会いたい気持ち ◆L5mMuLNUiM
月と星の光だけが頼りの深夜過ぎ。
そんな時分にも関わらず一人の女性が海近い川岸に立っていた。
彼女の名は逸見エリカ。
戦車道強豪校である黒森峰女学園で副隊長を務めるほどの人物である。
そんな彼女だが今はいつもの勝気な雰囲気が鳴りを潜めて周囲に怯えたように立ち竦んでいる。
黒森峰の中でも選ばれた者だけが着る事を許された黒のパンツァージャケットも心なしか周囲の闇に溶け込んでしまいそうだ。
それも無理はない。
戦車道は確立された武道であり、規定によって安全は概ね保たれている。
だからいくら砲弾が飛び交う中を戦車で駆け巡っていても命の危険に晒される事はほぼない。
だが今は違う。
先程目の前で起きた殺戮。
あれを目にしてエリカは自分が死と隣り合わせの戦場に放り込まれたのだと否応なく理解した。
(なんで私がこんな事に巻き込まれて……しかも私だけじゃなくて隊長まで、それに……)
エリカはここに来てすぐ目に通した
参加者名簿を思い出していた。
そこには敬愛する黒森峰の隊長である西住まほと、その妹のみほの名前があった。
とりあえず名簿に記載されていた知り合いはその2人だけだった。
それを喜ぶべきか悲しむべき。
だがいつまでも悩んでいられない。
こうしている間にも二人の身に何か起こっているかもしれない。
あの決勝戦の時のように間に合わないのはもう嫌だった。
(まずは隊長と合流して……それから可能なら……)
ふと西住みほの不安がる顔が頭をよぎった。
まほの妹であるみほは去年までは黒森峰に在籍していて当時は副隊長であった。
ある事件がきっかけで大洗に転校してしまったが、それまでは一緒に戦車道で切磋琢磨してきた間柄だ。
だからみほがどんな性格かは知っている。
戦車から降りるとどこにでもいるような大人しい子だ。
まず間違いなく自分以上に怯えて不安がっているだろう。
(ったく、こんなところに来てまで心配させて……もし会えたら一言言ってやらないと気が収まらな――)
「あの、すいません」
「ひっ、だ、誰!?」
そんな考え事をしていたせいだろうか。
急に声を掛けられるまでエリカは誰かが接近していた事に気付けなかった。
だから反射的に名簿などを確認した際に取り出しておいた短剣を声のした方に向けてしまった。
それはこんな異常事態なら取ってしまっても仕方のない行動だった。
またエリカの強気でプライドが高い性格もこの行動を取る一因となっていた。
しかし声を掛けてきた人物にとってはそれは致命的な行動だった。
「え?」
一発の銃声と共に遠ざかる意識の中でエリカが目にしたもの――それは夜空の光に映える白い仮面だった。
▼
佐倉慈には時間がなかった。
自分が覚えている最後の光景は学園生活部の3人を守るために扉を閉めて『かれら』に噛まれたところだ。
そして次に目にしたのが先程の惨劇だった。
その後この島に降り立ってからまず身体を確認してすぐに理解した。
服装こそいつも通りだが、確かに『かれら』に噛まれた跡があった。
そして五十音順で記載された名簿には見知った名前が3つあった
その瞬間、慈の取るべき方針は決まった。
丈槍由紀、恵飛須沢胡桃、若狭悠里――学園生活部の3人に危険を及ぼす可能性が少しでもある者を殺す。
そして完全に『かれら』のようになって3人を襲わないように、最期は意識がなくなる前に海にでも身投げして死ぬ。
一瞬どんな願いも叶うなら元の身体に戻れるのかという考えが頭をよぎったが、すぐにその考えは頭から消した。
最後の一人になる過程で学園生活部の3人の命を奪うなどあってはならない。
慈は巡ヶ丘学院高校の教師であり、学園生活部の顧問でもあった。
最期の最期までこの命はあの3人のために使いたい。
それが『かれら』への対応を誤った慈に出来る最後の先生らしい事だと思った。
そして今一人の女性を撃った。
おそらく学園生活部の3人と同年代であろうその女性は暗がりの中を一人で立ち竦んでいた。
そして慈の呼びかけに対して短剣を向けてきた。
もしかしたら普段ならそんな行動を取らなかったのかもしれない。
だがそんな事は関係ない。
もしあの短剣が3人に向けられてそのまま突き出されて刺されてしまったら。
ここは慈悲なき殺し合いの場だ。
普段はおとなしい子でも恐怖に駆られて凶行に及んでしまう可能性は十分にある。
だから残酷だが冷徹にそんな子でも容赦なく殺す。
例外は武器を構えずにこちらに敵意を示さなかった場合だけ。
それ以外は一人残らず殺す気でいかないといけない。
それが自分にできる唯一の償いだと慈は短剣を拾いながら自分に言い聞かせていた。
不幸中の幸いにも先程の惨劇があった場所に置いて慈は最後方に位置していて3人には直接見られる事はなかった。
