第六十四話≪ARENA~行軍~≫
酒場の扉を開け、出て来たのは半袖の緑色のジャケットを着た黒髪の青年、
四宮勝憲と、
赤色を基調とした制服を着た茶髪ツインテールの少女、
金ヶ崎陵華。
「いつまでもこんな血生臭い酒場にゃいたく無いもんなぁ」
「そうね……」
「相変わらず気分悪そうだな、大丈夫か?」
「何とか、平気……」
グロテスクな死体を見たショックで、陵華は心に浅からぬトラウマを負ってしまった。
そのせいで、今現在も軽い吐き気に見舞われ、顔色も余り良く無かった。
心配する勝憲だったが、本人が大丈夫と言っているので余り心配し過ぎると、
返って本人の心の負担になり兼ねない。
「大丈夫ならいいんだけどよ……あんま無理はすんなよ」
「うん」
それだけ言うと、勝憲は陵華の症状について探るのを止めた。
そして互いに持っている所持品の確認をする。
酒場の中では三人の死体が放置され、三人分のデイパックと所持品も同じく放置されていた。
勝憲は自分が殺害した中年男性の持っていた長剣と、一人分の食糧を入手。
陵華は勝憲が持ってきた二つのデイパックの中からそれぞれ食糧を抜き出し、自分のデイパックの中に押し込んだ。
カッターナイフとニンテンドーDS、そしてそのソフトは捨ててしまった。
予備の武器なら牛刀包丁があるし、とてもゲームをして遊ぶような状況でも心境でも無いからだ。
……少し勿体無かったが。
「でも、どうやって市街地まで行く? 歩き?」
「馬鹿言え。これ以上ウォーキングはゴメンだぜ。実はな、酒場ん中で車のキー見つけたんだわ」
そう言って勝憲がにぃっと口元を歪めながらジャケットのポケットから取り出したのは、
確かに車のキーだった。
「この酒場、すぐ隣に白いビッグハッチが停まってたろ? 多分この酒場の奴が使ってたんだろうな。
そいつのキーだ、多分」
勝憲と共に陵華が酒場の脇まで行くと、成程確かにホワイトカラーの古いタウンエースが停めてある。
勝憲が運転席のドアの鍵穴にキーを挿し込み回すと、ロックが解除された。
この車で市街地まで行こうという魂胆なのである。
しかし、陵華の脳裏に、数時間前の大事故が浮かぶ。
「……またパンクしたりしないよね?」
「まさか……いくら何でも大丈夫だろ。これでまたパンクしたらどんだけ運無ぇんだよ」
数時間前も、二人は車に乗って危機を脱したのだが、
予期せぬ事態――パンクにより乗っていた車が大クラッシュを起こしてしまう。
幸い二人は命に別条は無かったが、衝撃により全身に軽い打撲を負い、数分程度気絶もした。
あんな思いは陵華は二度とゴメンだった。勿論、勝憲もそれは同じだったが、
折角の有効な移動手段を利用しない手は無い。
渋る陵華を半ば強引に助手席に乗せ、勝憲は運転席へと乗り込んだ。
そしてキーを挿し込み、エンジンを掛ける。
「おっしゃ、シートベルト装着」
以前の経験から、シートベルトもしっかりはめる。
二人はシートベルトの重要性をその身を持って知っていたのだ。
「それじゃ、行くぞ。大丈夫だそんな出さねぇから」
「うん」
勝憲はハンドルを握り、ギアをパーキングからドライブに入れ、アクセルを踏み込む。
ゆっくりと、二人が乗ったタウンエースは前進を始めた。
そして酒場から会場である島の北、市街地へと続く道路に乗り上げ、そのまま道路を進む。
「他に通る車も無ぇし、まさにフリー状態。右側通行も左側通行も、追い越し禁止も関係無-や」
割と上機嫌な勝憲に対し、助手席の陵華はかなり引きつった表情だった。
「ところで今思ったんだけど」
「何?」
「俺ら、メシ食って無ぇよな」
「……私は食欲無い」
「そうか……悪ィ、俺のバッグから適当に何か食い物取ってくれる?」
「うん」
◆
同じ頃、勝憲の知人である赤髪の女性、
朱雀麗雅と狐獣人の男性、
高原正封は、
草木生い茂る雑木林を抜け、市街地へと足を踏み入れていた。
彼ら二人にとって、ゲーム開始以来の文明圏である。
「どうやら、市街地に到着したみたいね……誰もいない。当然か……」
「そりゃあ……こんなゲームを行うぐらいですから、きっと全員避難したんでしょう……ゼエ……」
かなり長い間歩いた二人だが、麗雅はさほど息も切らしていないのに対し、
正封は大きく肩で息をし、完全に憔悴し切っていた。
そんな正封の様子を見て、麗雅はどこかで休息を取った方が良いと判断した。
周囲を見渡し、適当な民家を見つける。
「あの家で、ひとまず休みましょうか」
「へ? ……あ、はい!」
麗雅が「玉堤」と表札の掲げられた平屋建ての民家を指差しながら言うと、
正封はとても嬉しそうな表情を浮かべ、かなり元気良く返事をした。
余程休みたかったんだな、と麗雅は心の中で思った。
(まあ、無理も無いわね……)
