼は片手で受けようというのか。
だがここでもまたダークニンジャは、カラテならぬカラテの極地を見出す。
無造作に頭上に掲げたヴライの手は、骨格が足先にまで連動し、手で受けたとて全身と大地をもって支える事が出来る構えとなっていたのだ。
自らの必殺攻撃の直後であるというのに、即座にこれほどのウケが出来るなど、さしものダークニンジャも驚きを隠せず。実際、ケリにかかった足は振りぬく事が出来ず、逆にヴライの手で弾かれる結果となる。
しかしこの結果はダークニンジャ故の事でもある。
並のニンジャであればそのままヴライに足を掴まれていたであろう。ヴライのウケの強さを見てとったダークニンジャは咄嗟に、ケリを振りぬくケリではなく弾くケリに切り替えたが故のこの結果なのである。
さしものヴライも、片腕のみではダークニンジャ着地までの間に長棒を振るう事は出来ず、両者にとってあまり本意ではない形で交錯は終わる。
表面的に見えた動きは、ブライが振り下ろし、振り下ろし、突き、薙ぐ。これをダークニンジャが下がり、下がり、横に飛び、上に飛んで反撃するも受けられる。のみである。
これのみでも実にアクロバティックで迫力のあるやりとりであったのだが、これらの動きにはそれぞれ常人では踏み込みえぬ深い鍛錬と技術が詰め込まれており、両者の実力の程が知れようものだ。
現時点ではいずれに有利が付くといった風でもない。
だが、ここでダークニンジャは動きを変化させて来た。
戦場を広い道路上から、建物の中へと切り替えてきたのだ。
確かに、長物は建物内では不利であろうし、ヴライの得物を封じる意図でそう行動するのは正しい選択であろう。
建物の中へと走るダークニンジャを、そうとわかっていて平然と追うヴライ。
背の高いビルの一階ロビー、ここに入り込んだダークニンジャであったが、一階ロビーは上二階まで吹きぬけた広い空間になっており、ヴライが長棒を振り回すに充分なスペースがあった。
ダークニンジャは仕方が無いとでも思ったか、ロビーにそそりたつ巨大な柱を背負って構える。ヴライはやはり気にした風もなく長棒を振り下ろす。
そう、ヴライが構わず建物内に入ったのは、中に鉄筋が入ってようと大理石で覆われていようと、叩き砕く自信があったからである。
斜めに振り下ろされたヴライの長棒は、柱を袈裟に叩き斬ってしまう。その抉られた柱の傷跡は、明らかに長棒の長さよりも深い。
少し計算が外れたか、と柱の後ろに回りこんだダークニンジャは、これに同じく袈裟に手刀を叩き込む。こちらもヴライに負けじと中の鉄筋ごと深々と柱を抉り取る。
上にだけでなく、ヴライのドウジマを振り回しても問題ないぐらいに横にも広いフロアであるという事は、つまり、支えとなる柱にその重みが集中しているという事で。
ただの一本が支えたらず崩れるだけで、フロア全体の天井が細かく揺れ始めたではないか。
フロアの構造を一瞬で把握し、最適の柱に目をつけこれをヴライの力すら用いて破壊する。
ただ強いだけのニンジャには絶対不可能な戦い方だ。当然仕掛けた方のダークニンジャは即座にビルの外へと脱出。轟音と共に崩れ落ちてきた天井に、ヴライは避難が間に合わない。
だが、とりたてて彼は慌てる様子もなく、手にした長棒を深く後ろにまで引き構え、コンクリートの塊がヴライの頭上に至った瞬間、弧を描き長棒がこれを粉砕する。
細かな瓦礫は流石に避けようが無かったが、問題になるような大きな塊は全てその一閃で砕いたヴライは、頭上や肩に乗った瓦礫を払いもせずのそりとビルから出る。
ビルの外では、両腕を組んだダークニンジャが道路に立っていた。まるでヴライが出てくるのを待ち構えて居たかのように。
しかしヴライは外に出てもダークニンジャから目を離し、頭上高く、自らが入っていた十数階のビルを見上げている。
ヴライの知る建築では、ここまでの大きな破壊があれば建物全体に影響を及ぼす事必至であったのだが、このビルは一層の底が抜けた程度ではビクともしないようだ。
それを確認し、戦闘の最中だというのに何処か感心したような顔になる。
完全に無視された形のダークニンジャであるが、そもそもこの男、激情とは最も縁遠い男。怒りを顕に襲い掛かるような真似はしない。
そんなダークニンジャをせせら笑うヴライ。わかりやすいぐらいわかりやすく隙を見せてやったというのに、お互い引っ込みがつかなくなるような必殺の間合いへは決して踏み込んで来ようとしないダークニンジャの腰抜けっぷりを笑ったのだ。
「つまらん男だな。殺し合いをする気は無いか?」
本来のダークニンジャならば、敵が何をほざこうと黙殺するのであるが、どうしたものか、ダークニンジャはヴライの言葉に返事を返してやる。
「……ニンジャでもない、かといって人間でもあるまい。お前は一体何者だ」
ヴライの眉根が怪訝そうに寄る。
「まるで自分は人間ではない、と言っているように聞こえるな」
「ふむ、それだけの暴威を持ちながらニンジャを知らぬか。貴様、ネオサイタマの者ではあるまい。ヤマトと言ったか、事によれば、日本の外の者か?」
ヴライにはまるでわからぬ単語ばかりだ。それにこの男の動きは、ヴライも見た事が無いと思える程独特のものであった。
この踏み込み過ぎぬ戦い方こそがこの男の戦いで、ヴライが致命的な隙を見せるのを待ち構えている、といったヴライが最初に抱いた予測は実際に隙があったにも関わらず踏み込まなかった事で外れであったとわかった。
だが同時に、この男は隙があっても攻めない、つまり今の時点ではヴライにリスクを負ってまで大きな損害を与えようと思っていない、とも考えられる。
即ち、この男の狙いは時間稼ぎ。
ならば付き合う事もあるまい、と踏み込みかけたヴライ。その足が止まる。
ダークニンジャはそちらの気配に注意を向けながら、心の中で呟いた。
『我が策、成れり』
「あー、もうっ。この魔法、気配も消してくれるのはいいんでありんすが、こっちに気付いてもらえないのは面倒この上無いっ。あー、そこの二人、今からわらわの質問に答えなんし。その後でそっちの覆面は顔を見せて見た目が良かったらもう少し生かしておいてやりんす。そっちの不細工は自殺でもしなんせ」
周囲の大気が歪んで見える程に明白な強者気配を相手に、この超が付く見下し台詞を平然と吐けるのはこの会場広しと言えど、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンはナザリックの階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン以外におるまいて。



