桂木桂馬と浅上藤乃の逃走劇は、続いていた。
人間は窮地に立たされるとありえない力を発揮する。火事場の馬鹿力とはよく言ったものだ。桂馬はすでに自らの体力の限界を超えながらも、藤乃の腕を引いた。
背後から迫る英雄王の足音。
聞こえはしなかったが、確かに感じられる。あの威圧感を。
「もう終わりか?我を退屈させるでないぞ雑種」
当たっていた。足元に降り注ぐ剣の雨がそれを証明していた。
くそっ!と桂馬はディパックからデリンジャーを取り出し、闇雲にギルガメッシュに発砲した。しかし、その鎧を少し凹ませる程度しかできない。
英雄王の余裕は崩れない。
まるで、藤乃を守ろうとする桂馬を踏みにじるように。
「さあ、出番だぞーーーー『朋友(エア)』よ」
エア。ギルガメッシュ最強の宝具が現れ、切っ先が桂馬に向けられた。
桂馬は一歩も退かずにデリンジャーを構えている。ギルガメッシュは鼻で笑うと、そのまま突撃する。だが、桂馬はその瞬間に体を反らした。左腕を犠牲にして弾を当てるためだ。
ダァン!と破裂音が鳴り響いた。そして、ギルガメッシュの肉体が崩れ落ちる。
左目を撃った。桂馬は対価に失った右腕など安いものだと思う。
ーーーーー彼らの失敗は。
サーヴァントの中で最強という意味を理解していなかったことである。
桂馬の胸元に赤い華が咲いた。
英雄王の手元の小銃が火を噴き、桂馬を撃ち抜いたのだ。ゆらり、と立ち上がる英雄王の顔は憤怒に歪んでいた。
「……調子に乗るなよ、雑種が!貴様達では王の俺には勝てぬのだ!」
藤乃を確実に殺すために手をかざす。
背後の空間から無数の剣が現れるーーーーーーーーーーーーーーーの、だが。
英雄王の翳した右腕が、桂馬と同じように地に落ちていた。しかし、それは切断ではない。『捻切った』傷口であった。英雄王ギルガメッシュはこの能力を知っている。『鬼ごっこ』の前に見た能力。
「歪曲の、魔眼ーーーーー!!」
「凶れぇぇえええええええええええええええええええっ!!」
今度は鎧が捻れ、歪み、滅茶苦茶に破壊される。
しかしそれは藤乃の命を守ることにはつながらなかった。『王の財宝』の内一本が、藤乃の腹を貫通していたからだ。盲腸と同じような痛みだった。
「…くそ、が。嘗めるなよ、雑種…」
ダァン!
再び、銃声が響いた。それはギルガメッシュの小銃からではない。桂木桂馬が瀕死の状態で放った一発。
弾の行く先は、ギルガメッシュの首輪であった。
何者をも即死させる威力を持つ首輪を抉り、くぐもった音が周囲に鳴り響く。
こうして。古代ウルクの英雄王は魔術師でもないただの少年に引導を渡された。
倒れた、血塗れの二人が残されていた。
◆
「…終わりみたいですね、桂馬さん」
「そうだな。僕は生きてるのが不思議な怪我なんだから、もう終わりだな」
「桂馬さん」
「何だ」
「天国って信じますか」
「あるんじゃないのか、一応」
「桂馬さんは、きっと天国に行けますよ。貴方は、最高の
ヒーローでした」
「ふざけるな。僕は一人で天国なんて御免だ。地獄の閻魔大王様を討ち取ってでもお前を一緒に連れていく」
「桂馬さん」
「何だ」
「ありがとう。あなたのことが、大好きです」
「そうか、」
「僕の方が好きに決まってるだろ、畜生」
◆
恋人達がどうなったのかは別のお話。
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
【浅上藤乃@空の境界】
【桂木桂馬@神のみぞ知るセカイ】 死亡
【残り5/45人】
最終更新:2011年07月17日 00:27