オープニング ◆b2iYqpIDTI


うっすらと、肌に生暖かい風が吹く。
どこかくぐもった声と共に此方へと吹いてくるその風は微かに匂いを伴っていて。
誰かの吐息が頬に当たっている、と認識すると同時に少女は目を覚ます。

「~~~~っ!」

瞑っていた瞼が開かれると同時に視界へと飛び込んでくるのは、底の見えない黒色。
見るものを不安にさせる様な、どこまでも塗りつぶした黒。
部屋の天井はこんなに暗かったかという疑問は寝惚けた思考に塗りつぶされる。
続いて、何とはなしに横を向いた少女は思わず漏らしそうになった大声を噛み殺す。

「なんで、なんで工藤君が私の横で寝てるのよ……っ」

仰向けから小柄な体ごと横を向いた所為か、少女――灰原哀の目と鼻の先。
どちらかが後僅かでも体を動かせば唇が触れそうな、危うい位置にその友人(と言う呼び方が適切なのか少女には解らなかったのだが)である工藤新一――この場合は江戸川コナンの寝顔が存在していた。
見た目こそ年端もいかぬ少女の姿をしている灰原ではあったが、とある事情を抱えており、実際の年齢はある程度を超えている。
故に、年齢相応の羞恥心や貞操観念も兼ね備えているし、また目の前にいる自分と同じく小学校低学年くらいの年齢の姿をした少年の実年齢が、自分と同じく幼い外見と一致していないことも知っている。
結果として、不意打ちに晒された少女の顔は羞恥と共に微かに朱に染まり、緊張からか心臓の音がいつもより速さを増すことになる。
外見が幼くなればそれに合わせて思考や倫理観も少なからず幼くなってしまうのか、数々の事件に巻き込まれる中で、或いは年相応の遊びの中でコナンと至近距離で触れ合うことも少なくはなく、その時は今の様に緊張を感じたりはしなかったのだが。

(慣れてはいても……急に目の前に顔があったら驚くのも仕方がないわよね?)

今回の様に互いの吐息が交わる寸前まで近付いたのは流石に初めてであり、否応なしに体が緊張を訴えていた。

「ふう……本当に、どうしてこんな状況になってるのかしら?」

目の前の相手を起こさないようにゆっくりと体を後ろへと下がらせつつ、どうしてこんなことになっているのかと思案する。

「昨日は……確か博士と食事をとって、早めの入浴を済ませて布団に入ったのが二十二時。その時ベッドの上には誰も居なかった筈だし、いくら眠っていても誰かが布団に忍び込んで来たら気付きそうなものよね」

一つ一つ昨晩の記憶を手繰り寄せるが、納得のいく答えは思い浮かばない。
これが居候先の主人である阿笠博士であれば寝惚けて間違えた等の理由付けも可能ではあったのだが。
生憎と目の前の少年が昨晩居候先を訪れた記憶はないし、仮に自分の知らぬ間に訪れていたとしても、寝惚けていようがなんだろうが他ならぬ自分の部屋で就寝を取るとは考えられない。
無論、実際に寝惚けてきた可能性がゼロと言うワケではないのだがそれは如何にも腑に落ちないと心中で呟く。

「この一途な名探偵さんが、そんな隙を見せるとは思わないもの」

だとすればどうして? と灰原の脳内を疑問符が跳ね回り「まさかまさか、夜這いかしら」なんて悪戯っぽく笑う最中、そこでようやく自らの背中に感じる違和感に気付いた。

「これ、どう考えても布団の硬さじゃないわよね……」

再確認し直すように、小声で呟きつつ背中越しに感じる硬さを指先でなぞるがどう考えても布地の感触ではない。
編みこまれた草の様な手触りに独特の匂い、布団程の柔らかさはないものの寝転んでも支障がなさそうなそれは、間違いなく畳である。
 一つ、認識してしまえば何故今まで気付かなかったと言わんばかりに違和感に気付き始める。