このまま上手くやっていければ3人に見つからずに終わる事が出来るだろう。
出来る事ならこんな姿は3人には見られたくない。
デイパックに入っていた白い仮面を付けたのはそんなささやかな感傷のせいかもしれなかった。
【A-4東部/深夜】
【佐倉慈@がっこうぐらし!】
[状態]:健康?、ゾンビ化0%
[装備]:ミカヅチの仮面@うたわれるもの 偽りの仮面、H&K P7(8/8)+予備弾倉@名探偵コナン、クレマンティーネのスティレット@オーバーロード
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本方針:学園生活部の3人を生かす。
1:3人に危険を及ぼす可能性が少しでもある者を殺して最期に意識がなくなる前に死ぬ。
2:3人に危険を及ぼさない人物がいたら3人の事を託す。
※『かれら』に噛まれた直後からの参戦。
※ゾンビ化は6時間で10%進行する。
▼
よく小説や映画で「銃で撃たれて死んだと思ったら胸ポケットに入れていた物で銃弾が防がれて助かった」みたいなシーンがある。
主に物語の終盤でよく見るシーンであり、割と感動的な展開と言える。
ただ現実は小説や映画ほど上手くは出来ていない。
エリカは海中に沈みゆく携帯端末を恨めしそうに横目に見つつそんな事を考えていた。
その携帯端末の中にはこの儀式に参加している全72名の詳細なデータが記載されていた。
もしかしたら先程の参加者の情報も載っていたかもしれないが、もう考えるだけ無駄だ。
最初にデイパックの中身を確認した際に役立つと思ってジャケットの胸ポケットに入れておいた。
そして運が良いのか悪いのか白い仮面が放った銃弾はちょうどその胸ポケットに当たった。
だが銃弾は携帯端末に当たって軌道は中央に逸れたので、結果的にエリカに銃弾が命中した事実に変わりはなかった。
エリカは破壊された挙句海の藻屑となった携帯端末を恨めしげに睨みながら間近に迫った死を感じ取っていた。
胸の銃創からは命の灯である血が止めどなく流れ出て、冷たい海水も加わってエリカの体温を容赦なく奪い取っている。
残念ながら助かる見込みは限りなく皆無と言える。
だがエリカは諦めていなかった。
(こんなところで、終われない……)
戦車は前進するもの。
ここまでだと諦めて足を止めるなど西住流の掲げる戦車道に泥を塗るようなものだ。
そうなれば隊長であるまほにも顔向けできない。
だから例え死が迫ってこようともエリカは諦めるわけにはいかなかった。
そしてそんなエリカの行動は報われた。
「――ッ、大丈――! ――りっ!! い――誰に――!?」
「か、仮面の――」
いつのまにか身体から体温を奪っていた海水の感覚がなくなっていた。
運良くどこかに流れ着いたのだろうか。
しかも近くに誰かいるらしい。
エリカは安堵した。
また戦車道を続けられる事に。
「まだ、西住流に……。今、行き……ますから、待っていて……下さい、隊長……」
【逸見エリカ@ガールズ&パンツァー 死亡】
※参加者詳細データ入り携帯端末は破壊された状態でA-4北部海中に沈みました(回収不可能)。
▼
今クオンの目の前で一人の女性の命が失われた。
死因は胸の傷跡からの出血と海水に浸かっていた事による体力の消耗。
それでもまだクオンが見つけた時には辛うじて息があったが、そこで糸が切れたかのように力尽きるように死んでいった。
だがクオンにとって目の前の女性の死よりも残した言葉の方が衝撃は大きかった。
(仮面って、まさかオシュトルが……いや、それよりも死んだヴライの方が……でも、それならハクも……)
ハクは死んだと聞かされた。
だからもう自分がいる意味が見いだせなくなってエンナカムイを後にした。
そして気がついたらこんな訳も分からない儀式に巻き込まれていた。
それに加えて参加者名簿に載っていた『ハク』の名前がクオンをより混乱させていた。
そこに来て仮面の者に殺された女性の出現。
クオンの心は目の前に広がるさざ波のように千々に乱れていた。
【A-3海岸部/深夜】
【クオン@うたわれるもの 偽りの仮面】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:
1:ハクが生きている?
2:仮面の人物への警戒。
※最終回後からの参戦。
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GAMESTART |
佐倉慈 |
046:めぐねえ頑張る |
GAMESTART |
逸見エリカ |
GAME OVER |
GAMESTART |
クオン |
037:スースーするの |
最終更新:2016年10月03日 11:22