「……僕は、ダメな男だな」
b-5エリアにて。桂木桂馬は言葉を漏らしていた。
彼と契約した悪魔エルシィと、攻略対象の一人、汐宮栞の名前が呼ばれた。守るべき者たちを守るどころか、会うこともできなかった。
『神様』なんかじゃない。僕はただの偽善者じゃないか。何が落とし神だ、何が地獄の悪魔との契約者だ。何もかもが馬鹿馬鹿しかった。
浅上藤乃。
自分が『助けた』つもりの少女は、今少し仮眠している。
この少女だってどうだっただろうか。本当は、助けてほしくなんてなかったのではないか。胸を張って正しいことをしたとは言えない。
「……藤乃。お前を助けたのも、本当にお前のためになったのかな」
「そうに……決まってるじゃないですか……んん」
藤乃が眠そうに目を擦る。寝ぼけているのかもしれないが、ふらふらと立ち上がって桂馬の方に迫ってくる。まるで『攻略』されるような気分。
「桂馬さんが助けてくれなかったら…わたしは死んでいたのですから……だから、」
寝ぼけているんだ。
桂馬は脳を抑えるようにそう強く思う。
まさか、この展開はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
ちゅっ。
そんな感触が唇にあった。
「好きです、桂馬さん」
桂馬は藤乃を抱き寄せる。
ランデブー
ああ。願わくば、この時 をずっと過ごしていたい。
しかしながら。バトルロワイアルという悪夢はそれさえ許さない。
「逢瀬の最中を我に見せつけるか。非礼を弁えろ、雑種風情が」
勢いよく振り返ると、潜伏していた小屋のドアが吹き飛び、そこから金色の髪、そして金色の鎧の『英雄王』が不敵な笑みを讃えていた。
そしてその背後の空間が不気味に歪む。
ゲート・オブ・バビロン
「王 の 財宝」
無数の剣が、二人を貫くために降り注ぐ。
藤乃はそれを視認すると、『あの日』以降封印していた力を使うことにした。
大切な、『想い人』を守るために。
「ーーーーー凶れ」
剣を吐き出す歪みが捻れ、途中で剣の放出を止める。
更に、飛んでくるものに対しても大規模な"歪曲"を発動して撃ち落としていく。
式との戦いの最後に、力が増強された。
まさかこの力にもう一度頼ることになるとは。
「ほう、魔眼か」
「藤乃っ!!」
桂馬が藤乃の片手を勢いよく引く。小屋の勝手口を蹴破り、そのまま駆け出す。
「『時臣』の時代では、確か鬼ごっこというのであったな」
人類最古の英雄王は、怒ることもなくただ笑った。
そしてすぐに彼も勝手口に足を向ける。
「この勝負、乗ったぞ」
【桂木桂馬、浅上藤乃 逃走開始】
最終更新:2011年07月17日 00:36