第六十一話≪白道≫
林道を抜けた私、
志水セナを待っていたものは、アスファルトで舗装された路面、建ち並ぶ民家。
電信柱と放置された乗用車や自転車、バイク。
「住宅街みたいね」
この
殺し合いが始まって以来、何時間も緑の木々生い茂る山中を歩いていた自分にとって、
初めてと言える文明圏への進入だった。
道路に走る車は無く、歩道に歩く通行人も無い。閑静な住宅街と言うには余りに静謐。
住民達は全員避難したのだろう。或いは強制退去させられたか。
「結構疲れたな……適当な家に入ってちょっと休もう」
流石に長時間足場の悪い山道や坂を進んできたため、足が痛い。
私は「森屋」と表札の掲げられた平屋建ての民家に入ろうとしたが、玄関は固く施錠されていた。
仕方無く森屋家は諦め、次にその隣の「仲販」と表札の掲げられた二階建ての民家に入ろうとした。
すると仲販家の玄関扉は施錠はされていなかった。
入れた事は良かったが、逆に考えれば先客がいる可能性がある。
私はショットガン・レミントンM31を構え、警戒しつつ民家の奥へと進んだ。
トイレ、脱衣所、浴室、台所、リビング、和室……一階と二階の部屋を一通り見回り、
先客がいない事を確認すると、私はほっと安堵した。
もっとも、いたならいたでさっさと始末すればいいだけの話だが。
これから休もうという場所を無駄に血で汚したく無いというのもあった。
玄関扉に施錠し、一階のカーテンが全て閉まっているのを確認した後、
一階のリビングのテーブルの上に自分のデイパックとショットガンを置き、
椅子に座って人心地つく。
ふと壁に掛かっている時計に目をやると、時刻は午後2時10分を回っていた。
ゲーム開始から実に8時間近くが経過したという事になる。
最初の6時間で23人死んだのだから、今現在何人が死んでいる事やら。
「そう言えば禁止エリアって確か……」
昼の放送で主催者の男が言っていた禁止エリアの事を思い出し、
デイパックから地図を取り出して記入された禁止エリアの位置を確認する。
現在禁止エリアになっているのは病院とその周辺のG-2、山頂のあるD-5。
午後3時からは会場の北西端に当たるB-1が禁止エリアになる。
市街地であるG-2以外は特に気にする必要は無さそうだ。
「間違って入ったりしないように、病院周辺は大きく迂回するしか無いわね。
実際の会場はエリア毎に境界線が敷かれている訳じゃ無いみたいだから」
禁止エリアは侵入すると、首にはめられている首輪が爆発するらしい。
時々首輪の存在を忘れそうになる。最初は違和感だらけだったのだが、
慣れというのは恐ろしいもので、今ではほぼ完全に首に馴染んでしまっている。
首に手をやれば、やはり固い金属の感触が指先から伝わってくる。
これが爆発すれば、開催式の時のあの男のような末路を遂げる事になるのだ。
自分としてもそんな死に方は望まない。
エリア毎に境界線が引かれている訳では無いので、下手に病院に接近するルートを取ると、
うっかり禁止エリアに入ってしまう恐れがある。
しかし地図上の市街地は大まかな色分けと施設名が記載されているだけで、
詳細な道筋は記されていない。自分の地理的感覚と方向感覚がまさに運命を左右すると言っても過言では無い。
「まあ、とにかく今は休んどこ……」
私は台所に向かい、冷蔵庫の中に何か無いか探った。
すると、冷蔵庫の中には二リットルのペットボトルに入ったグレープ味の炭酸飲料が入っていた。
それを取り出し、適当なコップに注ぎ、口の中へ注ぎ込む。
グレープの甘味と炭酸の刺激が口の中一杯に広がった。
……美味い。
リビングのテーブルで腹ごしらえをする。食糧は山頂で殺した三人から奪い山程あるのだ。
これからの事について考える。
恐らくこの市街地には今現在、数人程度の参加者が潜伏していると思われる。
これから市街地にやってくる参加者も大勢いるだろう。
殺し合いに乗っている者は、獲物を求めて。
殺し合いに抗う者は、脱出手段を求めて。
それぞれの理由で何人かはやってくるはず。
自分の場合は前者の理由に当てはまる。
「会った奴から順に、確実に殺していく。それだけね。
って、私もう三人程取り逃がしているけど」
心中に苦い思い出が蘇る。
最初に襲撃した水色ショートヘアの、自分とは違うデザインのセーラー服を着た少女は生死未確認。
もしかしたら先の放送で呼ばれた中に名前があったかもしれないが、彼女の名前を知らないので確かめようが無い。
あれだけの傷を負って今も生存しているとも考えにくいが。
次に山頂で島中に不戦の呼び掛けを行っていた将官と思しき白虎獣人、
その仲間の青竜と赤髪の女性は仕留める事に成功した。
白虎獣人と青竜はショットガンの散弾を頭にぶち込んでやったのだが、見事に破裂。
その時、私の頭に「
頭がパーン\(^o^)/」という謎の単語が浮かんだ。
次に襲った、先の女性より濃い、真紅と言っても良い赤髪の女性と、
白いカッターシャツ姿の狐獣人の男は逃げられてしまった。
一勝二敗とも言える形。獲物を取り逃がすのは正直言って不快極まり無い。
なので次から会う参加者は確実に仕留めていきたい所だ。
「そう言えば川田さんはどうしてるかな」
私はふと同じくこの殺し合いに呼ばれ、自分がよく行く食堂の主人である
川田喜雄の事を思い出した。
開店中でも平気で煙草を吸ったりスポーツ新聞を読んだりしているあのぐうたらオヤジが、
最初の6時間を生き延びるとは正直思ってもいなかった。
もっとも、今現在生きているかどうかまでは分からないが。
正直、どうでもいい。
って言うかなぜそんな事を考える必要があったのか。
「馬鹿馬鹿しい……」
特に親しくも無い人物の事を心配するなど、無駄も無駄。意味も無い。
それより今はしっかり食べておこう。
私はカレーパンのビニール包装を開け、カレーパンを口に運んだ。
「……辛っ」
割と辛かった。
【一日目/午後/F-3仲販家一階リビング】
【志水セナ】
[状態]:健康、食事中
[装備]:レミントンM31(2/2)
[所持品]:基本支給品一式(食糧四人分、消費中)、イングラムM11A1(30/30)、
イングラムの予備マガジン(30×6)、 12ゲージショットシェル(38)
[思考・行動]
基本:優勝を目指す。他参加者を積極的に殺していく。
1:とりあえず休む。次はどうする……?
[備考]
※水色ショートヘアの少女(
桂川八重)を殺したかどうか分かりかねています。
最終更新:2009年11月22日 23:13