「明らかに、私の部屋じゃないじゃない……!」

 自分の愚かさに辟易するように思わず言葉を吐き捨ててしまう。
 現在の灰原はフローリングとはまた違った感触の、敷き詰められた畳の上に寝かされている。
 勿論布団などかけられているわけはなく、辛うじて存在を認識出来る目の前には知人、若しくは共犯者である江戸川コナンの姿。
 彼もまた自分と同じく無造作に床へ転がされており未だ起きる気配はない。
何故目の前の少年と共に寝ているかどころの話ではなく、そもそもが目を覚ました場所が自室ではない――悪戯かとも思ったがそれにしては性質が悪過ぎる。
 警戒するように音を潜めて視線だけで周囲を見渡してはみるものの、やはりコナンの姿を認識出来る程度でありそれ以上先の様子は右を見ても左を見ても闇に包まれており様子を窺えそうもない。
 しかし、時折耳に届く呻き声や呼吸音からして正確な数は不明だが他にも同じ状況に巻き込まれた人間がいるらしいことはわかる。
 十人、二十人――或いはそれ以上か。
 また悪趣味なことに、金属製の首輪を嵌められている。

「服も着替えさせられているし……誰が、一体何の為に?」

 見知らぬ誰かが一糸纏わぬ姿を眺めているところを想像して体を震わせつつまず最初に思いついたのは、黒の組織に正体と居場所を突き止められ拉致された、という線だが幾つか腑に落ちない点がその考えは早計だと伝えてくる。
ぺたぺたと小さな掌で確認してみるが、灰原が身に纏う布地は普段寝間着として着用しているものではなく、最近買ったばかりの私服だった。
 黒と白のストライプを基調とした抑え目でガーリーなデザインが特徴的な、比較的シンプルなワンピースではあるが、それでも寝ている相手を着替えさせるには手間がかかる。
もし仮に自分たちが何らかの目的で拉致されたとして、態々服を着替えさせるメリットとはなんだろうか。
 何らかの薬を嗅がされて深い睡眠状態に落とし込まれたのか今回は気が付くことは無かったが、薬の効き方や体質次第では途中で目を覚ます恐れがあるし、そもそもそこに時間をかけている暇があればさっさと連れ去らってしまえばいい。
 時間をかけている間に誰かに見つかる可能性や証拠を残す可能性が増えることを考えれば、手間をかけて着替えさせるリスクの割にリターンが少ないのである。
 もし連れ去ったのが灰原の考える通り黒の組織であるならそんなまだるっこしいことをするとは思えず、そもそも彼女とコナンを見付けた段階で殺してしまっているだろう。

「まずは犯人の出方を窺わないことにはどうしようもないわね」

拉致された、と言う状況は例え灰原が見た目以上に実年齢が高かったとしても相当以上に焦ってしかるべき状況ではあったのだが、今の彼女はその割に落ち着いている方だと言えるだろう。
目的も、過程も、結果もわからない事件に巻き込まれるのはこれが初めてではなく、多少は慣れている部分もあり。
良いか悪いかは別として、共にこの状況に巻き込まれた相手――目の前のコナンへの少なくない信頼がそうさせているのかもしれない。

「拉致されたのが私たちだけだといいんだけど」

 周囲を確認することの出来ぬ闇に包まれた空間で、わかっていることは不特定多数の人間が巻き込まれいている現状。
 事件に巻き込まれる相手の良し悪しを、知人かそうでないかで区別することは非常にエゴイズムに塗れていると自嘲気味に笑う灰原ではあったが、それでも世話になっている博士や日常生活を共に過ごす友人、また目の前の彼の関係者が巻き込まれていないと良いと、素直に考えてしまう。
 だが、何はともあれ犯人からの要求や接触がなければこれ以上の実態を掴むことや脱出への足掛かりを掴める筈はなく、まずはコナンを起こすべきだろうかと手を伸ばしたところで不意に、何かのスイッチを入れる音と共にこの空間へと光が満ち始める。
 ようやく犯人のお出ましかと緊張に身を固くする灰原ではあったが、暗闇から急に光が侵入した所為か上手く瞼を開くことが出来ない。
 光に慣れるべく目を細めると同時に起きる気配のないコナンを起こそうと伸ばしかけていた手を再度伸ばす灰原ではあったが。

