第五十四話≪RUN!RUN!RUN!≫
正午の放送で、私――
朱雀麗雅の二人の知人、四宮勝憲と
葛葉美琴の二人の名前は呼ばれなかった。
良かったと一旦は安堵したけど、23人も死んでいるのに不謹慎だと感じ、気持ちを改めた。
同行している狐獣人の青年、高原君は余りの死亡人数の多さにかなり衝撃を受けているみたい。
私も、まさかたった6時間で、全50人の参加者の内、
既に半分近くの23人が落命してると知った時には、とても衝撃を受けた。
次に発表された禁止エリアは、いずれも今自分達がいるE-4とは無関係のエリアだった。
二つ目に発表された「D-5」は、数時間前に、不戦を呼び掛けた人達がいた場所。
確証は無いけれど、声のしてきた方角などから考えるに、山頂からでほぼ間違い無いと思う。
山頂から参加者の一人の男性が、恐らく拡声器か何かを使って
殺し合いをやめるように訴えた。
話の内容から、二人の仲間もいた事が分かった。
しかし、大声で叫ぶという行為が仇となったのか、銃火器を持った敵に襲撃され、殺害された。
その時も私と高原君は衝撃を受けていた。
そしてそれから数時間経った現在。
死亡者と禁止エリアの把握を終えた私達は、長い間身を潜めていたこの岩室を出る決意を固め、
私が岩室の外の警戒、高原君が荷物のまとめを行っていた。
高原君はどうやら、内心では外に出る事をかなり渋っているみたい。
無理も無いわね、こういうゲームは一ヶ所にじっとしている方が安全なのだし。
それに高原君は戦うのが得意では無い、悪く言うと「ヘタレ」的な人なんだろうな。
日常生活のそれとは比較しようの無い危険がそこら中に潜む外に行きたくないと思う気持ちはよく分かる。
でも何か行動を起こさなければ状況は悪くもならないけど、良くもならない。
とにかく殺し合いから脱出する方法を探らないと、いずれ死ぬだけだ。
特に私の場合、知り合いが二人この殺し合いに参加させられているから、早々に合流したいというのもあった。
まあ後者は完全に私の都合なんだけれど……。
◆
高原正封です。遂に岩室を出る事になったとです……。
まあ大昔に流行った某ピン芸人みてぇな喋り方はさておき、ずっと隠れていた岩室を出て、
とりあえずは市街地を目指す事になった訳だ。
市街地なら人が集まり易いだろうし、現在位置からそう遠くも無いというのが理由。
確かになぁ、もしかしたらこの首輪を外せる技術を持った奴とか、
すっごい正義感溢れた強い奴とかもいるかもしれないけど、
絶対やる気になってる奴も大勢いるはずだよなぁ。
まさに敵陣に突っ込んでいく気分だよ。あーあ、ホント何でこんな事になったんだ……。
放送で23人死んだって聞いた時はホント愕然としたよ。
最初俺と朱雀さん含めて50人もいたのに、もう残り27人しかいないってのか。
あのテレビにもよく出ていた長谷川選手も死んでしまったらしい。
後は全然知らない奴の名前ばかりだったけど、きっと目の前で殺されたピンク色の猫女や、
山頂から戦いをやめろみたいな事を訴えていた男とその仲間達の名前もあるんだろうな。
朱雀さんの知り合いだって言う「四宮勝憲」「葛葉美琴」の二人の名前は呼ばれなかった。
別に自分の知り合いでも無いのに「良かった」と思っちまった。
しっかし23人って、どんだけ殺し合いやる気になってる奴いんだよ。
それとも一度に大勢殺せるような奴がいるってのか?
どっちにしても、マジで勘弁して欲しいよ、全く。
俺が持っている武器は千枚通し、朱雀さんは小さなバタフライナイフ。
滅茶苦茶非力武装なんですけど。たまに銃声みたいの聞こえるし、
銃とか持った奴来たら逃げるしか無いよねぇ。まさか朱雀さん、千枚通しで逃げずに立ち向かえなんて言わないだろ?
◆
「準備はいい?」
「はい……大丈夫です」
互いにそれぞれのデイパックの中に入っていた食糧で軽く食事を取った後、
私達は岩室から数時間ぶりに外へ出た。
「はぁ……外の空気がおいしい」
「数年間自室に引き籠って、数年振りに外に出たらこんな気分なんでしょうねー」
ずっと薄暗く空気も余り良く無い岩室の中にいたから、外の空気と光がとても新鮮に感じる。
緑の葉が生い茂る木々が立ち並び、青々として雑草が地面に生え揃い、
小鳥達のさえずる声も聞こえる。
何とものどかな光景に見えるけど……。
地図とコンパスを取り出し、方角を確認する。
「……それじゃあ、行こうか」
「はい……」
私は辺りを警戒している高原君に声を掛け、市街地を目指して歩き出した。
「……?」
しかし、数歩歩き出した時、背後から気配を感じた。
いや、気配と言うより、これは――。
殺気。
「? 朱雀さん、どうし――うわっ!?」
「走って!!」
困惑する高原君の腕を引っ張り、私は脇目も振らず駈け出した。
その直後。
ダダダダダダダダダダッ!!