最初麗雅と出会った時の正封は、襲撃者に追われ必死で逃げていた。
寸での所で麗雅によって救われ、その後数時間、狭く暗い岩室の中に身を潜めていた。
そして岩室を出た後、今度は二人共、短機関銃を装備した襲撃者に襲われ、太い木の幹を盾にしながら、森の中を必死で逃げ回った。
二度目の襲撃者をやっとの思いで振り切り、森を抜けた二人はが辿り着いたのは、水草が浮かぶ大き目の貯水池。
襲撃者を振り切り森を抜けられたとほっと安堵したのも束の間、今度は他参加者三人の死体を発見。
内二人は腐敗が始まっており、周囲には死臭が漂い始めていた。
その後コンパスを頼りに南下し、この文明圏――市街地に到着した。
二人の肉体的疲労、精神的消耗は想像するに難くない。
剣道場の主として生きていた麗雅はまだ余裕があったが、
ただのフリーターで元々根性もそんなに無かった正封は、肉体的にも精神的にも疲弊し切っていた。
そもそも既に彼など全く及ばない実力者が何人も落命している中で、
彼が現在まで生存している事自体、幸運である。
これは一重に彼が朱雀麗雅という冷静な判断力に優れた女性に出会えた事が良かったのだろう。
玉堤家の玄関の引き戸を開け、家主には悪いとは思ったが土足で上がる。
いざという時に素早く逃げられるようにするためだ。
麗雅が誰もいない事を確認し、引き戸を閉め、鍵を掛ける。
「はぁ……はぁ~……」
台所のテーブルを囲む椅子に座り、背もたれに大きく背中を預け、大きく溜息をつく正封。
もはや足が限界だった。椅子に座るのはこのゲームが始まって以来の事である。
麗雅にとってもそれは同じであった。
「しばらくここで休みましょう……散々走って歩いて、疲れたよね」
「そりゃあもう……こんな動いたの高校ん時の体育祭以来ですよ……もう足が痛くて痛くて……」
「無理無いわ……私、ちょっとこの家の中を見て回るわ。何か武器になる物があるかもしれないし。
高原君は休んでていいよ」
「分かりました……お言葉に……甘えまくります……」
そう言うと正封はテーブルに伏せ、そのまま眠り込んでしまった。
「相当疲れてたのね……ゆっくり寝かせとこう。さて……せめてバタフライナイフよりはマシな武器が欲しいけど」
麗雅は玉堤家の中を見て回る事にした。
出来るだけ物音を立てないようにして。
【一日目/午後/C-2海岸沿いの幹線道路】
【四宮勝憲】
[状態]:全身打撲(軽度)、金ヶ崎陵華がちょっと心配、車運転中、市街地方面へ移動中、食事中
[装備]:FN FAL(9/20)
[所持品]:基本支給品一式(食糧消費中)、FN FALの予備マガジン(20×10)
[思考・行動]
基本:
殺し合いに乗る気は無いが、襲い掛かってくる奴は殺す。
1:市街地へ向かい、仲間を集めて脱出手段を探す。
2:陵華と行動する。
3:麗雅と美琴の捜索。
4:あの緑髪の女(
新藤真紀)には二度と会いたくない。
[備考]
※支給されたFN FALはセミオート限定モデルです。
※緑髪の女(新藤真紀)の特徴を大まかに把握しました。
【金ヶ崎陵華】
[状態]:足に軽い擦り傷、全身打撲(軽度)、精神的疲労(中)、気分が悪い、食欲不振、市街地方面へ移動中
[装備]:コルトM1908”ベストポケット”(6/6)
[所持品]:基本支給品一式(四人分の食糧)、コルトM1908の予備マガジン(6×10)、調達した食糧及び飲料、牛刀包丁
[思考・行動]
基本:殺し合いからの脱出。
1:気分悪……食欲無い……ああもう……。
2:四宮さんと一緒に行動する。
[備考]
※緑髪の女(新藤真紀)の特徴を大まかに把握しました。
※死体や血痕に敏感になっています。見ると気分が悪くなる恐れがあります。
【一日目/午後/F-3玉堤家】
【朱雀麗雅】
[状態]:疲労(中)
[装備]:バタフライナイフ
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/4消費)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:民家内(玉堤家)の探索。
2:自分と同じくこの殺し合いに呼ばれた知り合い(四宮勝憲、
葛葉美琴)を探す。
3:高原さんと行動する。
4:脱出手段も探さないと……。
【高原正封】
[状態]:疲労(肉体的、精神的共に大)、死への恐怖(増大中)、睡眠中
[装備]:千枚通し
[所持品]:基本支給品一式(食糧1/4消費)、洗濯用の糊
[思考・行動]
基本:(睡眠中)
※ニンテンドーDS、ニンテンドーDS用ゲームソフト(4)、カッターナイフはB-3酒場内に放棄されました。
最終更新:2009年11月22日 23:12