「「「「喝!!!」」」」

 その必要を無くしてしまうような怒号が、闇と共に沈黙した空間を引き裂いていった。



☆  ☆  ☆



広大な空間に寝かされていた面々が全て目を覚ますのを確認する。
今回の儀式の為に集められた参加者を見下ろすような一段高い位置。
参加者側を入り口とした場合の最奥はまるで体育館のステージの様に数段高くなっており、そこに四人の僧が正座をして参加者たちに視線を向けている。

「さて……全ての参加者が目を覚ましたようだな」

 一人が口を開くと同時に、割り当てられたセリフを読み上げるように四人の僧たちは次々と機械的に台詞を並べたてる。

「今回貴様たちを呼び出したのにはある理由がある」
「無論、その理由を今話すことは出来ないが、貴様たちにとっても無関係ではない話だ」
「貴様たちに行ってもらう儀式――蠱毒の儀と言えば最早全てわかってしまうであろうな?」
「これから貴様たちにはたった一人生き残るまで殺し合いをしてもらう」
「例外はない。たった一人が生き残るまで儀式は継続される」
「詳しいルールについては儀式開始と同時に配布される書類を読むがいい」
「今、貴様たちが理解すべきことは三つ」
「一つ、何度も繰り返すようではあるがたった一人しか生き残ることは出来ない」
「二つ、この儀式を生き残った者には報酬としてどんな願いをも叶えてやろう」
「三つ、この儀式は大義ある者であり――逃れることは出来ぬと知るがいい」
「この三つをしかと心に刻み、最後の一人を目指すが貴様たちに与えられた役割である」

 一息に、捲したてられる言葉に圧されたのか、或いは反論する隙間を見つけられずにか、決して少なくない参加者は誰一人口を開かず言葉を失っている。
 それはそれで都合がいいと、四人の僧は与えられた役割に従い言葉を紡いでいく。

「どんな願いをも、と言われても信用は出来ないだろうが、正しくどんな願いも叶えるとここに誓おう」
「大金、死者の蘇生、憎き相手の殺害、恋愛の成就」
「貴様らが思いつくであろう全てを叶える用意が我等にはある」
「信憑性を増す為に、と言うわけではないが貴様らの中には死から蘇った者も存在しているとだけ伝えておこう」
「我らの言葉を疑おうが疑うまいが儀式は進んでいく、ならばたった一つの蜘蛛の糸に縋るのもよかろう」
「友人を、家族を、恋人を」
「仇を、快楽を、生存本能を」

「「「「全てを満たす為に、全てを奪うがいい」」」」

 これで彼らに与えられた役割は終了ではあるのだが。
 後一つ足りないものがある、と四人の僧は口を閉ざしその瞬間を待つ。
 よもや此処まで来て進行が滞ることはないと彼らは確信していた。
 この状況を与えられて、予定通りに動くものは一人も居ない筈はない。
 そのように、参加者たちは集められている。

 十秒、二十秒、三十秒――、一分。

 呆気にとられる者、ざわめく者、冷静な者。
 遠からず血の気の多い者が行動を開始するであろう刹那の時間に、彼らの望み通り一人の少女が口を開く。

――予定通りだ!

 少女の口が開かれるのを確認すると同時に、誰とはなしに心中で歓喜の声を挙げ、一様に『ニィ』と表情が歪む。

「ふざけないで! 殺し合いだなんて……そんなこと、許されるわけがないわ!」

 集められた参加者は七十二人。
これだけの人数が居れば誰か一人は口にするであろう台詞を見れば小学生くらいであろう少女が発したことに感謝しつつ、次ぐ台詞を奪うように僧たちは言葉を放つ。

「無論、貴様のような存在が現れることは我等にも予想は出来ていた」
「殺し合え、と言われて素直に遂行できる人間は決して多くはないだろう」
「だが、それでも貴様らにはこの儀式を完遂させてもらわねばならない」
「故に――貴様には、見せしめになってもらうとしよう」
「儀式の遂行を邪魔するものがどうなるのか」
「儀式を完遂出来なかった貴様らの末路がどうなるのか」
「貴様らの血で、肉で、その罪を贖ってもらうことになる」
「貴様らに待ち受けるのは――死だ」