「わあああああああああああああ!!?」
「止まらないで!! 走って!!」
タイプライターにも似た銃声が静かな森の中に響き、驚いた小鳥達が群れを成して飛び立つ。
周囲にある木に穴が空き、幹の破片が飛び散る。
とにかく振り向かずに走る。木々の間を縫うようにして走る。
ダダダダダダダダダダッ!!
「ひいいっ!!」
「くっ!!」
振り向かなくても、敵がいるという事は分かる。
しかも機関銃か何かを装備している非常に危険な敵が追撃してきている。
幸い周囲は木などの障害物だらけで弾はほとんど障害物や地面に当たっている。
こちらの武器は千枚通しとバタフライナイフという非常に貧弱な物。
鉛の弾丸を超高速で連射する機関銃相手にこの武器で立ち向かった所で、十中八九勝ち目は無い。
無様だけど、とにかく走って逃げるしか無い!
ダダダダダダダダダダッ!!
「あ゛ーーーやめてぇええええ!!」
銃声の度に悲鳴を上げる高原君と共に、森の中をただひたすらに逃げた。
◆
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「ゼエ……ゼエ……ゼエ……」
一体どれぐらい走り続けたのだろうか。
どうにか襲撃者を撒く事は出来たみたいだけど、もうお互いフラフラだった。
幸い、私と高原君に弾丸は一発も当たらなかった。それだけでも幸運だったと言えよう。
でも、道無き道を長時間、ほとんど全力疾走した代償は、
激しい息切れと足腰の疲労感となって返って来ていた。
ふと高原君の顔を見れば、両目を真っ赤にして涙を流し、鼻水も垂れている。
走りながら恐怖で泣いていたのだろうか。
黄色い毛皮はボサボサになり、フサフサの尻尾はだらんと垂れ元気が無い。何とも酷い状態だ。
「大丈夫? 高原君……」
「……見れば分かるでしょ……大丈夫じゃないっすよ……」
掠れた声で応える高原君。
そうよね……いきなり機関銃を持った敵に襲われて、森の中を否応無しに走らされたんだから、
大丈夫な訳無いわよね……でもそれは分かってても、大丈夫って聞いちゃうものなのよ。
しばらく歩くと、突然開けた場所に出た。
前方に蓮の葉が浮かぶ、それなりに大きな池が広がっている。
しかし、それ以前に私の目が釘付けになった物があった。
池の畔に、三つの死体が転がっていた。
「えっ、ちょ……あれ、死体?」
「そうみたいね……」
近付いて見てみると、それは鮫獣人の男の死体と、二人の若い女性の死体だった。
鮫獣人の男の死体と顔をグチャグチャに潰された女性の死体は既に皮膚が変色し、
腐乱が始まっているのに対し、喉を刺されて死んでいる女性の死体はまだ死んでからそう時間は経っていないように見えた。
「うわぁ……何か変な臭いがするんですけど、これって、腐臭って奴ですか?」
「そうね……気の毒に……この人達も、それぞれの人生があったでしょうに……」
出来れば埋葬してあげたかったけど、道具も時間も体力も無いので諦めた。
再び地図を確認する。池があると言う事は、ここはE-3の貯水池かしら。
それならここから真っ直ぐ南に行けば、市街地に着くって事ね。
「高原君、もうちょっと歩ける? ここ、結構開けてて危ないから、出来れば市街地でどこか休息出来そうな場所を見付けたいんだけど」
死体を見て顔色が悪くなっている高原君に尋ねる。
高原君は予想通り若干嫌そうな表情を浮かべたけど、仕方無いと思ったのか、すぐ承諾の返答を返してきた。
「分かりました……」
すっかりグロッキー状態ね……無理も無いか。
私と高原君は再び市街地目指して歩き始めた。
◆
はい、もうテンションガタ落ちです。はい。
いや元々テンション高くなんか無いんだけれども、っていうかこの状況でテンション高い奴はおかしいし。
まさか自分の人生の中でマシンガンで殺されかけるという状況を経験するなんて、
夢にも思わなかったよ。世界でも屈指の治安の良い国に住んでいるって言うのに。
っていうか、ホントにタイプライターみたいな音すんだなぁ、マシンガンって。
……いやいや感心してる場合じゃねーよ。
今回は何とか逃げられたから良かったけど、次あんな武器持った奴に襲われたら、今度また逃げ切れる保証はどこにも無い。
俺の脳裏に、さっき池の畔で見た三つの死体の様子が浮かぶ。
あの死体は銃で撃たれたものじゃなかったみてぇだけど、それでも目を覆いたくなるような惨状だった。
特に顔をグチャグチャに潰された女の死体はとても正視出来るようなものじゃなかった。
死ぬ時、どんな思いだったのか、どんなに苦しかったのか、俺には分からない。
……俺もあんな風に死体になって地面に転がるのか?
嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。
……死にたくない……。
◆
赤い髪の女性と狐獣人の青年が市街地を目指し歩みを進める。
狐の青年は二度の敵襲を経験し、心が折れかけていた。
再び敵襲に見舞われた時、彼はどのような行動に走るのだろうか。
【一日目/日中/E-3貯水池付近】
【朱雀麗雅】
[状態]:疲労(中) 、F-3市街地へ移動中
[装備]:バタフライナイフ
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/4消費)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:高原君、大丈夫?
2:自分と同じくこの殺し合いに呼ばれた知り合い(四宮勝憲、葛葉美琴)を探す。
3:高原さんと行動する。
4:脱出手段も探さないと……。
【高原正封】
[状態]:疲労(肉体的、精神的共に大)、死への恐怖(増大中)、F-3市街地へ移動中
[装備]:千枚通し
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/4消費)、洗濯用の糊
[思考・行動]
基本:死にたくない。とにかく生き残る。
1:もう嫌だ……。
2:朱雀さんに守ってもらう。
◆
「見失った? ……ああもう、弾の無駄使いしただけじゃない!」
一方、F-4の林では、セーラー服に短機関銃を持った眼鏡狐耳っ娘、
志水セナが悪態をついていた。
山頂で白虎獣人の軍人、青い竜、赤みがかった人間の女性の三人を殺害した後、他参加者を探し下山していた。
途中、主催者からの放送があり、足を止めて死亡人数と禁止エリアを把握した後、下山を再開。
そしてつい先刻、赤い髪の女性と黄色い狐獣人の青年を標的に捉え、
装備をレミントンM31からイングラムM11A1に持ち替え、襲撃を仕掛けたのだが、
周囲は木などの障害物が多く、放った銃弾は標的の二人に当たる事は無かった。
そしてしばらく逃げる二人を追い掛けていたが、いつしか見失ってしまったのだ。
最初から銃に込められていた分も合わせてマガジン三つ分の弾丸、計90発を消費したと言うのに、
どちらも仕留める事が出来なかった事に、普段冷静なセナも怒りと苛立ちを隠せない。
「悔しい……こんな屈辱耐え難いわ……次は絶対に逃がさないから……!!
……ん? あれは……」
怒りのオーラを撒き散らしていたセナは、林道の中央にあるものに気が付いた。
「死体……? 警官、みたいね」
それは、地面に仰向けに倒れたシェパード種の犬獣人警官の死体だった。
青い警官の制服が、胸元から腹部にかけて血の色が変色したドス黒い色に染まり、
無数の刺し傷がある事から、刃物でメッタ刺しにされて殺害されたものと思われる。
既に蝿が何匹か集り、腐臭もする事から死後かなりの時間が経過しているようだ。
「このゲームが始まった直後ぐらいに殺されたのかしら……。
もしかしたらこのゲーム初の死亡者かも? まあ、どうでもいいけどね」
これと言って興味を引くような物も持っておらず、ましてや赤の他人の死体など気に留める必要も無い。
志水セナは警官の死体の脇を通り過ぎ、気を取り直して次の獲物を探し始めた。
余談だが、セナの推理は当たっていた。
この死体こそ、このバトルロワイアルの初の犠牲者、
川辺利也のなれの果てだったのである。
【一日目/日中/F-4林道】
【志水セナ】
[状態]:健康、苛々
[装備]:イングラムM11A1(30/30)
[所持品]:基本支給品一式、レミントンM31(2/2)、イングラムの予備マガジン(30×6)、
12ゲージショットシェル(38) 、
筑紫晴景の水と食糧、村上政高の水と食糧、
稲垣葉月の水と食糧
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。他参加者を積極的に殺していく。
1:次の獲物は……。
[備考]
※水色ショートヘアの少女(
桂川八重)を殺したかどうか分かりかねています。
※E-4周辺に銃声が響きました。
最終更新:2009年11月16日 20:40