「うん、やっぱりあの音の所に行ったのか。さて、僕はどうしたものかな」
月山習は三者が遭遇する様を、少女、シャルティアの索敵範囲外、更にダークニンジャやヴライからも察知されぬ距離を取りながら観察していた。
漂う匂いは間違いなく戦いの匂い。あの三人がどんな会話を交わすかはわからないが、結果として戦闘は起こるだろう。
あの少女の能力を見ておきたい、出来れば実際に手合わせも、と考えていた習には願ってもない好機。しかも先程出会った忍者装束の男までヤる気でいるのだ。その上、足の遅そうな、逃げる時の囮に出来そうな者までいてくれる。
「んー、ここは僕もお邪魔するとしようか」
こきりこきりと手首を鳴らしながら、習もまた、かの人外戦場へと足を進めた。



【E-8/朝】
【シャルティア・ブラッドフォールン@オーバーロード】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:人を探す
1:人を見つけ、ここが何処か等の基本情報を入手する。
2:アインズ様にこの楽しい場所(トロピカルランド)を是非紹介したい。(←名簿を見ていないので、アインズが来ている事は知らないがっ)
※彼女の支給品他は、G-6付近に放置されたままです。また彼女は首輪爆破で自分は死なないと思ってますし、殺し合いのルールも何一つ把握しておりません。
※シルバーカラスよりニンジャスレイヤーの世界に関する様々な事を聞き出しました。
※どうやらシャルティアの吸血鬼の気配は、ニンジャや喰種といった鼻の利く連中には、かなりの遠距離からでも存在を感じ取られてしまう模様。


【ヴライ@うたわれるもの 偽りの仮面】
[状態]:健康
[装備]:クインケ『ドウジマ1/2』
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:
1:全てを殺して優勝し、帰還する。


【ダークニンジャ@ニンジャスレイヤー】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0~1、鉄華団のマーク入りペナント、キルリアン感知機
[思考・行動]
基本方針:ベッピンを取り戻す。脱出、優勝、可能性の高い方を選ぶ。
1:ベッピンを探す。役立ちそうにない者は人目につかないよう抹殺する。
2:光覇明宗総本山、501基地を調査し、十二時間後にCGS本部でオルガと合流する。
3:ニンジャスレイヤーを殺す。十三時間後、指定した場所でイクサを行う。
4:三日月・オーガス、ビスケット・グリフォンの捜索・保護。
5:キルリアン感知機とやらに、明らかにニンジャでないものも反応していた。これはよもや……
[その他]
※参戦時期は第六話『コンスピーラシィ・アポン・ザ・ブロークン・ブレイド』以後。


【月山習@東京喰種トーキョーグール】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:喰種同士で力を合わせて脱出する。
1:ヤモリに協力を持ちかける。
2:甚だ不本意ではあるがカネキ君には手を出さない。
※この殺し合いは他所の喰種達が娯楽の為仕掛けたものだと考えており、無理矢理さらわれた者の他に狩人が居てこちらを殺しにくると予想しています。

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050:Darkninja Look before he leap シャルティア・ブラッドフォールン 000:
ダークニンジャ
月山習
035:蟷螂の斧 ヴライ

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最終更新:2017年03月31日 00:26