 言葉と同時に、黒い異形の姿が現れる。

「「「「やれ。黒炎! 」」」」



☆  ☆  ☆



僧たちの言葉に合わせてゆっくりと自分の元へと歩みを進める黒い化物を前に、灰原は言葉を失う。
 唐突過ぎる状況に頭がついていかず、あまりにも悪趣味な言葉の数々を聞き入れていた灰原ではあったが自らのおかれた状況を認識すると同時に、考えうる限り最大級の悪手ではあると理解していながら、声を挙げずにはいられなかった。
 少し離れた壇上で自分たちを見下ろしてる犯人たちの要求はただの拉致事件と言うには度を越し過ぎている。
無論、ここまで大掛かりな犯行を行う以上只ならぬ目的があるのだろうと予想してはいたが、それでも彼女の予想を大きく超えた犯行だった。
 これまで彼女が見てきた犯人たちとは違い自らの犯行を隠すことなく、そして自らの手を汚すことなく関係のない一般人に手を汚させる卑劣な手口。
 罪に問われれば間違いなく極刑は間違いないであろう史上稀に見る犯行であり、人の命を道具の様に扱うその姿に言葉を発さずにはいられなかった。
 正義感の強いコナンとは違いどこかドライな性格だと自負してはいたが、それでも。
数々の事件を通して、何の罪もなく奪われていく命を見てきた灰原だからこそ我慢出来ずに言葉を発してしまっていた。

「ゲハハハハ! 美味そうな、娘っ子だァ……!」

 一歩、また一歩と脅える自分の姿を楽しむようにゆっくりと近づいてくる異形の化物。
 まるで漫画や映画の世界と見紛うような姿ではあったが、そこから漏れ出す威圧感は今まで灰原が感じた事のないものでありCGや着ぐるみでは説明のつかない、明確に死を意識させるには十分過ぎる。
 死ぬ。そう意識してしまうと、止めどなく全身に汗が滲み恐怖で足は竦んで逃げ出すことも出来ない。

「…………や、だ」

 微かに歯を鳴らしながら漏れ出す言葉は誰にも届かず空気に溶けて、消える。

「灰原! おい灰原ァ! 逃げろ……逃げろォ!! 灰原ーーーーー!!」

 傍にいるコナンが自分を庇おうと必死にもがくが、何かに縫い止められたかの様にその場で硬直してしまっており必死な言葉だけが虚しく響く。

「ちくしょう! 何で動けねーんだよ! 槍よ――槍よ、来ォォォォい!!」
「哀ちゃん! 何で……何で動けないの?! 」

 何人かの人間が灰原を助けんと声を挙げるが、コナンと同じく何かに縫いつけられた様にその場でもがくのみに留まる。

「どれだけ足掻こうとも無駄だ! 獣の槍の伝承者よ」
「我らの力にあの方の力を加えた朏の陣は最早人の手に破れるモノでは無いわ!」
「人であれ妖であれ、この陣から抜け出せる者など存在しない!」

 灰原には全てを理解することが出来なかったが。
 自らの認識を超えた不思議な力が世界には存在しており――自分を助けられる者は誰も居ないのだと、わかった。
 何から何まで理解を超えた現象の数々だったが、死を目の前にしてしまえば不思議と納得してしまえる。
 見せしめという言葉通りに化物の狙いはどうやら自分だけであり、傍にいるコナンの方へと意識が向いていないのがせめてもの救いだった。

 深呼吸を、一つ。
どれだけ思考を巡らせても答えはたった一つで。
自分がここから助かる術はなく、もう誰かと笑ったり泣いたり、人並みに恋をして愛を知ることは無いのだと、悔しい想いを噛み締める。
 死にたくない、生きていたい、元の生活に戻りたい。
 溢れんばかりの膨大な感情が灰原を飲み込み、ともすれば発狂してしまいそうな感覚に襲われるが、その全てを灰原は飲み込む。

「~~~~ッ」

 どうせ奪われてしまうのならば、これ以上は声一つすら渡してやるもんかと。
 震える体を抑え付けて、目の前の異形を睨み付ける。

――化物が灰原の元に辿り着くまで、残り五歩。

「ちッくしょォォォォ! 動け動け動けええええ!!」

――残り四歩。

「嫌あああああああ! 哀ちゃん! 誰か哀ちゃんを助けてよ!」

――残り三歩。

「何でだよ……!灰原、諦めんな! 逃げてくれよ!」

――残り二歩。

「喜ぶがいい、娘よ! 貴様の犠牲を以てこの儀式は幕を開ける!」

――残り一歩。

「脚も、手も、顔も、体も……全部、美味そうだァ。どこから喰ッてやるかァ」

――残り、

「――さよなら、工藤くん」

 迫る爪が光を鈍く反射して、これが最後の景色かと、小さく笑った。



☆  ☆  ☆



天地より万物に至るまで気をまちて以って生ぜざる者無き也



☆  ☆  ☆



「なぁ……おまえは、子供を喰うのか?」

静まり返った空間に、何かを押し殺した声音が響き渡る。
 騒動の中心点から少し離れた位置から、近づいてくる男が一人。
纏う衣服はインナーアウターから被っている帽子まで全てが黒色で、そこから微かに覗く肌色には痛々しい傷跡が無数に存在していた。
 中でも最も特徴的なのが右目の上から刻まれた三本の爪痕で、それを歪ませる様な凄惨な表情を浮かべながら黒尽くめの男――鏢は言葉を続ける。

「どうした? 今一度言って見ろよ妖……おまえは、俺の前で、子供を喰うんだろう?」
「あが、あが……あがががががががが」

 答えられる筈がない。
 鏢の腕の先から伸びた糸、その先に連なる刃が黒炎の全身を穿っており灰原に凶爪が触れる寸前で動きを止められている。
 全身を貫く鋭い先端は禍々しい牙の生えた口腔付近を念入りに穿っていて、言葉を発することすら困難だと思わされる。

「馬鹿な、所詮符術師程度の力で我らの朏の陣が敗れる筈がない!」
「何をやっている黒炎! 早くその男を喰ろうてしまえ!」

 狼狽したような僧達の言葉に合わせて黒炎は灰原からヒョウへと向き直る。
 彼らが言うように、幾重にも強化されたは朏の陣はこの場にいたあらゆる存在の動きを等しく封じており、黒炎の行為を止められる者などいない筈だった。
 獣の槍の伝承者である蒼月潮も、ユグドラシルのトップギルドであるアインズ・ウール・ゴウンのリーダーであるモモンガも、この世の誰よりも優しいスタンドを持つ男東方仗助も。
 幼き少女が化物の手にかかることを良しとしない。
或いは自らを戒める存在が唯々気に食わない。
理由はどうあれその場を離れんと力を込めていた全ての面々をその場に縫い止めるだけの力が僧達の放つ朏の陣には込められていた。

 だが――

「天地より万物に至るまで気をまちて以て生ぜざる者無き也。
邪怪禁呪、悪業を成す精魅、天地万物の正義をもちて微塵とせむ」
「あァああああああああ! てめェェえええええ!!! 」

 目の前で、子供が喰われそうになっていて、この男が動けない筈がない。
 例えどれ程強大な力でその身を封じられていようと、例えどれ程絶望的な状況であろうと、例えどれ程凶悪な妖怪相手であろうとも。

「十五雷正法、七排――」
「死にたくねェェェェェェェえ!」

 唯、その存在を禁ずるのみ。

「――禁!!!」

 爆発的な力の奔流が黒炎を襲い、呆気なくその身を消滅させる。
 断末魔の欠片も許さず、圧倒的に、絶望的に。

「「禁」とは能力を禁ずること。鳥を禁ずればすなわち飛べなくなり、刀を禁ずればこれを切ることあたわず。妖魅を禁ずることとは……存在することを禁ずることよ」

 黒炎を屠った勢いそのままに、壇上で狼狽し続ける四人の僧の元へ鏢が駆ける。

「光覇明宗の中でも指導する立場に位置する貴様らが何故このようなことをしでかしたのは知らないが――私の目の前で子供を殺そうとした罪、その身で贖ってもらうぞ。」

 自らの優位を疑わず、その座に胡坐をかいていた僧達にその手から逃れる術はなかった。
 焦り、困惑、恐怖、それぞれが混じり合った表情を浮かべながらその瞬間を待つ。

 殺意の対象が化物から人へと代わろうとその技に陰りはなく。

「い、嫌だァァァァァあ!!」
「きィィィィィィィィィィん!」

 呆気なく、物語の終わりとしては恐ろしい程カタルシスなど無く。
 鏢の手から放たれた四枚の符。それぞれから放たれる力の奔流によって四人の僧の命は事切れる。

 ある者は複雑そうな表情でその光景を見つつ。
 ある者は退屈そうな表情でその光景を見つつ。
 ある者は楽しそうな表情でその光景を見つつ。

 共通して、皆一様にこれで終わりなのか? と微かな疑念が脳裏を過る刹那。


ボ ウ ン


 真っ赤な華が、咲いた。



☆  ☆  ☆



「いやあ……まさかあの方たちが殺されてしまうとは思いませんでした」

 首を吹き飛ばされ物言わぬ躯となった鏢の死体を避けるように眼鏡の男が壇上に現れる。

「皆さん初めまして! 改めまして今回の儀式の説明役を務めさせて頂くダーハラと言います」

 五人の死体を目の前に苦笑いをしながらも、その場にそぐわない張りのある声で挨拶を述べる眼鏡の男。
 まるで今までの光景など取るに足らない光景だと言わんばかりの姿に、彼を見つめる何人かの表情が歪む。

「とは言っても、粗方の説明は済んでいるようなので私からは一つだけ――この首輪についてお話させていただきますね」

「皆さんの首に嵌められた首輪……先程実際にご覧いただいたように、人一人の首を飛ばすには十分過ぎる爆破機能がセットされています」

 ぐるりと、困惑しているのか反応がない参加者を見つめ更に言葉を続ける。

「勿論、集められた皆さんの中には人ではない――所謂化物の方達も十分に殺傷しうる機能になっていますので、ワシは化物だから大丈夫だ! なんて調子に乗ってしまわないように気を付けて下さいね?」

「この爆破機能が作動する条件は三つ。一つは我々が定める禁止エリア――この禁止エリアについては先程説明されたルールブックを参照して下さると助かります。……兎に角この禁止エリアに侵入した際」
「二つ目は制限時間である七十二時間を超えても儀式の最後の一人が決まらなかった際。」
「そして三つ目は今の方の様に我々へ反抗してしまった場合となります。あの光景を見てまだ反抗的な態度を取られる方はいらっしゃらないと思いますが、我々の上司は実に厳しい方ですので、そう取られかねない行為は自重した方が良いかと」

 そうして一息に首輪の説明を終えるダーハラ。
 最後にグルリと参加者の姿を見渡すと、彼に与えられた最後の役割を果たさんと笑顔で口を開く。

「では皆さん、ご健闘をお祈りしていますね!」

 言葉と同時、参加者の姿は闇に包まれ――消える。

【アニメキャラバトル・ロワイアルGO START】

【鏢@うしおととら 死亡】
【光覇明宗の僧×4@うしおととら 死亡】

【主催】
【ダーハラ@迷家-マヨイガ-】


時系列順で読む


投下順で読む


GAMESTART ダーハラ 051:第一回放送
GAMESTART 光覇明宗の僧 GAME OVER
GAMESTART 灰原哀 014:魂のルフラン
GAMESTART 江戸川コナン 031:シャルティア様、トロピカルランドへ行く
GAMESTART 毛利蘭 008:魔人の威力
GAMESTART 蒼月潮 007:まっくら森の歌
GAMESTART GAME OVER

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年10月31日 14:53